ホルマリン廃液の無害化方法と自動処理装置
【課題】消石灰法は、ホルマリンに消石灰(水酸化カルシウム)を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させるものであり、消石灰添加後の溶液は苛性ソーダ法に比べ塩基性が低い(pH=12程度)ため、取扱いが容易である上に、糖類は生分解が可能であることから、環境に優しい廃液を作り出すと言えるが、カルシウム塩がスラッジとして発生し、処理効率が悪い。
【解決手段】ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化する。グルコース等の単糖または二糖を加えたり、加温したり、間欠的に攪拌したりすることで糖化を促進できる。カルシウム塩が発生しないので、メンテナンスの容易な自動処理装置を構築できる。
【解決手段】ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化する。グルコース等の単糖または二糖を加えたり、加温したり、間欠的に攪拌したりすることで糖化を促進できる。カルシウム塩が発生しないので、メンテナンスの容易な自動処理装置を構築できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルマリン廃液の無害化方法とその方法を自動的に実施するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルマリンは、フェノール・尿素樹脂の原料としてだけでなく、医療関係施設では臓器や生体組織の防腐剤や保存剤として、さらに水産関係の試験、研究所では水生生物の組織保存剤として多用されている。
而して、その主成分であるホルムアルデヒドは強い毒性を有することから、使用済みの廃液は無害化した上で廃棄することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−263661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それに答えて、種々の無害化方法が提案されているが、特許文献1に記載されているように、そのうち代表的なものは、活性汚泥処理法、苛性ソーダ法、消石灰法である。
このうち、活性汚泥処理法は微生物による分解作用を利用したものであり、ホルマリン廃液の濃度が高い場合には十分に低濃度に希釈してから活性汚泥処理に入れてそこで生息している微生物に損傷を与えないように配慮するため、施設が大型化する傾向がある。
また、苛性ソーダ法では、強アルカリ下(2〜3mol/L)で反応をさせるため、取扱いに危険を伴う上、安全面を十分に配慮する必要がある。
一方、消石灰法は、ホルマリンに消石灰(水酸化カルシウム)を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させるものであり、消石灰添加後の溶液は苛性ソーダ法に比べ塩基性が低い(pH=12程度)ため、取扱いが容易である上に、糖類は生分解が可能であることから、環境に優しい廃液を作り出すと言えるが、カルシウム塩がスラッジとして発生し、処理効率が悪い。
【0005】
水産関係の試験、研究所及び保健所や病院等の医療機関では、年間に発生するホルマリン廃液の量が少なく、大型設備を設置することは難しい。また、環境への配慮も最近では一層強く求められている。
それ故、本発明は、上記した課題を解決するために、消石灰法を原理として採用し、カルシウム塩の発生といった欠点を克服した、新規且つ有用なホルマリン廃液の無害化方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、処理効率を改善した、新規且つ有用なホルマリン廃液の無害化方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記したホルマリン廃液の無害化方法を効率良く実施することを可能とする自動処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、中和用に硝酸を加えると消石灰が溶解して配管を介して排出可能になることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
請求項1の発明は、ホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化することを特徴とする無害化方法である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰と共にグルコースを加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共に単糖または二糖を加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰を加えた後加温及び間欠攪拌条件下において糖類への変化を促進することを特徴とする無害化方法である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法を実施するためのホルマリン廃液の自動処理装置において、ホルマリン廃液や消石灰の被処理物を収容して処理するための処理槽と、前記処理槽内で被処理物を攪拌する攪拌手段と、前記処理槽内で被処理物を加熱する加熱手段と、被処理物の温度を測定する温度センサーと、被処理物のpHを測定するpHセンサーと、被処理物の液面を検知するレベルスイッチと、前記処理槽内にホルマリン廃液を供給するホルマリン廃液供給手段と、前記処理槽内に硝酸を供給する硝酸供給手段と、前記処理槽内で無害化処理された処理済み液を排出する排出手段と、前記各手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、予め処理対象のホルマリン廃液に基づいて設定された最適な運転パラメータに基づき、プログラム制御により前記センサー群から情報を受け取り、前記各手段を動作させて無害化方法を自動的に実施することを特徴とする自動処理装置である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載したホルマリン廃液の自動処理装置において、給水手段を備え、処理済み液が排出手段により装置外に排出された後前記給水手段により水が処理槽内に供給され溜められ、次のホルマリン廃液の処理の前にその水が前記排出手段により排出される構成になっており、pHセンサーの検知部分は水またはホルマリン廃液に常時浸漬した状態におかれることを特徴とする自動処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無害化方法を利用すれば、得られる処理済み液は環境に優しく、しかもその方法を実施する処理装置もコンパクトに設計でき、且つ装置配管に詰まりの心配もなくメンテナンスが簡単になる。また、処理条件を最適設定することにより処理効率も上げられる。
さらに、上記の本発明の無害化方法を実施する装置は、結果的に自動化が容易に図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動処理装置の概略的斜視図である。
【図2】図1の自動処理装置の処理槽内の概略的斜視図である。
【図3】図1の自動処理装置の電気的構成図である。
【図4】図1の自動処理装置の処理手順のフローである。
【図5】ホルマリン廃液に消石灰を加えて糖化した後の状態を示す写真である。
【図6】図5のホルマリン廃液に消石灰を加えて糖化し、さらに硫酸、塩酸、硝酸をそれぞれ加えた場合の状態を示す写真である。
【図7】リン酸塩を含む中和緩衝ホルマリン廃液に消石灰または消石灰及びグルコースを添加した直後の状態を示す写真である。
【図8】図7の状態から15時間後の状態を示す写真である。
【図9】リン酸塩を含む中和緩衝ホルマリン廃液に各種糖類を添加した直後の状態を示す写真である。
【図10】図9の状態から15時間後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
先ず、無害化方法をステップ順に説明する。
(1)ホルマリン廃液に消石灰を加える。
ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させる。
なお、消石灰を加えることにより、ホルムアルデヒドが縮合反応を起こして糖類に変化することは、特許文献1でも記載されているように従来から知られている。
消石灰の好適使用量は、ホルマリン廃液中のホルムアルデヒドの濃度やホルマリン廃液の組成により変わるので、処理すべきホルマリン廃液のサンプルを事前に入手して予備試験により消石灰の好適使用量を見出しておく。
【0015】
グルコースを加えると、ホルムアルデヒドの糖類への変化が促進されるので、グルコースを加えるのが好ましい。特に医療機関から出るホルマリン廃液にはpH緩衝用にリン酸カリウムやリン酸ナトリウムといったリン酸塩が加えられて中和されたものがあるが、このような場合、ただ消石灰を加えてもホルムアルデヒドは糖類に変化し難い。しかしながら、グルコースを添加することでホルムアルデヒドは速やかに糖類に変化する。
グルコースの好適使用量も処理すべきホルマリン廃液により異なるので、処理すべきホルマリン廃液のサンプルを事前に入手して予備試験によりグルコースの好適使用量を見出しておく。
なお、ホルムアルデヒドの糖類への変化に対するグルコースの寄与機構は未だ解明されていない。
【0016】
糖類化の処理中、消石灰は放置すると溶解せずに沈降するので、攪拌・静置のサイクルを繰り返して、効率良くホルムアルデヒドと消石灰との接触機会を増やしたり、40〜60℃程度に加熱したりすることで、ホルムアルデヒドの糖類への変化を促進して処理時間を短縮化したり、消石灰の使用量を減らすことが好ましい。
【0017】
(2)ホルマリン廃液中のホルムアルデヒドを糖類に変化させた後に、硝酸を加える。
硝酸を加えると消石灰は速やかに溶解する。酸として硫酸を加えると、酸により溶解しない硫酸カルシウム(石膏の主成分)が形成されるため、硫酸は酸として適さない。
消石灰を完全に溶解させるためには、ホルマリン廃液がpH=4程度の酸性になるように使用量を設定することが推奨される。
上記の処理により、ホルマリン廃液が糖類入りの液体に変わっているので、そのまま装置外に排出できる。但し、処理済み液は上記のようにpH=4程度までpH調整した場合には弱酸性になっているので、公共用水域への排出の際には、通常の排水処理施設、例えば汚泥活性処理や接触酸化処理の施設を経由させる必要がある。
【0018】
なお、塩酸を加えても、ある程度は溶解するが、実際の廃液に塩酸を投入した場合、廃液中で塩素が結合した物質が発生する危険性があり、中和後の廃液の安全性は低くなる。また、中和後の廃液を1週間程度放置すると、真黒となり、硝酸とは異なる、好ましくない反応が起きていることが推測される。したがって、塩酸を加えるのは好ましくない。
【0019】
次に、上記の無害化方法を自動的に実施するための一例の自動処理装置について説明する。
先ず、自動処理装置1の構成について図1、図2にしたがって説明する。
図1において、符号3は箱状の本体を示し、前扉5で開け閉めする構造になっている。本体3の下面にはキャスター7とストッパー9が一対となって四隅に取り付けられており、容易な移動及びその移動先での安定的な設置が可能である。
本体3上には、前側にコントロールボックス11が置かれ、後側に処理槽13が置かれている。
【0020】
次に処理槽13と本体3の構成について説明する。
処理槽13の上部開口は蓋体15によって閉鎖される。この蓋体15はリフレクター17により駆動されて上下方向に移動し、その位置で安定的に静止するようになっており、蓋体15は処理槽13の上方で保持させることもできるため、処理槽内部を容易に整備することができる。
図2に示すように、蓋体15には処理剤である消石灰の投入口が設けられており、その投入口が開閉カバー19により開閉される。蓋体15の下面側からは、pHセンサー21、加熱手段としてのヒーター23、温度センサー25と、回転軸と攪拌羽根とでなる攪拌手段の回転軸27と、レベルスイッチ29が垂下している。なお、蓋体15の上面からは上記したセンサー等の導線が引き出されているが、視認の便宜のために図示を省略している。
【0021】
処理槽13の側部には供給手段としてのホルマリン廃液供給ライン31、硝酸供給ライン33、給水ライン35の一端側が貫通して内部に入り込んでいる。図1に示すように、各ラインは途中で本体3内に入り込んでいる。
ホルマリン廃液供給ライン31の他端側は本体3の側部を貫通して出ており、ホースの一端が接続可能な供給口になっている。処理時にはホースの一端がこの供給口に接続され、ホースの他端はホルマリン廃液を溜めたリザーブタンク(図示省略)に接続される。ホルマリン廃液供給ライン31にはホルマリン廃液供給用ポンプ32(図3参照)が介挿されている。
硝酸供給ライン33の他端は本体3内に置かれた硝酸のリザーブタンクに接続され、途中には硝酸供給用ポンプ34(図3参照)が介挿されている。
給水ライン35の他端側は本体3の側部を貫通して出ており、ホースの一端が接続可能な供給口になっている。処理時にはホースの一端がこの供給口に接続され、ホースの他端は水道蛇口に接続される。給水ライン35には給水用バルブ36が介挿されている。
【0022】
また、処理槽13の底部には、排出手段としての排液・排水ライン37の一端が接続されている。この排液・排水ライン37は本体3内に入り込んだ後、本体3の底部から引き出されており、他端はホースが接続可能な排液・排水口になっている。処理時にはこのホースの一端が上記した排液・排水口に接続されて、処理槽3内の水や処理済みの廃液が装置外に排出される。排液・排水ライン37の一端には開閉バルブ39が設けられ、また、途中には、排液・排水用ポンプ38が介挿されている。
【0023】
次に、コントロールボックス11を中心とするコントロールボックス11を囲む電気的構成について、図3にしたがって説明する。
コントロールボックス11には、アナログボードと、CPUボードと、TBと、攪拌手段の回転軸コントローラとが備えられており、アナログボードはセンサー群からの微弱なアナログ信号を増幅しており、CPUボードとの仲介を果たしている。また、CPUボードは、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行するCPU(マイクロプロセッサ)を含み、プログラム制御によりヒーター23等を制御する。
【0024】
コントロールボックス11の前面側は操作・表示パネル41になっており、そこには、「準備」、「開始」、「停止」の各種スイッチが設けられ、状態表示のために「準備中」、「自動運転中」、「パラメータ設定」のLEDが設けられており、運転中の動作内容に対応したLEDが点灯してその旨を報知するようになっている。さらに、コントロールボックス11は開閉可能になっており、開くと内部に「設定」スイッチが設けられている。
操作・表示パネル41の下方にはセンサー群の値を表示するディスプレイ43が設けられている。
また、報知用のアラーム(図示省略)も備えられている。
【0025】
次に、自動処理装置1の使用手順について説明する。
(運転パラメータの設定)
先ず、「設定」スイッチを押下して、「パラメータ設定」LEDを点灯させた状態で、運転パラメータを処理すべきホルマリン廃液に合わせて最適なものに設定する。設定した数値は上記した操作・表示パネル41に表示される。
運転パラメータには、攪拌時間、攪拌停止時間、攪拌サイクル数、加熱温度、ホルマリン廃液供給時間、硝酸供給時間、排出好適pH値、給水時間、排水時間等が含まれる。
運転パラメータを設定した後は、いつでも運転可能状態となる。また、運転パラメータは、設定すれば恒久的に有効であるため、一度設定すればよい。
【0026】
(自動処理装置による処理手順)
図4のフローにしたがって説明する。
(準備モード)
「準備」スイッチが手動押下されると、自動処理装置1では、排液・排水ライン37の開閉バルブ39が開き、排液・排水用ポンプ38が作動して、処理槽13内の水を排出される。排出が終了すると、「アラーム」が鳴動してその旨を報知する。
【0027】
次に手動により蓋体15の開閉カバー19が開かれて投入口から処理剤である消石灰を投入される。
【0028】
(無害化処理モード)
廃液供給工程:
「開始」スイッチが手動押下されると、自動処理装置1では、ホルマリン廃液供給ライン31のホルマリン廃液供給用ポンプ32が作動して、ホルマリン廃液を処理槽13内に供給する。
反応工程:
次に、レベルスイッチ29がホルマリン廃液の所定量供給を確認すると、温度センサー25の監視下でヒーター23が熱を放出すると共に攪拌手段の回転軸27が間欠的に回転して、ホルムアルデヒドの糖類への変化を促進する。
安定工程:
反応工程時間の経過後、ヒーター23等が動作を停止して安定工程に入る。
【0029】
中和工程:
所定の安定時間が経過すると、ホルムアルデヒドの糖類への変化が完了したとみなして、今度は硝酸供給ライン33の硝酸供給用ポンプ34が作動して、硝酸を処理槽13内に供給する。pHセンサー21が監視しており、pH=4になるまで供給され続ける。中和工程中は、回転軸27の回転により中和が促進される。
排液工程:
中和工程が終了すると、今度は排液・排水ライン37の開閉バルブ39が開くと共に、排液・排水用ポンプ38が作動して、処理済み液を速やかに装置外に排出させる。
給水工程:
排液工程が終了すると、給水ライン35の給水用バルブ36を作動させて処理槽13内を水で満たす。
【0030】
排水工程および給水工程:
排液を処理槽13内に残さないようにするため、さらに、再度排水及び給水を行い、処理槽13内を水で満たした後は、アラームでその旨を報知して一連の工程を終了する。
pHセンサー21は、終了後は処理槽13に溜められた水に浸漬されることになるので、常時何らかの液に浸漬した状態におかれ、乾燥が防止される。
【0031】
上記したように、自動処理装置1によれば、「準備」スイッチの押下と、消石灰の投入と、「開始」スイッチの押下の手動作業以外は、自動的に処理が進んでいくことになる。また、この自動処理装置1は、家庭用の100Vまたは200V電源で運転される。しかも、必要により、「停止」スイッチの手動押下により緊急停止することができるので、安全にも十分に対応できている。そのため、熟練を要しない者でも、ホルマリン廃液の処理作業を容易に且つ安全に行うことができる。また、運転状態をCPUボード内で記憶・保持できるため、万が一運転中に停電が発生した後、復旧した場合は、「開始」スイッチを押下すれば、停電発生直前の工程の途中から再開することができる。
なお、グルコースも併せて投入する場合には、蓋体15の投入口から投入されることになる。
【実施例1】
【0032】
自動処理装置1によるホルマリン処理能力を検証したところ、以下の表の結果が得られている。
【表1】
また、自動処理装置から排出される処理済み液は、OECDに準拠した毒性試験により水生生物に対する安全性が確認されている。
【実施例2】
【0033】
実験室内でホルマリン液を消石灰法により同条件下で糖類に変化させた後、硝酸、塩酸、硫酸の3種類の酸をそれぞれ中和用に加えたところ、図5、図6に示すように、硝酸を加えた場合にのみ消石灰が完全に溶解したことが確認できた。塩酸を加えた場合、写真では判別し難いが、わずかに残さが容器底面に認められた。
各系の使用量は、10%ホルマリン液:200mL、消石灰:10gとした。
各系の容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は一晩静置し、その後、50%硝酸、50%塩酸、25%硫酸をそれぞれ添加して中和した。いずれについてもpH4付近を終点とした。
【実施例3】
【0034】
実験室内でリン酸ナトリウムを含む中和緩衝ホルマリン液に、消石灰または消石灰+グルコースを加えて、以下の処理条件下で15時間後の変化を観察した。
各系の使用量は、10%中和緩衝ホルマリン液:200mL、消石灰:10g、グルコース:4g(グルコース添加系のみ)とした。
グルコース添加系では、中和緩衝ホルマリン液を入れた容器にグルコースを加え混合して、グルコースが完全に溶解したことを確認した。
その後、各系の容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は15時間静置した。
その結果、図7、図8に示すように、グルコース添加系のみホルムアルデヒドが着色(糖化)していることが確認された。
【実施例4】
【0035】
実験室内でリン酸ナトリウムを含む中和緩衝ホルマリン液に、消石灰+各種糖類を加えて、以下の処理条件下で15時間後の変化を観察した。
各系の使用量は、10%中和緩衝ホルマリン液:50mL、各種糖類:1g、消石灰:2.5gとした。
各種糖類は以下の通りとした。
【表2】
中和緩衝ホルマリン液を入れた容器に各種糖類を加え混合して、各種糖類が完全に溶解したことを確認した。
その後、その容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は15時間静置した。開始直後は、図9に示すものであった。
【0036】
そして、開始後30分で、キシロース、ソルボース、フラクトース、ガラクトースの添加系は着色(糖化)し始めた。一方、マンノースとスクロースの添加系はこの時点では着色していなかった。なお、実施例3でグルコース添加系を試験したが、このグルコース添加系もこの時点では着色していなかった。このことから、上記の4種の糖は、グルコースよりも糖化を促進する効果が高い(特にソルボース)ことが判明した。
そして、15時間後では、図10に示すように、スクロースを添加した系を除き、全て終点まで着色していた。スクロースでも着色は見られたが、他の糖に比べ、糖化する反応速度が極めて遅いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の無害化方法によれば、その実施装置をコンパクトで設計できる。しかも、その装置は、家庭用電源で運転でき、しかも処理剤投入後は、処理済み液の排水やその後の給水まで自動的に工程が進み、廃泥も生じないのでメンテナンスも定期的に水洗いをするだけで済む。したがって、研究所や病院などの施設の室内に置いて利用するのに非常に便利である。
【符号の説明】
【0038】
1‥‥自動処理装置
3‥‥本体 5‥‥前扉
7‥‥キャスター 9‥‥ストッパー
11‥‥コントロールボックス 13‥‥処理槽
15‥‥蓋体 17‥‥リフレクター
19‥‥開閉カバー 21‥‥pHセンサー
23‥‥ヒーター 25‥‥温度センサー
27‥‥(攪拌手段の)回転軸 29‥‥レベルスイッチ
31‥‥ホルマリン廃液供給ライン 32‥‥ホルマリン廃液供給用ポンプ
33‥‥硝酸供給ライン 34‥‥硝酸供給用ポンプ
35‥‥給水ライン 36‥‥給水用バルブ
37‥‥排液・排水ライン 38‥‥排液・排水用ポンプ
39‥‥開閉バルブ 41‥‥操作・表示パネル
43‥‥ディスプレイ
【技術分野】
【0001】
本発明はホルマリン廃液の無害化方法とその方法を自動的に実施するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルマリンは、フェノール・尿素樹脂の原料としてだけでなく、医療関係施設では臓器や生体組織の防腐剤や保存剤として、さらに水産関係の試験、研究所では水生生物の組織保存剤として多用されている。
而して、その主成分であるホルムアルデヒドは強い毒性を有することから、使用済みの廃液は無害化した上で廃棄することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−263661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それに答えて、種々の無害化方法が提案されているが、特許文献1に記載されているように、そのうち代表的なものは、活性汚泥処理法、苛性ソーダ法、消石灰法である。
このうち、活性汚泥処理法は微生物による分解作用を利用したものであり、ホルマリン廃液の濃度が高い場合には十分に低濃度に希釈してから活性汚泥処理に入れてそこで生息している微生物に損傷を与えないように配慮するため、施設が大型化する傾向がある。
また、苛性ソーダ法では、強アルカリ下(2〜3mol/L)で反応をさせるため、取扱いに危険を伴う上、安全面を十分に配慮する必要がある。
一方、消石灰法は、ホルマリンに消石灰(水酸化カルシウム)を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させるものであり、消石灰添加後の溶液は苛性ソーダ法に比べ塩基性が低い(pH=12程度)ため、取扱いが容易である上に、糖類は生分解が可能であることから、環境に優しい廃液を作り出すと言えるが、カルシウム塩がスラッジとして発生し、処理効率が悪い。
【0005】
水産関係の試験、研究所及び保健所や病院等の医療機関では、年間に発生するホルマリン廃液の量が少なく、大型設備を設置することは難しい。また、環境への配慮も最近では一層強く求められている。
それ故、本発明は、上記した課題を解決するために、消石灰法を原理として採用し、カルシウム塩の発生といった欠点を克服した、新規且つ有用なホルマリン廃液の無害化方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、処理効率を改善した、新規且つ有用なホルマリン廃液の無害化方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記したホルマリン廃液の無害化方法を効率良く実施することを可能とする自動処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、中和用に硝酸を加えると消石灰が溶解して配管を介して排出可能になることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
請求項1の発明は、ホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化することを特徴とする無害化方法である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰と共にグルコースを加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共に単糖または二糖を加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法において、ホルマリン廃液に消石灰を加えた後加温及び間欠攪拌条件下において糖類への変化を促進することを特徴とする無害化方法である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法を実施するためのホルマリン廃液の自動処理装置において、ホルマリン廃液や消石灰の被処理物を収容して処理するための処理槽と、前記処理槽内で被処理物を攪拌する攪拌手段と、前記処理槽内で被処理物を加熱する加熱手段と、被処理物の温度を測定する温度センサーと、被処理物のpHを測定するpHセンサーと、被処理物の液面を検知するレベルスイッチと、前記処理槽内にホルマリン廃液を供給するホルマリン廃液供給手段と、前記処理槽内に硝酸を供給する硝酸供給手段と、前記処理槽内で無害化処理された処理済み液を排出する排出手段と、前記各手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、予め処理対象のホルマリン廃液に基づいて設定された最適な運転パラメータに基づき、プログラム制御により前記センサー群から情報を受け取り、前記各手段を動作させて無害化方法を自動的に実施することを特徴とする自動処理装置である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載したホルマリン廃液の自動処理装置において、給水手段を備え、処理済み液が排出手段により装置外に排出された後前記給水手段により水が処理槽内に供給され溜められ、次のホルマリン廃液の処理の前にその水が前記排出手段により排出される構成になっており、pHセンサーの検知部分は水またはホルマリン廃液に常時浸漬した状態におかれることを特徴とする自動処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無害化方法を利用すれば、得られる処理済み液は環境に優しく、しかもその方法を実施する処理装置もコンパクトに設計でき、且つ装置配管に詰まりの心配もなくメンテナンスが簡単になる。また、処理条件を最適設定することにより処理効率も上げられる。
さらに、上記の本発明の無害化方法を実施する装置は、結果的に自動化が容易に図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動処理装置の概略的斜視図である。
【図2】図1の自動処理装置の処理槽内の概略的斜視図である。
【図3】図1の自動処理装置の電気的構成図である。
【図4】図1の自動処理装置の処理手順のフローである。
【図5】ホルマリン廃液に消石灰を加えて糖化した後の状態を示す写真である。
【図6】図5のホルマリン廃液に消石灰を加えて糖化し、さらに硫酸、塩酸、硝酸をそれぞれ加えた場合の状態を示す写真である。
【図7】リン酸塩を含む中和緩衝ホルマリン廃液に消石灰または消石灰及びグルコースを添加した直後の状態を示す写真である。
【図8】図7の状態から15時間後の状態を示す写真である。
【図9】リン酸塩を含む中和緩衝ホルマリン廃液に各種糖類を添加した直後の状態を示す写真である。
【図10】図9の状態から15時間後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
先ず、無害化方法をステップ順に説明する。
(1)ホルマリン廃液に消石灰を加える。
ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させる。
なお、消石灰を加えることにより、ホルムアルデヒドが縮合反応を起こして糖類に変化することは、特許文献1でも記載されているように従来から知られている。
消石灰の好適使用量は、ホルマリン廃液中のホルムアルデヒドの濃度やホルマリン廃液の組成により変わるので、処理すべきホルマリン廃液のサンプルを事前に入手して予備試験により消石灰の好適使用量を見出しておく。
【0015】
グルコースを加えると、ホルムアルデヒドの糖類への変化が促進されるので、グルコースを加えるのが好ましい。特に医療機関から出るホルマリン廃液にはpH緩衝用にリン酸カリウムやリン酸ナトリウムといったリン酸塩が加えられて中和されたものがあるが、このような場合、ただ消石灰を加えてもホルムアルデヒドは糖類に変化し難い。しかしながら、グルコースを添加することでホルムアルデヒドは速やかに糖類に変化する。
グルコースの好適使用量も処理すべきホルマリン廃液により異なるので、処理すべきホルマリン廃液のサンプルを事前に入手して予備試験によりグルコースの好適使用量を見出しておく。
なお、ホルムアルデヒドの糖類への変化に対するグルコースの寄与機構は未だ解明されていない。
【0016】
糖類化の処理中、消石灰は放置すると溶解せずに沈降するので、攪拌・静置のサイクルを繰り返して、効率良くホルムアルデヒドと消石灰との接触機会を増やしたり、40〜60℃程度に加熱したりすることで、ホルムアルデヒドの糖類への変化を促進して処理時間を短縮化したり、消石灰の使用量を減らすことが好ましい。
【0017】
(2)ホルマリン廃液中のホルムアルデヒドを糖類に変化させた後に、硝酸を加える。
硝酸を加えると消石灰は速やかに溶解する。酸として硫酸を加えると、酸により溶解しない硫酸カルシウム(石膏の主成分)が形成されるため、硫酸は酸として適さない。
消石灰を完全に溶解させるためには、ホルマリン廃液がpH=4程度の酸性になるように使用量を設定することが推奨される。
上記の処理により、ホルマリン廃液が糖類入りの液体に変わっているので、そのまま装置外に排出できる。但し、処理済み液は上記のようにpH=4程度までpH調整した場合には弱酸性になっているので、公共用水域への排出の際には、通常の排水処理施設、例えば汚泥活性処理や接触酸化処理の施設を経由させる必要がある。
【0018】
なお、塩酸を加えても、ある程度は溶解するが、実際の廃液に塩酸を投入した場合、廃液中で塩素が結合した物質が発生する危険性があり、中和後の廃液の安全性は低くなる。また、中和後の廃液を1週間程度放置すると、真黒となり、硝酸とは異なる、好ましくない反応が起きていることが推測される。したがって、塩酸を加えるのは好ましくない。
【0019】
次に、上記の無害化方法を自動的に実施するための一例の自動処理装置について説明する。
先ず、自動処理装置1の構成について図1、図2にしたがって説明する。
図1において、符号3は箱状の本体を示し、前扉5で開け閉めする構造になっている。本体3の下面にはキャスター7とストッパー9が一対となって四隅に取り付けられており、容易な移動及びその移動先での安定的な設置が可能である。
本体3上には、前側にコントロールボックス11が置かれ、後側に処理槽13が置かれている。
【0020】
次に処理槽13と本体3の構成について説明する。
処理槽13の上部開口は蓋体15によって閉鎖される。この蓋体15はリフレクター17により駆動されて上下方向に移動し、その位置で安定的に静止するようになっており、蓋体15は処理槽13の上方で保持させることもできるため、処理槽内部を容易に整備することができる。
図2に示すように、蓋体15には処理剤である消石灰の投入口が設けられており、その投入口が開閉カバー19により開閉される。蓋体15の下面側からは、pHセンサー21、加熱手段としてのヒーター23、温度センサー25と、回転軸と攪拌羽根とでなる攪拌手段の回転軸27と、レベルスイッチ29が垂下している。なお、蓋体15の上面からは上記したセンサー等の導線が引き出されているが、視認の便宜のために図示を省略している。
【0021】
処理槽13の側部には供給手段としてのホルマリン廃液供給ライン31、硝酸供給ライン33、給水ライン35の一端側が貫通して内部に入り込んでいる。図1に示すように、各ラインは途中で本体3内に入り込んでいる。
ホルマリン廃液供給ライン31の他端側は本体3の側部を貫通して出ており、ホースの一端が接続可能な供給口になっている。処理時にはホースの一端がこの供給口に接続され、ホースの他端はホルマリン廃液を溜めたリザーブタンク(図示省略)に接続される。ホルマリン廃液供給ライン31にはホルマリン廃液供給用ポンプ32(図3参照)が介挿されている。
硝酸供給ライン33の他端は本体3内に置かれた硝酸のリザーブタンクに接続され、途中には硝酸供給用ポンプ34(図3参照)が介挿されている。
給水ライン35の他端側は本体3の側部を貫通して出ており、ホースの一端が接続可能な供給口になっている。処理時にはホースの一端がこの供給口に接続され、ホースの他端は水道蛇口に接続される。給水ライン35には給水用バルブ36が介挿されている。
【0022】
また、処理槽13の底部には、排出手段としての排液・排水ライン37の一端が接続されている。この排液・排水ライン37は本体3内に入り込んだ後、本体3の底部から引き出されており、他端はホースが接続可能な排液・排水口になっている。処理時にはこのホースの一端が上記した排液・排水口に接続されて、処理槽3内の水や処理済みの廃液が装置外に排出される。排液・排水ライン37の一端には開閉バルブ39が設けられ、また、途中には、排液・排水用ポンプ38が介挿されている。
【0023】
次に、コントロールボックス11を中心とするコントロールボックス11を囲む電気的構成について、図3にしたがって説明する。
コントロールボックス11には、アナログボードと、CPUボードと、TBと、攪拌手段の回転軸コントローラとが備えられており、アナログボードはセンサー群からの微弱なアナログ信号を増幅しており、CPUボードとの仲介を果たしている。また、CPUボードは、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行するCPU(マイクロプロセッサ)を含み、プログラム制御によりヒーター23等を制御する。
【0024】
コントロールボックス11の前面側は操作・表示パネル41になっており、そこには、「準備」、「開始」、「停止」の各種スイッチが設けられ、状態表示のために「準備中」、「自動運転中」、「パラメータ設定」のLEDが設けられており、運転中の動作内容に対応したLEDが点灯してその旨を報知するようになっている。さらに、コントロールボックス11は開閉可能になっており、開くと内部に「設定」スイッチが設けられている。
操作・表示パネル41の下方にはセンサー群の値を表示するディスプレイ43が設けられている。
また、報知用のアラーム(図示省略)も備えられている。
【0025】
次に、自動処理装置1の使用手順について説明する。
(運転パラメータの設定)
先ず、「設定」スイッチを押下して、「パラメータ設定」LEDを点灯させた状態で、運転パラメータを処理すべきホルマリン廃液に合わせて最適なものに設定する。設定した数値は上記した操作・表示パネル41に表示される。
運転パラメータには、攪拌時間、攪拌停止時間、攪拌サイクル数、加熱温度、ホルマリン廃液供給時間、硝酸供給時間、排出好適pH値、給水時間、排水時間等が含まれる。
運転パラメータを設定した後は、いつでも運転可能状態となる。また、運転パラメータは、設定すれば恒久的に有効であるため、一度設定すればよい。
【0026】
(自動処理装置による処理手順)
図4のフローにしたがって説明する。
(準備モード)
「準備」スイッチが手動押下されると、自動処理装置1では、排液・排水ライン37の開閉バルブ39が開き、排液・排水用ポンプ38が作動して、処理槽13内の水を排出される。排出が終了すると、「アラーム」が鳴動してその旨を報知する。
【0027】
次に手動により蓋体15の開閉カバー19が開かれて投入口から処理剤である消石灰を投入される。
【0028】
(無害化処理モード)
廃液供給工程:
「開始」スイッチが手動押下されると、自動処理装置1では、ホルマリン廃液供給ライン31のホルマリン廃液供給用ポンプ32が作動して、ホルマリン廃液を処理槽13内に供給する。
反応工程:
次に、レベルスイッチ29がホルマリン廃液の所定量供給を確認すると、温度センサー25の監視下でヒーター23が熱を放出すると共に攪拌手段の回転軸27が間欠的に回転して、ホルムアルデヒドの糖類への変化を促進する。
安定工程:
反応工程時間の経過後、ヒーター23等が動作を停止して安定工程に入る。
【0029】
中和工程:
所定の安定時間が経過すると、ホルムアルデヒドの糖類への変化が完了したとみなして、今度は硝酸供給ライン33の硝酸供給用ポンプ34が作動して、硝酸を処理槽13内に供給する。pHセンサー21が監視しており、pH=4になるまで供給され続ける。中和工程中は、回転軸27の回転により中和が促進される。
排液工程:
中和工程が終了すると、今度は排液・排水ライン37の開閉バルブ39が開くと共に、排液・排水用ポンプ38が作動して、処理済み液を速やかに装置外に排出させる。
給水工程:
排液工程が終了すると、給水ライン35の給水用バルブ36を作動させて処理槽13内を水で満たす。
【0030】
排水工程および給水工程:
排液を処理槽13内に残さないようにするため、さらに、再度排水及び給水を行い、処理槽13内を水で満たした後は、アラームでその旨を報知して一連の工程を終了する。
pHセンサー21は、終了後は処理槽13に溜められた水に浸漬されることになるので、常時何らかの液に浸漬した状態におかれ、乾燥が防止される。
【0031】
上記したように、自動処理装置1によれば、「準備」スイッチの押下と、消石灰の投入と、「開始」スイッチの押下の手動作業以外は、自動的に処理が進んでいくことになる。また、この自動処理装置1は、家庭用の100Vまたは200V電源で運転される。しかも、必要により、「停止」スイッチの手動押下により緊急停止することができるので、安全にも十分に対応できている。そのため、熟練を要しない者でも、ホルマリン廃液の処理作業を容易に且つ安全に行うことができる。また、運転状態をCPUボード内で記憶・保持できるため、万が一運転中に停電が発生した後、復旧した場合は、「開始」スイッチを押下すれば、停電発生直前の工程の途中から再開することができる。
なお、グルコースも併せて投入する場合には、蓋体15の投入口から投入されることになる。
【実施例1】
【0032】
自動処理装置1によるホルマリン処理能力を検証したところ、以下の表の結果が得られている。
【表1】
また、自動処理装置から排出される処理済み液は、OECDに準拠した毒性試験により水生生物に対する安全性が確認されている。
【実施例2】
【0033】
実験室内でホルマリン液を消石灰法により同条件下で糖類に変化させた後、硝酸、塩酸、硫酸の3種類の酸をそれぞれ中和用に加えたところ、図5、図6に示すように、硝酸を加えた場合にのみ消石灰が完全に溶解したことが確認できた。塩酸を加えた場合、写真では判別し難いが、わずかに残さが容器底面に認められた。
各系の使用量は、10%ホルマリン液:200mL、消石灰:10gとした。
各系の容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は一晩静置し、その後、50%硝酸、50%塩酸、25%硫酸をそれぞれ添加して中和した。いずれについてもpH4付近を終点とした。
【実施例3】
【0034】
実験室内でリン酸ナトリウムを含む中和緩衝ホルマリン液に、消石灰または消石灰+グルコースを加えて、以下の処理条件下で15時間後の変化を観察した。
各系の使用量は、10%中和緩衝ホルマリン液:200mL、消石灰:10g、グルコース:4g(グルコース添加系のみ)とした。
グルコース添加系では、中和緩衝ホルマリン液を入れた容器にグルコースを加え混合して、グルコースが完全に溶解したことを確認した。
その後、各系の容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は15時間静置した。
その結果、図7、図8に示すように、グルコース添加系のみホルムアルデヒドが着色(糖化)していることが確認された。
【実施例4】
【0035】
実験室内でリン酸ナトリウムを含む中和緩衝ホルマリン液に、消石灰+各種糖類を加えて、以下の処理条件下で15時間後の変化を観察した。
各系の使用量は、10%中和緩衝ホルマリン液:50mL、各種糖類:1g、消石灰:2.5gとした。
各種糖類は以下の通りとした。
【表2】
中和緩衝ホルマリン液を入れた容器に各種糖類を加え混合して、各種糖類が完全に溶解したことを確認した。
その後、その容器を40℃の水槽に漬け、当該容器内に消石灰を加え、最初に手により混合した後は15時間静置した。開始直後は、図9に示すものであった。
【0036】
そして、開始後30分で、キシロース、ソルボース、フラクトース、ガラクトースの添加系は着色(糖化)し始めた。一方、マンノースとスクロースの添加系はこの時点では着色していなかった。なお、実施例3でグルコース添加系を試験したが、このグルコース添加系もこの時点では着色していなかった。このことから、上記の4種の糖は、グルコースよりも糖化を促進する効果が高い(特にソルボース)ことが判明した。
そして、15時間後では、図10に示すように、スクロースを添加した系を除き、全て終点まで着色していた。スクロースでも着色は見られたが、他の糖に比べ、糖化する反応速度が極めて遅いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の無害化方法によれば、その実施装置をコンパクトで設計できる。しかも、その装置は、家庭用電源で運転でき、しかも処理剤投入後は、処理済み液の排水やその後の給水まで自動的に工程が進み、廃泥も生じないのでメンテナンスも定期的に水洗いをするだけで済む。したがって、研究所や病院などの施設の室内に置いて利用するのに非常に便利である。
【符号の説明】
【0038】
1‥‥自動処理装置
3‥‥本体 5‥‥前扉
7‥‥キャスター 9‥‥ストッパー
11‥‥コントロールボックス 13‥‥処理槽
15‥‥蓋体 17‥‥リフレクター
19‥‥開閉カバー 21‥‥pHセンサー
23‥‥ヒーター 25‥‥温度センサー
27‥‥(攪拌手段の)回転軸 29‥‥レベルスイッチ
31‥‥ホルマリン廃液供給ライン 32‥‥ホルマリン廃液供給用ポンプ
33‥‥硝酸供給ライン 34‥‥硝酸供給用ポンプ
35‥‥給水ライン 36‥‥給水用バルブ
37‥‥排液・排水ライン 38‥‥排液・排水用ポンプ
39‥‥開閉バルブ 41‥‥操作・表示パネル
43‥‥ディスプレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化することを特徴とする無害化方法。
【請求項2】
請求項1に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共にグルコースを加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法。
【請求項3】
請求項2に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共に単糖または二糖を加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰を加えた後加温及び間欠攪拌条件下において糖類への変化を促進することを特徴とする無害化方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法を実施するためのホルマリン廃液の自動処理装置において、
ホルマリン廃液や消石灰の被処理物を収容して処理するための処理槽と、前記処理槽内で被処理物を攪拌する攪拌手段と、前記処理槽内で被処理物を加熱する加熱手段と、被処理物の温度を測定する温度センサーと、被処理物のpHを測定するpHセンサーと、被処理物の液面を検知するレベルスイッチと、前記処理槽内にホルマリン廃液を供給するホルマリン廃液供給手段と、前記処理槽内に硝酸を供給する硝酸供給手段と、前記処理槽内で無害化処理された処理済み液を排出する排出手段と、前記各手段の動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、予め処理対象のホルマリン廃液に基づいて設定された最適な運転パラメータに基づき、プログラム制御により前記センサー群から情報を受け取り、前記各手段を動作させて無害化方法を自動的に実施することを特徴とする自動処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載したホルマリン廃液の自動処理装置において、
給水手段を備え、処理済み液が排出手段により装置外に排出された後前記給水手段により水が処理槽内に供給され溜められ、次のホルマリン廃液の処理の前にその水が前記排出手段により排出される構成になっており、pHセンサーの検知部分は水またはホルマリン廃液に常時浸漬した状態におかれることを特徴とする自動処理装置。
【請求項1】
ホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰を加えてホルムアルデヒドを糖類に変化させた後、硝酸を加えて消石灰を中和により溶解させることにより、ホルマリン廃液を排出可能に無害化することを特徴とする無害化方法。
【請求項2】
請求項1に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共にグルコースを加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法。
【請求項3】
請求項2に記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰と共に単糖または二糖を加えて糖類に変化させることを特徴とする無害化方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法において、
ホルマリン廃液に消石灰を加えた後加温及び間欠攪拌条件下において糖類への変化を促進することを特徴とする無害化方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載したホルマリン廃液の無害化方法を実施するためのホルマリン廃液の自動処理装置において、
ホルマリン廃液や消石灰の被処理物を収容して処理するための処理槽と、前記処理槽内で被処理物を攪拌する攪拌手段と、前記処理槽内で被処理物を加熱する加熱手段と、被処理物の温度を測定する温度センサーと、被処理物のpHを測定するpHセンサーと、被処理物の液面を検知するレベルスイッチと、前記処理槽内にホルマリン廃液を供給するホルマリン廃液供給手段と、前記処理槽内に硝酸を供給する硝酸供給手段と、前記処理槽内で無害化処理された処理済み液を排出する排出手段と、前記各手段の動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、予め処理対象のホルマリン廃液に基づいて設定された最適な運転パラメータに基づき、プログラム制御により前記センサー群から情報を受け取り、前記各手段を動作させて無害化方法を自動的に実施することを特徴とする自動処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載したホルマリン廃液の自動処理装置において、
給水手段を備え、処理済み液が排出手段により装置外に排出された後前記給水手段により水が処理槽内に供給され溜められ、次のホルマリン廃液の処理の前にその水が前記排出手段により排出される構成になっており、pHセンサーの検知部分は水またはホルマリン廃液に常時浸漬した状態におかれることを特徴とする自動処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−255325(P2011−255325A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132622(P2010−132622)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(591146239)いであ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(591146239)いであ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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