説明

ホルムアルデヒド検知シート

【課題】空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定可能にする。
【解決手段】酢酸アンモニウム7.5gと酢酸0.15mlと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を50gとした検知剤溶液101にシート状担体103を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体103に検知剤溶液101を含浸させる。これを、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知シート(ホルムアルデヒド検知シート)103aを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在するホルムアルデヒドを検出するホルムアルデヒド検知紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドは、例えば新築の住宅や家具などに含まれており、室内環境汚染の原因物質になっている。また、化学物質過敏症の人にとっては、シックハウス症候群を引き起こす原因の1つと考えられている。
【0003】
このため、ホルムアルデヒドの濃度をより簡便に高い精度で測定する技術が要求され、様々な検知材が提案されている。例えば、特許文献1においては、ヒドロキシルアミンの塩酸塩および酸性領域に変色域を有する水素イオン濃度指示薬を多孔質担体(紙)に展開してホルムアルデヒド検知紙としている。この検知紙によれば、相対湿度が80%以上という高湿度領域においては、ホルムアルデヒドを用いた消毒後に空気中に残留する数ppmのホルムアルデヒドを検出することが可能とされている。
【0004】
また、特許文献2では、硫酸ヒドロキシルアミンおよび水素イオン濃度指示薬としてメチルイエロー,メチルオレンジ,ベンジルオレンジ,トロペオリンの中より選択された1つを多孔質担体上に展開してホルムアルデヒド検知紙としている。この検知紙によれば、相対湿度30%環境下で0.3から4ppmのホルムアルデヒドを検出することが可能とされている。
【0005】
また、4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールのアルカリ水溶液で湿潤したフィルターを用い、0.04−10ppmのホルムアルデヒドを検出する測定方法もある(特許文献3参照)。この方法によると、0.04−10ppmのホルムアルデヒドが検出可能とされている。
【0006】
また、4−アミノ−4−フェニル−3−エン−2−オンと緩衝液とを、シリカゲルを含有する基材展開したホルムアルデヒド検知材もある(非特許文献1参照)。この検知材によれば、0.05−0.7ppmのホルムアルデヒドの検出が可能とされている。
【0007】
また、エナミノン基を有する物質をセルロース基材に展開し、色の変化によりホルムアルデヒドを検出する試験紙「ホルムアルデヒドテストストリップ」(関東科学株式会社製)が販売されている(非特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平07−055792号公報
【特許文献2】特開平07−229889号公報
【特許文献3】特開2003−247989号公報
【非特許文献1】Y.Suzuki, et al. "Portable Sick House Syndrome Gas Monitoring System Based on Novel Colorimetric Reagents for the Highly Selective and Sensitive Detection of Formaldehyde", Environ. Sci. Technol.,vol.37,5695-5700,2003.
【非特許文献2】http://www.kanto.co.kp/siyaku/hcho/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来の測定技術では、以下に示すように、空気(大気)中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定することができないという問題があった。まず、特許文献1の検知紙では、使用環境が高湿度下に限られるため、測定条件の規制が大きいという不都合がある。また、特許文献2の検知紙では、環境基準値の0.08ppmの測定は不可能であるという不都合がある。また、特許文献3の方法では、測定の直前にフィルターを溶液で湿潤させる工程が含まれ、測定があまり容易ではないという不都合がある。
【0010】
また、非特許文献1の検知材では、基材が不透明であるため、検知材の色の変化を測定するには反射光を測定する必要があり、精度が十分でないという不都合があった。また精度(感度)を向上させるためポンプなどを用いて単位時間当たり通過させる空気量を多くするために電力を必要とするため、測定が容易ではないという不都合があった。また、非特許文献2の技術では、平衡反応を用いているため、一度着色したものがホルムアルデヒド濃度が低い状態に移行すると退色してしまう。このため、非特許文献2の技術では、試験紙を常に観測している必要があるなど、測定が容易ではないという問題があった。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るホルムアルデヒド検知シートは、繊維より構成されたシート状の担体と、この担体に担持された検知剤とを少なくとも備え、検知剤は、1−フェニル−1,3−ブタジオンと、酢酸アンモニウム,サリチル酸アンモニウム,およびコハク酸アンモニウムの中より選択されたアンモニウム塩と、酢酸およびクエン酸の中の選択された酸とを含むものである。
【0013】
上記ホルムアルデヒド検知シートにおいて、シート状の担体は、セルロースを主成分とする繊維より構成されたものであるとよい。また、検知剤は、検知剤が溶解した溶液を担体に含浸させることで、担体に担持されたものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、繊維より構成されたシート状の担体に、1−フェニル−1,3−ブタジオンと、酢酸アンモニウム,サリチル酸アンモニウム,およびコハク酸アンモニウムの中より選択されたアンモニウム塩と、酢酸およびクエン酸の中の選択された酸とを含む検知剤を担持させて検知シートとしたので、空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0016】
[実施の形態1]
始めに、本発明の実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートについて、検知シートの作製方法とともに説明する。まず、ホルムアルデヒド検知シートの作製方法について説明すると、図1Aに示すように、酢酸アンモニウム7.5gと酢酸0.15mlと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を50gとした検知剤溶液101を、容器102の中に作製する。
【0017】
次に、図1Bに示すように、シート状担体103を検知剤溶液101に浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体103に検知剤溶液101を含浸させる。シート状担体103は、セルロースなどの繊維より構成されたシートであり、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。シート状担体103は、例えば白色であればよい。
【0018】
次に、シート状担体103に検知剤溶液101を含浸させた後、検知剤(検知剤溶液)が含浸したシート状担体103を風乾し、図1Cに示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知シート(ホルムアルデヒド検知シート)103aを作製する。従って、検知シート103aには、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,酢酸アンモニウム,および酢酸を含む検知剤が導入され、検知シート103aの微細な網の目による複数の孔内に、上記検知剤が担持されているものとなる。
【0019】
なお、上述した担持とは、検知剤に含まれる各成分物質が、化学的,物理的,または電気的に担体(基材)と結合または吸着している状態を示す。セルロースなどの繊維より構成されたシートは、繊維の表面が親水性を備えており、水や水溶液および水溶性の物質は吸着しやすい状態となっている。従って、水溶液である検知剤溶液および水溶性を備える成分物質は、シートを構成している繊維の表面に付着(吸着)する。このように、繊維より構成されたシートに、検知剤の成分物質が被覆しおよび/または含浸されているような状態を、担持したものとしている。
【0020】
このように構成された検知シート103aによれば、検知シート103aにホルムアルデヒドが触れると、検知シート103に担持されている酢酸アンモニウムより生成されるアンモニウムイオンと1−フェニル−1,3−ブタンジオンとが反応し、可視光域に光吸収特性を備える反応生成物が生成される。この結果、以下に示すように、検知シート103aの反射率が、ホルムアルデヒドを測定した後に変化するものと考えられる。
【0021】
次に、検知シート103aを用いたホルムアルデヒドの検出方法について説明すると、まず、検知シート103aの反射率(表面の反射率)を測定する。例えば、図1Dに示すように、光強度I0の入射光を反射させた反射光の強度Iを測定し、これらより反射率(=I0/I)を求める。
【0022】
次に、図1Eに示すように、ホルムアルデヒドが存在する測定対象の空気104中に、検知シート103aを暴露する。この後、測定(暴露)後の検知シート103bを測定対象の空気104中より取り出し、図1Fに示すように、測定後の検知シート103bの反射率を再び測定する。
【0023】
上述した2回の反射率の測定結果を図2に示す。図2では、測定対象の空気に暴露する(晒す)前の反射率の測定結果を実線で示し、暴露した後の反射率の測定結果を点線で示す。図2の実線に示すように、ホルムアルデヒドに触れた測定後の検知シート103bは、紫外域から波長500nm程度に吸収が見られる反射特性を備えるようになる。従って、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートにおける光反射の変化の測定により、ホルムアルデヒドの測定および定量などの測定が可能となる。例えば、紫色の発光ダイオード(中心波長420nm)からの光の反射率を測定することで上記光反射の変化が検出可能である。
【0024】
次に、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シート(検知シート103a)を用い、15ppbから120ppbの濃度範囲でホルムアルデヒドを含む空気の測定を行った結果について説明する。測定対象となる空気中に、検知シート103aを5時間配置して暴露し、暴露前の反射率と暴露後との反射率を測定する。この測定の結果によると、暴露前の反射率と暴露後の反射率との対数の変化量と、測定対象の空気中に含まれているホルムアルデヒドの濃度との関係は、図3に示すように、ほぼ比例するものとなる。このように、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートによれば、上述したような反射率の測定を用いることで、感度よく15〜120ppbの濃度のホルムアルデヒドを検出できることがわかる。
【0025】
次に、検知シート103aを用い、90ppbのホルムアルデヒドが含まれている空気中で、暴露時間を変化させて反射率を測定した結果について説明する。図4に示すように、暴露時間が長くなるほど、測定前後の反射率差が大きくなっており、検知シート103aは、蓄積的にホルムアルデヒドの濃度を測定していることがわかる。従って、検知シート103aによれば、例えば、低濃度のホルムアルデヒドであっても、より長い時間暴露することにより、検出(測定)することが可能である。
【0026】
ところで、検知シート103aに用いた濾紙は、光が透過する程度に薄いため、透過光のスペクトル測定が可能である。ホルムアルデヒドが含まれている空気に晒す前後の、検知シート103aの透過スペクトルを測定すると、図5に示すようになる。図5において、実線が晒す前の透過スペクトルであり、点線が晒した後の透過スペクトルである。図5に示すように、ホルムアルデヒドに触れることにより、検知シート103aの透過スペクトルが変化する。従って、検知シート103aによれば、透過スペクトルを測定することによっても、ホルムアルデヒドの測定を行うことが可能である。
【0027】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知シートは、検知剤として1−フェニル−1,3−ブタンジオン,酢酸アンモニウム,およびクエン酸を含むものから構成したものである。前述した実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートでは、酢酸を用いているが、本実施の形態2では、酢酸の代わりにクエン酸を用いているところが異なっている。
【0028】
例えば、酢酸アンモニウム7.5gとクエン酸1水和物0.55gと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を50gとした検知剤溶液を作製する。次に、作製した検知剤溶液にシート状担体を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体に検知剤溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した実施の形態1と同様であり、セルロースなどの繊維より構成されたシートであり、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0029】
次に、シート状担体に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤(検知剤溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、ホルムアルデヒド検知シートとする。このようにして作製したホルムアルデヒド検知シートには、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,酢酸アンモニウム,およびクエン酸を含む検知剤が導入され、ホルムアルデヒド検知シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記検知剤が担持されているものとなる。
【0030】
本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知シートにおいて、ホルムアルデヒドが含まれている空気に暴露する前後の反射率の測定を行うと、図6に示すように、暴露した後(点線)は、暴露する前(実線)に比較して、紫外域から波長500nm程度に吸収が見られる反射特性を備えるようになる。従って、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートにおいても、光反射の変化の測定により、ホルムアルデヒドの測定および定量などの測定が可能となる。例えば、紫色の発光ダイオード(中心波長420nm)からの光の透過率を測定することで上記光反射の変化が検出可能である。
【0031】
また、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートを90ppbのホルムアルデヒドを含む空気中に5時間暴露し、暴露前後の反射率を測定すると、反射率対数の変化量として0.029という値が得られる。この結果より、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートによれば、環境指針値の濃度のホルムアルデヒドが検出できることがわかる。なお、上述した反射率対数の変化量は、酢酸を用いた実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートに比較すると、20%である。
【0032】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態3におけるホルムアルデヒド検知シートは、検知剤として1−フェニル−1,3−ブタンジオン,サリチル酸アンモニウム,およびクエン酸を含むものから構成したものである。前述した実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知シートでは、酢酸アンモニウムを用いているが、本実施の形態3では、酢酸アンモニウムの代わりにサリチル酸アンモニウムを用いているところが異なっている。
【0033】
例えば、サリチル酸アンモニウム8.0gとクエン酸1水和物0.55gと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を50gとした検知剤溶液を作製する。次に、作製した検知剤溶液にシート状担体を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体に検知剤溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した実施の形態1と同様であり、セルロースなどの繊維より構成されたシートであり、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0034】
次に、シート状担体に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤(検知剤溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、ホルムアルデヒド検知シートとする。このようにして作製したホルムアルデヒド検知シートには、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,サリチル酸アンモニウム,およびクエン酸を含む検知剤が導入され、ホルムアルデヒド検知シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記検知剤が担持されているものとなる。
【0035】
本実施の形態3におけるホルムアルデヒド検知シートにおいて、ホルムアルデヒドが含まれている空気に暴露する前後の反射率の測定を行うと、実施の形態2の場合と同様に、暴露した後(点線)は、暴露する前(実線)に比較して、紫外域から波長500nm程度に吸収が見られる反射特性を備えるようになる。従って、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートにおいても、光反射の変化の測定により、ホルムアルデヒドの測定および定量などの測定が可能となる。例えば、紫色の発光ダイオード(中心波長420nm)からの光の透過率を測定することで上記光反射の変化が検出可能である。
【0036】
また、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シート90ppbのホルムアルデヒドを含む空気中に5時間暴露し、暴露前後の反射率を測定すると、反射率対数の変化量として0.23という値が得られる。この結果より、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートによれば、環境指針値の濃度のホルムアルデヒドが検出できることがわかる。なお、上述した反射率対数の変化量は、酢酸を用いた実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートに比較すると、140%である。
【0037】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態4におけるホルムアルデヒド検知シートは、検知剤として1−フェニル−1,3−ブタンジオン,コハク酸アンモニウム,およびクエン酸を含むものから構成したものである。前述した実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知シートでは、酢酸アンモニウムを用いているが、本実施の形態4では、酢酸アンモニウムの代わりにコハク酸アンモニウムを用いているところが異なっている。
【0038】
例えば、コハク酸アンモニウム8.0gとクエン酸1水和物0.55gと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を65gとした検知剤溶液を作製する。次に、作製した検知剤溶液にシート状担体を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体に検知剤溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した実施の形態1と同様であり、セルロースなどの繊維より構成されたシートであり、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0039】
次に、シート状担体に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤(検知剤溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、ホルムアルデヒド検知シートとする。このようにして作製したホルムアルデヒド検知シートには、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,コハク酸アンモニウム,およびクエン酸を含む検知剤が導入され、ホルムアルデヒド検知シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記検知剤が担持されているものとなる。
【0040】
本実施の形態4におけるホルムアルデヒド検知シートにおいて、ホルムアルデヒドが含まれている空気に暴露する前後の反射率の測定を行うと、実施の形態2の場合と同様に、暴露した後(点線)は、暴露する前(実線)に比較して、紫外域から波長500nm程度に吸収が見られる反射特性を備えるようになる。従って、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートにおいても、光反射の変化の測定により、ホルムアルデヒドの測定および定量などの測定が可能となる。例えば、紫色の発光ダイオード(中心波長420nm)からの光の透過率を測定することで上記光反射の変化が検出可能である。
【0041】
また、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シート90ppbのホルムアルデヒドを含む空気中に5時間暴露し、暴露前後の反射率を測定すると、反射率対数の変化量として0.056という値が得られる。この結果より、本実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートによれば、環境指針値の濃度のホルムアルデヒドが検出できることがわかる。なお、上述した反射率対数の変化量は、酢酸を用いた実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートに比較すると、35%である。
【0042】
次に、上述した各実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートに対する比較例について説明する。
【0043】
[比較例1]
始めに、比較例1について説明する。酢酸アンモニウム7.5gと酢酸0.15mlとアセチルアセトン0.1mlとの試料成分に、水を加えて全量を50gとした試料溶液を作製する。次に、作製した試料溶液にシート状担体を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体に試料溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した各実施の形態と同様であり、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0044】
次に、シート状担体に試料溶液を含浸させた後、試料成分(試料溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、試料シートとする。このようにして作製した試料シートには、アセチルアセトン,酢酸アンモニウム,および酢酸を含む試料成分が導入され、試料シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記試料成分が担持されているものとなる。この比較例1では、実施の形態1における1−フェニル−1,3−ブタンジオンの代わりにアセチルアセトンを用いている。これらはいずれも、β−ジケトンである。
【0045】
この試料シートを、ホルムアルデヒドを含む空気中に晒すと、420nmに吸収をもつ反射特性を示す。しかしながら、晒す前後の反射率の対数の変化量は、作製直後の試料シートでは0.04となるが、作製してから1ヶ月後の試料シートでは、何ら変化が見られない。なお、上述の反射率の変化のテストでは、ホルムアルデヒドの濃度が120ppbの空気に5時間暴露している。また、作製直後の上述した0.04という値は、1−フェニル−1,3−ブタンジオンを用いた実施の形態1のホルムアルデヒド検知シートの場合の25%である。
【0046】
上述したように、比較例1の試料シートでは、1ヶ月経過するとホルムアルデヒドが検出できないものとなる。これは、作製により試料シートに担持されたアセチルアセトンが、徐々に気化して行くためと考えられる。このように、1−フェニル−1,3−ブタンジオンの代わりにアセチルアセトンを用いると、安定して測定が行えるホルムアルデヒド検知シートが得られない。
【0047】
[比較例2]
次に、比較例2について説明する。酢酸アンモニウム7.5gと酢酸0.15mlと3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン0.108gとの試料成分に、水5mlおよびエタノールを加えて全量を50gとした試料溶液を作製する。次に、作製した試料溶液にシート状担体を浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体に試料溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した各実施の形態と同様であり、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0048】
次に、シート状担体に試料溶液を含浸させた後、試料成分(試料溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、試料シートとする。このようにして作製した試料シートには、3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン,酢酸アンモニウム,および酢酸を含む試料成分が導入され、試料シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記試料成分が担持されているものとなる。この比較例2では、実施の形態1における1−フェニル−1,3−ブタンジオンの代わりに3−ジフェニル−1,3−プロパンジオンを用いている。これらはいずれも、β−ジケトンである。
【0049】
この試料シートを、120ppbのホルムアルデヒドを含む空気中に晒しても(5時間)、反射スペクトルの変化は起こらない。このように、1−フェニル−1,3−ブタンジオンの代わりに3−ジフェニル−1,3−プロパンジオンを用いると、ホルムアルデヒドを検知できる検知シートが得られない。
【0050】
[比較例3]
次に、比較例3について説明する。クエン酸三アンモニウム7.5gとクエン酸1水和物0.55gと1−フェニル−1,3−ブタンジオン0.156gに、エタノール35mlと水を加えて全量を50gとした試料溶液を作製する。次に、作製した試料溶液にシート状担体を浸漬し、例えば3分間浸漬してシート状担体に試料溶液を含浸させる。シート状担体は、前述した各実施の形態と同様であり、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。
【0051】
次に、シート状担体に試料溶液を含浸させた後、試料成分(試料溶液)が含浸したシート状担体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、試料シートとする。このようにして作製した試料シートには、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,クエン酸三アンモニウム,およびクエン酸を含む試料成分が導入され、試料シートの微細な網の目による複数の孔内に、上記試料成分が担持されているものとなる。この比較例3では、実施の形態2における酢酸アンモニウムの代わりにクエン酸三アンモニウムを用いている。
【0052】
この試料シートを、120ppbのホルムアルデヒドを含む空気中に晒すと(5時間)、まだらな状態に黄色の着色が見られる。このような状態では、反射スペクトルを測定する箇所によって、測定される反射スペクトルの結果が異なることになり、正確な測定が不可能である。本比較例3では、クエン酸三アンモニウムを用いているため、上記濾紙などのセルロースを主成分とする繊維より構成されたシート状担体に対しては、各成分を均一に分散させることができないためと考えられる。
【0053】
なお、上述では、濾紙を用いるようにしたが、これに限るものではない。通常の紙などの、セルロースの繊維より構成されたシート状のものであれば、シート状担体として利用可能である。また、セルロースに限らず、ナイロンやポリエステルなどの他の繊維より構成されたシート状のもの(不織布など)であっても、シート状担体として利用可能である。特に、繊維の表面に極性基を備えて親水性であるとよい。また、シート状担体は、白色であることが好適であるが、これに限るものではない。反射光の変化が検出確認可能であれば、他の色の状態であってもよい。
【0054】
以上に説明したように、発明においては、濾紙などのセルロースを主成分とする繊維より構成されたシート状担体を用い、このシート状担体に、1−フェニル−1,3−ブタジオンと、酢酸アンモニウム,サリチル酸アンモニウム,およびコハク酸アンモニウムの中より選択されたアンモニウム塩と、酢酸およびクエン酸の中の選択された酸とを担持させてホルムアルデヒド検知シートとしたところに特徴がある。このホルムアルデヒド検知シートによれば、空気中に含まれる微量なホルムアルデヒドを、特殊な基板などを用いることなく、簡便に高感度で測定することができる。また、本発明のホルムアルデヒド検知シートによれば、蓄積的にホルムアルデヒドを測定することができるので、例えば、測定時間を長くすることで、ppb以下の極微量なホルムアルデヒドも検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートの作製方法について説明するための説明図である。
【図1B】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートの作製方法について説明するための説明図である。
【図1C】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートの作製方法について説明するための説明図である。
【図1D】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートを用いた測定方法について説明するための説明図である。
【図1E】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートを用いた測定方法について説明するための説明図である。
【図1F】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知シートを用いた測定方法について説明するための説明図である。
【図2】実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートを用いた測定における、ホルムアルデヒドを測定対象とした前後2回の反射率の測定結果を示す特性図である。
【図3】実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートを用い、15ppbから120ppbの濃度範囲でホルムアルデヒドを含む空気の測定を行った結果を示す特性図である。
【図4】実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートを用い、90ppbのホルムアルデヒドが含まれている空気中で、暴露時間を変化させて反射率を測定した結果を示す特性図である。
【図5】ホルムアルデヒドが含まれている空気に晒す前後の、実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知シートの透過スペクトルを測定した結果を示す特性図である。
【図6】実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知シートを用いた測定における、ホルムアルデヒドを測定対象とした前後2回の反射率の測定結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0056】
101…検知剤溶液、102…容器、103…シート状担体、103a…検知シート(ホルムアルデヒド検知シート)、103b…測定後の検知シート、104…測定対象の空気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維より構成されたシート状の担体と、
この担体に担持された検知剤と
を少なくとも備え、
前記検知剤は、1−フェニル−1,3−ブタジオンと、酢酸アンモニウム,サリチル酸アンモニウム,およびコハク酸アンモニウムの中より選択されたアンモニウム塩と、酢酸およびクエン酸の中の選択された酸とを含むものである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知シート。
【請求項2】
請求項1記載のホルムアルデヒド検知シートにおいて、
前記シート状の担体は、セルロースを主成分とする繊維より構成されたものである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知シート。
【請求項3】
請求項1または2記載のホルムアルデヒド検知シートにおいて、
前記検知剤は、前記検知剤が溶解した溶液を前記担体に含浸させることで、前記担体に担持されたものである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知シート。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71787(P2010−71787A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239209(P2008−239209)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】