説明

ボイラ装置用配管ならびにそれを備えたボイラ装置

【課題】安価でかつベンド部の熱応力を有効に低減することができるボイラ装置用配管を提供する。
【解決手段】熱応力を低減するベンド部24から配管固定点22までを結ぶ配管ルート上の線分のベクトルが、配管の熱伸びにより前記ベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管の材質を、オーステナイト系ステンレス鋼1からNi基系合金鋼2に変更したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ装置用配管に係り、特に出口蒸気温度が650℃に設定されている650℃級A−USC(Ultra Super Critical)ボイラ装置の主蒸気管や高温再熱蒸気管に好適な配管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は、発電用ボイラ装置の概略構成図である。同図に示すように火炉3を区画形成している水冷壁は、多数の水管を並設・連結して構成したものである。燃料の燃焼によって生じる放射熱で前記水管が加熱され、水管を流れている水の蒸発が起こる。
【0003】
発生した蒸気は1次過熱器伝熱管4,2次過熱器伝熱管5,最終過熱器伝熱管6により過熱され、最終過熱器出口管寄せ21から主蒸気管9を経由して蒸気タービン11に送られる。仕事を終えて蒸気タービン11から出た排気の一部はボイラ装置に戻り、1次再熱器伝熱管7ならびに最終再熱器伝熱管8により加熱されて、最終再熱器出口管寄せ20から高温再熱蒸気管10を経由して蒸気タービン11に送られる。
【0004】
一方、燃料の燃焼によって生成した排ガスは、脱硝装置14,電気集塵機15,脱硫装置16などで浄化され、煙突17から大気へ放出される。
【0005】
石炭火力発電プラントでは、発電効率の向上ならびにCO排出量削減を目的にして、蒸気温度の高温化、高圧化による高効率化が進んでいる。現状の超々臨界圧(USC)プラントは、主蒸気温度が600℃であるが、より高い発電効率を目指す先進超々臨界圧(A−USC)プラントは、主蒸気温度700℃を目標としている。
【0006】
600℃級USCボイラ装置の配管には高クロムフェライト鋼(例えば火STPA28,火STPA29)が用いられているが、700℃級A−USCボイラ装置では、高温クリープ強度が不足するため、Ni基系合金鋼(例えばHR6W,Alloy617)を使用する必要がある。Ni系基合金鋼は希少金属を多く含むため、Feが主成分の従来の合金鋼と比べて材料価格が10〜15倍になり、高価である。
【0007】
そのため、Ni系基合金鋼よりも高温クリープ強度が低いが、650℃で十分なクリープ強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS316)を用いる650℃級のA−USCボイラ装置の構想もある。
【0008】
A−USCプラントは、既存のSC(超臨界圧)プラント,USC(超々臨界圧)プラントとシステム構成が同じであるため、既設プラントから一部の部材を変更することにより高効率化、すなわちA−USC化を図ることが可能である。
【0009】
既設の老朽化したボイラ装置の出口蒸気温度を650℃まで上げるためには、火炉内の過熱器伝熱管や再熱器伝熱管などの伝熱面積を増加し、また、温度上昇に伴い、ボイラ出口からタービン入口までを接続する主蒸気管9や高温再熱蒸気管10をフェライト鋼からオーステナイト系ステンレス鋼に変更する。
【0010】
このように既設プラントを650℃級プラントに更新する場合、主要な変更部は火炉内の伝熱管(この例の場合1次過熱器伝熱管4,2次過熱器伝熱管5,最終過熱器伝熱管6,1次再熱器伝熱管7,最終再熱器伝熱管8),主蒸気管9,高温再熱蒸気管10,最終再熱器出口管寄せ20,最終過熱器出口管寄せ21およびタービン11である。すなわち、火炉周りにある機器のうち、主蒸気管9と高温再熱蒸気管10以外の配置は変わらない。
【0011】
図9ないし図11に、例として缶右側での高温再熱蒸気管10の配管経路を示す。図9はボイラ装置の斜視図、図10はボイラ装置の平面図、図11はそのボイラ装置での高温再熱蒸気管10の等角投影図である。
【0012】
この缶右側の高温再熱蒸気管10の配管経路は、火炉の上部に設置されている最終再熱器出口管寄せ20から、水平方向に缶前側に延びる。図11に示すように高温再熱蒸気管10の水平部には安全弁19が取り付けられており、また、適所に垂直方向ストッパ22ならびにハンガ23が設けられている。高温再熱蒸気管10は複数のベンドを経て、図10に示すように缶前にあるコールバンカ12を避けて、タービンフロアレベルまで配管は降り、タービンフロアレベルにおいて複数のベンド部を経て蒸気タービン11に接続される。
【0013】
缶左側の高温再熱蒸気管10の配管経路も左右対称で同様な経路になっている。また、主蒸気管9も高温再熱蒸気管10と同様な配管経路である。プラント毎に配管経路は若干異なるが、概ね図9ないし図11に示す経路となっている。事業用ボイラ装置では、最終再熱器出口管寄せ20のレベルとタービンフロアレベルの高低差は60m前後あり、配管長さは約150mを超える。
【0014】
図9ないし図11に示す高温再熱蒸気管10の配管経路において、基本的な配管の拘束は以下の通りである。
【0015】
(1).火炉出口である最終再熱器出口管寄せ20に対して、配管下方からの熱伸びによる作用力を抑えるために、火炉出口レベルで高温再熱蒸気管10を垂直方向に拘束する垂直方向ストッパ22aを設ける。
【0016】
(2).タービン11に対して、配管上方からの熱伸びによる作用力を抑えるために、タービンフロアレベルで高温再熱蒸気管10を垂直方向に拘束する垂直方向ストッパ22bを設ける。
【0017】
(3).熱応力を低減するために、火炉出口レベルとタービンフロアレベルの間の配管の熱伸びを許容して、高温再熱蒸気管10の自重のみの荷重を支えるハンガ23を設ける。
【0018】
この高温再熱蒸気管10のサポート方法は、配管経路全体で見て熱応力を低減する方法であるが、火炉出口レベルとタービンフロアレベルで垂直方向で拘束するため、その間の配管の熱伸びにより、配管経路上のベンド部は応力集中係数が高く、熱応力が最大となる(図11中の「最大熱応力発生部」参照)。最大熱応力が発生するベンド部は、熱伸びにより約40cmの変位が生じる。
【0019】
既設のボイラ装置を650℃級のA−USCボイラ装置に更新する場合、更新する主蒸気管9や高温再熱蒸気管10の配管経路の近くには、既存の機器類や他の配管などが設置されて混雑した状態になっているため、空間的スペースのある既設の経路とすることが望ましい。
【0020】
しかしながら、650℃級のA−USCボイラ装置において、主蒸気管9や高温再熱蒸気管10に用いるオーステナイト系ステンレス鋼の線膨張係数は、フェライト鋼の約1.5倍である。そのため熱伸びにより熱応力が増加し、配管に発生する熱応力が許容応力値を超える場合がある。許容応力値以下となるように熱応力を低減するためには、配管ルートの延長、配管ルートの途中にループ部を設けるなどの対策、あるいは線膨張係数の小さい材料に変更する必要がある。配管全体を線膨張係数の小さいNi基系合金鋼(例えばHR6W)に変更することが、例えば特開2004−268137号公報などで提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2004−268137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述のように、更新する主蒸気管9や高温再熱蒸気管10の配管経路、特に熱応力が高いベンド部の周囲には、既存の機器類や他の配管などが設置されて混雑した状態になっているため、配管ルートを延長したり、配管ルートの途中にループ部を設けることは非常に難しい。
【0023】
また、配管(主蒸気管9、高温再熱蒸気管10)の全体を線膨張係数の小さいNi基系合金鋼に変更する場合は、配管の材料価格が約10倍もかかり、コストの点で問題がある。
【0024】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、安価でかつベンド部の熱応力を有効に低減することができるボイラ装置用配管ならびにそれを備えたボイラ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、
熱応力を低減するベンド部から配管固定点までを結ぶ配管ルート上の線分のベクトルが、配管の熱伸びにより前記ベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管の材質を、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするものである。
【0026】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、
前記熱伸びによりベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管の全部あるいは一部を、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするものである。
【0027】
本発明の第3の手段は前記第1または第2の手段において、
前記配管の熱伸びによりベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管に加えて前記ベンド部も、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするものである。
【0028】
本発明の第4の手段は前記第1ないし第3の手段において、
前記Ni基系合金鋼配管が前記オーステナイト系ステンレス鋼配管よりも板厚の薄い配管で構成されていることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の第5の手段は前記第4の手段において、
前記Ni基系合金鋼配管と前記オーステナイト系ステンレス鋼配管が、Ni基系合金鋼からなるレジュース管を介して接合されていることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の第6の手段は前記第1ないし第5の手段において、
前記配管固定点が垂直方向ストッパによって拘束されている配管部分であることを特徴とするものである。
【0031】
本発明の第7の手段は前記第1ないし第6の手段において、
当該ボイラ装置用配管が主蒸気管または(ならびに)高温再熱蒸気管であることを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第8の手段は
燃焼ガスの流通経路上に過熱器ならびに再熱器が設置され、最終過熱器出口管寄せから蒸気タービンに向けて主蒸気管が、また、最終再熱器出口管寄せから蒸気タービンに向けて高温再熱蒸気管が、それぞれ配管されているボイラ装置において、
前記主蒸気管または(ならびに)高温再熱蒸気管が、前記第1ないし第7の手段のボイラ装置用配管であることを特徴とするものである。
【0033】
本発明の第9の手段は前記第8の手段において、
前記主蒸気管を通して前記蒸気タービンに送気される主蒸気の温度が650℃の先進超々臨界圧ボイラ装置であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明は前述のような構成になっており、ベンド部の熱応力を有効に低減することができるボイラ装置用配管ならびにそれを備えたボイラ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る高温再熱蒸気管の等角投影図である。
【図2】配管ルート上でのベンド部の変位量とそのベンド部の熱応力との関係を示す特性図である。
【図3】本発明の実施形態において、ベンド部の変位がx軸のマイナス方向にある場合の配管ルートを説明するための示す図である。
【図4】本発明の実施形態において、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更する部位を具体的に示す図である。
【図5】本発明の実施形態において、ベンド部の変位がx軸およびz軸のマイナス方向にある場合の配管ルートを説明するための示す図である。
【図6】本発明の実施形態におけるオーステナイト系ステンレス鋼配管とNi基系合金鋼配管の接合部の拡大断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る高温再熱蒸気管の等角投影図である。
【図8】発電用ボイラ装置の概略構成図である。
【図9】従来のボイラ装置における缶右側での高温再熱蒸気管の配管経路を示すボイラ装置の斜視図である。
【図10】そのボイラ装置の平面図である。
【図11】そのボイラ装置での高温再熱蒸気管の等角投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
発電用ボイラ装置の全体の概略構成は、前述した図8と同様であるから重複する説明は省略する。図1は、本発明の実施形態に係る高温再熱蒸気管10の等角投影図である。
【0037】
缶右側の高温再熱蒸気管10の配管経路は、火炉の上部に設置されている最終再熱器出口管寄せ20から、水平方向に缶前側に延びる。図1に示すように高温再熱蒸気管10の水平部には安全弁19が取り付けられている。高温再熱蒸気管10は複数のベンド部を経て、図10に示すように缶前にあるコールバンカ12を避けて、タービンフロアレベルまで配管は降り、タービンフロアレベルにおいて複数のベンドを経て蒸気タービン11に接続される。
【0038】
火炉出口である最終再熱器出口管寄せ20に対して、配管(高温再熱蒸気管10)下方からの熱伸びによる作用力を抑えるために、火炉出口レベルで垂直方向に拘束する垂直方向ストッパ22aが設けられている。
また、タービン11に対して、配管(高温再熱蒸気管10)上方からの熱伸びによる作用力を抑えるために、タービンフロアレベルで垂直方向に拘束する垂直方向ストッパ22bが設けられている。
さらに、熱応力を低減するために、火炉出口レベルとタービンフロアレベルの間の配管(高温再熱蒸気管10)の熱伸びを許容して、配管(高温再熱蒸気管10)の自重のみの荷重を支えるハンガ23が設けられている。
【0039】
熱応力が高くなる部位は、応力集中度の高いベンド部24であり、図1の例では最大熱応力発生部をA部とする。また、A部の温度上昇時における変位は、x軸,y軸のマイナス方向とする。すなわち、図1に示すA部の熱伸び方向が、同図に示しているx軸,y軸,z軸座標の向きとは反対方向とする。
【0040】
図に示すように、配管ルート(高温再熱蒸気管10)の大部分を例えばSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼配管1で構成しているが、その配管ルートの特定部位を例えばHR6WやAlloy617などのオーステナイト系ステンレス鋼配管1よりも熱膨張係数が小さく、高温クリープ強度の高いNi基系合金鋼配管2で構成している。
【0041】
すなわち、許容応力値を超える熱応力が発生する場合、そのベンド部24の熱応力を低減するために、ベンド部24近傍直管部に、オーステナイト系ステンレス鋼配管1よりも熱膨張係数が小さく、高温クリープ強度の高いNi基系合金鋼配管2を使用している。
【0042】
本発明で使用するNi基系合金鋼において、Ni含有率が少ないと高温クリープ強度が不足し、一方、Ni含有率が多いと鋼材が高価になる。
本発明の実施形態で使用するSUS316HTP、HR6WならびにAlloy617の組成は下記の通りである。
SUS316HTPの組成は、16Cr−12Ni−2Moである。
HR6Wの組成は、23Cr−45Ni−7W−Ti−Nbである。
Alloy617の組成は、23Cr−12.5Co−9Mo−Ti−Al−Ni(bal.)である。
【0043】
なお、このNi基系合金鋼配管2を使用する部位は、熱応力を低減するベンド部24から配管固定端(本実施形態では、垂直方向ストッパ22と連結されている部位)までを結ぶ配管ルート上の線分のベクトルが、熱伸びによりベンド部24が移動する方向に対して反対方向のベクトルをもつ線分にある配管部位を選択する。このことについては、後で具体的に説明する。
【0044】
本発明によれば、既設配管ルートの全体の材質を変更することなく、配管ルートの一部に熱膨張係数の小さいNi基系合金鋼配管2を用いることで、熱応力を有効に低減することができる。但し、任意の場所にNi基系合金鋼配管2を配置すればよいものではなく、以下の場所(部位)に限定される。
【0045】
図1に示すように、高い熱応力が発生する部位は配管ルート上のベンド部24である。温度が常温から650℃に上昇した場合、熱伸びによりベンド部24は移動する。
図2は、配管ルート上でのベンド部の変位量とそのベンド部の熱応力との関係を示す特性図である。この図から明らかなように、ベンド部の変位の大きさとベンド部の熱応力とは比例関係にある。従って、ベンド部の熱応力を低減するためには、ベンド部の変位量小さくすればよい。以下、このことについて単純化した配管ルートで説明する。
【0046】
図3は、ベンド部の変位がx軸のマイナス方向にある場合の配管ルートを説明するための図である。同図に示すように、配管ルートはB,C,D,E,F,Gの各点を経由し、配管ルートの両端部はB点とG点で固定されており、B点とG点ではx軸方向ならびにz軸方向に拘束されているものとする。
【0047】
この例ではE点(ベンド部)を最大熱応力発生部(図1のA部に相当)とし、温度が上昇した場合、E点は図に示すx軸(プラス方向)方向とは反対のマイナス方向(図中の点線の方向)に変位するもとする。このE点のx軸のマイナス方向への変位が小さくなると、E点(ベンド部)の熱応力は低減する。
【0048】
次にE点を基準にしてE点からB点までを結ぶ線分のベクトル、ならびにE点を基準にしてE点からG点までを結ぶ線分のベクトルを見る。x軸に平行する線分CBはx軸にマイナス方向のベクトル、線分EDはx軸にプラス方向のベクトル、線分FGはx軸にプラス方向のベクトルである。また、z軸に平行する線分DCはz軸にプラス方向のベクトル、線分EFはz軸にマイナス方向のベクトルである。
【0049】
x軸のマイナス方向に変位するベンド部の変位量を小さくするためには、x軸のプラス方向にベクトルを有する線分の配管の材質を線膨張係数の小さいNi基系合金鋼配に変更すればよい。この例の場合具体的には、線分EDまたは線分EFの部位をNi基系合金鋼配に変更すればよいことになる。
【0050】
一方、線分CBの部位をNi基系合金鋼配に変更すると、温度上昇時にE点(ベンド部)の変位はマイナス方向にさらに助長され、逆に熱応力が増加することがあるから、この部位での材質の変更は行ってはいけない。
【0051】
この図3の例において、線分EDをオーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更して、線分EDだけを見ると熱伸びはオーステナイト系ステンレス鋼のときよりも小さくなる。線分CBの材質はオーステナイト系ステンレス鋼のままにしておくと、線分CBの熱伸びは変わらない。すなわち、線分CBの熱伸びは変わらず、線分EDの熱伸びは小さくなるため、E点(ベンド部)のx軸マイナス方向の変位は小さくなり、熱応力が低減する。
【0052】
図4はオーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更する部位を具体的に示すもので、同図(a)は該当するオーステナイト系ステンレス鋼配管1(例えば前記線分ED)の全体をNi基系合金鋼配管2に変更した例を、同図(b)は該当するオーステナイト系ステンレス鋼配管1を複数のNi基系合金鋼配管2に分けた例を、同図(c)は該当するオーステナイト系ステンレス鋼配管1のうちの一部をNi基系合金鋼配管2に変更した例を示している。
【0053】
ここではx軸方向のみの説明としたが、y軸方向、z軸方向も同様である。本発明において、配管ルート上でのNi基系合金鋼配に変更する場所を一般化して説明すると、次のようになる。
【0054】
熱応力を低減しようとするベンド部から固定端までを結ぶ配管ルート上の線分のベクトルが、熱伸びによりベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管部位である。この配管部位の材質を、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更することにより、前記ベンド部の温度上昇による変位が少なくなり、それにより当該ベンド部の熱応力が低減する。
【0055】
図5は、熱応力が発生するベンド部Aの変位がx軸およびz軸のマイナス方向にある場合の配管ルートを説明するための図である。x軸方向の変位を小さくする手段は、前記図3で示した例と同じであり、線分EDをオーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更すれば良い。
【0056】
一方、z軸方向の変位を小さくするためには、マイナス方向のz軸変位とは反対のベクトルをもつ線分DCを、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更すれば良い。線分EFをオーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更すれば、逆にベンド部Aのz軸方向の変位は大きくなる。ベンド部Aのz軸方向変位を低減するためには、線分EDと隣接する線分EFではなく、離れた位置にある線分DCをNi基系合金鋼に変更する点に着目する必要がある。
【0057】
650℃におけるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316HTP)とNi基系合金鋼(Alloyy617)の線膨張係数は、それぞれ18.0×10−6/℃、14.4×10−6/℃である。配管全経路をオーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更すると、熱伸びは20%低減する。図2に示すようにベンド部の変位量とベンド部の熱応力は比例関係にあるため、ベンド部の熱応力を約20%低減できることになる。同様にベンド部の熱応力を5%低減するためには、ベンド部の変位低減に有効な配管長さの1/4をオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316HTP)からNi基系合金鋼(Alloyy617)に変更すればよい。
【0058】
このことを一般的な数式で表すと、下記の式(3)のようになる。オーステナイト系ステンレス鋼とNi基系合金鋼の線膨張係数の比、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更する配管の長さとベンド部の変位低減に有効な配管長さの比から熱応力低減比を算出することができる。
【数1】

【0059】
式中A:熱応力低減比
α:オーステナイト系ステンレス鋼の線膨張係数
α:Ni基系合金鋼の線膨張係数
:ベンド部の変位低減に有効な配管長さ
a:ベンド部の変位低減に有効な配管長さに対してNi基系合金鋼に変更する配管の長さの比
:Ni基系合金鋼に変更した部位の熱伸び
:オーステナイト系ステンレス鋼を用いた部位の熱伸び。
【0060】
このようにNi基系合金鋼に変更する配管の長さは、式(3)に示すようにベンド部の熱応力を低減する比率から算出することができるから、Ni基系合金鋼は必要最小限の使用量で済み、そのために経済性の高い配管設計となる。
【0061】
図6は、オーステナイト系ステンレス鋼配管1とNi基系合金鋼配管2の接合部の拡大断面図である。
Ni基系合金鋼(例えばAlloyy617)はオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS316)よりも許容応力が高いため、板厚を薄くできる。図6に示すように、板厚が異なるオーステナイト系ステンレス鋼配管1とNi基系合金鋼配管2を接合するためには、許容応力の高いNi基系合金鋼(例えばAlloyy617)のレジュース管25を、オーステナイト系ステンレス鋼配管1とNi基系合金鋼配管2の間に介在することにより、接合部における応力集中を抑制することができる。
【0062】
図7は、本発明の他の実施形態に係る高温再熱蒸気管の等角投影図である。図1に示す前記実施形態と同様に、高温再熱蒸気管10の缶右側の経路を示している。
Ni基系合金鋼はオーステナイト系ステンレス鋼よりも高い許容応力を有している(下式の(4)参照)。ベンド部24にNi基系合金鋼を使用した場合、オーステナイト系ステンレス鋼を使用した場合と比較して、熱応力に対す許容応力値の比が小さくなるため(下式の(5)参照)、発生する熱応力に対する設計裕度が高くなる。
【0063】
本実施形態では、ベンド部24の熱応力(熱伸び)を低減するため、該当する直管部をNi基系合金鋼配管2に変更するだけでなく、熱応力に対する尤度を上げるためベンド部24にもNi基系合金鋼配管2を使用している。
【数2】

【0064】
式中σ:熱応力
σ :オーステナイト系ステンレス鋼の許容応力値
σ :Ni基系合金鋼の許容応力値。
【0065】
本発明の実施形態の効果をまとめれば下記の通りである。
(1).該当する直管部やベンド部にオーステナイト系ステンレス鋼配管よりも線膨張係数の小さいNi基系合金鋼配管を用いることで、既存に配管ルートを変更することなく、ベンド部の熱応力を低減することができる。
【0066】
(2).熱応力を低減するための配管ループを追設する必要がなく、既設の配管ルートを使用することができるため、周辺の機器類および他の配管の配置を変更する必要がない。
【0067】
(3).Ni基系合金鋼を使用する部位が必要最小限となるため、経済性の高い650℃級A−USCボイラ装置の配管設計が実現できる。
【0068】
(4)ベンド部にオーステナイト系ステンレス鋼配管よりも高い許容応力を有するNi基系合金鋼配管を使用することで、ベンド部で発生する熱応力に対して尤度を上げることができる。
【0069】
(5).許容応力の高いNi基系合金鋼配管を採用する部位はオーステナイト系ステンレス鋼配管よりも板厚が薄くなり、配管の外径が小さくなるため、周辺の機器類および他の配管との間隔が広くなり、施工性が向上する。
【0070】
(6).板厚が薄くなることで、配管重量が軽くなり、配管サポートの小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・オーステナイト系ステンレス鋼配管、2・・・Ni基系合金鋼配管、3・・・火炉、4・・・1次過熱器伝熱管、5・・・2次過熱器伝熱管、6・・・最終過熱器伝熱管、7・・・1次再熱器伝熱管、8・・・最終再熱器伝熱管、9・・・主蒸気管、10・・・高温再熱蒸気管、11・・・蒸気タービン、20・・・最終再熱器出口管寄せ、21・・・最終過熱器出口管寄せ、22a、22b・・・垂直方向ストッパ、23・・・ハンガ、24・・・ベンド部、25・・・レジュース管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱応力を低減するベンド部から配管固定点までを結ぶ配管ルート上の線分のベクトルが、配管の熱伸びにより前記ベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管の材質を、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項2】
請求項1に記載のボイラ装置用配管において、
前記熱伸びによりベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管の全部あるいは一部を、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項3】
請求項1または2に記載のボイラ装置用配管において、
前記配管の熱伸びによりベンド部が移動する方向に対して反対方向のベクトルを有する線分にある配管に加えて前記ベンド部も、オーステナイト系ステンレス鋼からNi基系合金鋼に変更したことを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボイラ装置用配管において、
前記Ni基系合金鋼配管が前記オーステナイト系ステンレス鋼配管よりも板厚の薄い配管で構成されていることを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項5】
請求項4に記載のボイラ装置用配管において、
前記Ni基系合金鋼配管と前記オーステナイト系ステンレス鋼配管が、Ni基系合金鋼からなるレジュース管を介して接合されていることを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のボイラ装置用配管において、
前記配管固定点が垂直方向ストッパによって拘束されている配管部分であることを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のボイラ装置用配管において、
当該ボイラ装置用配管が主蒸気管または(ならびに)高温再熱蒸気管であることを特徴とするボイラ装置用配管。
【請求項8】
燃焼ガスの流通経路上に過熱器ならびに再熱器が設置され、最終過熱器出口管寄せから蒸気タービンに向けて主蒸気管が、また、最終再熱器出口管寄せから蒸気タービンに向けて高温再熱蒸気管が、それぞれ配管されているボイラ装置において、
前記主蒸気管または(ならびに)高温再熱蒸気管が、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のボイラ装置用配管であることを特徴とするボイラ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のボイラ装置において、
前記主蒸気管を通して前記蒸気タービンに送気される主蒸気の温度が650℃の先進超々臨界圧ボイラ装置であることを特徴とするボイラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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