説明

ホログラム、および、ホログラムを貼り付けられた物品

【課題】通常の観察条件で観察される画像とは別に、通常の観察条件では読み取り困難な情報を含む隠し画像も記録されたホログラムを提供する。
【解決手段】ホログラム20には、カラー画像30に関する干渉縞データが記録されている。カラー画像は、第1の色成分の像31と、第1の色成分とは異なる第2の色成分の像32と、を少なくとも含む。第1の色成分の像は、情報を表示する隠し画像31aを含む。第2の色成分の像32は、第1の色成分の像および第2の色成分の像を少なくとも含むカラー画像において隠し画像の読み取りを困難にするノイズ画像32aを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー画像を再生するホログラムに係り、とりわけ、通常の観察条件では読み取り困難な情報を隠し画像として含んだホログラムに関する。また、本発明は、通常の観察条件では読み取り困難な情報を隠し画像として含んだホログラムを貼り付けられた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カード、パスポート、身分証明書、商品券等の偽造防止策として、ホログラム(ホログラムラベル)をこれらの物品に貼り付けることが行われてきた。また昨今においては、カラーで再生される複雑な立体像をホログラムに記録することも可能になってきており、ホログラムを用いることによって、ホログラムが貼り付けられた物品の意匠性を向上させることもできるようになっている。
【0003】
偽造防止を目的としてホログラムが用いられる場合、ホログラムは、偽造されにくく、且つ、ホログラム自体の真贋判定が容易に行われ得るようにしなければならない。しかしながら残念なことに、近年、ホログラムの偽造技術は向上してきている。また、ホログラムを作製するための材料も入手しやすくなってきている。このような状況から、一見よく似た偽造ホログラムが流通され、この偽造ホログラムが見過ごされてしまう可能性もある。
【0004】
このような不具合に対処するため、通常の観察状態で観察される画像(顕像)とは別に、真贋判定情報を表示する隠し画像(潜像)が特別な条件下で表示され得る表示体(記録媒体)に関する研究も行われている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−254546
【特許文献2】特開平5−262086
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された表示体では、通常観察される画像(顕像)が記録されたホログラム層とは別途に、隠し画像が記録された潜像形成構造層が設けられている。したがって、単層のホログラムからなる表示体と比較して、表示体の厚みが非常に厚くなり、また、表示体の製造コストが著しく高価となる。
【0007】
一方、特許文献2に開示された表示体は特殊なインキを用いて形成された印刷物として構成されている。この表示体には、通常の観察状態で観察され得る顕像と、特定の観察条件でのみ観察され得る隠し画像と、が印刷されている。そして、隠し画像を観察する際には、顕像は観察され得なくなる。また、特許文献2の表示体では、印刷された画像(顕像および潜像)が観察されるのであって、ホログラムのように立体的に画像を再生し得るわけではない。すなわち、特許文献2の表示体では、画像を浮かび上がらせて表示することができず、また、観察方向を変化させていったとしても観察される像の見え方は観察方向に応じて変化していかない。さらに、特許文献2の表示体では、顕像を印刷する領域と、潜像を印刷する領域と、を重複させることができず、これにより、顕像および潜像のデザインは制約される。すなわち、特許文献2の表示体で表示される像は、ホログラムで再生される像の意匠性よりも著しく低い意匠性しか持ち得ず、ホログラムで再生される像の意匠性と同列に比較される対象にはなり得ない。
【0008】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであって、カラー画像を再生するホログラムに係り、とりわけ、通常の観察条件で観察される画像とは別に、通常の観察条件では読み取り困難な情報を含む隠し画像も記録されたホログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるホログラムは、カラー画像を再生するための干渉縞データが記録されたホログラムであって、前記カラー画像は、第1の色成分の像と、前記第1の色成分とは異なる第2の色成分の像と、を少なくとも含み、前記第1の色成分の像は、情報を表示する隠し画像を含み、前記第2の色成分の像は、前記第1の色成分の像および前記第2の色成分の像を少なくとも含む前記カラー画像において前記隠し画像の読み取りを困難にするノイズ画像を含む。
【0010】
本発明によるホログラムにおいて、前記カラー画像は、前記第1の色成分および前記第2の色成分の両方と異なる第3の色成分の像をさらに含み、前記第3の色成分の像は、前記カラー画像において前記隠し画像の読み取りを困難にするノイズ画像を含むようにしてもよい。
【0011】
また、本発明によるホログラムにおいて、前記カラー画像を構成する前記第1の色成分の像を表示する光のピーク波長は、前記カラー画像を構成する前記第2の色成分の像を表示する光のピーク波長よりも短く、前記カラー画像を構成する前記第3の色成分の像を表示する光のピーク波長よりも長くなっていてもよい。
【0012】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記カラー画像を構成する前記第1の色成分の像は、緑色で表示され、前記カラー画像を構成する前記第2の色成分の像は、赤色で表示され、前記カラー画像を構成する前記第3の色成分の像は、青色で表示されるようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、第2の色成分の像に含まれる前記ノイズ画像は、前記第1の色成分の像と前記第2の色成分の像とを重ね合わせた際に、前記第1の色成分の像に含まれる前記隠し画像の前記情報が読み取り困難となるように構成され、第3の色成分の像に含まれる前記ノイズ画像は、前記第1の色成分の像と前記第3の色成分の像とを重ね合わせた際に、前記第1の色成分の像に含まれる前記隠し画像の前記情報が読み取り困難となるように構成されていてもよい。
【0014】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記ノイズ画像は、ランダム階調パターンとして形成されていてもよい。
【0015】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記隠し画像の前記情報は、特定の波長帯域の光のみを透過させる部材を通して、読み取り可能であってもよい。
【0016】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記カラー画像は、立体的な画像であってもよい。
【0017】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記情報は真贋判定情報であってもよい。
【0018】
さらに、本発明によるホログラムにおいて、前記カラー画像は何らかの意味を有する像を含み、前記カラー画像において、前記隠し画像および前記ノイズ画像が形成されている領域には、ランダム着色パターンで着色が施されているようにしてもよい。
【0019】
さらに、本発明によるホログラムが、計算機合成ホログラムとして形成されていてもよい。
【0020】
さらに、本発明による物品は、上述したいずれかの本発明によるホログラムを貼り付けられていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ホログラムによって再生されるカラー画像を示す正面図である。
【図2】図2は、図1のカラー画像を構成する第1の色成分の像を示す正面図である。
【図3】図3は、図1のカラー画像を構成する第2の色成分の像を示す正面図である。
【図4】図4は、図1のカラー画像を構成する第3の色成分の像を示す正面図である。
【図5】図5は、ホログラムを使用する際の状態を示す図である。なお、図5では、ホログラムへの照明光の進行方向およびホログラムの表面への法線方向との両方に平行な断面において、ホログラムが示されている。
【図6】図6は、ホログラムに記録される干渉縞データの演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、隠し画像、ノイズ画像、隠し画像とノイズ画像との重ね合わせ画像を平面化して示す図である。
【図8】図8は、照明光の進行方向と、再生光の進行方向(照明光の回折方向)と、の関係を説明するための図である。なお、図8では、ホログラムへの照明光の進行方向およびホログラムの表面への法線方向との両方に平行な断面において、ホログラムが示されている。
【図9】図9は、ホログラムの記録面上に定義される単位領域と、原画像上に定義される単位領域と、の対応関係を説明するための図である。なお、図9では、ホログラムへの照明光の進行方向およびホログラムの表面への法線方向との両方に平行な断面において、ホログラムが示されている。
【図10】図10は、ホログラムの記録面上に定義される演算点と、原画像上に定義される点光源と、の対応関係を説明するための図である。なお、図10では、ホログラムへの照明光の進行方向の直交する方向およびホログラムの表面への法線方向との両方に平行な断面において、ホログラムが示されている。
【図11】図11は、ホログラムのフィルム状の媒体を示す平面図である。
【図12】図12は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図13】図13は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図14】図14は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図15】図15は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図16】図16は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図17】図17は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【図18】図18は、ホログラムの作用を説明するための図であって、図5と同様の断面においてホログラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0023】
図1乃至図18は本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1はホログラムによって再生されるカラー画像の一例を示す図であり、図2〜図4は図1のカラー画像の分解像を示す図である。また、図5は、ホログラムを使用する状況の一例を示す図である。図6〜図11は、主に、ホログラムの作製方法の一例を説明するための図である。図12〜図18は、ホログラムの作用を説明するための図である。
【0024】
なお、以下に説明する本実施の形態においては、本発明によるホログラムが計算機合成ホログラムとして作製された例を説明する。ただし、後述するように、本発明によるホログラムは、必ずしも計算機合成ホログラムである必要はなく、例えば体積型ホログラムとして通常ホログラム撮影方法により作製され得る。すなわち、本発明は、以下に例示する計算機合成ホログラムへの適用に拘束されることなく、他の種類のホログラムにも適用され得る。
【0025】
本実施の形態によるホログラム20は、カラー画像30に関する干渉縞データが記録されたホログラム20である。そして、図5に示すようにして、白色光、例えば照明器具12からの照明光Laがホログラムに照明されると、当該光Laのホログラム20への照明方向に応じて決定される特定の方向に向けて画像30が再生光Lbによってカラーで再生され、観察者20は当該カラー画像30を観察することができるようになる。
【0026】
本実施の形態によるホログラム20では、図1に示すように、ホログラム20によって再生される画像30は、球体36と、球体36の周囲を帯状に延びる二つのリング38と、を含んでいる。球体36のうちのリング38によって隠される部分は、再生される像においてもリング38によって隠されるようになっている。すなわち、ある視点から観察した場合に、手前の物体に隠される部分を見えないようにするといった隠面消去処理が施され、ホログラムは記録された像を立体的に再生するようになっている。なお、陰面消去処理についての詳細は、「3次元画像コンファレンス‘99−3D Image Conference‘99」講演論文集CD−ROM(1999年6月30日〜7月1日 工学院大学新宿校舎)、論文「EB描画によるイメージ型バイナリCGH(3)−隠面消去・陰影付けによる立体感の向上」を参照されたい。
【0027】
球体36の表面は多数の区域に区分けされている。そして、球体36の表面をなす多数の区域はランダム着色パターンで着色が施されている。なお、ここでいう「ランダム着色パターンでの着色」とは、着色対象が不規則的または規則的に多数の区域に区分けされ、多数の区域のそれぞれを着色する色が、着色される各区域の位置に依存することなく、すなわち、着色される各区域の位置と関連することなく、不規則的に決定されていることを意味している。
【0028】
一方、各リング38は、「GENUINE」の文字を連続して並べることによって形成された文字列によって、構成されている。各リング38をなす文字列は、白色に着色されている。
【0029】
このホログラム20は、再生されるカラー画像30の一部分をなすリングの「GENUINE」といった文字列とも関連しているように、真正性を表示する表示体として機能する。すなわち、ホログラム20は、後述する真贋判定情報によって自身の真正性を示すとともに、このホログラム20が貼り付けられた物品15(図5の二点鎖線)、例えば、紙幣、株券、カード、書類等の真正性を示すように、機能する。
【0030】
ホログラム20によって再生される画像30は、カラーで表示され得ることから当然に、互いに異なる色で表示される複数の色成分の分解像31,32,33を有するようになる。なお、上述したように本実施の形態において、ホログラム20は、波長選択性をほとんど呈することのない計算機合成ホログラムのレリーフ型レインボウホログラムとして構成されている。したがって、各色成分の像31,32,33に関する干渉縞データは、照明方向や観察方向によって、種々の色で表示されるようになる。ただし、任意の一つの観察方向から観察した場合に、これらの複数の色成分の像31,32,33は、互いに同一の色で表示されることなく、互いに異なる色によって表示される。
【0031】
本実施の形態においては、照明光の照明方向に応じた特定の方向に図1のカラー画像30が再生される場合、当該画像30は、三原色の色成分の像31,32,33の加法混色によって構成される。すなわち、ホログラム20によって再生されるカラー画像30は、図2に示された緑色に表示された第1の色成分の像31と、図3に示された赤色に表示された第2の色成分の像32と、図4に示された青色に表示された第3の色成分の像33と、を含むようになる。各色成分の像31,32,33において、各色は、例えば0〜255までの256階調によって表現されている。この結果、ホログラム20は画像30をフルカラーで再生することができるようになっている。
【0032】
緑色で表示されるとともにカラー画像30を構成する第1の色成分の像31は、例えば495nm〜565nm内にピーク波長を有する第1の波長帯域の光によって構成される。赤色で表示されるとともにカラー画像30を構成する第2の色成分の像32は、一例として600nm〜780nm内にピーク波長を有する第2の波長帯域の光によって構成される。青色に表示されカラー画像30を構成する第3の色成分の像33は、例えば380nm〜490nm内にピーク波長を有する第3の波長帯域の光によって構成される。したがって、カラー画像30を構成する第1の色成分の像をなす光のピーク波長は、カラー画像30を構成する第2の色成分の像をなす光のピーク波長よりも短く、カラー画像30を構成する第3の色成分の像をなす光のピーク波長よりも長くなっている。
【0033】
なお、ホログラム20が計算機合成ホログラムとして作製されている場合、各色成分の像31,32,33をなす光の波長帯域はピーク波長を中心とした狭い範囲となる。とりわけ、高精度に作製された計算機合成ホログラムを高精度に測定する場合、各色成分の像31,32,33をなす光は、理論的には、それぞれ特定波長の光(ピーク波長の光)のみよって構成されるようになる。
【0034】
本実施の形態において、第1の色成分の像31は、他の色成分の像32,33と重なりあって上述した球体36および球体36の周囲の二つのリング38を表現する像を含んでいる。また、図2に示すように、第1の色成分の像31は、色成分の階調を変化させることによって前記球体36の表面に相当する位置に形成された画像31aを含んでいる。球体36の表面に形成された画像31aは、特定の情報を表示する画像31aとして構成されている。具体的には、第1の色成分の像31において、「本物」とい文字が、球体36の表面に存在している。すなわち、第1の色成分の像31は、ホログラムが「本物」であるといった真贋判定情報を表示する画像31aを含んでいる。
【0035】
ただし、図に示すように、第1〜第3の色成分の像を重ね合わせることによって表示されたカラー画像30において、球体36の表面に形成された画像31aの真贋判定情報は、読み取り困難となっている、すなわち、真贋判定情報を表示する画像31aは、隠し画像31aとして形成されている。
【0036】
一方、第2の色成分の像32および第3の色成分の像33のそれぞれも、同様に、他の色成分の像と重なりあって上述した球体36および球体36の周囲の二つのリング38を表現する像を含んでいる。また、第2の色成分の像32および第3の色成分の像33は、それぞれ、上述した真贋判定情報を表示する画像が再生される領域を含む領域、すなわち、本実施の形態においては球体36の表面に再生されるノイズ画像32a,33aを含んでいる。
【0037】
そして、第2の色成分の像32に含まれるノイズ画像32aは、第1の色成分の像31と第2の色成分の像32とが重なり合って第1の色成分からなる隠し画像31aと同時に観察される際に、隠し画像31aの真贋判定情報の読み取りを困難とするように構成されている。本実施の形態において、第2の色成分のノイズ画像32aは、当該ノイズ画像が占める領域上、すなわち、本実施の形態では球体36の表面上に第2の色成分のみで形成されたランダム階調パターンとして、構成されている。具体的には、球体36の表面が多数の区域に区分けされ、球体36の表面をなす多数の区域のそれぞれについての第2の色成分の階調が、当該区域の球体36上における位置とは無関係に設定されている。
【0038】
同様に、第3の色成分の像33に含まれるノイズ画像33aは、第1の色成分の像31と第3の色成分の像33とが重なり合って第1の色成分からなる隠し画像31aと同時に観察される際に、隠し画像31aの真贋判定情報の読み取りを困難とするように構成されている。本実施の形態において、第3の色成分のノイズ画像33aは、球体36の表面上における第3の色成分のみのランダム階調パターンとして形成されている。具体的には、球体36の表面が多数の区域に区分けされ、球体36の表面をなす多数の区域のそれぞれについての第3の色成分の階調が、当該区域の球体36上における位置とは無関係に設定されている。
【0039】
なお、以上のような第1の色成分の像31の隠し画像31aと、第2の色成分の像32のノイズ画像32aと、第3の色成分の像33のノイズ画像33aと、の重ね合わせによって、ホログラム20によって再生されるカラー画像30において、ランダム着色パターンが球体36の表面に形成されるようになる。
【0040】
ところで、以上のカラー画像30を再生するため、ホログラム20は、そのフィルム状の媒体22に記録された干渉縞データを、有している。ここで、干渉縞データとは、平行光からなる参照光と、再生されるべき原画像30をなす物体からの物体光と、の干渉波の強度を、ホログラム20のフィルム媒体22上の各位置(後述する演算点)にて、演算することによって特定される干渉縞に関するデータのことである。計算機合成ホログラム20は、典型的には、干渉縞データとしての凹凸形状をフィルム状の媒体22に記録されることによって、作製されている。そして、計算機合成ホログラム20においては、照明光がこの凹凸形状によって回折され、画像30が再生されるようになる。なお、干渉縞データを記録するための記録用媒体22は、例えば樹脂から構成される。
【0041】
なお、図5に示すように、本実施の形態によるホログラム20は、干渉縞データを記録されるフィルム状の媒体22と、入射光を鏡面反射させる反射層24と、から構成されている。観察者10の側(媒体22の側)からホログラムの入射した照明器具等からの光Laは、媒体22を透過した後に反射層24で鏡面反射されて、媒体22に入射する。媒体22に再入射する光が照明光Lcとして機能し、媒体22で回折され、回折光Lbを形成するようになる。
【0042】
次に、以上のようなホログラム10を作製する方法について説明する。
【0043】
通常、計算機合成ホログラムの量産においては、凹凸形状を有したマスター版が最初に作製される。そして、このマスター版を原型として用いることによって、多数のホログラムが量産されていく。具体的には、まず、凹凸形状を形成されたマスター版の表面を、流動性を有した電離放射線硬化型樹脂(例えば、紫外線硬化型樹脂)によってコーティングする。次に、流動性を有した電離放射線硬化型樹脂がマスター版の凹凸形状内に入り込んだ状態で、電離放射線硬化型樹脂が硬化される。このようにして、起伏を反転させてマスター版の凹凸形状を転写させてなる凹凸形状が、媒体としての電離放射線硬化型樹脂に形成される。その後、硬化した電離放射線硬化型樹脂をマスター版から剥がすことにより、硬化した電離放射線硬化型樹脂からなるホログラムの媒体が得られる。この媒体の一方の面に、例えばアルミニウム蒸着膜からなる反射層を形成することにより、図5に示すホログラム20が得られる。なお、このようなホログラムの作製方法に起因して、ホログラムに形成された凹凸形状が、エンボスパターンと呼ばれることもある。
【0044】
ところで、上述したように、本実施の形態におけるホログラムは、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Hologram(CGH)とも呼ばれる)として形成されている。したがって、実際に参照光および物体光を感光材料に照射して感光材料からなる媒体に撮影を行うことはなく、定義したモデルについて計算機で演算することにより、干渉縞データを算出している。そして、最初に形成されるマスター版の凹凸形状は、計算機によって算出された干渉縞データに基づいて、決定されている。この凹凸形状は、非常に微細であり、今日における多くの場合、電子線描画装置を用いて形成(記録)されている。なお、計算機で算出された干渉縞データに基づき、電子線描画によって凹凸形状を形成する方法の詳細は、例えば特開2008−191540に開示されており、ここでは、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0045】
一方、計算機による干渉縞データの算出は、図6のフローチャートに示す方法にしたがって、行われる。ただし、図6に示す干渉縞データの算出方法は例示に過ぎず、以下に説明する方法とは異なる方法で干渉縞が算出されるようにしてもよい。なお、図6のフローチャートに沿った計算機合成ホログラムの作製における干渉縞データの概略的な演算方法は、公知の特許や非特許文献においても言及されている。したがって、ここでは、主に、本実施の形態のホログラム20によって再生される画像の構成または作用効果に関連して特徴的といえる点について説明する。
【0046】
干渉縞データの概略的な演算方法に言及した特許公報の一例として、特開2000−214751が挙げられる。また、干渉縞データの概略的な演算方法に言及した非特許公報の一例として、「3次元画像コンファレンス‘99−3D Image Conference‘99」講演論文集CD−ROM(1999年6月30日〜7月1日 工学院大学新宿校舎)、論文「EB描画によるイメージ型バイナリCGH(3)−隠面消去・陰影付けによる立体感の向上」が挙げられる。
【0047】
図6に示すように、最初に、ホログラム20に記録すべき画像を特定する(工程S1)。理想的には、この工程で定義される原画像が、図1に示すホログラム20によって再生される画像30と一致する。
【0048】
計算機合成ホログラムでは、一般的に、単色光からなる物体光と参照光との干渉波の強度を計算して、干渉縞データが算出されるようになる。以下の説明では、緑色で表示された図2の像31を計算機内でモデル化して第1の原画像41が定義され、赤色で表示された図3の像32を計算機内でモデル化して第2の原画像42が定義され、青色で表示された図4の像42を計算機内でモデル化して第3の原画像42が定義されることとする。そして以下の例では、ホログラム20が照明光を照明されることによって、三原色で表示される三つの色成分の像31,32,33が特定の方向に再生されるようになる。この際、観察者は、三原色で表示される三つの色成分の像31,32,33の加法混色により、図1に示されたフルカラー画像30を観察することができるようになる。
【0049】
上述したように、図1に示されたカラー画像30は、立体的に再生される球体36およびリング38を有している。同様に、図9に示すように、三原色の色成分の原画像41,42,43も、立体的に再生される球体46およびリング48を有するように定義される。そして、三原色で表示される原画像41,42,43の間で、球体46の表面上における階調パターンは異なるものの、三つの原画像41,42,43のそれぞれによって表現される立体像は同一となっている。したがって、この工程では、三つの原画像41,42,43を定義する必要があるが、一つの立体像データ(3DCGモデル)を用意するとともに、当該立体像データに、各原画像41,42,43に対応した三つの階調パターンをテクスチャマッピングしていくことによって、三つの原画像41,42,43を定義することが可能となる。
【0050】
すなわち、原画像を特定する際に、再生されるべき第1の色成分の隠し画像31a、第2の色成分のノイズ画像32a、および、第3の色成分のノイズ画像33aを、立体面上における階調パターンとして設計していく必要はない。図7に示すように、第1の色成分の隠し画像31a、第2の色成分のノイズ画像32a、第3の色成分のノイズ画像33a、および、さらにはこれらの画像31a,32a,33aを重ね合わせてなるカラー画像を単なる平面上における着色パターンとして設計すればよい。その後、テクスチャマッピング技術を用いることにより、立体像上における着色パターンへと変換して、実際に、ホログラムに記録されるべき立体原画像41,42,43を定義することができる。このような方法によれば、特定の情報を表示し得る隠し画像31a、並びに、隠し画像31aを不可視化させるノイズ画像32a,33aのモデル化を極めて容易に行うことができるようになる。
【0051】
次に、図6に示すように、カラー画像30の再生に関する空間配置を特定する(工程S2)。具体的には、再生されるべき画像30の位置、画像30を再生するためにホログラム20に照明される照明光の照明方向、および、画像30を再生する再生方向が、ホログラム20を構成するフィルム状の記録用媒体22を基準として、特定される。なお、画像30を再生する再生方向は、言い換えると画像を再生する再生光の進行方向であり、また、定義された照明方向でホログラム20を照明する照明光がホログラム20によって回折される方向に相当し、さらには、再生画像が観察されるようになる観察方向にも相当する。また、ここで定義された照明光の照明方向に応じて、後述する参照光の進行方向が決定され、ここで定義された再生方向に関連して、後述する物体光の進行方向が決定される。
【0052】
画像30が再生されるようになる位置は、媒体22の記録面に対して、適宜設定され得る。ただし、画像30を立体的に再生する上では、大きな視差を確保することが有効である。そして、大きな視差を確保する観点、すなわち、観察方向を変化させた際における観察され得る像の変化を大きくする観点からは、媒体22の記録面の近傍に画像が再生されるようにすることが有効である。
【0053】
また、照明方向および観察方向については、ホログラム20の用途を考慮し、蓋然性の高い方向を選択すればよい。例えば、本実施の形態のように、ホログラム20が真正性表示体として用いられる場合、とりわけ、ホログラム20が、比較的小さな物品(一例として、クレジットカード等)15に貼り付けられる真正性表示体として用いられる場合には、図5に示すように、観察方向はホログラム20の表面への法線方向と略平行になることが多いと予想される。この際、照明光として、ホログラム20の表面への法線方向に対して概ね45°傾斜した方向から、白色光からなる照明光がホログラム20に照明されることが多いと予想される。このような予想が成り立つ場合には、観察方向をホログラム20への法線方向と平行にとり、照明方向をホログラム20への法線方向に対して45°傾斜させればよい。なお、図5は、ホログラム20の表面への法線方向およびホログラム20への照明光の照明方向と平行な断面において、ホログラム20を示している。
【0054】
ところで、干渉縞データを記録する媒体22の裏面(観察者側とは反対側の面)にアルミニウム蒸着層等からなる反射層が形成されることが多くある。上述したように、また、図5に示すように、本実施の形態においても、媒体22の裏面に反射層24が形成されている。このような場合、ホログラム20に記録された画像を再生するための照明光の照明方向は、実際には、照明器具12からの白色光Laの進行方向対して、フィルム状の記録媒体22を中心として、対称な方向となる。すなわち、図5に示すような状況において、ホログラム20に対する照明光は、実際には、観察者とは反対側からホログラム20から照明される光Lcに相当する。以下の説明においては、実際の使用時に鏡面反射層(添付図においては省略)が設けられているものと仮定して、検討を行う。
【0055】
なお、計算機合成ホログラムは、体積型ホログラム等と比較して、角度選択性が非常に弱い。すなわち、工程S2において、照明方向および観察方向(回折方向)が特定されるが、ホログラム20に記録された画像30を再生するために、必ずしも、定義された照明方向から計算機合成ホログラムが照明光によって照明される必要はなく、また、定義された観察方向から計算機合成ホログラムが観察者によって観察される必要はない。以下の関係式(1)を満たすことによって、再生画像30を観察することが可能となる。
N=|sin(θ2)−sin(θ1)|/λ ・・・ 式(1)
【0056】
なお、式(1)中の角度θ1は、照明光による照明方向がホログラムの表面への法線方向に対してなす角度であり、式(1)中の角度θ2は、画像の再生方向(観察方向)が、ホログラムの表面への法線方向に対してなす角度である。図8に示すように、これらの角度θ1,θ2の値は、ホログラムの表面への法線方向と照明光による照明方向とに平行な面(図8に示す面に相当)において、ホログラムの表面への法線方向から照明方向まで反時計回りに進んだ角度によって画定される。したがって、図8に示す例において、角度θ2は360°(0°)となっており、ホログラムの法線方向から画像を観察することができる。また、式(1)におけるNは、定義された空間配置に対して決定される正の定数である。
【0057】
すなわち、図8に示すように、この工程S2で定義された照明方向からホログラム20を照明する光Lcだけでなく、定義された照明方向とは異なる方向からホログラム20を照明する光Lc1,Lc2によっても、ホログラム20に記録された画像30が再生されるようになる。ただし、この場合、これらの光Lc1,Lc2による再生光Lb1,Lb2の進行方向は、この工程S2で定義された再生光Lbの進行方向(すなわち、観察方向)とは異なる方向となる。すなわち、定義された観察方向とは異なる方向から、ホログラム20によって再生される画像30が観察される。
【0058】
また、式(1)中のλは、照明光の波長である。したがって、照明光の照明方向が同一に維持されている場合、照明光の波長が変化すれば、照明光が回折される方向、言い換えると、再生光の進行方向が変化するようになる。すなわち、照明光の照明方向が同一であっても、照明光の波長が異なれば、画像が観察されるようになる方向が変化する。後述するように、本実施の形態によるホログラム20は、計算機合成ホログラムのこのような特性を利用して、優れた作用効果を奏することができるように構成されている。
【0059】
次に、図6に示すように、媒体22の記録面上における演算点が特定される(工程S3)。演算点は、作製対象となるホログラム20に対して要求される解像度等を考慮して定義される。次に、演算点毎に、物体光と参照光との干渉波の強度が演算され、干渉縞データが算出される(工程S4)。なお、物体光については、まず、記録されるべき画像30の表面を、多数の点光源の集合として取り扱う。そして、各点光源から演算対象となる演算点に進む光を、当該演算点における干渉波強度の演算において考慮される物体光として取り扱う。
【0060】
なお、各演算点について干渉波強度を演算する際に、すべての点光源から物体光が演算対象となる演算点に照射されると考える必要はない。本実施の形態では、図9に示すように、記録されるべき原画像41,42,43および記録用媒体22が、それぞれ、複数M個の単位領域に分割されている。ここで、原画像41,42,43上に定義されたM個の単位領域Ab1〜Abmと記録用媒体22上に定義されたM個の単位領域Aa1〜Aamとは、それぞれ、1対1に対応させられている。原画像41,42,43の各単位領域Ab1〜Abmには、物体光を発光すると想定される多数の点光源が含まれている。また、記録用媒体22の各単位領域Aa1〜Aamには、多数の演算点が含まれている。そして、1つの演算点について干渉波の強度を演算する際には、その演算点が所属する記録媒体22上の単位領域Aa1〜Aamに対応した原画像41,42,43上の単位領域Ab1〜Abm内の光源のみを考慮して、演算が行われるようになっている。
【0061】
図9は、上述した図5と同様の断面において、ホログラム20をなすようになる記録用媒体22を示している。すなわち、図9は、記録用媒体22の表面への法線方向および定義された照明光の照明方向と平行な面において、記録用媒体22(ホログラム20)を示している。そして、本実施の形態において、記録用媒体22(ホログラム20)は、図9に示される断面において、一側から他側に向けてM個に分割され、M個の単位領域Aa1〜Aamが形成されている。
【0062】
したがって、図11に示すように、記録媒体22の単位領域Aa1〜Aamの各々は細長状に形成されるとともに、M個の単位領域Aa1〜Aamは並列配置されている。記録用媒体22の各単位領域Aa1〜Aamの長手方向は、上述の工程S2で定義された照明光の照明方向に対して直交している。記録用媒体22の単位領域Aa1〜Aamの幅(配列ピッチに相当)は、人間の目では視認不可能な程度(例えば、300μm以下)に設定されるとともに、干渉縞がホログラムとして機能し得る程度(例えば、5μm以上)に設定されている。また、本実施の形態において、記録媒体22上に定義されたM個の単位領域Aa1〜Aamの幅は互いに同一となっている。
【0063】
同様に、記録されるべき各原画像41,42,43も、図9に示される断面において、一側から他側に向けてM個に分割されて、単位領域Ab1〜Abmが形成されている。すなわち、記録されるべき各原画像41,42,43の単位領域Ab1〜Abmが並べられる方向は、記録媒体22の単位領域Aa1〜Aamgが並べられる方向と平行になっている。そして、記録用媒体22(ホログラム20)の一つの単位領域Aa1〜Aamは、記録用媒体22の法線方向に沿って対面する位置に配置された各原画像41,42,43の一つの単位領域Ab1〜Abmと関連付けられている。
【0064】
図10は、図9のX−X線に沿った断面を示している。記録用媒体22(ホログラム20)の各単位領域Aa1〜Aamには、その長手方向に並べて配置された多数の演算点Pa1〜Pakが定義されている。上述したように、演算点Pa1〜Pakの数は、作製対象となるホログラムに要求される品質等に応じて、決定され得る。例えば、各単位領域Aa1〜Aamに、その長手方向に並べられた演算点Pa1〜Pakの列が複数列定義されるようにしてもよい。
【0065】
また、図10には全てを図示していないものの、上述してきたように、記録されるべき各原画像41,42,43の表面は、点光源の集合として構成されている。そして、記録用媒体22(ホログラム20)の一単位領域Aanに含まれる一つの演算点Paiについて干渉波強度の演算を行う際には、一単位領域Aanに対応する各原画像41,42,43の単位領域Abnに属する点光源Pbのうち、演算対象となる演算点Paiに入射し得る点光源Pbのみを考慮する。これにより、ホログラム20によって再生される画像30に対して、隠面処理が施され、画像30が立体的に表現され得るようになる。
【0066】
なお、記録用媒体22の各単位領域Aa1〜Aamgの長手方向(単位領域の配列方向と直交する方向:図9および図11参照)が、ホログラム20の使用時に水平方向と平行になることが好ましい。この場合、ホログラム20が水平方向に大きな視差を有することになる。すなわち、通常の状態で水平方向に離間した二つの目を有する人間に対して、より立体的に表現された画像30を再生することが可能となる。
【0067】
以上のようにして干渉縞データが算出される。ただし、上述したように、ホログラム20を量産する際には、まず、マスター版を作製することが多くある。そして、マスター版をエンボス原版として用い、マスター版とは起伏が逆になった凹凸形状を有するホログラム20が量産される。その一方で、ここまでで説明してきた方法で算出される干渉縞データは、ホログラム20を構成するようになる媒体22に記録されるべき干渉縞データである。したがって、マスター版をまず形成する場合には、上述してきた方法で算出される干渉縞データに対して適宜変換処理を実施する必要がある。あるいは、マスター版をなすようになる媒体に記録されるべき干渉縞データを、上述してきた方法で算出するようにしてもよい。
【0068】
ところで上述したように、本実施の形態において、ホログラム20によってカラー画像30が再生される。その一方で、干渉縞データを演算する際には、物体光および参照光をなす光の波長が特定されなければならない。そこで、本実施の形態においては、図2に示す第1の色成分の像31を緑色で表示する原画像41に関する干渉縞データと、図3に示す第2の色成分の像32を赤色で表示する原画像42に関する干渉縞データと、図4に示す第3の色成分の像33を青色で表示する原画像43に関する干渉縞データと、が媒体22に記録されている。
【0069】
この際、図11に示すように、媒体22の各単位領域Aa1〜Aamは、単位領域の配列方向に沿って三分割され、第1分割領域Aa1r〜Aamr、第2分割領域Aa1g〜Aam1gおよび第3分割領域Aa1b〜Aam1bから構成されている。各分割領域は、単位領域Aa1〜Aamの長手方向に沿って細長く延びており、その長手方向にそって上述した演算点Paが並べて定義されている。各分割領域に含まれる演算点Pa1〜Pakの数は、上述したように、作製対象となるホログラム20に要求される品質等に応じて、決定され得る。そして、各分割領域に、その長手方向に並べられた演算点の列が複数列定義されるようにしてもよい。
【0070】
そして、上述した方法にしたがって、第2分割領域Aa1g〜Aam1gに属する演算点Paについて、物体光および参照光の干渉波の強度を演算していくことにより、第1の色成分の像31を緑色で表示する原画像41に関する干渉縞データが算出される。この演算を行う際、物体光および参照光の波長は、上述した緑色光の波長帯域の波長に設定される。
【0071】
また、上述した方法にしたがって、第1分割領域Aa1r〜Aam1rに属する演算点Paについて、物体光および参照光の干渉波の強度を演算していくことにより、第2の色成分の像32を赤色で表示する原画像42に関する干渉縞データが算出される。この演算を行う際、物体光および参照光の波長は、上述した赤色光の波長帯域の波長に設定される。
【0072】
さらに、上述した方法にしたがって、第3分割領域Aa1b〜Aam1bに属する演算点Paについて、物体光および参照光の干渉波の強度を演算していくことにより、第3の色成分の像33を青色で表示する原画像43に関する干渉縞データが算出される。この際、物体光および参照光の波長は、上述した青色光の波長帯域の波長に設定される。
【0073】
なお、以上の三つの原画像41,42,43に関する演算において、ある分割領域に属する1つの演算点について干渉波の強度を演算する際には、その当該分割領域が属する記録媒体22の単位領域Aa1〜Aamに対応した画像30上の単位領域Ab1〜Abm内の点光源Pbのみを考慮して、演算が行われる。
【0074】
また、以上の三つの原画像41,42,43に関する干渉縞データの演算において、上述した干渉縞データの算出方法において特定される空間配置は、互いに同一に設定される。この結果、後述するように、一定の照明方向から白色光がホログラム20に照射された場合に、緑色で表示される第1の色成分の像31、赤色で表示される第2の色成分の像32、および、青色で表示される第3の色成分の像33が、照明方向に対応して特定される一つの方向に再生されるようになる。そして、照明方向に対応して特定される前記一つの方向において、三つの再生像を組み合わせてなるカラー画像30が観察され得るようになる。
【0075】
以上のような方法により作製されたホログラム20は、複数の干渉縞データを記録されている。複数の干渉縞データは互いに異なる原画像41,42,43についてのものである。すなわち、カラー画像を再生するための干渉縞データは、複数の原画像41,42,43に関する干渉縞データを含んでいる。また、複数の干渉縞データはホログラム20の記録媒体22の表面の互いに異なる領域に形成されている。
【0076】
次に、以上のようなホログラム20の作用について説明する。
【0077】
図12に示すように、ホログラム20の干渉縞データを算出する際に定義された照明方向からホログラム20に対して光を照明する。ホログラム20の照明には、通常、太陽光や室内照明器具12から照射される白色光が用いられ得る。白色光Lwは、反射層24で反射されて、ホログラム20に対する照明光として機能する。そして、図12に示すように、白色光Lwは、ホログラム20の媒体22において所定の方向に回折される。このとき回折される所定の方向は、ホログラム20の干渉縞データを算出する際に定義された観察方向(再生光の進行方向)となる。回折された白色光Lwは、再生光Lbr,Lbg,Lbbとして機能し、ホログラム20に記録された画像30を再生するようになる。すなわち、観察者は、予め定義された観察方向から再生された画像を観察することが可能となる。
【0078】
なお、上述したホログラム20では、図11に示すように、媒体22の表面が、三つのグループのいずれかに属するようになる多数の区域に分割されている。そして、三つにグループのうちの一つである第2分割領域Aa1g〜Aamgには、緑色で表示された第1の色成分の像31に関する干渉縞データが記録されている。したがって、予め定義された照明方向からホログラム20に入射してホログラム20をなす媒体22の第2分割領域Aa1g〜Aamgで回折された再生光は、図2に示す第1の色成分の像31を緑色で表示する。
【0079】
また、第1分割領域Aa1r〜Aamrには、赤色で表示された第2の色成分の像32に関する干渉縞データが記録されている。そして、予め定義された照明方向からホログラム20に入射して媒体22の第1分割領域Aa1r〜Aamrで回折された再生光は、図3に示す第2の色成分の像32を赤色で表示する。
【0080】
同様に、第3分割領域Aa1b〜Aambには、青色で表示された第3の色成分の像33に関する干渉縞データが記録されている。そして、予め定義された照明方向からホログラム20に入射して媒体22の第3分割領域Aa1b〜Aambで回折された再生光は、図4に示す第3の色成分の像33を青色で表示する。
【0081】
図11に示すように、媒体22の各単位領域、さらには媒体22の各分割領域は、細長状に設計され、その幅は人間に目では認識不可能な程度にまで狭くなっている。このため、観察方向からホログラム20を観察する観察者10には、第1の色成分の像31と、第2の色成分の像32と、第3の色成分の像33と、を単独で認識することは不可能となる。結果として、これらの異なる色成分の像31,32,33の加法混色としての図1のカラー画像30が、観察されるようになる。
【0082】
なお、図2に示すように、第1の色成分の像31には、特定の情報、本実施の形態では、ホログラム20自身の真贋判定情報を表示する隠し画像31aが含まれている。具体的には、第1の色成分の像31には「本物」という隠し文字が含まれている。そして、カラー画像30を構成する第1の色成分の像31をなす光(つまり、緑色の光)のみを選択的に透過させる部材18を介してホログラム20からの再生光Lbを観察した場合(図13に示す観察態様)、あるいは、カラー画像30を構成する第1の色成分の像をなす光を選択的に透過させる部材18を通過した照明光Lcをホログラム20で回折させてなる再生光Lbを観察した場合には、観察者10は、第1の色成分の像31のみを単独で観察することができるようになる。ここで、カラー画像30を構成する第1の色成分の像をなす光を選択的に透過させる部材18としては、カラー画像30を構成する第1の色成分の像をなす光の色と同系色を有するセロファン等を用いることができる。このようなセロファンは、安価且つ容易に入手可能である。
【0083】
すなわちカラー画像30を構成する第1の色成分の像をなす光のみを選択的に透過させる部材18を光路中に介在させるといった、極めて容易に操作によって、隠し画像31aが含まれた第1の色成分の像31を観察することができ、さらに、隠し画像31に含まれた真贋判定情報を読み取ることができる。このように、ホログラム20が本物であること、さらに、ホログラム20が貼り付けられた物品15、例えばカード等が本物であることを、極めて容易かつ正確に判断することが可能となる。
【0084】
その一方で、上述したように通常の観察では、人間の目では、第1の色成分の像31のみを分解して視認することは不可能である。そして、第1の色成分の像31と重ね合わされる第2の色成分の像32および第3の色成分の像33には、それぞれ、ノイズ画像32a,33aが含まれている。このノイズ画像32a,33aは、第2の色成分の像32または第3の色成分の像33が第1の色成分の像31と重ね合わせられた場合に、第1の色成分の像31の隠し画像31aによって表示される真贋判定情報の読み取りを困難とするように構成されている。すなわち、第1の色成分31の隠し画像31aは、第2の色成分の像32のノイズ画像32aによって、または、第3の色成分の像33のノイズ画像33aによって、または、第2の色成分の像32のノイズ画像32aおよび第3の色成分の像33のノイズ画像33aの両方によって、通常の観察時には、読み取り困難となっている。
【0085】
すなわち、ホログラム20は、通常の観察態様では観察されない隠し画像31aを含んでいる。このように隠し画像31aの秘匿性(秘密性)が高いことから、このホログラム20を偽造することは困難である。
【0086】
とりわけ、本実施の形態においては、ホログラム20によって再生される画像30は、ある意味を有した画像(有意味画像)として構成されている。具体的には、画像30は、球体36と、球体36の周囲を延びる二つにリング38と、を有している。そして、リング38は、「GENUINE」との文字列が並べられることによって構成されている。したがって、このホログラム20を手にした者は、このホログラム20が、単に「GENUINE」との文字列によって真正性を表示するための表示体であると、認識するだろう。また、球体36については、「GENUINE」との文字列との組み合わせによって、再生される画像をより立体的に表現するため、さらには、再生される画像の意匠性を向上させるための幾何学的形状であると、認識するだろう。
【0087】
このように、ホログラム20によって再生される画像30が何らかの意味を有した画像である場合には、再生される画像30に隠し画像31aがさらに含まれていることを想到すること自体が困難となる。したがって、さらに進んで、隠し画像31aがカラー画像30を構成する一つの色成分の分解像31によって形成されているといった、カラー画像31aを潜在化させる方法にまで想到することは、極めて困難となる。このように秘匿性の高い隠し画像31aがホログラム20に記録されていることから、このホログラム20は非常に偽造されにくくなる。したがって、このホログラム20によれば、真正性の判断を正確に実施することができる。
【0088】
加えて、本実施の形態によるホログラム20は、三原色で表示された原画像、すなわち、緑色で表示された原画像41、赤色で表示された原画像42および青色で表示された原画像43のそれぞれに関する干渉縞データを、記録されている。そして、この三つの原色で表示される原画像41,42,43の加法混色によって、フルカラー画像30が再生されるようになる。すなわち、ホログラム20によって、所望の色で表示されるフルカラー画像を正確に再現することができる。さらに、本実施の形態によるホログラム20によれば、水平方向における顕著な視差を確保することができるようになる。すなわち、観察者が水平方向に沿って観察方向を変化させていくと、観察方向の変化に応じて、ホログラム20によって再生される画像30は大きく変化していく。これにより、ホログラム20によって、所望の立体的な形状を正確に再現することができる。このように所望される画像を極めて正確に再現し得るホログラム20によれば、優れた意匠性を確保することができる。そして、そもそも、このような精巧なホログラム20は偽造され難いといった利点も享受することができる。
【0089】
なお、以上の説明においては、所定の照明方向からホログラム20に白色光が照明され、さらに、所定の観察方向からホログラム20を観察することを前提として、ホログラム20の作用を説明してきた。しかしながら、図8を用いて説明したように、干渉縞データの演算時に定義された所定の照明方向とは異なる方向からホログラム20が白色光によって照明された場合であっても、ホログラム20によって再生される画像30を観察することができる。また、干渉縞データの演算時に定義された所定の観察方向とは異なる方向からホログラム20を観察した場合であっても、ホログラム20によって再生される画像30を観察することができる。具体的には、上述した式(1)を満たすように、ホログラム20を照明する照明光が、照明光による照明方向に関連して特定される所定の方向に回折される。
【0090】
このように、唯一の条件下でのみ第1〜第3の色成分の像31,32,33の重ね合わせとしてのカラー画像30が観察されるわけではなく、ホログラム20の向き(結果として、照明光による照明方向)や観察方向を適当に変化させてやることにより、第1〜第3の色成分の像31,32,33の重ね合わせてとしてのカラー画像30が、観察されるようになる。また、第1〜第3の色成分の像31,32,33の重ね合わせてとしてのカラー画像30が観察される条件で、カラー画像30を構成する第1の色成分の像31をなす光(つまり、緑色の光)のみを選択的に透過させる上述の部材18を用いることにより、第1の色成分の像31に含まれた隠し画像31aから真贋判定情報を読み取ることが可能となる。すなわち、本実施の形態によるホログラム20は角度選択性が弱く、種々の条件下において、ホログラム20の真正性およびホログラム20を貼付された物品15の真正性を、上述したようにして正確かつ容易に判断することができる。
【0091】
ところで、上述した式(1)が満たされるということは、第1の色成分の像31に対応する干渉縞データ(厳密には、第1の色成分の像31に対応する第1の原画像41に関する干渉縞データであって、緑色の物体光および参照光を考慮して算出された干渉縞データ)が記録された媒体22中の第2の分割領域Aa1g〜Aamgにおいて、カラー画像30を構成する第1の色成分の像31をなす光(本実施の形態では、緑色の光)とは異なる波長λを有した光、例えば、カラー画像30を構成する第2および第3の色成分の像32,33をなす光(本実施の形態では、赤色の光および青色の光)も回折され得ることを意味する。そして、カラー画像30を構成する第2の色成分の像32をなす光が第2の分割領域Aa1g〜Aamgにおいて回折されると、当該回折光は、真贋判定情報を表示する隠し画像31aが含まれた像、つまり、第1の色成分の像31を、カラー画像30を構成する第2の色成分の像32をなす光の色(本実施の形態では、赤色)で再生するようになる。同様に、カラー画像30を構成する第3の色成分の像33をなす光が第2の分割領域Aa1g〜Aamgにおいて回折されると、当該回折光は、真贋判定情報を表示する隠し画像31aが含まれた像、つまり、第1の色成分の像31を、カラー画像30を構成する第3の色成分の像33をなす光の色(本実施の形態では、青色)で再生するようになる。
【0092】
ただしこの際、あくまでも上述した式(1)を満たすことが条件となる。したがって、各波長帯域の光がホログラム20を照明する方向が互いに同一である場合、例えば、照明器具や太陽からの白色光が照明光に用いられ、種々の波長帯域の光が互いに同一の方向でホログラム20を照明する場合には、第2の分割領域Aa1g〜Aamgに記録された像は、異なる色で異なる方向に再生されるようになる。
【0093】
なお、白色光が照明光として用いられた際に、異なる色の光によって、同一の画像が異なる方向に再生される現象は、いわゆる色分散と呼ばれる現象であり、第2の分割領域Aa1g〜Aamgに入射する光に限られず、第1の分割領域Aa1r〜Aamrおよび第3の分割領域Aa1b〜Aambに入射する光に対しても同様に生じる。
【0094】
そして、本実施の形態によるホログラム20によれば、以下に説明するように、色分散に影響されることなく、隠し画像31aの高い秘匿性を獲得することが可能となっている。
【0095】
以下においては、一例として、室内照明器具からの光または太陽光がホログラム20に入射する状況を考える。この状況下では、ホログラム20に対して種々の色の光(異なる波長を有した種々の光)を含む白色光が、一定の照明角度で、ホログラム20に照射されることになる。
【0096】
図14〜図18には、上述してきた本実施の形態によるホログラム20に同一の入射角度で入射した赤色の光、緑色の光および青色の光が、それぞれ、回折されるようになる方向が図示されている。図14では、ホログラム20の記録用媒体22の単位領域Aaのうちの第1の分割領域Aarに入射した光の回折方向が示されている。同様に、図15には、第2の分割領域Aagに入射した光の回折方向が示され、図16には、第3の分割領域Aabに入射した光の回折方向が示されている。一方、図17および図18では、単位領域Aaをなす三つの分割領域Aar、Aag,Aabに入射した光の回折方向が示されている。
【0097】
なお、図14〜図18は、ホログラム20の表面への法線方向および照明光の照明方向との両方に平行な断面において、ホログラム20を示している。また、図14〜図18では、赤色の光が短い点線で示され、緑色の光が実線で示され、青色の光が長い点線で示されている。さらに、図14〜図18では、第1の色成分の像31を再生する回折光を直線で示し、第2の色成分の像32を再生する回折光を波線で示し、第3の色成分の像33を再生する回折光を折れ線で示している。
【0098】
上述したように、本実施の形態によるホログラム20においては、第2の分割領域Aagには、緑色の参照光と、ホログラム20の法線方向に進む緑色の物体光と、の干渉波の強度を演算することにより得られた干渉縞データであって、図2に示す第2の色成分の画像31を再生するための干渉縞データが、記録されている。同様に、第1の分割領域Aarには、赤色の参照光と、ホログラム20の法線方向に進む赤色の物体光と、の干渉波の強度を演算することにより得られた干渉縞データであって、図3に示す第2の色成分の画像32を再生するための干渉縞データが、記録されている。さらに、第3の分割領域Aabには、青色の参照光と、ホログラム20の法線方向に進む青色の物体光と、の干渉波の強度を演算することにより得られた干渉縞データであって、図4に示す第3の色成分の画像33を再生するための干渉縞データが、記録されている。
【0099】
したがって、照明光の入射角度が参照光の入射角度と一致した場合、図15に示すように、ホログラム20の第2の分割領域Aagに入射した白色光のうち、緑色成分の回折光(再生光)Lbggは、ホログラム20の法線方向に、図2に示す緑色成分の像31を再生する。同一の条件下において、図14に示すように、ホログラム20の第1の分割領域Aarに入射した白色光のうち、赤色成分の回折光(再生光)Lbrrは、ホログラム20の法線方向に、図3に示す赤色成分の像32を再生する。さらに、同一の条件下において、図16に示すように、ホログラム20の第3の分割領域Aabに入射した白色光のうち、青色成分の回折光(再生光)Lbbbは、ホログラム20の法線方向に、図4に示す青色成分の像33を再生する。
【0100】
この結果として、図17に示すように、緑色で表示される図2の第1の色成分の像31と、赤色で表示される図3の第2の色成分の像32と、青色で表示される図4の第3の色成分の像33と、がホログラム20の法線方向に再生される。したがって、ホログラム20の正面方向(図17における観察方向d1)から、図1に示すカラー画像30が、緑色、赤色および青色によってそれぞれ表現された図2〜図4の分解像31,32,33の重ね合わせとして、観察され得るようになる。
【0101】
その一方で、図15に示すように、ホログラム20の第2の分割領域Aagに入射した白色光のうち、赤色成分の回折光(再生光)Lbgrは、ホログラム20の法線方向よりも上方に傾斜した方向に進んでいく。そして、この赤色回折光Lbgrは、その進行方向に、赤色成分で表現された図2の像31を再生するようになる。同様に、図16に示すように、ホログラム20の第2の分割領域Aa1に入射した白色光のうち、青色成分の回折光(再生光)Lbgbは、ホログラム20の法線方向よりも下方に傾斜した方向に進んでいく。そして、この青色回折光Lbgbは、その進行方向に、青色成分で表現された図2の像31を再生するようになる。すなわち、隠し画像31aを含んだ図2の像31は、緑色成分で表現される方向(ホログラム20の法線方向)を中心として或る程度の角度で上下に傾斜した範囲r1(図17参照)に再生されるようになる。
【0102】
このような色分散は、上記式(1)を満たすように各波長の光が回折されることにより生じる。そして、緑色成分の光の波長は、赤色成分の光の波長よりも短く、青色成分の光の波長よりも長い。この結果として、緑色成分の回折光の進行方向は、可視光のうちの最長波長を有する赤色成分の回折光の進行方向と、可視光のうちの最短波長を有する青色成分の回折光の進行方向と、の間に位置するようになる。そして、像が緑色に再生される再生方向に対して上下に或る程度の傾斜角度で傾斜した範囲r1内において同一の像31が緑色以外の色で再生されるようになる。
【0103】
同様の現象が、ホログラム20の第1の分割領域Aarで回折された回折光Lbrr,Lbrg,Lbrb(図14および図17参照)、および、ホログラム20の第3の分割領域Aa1b〜Aambで回折された回折光Lbbr,Lbbg,Lbbb(図16および図17参照)にも生じる。
【0104】
具体的には、図14に示すように、ホログラム20の第1の分割領域Aarに入射した白色光のうち、緑色成分の回折光(再生光)Lbrgは、ホログラム20の法線方向よりも下方に傾斜した方向に進む。また、ホログラム20の第1の分割領域Aarに入射した白色光のうち、青色成分の回折光(再生光)Lbrbは、緑色成分の回折光(再生光)Lbrgの進行方向よりもさらに下方に傾斜して進む。すなわち、ホログラム20の法線方向から、この法線方向に対して大きな角度で下方に傾斜した方向まで、の範囲r2(図17参照)において、図3の像32が種々の色で再生されるようになる。
【0105】
同様に、図16に示すように、ホログラム20の第3の分割領域Aabに入射した白色光のうち、緑色成分の回折光(再生光)Lbbgは、ホログラム20の法線方向よりも上方に傾斜して方向に進む。また、ホログラム20の第3の分割領域Aabに入射した白色光のうち、青色成分の回折光(再生光)Lbbbは、緑色成分の回折光(再生光)Lbbgの進行方向よりもさらに上方に傾斜して進む。すなわち、ホログラム20の法線方向から、この法線方向に対して大きな角度で上方に傾斜した方向まで、の範囲r3(図3参照)において、図4の像33が種々の色で再生されるようになる。
【0106】
本実施の形態では、第1〜第3の色成分の像31,32,33に対応する三つの原画像41,42,43に関する干渉縞データが記録されている。これらの干渉縞データを算出する際に、空間配置を同一に定義するとともに、各原画像の色を互いに異なる色に設定した。この結果、第1〜第3の色成分の像31,32,33は、これらの干渉縞データによって同一の位置に異なる色で再生され、これにより、図1に示すカラー画像30が観察されるようになっている。
【0107】
そして、隠し画像31aを含む第1の色成分の像31を再生するための干渉縞データは、緑色の物体光および緑色の参照光の干渉波の強度を演算して算出されている。一方、ノイズ画像32aを含む第2の色成分の像32を再生するための干渉縞データは、赤色の物体光および赤色の参照光の干渉波の強度を演算して算出され、ノイズ画像33aを含む第3の色成分の像33を再生するための干渉縞データは、青色の物体光および青色の参照光の干渉波の強度を演算して算出されている。すなわち、第1の色成分の像31に関する干渉縞データを算出するために用いられた光の波長帯域のピーク波長は、第2の色成分の像32に関する干渉縞データを算出するために用いられた光の波長帯域のピーク波長よりも短く、第3の色成分の像33に関する干渉縞データを算出するために用いられた光の波長帯域のピーク波長よりも長い。
【0108】
この結果、図17に示すように、第1の色成分の像31が白色光を用いて再生されるようになる方向の範囲r1は、第2の色成分の像32が白色光を用いて再生されるようになる方向の範囲r2、および、第3の色成分の像33が白色光を用いて再生されるようになる方向の範囲r3の少なくとも一方と重なっている。すなわち、隠し画像31aを含んだ第1の色成分の像31が、単独で観察されるようになる観察方向はない。隠し画像31aを含んだ第1の色成分の像31は、常に、ノイズ画像32aを含んだ第2の色成分の像32およびノイズ画像33aを含んだ第3の色成分の像33の少なくとも一方と重ねられた状態で観察されるようになる。
【0109】
具体的には、ホログラム20の法線方向から観察した場合には、上述したように、三つの色成分の像31,32,33を重ね合わせた画像、すなわち、図1に示すフルカラー画像30が観察される。
【0110】
また、一例として、ホログラム20を斜め下方に見下ろす方向(図17における観察方向d2)からホログラム20を観察した場合には、赤色で表示される第1の色成分の像31と、緑色で表示される第3の色成分の像33と、を重ね合わせた画像が観察される。この際、赤色で表示された第1の色成分の像31の隠し画像31aは、緑色で表示された第3の色成分の像33のノイズ画像33aと重ね合わされ、隠し画像31aによって表示される真贋判定情報(「本物」という文字)を読み取ることはできない。
【0111】
同様に、ホログラム20を斜め上方に見上げる方向(図17における観察方向d3)からホログラム20を観察した場合には、青色で表示される第1の色成分の像31と、緑色で表示される第2の色成分の像32と、を重ね合わせた画像が観察される。この際、青色で表示された第1の色成分の像31の隠し画像31aは、緑色で表示された第2の色成分の像32のノイズ画像32aと重ね合わされ、隠し画像31aによって表示される真贋判定情報(「本物」という文字)を読み取ることはできない。
【0112】
その一方で、図17に示すように、青色で表示された第2の色成分の像32は、大きく下方に傾斜した方向(図17における観察方向d5)から、単独で観察され得る。また、赤色で表示された第3の色成分の像33も、大きく上方に傾斜した方向(図17における観察方向d4)から、単独で観察され得る。
【0113】
本実施の形態では、単独でも観察され得る、第2および第3の色成分の像32,33のノイズ画像32a,33aが、第1〜第3の色成分の像32,33の間で共通する像(本実施の形態では、球体36)上のランダム階調パターン(ランダム濃淡パターン)である。したがって、本実施の形態によれば、ホログラム20の再生像30,31,32,33が観察され得る全ての範囲r1,r2,r3において、共通する立体像36,38と、像36の表面上に形成されたランダムパターンと、が観察されるようになる。すなわち、通常の注意力で観察すれば、照明光の照明方向や観察方向を変化させたとしても再生像の色合いが変化しているに過ぎない、としか認識できないだろう。そして、このような色合いの変化はレインボウホログラムに見られる典型的な現象であることから、隠し画像31aの秘匿性は極めて高いといえる。
【0114】
なお、図18に示すように、再生光または照明光が、緑色成分の光のみを選択的に透過させる部材18を透過するようにした場合、ホログラム20を斜め下方に見下ろす方向(図17および図18における観察方向d2)からは、第3の色成分の像33のみが観察される。また、再生光または照明光が緑色成分の光のみを選択的に透過させる部材18を透過するようにした場合、ホログラム20を斜め上方に見上げる方向(図17および図18における観察方向d3)からは、第2の色成分の像32のみが観察される。
【0115】
さらに、既に説明したように、カラー画像30を構成する第1の色成分の像31をなす光(本実施の形態では、緑色の光)のみを選択的に透過させる部材18を用いることによって、隠し画像31aを含む第1の色成分の像31を顕在化させる場合、照明光の照明方向に応じて特定される一つの方向から隠し画像31aを観察することができる。その一方で、例えば、カラー画像30を構成する第2の色成分の像32をなす光(本実施の形態では、赤色の光)のみを選択的に透過させることができる部材を用いることによっても、第1の色成分の像31を顕在化させることができる。図17から理解することができるように、ホログラム20を斜め下方に見下ろす方向(図17における観察方向d2)から、赤色で表示される第1の色成分の像31が観察され、これにより、隠し画像31aの真贋判定情報を読み取ることができる。同様に、カラー画像30を構成する第3の色成分の像33をなす光(本実施の形態では、青色の光)のみを選択的に透過させる部材を用いることによっても、第1の色成分の像31を顕在化させることができる。ホログラム20を斜め上方に見上げる方向(図17における観察方向d3)から、青色で表示される第1の色成分の像31が観察され、これにより、隠し画像31aの真贋判定情報を読み取ることができる。すなわち、特定の色成分の光のみを選択的に透過させる部材(バンドパスフィルタ)を用いることにより、限られた方向のみから、隠し画像31aを観察することが可能となる。
【0116】
以上のような実施の形態のホログラム20によれば、照明光を受けることによって、照明光の照明方向に応じた特定の方向にカラー画像30が再生されるようになる。そして、照明光によって特定の方向に再生されるカラー画像30は、互いに異なる色成分で表示される像31,32,33を含んでいる。このうち、一つの色成分の像31は、特定の情報を表示する隠し画像31aを含み、他の色成分の像32,33は、隠し画像33が再生される領域(本実施の形態では、球体36の表面の領域)を含む領域に再生されるノイズ画像32a,33aを含んでいる。このノイズ画像32a,33aによって、通常の照明光、すなわち、室内照明器具からの光や太陽光等からなる白色光を用いて再生されるカラー画像30を観察する場合、特定の色成分の隠し画像31aに含まれる特定の情報(本実施の形態では、真贋判定情報)を読み取ることができない。その一方で、隠し画像31aをなす色成分の光のみを選択的に透過させるフィルタ18、例えば、安価且つ容易に入手可能な色セロファンを通してホログラムを観察した場合には、隠し画像31aを表示する色成分以外の色成分はフィルタ18に吸収され、隠し画像31aを表示する色成分の像のみが観察されるようになる。すなわち、隠し画像31aをなす色成分の光のみを選択的に透過させるフィルタ18を用いるといった簡易な方法法により、隠し画像31aの情報を明確に読み取ることが可能となる。このように、本実施の形態によるホログラム20によれば、隠し画像31aの存在を予め知っていれば、安価且つ容易な方法によって隠し画像31aの情報を明確に読み取ることができるとともに、隠し画像31aの存在を予め知らなければ、隠し画像31aの存在に気付くこと自体が難しくなる。これにより、意図せず隠し画像31aの情報が読み取られる可能性を極めて低くすることができる。
【0117】
したがって、このようなホログラム20は、真正性を表示する表示体として極めて有効に機能することができる。この用途において、隠し画像31aは、ホログラム20の真正性、および、これにともなってホログラム20を貼り付けられた物品15の真正性を示す情報、すなわち、真贋判定情報を、特定の情報として表示する。上述したように、真贋判定情報の存在が気付かれ難いことから、真正性表示体としてのホログラム20の偽造防止効果は極めて高いものとなる。その一方で、真正性表示体としてのホログラム20の真贋の判定を、極めて容易かつ正確に行うことができる。
【0118】
また、本実施の形態によれば、ホログラム20の再生画像30が、三種類の色成分を用いてカラーで表示されている。とりわけ、赤色、緑色および青色の三原色によって、ホログラム20の再生像30をフルカラーで表現することができる。これにより、ホログラム20の再生画像に優れた意匠性を付与することができる。
【0119】
さらに、本実施の形態によれば、隠し画像31aを有するとともにカラー画像を構成する第1の色成分の像31を再生する光のピーク波長は、カラー画像を構成する他の二つの色成分の画像のうちの一方の画像を再生する光のピーク波長よりも短く、他の二つの色成分の画像のうちの他方の画像を再生する光のピーク波長よりも長い。具体的には、隠し画像31aを有する第1の色成分の像31は、カラー画像30を構成する際に、緑色によって表示され、他の二つの色成分の像32,33は、カラー画像30を構成する際に、赤色および青色によって表示される。干渉縞データが照明光を特定の方向に回折させる凹凸形状として記録された計算機合成ホログラムにおいては、波長に依存して、回折方向が変化する。具体的には、長波長の光の方が、回折により、大きく進行方向を変化させるようになる。したがって、このようなホログラム20においては、白色光が照明光となる場合、いわゆる色分散が生じ、緑色光の回折方向は、赤色光の回折方向と青色光の回折方向との間に位置するようになる。すなわち、青色の再生像が観察される方向と、赤色の再生像が観察される方向と、の間に、緑色の再生像が観察される方向が存在するようになる。このため、照明光の入射方向が予定した方向からずれる、あるいは、再生光を観察する方向が予定した方向からずれる等して、三つの像31,32,33の重ね合わせとしてのカラー画像30が観察される方向以外の方向から、ホログラム20が観察される場合であっても、隠し画像31aを含む像31が、他の色成分の像32,33と重ね合わせられることなく単独で観察されてしまうことはない。つまり、予期せず、隠し画像31aに含まれる特定の情報が読み取られてしまうことを効果的に防止することができる。
【0120】
さらに、本実施の形態においては、ホログラム20によって再生されるカラー画像30は、何らかの意味を有する像(有意味画像、本実施の形態では、球体36および文字列からなるリング38)を含んでおり、カラー画像30において、隠し画像31aおよびノイズ画像32a,33aが形成されている領域(球体36の表面)には、ランダム着色パターンで着色が施されている。このような本実施の形態によれば、有意味像によって隠し画像31aが入っていることが気付かれにくくなるため、偽造防止機能がさらに向上する。その一方で、隠し画像31aおよびノイズ画像32a,33aが形成されている領域がランダム着色パターンで着色を施されているので、ノイズ画像32a,33aの設計が極めて容易となる。この結果、ホログラム20の製造コストを低減することができる。
【0121】
以上、本発明を図示する一実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は以上の実施の形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で本発明を実施することが可能である。
【0122】
例えば、上述した実施の形態においては、隠し画像31aを含む第1の色成分の像31が、ノイズ画像32a,33aをそれぞれ含む第2および第3の色成分の像32,33と共通する像(具体的には、球体36および文字列からなるリング38)を含む例を示したが、これに限られない。例えば、特許文献2に開示された表示体と同様に、隠し画像を観察する際に通常画像が視認されないようにすること、すなわち、観察条件の変更により、隠し画像および通常画像のいずれか一方のみが観察され得るようにしてもよい。
【0123】
また、上述した実施の形態においては、第1の色成分の像31のみが隠し画像31aを有するようにした例を示したが、これに限られない。例えば、第1の色成分の像31が隠し画像31aを有することに代えて、または、第1の色成分の像31が隠し画像31aを有することに加えて、第2の色成分の像32が隠し画像を有するようにしてもよい。この例において、第1の色成分の像31に含まれる隠し画像の読み取りを困難とするノイズ画像が、第2および第3の色成分の像32,33に含まれ、さらに、第2の色成分の像32に含まれる隠し画像の読み取りを困難とするノイズ画像が、第1および第3の色成分の像31,33に含まれるようにしてもよい。さらに、この例において、第1の色成分の像31に含まれる隠し画像と、第2の色成分の像32に含まれる隠し画像と、によって一つの情報が読み取り可能となるように表示されるようにしてもよい。一例として、第1の色成分の像31に含まれる隠し画像が「本物」という文字列のうちの「本」だけを表示し、第2の色成分の像32に含まれる隠し画像が「本物」という文字列のうちの「物」だけを表示するようにしてもよい。
【0124】
さらに、上述した実施の形態においては、三原色で表示される像31,32,33によって、隠し画像31aが含まれたカラー画像30が構成される例を示したが、これに限られない。多数の波長帯域の光によって表示される多数の像から、カラー画像が構成されるようにしてもよい。逆に、二色の像のみからカラー画像が構成されるようにしてもよい。
【0125】
さらに、上述したように、隠し画像を含んだホログラムは計算機合成ホログラムとして形成される必要はなく、種々の型式のホログラムとして作製され得る。なお、隠し画像を含んだホログラムが、レインボウホログラムのように、色分解現象を呈するようなるホログラムであれば、上述したように、再生されるカラー画像が三つ以上の色成分の像を含むように構成されるとともに、最短波長の光によって表示される像および最長波長によって表示される像以外の像に、隠し画像が含まれていることが好ましい。
【符号の説明】
【0126】
10 観察者
12 照明器具
15 物品
18 部材(フィルタ)
20 ホログラム
22 媒体(記録用媒体)
24 反射層
30 カラー画像
31 第1の色成分の像
31a 隠し画像
32 第2の色成分の像
32a ノイズ画像
33 第3の色成分の像
33a ノイズ画像
36 球体
38 リング
41 原画像
42 原画像
43 原画像
46 球体
48 リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー画像を再生するための干渉縞データが記録されたホログラムであって、
前記カラー画像は、第1の色成分の像と、前記第1の色成分とは異なる第2の色成分の像と、を少なくとも含み、
前記第1の色成分の像は、情報を表示する隠し画像を含み、
前記第2の色成分の像は、前記第1の色成分の像および前記第2の色成分の像を少なくとも含む前記カラー画像において前記隠し画像の読み取りを困難にするノイズ画像を含む
ことを特徴とするホログラム。
【請求項2】
前記カラー画像は、前記第1の色成分および前記第2の色成分の両方と異なる第3の色成分の像をさらに含み、
前記第3の色成分の像は、前記カラー画像において前記隠し画像の読み取りを困難にするノイズ画像を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のホログラム。
【請求項3】
前記カラー画像を構成する前記第1の色成分の像を表示する光のピーク波長は、前記カラー画像を構成する前記第2の色成分の像を表示する光のピーク波長よりも短く、前記カラー画像を構成する前記第3の色成分の像を表示する光のピーク波長よりも長い
ことを特徴とする請求項2に記載のホログラム。
【請求項4】
前記カラー画像を構成する前記第1の色成分の像は、緑色で表示され、
前記カラー画像を構成する前記第2の色成分の像は、赤色で表示され、
前記カラー画像を構成する前記第3の色成分の像は、青色で表示される
ことを特徴とする請求項2または3に記載のホログラム。
【請求項5】
第2の色成分の像に含まれる前記ノイズ画像は、前記第1の色成分の像と前記第2の色成分の像とを重ね合わせた際に、前記第1の色成分の像に含まれる前記隠し画像の前記情報が読み取り困難となるように構成され、
第3の色成分の像に含まれる前記ノイズ画像は、前記第1の色成分の像と前記第3の色成分の像とを重ね合わせた際に、前記第1の色成分の像に含まれる前記隠し画像の前記情報が読み取り困難となるように構成されている
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項6】
前記ノイズ画像は、ランダム階調パターンとして形成されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項7】
前記隠し画像の前記情報は、特定の波長帯域の光のみを透過させる部材を通して、読み取り可能である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項8】
前記カラー画像は、立体的な画像である
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項9】
前記情報は、真贋判定情報である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項10】
計算機合成ホログラムとして形成されている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のホログラム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載されたホログラムを貼り付けられている
ことを特徴とする物品。

【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−17760(P2011−17760A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160634(P2009−160634)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】