説明

ホブカッタ及び歯車の製造方法

【課題】ホブカッタによる歯車の製造時に発生する切り屑を効率よく排出できるようにする。
【解決手段】自動車用自動変速機に使用される遊星歯車装置のインターナルギア3の外周面に、ホブカッタ1を用いて外歯5を形成する。ホブカッタ1は、ホブ歯11が螺旋状に形成され、かつこのホブ歯11を螺旋方向に沿って複数に分断した分断補ホブ歯11aを複数備えている。この各分断補ホブ歯11aの外周面の逃げ面17に、螺旋方向に沿った溝21を形成する。この溝21によって、ホブカッタ1により歯車を作成する際に発生する切り屑を分断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホブカッタ及びホブカッタによる歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホブカッタやブローチ工具(下記特許文献1)などで、ワークに対して切削あるいは成形加工を行う際には切り屑が排出されるが、この切り屑を効率よく排出することで、加工効率を高めることができる。
【特許文献1】特開平7−195229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ホブカッタで歯車を製造する際の切り屑は、螺旋状に形成されたホブ歯の軸方向相互間の隙間、すなわちホブカッタの歯底と被削歯車の刃先との間の隙間から排出される。
【0004】
このため、特に上記したホブカッタの歯底と被削歯車の刃先との間の隙間が狭いと、この狭い隙間に切り屑が詰まる恐れがあり、切り屑を効率よく排出することができなくなって加工効率の低下を招く。また、隙間に切り屑が詰まると、被削歯車の刃先に切り屑が咬み込み、被削歯車を損傷させることになる。
【0005】
そこで、本発明は、ホブカッタによる歯車の製造時に発生する切り屑を効率よく排出できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ホブカッタによって形成する歯車の歯底に対応するホブ歯の逃げ面に、ホブ歯の螺旋方向に沿う溝を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホブ歯によりワークの表面を切削する際に排出される切り屑を、歯車の歯底に対応する面に形成されかつホブ歯の螺旋方向に沿う溝により分断することができる。これにより、ホブカッタの歯底と被削歯車の刃先との間の隙間が狭い場合であっても、この狭い隙間に切り屑が詰まることを抑制して、切り屑を効率よく排出することができ、被削歯車の刃先に切り屑が咬み込むことによる被削歯車の損傷を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0009】
図1に正面図及び図2に図1の左側面図として示すホブカッタ1は、例えば自動車の自動変速機に使用される遊星歯車装置の図3に示す歯車としてのインターナルギア3の外周面に対して外歯5を形成する際に使用する。
【0010】
上記インターナルギア3は、環状に形成されてその内周面に遊星歯車装置のプラネタリギアが噛み合う内歯7を備え、外周面の前記した外歯5は、自動変速機のハウジングに固定するためのものである。この外歯5の円周方向に沿って複数形成される歯9は、ほぼ直方体形状を呈している。
【0011】
ホブカッタ1は、ホブ歯11の全体が螺旋状に形成され、その外周部に軸線方向(図1中で左右方向)に沿って延びる軸方向溝13を円周方向等間隔に複数設けてあり、これによりホブ歯11は、図2に示すように螺旋方向に沿って互いに離間するように、複数に分断される分断ホブ歯11aを形成している。この各分断ホブ歯11aには、ホブ歯11の回転方向(図2の矢印Aで示す方向)前方にすくい面(工具研削面)15を備えるとともに、外周面に逃げ面17を備えている。
【0012】
そして、上記したホブ歯11の逃げ面17に、ホブ歯11の螺旋方向に沿う溝21を設けている。すなわち、このホブカッタ1は、歯車であるインターナルギア3における歯9の歯底23に対応するホブ歯11の逃げ面17に、ホブ歯11の螺旋方向に沿う溝21を設けたことになる。
【0013】
ここで、分断ホブ歯11aは、図2に示すように、円周方向に沿って偶数個備えており、この偶数個の分断ホブ歯11aに対し、溝21を1個設けた分断ホブ歯11aと、溝21を2個設けた分断ホブ歯11aとを、円周方向(螺旋方向)に沿って交互に設定している。
【0014】
さらに、上記1個の溝21は、2個の溝21に対し、軸方向の位置として中間位置に設定してある。すなわち、螺旋方向に沿って互いに隣接する各分断ホブ歯11aに設けた1個の溝21と2個の溝21とは、ホブカッタ1の軸方向(図1中で左右方向)に沿って互いにずれていることになる。
【0015】
なお、溝21の断面形状は、ここでは図4(a)に示すように円弧(凹曲面)形状とするが、図4(b)のようにV字形状の溝21Aや、図4(c)のようにU字形状の溝21Bであってもよい。円弧形状の溝21は、図4(b)のV字形状の溝21Aに対して、切り屑の一部が入り込む容積を大きく取りやすく、また図4(c)のU字形状の溝21Bに対して、角部の角度(α)が直角よりも大きな角度(鈍角)となっているので、工具磨耗関して有利でありホブカッタ1として高寿命化を達成できる。
【0016】
また、溝21に代わる溝の断面形状として、図4(b)のV字形状の溝21Aの先端(底部)にRを付けた形状でもよい。
【0017】
ここで、特に、図4(a)に示すように、溝21の幅Wと溝21の深さHとの関係を、W>Hとすることで、ホブ歯11の逃げ面17と溝21の円弧との交点Pにおける円弧の接線Lと、逃げ面17とがなす角度αをより確実に大きくすることができ、工具磨耗抑制により効果的である。
【0018】
また、図5に示すように、ホブカッタ1の各分断ホブ歯11aは、溝21の底面21aを逃げ面17に平行となるように、逃げ角βと同等の角度βだけ傾斜させてある。
【0019】
このようなホブカッタ1により、図6に示すワークWの表面25に対して歯切加工を行う際には、ホブカッタ1を図6中で左右方向の中心軸線を中心として回転させつつ、加工に伴ってホブカッタ1をワークWの表面25に向けて(図6中で上方に向けて)徐々に接近させる。
【0020】
ここで図6(a)は、溝21を2個備えた分断ホブ歯11aで加工している状態を示しており、この際発生する切り屑27は、2個の溝21によってホブカッタ1の軸方向(図6中で左右方向)に沿って3つの分断切り屑27a,27b,27cに分断される。このとき、2個の溝21によってワークWの表面25には2個の突起Waが形成される。
【0021】
また、図6(b)は、上記溝21を2個備えた分断ホブ歯11aに対し、ホブカッタ1の回転方向後方側に位置する、溝21を1個備えた分断ホブ歯11aでの加工状態を示している。すなわち、この溝21を1個備えた分断ホブ歯11aでは、切り屑27を2つの分断切り屑27d,27eに分断する。このとき、1個の溝21によってワークWの表面25には1個の突起Wbが形成されるが、1個の溝21は、前記した2個の溝21に対してホブカッタ1の軸方向(図6中で左右方向)にずれているので、図6(a)にて2個の溝21によって形成された2個の突起Waは削除される。
【0022】
以上のようなホブ歯11による加工を行う際のホブ歯11の切り込み量Mは、溝21の深さHよりも小さくすることで、切り屑27の分断をより確実なものとする。
【0023】
このように切り屑27を分断切り屑27a,27b,27cあるいは分断切り屑27d,27eとして小さくすることで、この分断切り屑27a,27b,27cあるいは分断切り屑27d,27eを、ホブカッタ1の歯底29とインターナルギア3に形成した歯9の先端との間の隙間から容易に排出することができる。
【0024】
この結果、ホブカッタ1の歯底29と被削歯車の刃先(歯の先端)との間の隙間が狭い場合であっても、この狭い隙間に対しても切り屑27が詰まることを抑制して切り屑27を効率よく排出することができ、加工速度も向上して加工効率を高めることができる。また、上記した隙間に対する切り屑27の詰まりを抑制することで、インターナルギア3に形成した歯9の先端への切り屑の咬み込みを抑制し、インターナルギア3の損傷を抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態では、ホブ歯11は螺旋方向に沿って互いに離間するように分断ホブ歯11aを複数備え、前記螺旋方向に沿って互いに隣接する各分断ホブ歯11aに設けた溝21は、ホブカッタ1の軸方向に沿って互いにずれている。これにより、ホブカッタ1の回転方向前方の分断ホブ歯11aで切削後のワークの表面に残る突起Wa(Wb)を、その回転方向後方の分断ホブ歯11aでの切削時に削除することができ、効率よい切削加工を行うことができる。
【0026】
また、本実施形態では、軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯11の先端相互の軸方向間隔Bが、ホブ歯11によるインターナルギア3の歯9の形成時に発生する分断切り屑27a,27b,27c,27d,27eの軸方向に対応する長さよりも短く(狭く)なるように、切削条件やホブ歯11の形状を設定する。
【0027】
これにより、分断切り屑27a,27b,27c,27d,27eが、ホブ歯11相互間の歯溝に入りやすくなり、切り屑27をより効率よく排出することができる。
【0028】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、ホブ歯11先端の逃げ面17の逃げ角βに対し、溝21の底面21aの傾斜角度を同等として、逃げ面17と溝21の底面21aとを互いに平行としている。
【0029】
これにより、すくい面15を再研磨しても溝21の深さを常に一定として変化を抑えることができ、再研磨後も切り屑27に対する分断作用を継続して維持することができる。
【0030】
なお、上記実施形態では、溝21を1個設けた分断ホブ歯11aと、溝21を2個設けた分断ホブ歯11aとを、円周方向(螺旋方向)に沿って交互に設定することで、螺旋方向に沿って互いに隣接する各分断ホブ歯11aの溝21をホブ歯11の軸方向にずらしているが、各分断ホブ歯11aに溝21を1個ずつ設けて、これら各溝21をホブ歯11の軸方向にずらしてもよい。要するに、溝21の数に関係なく、互いに隣接する各分断ホブ歯11aにおける溝21が軸方向に互いにずれていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を示すホブカッタの正面図である。
【図2】図1の左側面図である。
【図3】図1のホブカッタで外歯を形成するインターナルギアの斜視図である。
【図4】ホブカッタに設けた溝の断面形状図であり、(a)は円弧形状、(b)はV字形状、(c)はU字形状である。
【図5】ホブカッタのホブ歯先端における軸線と直交する方向の断面図である。
【図6】ワークの表面に対して歯切加工を行っている状態を示す動作説明図で、(a)は溝を2個備えた分断ホブ歯により切り屑が3つに分断された状態を示し、(b)は溝を1個備えた分断ホブ歯により切り屑をさらに分断した状態を示す。
【符号の説明】
【0032】
W ワーク
1 ホブカッタ
3 インターナルギア(歯車)
9 歯
11 ホブ歯
11a 分断ホブ歯
17 ホブ歯の逃げ面
21 ホブ歯の螺旋方向に沿う溝
21a 溝の底面
23 インターナルギアの歯底
27 切り屑
27a,27b,27c,27d,27e 分断切り屑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面に歯を形成して歯車を製造するホブカッタであって、前記歯車の歯底に対応するホブ歯の逃げ面に、ホブ歯の螺旋方向に沿う溝を設けたことを特徴とするホブカッタ。
【請求項2】
前記ホブ歯は前記螺旋方向に沿って互いに離間するように分断ホブ歯を複数備え、前記螺旋方向に沿って互いに隣接する前記各分断ホブ歯に設けた前記溝は、ホブカッタの軸方向に沿って互いにずれていることを特徴とする請求項1に記載のホブカッタ。
【請求項3】
軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯の先端相互の軸方向間隔を、前記ホブ歯による歯の形成時に発生する切り屑の前記軸方向に対応する長さよりも短くすることで、前記切り屑を前記ホブ歯の先端相互間へ入り込ませることを特徴とする請求項1または2に記載のホブカッタ。
【請求項4】
前記溝の底面を前記ホブ歯先端表面の逃げ面に対して平行としたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のホブカッタ。
【請求項5】
ホブカッタによりワークの表面に歯を形成して歯車を製造する歯車の製造方法であって、ホブ歯により前記ワークの表面を切削する際に排出される切り屑を、前記歯車の歯底に対応する逃げ面に形成されかつホブ歯の螺旋方向に沿う溝によって分断することを特徴とする歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−82786(P2010−82786A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257576(P2008−257576)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】