説明

ホットプレス用成形金型装置及びホットプレス成形方法

【課題】プレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、素材に孔明け加工を施したとしても、孔明け用工具の素材への食い込みを防止して孔明け用工具の長寿命化を果すべくなした。
【解決手段】剛体スペーサー8をパッド54に当接させた状態で凸状成形部54cを凹状成形部62b内に嵌合させることにより素材1Aに所定形状の突状部2をプレス成形すると共に焼入れ硬化過程を終了する前に、パッド54及び上型ホルダー52との間でクッション手段7を収縮させながらピアスポンチ51を用いて凹状成形部62b内において素材1Aに予備的な突状部2aを形成すると共に、ピアスポンチ51により素材1Aに孔部3を形成するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温(例えば常温)の成形金型によってプレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すホットプレス用成形金型装置及びホットプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のホットプレス用成形金型装置及びホットプレス加工方法は、一般に自動車のドアインパクトビーム或いはセンターピラー等の車体部品などのプレス成形品をプレス成形する場合に用いられており、これらのプレス成形品には、通常車体への取付け等のために孔部が形成されている。
【0003】
そこで、従来の車体部品などのプレス成形品においては、車体等の軽量化のために鋼板の強度を向上させるべく、ホットプレス用成形金型を用いて、焼入れ温度まで加熱された素材を低温の成形金型を用いてプレス成形すると共に焼入れ硬化させることによって製作するようにしていた。
【0004】
そして、かかるプレス成形及び焼入れ硬化後に、素材を別の孔明け機械を使用して、所定の箇所に孔明けを行うことにより、プレス成形品を完成していた。
【0005】
しかしながら、素材への孔明け作業が焼入れ硬化した素材に孔明け用工具を使用して行われるために、孔明け用工具の摩耗が激しく、刃研ぎ作業を頻繁に行う必要があると共に、孔明け用工具寿命も短くなって頻繁に新しいものと交換する必要があった。
【0006】
そこで、従来かかる課題を解決すべく、ホットプレス用成形金型により素材へのプレス成形及び焼入れ作業の過程において、素材が未だ充分に硬化されていない点に鑑み、ホットプレス用成形金型に孔明け用工具としてのピアスポンチを設置して、当該ピアスポンチを使用して、素材への孔明け作業を行うようにしていた(特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−328031号公報
【特許文献2】特開2005−348253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のホットプレス用金型によれば、予め加熱された状態にある素材に、孔明け用工具により孔明け作業を施すことから、焼入れ硬化後の素材には当然ながら収縮作用が起こることになり、この結果、穿孔した孔内に嵌合されたままとなっている孔明け用工具に素材が食い込み、結果としてやはり、孔明け用工具の摩耗を激しくして寿命を短くすると共に成形後のプレス成形品側にも傷をつけてしまうこともあった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる点に鑑み、プレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、素材に孔明け加工を施したとしても、孔明け用工具の素材への食い込みを防止して孔明け用工具の長寿命化を果すべくなしたホットプレス用成形金型及びホットプレス成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のホットプレス用成形金型装置は、素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温の成形金型によってプレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すように構成したホットプレス用成形金型装置であって、前記成形金型は、孔加工用の孔明け用工具が装着された上型ホルダー及び該上型ホルダーに対してパッドリテーナーを介して相対的に移動可能に設置され且つ前記孔加工用の孔明け用工具が出入り可能に嵌合するパッド側嵌合孔を形成したパッドを有して構成される上型と、前記孔加工用工具が嵌合する下型ダイ側嵌合孔が形成された下型ダイを有する下型と、により構成しており、前記上型における前記上型ホルダーと前記パッドとの間に、弾性的に伸縮可能に構成されたクッション手段を配設すると共に、前記パッドにおける前記上型ホルダーとの対向面に剛体スペーサーを設置しており、更に前記上型ホルダーの成形面における前記パッド側嵌合孔又は前記下型ダイの成形面における前記下型ダイ側嵌合孔のうちどちらか一方を囲繞するように、凸状成形部が形成されているとともに、他方を囲繞するように前記凸状成形部が嵌合する凹状成形部を形成して、前記剛体スペーサーを前記パッドに当接させた状態で前記凸状成形部を前記凹状成形部内に嵌合させることにより前記素材に所定形状の突状部をプレス成形すると共に焼入れ硬化過程を終了する前に、前記パッド及び下型ダイとの間で前記クッション手段を収縮させながら前記孔明け用工具により前記凹状成形部内において前記素材に予備的な形状の突状部を形成すると共に、前記孔加工用工具により前記素材に孔部を形成するように構成したことを特徴とするものである。
【0010】
又、上記目的を達成するために、本発明のホットプレス成形方法は、素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温の成形金型によって成形すると共にプレス焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すためのホットプレス成形方法であって、前記成形金型を、孔加工用工具が装着された上型ホルダー及び該上型ホルダーに対してパッドリテーナーを介して相対的に移動可能に設置され且つ前記孔加工用工具が出入り可能に嵌合するパッド側嵌合孔を形成したパッドを有して構成される上型と、前記孔加工用工具が嵌合する下型ダイ側嵌合孔が形成された下型ダイを有する下型と、により構成すると共に、前記上型ホルダーの成形面における前記パッド側嵌合孔又は前記下型ダイの成形面における前記下型ダイ側嵌合孔のうちどちらか一方を囲繞するように、凸状成形部が形成され、他方を囲繞するように前記凸状成形部が嵌合する凹状成形部を形成した場合に、前記剛体スペーサーを前記パッドに当接させた状態で前記凸状成形部を前記凹状成形部内に嵌合させることにより前記素材に所定形状の突状部をプレス成形すると共に焼入れ硬化過程を終了する前に、前記パッド及び下型ダイとの間で前記クッション手段を収縮させながら前記孔明け用工具により前記凹状成形部内において前記素材に予備的な形状の突状部を形成すると共に、前記孔明け用工具により前記素材に孔部を形成するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成する本発明によれば、孔明け用工具により凹状成形部内において形成された突状部が予備的な形状のうちに孔部を穿孔し、しかる後に凸状成形部及び凹状成形部によって所定形状の突状部を形成するようにしたことから、所定形状の突状部を形成する際に予め穿孔した孔径を拡大させることができて、孔明け用工具の素材への食い込みを防止でき、孔明け用工具の長寿命化を果すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図を用いて、本発明を実施するための最良の実施の形態について、説明する。
【0013】
図1はホットプレス用成形金型装置を用いて製作されたプレス成形品の縦断面図、図2は本発明に係る一実施例によるホットプレス成形金型装置の要部を描画した縦断面図、図3は図2に示すホットプレス成形金型装置において、プレス成形品を製作すべく素材をセットした状態を描画した説明図、図4は同じく孔明け用工具としてのピアスポンチにより素材への穿孔作業直前を描画して説明図、図5は同じく孔明け用工具としてのピアスポンチによる素材への穿孔作業が完了した状態を描画した説明図、図5は同じく凸状成形部及び前記凹状成形部により素材に所定形状の突状部を形成した状態を描画した説明図、図7は図6の要部を拡大して描画した説明図である。
【0014】
先ず、図1において、本発明に係る実施例によるホットプレス用成形金型装置により成形するプレス成形品1について説明する。
【0015】
かかるプレス成形品1は、基本的な形状が平板状を呈するとともに、その略中央部に突状部2が形成されており、更に、突状部2のやはり略中央部に孔部としての孔部3を穿孔することにより構成するものである。
【0016】
そこで、本発明の一実施例を採用したプレス用成形金型4は、上型5と下型6とを有して構成している。
【0017】
上型5は、孔明け用工具としてのピアスポンチ51が装着された上型ホルダー52及び上型ホルダー52に対してパッドリテーナー53を介して相対的に上下移動可能に設置され且つピアスポンチ51が出入り可能に嵌合するパッド側嵌合孔54aを形成したパッド54を有して構成されている。
【0018】
そして、ピアスポンチ51は、本実施例においては、パッドリテーナー53の略中央部に形成されており、これに関連して、パッド側嵌合孔54aもパッドリテーナー53の略中央部に位することになる。
【0019】
下型6は、ピアスポンチ51が嵌合する下型ダイ側嵌合孔61が形成された下型ダイ62を有して構成している。
【0020】
上型5における上型ホルダー52とパッド54との間に、弾性的に上下方向に伸縮可能に構成されたクッション手段7が配設されており、クッション手段7は、例えばコイルスプリング或いはシリンダ装置等で構成されている。
【0021】
また、パッド54における上型ホルダー52に対向する面には、一対の剛体スペーサー8が互いに離間状態で設置されている。
【0022】
更に、上型ホルダー52の成形面54bには、パッド側嵌合孔54aを囲繞するように、凸状成形部54cが形成されており、これに関連して、下型ダイ62の成形面62aには、下型ダイ側嵌合孔61を囲繞するように、凸状成形部54cが嵌合することによって突状部2を形成する凹状成形部62bが形成されている。
【0023】
かかる構成において、板状の素材1Aからプレス成形品1を製作するには、先ず、装置外の加熱装置(不図示)により焼入れ温度まで加熱した素材1Aを、図3に示すように、下型ダイ62の成形面62a上にセットする。この時、凹状成形部62bは、素材1Aの略中央部に位置するようになっている。
【0024】
次に、上型ホルダー52と共にパッド54を下型6方向に下降させると、図4に示すように、ピアスポンチ51の先端切り刃部51aが素材1Aに圧接し、この圧接力により素材1Aに、凹状成形部62b内において徐々に、所定形状になる前の予備的形状の突状部2aを形成することになる。
【0025】
この時、剛体スペーサー8が上型ホルダー52に対して離間しているために、クッション手段7の付勢力が働いた状態で、予備的形状の突状部2aが形成されていくことになる。
【0026】
この状態より、更に、上型ホルダー52を下降させていくと、図5に示すように、未だクッション手段7の付勢力が働いて、上型ホルダー52のプレス力を減少する状態において、ピアスポンチ51が素材1Aを穿孔していく。
【0027】
かかる状態より、さらに上型ホルダー52を下降させると、剛体スペーサー8が上型ホルダー52に当接することになって、最早クッション手段7付勢力が及ばずに、パッド54が上型ホルダー52と一体となって下降することになり、凸状成形部54cが凹状成形部62bに徐々に嵌合して、ついには、図6に示すように所定の形状の突状部2が形成されると共に、低温(例えば常温)となっているパッド54及び下型ダイ62によって素材を急激に冷却して焼入れ処理を行い、プレス成形品1が完成することになる。
【0028】
以上のように構成する本発明の実施例においては、図5に示す状態までは、上型ホルダー52がクッション手段7の付勢力に抗しながらプレス力をピアスポンチ51を介して及ぼすことから、ピアスポンチ51が凹状成形部62b内において予備的な形状の突状部2aを素材1Aに形成する程度であり、未だパッド54は成形作用を行っていない。
【0029】
したがって、予備的な形状の突状部2aと凹状成形部62bとの間には間隙を有することになる。
【0030】
これに対して、剛体スペーサー8がパッド54に当接する時点まで進行すると、パッド54と上型ホルダー52が一体となって、上型ホルダー52のプレス力がクッション手段7の付勢力を受けずに直接パッド54に作用することになって、凸状成形部54cが凹状成形部62bに嵌合する状態となり、素材1Aには凹状成形部62bに対する隙間がなくなって、所定の形状を有する突状部2が形成されることになる。
【0031】
このように、予備的な形状の突状部2aから所定の形状を有する突状部2の形成に至る間において、図7に示すように、穿孔された孔部3が拡径されることになり、この結果、ピアスポンチ51の素材1Aへの食い込みが防止されることになって、ピアスポンチ51の長寿命化を果すことができることになるのである。
【0032】
なお、上記実施例においては、凸状成形部54cをパッド54に形成すると共に凹状成形部62bを下型ダイ62に形成するようにしたが、決してこれに限定されるものではなく、凸状成形部54cを下型ダイ62側に形成すると共に凹状成形部62bをパッド54側に形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように、本発明は、孔明け用工具が凹状成形部内において予備的な形状のうちに孔部を穿孔し、しかる後に凸状成形部及び凹状成形部によって所定形状の突状部を形成するようにしたことから、かかる所定形状の突状部を形成する際に予め穿孔した孔径を拡大させることができて、孔明け用工具の素材への食い込みを防止でき、孔明け用工具の長寿命化を果すことができるために、素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温(例えば常温)の成形金型によってプレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すホットプレス用成形金型装置及びホットプレス成形方法等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ホットプレス用成形金型装置を用いて製作されたプレス成形品の縦断面図である。
【図2】本発明に係る一実施例によるホットプレス成形金型装置の要部を描画した縦断面図である。
【図3】図2に示すホットプレス成形金型装置において、プレス成形品を製作すべく素材をセットした状態を描画した説明図である。
【図4】同じく孔明け用工具により素材への穿孔作業直前を描画して説明図である。
【図5】同じく孔明け用工具による素材への穿孔作業が完了した状態を描画した説明図である。
【図6】同じく凸状成形部及び前記凹状成形部により素材に所定形状の突状部を形成した状態を描画した説明図である。
【図7】図6の要部を拡大して描画した説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 プレス成形品
1A 素材
3 孔部
4 ホットプレス用成形金型
5 上型
51 孔明け用工具(孔明け用工具)
52 上型ホルダー
52a 成形面
52b 凸状成形部
53 パッドリテーナー
54 パッド
54a パッド側嵌合孔
6 下型
61 下型ダイ側嵌合孔
62 下型ダイ
62a 成形面
62b 凹状成形部
7 クッション手段
8 剛体スペーサー







【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温の成形金型によってプレス成形すると共に焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すように構成したホットプレス用成形金型装置であって、
前記成形金型は、孔加工用の孔明け用工具が装着された上型ホルダー及び該上型ホルダーに対してパッドリテーナーを介して相対的に移動可能に設置され且つ前記孔加工用の孔明け用工具が出入り可能に嵌合するパッド側嵌合孔を形成したパッドを有して構成される上型と、前記孔加工用工具が嵌合する下型ダイ側嵌合孔が形成された下型ダイを有する下型と、により構成しており、
前記上型における前記上型ホルダーと前記パッドとの間に、弾性的に伸縮可能に構成されたクッション手段を配設すると共に、前記パッドにおける前記上型ホルダーとの対向面に剛体スペーサーを設置しており、
更に前記上型ホルダーの成形面における前記パッド側嵌合孔又は前記下型ダイの成形面における前記下型ダイ側嵌合孔のうちどちらか一方を囲繞するように、凸状成形部が形成されているとともに、他方を囲繞するように前記凸状成形部が嵌合する凹状成形部を形成して、
前記剛体スペーサーを前記パッドに当接させた状態で前記凸状成形部を前記凹状成形部内に嵌合させることにより前記素材に所定形状の突状部をプレス成形すると共に焼入れ硬化過程を終了する前に、前記パッド及び下型ダイとの間で前記クッション手段を収縮させながら前記孔明け用工具により前記凹状成形部内において前記素材に予備的な形状の突状部を形成すると共に、前記孔加工用工具により前記素材に孔部を形成するように構成したことを特徴とするホットプレス用成形金型装置。
【請求項2】
素材をその焼入れ温度まで加熱し、加熱された前記素材を低温の成形金型によって成形すると共にプレス焼入れ硬化させる過程において、前記素材の所定位置に孔明け加工を施すためのホットプレス成形方法であって、
前記成形金型を、孔加工用工具が装着された上型ホルダー及び該上型ホルダーに対してパッドリテーナーを介して相対的に移動可能に設置され且つ前記孔加工用工具が出入り可能に嵌合するパッド側嵌合孔を形成したパッドを有して構成される上型と、前記孔加工用工具が嵌合する下型ダイ側嵌合孔が形成された下型ダイを有する下型と、により構成すると共に、前記上型ホルダーの成形面における前記パッド側嵌合孔又は前記下型ダイの成形面における前記下型ダイ側嵌合孔のうちどちらか一方を囲繞するように、凸状成形部が形成され、他方を囲繞するように前記凸状成形部が嵌合する凹状成形部を形成した場合に、
前記剛体スペーサーを前記パッドに当接させた状態で前記凸状成形部を前記凹状成形部内に嵌合させることにより前記素材に所定形状の突状部をプレス成形すると共に焼入れ硬化過程を終了する前に、前記パッド及び下型ダイとの間で前記クッション手段を収縮させながら前記孔明け用工具により前記凹状成形部内において前記素材に予備的な形状の突状部を形成すると共に、前記孔明け用工具により前記素材に孔部を形成するようにしたことを特徴とするホットプレス成形方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−536(P2010−536A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163629(P2008−163629)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)