説明

ホルムアミジン酢酸塩の製造方法

【課題】 経済的かつ簡便な方法により、高純度のホルムアミジン酢酸塩を高収率で製造する手段を提供する。
【解決手段】 オルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアの反応により、ホルムアミジン酢酸塩を製造する際に、還流条件下で反応を進行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアミジン酢酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアミジン酢酸塩は、例えば、医薬、農薬および染料等の主成分であるイミダゾー
ル、ピリミジンおよびトリアジン等の製造工程における中間体として、産業上広く利用さ
れている。
【0003】
このホルムアミジン酢酸塩の製造方法については、従来種々の検討がなされている。な
かでも、オルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させる方法が有
用であり、これについていくつかの報告がなされている。
【0004】
例えば、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸との混合液を130〜135℃に加熱し
、該混合液中にアンモニアガスを導入することにより反応させて、ホルムアミジン酢酸塩
を84%の収率で製造する方法が知られている(非特許文献1を参照)。
【0005】
また、前記非特許文献1には、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸アンモニウムとの
混合物を130〜135℃に加熱することにより反応させて、ホルムアミジン酢酸塩を7
3%の収率で製造する方法も記載されている。
【0006】
しかし、前記非特許文献1に記載の方法は、収率が充分であるとはいえず、また、反応
温度が高いためエネルギー効率が悪いという問題がある。
【0007】
また、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸との混合液を、反応当初に115℃に加熱
し、該混合液にアンモニアガスを導入することにより反応させて、ホルムアミジン酢酸塩
を84〜88%の収率で製造する方法が知られている(非特許文献2を参照)。
【0008】
しかし前記非特許文献2の方法も同様に、収率が充分ではなく、反応温度が高いという
問題がある。
【0009】
さらに、オルトギ酸トリメチルエステル、酢酸および1−プロパノールの混合液を90
℃に加熱し、該混合液中にアンモニアガスを導入することにより反応させて、ホルムアミ
ジン酢酸塩を90%の収率で製造する方法が開示されている(特許文献1を参照)。
【0010】
しかし、前記特許文献1の方法ではメタノールが副生し、ホルムアミジン酢酸塩はこの
メタノールに極めて溶解しやすい。このため、最終的にホルムアミジン酢酸塩を得る際に
は残留したメタノールを留去しなければならず、また溶媒(1−プロパノール)を用いて
いることから、操作が煩雑となるという問題がある。さらに、上記同様に、収率が充分で
はないという問題もある。
【0011】
また、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸との混合液に、ホルムアミドおよびアセト
アミド等のアミド類を触媒として添加し、混合液を反応当初に110℃に加熱し、アンモ
ニアガスを導入することにより反応させて、ホルムアミジン酢酸塩を80〜83%の収率
で製造する方法が開示されている(特許文献2を参照)。
【0012】
前記特許文献2に記載の方法では触媒を使用しているが、その割に収率は不充分であり
、触媒を利用することによる利点を認め難い。また、最終の晶析段階における晶析母液を
再使用することで最終収率を95%まで高めているが、かかる方法では操作が煩雑となる
という問題がある。
【特許文献1】独国特許出願公開第4001160号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4422273号明細書
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,82,3138−3141(1960)
【非特許文献2】Organic Syntheses Collection Volume 5,582−584(1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、経済的かつ簡便な方法により、高純度のホルムアミジン酢酸塩を高収
率で製造する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、オルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアの反応により、ホ
ルムアミジン酢酸塩を製造する際に、副生するアルコールを留去させずに反応系内に残留
させ、反応終了後にこのアルコールを溶媒として用いて、生成物であるホルムアミジン酢
酸塩を晶析工程により回収することにより、得られるホルムアミジン酢酸塩の純度および
収率が予想外に向上することを見出し完成された発明である。本発明は、還流条件下で前
記反応を進行させることによって、得られるホルムアミジン酢酸塩の純度および収率の向
上を達成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高純度のホルムアミジン酢酸塩が製造されうる。このため、高純度の
原料が要求される医薬品等の製造工程において中間体として用いられる際に、本発明は有
用である。また本発明によれば、簡便かつ経済的な方法により、ホルムアミジン酢酸塩を
製造する際の収率が大きく向上しうる。このため、工業的な量産に適用する上で、本発明
は非常に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、化学式(1):
【0017】
【化1】

【0018】
で表されるオルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させてホルム
アミジン酢酸塩を製造する方法において、還流条件下で、オルトギ酸トリアルキルエステ
ル、酢酸およびアンモニアを反応させる段階(本明細書中「反応段階」とも称する)と、
前記反応により生成したアルコールを用いてホルムアミジン酢酸塩を晶析させる段階(本
明細書中「晶析段階」とも称する)と、を含むことを特徴とする、ホルムアミジン酢酸塩
の製造方法である。
【0019】
ホルムアミジン酢酸塩は、下記化学反応式(2)に示す反応により、オルトギ酸トリア
ルキルエステル、酢酸およびアンモニアから製造される。
【0020】
【化2】

【0021】
本発明は、上記の反応を還流条件下で進行させ、副生したアルコールを反応系内に残留
させることにより、前記アルコールを溶媒として用いた晶析工程によりホルムアミジン酢
酸塩を回収する点に特徴を有する。
【0022】
従来、オルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモニアからホルムアミジン酢酸
塩を製造する際には、平衡の原理に基づき、より反応を進行させるために、副生するエタ
ノールを反応系外に留去するのが一般的であり、還流等により反応系内に残留させること
は好ましくないと考えられていた。
【0023】
これに対し、本発明は還流条件下で反応を進行させることから、従来とは逆に、副生す
るエタノールが反応系内に残留する。それにもかかわらず、本発明によれば、反応終了後
にホルムアミジン酢酸塩がエタノール中に析出した状態となるため晶析工程が適用されう
る。これにより、ホルムアミジン酢酸塩を高純度および高収率で回収することが可能とな
った。
【0024】
以下、本発明の製造方法の各段階につき、好ましい一実施態様を説明するが、本発明の
技術的範囲は以下の態様のみに限定されない。
【0025】
初めに、反応段階の好ましい一実施態様について説明する。なお、本発明における反応
段階は、前記原料の反応によりホルムアミジン酢酸塩が生成すればよく、必ずしも以下の
態様に制限されない。
【0026】
まず、原料として用いられるオルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニア
を準備する。
【0027】
オルトギ酸トリアルキルエステルは、その純度や入手経路に関して、特に限定されない
。市販されている製品を利用してもよいし、場合によっては、自己で合成してもよい。
【0028】
本発明において、「オルトギ酸トリアルキルエステル」とは、特段の断りのない限り、
下記化学式(1)で表される化合物を意味する。
【0029】
【化3】

【0030】
従来、オルトギ酸トリアルキルエステルからホルムアミジン酢酸塩を製造する際に、前
記アルキルエステルとしてメチルエステルを用いる方法も知られている。しかしメチルエ
ステルを用いてホルムアミジン酢酸塩を製造すると、メタノールが副生する。ホルムアミ
ジン酢酸塩のメタノールに対する溶解度はきわめて高いことから、この場合には反応後に
ホルムアミジン酢酸塩を晶析させることができず、本発明の適用は困難である。
【0031】
これに対し、炭素数が2個以上のアルコールに対するホルムアミジン酢酸塩の溶解度は
、メタノールに対する溶解度に比較して低い。本発明はこの点に着目してなされたもので
あり、炭素数が2個以上のオルトギ酸トリアルキルエステルを用いてホルムアミジン酢酸
塩を製造する際に、副生するアルコールを反応系内に残留させることで、反応終了後にお
ける晶析工程の適用を可能とした。これにより、本発明は、極めて簡便な操作により、得
られるホルムアミジン酢酸塩の純度および収率を向上させうる。
【0032】
したがって、化学式(1)で表されるオルトギ酸トリアルキルエステルにおいて、R
は、炭素数が2以上のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても、分岐であ
っても、環状であってもよい。前記アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、
好ましくは2〜12個、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2〜4個である。前
記アルキル基の具体例としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチ
ル基、イソブチル基、sec−ブチル基等が例示される。これら以外のアルキル基が用い
られてもよい。
【0033】
前記アルキル基は、特に好ましくは、エチル基である。すなわち、本発明においては、
オルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させて、ホルムアミジン酢
酸塩を製造することが特に好ましい。この場合にはエタノールが副生し、反応終了後の反
応液はエタノールを主な溶媒とするが、かかる反応液からホルムアミジン酢酸塩を晶析さ
せると、ホルムアミジン酢酸塩がより高純度および高収率で得られるためである。また、
原料のオルトギ酸トリエチルエステルは安価であり、副生するエタノールはホルムアミジ
ン酢酸塩と分離された後に多様な用途に適用されうることからも、オルトギ酸トリエチル
エステルが好ましく用いられる。よって以下、オルトギ酸トリアルキルエステルが、オル
トギ酸トリエチルエステルである場合について、説明するが、本発明の技術的範囲は以下
の態様のみに限定されない。
【0034】
酢酸およびアンモニアについても、その純度や入手経路に関して、特に限定されない。
市販されている製品を利用してもよいし、場合によっては、自己で合成してもよい。なお
、オルトギ酸トリエチルエステルは、水と反応して分解してしまうため、反応液中には水
が存在しないことが好ましい。したがって、収率を向上させるために、酢酸としては氷酢
酸を用い、アンモニアとしては無水アンモニアを用いることが好ましい。
【0035】
本発明において、反応液は、オルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモニア、
並びに、反応の進行に伴い生成するホルムアミジン酢酸塩およびエタノールを含有する。
なお、場合によっては、上記の反応以外の反応による副生物を含有することもある。
【0036】
なお、本発明では、後述する晶析段階において、反応により副生するエタノールを主な
溶媒とする反応液から、ホルムアミジン酢酸塩を晶析させることにより回収するが、晶析
段階におけるホルムアミジン酢酸塩の回収を妨げない限り、他の物質、例えば溶媒等を、
反応開始前または反応中に反応液中にさらに添加してもよく、特段の問題はない。かかる
場合に好ましい態様は、エタノール以外の物質をさらに添加しない態様である。エタノー
ルは反応により副生し、本発明においては晶析段階において溶媒として用いられる物質で
あるため、エタノールを添加することにより本発明の趣旨が損なわれることはない。さら
に好ましい態様は、反応の原料であるオルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモ
ニア以外の物質をさらに添加しない態様である。かかる態様によれば、原料以外の物質を
一切使用することなく、かつ、反応により副生したエタノールをその後の晶析段階におい
て溶媒として有効に活用できるため好ましい。
【0037】
反応段階において、オルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させ
る態様は特に制限されないが、例えば、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸との混合物
に、アンモニアガスを導入する態様が簡便であり好ましい。よって以下の説明においては
、このような実施態様を用いてホルムアミジン酢酸塩を製造する方法について説明するが
、オルトギ酸トリエチルエステル、酢酸およびアンモニアが反応し、ホルムアミジン酢酸
塩が生成するのであれば、他の態様を採用してもよい。
【0038】
まず、オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸とを混合する。ここで好ましくは、前記オ
ルトギ酸トリエチルエステルと酢酸との混合物を撹拌する。この際、反応液周辺の雰囲気
については、特に限定されないが、空気中の水蒸気によるオルトギ酸トリエチルエステル
の分解を防止するため、好ましくは窒素やアルゴンといった不活性ガスで、反応液周辺の
雰囲気が置換される。
【0039】
オルトギ酸トリエチルエステルと酢酸とが充分に混合したら、アンモニアガスを導入し
て、反応を開始させる。ここで、反応中は、反応液を常時撹拌することが好ましい。
【0040】
本発明において、反応を進行させる際には、還流条件となっていればよく、その他の具
体的な態様は特に制限されない。
【0041】
本発明において「還流条件」とは、反応進行時に、副生するエタノールが反応系内へ還
流し、反応終了時にも系内に残留する条件をいう。本発明において還流条件とするための
態様は、副生するエタノールを反応系内へ還流させうる態様であればよく、特に制限され
ない。
【0042】
還流条件とするための態様としては、例えば、反応容器に還流冷却器を接続して、エタ
ノールが蒸発する温度以上の温度条件下で反応を進行させ、実際にエタノールを還流させ
る態様が含まれる。なお、還流冷却器を使用しなくても、エタノールが蒸発する温度以下
の温度条件下で反応を進行させ、副生するエタノールが反応系内に残留しうるような場合
には、本発明の「還流条件」に含まれる。
【0043】
本発明において、前記反応液の沸点は、反応の進行に伴い変動する。したがって、還流
条件とするための反応温度を明確に規定することは困難であり、特に制限されない。ここ
で、本発明において、還流条件下でホルムアミジン酢酸塩を製造する際に、反応温度を調
整する態様は特に制限されないが、好ましい態様として、以下の態様が例示される。
【0044】
上記化学反応式(2)に示す反応は発熱反応であるため、反応初期は、反応に伴い発生
する反応熱により、反応液の温度は上昇する。ここで、急激な反応の進行に伴う副反応や
、アンモニアの放散を防止するため、反応初期においては、アンモニアガスの導入量を調
整して、反応温度をエタノールの沸点以下に調整することが好ましい。反応の進行に伴い
、反応熱による反応液の温度上昇が緩やかになるため、周知の方法により前記反応液を加
熱し、さらに反応を進行させる。この際、加熱を開始した時点では前記沸点は概ね90℃
程度であり、さらに反応が進行するにつれてエタノールが副生することから、前記沸点は
エタノールの沸点へと近づく。したがって、これに合わせて、反応温度を反応液の沸点以
下の温度に調整すればよい。なお、常圧(1気圧)におけるエタノールの沸点は、78.
3℃であり、例えば常圧下で反応させる場合には、この温度を目安として温度条件が調整
されうる。
【0045】
本発明は、反応温度を調整する点に特徴を有しており、その他の反応条件や反応に使用
される装置等の態様は特に制限されず、従来周知の態様が適宜用いられうる。
【0046】
例えば、反応系の圧力条件は特に制限されないが、簡単な装置により反応を進行させう
る点で、好ましくは常圧の圧力条件が用いられる。なお、本発明においては、反応系の圧
力条件の変動に伴い、反応液の沸点も変動することに留意すべきである。
【0047】
本発明においては、加水分解や熱分解等の副反応によるオルトギ酸トリアルキルエステ
ルの消失や、導入されるアンモニアガスの放散を考慮しなければ、オルトギ酸トリアルキ
ルエステル、酢酸およびアンモニアを化学量論量使用することにより反応は完結し、化学
量論に従ってホルムアミジン酢酸塩が得られる。しかし、反応速度を速め、反応を確実に
完結させるために、オルトギ酸トリアルキルエステルおよび/またはアンモニアを過剰に
反応系に添加してもよい。ここで、化学量論に従うと、上記の化学反応式(2)より、オ
ルトギ酸トリアルキルエステル:酢酸:アンモニア=1:1:2のモル比で反応してホル
ムアミジン酢酸塩が1モル生成するが、酢酸1モルに対してオルトギ酸トリアルキルエス
テルは、好ましくは1.0〜2.0モル、より好ましくは1.0〜1.2モルであり、酢
酸1モルに対してアンモニアは、好ましくは2.0〜4.0モル、より好ましくは2.0
〜2.4モルである。酢酸に対するオルトギ酸トリアルキルエステルまたはアンモニアの
添加量が少なすぎると反応が充分に進行せず、逆に多すぎても効果が得られないばかりか
、原料の回収等の工程が煩雑になる虞がある。なお、オルトギ酸トリアルキルエステルま
たはアンモニアに対して酢酸が化学量論的に過剰に存在する条件は、後処理工程が煩雑に
なる虞があるため、採用しないことが好ましい。
【0048】
本発明では、還流条件下で反応を進行させるため、反応により副生したエタノールは留
去されずに反応液中に残留する。よって、反応に伴い生成したホルムアミジン酢酸塩は、
副生したアルコール中に一部溶解し、反応の進行に伴って溶解度を超えた分は析出して、
反応の完結時には反応液はスラリー状態となる。
【0049】
次に、晶析段階の好ましい一実施態様について説明する。なお、本発明における晶析段
階は、反応により副生するアルコールを溶媒として用いた晶析法によりホルムアミジン酢
酸塩を反応液から回収できればよく、必ずしも以下の態様に制限されない。
【0050】
「晶析」とは、液相から結晶を析出させ、これにより液相から特定成分を結晶として分
離したり濃縮したりする操作をいう。一般に、結晶化熱は蒸発熱よりかなり小さいため、
晶析法は、省エネルギー分離法として、種々の化合物の分離に広く用いられている。
【0051】
本発明においては、反応の完結により得られた反応液を冷却させると、アルコールを主
な溶媒とする反応液に対するホルムアミジン酢酸塩の溶解度が低下するため、ホルムアミ
ジン酢酸塩をほとんど析出させうる。これにより、高純度のホルムアミジン酢酸塩を簡便
な操作により得ることが可能となる。晶析段階における冷却温度は特に制限されないが、
好ましくは副生するアルコールが常圧下で蒸発しない温度、より好ましくは−10〜10
℃に冷却する。なお、晶析段階においては、冷却前に、操作の簡便性を阻害しない程度に
、反応液中のアルコールを留去してもよい。
【0052】
前記晶析段階において析出したホルムアミジン酢酸塩は、さらに常法により固液分離さ
れることが好ましい。かかる固液分離の方法としては特に制限されず、例えば、濾過法、
遠心分離法等が利用されうる。
【0053】
濾過法により反応液を精製する場合には、濾過に関する一般的な知見が用いられうる。
例えば、濾過時間を短縮させるために、吸引濾過や加圧濾過が適用されうる。その後、得
られたホルムアミジン酢酸塩湿体を常法により乾燥させて、最終的にホルムアミジン酢酸
塩を得ることができる。
【0054】
本発明により製造されるホルムアミジン酢酸塩は、例えば、医薬、農薬および染料等の
主成分であるイミダゾール、ピリミジンおよびトリアジン等の製造工程における中間体と
して利用されている。ここで、本発明によれば、従来と比較して高純度のホルムアミジン
酢酸塩が得られる。したがって、本発明により製造されたホルムアミジン酢酸塩は、高純
度の原料が要求される前記製造工程における原料として、極めて有用である。また本発明
によれば、簡便かつ経済的な方法により、ホルムアミジン酢酸塩を製造する際の収率を向
上させうることから、本発明は、工業的に量産される際の製造方法として極めて有益であ
る。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を詳細に
説明するための一例にすぎず、これにより本発明の技術的範囲は何ら限定されない。
【0056】
実施例1
攪拌装置、還流冷却器、ガス導入管および温度計が接続された1000mL容4つ口丸
底フラスコ(反応容器)に、オルトギ酸トリエチルエステル540g(3.64mol)
および氷酢酸200g(3.33mol)を投入し、窒素気流下で攪拌しつつ、1時間当
たり平均10gの無水アンモニアガスの導入を開始した。導入開始時、反応容器は常温の
水浴に浸した。無水アンモニアガスの導入は反応液温度が常温の状態から開始し、反応液
温度は自然上昇にまかせた。無水アンモニアガスを50g導入した時点で、水浴を加熱す
ることによって反応液を加熱し、その後は還流状態に保ちつつ、無水アンモニアガスの導
入を継続した。無水アンモニアガスは、導入終了までの合計で118g(6.93mol
)を導入した。このとき反応液はエタノールの還流温度程度で還流状態にあり、反応が完
結した。次いで、反応液を0℃まで冷却してホルムアミジン酢酸塩を十分に析出させ、常
法により固液分離してホルムアミジン酢酸塩湿体結晶を得た。得られたホルムアミジン酢
酸塩湿体結晶を常法により減圧下で乾燥させて、ホルムアミジン酢酸塩332g(3.1
9mol)を得た。酢酸に対する収率は96%であり、高速液体クロマトグラフを用いた
内部標準法による純度分析によれば、得られたホルムアミジン酢酸塩の純度は99.7%
であった。さらに濾液を蒸発乾固させたところ、酢酸に対する収率として3%分のホルム
アミジン酢酸塩が確認できた。したがって、ホルムアミジン酢酸塩の合計の収率(反応収
率)は、酢酸に対して99%であった。
【0057】
実施例2
攪拌装置、還流冷却器、ガス導入管および温度計が接続された1000mL容4つ口丸
底フラスコ(反応容器)に、オルトギ酸トリエチルエステル494g(3.33mol)
および氷酢酸200g(3.33mol)を投入し、窒素気流下で攪拌しつつ、1時間当
たり平均10gの無水アンモニアガスの導入を開始した。導入開始時、反応容器は常温の
水浴に浸した。無水アンモニアガスの導入は反応液温度が常温の状態から開始し、反応液
温度は自然上昇にまかせた。無水アンモニアガスを50g導入した時点で、水浴を加熱す
ることによって反応液を加熱し、その後は還流状態に保ちつつ、無水アンモニアガスの導
入を継続した。無水アンモニアガスは、導入終了までの合計で113.5g(6.66m
ol)を導入した。このとき反応液はエタノールの還流温度程度で還流状態にあり、反応
が完結した。次いで、反応液を0℃まで冷却してホルムアミジン酢酸塩を十分に析出させ
、常法により固液分離してホルムアミジン酢酸塩湿体結晶を得た。得られたホルムアミジ
ン酢酸塩湿体結晶を常法により減圧下で乾燥させて、ホルムアミジン酢酸塩326g(3
.13mol)を得た。酢酸に対する収率は94%であり、高速液体クロマトグラフを用
いた内部標準法による純度分析によれば、得られたホルムアミジン酢酸塩の純度は99.
6%であった。さらに濾液を蒸発乾固させたところ、酢酸に対する収率として3%分のホ
ルムアミジン酢酸塩が確認できた。したがって、ホルムアミジン酢酸塩の合計の収率(反
応収率)は、酢酸に対して97%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1):
【化1】


で表されるオルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させてホルムアミジン酢酸塩を製造する方法において、
還流条件下で、オルトギ酸トリアルキルエステル、酢酸およびアンモニアを反応させる段階と、
前記反応により生成したアルコールを用いてホルムアミジン酢酸塩を晶析させる段階と、
を含むことを特徴とする、ホルムアミジン酢酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記オルトギ酸トリアルキルエステルが、オルトギ酸トリエチルエステルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応に用いられるオルトギ酸トリアルキルエステルの酢酸に対するモル比は、1.0〜2.0であり、前記反応に用いられるアンモニアの酢酸に対するモル比は、2.0〜4.0であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−209120(P2010−209120A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150218(P2010−150218)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2003−360340(P2003−360340)の分割
【原出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【出願人】(000227652)日宝化学株式会社 (34)
【Fターム(参考)】