説明

ボイラ給水処理装置、ボイラ装置及びボイラ給水処理装置の運転方法

【課題】 脱酸素剤の過剰な添加や高い脱酸素機能を有する脱酸素機器を設置することなく、給水温度が変動しても確実に脱酸素する方法及びそのような方法により運転されるボイラ装置を提供する。
【解決手段】 ボイラ装置は、原水タンク10から補給水を供給される給水タンク20と、給水タンクの水を脱酸素処理する手段30と、脱酸素後の水を供給されるボイラ本体40と、ボイラ本体で蒸発した後に復水したドレンを給水タンクに戻す配管L5と、を備える。給水タンク20内の水は、ボイラ本体20から配管L6を通って送り込まれた水蒸気で加熱されている。配管L6には電磁弁50が設けられている。給水タンク20には、温度センサ60が設けられて、同タンク内の給水の水温を計測している。制御装置70は温度センサ60で計測された水温に基づいて電磁弁50を制御し、給水タンク20内の水の温度を所定温度に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ給水処理等に関し、特には、給水の温度が変動する場合にも好適に脱酸素処理された補給水を供給できるボイラ給水処理装置や、ボイラ装置の運転方法及びボイラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在一般的に用いられているボイラ用水は原水(市水、工業用水等)から硬度成分(Ca、Mg等)を除去した軟化水である。ボイラ用水は、さらに、ボイラチューブ等の腐蝕を防止するために、水中の溶存酸素を除去する脱酸素処理が行われている。脱酸素処理としては、脱気器を使用する機械的処理や、脱酸素剤を補給水に添加する化学的処理が行われている。
【0003】
機械的処理としては、窒素脱気、真空脱気、膜分離等の方法が挙げられる。化学的処理に使用される脱酸素剤としては、例えば、ヒドラジン、亜硫酸塩、糖類等が挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、省エネルギー及び節水のため、ボイラで発生したドレンを給水タンクへ戻して再利用するケースが増えている。この戻しドレンの量は、需要箇所での蒸気の使用状況により絶えず変動するので、これに伴い給水温度は変動する。また、外気温の変動によってもボイラ給水の水温は変動する。
【0005】
ところで、補給水の溶存酸素濃度は水温が低いほど高くなる。そこで、補給水の水温が変動するボイラの場合には、水温の最も低い場合に合わせて脱酸素処理できるように、脱酸素剤の添加量や脱酸素装置の運転条件を設定していた。このため、脱酸素剤を使用する場合には、補給水の水温が高くなると、脱酸素剤の添加量が過剰となってしまう。すると、過剰の脱酸素剤が熱分解して蒸気配管の腐蝕が生じ、水質の悪化を招くことがあった。また、脱酸素装置を使用する場合には、高い脱酸素機能を有する装置を使用することになる。すると、給水温度が高くなって溶存酸素濃度が低くなると、この脱酸素機能は無駄になってしまい、コストアップやメンテナンス頻度が高くなるという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、脱酸素剤の過剰な添加や高い脱酸素機能を有する脱酸素機器を設置することなく、給水温度が変動しても確実に脱酸素する方法及びそのような方法により運転されるボイラ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボイラ給水装置は、 ボイラに水を給水する系統と、該水を脱酸素処理する手段と、を備えるボイラ給水処理装置であって、 さらに、前記水を加熱する加熱手段と、 該加熱手段を制御して前記水の温度を所定温度に維持する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、加熱されて所定温度に維持された水をボイラ本体に供給しているので、ボイラ本体に供給する水の溶存酸素濃度を、ほぼ一定の低い値とすることができる。このため、化学的に脱酸素処理を行う場合には、この溶存酸素濃度に適した量の脱酸素剤を一定量供給すればよく、脱酸素剤を過剰に添加するような事態を避けることができる。また、機械的に脱酸素処理する場合は、高すぎる脱酸素能力を有する脱酸素装置を設置する必要がない。
【0009】
本発明においては、 前記給水系統の前記脱酸素手段の上流側に前記水を貯留する給水タンクが設けられており、前記加熱手段が該給水タンク内の水を加熱するものであることが好ましい。
【0010】
この場合、給水タンク内の水を加熱するので、温度の制御安定性が高い。また、加熱手段として、ボイラで発生した水蒸気を給水タンク内に投入するようにすれば、加熱手段を新たに設ける必要がない。
【0011】
本発明のボイラ装置は、 原水給水源から補給水を供給される給水タンクと、 該給水タンクの水を脱酸素処理する手段と、 脱酸素後の水を供給されるボイラ本体と、 該ボイラ本体で発生した蒸気が復水したドレンを前記給水タンクに戻す配管と、を備えるボイラ装置であって、 前記給水タンク内の水を加熱する手段と、 該手段において加熱された水の温度を所定温度に維持する手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、給水タンク内の水を加熱し、所定の温度に維持する手段を備えるので、給水タンク内の水の溶存酸素濃度を、ほぼ一定の低い値とすることができる。このため、脱酸素処理の条件をこの低い溶存酸素濃度に基づいて決めることができ、過剰な脱酸素剤の添加のような事態を防止しつつ、一定の条件で脱酸素できる。そして、脱酸素不足のおそれもないので、溶存酸素によるボイラチューブの腐蝕などの進行を十分に遅らせることができる。
【0013】
本発明のボイラ給水処理装置の運転方法は、 ボイラに水を給水する系統と、該水を脱酸素処理する手段と、を備えるボイラ給水処理装置の運転方法であって、 前記水を加熱して一定温度に維持する工程と、 該工程により一定温度に維持された水から溶存酸素を除去する工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、加熱されて一定温度に維持された水から溶存酸素を除去するので、脱酸素手処理の条件をその温度における溶存酸素濃度に基づいて決めることができ、安定的な条件で脱酸素処理できる
【0015】
本発明においては、 前記加熱工程が、前記脱酸素手段の上流側に設けられた前記水を貯留する給水タンク内の水を加熱するものであることが好ましい。
【0016】
この場合、加熱手段として、ボイラで発生した水蒸気を給水タンク内に投入するようにして給水タンクの水を加熱すれば、加熱手段を新たに設ける必要がない。
【0017】
本発明においては、ボイラ装置の形式は、丸ボイラ、水管ボイラ、貫流ボイラ、特殊ボイラ等を含む。これらのボイラは、低圧、中圧、高圧のいずれのボイラであってもよい。
また、原水タンクの水は、軟化水、純水、それらの混合水のいずれであってもよい。
【0018】
さらに、脱酸素処理手段としては、脱気機を使用する機械的処理手段、脱酸素剤を補給水に添加する化学的処理手段のいずれでもよい。機械的処理手段としては、窒素脱気、真空脱気、膜分離、及び、これらの組み合わせ等の方法を挙げることができる。化学的処理手段に使用される脱酸素剤としては、例えば、ヒドラジン、亜硫酸塩、糖類等を挙げることができる。
【0019】
また、加熱手段としては、熱交換器、蒸気の吹き込み、ヒーターを挙げることができる。
また、温度センサとしては、温度計を挙げることができる。補給水の水温としては、例えば、8〜25℃とすることができる。また、加熱手段によって加熱された水の温度としては、例えば、40〜70℃とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、加熱されて所定温度に維持された水をボイラ本体に供給しているので、溶存酸素濃度を、ほぼ一定の低い値とすることができる。このため、脱酸素処理の条件をこの低い溶存酸素濃度に基づいて決めることができ、常に最適な一定の条件で脱酸素できる。また、溶存酸素によるボイラチューブの腐蝕などの進行を遅らせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るボイラ装置の構成を説明するための図である。
ボイラ装置は、原水タンク10と、原水タンク10から補給水を供給される給水タンク20と、給水タンク20の水に脱酸素剤を添加する薬液供給装置(脱酸素処理手段)30と、脱酸素後の水を供給されるボイラ本体40と、ボイラ本体40で発生した蒸気が復水したドレンを給水タンクに戻す配管L5などから主に構成される。
【0022】
まず、ボイラ装置全体の構成を簡単に説明する。
原水タンク10には、図示しない軟水器により軟化処理された原水(市水、地下水、工業用水等)が貯留されている。この原水は、配管L1を通って給水タンク20に供給される。給水タンク20に供給された原水は、配管L2を通って、ボイラ本体40へ供給される。配管L2には、薬液供給装置30の薬液タンク31から延びる薬液供給ラインL3が側方から繋ぎ込まれている。この薬液供給ラインL3には送液ポンプ32及びその元側の薬液タンク31が設けられている。薬液タンク31には、亜硫酸ナトリウムやヒドラジン等の脱酸素剤が貯留されている。送液ポンプ32が作動すると、薬液は薬液供給ラインL3を通って配管L2内に送り込まれ、薬液が添加される。
【0023】
脱酸素剤が添加された水は配管L2を通ってボイラ本体40に供給される。ボイラ本体40で発生する蒸気は配管L4を通って需要箇所に送給され、蒸気のドレン(復水)は配管L5を通って給水タンク20へ回収される。
【0024】
ボイラ本体40から延びる配管L4からは、別の配管L6が分岐している。この配管L6の先は、給水タンク20へ接続されており、給水タンク20内に水蒸気が導入されてタンク内の水が加熱される。また、配管L6には電磁弁50が備えられている。
【0025】
給水タンク20には、温度センサ60が設けられており、同タンク内の給水の水温を計測している。この温度センサ60と電磁弁50は、制御装置70と電気的に接続している。制御装置70は温度センサ60で計測された水温に基づいて電磁弁50を制御する。
【0026】
次に、このボイラ装置の動作を説明する。
給水タンク20には、配管L5を通ってドレンが供給されており、同タンク内の水温は上昇する。しかし、需要箇所での蒸気の使用状況によって給水タンク20に戻るドレンの量は変動し、それに伴って給水タンク20内の水温も変動する。そこで、本発明においては、給水タンク20内の給水の水温を温度センサ60で計測する。そして、水温が予め設定されていた水温よりも下回った場合には、制御装置70から電磁弁50を制御して、配管L6を通ってボイラ本体40からの蒸気を給水タンク20に導入し、給水タンク20内の給水の温度を上昇させる。なお、ボイラ運転開始時など、ボイラ本体40が冷えているときは、別途の加熱手段(例えば、電熱ヒーターや熱交換器からの熱など)を用いて水温を上昇させることもできる。
【0027】
このように導入された蒸気によって給水タンク20内に貯留されている水の水温が設定温度以上に達すると、電磁弁50を閉じて蒸気の導入を止める。これらの作業を繰り返すことにより、給水タンク20内の水の水温をほぼ一定に維持することができる。
【0028】
具体的には、給水タンク20内に貯留されている水の水温を例えば60℃に設定する。そして、温度センサ60で計測された給水の水温が60℃を下回ると、制御装置70は電磁弁50を開とし、蒸気をボイラ本体40から配管L6を通って給水タンク20に供給し、給水を加温する。そして、温度センサ60で計測された給水の温度が60℃以上となると、制御装置70は電磁弁50を閉とし、ボイラ本体40からの蒸気の供給を止める。
【0029】
こうして給水タンク20内の水温が一定温度に維持されると、配管L2を通ってボイラ本体40に供給される給水の温度が一定温度に維持され、同給水の溶存酸素濃度も一定となる。したがって、薬液供給装置30においては、この一定量に保たれた溶存酸素を除去するために必要な最適量の脱酸素剤を常に薬液タンク31から供給すればよい。これにより、脱酸素剤を過剰に供給するような事態を防ぐとともに、確実にボイラ給水の脱酸素を行うことができる。
【0030】
この例においては、給水タンク20内の給水の設定温度はある程度の幅(例えば、55〜60℃)を持って設定できる。
また、補給水の加熱手段として、ボイラ本体40の蒸気を使用せずに、電熱ヒーターや熱交換器からの熱等の加熱手段を用いることもできる。
さらに、溶存酸素の除去は、脱酸素剤を使用した化学的処理のほか、窒素脱気や真空脱気、膜脱気等の機械的処理によって行ってもよい。
【0031】
<実施例>
図1のボイラ本体40として、小型還流ボイラを使用した。同ボイラの運転条件は、給水速度:1.1t/h、圧力:0.7MPa、蒸気発生量:1t/h、ブロー率:10%、ドレン水温:75℃であり、運転時間は24時間とした。原水は工業用水を軟化処理したもの(pH8.0、0.8mS/m、Mアルカリ度:35mg/L、Cl濃度:10mg/L、Ca+Mg濃度:1mg/以下、SiO濃度:43mg/L)を使用した。
【0032】
給水タンク20の温度センサ60で計測された水温に基づいて、水温が60℃となるように制御装置70で電磁弁50を制御して、ボイラ本体40の運転を開始した。
【0033】
この実施例における給水タンク20内の給水の温度と溶存酸素濃度を表1に示す。この表から、上述の温度制御によって、水温は、多少の変動(58〜65℃)はあるものの、60℃前後に維持されていることがわかる。その結果、溶存酸素濃度も、4.3〜4.9mg/Lに維持されている。
【0034】
【表1】

【0035】
<比較例>
実施例1で使用したボイラ装置において、電磁弁50を常時閉としたこと以外は同様の条件でボイラ運転を実施して、同様に給水タンク内の水温及び溶存酸素濃度を計測した。
【0036】
この比較例におけるサブタンク内の給水の温度と溶存酸素濃度を表2に示す。この表から、午前10時から午後18時までは、水温は40〜50℃で推移し、溶存酸素濃度も5.6〜6.4mg/Lと比較的低い値を維持しているが、午後19時以降は水温が急激に低下し、それに伴って溶存酸素濃度が高くなり、午後24時では10.3mg/Lに達している。
【0037】
【表2】

【0038】
次に、脱酸素効果の確認として、上記の実施例において、ボイラ下部から150mmの高さに設置した炭素鋼製の試験片、及び配管に設置したエコノマイザ−(図示されず)の入口に設置した炭素鋼(SS41)製の試験片(50mm×50mm×1mm)の腐蝕速度(試験期間7日間)を測定した。
【0039】
一方、上記の比較例においては、表2に示すように、溶存酸素濃度は最高で10.3mg/Lに達することに基づいて、溶存酸素濃度が10.3mg/Lの場合に必要な量の脱酸素剤を薬液供給装置30の薬液タンク31から配管L2に供給した。この例では、10重量%の亜硫酸ナトリウムを990mリットル/hの流速で配管L2に供給した。そして、実施例と同様に、ボイラ下部から150mmの高さに設置した炭素鋼製の試験片、及び配管に設置したエコノマイザ−(図示されず)の入口に設置した炭素鋼(SS41)製の試験片(50mm×50mm×1mm)の腐蝕速度(試験期間7日間)を測定した。
【0040】
実施例と比較例の腐蝕速度の測定結果を表3に示す。表3から、ボイラ下部に設置した試験片においては、実施例における腐蝕速度は比較例の約1/5程度、エコノマイザーに設置した試験片においては、約1/3程度に低減されていることがわかる。
【0041】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係るボイラ装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
10 原水タンク 20 給水タンク
30 薬液供給装置 31 薬液タンク
32 送液ポンプ 40 ボイラ本体
50 電磁弁 60 温度センサ
70 制御装置
L1、L2、L3、L4、L5、L6 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラに水を給水する系統と、該水を脱酸素処理する手段と、を備えるボイラ給水処理装置であって、
さらに、前記水を加熱する加熱手段と、
該加熱手段を制御して前記水の温度を所定温度に維持する制御手段と、
を備えることを特徴とするボイラ給水処理装置。
【請求項2】
前記給水系統の前記脱酸素手段の上流側に前記水を貯留する給水タンクが設けられており、前記加熱手段が該給水タンク内の水を加熱するものであることを特徴とする請求項1記載のボイラ給水処理装置。
【請求項3】
原水給水源から補給水を供給される給水タンクと、
該給水タンクの水を脱酸素処理する手段と、
脱酸素後の水を供給されるボイラ本体と、
該ボイラ本体で発生した蒸気が復水したドレンを前記給水タンクに戻す配管と、
を備えるボイラ装置であって、
前記給水タンク内の水を加熱する手段と、
該手段において加熱された水の温度を所定温度に維持する手段と、
をさらに備えることを特徴とするボイラ装置。
【請求項4】
ボイラに水を給水する系統と、該水を脱酸素処理する手段と、を備えるボイラ給水処理装置の運転方法であって、
前記水を加熱して一定温度に維持する工程と、
該工程により一定温度に維持された水から溶存酸素を除去する工程と、
を備えることを特徴とするボイラ給水処理装置の運転方法。
【請求項5】
前記加熱工程が、前記脱酸素手段の上流側に設けられた前記水を貯留する給水タンク内の水を加熱するものであることを特徴とする請求項4記載のボイラ給水処理装置の運転方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−263385(P2007−263385A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85169(P2006−85169)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】