説明

ホログラフィ干渉計測装置

【課題】実時間ホログラフィ干渉を用いて、観測対象物の微小な変位・変形を即時観測する計測装置に関し、特に、取り扱いが安全であり、装置稼働率の高いホログラフィ計測装置に関する。
【解決手段】本発明のホログラフィ干渉計測装置は、レーザ光源と、レーザ光源から出射されるレーザ光を2つに分けるビームスプリッタ光学系と、ビームスプリッタ光学系を含み、分けられた2つのレーザ光をそれぞれ参照光及び物体光として干渉させる干渉光学系と、干渉光学系により生じた干渉縞をホログラム記録媒体上に記録するホログラム作成器と、干渉光学系に設けられる観測対象物を保持すると共に、観測対象物を変位・変形させる機構を有する試料台と、を具備し、ホログラム作成器は、透明電極を備えた2枚の透明な支持体間に、透明な光導電体と液晶が挟まれたホログラム記録媒体を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測対象物の微小な変位・変形の即時観測が可能な、実時間ホログラフィ干渉を用いた計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光の可干渉性を利用した干渉計測装置は、観測対象物にレーザ光を照射し、その観測対象物によって反射又は観測対象物を透過したレーザ光と、比較対象となる基準面から反射したレーザ光を干渉させ、これら2つのレーザ光の光路のサブミクロンからミクロンオーダーの微小な差を測定することができるので、観測対象物の微小な変位・変形を計測するために使用されている。
【0003】
ホログラフィ干渉計測装置はそのひとつであり、従来の干渉計測装置では観測対象にすることが出来なかった拡散面を持った観測対象物、例えば平面を有するものや、レンズ等の計測に適用でき、種々の応用例が知られている。干渉計測方法には、2重露光法と実時間法とが知られており、中でも、実時間法は、2重露光法に比して多くの変位・変形の情報を実時間で観測することができるため、観測対象物の亀裂検出、接合不良検出、振動観測に適している。その概略は、1回目のレーザ光の照射で観測対象物からの物体光(観測対象物からの反射光あるいは透過光)と参照光とを干渉させてその干渉縞をホログラム記録媒体に記録し、その後、その観測対象物に微小な変位や変形を与えた後に2回目の照射を行う。そして、その2回目の照射で得られる観測対象物像と、1回目の照射でホログラム記録媒体に記録された干渉縞から再生された観測対象物像を、干渉させ観測するものであり、非接触且つ非破壊で観測することができる。
【0004】
通常、ホログラム記録媒体としては、ハロゲン化銀感光材料や、フォトレジストや、サーモプラスチック等が用いられており、中でもハロゲン化銀感光材料が最も感度が高く性能が安定しているためよく使われている。しかしながら、この材料は暗室での現像作業が必要である等取り扱いが難しく、取り付けるのに手間がかかる。そのため、取り扱いの容易なホログラム記録媒体として、ロジンの誘導体を用いたプラスチック層を用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−127852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているホログラム記録媒体は、それ自体の取り扱いは容易であるものの、ホログラム記録時に火災が発生する危険性があり、安全性に問題がある。すなわち、ホログラム記録媒体として用いられるロジンの誘導体を用いたプラスチック層が、溶剤蒸気を作用させることによりフロスト変形することで凹凸を形成してホログラム記録させるものであるため、例えばヘキサン等の可燃性の蒸気が必須である。そして、このような可燃性の蒸気と同時に数kVの高電圧電源を用いてホログラム記録するため、火災や感電の危険が常に伴う。更に、プラスチック層の表面に、フロスト変形による軟化−硬化を利用して物理的に凹凸を形成及び消去しているため、これらを繰り返し行うことによってプラスチック層自体が劣化し易く、可逆性・反復性が劣化することは避けられない。そのため凹凸の形成及び消去ができる回数は10回程度とそれほど多くなく、ホログラム記録媒体としての寿命が短いため、装置稼働率を上げにくいという問題がある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明の一実施形態のホログラフィ干渉計測装置は、レーザ光源と、レーザ光源から出射されるレーザ光を2つに分けるビームスプリッタ光学系と、ビームスプリッタ光学系を含み分けられた2つのレーザ光をそれぞれ参照光及び物体光として干渉させる干渉光学系と、干渉光学系により生じた干渉縞をホログラム記録媒体上に記録するホログラム作成器と、干渉光学系に設けられる観測対象物を保持すると共に、観測対象物を変位・変形させる機構を有する試料台と、を具備し、ホログラム作成器は、透明電極を備えた2枚の透明支持体間に透明な光導電体と液晶が挟まれたホログラム記録媒体を有することを特徴とする。これにより、火災等の危険がなく、また、可逆性・反復性の優れたホログラフィ干渉計測装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るホログラフィ干渉計測装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、ホログラム記録媒体の構成を示す部分的な断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係るホログラフィ干渉計測装置の別の構成を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係るホログラフィ干渉計測装置の別の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのホログラフィ干渉計測装置を例示するものであって、以下に限定するものではない。
また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に、実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。尚、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0010】
本発明の一実施形態において、ホログラフィ干渉計測装置は、レーザ光源、光学系、ホログラム作成器、試料台を構成要素とするものであり、更に、付属する部品として撮像装置や制御装置等を備えるものである。
【0011】
更に詳細には、光学系は、レーザ光源から出射されるレーザ光を2つに分けるビームスプリッタ光学系と、ビームスプリッタ光学系を含むと共に分けられた2つのレーザ光をそれぞれ参照光及び物体光として干渉させる干渉光学系とを具備し、ホログラム作成器は、この干渉光学系により生じた干渉縞を記録させるホログラム記録媒体を具備している。試料台は、干渉光学系に設けられる観測対象物を保持し、その観測対象物を変位・変形させる機構を具備している。そして、本実施の形態においては、ホログラム作成器が、透明電極を備えた2枚の透明支持体間に透明な光導電体と液晶が挟まれたホログラム記録媒体を有していることを特徴とする。
【0012】
本発明の実施の形態は、このような構成により、ホログラムの記録を熱反応や溶媒との反応によるものではなく、光と電荷、すなわち、光導電体に生じた電荷の濃淡の、液晶の配向分布への転写によるものとすることができるため、ホログラム記録時の火災や感電の危険性を低減して、安全に行うことができる。また、液晶は、その分子配向を電圧によって変化させるだけなので、プラスチックのように情報の記録と消去とを繰り返してもそれ自体が劣化しにくく、寿命が長い。そのため、大量生産品の検査時等に、記録媒体の交換の手間を省くことができるため、単位時間当たりの検査数を増やし、装置稼働率を上げることができる。
【0013】
<実施の形態1>
透過型のホログラム記録媒体を用いた実施の形態のホログラフィ干渉計測装置の構成を図1に示す。本実施の形態は、例えば半導体ウエハのような不透明な観測対象物の計測に適している。
【0014】
本実施の形態において、ホログラフィ干渉計測装置は、レーザ光源100、光学系、ホログラム作成器300、試料台500、撮像装置400、制御装置(図示せず)を有している。レーザ光源100は、半導体レーザ110と1/2波長板120を有している。光学系のうち、ビームスプリッタ光学系は、ビーム拡大光学系210と、レーザ光源100から出射されるレーザ光を2つのレーザ光に分けるビームスプリッタ221とを有する。干渉光学系は、ビームスプリッタ光学系と、分けられた2つのレーザ光をそれぞれ参照光1100及び物体光1200として干渉させるようにミラー231及びビーム拡大・縮小光学系211とを有する。ホログラム作成器300は、レーザ光源100からのレーザ光の照射を制御する光シャッター330と、ホログラム記録媒体310に電圧を印加する電圧印加電源装置320と、干渉光学系により生じた干渉縞を記録するホログラム記録媒体310とを有する。試料台500は、真空吸着ステージ510と、三方弁520とを有する。撮像装置400は、CCDカメラ410と、レンズ420、421とを有する。制御装置(図示せず)は、試料台500、光シャッター330、電圧印加電源装置320を制御する装置である。
以下、各構成部材について、詳説する。
【0015】
1.レーザ光源
本実施の形態においてレーザ光源100は、観測対象物1000にレーザ光を照射して得られる物体光1200と、参照光(再生光)1100とを得るための光源である。実時間ホログラフィ干渉観測には、コヒーレントなレーザ光が出射可能で、且つ、連続発振可能なレーザ光源が好ましい。具体的には、半導体レーザ110を用いるのが好ましく、これにより、装置を小型化とすることができる。更に、輸送時等の振動衝撃に対して耐性が優れているため、保守等の取り扱いが容易となる。そして、このような半導体レーザ110と後述の液晶16を有するホログラム記録媒体310とを組み合わせることで、装置の組み立て時、及び駆動時の取り扱いが簡便で、更には自動化も容易となり、実時間ホログラフィ干渉計測装置の装置稼働率向上に寄与することができる。
【0016】
半導体レーザ110としては、積層された半導体層の端面を出射面(発光面)とするファブリペロー型レーザ、積層された半導体層の上面を発光面とする面発光レーザや、分布帰還型レーザ、分布反射型レーザ等を用いることができる。
【0017】
また、外部共振器を用いた外部共振器型半導体レーザを用いてもよく、これにより、発振波長がより制御されたレーザ光を出射することができる。特に、ホログラム記録媒体が、温度変化等によって微小な収縮や膨張を生じる場合には、外部共振器型半導体レーザのような波長可変な光源が好ましい。
【0018】
レーザ光源100の発振波長は、目的や用途に応じて任意に選択することができる。ホログラフィ干渉計測装置を、通常環境下で使用する場合、すなわち、空気中で使用する場合は、比較的入手が容易な光学部品が使用可能な300nm〜1100nmの範囲のものを用いることが好ましい。干渉計測において用いられる干渉縞は、照射されるレーザ光の2分の1波長を単位とする等高線を表すものであり、発振波長が短い程、より微小な変位や変形を観測することができる。そのため、半導体レーザの中でも比較的波長の短いものが好ましく、特に、400nm〜475nmの紫外〜青色領域の発振波長を有する半導体レーザが好ましい。その中でも、400〜410nm、更に好ましくは405nm付近に発振波長を有する半導体レーザが、他の発振波長領域のものに比して安価であり好ましい。このような半導体レーザとしては、例えば、II−VI族化合物半導体(ZnSe等)や窒化物半導体(InAlGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)、GaPを用いたものを適用させることができ、特に窒化物半導体が好ましい。また、外部共振器型半導体レーザのような波長可変光源を用いると、ある任意の1つの波長での計測が終了した後、それとは異なる波長で再度計測することができるため、干渉縞の縞と縞の中間の値を定量的に測定することが可能である。
【0019】
レーザ光源100は、半導体レーザ110に加えて、コリメータレンズ等の光学系と組み合せて用いることができ、更には、ペルチェ素子等温度制御可能な素子と共に用いることで、ホログラムの記録時と再生時との発振波長の再現性を向上させることができる。
【0020】
また、半導体レーザ110から出射されるレーザ光の偏光を制御可能な部品、特に、レーザ光の偏光面を回転させる回転機構を備えることもでき、例えば、図1では、レーザ光源100は、半導体レーザ110のレーザ光が照射される位置に1/2波長板120を備えている。そして、この1/2波長板120を、半導体レーザ110からのレーザ光の光軸を中心として回転可能なように、すなわち、レーザ光の偏光面に対して角度が変えられるように取り付ける。これにより、ビームスプリッタ光学系(特に、偏光ビームスプリッタ221)で2つに分けられたレーザ光(P偏光とS偏光)の出力の比率を変化させることができ、その比率を調整することで、干渉光学系で得られる物体光1200と参照光(再生光)1100との強度比を調整することができる。このように、分けられた2つのレーザ光の強度比を調整可能な部品を有することで、ホログラム記録媒体310に記録される干渉縞を観測しやすく調整することができるため、計測をより精度良く行うことができる。しかも、P偏光とS偏光の出力の比率を調整するのみなので、フィルター等を用いて一方の光を吸収させて強度比を設ける場合に比して、半導体レーザ110からのレーザ光の出力を有効に利用することができるため、装置の消費電力が増えるのを抑制できる。更に、半導体レーザ110の注入電流を変化させる必要がないため、レーザ光の波長の変化を抑制でき、精度の高い観測が可能となる。
【0021】
1/2波長板120としては、紫色ダイオードレーザー用水晶波長板(メレスグリオ株式会社製)や、光学硝子板の表面の一部に等方性材料をコーティングしたガラス位相板等を用いることができる。尚、1/2波長板120の回転角度は、レーザ光の光軸を中心に90°以下の範囲とすることが好ましい。
【0022】
また、このような機能を有する部品としては上記の1/2波長板の他、鉛ガラス(FG―62)、特殊ガラス(SFS1)、Euドープガラス、Ceドープガラス等のファラデー回転子等を用いてもよい。これらは磁場(磁界)を加えることでレーザ光の偏光面を回転させることができるものであり、上記と同様に90°以下の範囲で回転させることが好ましい。或いは、偏波保持シングルモードファイバを用いてもよく、そのファイバの出口光軸をレーザ光の光軸を中心に90°以下の範囲で回転させるのが好ましい。また、このような部品を用いず、半導体レーザ110を、その光軸を中心として回転可能なようにしてもよい。
【0023】
2.光学系
本実施の形態において、光学系としては、ビーム拡大光学系、ビームスプリッタ光学系、干渉光学系とを有する。尚、各光学系は、以下の機能を有する光学部材に加え、それらを補助する各種リレー光学系を含むことができる。
【0024】
2−1.ビーム拡大光学系
ビーム拡大光学系210は、レーザ光源100からのレーザ光を、後述のビームスプリッタ光学系に入射させる際に、適切な大きさとなるように拡大するためのものであり、本実施の形態においては、図1に示すように小径で焦点距離の短い平凸レンズ210aと、210aと開口数NAが等しく焦点距離の長い平凸レンズ210bとの、2種のレンズを用いている。レーザ光の光路において、レンズ210a及びビームスプリッタ光学系に入射させる直前に設けられるレンズ210bは、反射防止コートを施したものが好ましい。これにより、レーザ光源100への戻り光を抑制することができ、戻り光によるノイズの発生を防ぐことができる。このようなレンズとしては、精密UVグレード平凹合成フューズドシリカレンズ等を用いることができる。
【0025】
2−2.ビームスプリッタ光学系
ビームスプリッタ光学系は、レーザ光源100からのレーザ光を物体光1200と参照光(再生光)1100との2つに分けるものであり、レーザ光源100から出射されるレーザ光から、一定方向の偏光だけを特定の方向に取り出す偏光素子を有している。このような偏光素子としては、ダイオードレーザー用偏光キューブビームスプリッター(メレスグリオ株式会社製)等の偏光ビームスプリッタや、ウォラストンプリズム、サバール板が挙げられる。偏光ビームスプリッタを用いた場合、偏光ビームスプリッタ221に入射したレーザ光源100からのレーザ光は、偏光ビームスプリッタ221を直進し透過したP偏光とP偏光と垂直な方向に反射したS偏光とに分けられ、観測対象物1000の変位・変形前においては、P偏光は参照光1100になり、S偏光は観測対象物1000に照射され反射されることで得られる物体光1200となる。また、観測対象物1000の変位・変形後においては、P偏光は再生光1100となり、S偏光は物体光1200となる。
【0026】
2−3.干渉光学系
干渉光学系は、上述のビームスプリッタ光学系を含む光学系であり、2つに分けられたレーザ光をそれぞれ参照光1100と物体光1200としてホログラム記録媒体310上に照射し、干渉させるものである。図1に示すように、偏光ビームスプリッタ221を透過したP偏光のレーザ光は、参照光1100としてホログラム記録媒体310に照射されるよう、ミラー231で反射される。このとき、ミラー231は、ホログラム記録媒体310の略中央にその光軸が位置するように角度を調整して載置する。ミラー231としては、MAXBRIteTM/009(メレスグリオ株式会社製)等の反射率の高い光学部材が好ましい。尚、図1ではミラーを1枚用いているが、更に他のリレー光学系を用いてもよい。
【0027】
ビームスプリッタ光学系の偏光ビームスプリッタ221によって分けられたレーザ光のうち、観測対象物1000に向けて照射されるよう光軸がP偏光と垂直な方向に反射したS偏光のレーザ光は、図1に示すように1/4波長板232を透過し、観測対象物1000に照射される。そして、観測対象物1000によって反射されたレーザ光は、再度1/4波長板232を透過してP偏光となり、偏光ビームスプリッタ221を透過して直進し、物体光1200としてホログラム記録媒体310に照射される。このとき、参照光(再生光)1100と同じく、ホログラム記録媒体310の略中央にその光軸が位置するように物体光1200を照射する。
【0028】
尚、観測対象物1000に照射されるレーザ光は、一方向への光を拡大或いは縮小するレンズ211a、211bを有するビーム拡大・縮小光学系211によってレーザ光の大きさが調整されている。ここでは、観測対象物1000の大きさ等に応じて適切なレンズを用いることができ、例えば、精密UVグレード平凸合成フューズドシリカレンズ等を用いることができる。
【0029】
3.ホログラム作成器
ホログラム作成器300は、レーザ光の照射を制御する光シャッター330と、液晶16を有し干渉光学系によって生じた干渉縞を記録するホログラム記録媒体310と、ホログラム記録媒体310に電圧を印加する電圧印加電源装置320とを有する。本実施の形態においては、実時間ホログラフィ干渉計測装置として利用可能な透過型のホログラム記録を用いる場合について説明する。
【0030】
3−1.光シャッター
光シャッター330は、レーザ光源100からのレーザ光のホログラム記録媒体310への照射を制御する、すなわち、レーザ光の通過及び遮断を切り替え可能な部品であり、例えば、黒色艶消し処理されたバネ鋼のブレードのような部材を開閉することによって、通過と遮断とを切り替える。レーザ光源の電源のon/offによりホログラム記録媒体への照射を制御すると出力や波長が不安定となるが、光シャッターを用いることで安定な出力や波長を得ることができる。図1では、レーザ光源100とビーム拡大光学系210との間に位置するように配置されているが、この位置に限られるものではなく、ビームスプリッタ光学系の偏光素子とレーザ光源100の半導体レーザ110との間の光路内であれば、任意の位置に設けることができる。光シャッター330は、観測対象物1000の変位前に閉じ、観測対象物1000の変位後に再び開けられる。
【0031】
3−2.ホログラム記録媒体
本実施の形態において、ホログラム記録媒体310は、透明電極12、18を有する2枚の支持体10、20と、その間に挟まれた光導電体層14と液晶16とを有するものであり、物体光1200と参照光1100との干渉によって形成される光の強度分布(干渉縞)に従って光導電体層14に電荷の濃淡を生じさせ、それを液晶16の配向分布に転写することで観測対象物1000の変位・変形を観測するものである。
【0032】
図2は、ホログラム記録媒体310の構造を模式的に示す断面図である。ホログラム記録媒体310は、透明で平坦な支持体10、20を有しており、その支持体10、20にはそれぞれが互いに対向する側の面に設けられる透明電極12、18が設けられている。一方の透明電極12の上に、透明な光導電体層14が設けられており、その上に、液晶16を挟む上下一対の配向膜22を有している。配向膜22は、液晶16の初期配向を均一に所望の配向にするために設けるものである。
【0033】
観測対象物1000に付与する変位・変形を短時間で行い、その干渉縞を観測する実時間法では、ホログラム記録媒体310に記録された情報は長期保存する必要はなく、変位・変形後の干渉縞の観測時間内において安定であればよい。更に、実時間法での計測を短時間で行うためには、電荷情報の濃淡の変化に対する応答速度が速い記録媒体が好ましく、このような部材として液晶が適している。そして、液晶を用いたホログラム記録媒体310を用いることで、情報の記録の際に熱を必要とせず、また、可燃性の溶剤蒸気を用いることがないため、安全で且つ簡易に行うことができる。
【0034】
ホログラム記録媒体310を構成する各部材の厚さや製法、屈折率等については、レーザ光源100の波長等に応じて、適宜選択する。本実施の形態では、透過型のホログラム記録媒体としているため、支持体10、20は、物体光1200及び参照光(再生光)1100を透過可能なものが好ましく、具体的にはガラス板、石英ガラス板等が好ましい。特に、厚さ1〜2mm程度の溶融石英ガラス板が好ましい。
【0035】
支持体10、20に設けられる透明電極12、18は、レーザ光源100からのレーザ光の透過率が高く、且つ、低抵抗なものが好ましく、具体的には酸化インジウム−酸化スズ(ITO)、酸化スズ−酸化アンチモン(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)、酸化ガリウム−酸化亜鉛(GaZnO)、二酸化スズ(SnO)、又は酸化亜鉛(ZnO)等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。二枚で一対として用いられる支持体10、20は、同じ透明電極材を用いてもよく、また、異なる透明電極材を用いても構わない。特に、ITOは、透過率が高く電気抵抗が低いため好ましい。また、透明電極12、18の膜厚は、20〜100nm程度が好ましい。
【0036】
透明な光導電体層14は、液晶16に配向分布を転写するためのものであり、透過率の高いものが用いられる。具体的には、水素化アモルファスシリコン(α−Si:H)、非晶質水素化シリコンカーバイド(α−SiC:H)、硫化カドミウム(CdS)、有機感光体(OPC、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体、ポリ−9−ビニルアントラセン、又はポリ−9−(P−ビニルフェニルアントラセン)等)、結晶Si、結晶GaAs、Bi12SiO20単結晶、カルコゲンガラス(アモルファスセレン、など)、六方晶系セレン、の薄膜等が挙げられる。膜厚としては3μm以下が好ましく、特に1μm以下が好ましい。さらに電気伝導度に異方性があり膜厚方向の電気伝導度が膜表面に平行な方向の電気伝導度より高いもの(c軸配向した六方晶系セレン、など)が電荷の濃淡をはっきりさせるために好ましい。
【0037】
配向膜22は、液晶16を配向させるためのものであり、具体的にはポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol)、ポリイミド(Polyimide)、ポリビニルシンナメート(Polyvinyl cinnamate)等が挙げられる。膜厚は、数nm〜数十nm程度が好ましく、約50nm程度が好ましい。特にポリイミド膜が好ましい。
【0038】
液晶16は、光導電体層14に生じた電荷の濃淡を転写することで、その配向分布を変化させるものであり、物体光1200と参照光1100との干渉によって生じる干渉縞を記録するものである。具体的な材料としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶、カイラルネマチック液晶、コレステリック液晶(リオトロピック液晶、サーモトロピック液晶)、強誘電性液晶(Ferroelectric Liquid Crystal)、又は反強誘電性液晶(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)等が挙げられる。これらの膜厚は、数十μm以下とするのが好ましく、更には10μm以下、より好ましくは0.1μm〜1μmである。
【0039】
3−3.電圧印加電源装置
電圧印加電源装置320は、ホログラム記録媒体310として用いられる液晶16を挟んだ透明な支持体10、20に設けられる透明電極12、18に、数V〜数百Vの電圧を印加するものであり、この電圧信号が、干渉縞に従って空間変調されて印加されることで液晶16の分子配向を変化させるものである。観測対象物1000を変位・変形させる前に、光シャッター330を閉じるのに合わせて印加する電圧をゼロとし、ホログラム記録媒体310への干渉縞の記録を完了させる。
【0040】
4.試料台
試料台500は、観測対象物1000を保持する保持機構と、微小な変位や変形を観測対象物1000に与えることが可能な機構を有しているものである。本実施の形態では、図1に示すように真空吸着ステージ510と、三方弁520とを備えている。三方弁520の開閉により真空吸着のON/OFFを制御することができる。
【0041】
観測対象物1000の保持機構としては、重力、大気圧、静電気、磁力等の自然の力を利用した機構、バネ、押さえ板、接着剤等の機械的な機構が挙げられる。更に、観測対象物1000が半導体ウエハ等の薄い板状の場合、その主面を水平に保持できるような試料台500を用いることで、観測対象物1000の交換が容易となるため、自動化搬入装置の導入が容易となり、時間当たりの計測数増が実現し易い。このような重力を用いて水平に保持できる保持機構としては、例えば、観測対象物1000の載置面が水平な台や、水平な高さに設けられるスリット等を挙げることができる。その台の一部に真空吸着用の穴を設けることによって保持可能な真空吸着ステージも挙げられる。
【0042】
微小な変位・変形を観測対象物1000に付与する機構としては、上記の真空吸着ステージ510のように、観測対象物1000の表面に部分的に異なる圧力を付与するものや、減圧箱515のように、観測対象物1000の略全表面に対して圧力(減圧)を付与するもの等、観測対象物1000の周囲の気圧を変化させることを利用した圧力的機構を用いることができる。
【0043】
真空吸着ステージ510は、例えば、板状の観測対象物1000の一面を吸着し、もう片方の面に作用している大気圧と差を生じさせることで観測対象物1000に微小な変位・変形を与えることができるため、板状の観測対象物1000の変形具合の観測に適している。また、減圧箱515は、板状の観測対象物1000の上面も含めた全面に対してかかる圧力を変化させることで微小な変位・変形を与えることができるため、内圧を有するものを観測するのに適しており、例えば、貼り合わせた観測対象物1000の接着不良箇所等の欠陥部分の膨張による変化を干渉縞の変化として観測することができる。
【0044】
更に、上記のような圧力的機構の他、観測対象物1000に光を照射させその内部の膨張率を変化させることを利用した光学的機構(各種照明等)、電気信号等を付与することで振動等を与えることを利用した電気的機構(圧電素子等)、昇温・降温によりその内部の膨張率を変化させることを利用した熱的機構等を用いることができる。これら各機構は、それぞれ単一で用いてもよく、あるいは、組み合わせて用いてもよく、観測対象物1000の状態に応じて、適宜選択することができる。
【0045】
5.撮像装置
撮像装置400は、観測対象物1000の微小な変位・変形前の観測対象物像と、変位・変形後の観測対象物像とが干渉した干渉像を観測し、記録するためのものである。図1では、CCDカメラ410、レンズ420、421、画像表示装置及び画像記録装置(図示せず)を有している。CCDカメラ410の代わりに、CMOSカメラや銀塩写真カメラ等を用いてもよく、レーザ光源100の波長を可視光領域の発振波長とする場合は、これらカメラを用いず、肉眼で観察することもできる。
【0046】
6.制御装置(図示せず)
制御装置(図示せず)は、試料台500、光シャッター330、電圧印加電源装置320等を制御するものである。具体的には、ホログラム記録媒体310の液晶16の配向をそろえて初期化する時間、レーザ光源100からの光をホログラム記録媒体310に照射する時間、試料台500に備えた微小変位・変形させる機構を作動させる時間が、所定のシーケンスで実現するように制御するものである。また、試料台500に自動観測対象物交換装置を組み合わせた場合は、それも含めたシーケンスを実現するように制御する。これら全ての機構を制御してもよく、或いは、その一部を手動で操作するようにしてもよい。
【0047】
<実施の形態2>
実施の形態2のホログラフィ干渉計測装置の構成を図3に示す。実施の形態2では、反射型のホログラム記録媒体311を用いており、例えば貼り合わせガラス等の透明な観測対象物1000の計測に適している。観測対象物1000が透明であるため、レーザ光が観測対象物1000を透過して物体光1200となる点が、実施の形態1とは異なる。更に、ビームスプリッタ光学系において、偏光ビームスプリッタ221を直進して透過したレーザ光のP偏光を物体光1200とし、光軸をP偏光と垂直な方向に反射したS偏光を参照光(再生光)1100として用いる点が異なる。また、試料台500として減圧箱515を用いている点が異なる。その他の構成については、実施の形態1と同様である。
【0048】
反射型のホログラム記録媒体311は、観測対象物1000を透過した物体光1200が照射される面と、参照光(再生光)1100が照射される面とが、それぞれ異なる面となるように配置される。参照光(再生光)1100を、ホログラム記録媒体311によって反射させるため、記録される干渉縞による反射の効率が高い部材を用いることが好ましい。例えば、図2に示すホログラム記録媒体311を構成する部材のうち、液晶16を実施の形態1と異なる部材とすることで反射型のホログラム記録媒体とすることができる。このような部材としては、カイラルネマチック液晶、コレステリッック液晶等が挙げられる。
【0049】
このような反射型ホログラム記録媒体311は、観測対象物1000により近づけてホログラム記録媒体を配置することができる。特に、表面でのレーザ光の散乱が多い観測対象物1000(例えば、光を透過するランプシェード等)の場合、その観測対象物1000とホログラム記録媒体311との距離を短く配置することで、レーザ光の利用効率を向上することができるため、記録時間を短くすることができ、更には、計測時間も短くすることができる。このような反射型ホログラム記録媒体311としては、用いるレーザ光の主波長の反射率が高い液晶を用いるのが好ましく、特に、紫外〜青色領域の発振波長を有するレーザ光源を用いる場合、コレステリック液晶が好ましい。
【0050】
また、ここで試料台500として用いる減圧箱515は、例えば2つ以上の部材を貼り合わせた観測対象物1000を大気圧下で減圧箱515内に載置し、その状態でまずホログラム記録媒体311に干渉縞を記録し、次いで、減圧箱515の内部を減圧することで微小に変位・変形させ、その状態で再生光を照射することでホログラムを再生し、物体光1200と干渉させる。これにより、貼り合わせた観測対象物1000の、その貼り合わせ部の接着不良箇所等の欠陥部分が膨張する等の微小な変位・変形を干渉縞の変化として実時間観測することができる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
図1に実施例1の実時間ホログラフィ干渉計測装置の構造を示す。実施例1では、クラック等の異常部を有する窒化物半導体ウエハを観測対象物1000として用い、そのクラックの状態を実時間で観測する例について説明する。窒化物半導体ウエハは、厚さ0.4mm、直径が2インチの板状である。
【0052】
半導体レーザ110として、窒化物半導体レーザを有する外部共振器型半導体レーザを用い、ここから出射された発振波長が約405nmのレーザ光は、1/2波長板120を透過し偏光方向が回転された後、開放された光シャッター330を通過する。その後、ビーム拡大光学系210のレンズ210a、210bを透過して、拡大されたレーザ光がビームスプリッタ光学系の偏光ビームスプリッタ221に入射する。ここで、レーザ光源100からのレーザ光の光軸と同じ方向に直進するP偏光と、そのP偏光の光軸と垂直な方向に反射されたS偏光の2つのレーザ光に分けられる。
【0053】
2つに分けられたレーザ光のうち、P偏光は、ミラー231によって反射され参照光1100として、液晶16を有する透過型ホログラム記録媒体310に照射される。また、S偏光は、ホログラム記録媒体310とは別の方向に設けられる試料台500に向けて照射される。S偏光は、1/4波長板232を透過して円又は楕円偏光に変換され、次にビーム拡大・縮小光学系211のレンズ211a、211bを透過して観測する観測対象物1000である窒化物半導体ウエハに照射される。ここでは、レーザ光はレンズ211aで拡大されて、レンズ211bで概ね平行にされて観測対象物1000に照射される。
【0054】
尚、本実施例で用いられている透過型のホログラム記録媒体310は、図2に示すように、ITOからなる透明電極12、18が一面に設けられている一対のガラスからなる透明の支持体10、20を有しており、光導電体層14として水素化アモルファスシリコン(α−Si:H)が、膜厚1μmで設けられ、更に配向膜22としてポリイミド(Polyimide)膜が、膜厚50nmで設けられている。そして、液晶16として強誘電性液晶が膜厚1μmで設けられている構成を有する。
【0055】
観測対象物1000は、微小変位や微小変形させる機構として、真空吸着を用い、更に、水平に観測対象物1000を保持する保持機構として、水平なステージを用いた重力による保持機構を有する試料台500に保持されている。ここでは、試料台500は、真空吸着ステージ510と、三方弁520とを備えており、この三方弁520を開閉することで真空吸着の制御をする。
【0056】
観測対象物1000に照射され、反射されたレーザ光は、再びビーム拡大・縮小光学系211のレンズ211b、211aを透過する。ここで、レーザ光は、再度1/4波長板232を透過することでP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ221を透過して直進方向に進む。そして、このレーザ光が物体光1200としてホログラム記録媒体310に照射される。
【0057】
ホログラム記録媒体310に照射された2つのレーザ光(参照光1100と物体光1200)によって干渉縞が形成されており、その干渉縞によって光導電体層14の内部抵抗が変化する。そして、この光導電体層14に隣接する液晶16には、透明電極12、18間に電圧印加電源装置320から送られた記録用の電圧信号が、干渉縞に従って空間変調されて印加される。液晶16は、空間変調された電圧に従って分子配向を変えることで屈折率を変化させる。その結果干渉縞に従って屈折率分布(或いは反射率分布)がホログラム記録媒体310に記録される。
【0058】
次いで、光シャッター330を閉じ、電圧印加電源装置320から印加する電圧をゼロとし、試料台500に備えられた微小な変位・変形を観測対象物1000に付与する機構を用いて変位・変形させる。ここでは、水平なステージを有する真空吸着ステージ510を用いているので、観測対象物1000の表面には大気圧がかかり、裏面には大気圧より低い圧力がかかることで、変位・変形されている。例えば、大気中に載置した観測対象物1000に、その裏面側から真空吸着によって大気圧がかかるようにする。
【0059】
再び光シャッター330を開け、レーザ光源100からレーザ光を出射させ、偏光ビームスプリッタ221でP偏光とS偏光とに分け、S偏光を観測対象物1000に照射する。観測対象物1000によって反射されて得られる物体光1200がホログラム記録媒体310を透過し変位・変形後の観測対象物像となる。他方のP偏光は、再生光1100としてホログラム記録媒体310に照射される。これにより、先にホログラム記録媒体310に記録された変位・変形前の観測対象物像を再生することができる。観測対象物1000の微小な変位・変形前の観測対象物像と、変位・変形後の観測対象物像とが干渉した干渉像が撮像装置400で撮像される。
【0060】
以上の作業により、窒化物半導体ウエハ内のクラック部(異常部)の干渉縞と、クラックのない正常部の干渉縞とを同時に観測することができ、そのクラック部分での変位・変形が周囲の正常部と異なるため、それが干渉縞の折れ曲がり等の変化として実時間で観測することができる
【0061】
(実施例2)
図3に実施例2の実時間ホログラフィ干渉計測装置の構造を示す。実施例2では、透明な二枚の板状のガラスを貼り合わせたものを観測対象物1000として用い、その貼り合わせの接着不良状態を実時間で観測する例について説明する。二枚のガラスは、それぞれ厚さ0.5mm、一辺3インチの矩形であり、二液混合型エポキシ系接着剤を接着剤として用いている。
【0062】
半導体レーザ110として、窒化物半導体レーザを有する外部共振器型半導体レーザを用い、ここから出射された発振波長が約405nmのレーザ光は、開放された光シャッター330を通過し、その後、ビーム拡大光学系210のレンズ210a、210bを透過して、拡大されたレーザ光がビームスプリッタ光学系の偏光ビームスプリッタ221に入射する。ここで、レーザ光源100からのレーザ光の光軸と同じ方向に直進するP偏光と、そのP偏光の光軸と垂直な方向に反射されたS偏光の2つのレーザ光に分けられる。
【0063】
2つに分けられたレーザ光のうち、P偏光は、ミラー233によって反射され試料台500として設けられた減圧箱515に向けて照射される。減圧箱515内には、中央部に貫通孔を有する水平な台を備えており、その貫通孔を塞ぐように、台上に観測対象物1000である貼り合わせガラスが載置され、水平に保持されている。そして、P偏光はその観測対象物1000の内部を透過して物体光1200として反射型のホログラム記録媒体311に照射される。また、S偏光は、1/2波長板121を透過することによりP偏光となり、ミラー231によって反射され、反射型のホログラム記録媒体311に向けて照射される。
【0064】
尚、本実施例で用いられている反射型のホログラム記録媒体311は、図2に示すように、ITOからなる透明電極12、18が一面に設けられている一対のガラスからなる透明の支持体10、20を有しており、光導電体層14として水素化アモルファスシリコン(α−Si:H)が、膜厚1μmで設けられ、更に配向膜22としてポリイミド(Polyimide)膜が、膜厚50nmで設けられている。そして、液晶16としてコレステリック液晶が膜厚1μmで設けられている構成を有する。
【0065】
観測対象物1000を透過した物体光1200と、参照光1100とは、それぞれ異なる面側から反射型のホログラム記録媒体311に照射され、2つのレーザ光の干渉縞がホログラム記録媒体311に記録される。
【0066】
次いで、光シャッター330を閉じ、電圧印加電源装置320から印加する電圧をゼロとし、試料台500に備えられた微小な変位・変形を観測対象物1000に付与する機構、ここでは、減圧にすることで、観測対象物1000の内部と外部とに圧力差を生じさせることで変位・変形させる。
【0067】
再び光シャッター330を開け、レーザ光源100からレーザ光を出射させ、偏光ビームスプリッタ221でP偏光とS偏光とに分け、P偏光を観測対象物1000に照射して透過した物体光1200はホログラム記録媒体311を透過し変位・変形後の観測対象物像となる。S偏光は再生光1100としてホログラム記録媒体311に照射される。これにより、先にホログラム記録媒体311に記録された変位・変形を与える前の観測対象物像を再生する。そして、変位・変形前後の2つの観測対象物像が干渉することで、干渉像が撮像装置400で撮像される。
【0068】
以上の作業により、貼り合わせたガラスに生じた接着不良の状態を、その欠陥部分が圧力変化による変位・変形(膨張)で生じた干渉縞の変化として実時間で観測することができる。
【0069】
(実施例3)
図4に実施例3の実時間ホログラフィ干渉計測装置の構造を示す。実施例3では、生体細胞(例えば骨を形成する細胞である骨芽細胞)を観測対象物1000として用い、その細胞内部での微小な変位・変形を観測することが可能な顕微鏡に適用させた例について説明する。ホログラム記録媒体としては、実施例1と同様の透過型のホログラム記録媒体310を用いており、ITOからなる透明電極12、18が一面に設けられている一対のガラスからなる透明の支持体10、20を有しており、光導電体層14として水素化アモルファスシリコン(α−Si:H)が、膜厚1μmで設けられ、更に配向膜22としてポリイミド(Polyimide)膜が、膜厚50nmで設けられている。そして、液晶16として強誘電性液晶が膜厚1μmで設けられた構造を有している。
【0070】
半導体レーザ110として、窒化物半導体レーザを用い、ここから出射された発振波長が約445nmのレーザ光は、開放された光シャッター330を通過し、その後、ビーム拡大光学系210のレンズ210a、210bを透過し、拡大されたレーザ光が1/2波長板120を透過してビームスプリッタ光学系の偏光ビームスプリッタ221に入射する。ここで、レーザ光源100からのレーザ光の光軸と同じ方向に直進するP偏光と、そのP偏光の光軸に垂直な方向に反射されたS偏光の2つのレーザ光に分けられる。
【0071】
2つに分けられたレーザ光のうち、P偏光は、ミラー233によって反射され、更にビーム縮小光学系212のレンズ212aによって縮小され、観測対象物1000に照射される。観測対象物1000は、試料台500として設けられるスライドガラス516の上に載置され、その上に透明なカバーガラス517が載置され、両者によって挟まれている。P偏光は観測対象物1000の内部を透過し、物体光1200としてレンズ212bによって拡大された後に、透過型のホログラム記録媒体310に照射される。また、S偏光は、1/2波長板121によりP偏光となり参照光1100としてミラー231、234によって反射され、透過型のホログラム記録媒体310に向けて照射される。
【0072】
観測対象物1000を透過した物体光1200と、参照光1100とは、透過型のホログラム記録媒体310に照射され、2つのレーザ光の干渉縞がホログラム記録媒体310に記録される。
【0073】
次いで、光シャッター330を閉じ、電圧印加電源装置320から印加する電圧をゼロとし、図示していないが、スライドガラス516の周囲に紙面に垂直な磁界がかけられるように設置されているコイルに電流を流すことにより磁界強度を制御することで、観測対象物1000に微小な変位・変形を付与する。
【0074】
再び光シャッター330を開け、レーザ光源100からレーザ光を出射させ、偏光ビームスプリッタ221でP偏光とS偏光とに分け、P偏光を観測対象物1000に照射し、透過されて得られる物体光1200がホログラム記録媒体310を透過し、変位・変形後の観測対象物像として撮像装置400に送られる。他方のS偏光が1/2波長板121によりP偏光となり再生光としてホログラム記録媒体310に照射される。これにより、先にホログラム記録媒体310に記録された変位・変形を与える前の観測対象物像を再生することができ、その観測対象物像が撮像装置400に送られる。そして、観測対象物1000の微小な変位・変形前の観測対象物像と、変位・変形後の観測対象物像とが干渉した干渉像が撮像装置400で撮像される。
以上の作業により、生体細胞内に生じた状態変化が、干渉縞の折れ曲がり等の変化として重力の影響を排除して実時間で観測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る実時間ホログラフィ干渉計測装置は、半導体ウエハ、液晶パネル、太陽電池パネル、スキー板、貼り合わせたガラスやアクリル等の複数の素材が接合された板状製品の欠陥や不良の検出するための計測装置として用いることができる。更に、微小振動する超音波モータ、スピーカー等への振動解析にも用いることができる。更には、電磁場の細胞レベルの影響の観測、強磁性体や強誘電体の電磁場への応答観測等の顕微鏡応用が可能となる。
【符号の説明】
【0076】
10…透明で平坦な支持体,12…透明電極,14…透明な光導電体層,16…液晶,18…透明電極,20…透明で平坦な支持体,22…配向膜
100…レーザ光源,110…半導体レーザ,120…1/2波長板,121…1/2波長板
210…ビーム拡大光学系,210a…レンズ,210b…レンズ,211…ビーム拡大・縮小光学系,211a…レンズ,211b…レンズ,212…ビーム縮小光学系,212a…レンズ,212b…レンズ,221…偏光ビームスプリッタ,231…ミラー,232…1/4波長板,233…ミラー,234…ミラー
300…ホログラム作成器,310…ホログラム記録媒体/透過型ホログラム,311…ホログラム記録媒体/反射型ホログラム,320…電圧印加電源装置,330…光シャッター
400…撮像装置,410…CCDカメラ,420…レンズ,421…レンズ
500…試料台,510…真空吸着ステージ,515…減圧箱,516…スライドガラス,517…カバーガラス,520…三方弁
1000…観測対象物
1100…参照光(再生光)
1200…物体光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
該レーザ光源から出射されるレーザ光を2つに分けるビームスプリッタ光学系と、
該ビームスプリッタ光学系を含み、前記分けられた2つのレーザ光をそれぞれ参照光及び物体光として干渉させる干渉光学系と、
該干渉光学系により生じた干渉縞をホログラム記録媒体上に記録するホログラム作成器と、
前記干渉光学系に設けられる観測対象物を保持すると共に、該観測対象物を変位・変形させる機構を有する試料台と、を具備し、
前記ホログラム作成器は、透明電極を備えた2枚の透明な支持体間に、透明な光導電体と液晶が挟まれたホログラム記録媒体を有することを特徴とするホログラフィ干渉計測装置。
【請求項2】
前記試料台は、板状の観測対象物を水平に保持する保持機構を具備する請求項1記載のホログラフィ干渉計測装置。
【請求項3】
前記ビームスプリッタ光学系は、偏光ビームスプリッタを有し、前記レーザ光源と前記偏光ビームスプリッタとの間に、前記レーザ光源からのレーザ光の偏光面を回転させる回転機構を有する請求項1又は請求項2記載のホログラフィ干渉計測装置。
【請求項4】
前記レーザ光源は、波長が400〜410nmである外部共振器型半導体レーザである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のホログラフィ干渉計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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