説明

ボラジン化合物の製造方法、及びボラジン化合物

【課題】LSI等の性能を向上させるために、ナトリウムなどの金属原子のボラジン化合物中での存在量が少なく、高純度のボラジン化合物を高収率で製造しうる手段を提供することを目的とする。
【解決手段】水素化ホウ素金属塩(ただし、金属原子はリチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子以外である)(I)と、(RNHX(Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩(II)とを、溶媒(III)中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を含む、ボラジン化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物の製造方法に関する。ボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSI等のデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられうる、新たな低誘電材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【0005】
ボラジン化合物を製造する手法として、水素化ホウ素のアルカリ金属塩(水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムまたは水素化ホウ素リチウム)とアミン塩(例えば、メチルアミン塩酸塩)とを溶媒中で反応させる手法が知られている。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2003−119289号公報
【特許文献3】特開2006−327964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の反応により得られたボラジン化合物を分析すると、微量ではあるものの、水素化ホウ素金属塩由来のアルカリ金属原子の残留物が含まれる。更に、ナトリウムなどは、大気中にも微量ではあるものの含まれている。例えば、ボラジン化合物を用いて製造された層間絶縁膜をLSI等に使用する場合、材料中に金属原子が存在すると半導体素子の性能に悪影響を与えるため、極めて純度の高い品質が要求される。従って、材料中の金属原子の含量を数質量ppb程度に制御する必要がある。また、ナトリウム等は大気中にも含まれているため、数質量ppb程度に制御するには厳しい工程管理が必要であり、膨大なコストを要する。
【0007】
そこで本発明は、LSI等の性能をより向上させるために、ナトリウムなどの金属原子のボラジン化合物中での存在量を数質量ppb程度に制御し、高純度のボラジン化合物を高収率で製造しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明のボラジン化合物の製造方法は、水素化ホウ素金属塩(ただし、金属原子はリチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子以外である)(I)と、(RNHX(Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩(II)とを、溶媒(III)中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナトリウムなどの金属原子のボラジン化合物中での存在量を容易に少なく制御することができ、高純度のボラジン化合物が高収率で製造されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、水素化ホウ素金属塩(ただし、金属原子はリチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子以外である)(I)と、(RNHX(Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩(II)とを、溶媒(III)中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を含むことを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。
【0011】
前記水素化ホウ素金属塩(I)に含まれる金属原子は、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子を除く全ての金属原子でありうる。前記金属原子の例として、以下に制限されることはないが、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ルビジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ルビジウム、セシウム、アルミニウム、ランタン、スカンジウム、ユウロピウムが挙げられ、好ましくは2価の金属原子(アルカリ土類金属原子、すなわちベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)であり、より好ましくは入手の利点等の理由から、マグネシウム及びカルシウムである。上記の好ましい範囲の場合、前記水素化ホウ素金属塩(I)はM(BH(Mは2価の金属原子である)で表すことができる。かかる金属原子を含む水素化ホウ素金属塩(I)を用いてボラジン化合物を合成することにより、例えば材料中のナトリウム原子の存在量をごく微量に制御することができる。このようにして、LSI等における層間絶縁膜として用いる場合には、LSI等の性能をより向上させることができる。
【0012】
また、前記アミン塩(II)((RNHX)において、Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素原子である。n=2のとき、Rは、同一であっても異なっていてもよい。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、更に好ましくは1個である。アルキル基の例としては以下に限定されることはないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。シクロアルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは3〜8個、より好ましくは4〜7個、更に好ましくは5〜6個である。シクロアルキル基の例としては以下に限定されることはないが、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アミン塩(II)の例としては以下に限定されることはないが、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)などが挙げられる。
【0013】
本発明において使用される水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−トリメチルボラジンを製造する場合には、アミン塩(II)として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0014】
水素化ホウ素金属塩(I)とアミン塩(II)との混合比は、特に限定されないが、アミン塩(II)の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素金属塩(I)の使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0015】
本発明のボラジン化合物の製造に用いられる溶媒(III)は1種単独からなってもよく、2種以上の混合物からなってもよい。溶媒(III)は、1種単独、またはボラジン化合物の沸点より50℃以上高い沸点を有する溶媒(以下、第1溶媒と称する)とボラジン化合物の沸点+30℃以下の沸点を有する溶媒(以下、第2溶媒と称する)とからなる2種の混合物であることが好ましく、第1溶媒と第2溶媒の沸点を有する溶媒とからなる2種の混合物であることがより好ましい。溶媒(III)が1種単独である場合の例として、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、テトラリン、デカリン等の脂環式炭化水素類などが挙げられる。一方、以下で第1溶媒及び第2溶媒について説明する。
【0016】
第1溶媒は、ボラジン化合物の沸点より50℃以上高い沸点を有する。ボラジン化合物の沸点とは、合成の目的物であるボラジン化合物の沸点を意味する。2種以上のボラジン化合物が目的物として合成される場合には、ボラジン化合物の沸点とは、より沸点の高いボラジン化合物の沸点を意味する。第1溶媒の沸点の上限については、特に限定はないが、沸点が高すぎると蒸留精製によって分離することが困難となるため、好ましくはボラジン化合物の沸点+150℃以下の沸点を有する溶媒が用いられる。
【0017】
第1溶媒の概念に含まれる溶媒は、合成されるボラジン化合物の沸点に応じて異なる。第1溶媒として用いられうる溶媒の具体例を挙げると、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0018】
第2溶媒は、ボラジン化合物の沸点+30℃以下の沸点を有する。ボラジン化合物の沸点の定義は、前記同様である。第2溶媒の沸点の下限については、特に限定はないが、第2溶媒の沸点が目的物のボラジン化合物の沸点と近いと、蒸留精製による分離が困難である。よって、第2溶媒の沸点は、好ましくは、ボラジン化合物の沸点+10℃以上、またはボラジン化合物の沸点−10℃以下である。
【0019】
第2溶媒の概念に含まれる溶媒も、合成されるボラジン化合物の沸点に応じて異なる。第2溶媒として用いられうる溶媒の具体例を挙げると、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、テトラリン、デカリン等の脂環式炭化水素類などが挙げられる。なお、第1溶媒及び第2溶媒として、複数の溶媒が用いられてもよい。
【0020】
以上のように溶媒(III)が第1溶媒と第2溶媒の沸点を有する溶媒とからなる2種の混合物である場合、ボラジン化合物を合成する際に、冷却部に析出物が生成する問題が防止される。また、第1溶媒と第2溶媒との混合比は、特に限定されないが、第2溶媒によって析出物を洗いながす効果を確保するためには、第1溶媒の使用量を1としたときに、第2溶媒の使用量が0.1〜2倍(体積)であることが好ましい。
【0021】
水素化ホウ素金属塩(I)とアミン塩(II)との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは室温〜220℃、より好ましくは50〜200℃、更に好ましくは100〜170℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0022】
また、ボラジン化合物を合成する際、水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)の溶媒(III)への添加の方法については特に制限されることはないが、例えば、
(1)まず、水素化ホウ素金属塩(I)を溶媒(III)に仕込んだ後、アミン塩(II)を徐々に供給する方法、
(2)まず、アミン塩(II)を溶媒(III)に仕込んだ後、水素化ホウ素金属塩(I)を徐々に供給する方法、または
(3)水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)をそれぞれ、徐々に溶媒(III)に供給する方法、が挙げられる。
【0023】
ボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0024】
【化1】

【0025】
式中、Rは、前記アミン塩(II)の欄で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。ボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。なお、製造されるボラジン化合物の耐水性等の安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、N−アルキルボラジンであることが好ましい。
【0026】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)のうち、少なくとも一方の水分含量が1質量%以下に制御され、更に好ましくは、双方の水分含量が1質量%以下に制御される。その際、例えば後述のように、攪拌を伴う加熱乾燥によって水分含量が1質量%以下とされうる。そのような水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)を、ボラジン化合物を合成する際の原料として用いることができる。
【0027】
具体的には、水素化ホウ素金属塩(I)の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。また、前記アミン塩(II)の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下である。いずれか一方の水分含量が上記のように低く制御された水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)を用いてボラジン化合物を合成することで、合成されたボラジン化合物の、水分の混入に起因する分解が効果的に抑制され、高純度のボラジン化合物の合成が可能となる。更に、双方の水分含量が上記のように低く制御された水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)を用いてボラジン化合物を合成することで、水分との接触によるボラジン化合物の分解及びこれに伴う純度低下がより一層抑制されうる。なお、水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)の水分含量の値は、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、水素化ホウ素金属塩(I)及び/またはアミン塩(II)の水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、水素化ホウ素金属塩(I)及び/またはアミン塩(II)の水分含量は10質量ppm以上である。
【0028】
水分含量の少ない水素化ホウ素金属塩(I)及び/またはアミン塩(II)の入手経路は、特に制限されない。水分含量の少ない水素化ホウ素金属塩(I)及び/またはアミン塩(II)の商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて、ボラジン化合物の合成に用いてもよい。前記水素化ホウ素金属塩(I)及び前記アミン塩(II)は吸湿しやすく、窒素雰囲気下で取り扱うことが好ましい。
【0029】
水素化ホウ素金属塩(I)及び/またはアミン塩(II)の水分含量を自ら低減させる手法についても特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0030】
上記した水分含量を低減させる方法の例として、加熱乾燥、減圧乾燥、シリカゲルや硫酸ナトリウム等の乾燥剤による乾燥等が挙げられ、これらの乾燥方法は併用することも可能である。好ましくは加熱乾燥であり、前記加熱乾燥のうち、より好ましくは攪拌を伴う加熱乾燥である。
【0031】
本発明のより好ましい実施形態においては、合成に用いられる溶媒(III)の水分含量もまた、低い値に制御される。かような形態によってもまた、水分との接触によるボラジン化合物の分解及びこれに伴う純度低下がより一層抑制されうる。
【0032】
具体的には、溶媒(III)の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。なお、溶媒(III)の水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、溶媒(III)の水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、溶媒(III)の水分含量は10質量ppm以上である。
【0033】
水分含量の少ない溶媒(III)の入手経路については特に制限されない。水分含量の少ない溶媒(III)の商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて、ボラジン化合物の合成に用いてもよい。
【0034】
溶媒(III)の水分含量を自ら低減させる手法についても特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒(III)の水分含量を自ら低減させる手法の一例としては、例えば、乾燥剤を添加した後に蒸留するといった手法が挙げられる。
【0035】
また、本発明の更に好ましい実施形態においては、得られたボラジン化合物中のボロンエーテル化合物の含量が低く制御される。得られたボラジン化合物中のボロンエーテル化合物の含量は、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下である。かかる範囲にある場合、得られたボラジン化合物を用いて製造される層間絶縁膜が、LSI等に適用されるのに十分な品質となる。
【0036】
ボロンエーテル化合物を低く制御する方法は特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうるが、例えば蒸留精製と濾過とを組み合わせることによるボロンエーテル化合物の除去方法が挙げられる(文献:特開2006−213642号公報を参照)。かかる方法によれば、生成されたボロンエーテル化合物を確実に除去することができる。更に、本発明によれば、ボラジン化合物合成用の原料、すなわち前記水素化ホウ素金属塩(I)、前記アミン塩(II)及び/または前記溶媒(III)の水分含量が低いため、前記文献に開示されているように、合成系中の水分に起因してボラジンからボロンエーテルが形成されるが、本発明においては、ボロンエーテルの形成を抑制することができる。これにより、合成されるボラジン化合物の収率を上げることができるとともに、純度も上げることができる。また、上記原料の水分含量を低く制御することができ、コストもより低廉にすることができる。各原料の好ましい水分含量の範囲については上述の通りであるが、全ての原料の水分含量が1質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、濾過精製及び蒸留精製が用いられうる。
【0038】
合成によって得られたボラジン化合物を含む反応後の液体は、スラリー状である。このスラリー状の液体において、合成されたボラジン化合物は、大部分が溶媒(III)に溶解した状態で液体部分として含まれ、未反応の原料や反応で副生される塩は、大部分は溶媒(III)に溶解しない固体部分として含まれる。したがって、濾過精製によって前記固体部分を除去し、次いで蒸留精製を行うことによって、高純度のボラジン化合物を製造することができる。
【0039】
本発明の製造方法によって製造されるボラジン化合物は、好ましくは、純度が99.0質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上であり、特に好ましくは99.9質量%以上である。ここで、ボラジン化合物の純度の値は、ガスクロマトグラフィーによって測定した値を採用するものとする。このような高純度のボラジン化合物を用いることにより、半導体素子などの製品の性能を向上させることができる。
【0040】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、ボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物が用いられてもよい。ボラジン化合物またはボラジン化合物の誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」及び「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0041】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法が用いられうる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0043】
なお、下記の実施例及び比較例において、原料である水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)、並びに溶媒(III)の水分含量は、以下の手法により測定した。
【0044】
まず、水素化ホウ素金属塩(I)は水分気化装置を用いて、固体中の水分含量を測定した。アミン塩(II)は、溶媒(メタノール)に溶解させた状態で水分含量を測定し、その後、測定値からバックグラウンドに相当する可溶溶媒の水分含量を差し引いた値を採用した。そして、溶媒(III)はそのままの状態で測定した。また、水分含量の測定に当たっては、カールフィッシャーCA−100型 水分気化装置付(株式会社ダイヤインスツルメンツ製)を用いた。この際、発生液としてはアクアミクロンAXを用い、対極液としてはアクアミクロンCXUを用いた。
【0045】
また、ボラジン化合物中のNa金属の濃度については、ICP−MS(高周波発光質量分析器) ELAN DRCII(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いて測定した。
【0046】
更に、ボラジン化合物の純度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
【0047】
【表1】

【0048】
<準備>
まず、ボラジン化合物の合成に用いる各原料の脱水処理を行った。モノメチルアミン塩酸塩(沸点:225〜230℃、水分含量:1.3質量%)をコニカルドライヤーに投入し、80℃、0.001MPa、6rpmの条件で回転させながら、12時間攪拌減圧乾燥を行い、水分含量を0.01質量%とした。また、水素化ホウ素カルシウム(水分含量:約1.1質量%)及び水素化ホウ素ナトリウム(水分含量:約1.1質量%)については、コニカルドライヤーに投入し、25℃、0.001MPa、6rpmの条件で回転させながら、12時間攪拌減圧乾燥を行った。その結果、水素化ホウ素カルシウムの水分含量を0.03質量%とし、水素化ホウ素ナトリウムの水分含量を0.02質量%とした。一方、トリグライム(沸点:216℃)は減圧蒸留により精製乾燥を行い、水分含量を0.02質量%とした。
【0049】
<実施例>
滴下漏斗及び冷却管を備えた3つ口丸底フラスコ(5L容)に、窒素置換を行いながら、上記で準備したモノメチルアミン塩酸塩(300g、水分含量:0.01質量%)、及び上記で準備したトリグライム(1000g、水分含量:0.02質量%)を仕込み、反応系を150度まで昇温させた。
【0050】
一方、上記で準備した水素化ホウ素カルシウム(174g、水分含量:0.03質量%)を準備し、これを別途、上記で準備したトリグライム(1000g、水分含量:0.02質量%)中に添加して、スラリーを調製した。
【0051】
上記で調製した水素化ホウ素カルシウムのスラリーを150℃に昇温させた反応系の中に90分かけて徐々に添加した。
【0052】
スラリー添加終了後、反応系を20分かけて170℃にまで昇温させ、2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジン(沸点133℃)の合成反応を進行させた。熟成後、冷却管を取り外し、クライゼン連結管及びリービッヒ冷却管を取り付け、減圧蒸留(22kPa、70〜90℃)によりTMBを取り出した。
【0053】
このTMBを更に常圧において、蒸留温度155〜160℃で蒸留を行い、留出温度130〜133℃の留分を分取した。更に分取したTMBを再度常圧蒸留し、精製をした。
【0054】
以上の工程を経て製造したボラジン化合物をガスクロマトグラフィーで確認したところ、ボロンエーテルの含有量が0.02%であり、N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度は99.92質量%であった。また、ボラジン化合物中のNa金属成分の濃度をICP−MSで確認したところ、9質量ppbであった。
【0055】
<比較例>
滴下漏斗及び冷却管を備えた3つ口丸底フラスコ(5L容)に、窒素置換を行いながら、上記で準備したモノメチルアミン塩酸塩(300g、水分含量:0.01質量%)、及び上記で準備したトリグライム(1000g、水分含量:0.02質量%)を仕込み、反応系を150℃まで昇温させた。
【0056】
一方、上記で準備した水素化ホウ素ナトリウム(188g、水分含量:0.02質量%)を準備し、これを別途、上記で準備したトリグライム(1000g、水分含量:0.02質量%)中に添加して、スラリーを調製した。
【0057】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを150℃に昇温した反応系の中に90分かけて徐々に添加した。
【0058】
スラリー添加終了後、反応系を20分かけて170℃まで昇温させ、2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジン(沸点133℃)の合成反応を進行させた。
【0059】
熟成後、冷却管を取り外し、クライゼン連結管及びリービッヒ冷却管を取り付け、減圧蒸留によりTMBを取り出した。
【0060】
このTMBを更に常圧において、蒸留温度155〜160℃で蒸留を行い、留出温度130〜133℃の留分を分取した。更に分取したTMBを再度常温蒸留し、精製をした。
【0061】
以上の工程を経て製造したボラジン化合物をガスクロマトグラフィーで確認したところ、ボロンエーテルの含有量が0.03%であり、N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度は99.90質量%であった。また、ボラジン化合物中のNa金属成分の濃度をICP−MSで確認したところ、38質量ppbであった。
【0062】
以上の実施例及び比較例に示す結果から、従来使用されている水素化ホウ素ナトリウムではなく、水素化ホウ素カルシウムを使用することによって、得られたボラジン化合物中のNa金属成分の濃度を非常に低い値に制御することが可能となることが示された。また、ボラジン化合物の合成原料である水素化ホウ素金属塩(I)及びアミン塩(II)の水分含量を低い値に制御することにより、合成されるボラジン化合物の純度及び収率を向上させうることが示された。更に、ボラジン化合物の合成に用いる溶媒(III)の水分含量をも低い値に制御することで、合成されるボラジン化合物の純度及び収率をより一層向上させうることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素金属塩(ただし、金属原子はリチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子以外である)(I)と、(RNHX(Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩(II)とを、溶媒(III)中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を含む、ボラジン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記水素化ホウ素金属塩(I)がM(BH(Mは2価の金属原子である)で表される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水素化ホウ素金属塩(I)及び前記アミン塩(II)のうち、少なくとも一方の水分含量が1質量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒(III)の水分含量が1質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−208049(P2008−208049A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44325(P2007−44325)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】