説明

ボラジン化合物の製造方法

【課題】高純度のボラジン化合物を効率的に製造しうる手段を提供する。
【解決手段】ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される少なくとも1種の水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子または置換基があってもよいアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表される少なくとも1種のアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を有し、前記水素化ホウ素アルカリおよび前記アミン塩のうち少なくとも一方が、撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量が1質量%以下としたものであることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物の製造方法に関する。ボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2003−119289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボラジン化合物を製造する手法としては、水素化ホウ素アルカリ(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)とアミン塩(例えば、メチルアミン塩酸塩)とを溶媒中で反応させる手法が知られている。
【0006】
ところで、ボラジン化合物は水分に弱く、水分との接触により分解しうる。そのため、上記の反応で得られたボラジン化合物の純度が低下してしまう。かようなボラジン化合物の純度の低下は、最終的にはボラジン化合物を用いて製造された半導体の層間絶縁膜などの性能の低下を引き起こしてしまうという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、高純度のボラジン化合物を効率的に製造しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、合成原料である水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩の乾燥手段を鋭意検討した。その過程で、ボラジン化合物は水分に弱く、水分の接触により分解しうることを見出した。さらに、ボラジン化合物の合成原料の水分含量を低い値に制御することで、ボラジン化合物の分解が抑えられ、高純度のボラジン化合物を製造しうることを見出した。
【0009】
ここで、ボラジン化合物の合成原料である水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩の水分含量を低下させる方法として、例えば加熱乾燥などの方法を用いると、通常の加熱乾燥においては、乾燥過程において原料の粉末の凝集が起こり、塊状物が生じる。合成原料を均一に混合し、高い収率で反応生成物を得るためには、反応させる前に、上述の塊状物を粉砕したり、粗大塊状物を除去するための工程を追加する必要がある。このような工程を追加することによって、反応時間および反応収率に大きな影響が生じるだけでなく、不純物の混入経路が増加し、ボラジン化合物の純度が低下する原因になりうる。
【0010】
そこで、本発明者らは、水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩を撹拌しながら加熱乾燥することによって、原料の粉末が凝集することなく、水分含量が低減されうることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される少なくとも1種の水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子または置換基があってもよいアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表される少なくとも1種のアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を有し、前記水素化ホウ素アルカリおよび前記アミン塩のうち少なくとも一方が、撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量が1質量%以下としたものであることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高純度のボラジン化合物が効率的に製造されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される少なくとも1種の水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子または置換基があってもよいアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表される少なくとも1種のアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を有し、水分含量が1質量%以下の前記アミン塩または前記水素化ホウ素アルカリが反応に用いられることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。
【0014】
以下、本発明の製造方法について説明する。ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される少なくとも1種の水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子または置換基があってもよいアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表される少なくとも1種のアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する。
【0015】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、および水素化ホウ素カリウムが挙げられる。Aが異なる2種類以上の水素化ホウ素アルカリを用いてもよい。
【0016】
アミン塩((RNHX)において、Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素原子である。n=2のとき、Rは、同一であっても異なっていてもよい。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)などが挙げられる。2種類以上のアミン塩を混合して用いてもよい。
【0017】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−トリメチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0018】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0019】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。これらの溶媒は、単一で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0021】
ボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0022】
【化1】

【0023】
式中、Rはアミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。ボラジン化合物としては、ボラジン、N−モノアルキルボラジン、N,N’−ジアルキルボラジン、N,N’,N”−トリアルキルボラジンなどのN−アルキルボラジン類が例示される。これらの中でも、ボラジン化合物の耐水性などの安定性が高い点で、N−アルキルボラジン類が好ましく、特にN,N’,N”−トリアルキルボラジンが好ましい。
【0024】
N,N’,N”−トリアルキルボラジンとしては、例えば、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(t−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、またはN,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。
【0025】
本発明は、ボラジン化合物を合成する際の原料として、原料である水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩の少なくとも一方を、撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量を1質量%以下として用いる点に特徴を有する。
【0026】
具体的には、本発明において、原料である水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩の水分含量は1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。水分含量がこのように少ない水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩を用いてボラジン化合物を合成することで、合成されたボラジン化合物の、水分の混入に起因する分解が効果的に抑制され、高純度のボラジン化合物の合成が可能となる。なお、水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩の水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩の水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩の水分含量は10質量ppm以上である。
【0027】
本発明において、原料を撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量を1質量%以下として用いるのは、水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩のいずれか一方のみでも、双方でもよい。好ましくは、双方の原料において、原料を撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量を1質量%以下としたものを用いる。
【0028】
本発明においては、原料である水素化ホウ素アルカリおよび/またはアミン塩を、撹拌しながら加熱乾燥することによって、原料中の水分含量を低減させる。水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は吸湿しやすく、窒素雰囲気下で取り扱うことが好ましい。水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、乾燥処理を行わない場合、通常〜2質量%程度の水分を含む。これを加熱乾燥、減圧乾燥、乾燥剤による乾燥などの方法で乾燥させると、水分含量を1質量%以下に低減させることができるが、従来の乾燥過程において原料の粉末が凝集し、塊状物を生じる。原料を反応系に供給する際には、配管の閉塞を防ぎ、原料を均一に混合するために、一定以上の大きさに凝集した塊状物を取り除くか、粉砕して粉末にする必要がある。この場合、塊状物を取り除く工程、および粉砕する工程において一定量の原料の損失は避けられず、その結果ボラジン化合物の収率が低下してしまう問題がある。さらに、原料を乾燥する工程と反応の工程との間に、塊状物を取り除く工程、および粉砕する工程を行うために、さらに設備、時間、およびコストが必要になり、生産効率が低下する。これに対し、本発明によれば、かような問題の発生もまた、効果的に抑制されうる。
【0029】
原料を撹拌しながら加熱乾燥するとは、原料を静止状態ではなく流動状態で加熱乾燥することを意味する。
【0030】
原料の撹拌しながらの加熱乾燥は、原料を乾燥させるための容器(乾燥容器)、撹拌する手段(撹拌手段)、および加熱する手段(加熱手段)を備えた装置で行われる。撹拌手段としては、特に限定されないが、例えば、
(1)乾燥容器そのものを回転させることにより原料を撹拌する方法、
(2)乾燥容器そのものを振動させることにより原料を撹拌する方法、
(3)乾燥容器内に備えられた撹拌機を回転させることにより原料を撹拌する方法、
(4)乾燥容器内に備えられた振動体を振動させることにより原料を撹拌する方法、
(5)乾燥容器内にガスを導入し旋回流などの気流により原料を撹拌する方法、および上記を組み合わせた方法などが好ましく採用されうる。上記の撹拌手段の中でも、(3)の撹拌機による撹拌では、撹拌羽根と乾燥容器のクリアランス部分に原料が硬い膜状になって付着する場合があるが、(1)、(2)、(4)、(5)に示す撹拌手段では、このような容器壁面への硬い付着物の生成が抑制され、乾燥後の原料を容易に高収率で捕集しやすいため好ましい。
【0031】
加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、
(1)乾燥容器を、温水、スチーム等の従来公知の熱媒体により外部加熱する方法、
(2)乾燥容器内に設けられた撹拌機、振動機などの撹拌手段となる装置、あるいは該容器内に設けられた加熱管などを前記熱媒体によって加熱する、内部加熱する方法、
(3)加熱されたガスを乾燥容器内に導入する方法、および上記を組み合わせた方法などが好ましく採用されうる。
【0032】
撹拌手段、乾燥手段で用いられるガスは、特に限定されないが、通常、乾燥空気または窒素、Ar、Heなどの不活性ガスが好ましく採用されうる。
【0033】
原料を撹拌しながら加熱乾燥するための装置は、特に制限されない。例えば、コニカルドライヤー、ナウターミキサー(円錐型リボン混合機/乾燥機)、パドルドライヤー/ダブルディスクドライヤー、旋回気流乾燥装置、連続式熱風乾燥機、ジャイロ乾燥機、真空撹拌乾燥機等が挙げられる。コニカルドライヤーは、ダブルコーン型の回転真空乾燥機であり、減圧下で加熱しながら回転させることで乾燥を行う。アミン塩として塩酸塩を用いる場合は、塩酸塩はステンレスに対して腐食性があるため、グラスライニングしたコニカルドライヤーを用いることが好ましい。ナウターミキサーは、円錐型容器内に螺旋リボン回転翼があり、常圧あるいは減圧下で加熱、撹拌しながら乾燥を行う。パドルドライヤー/ダブルディスクドライヤーは、2軸式の中空模型回転体(パドル)/ディスク羽根と、粉体とを接触させることにより乾燥を行う。加熱はジャケットおよびパドル/ディスク羽根および軸から行う。旋回気流乾燥装置は、乾燥室の底面および側面の分散板より供給される熱風が形成する強力な旋回流により、粉体を分散、旋回させながら回転を行う。連続式熱風乾燥機、ジャイロ乾燥機は、特殊な構造の多孔板を有した乾燥機全体を水平運動させ、粉体に大きな撹拌、分散力を与えて熱風を送り連続的に乾燥する。真空撹拌乾燥機は、撹拌羽根が組み込まれた円筒型の乾燥機であって、撹拌と乾燥とを同時に行う。中でも、工業的な規模で大量の原料を効率的に乾燥できる点で、コニカルドライヤー、ナウターミキサーを用いることが好ましく、乾燥後の原料を捕集しやすいなどの取り扱い易さ、収率面で、特にコニカルドライヤーを用いることが好ましい。
【0034】
加熱乾燥の際の加熱温度は特に制限されず、水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩が分解しない程度に低く、乾燥時間が長くなりすぎない程度に高い温度を採用すればよい。具体的には、加熱乾燥時の加熱温度は、水素化ホウ素アルカリの場合は、好ましくは20〜250℃程度であり、より好ましくは20〜150℃程度である。アミン塩の場合は、好ましくは50〜200℃程度であり、より好ましくは80〜150℃程度である。加熱乾燥時の温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する虞がある。一方、加熱乾燥時の温度が高すぎると、取り出しのための冷却に長時間を要する虞がある。
【0035】
加熱乾燥による水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩中の水分含量の低減処理は、減圧条件下において行われることが好ましい。この際の具体的な圧力条件は特に制限されないが、好ましくは0.0001〜0.07MPa程度であり、より好ましくは0.0005〜0.01MPaである。減圧時の圧力が小さすぎると、原料が昇華してしまう虞がある。一方、減圧時の圧力が大きすぎると、乾燥に長時間を要する虞がある。
【0036】
撹拌しながら加熱乾燥した水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩の粉末は、好ましくは、目開き710μmのメッシュを通過する割合が、80質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上である。このように塊状物を含まない粉末を原料として用いることで、原料が均一に混合され、反応収率が向上しうる。原料の粉末のサイズは、小さいほど好ましく、粒子径の下限は特に限定されないが、実用上、0.1μm以上である。
【0037】
なお、上記割合は、原料100gを目開き710μmのJIS標準ふるいを用いて行い、粒子径710μm以下の粒子の質量百分率を測定することによって求められる。
【0038】
本発明のさらに他の好ましい形態においては、合成に用いられる溶媒の水分含量もまた、低い値に制御される。かような形態によってもまた、水分との接触によるボラジン化合物の分解およびこれに伴う純度低下がより一層抑制されうる。
【0039】
具体的には、溶媒の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、溶媒の水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、溶媒の水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、溶媒の水分含量は10質量ppm以上である。
【0040】
水分含量の少ない溶媒の入手経路については特に制限されない。水分含量の少ない溶媒の商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて、ボラジン化合物の合成に用いてもよい。
【0041】
溶媒の水分含量を自ら低減させる手法についても特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の水分含量を自ら低減させる手法の一例としては、例えば、乾燥剤を添加した後に蒸留するといった手法が挙げられる。
【0042】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、濾過精製および蒸留精製が用いられうる。
【0043】
合成によって得られたボラジン化合物を含む反応後の液は、スラリー状である。このスラリー状の液において、合成されたボラジン化合物は、大部分が溶媒に溶解した形態で液体部分として含まれ、未反応の原料や反応で副生される塩は、大部分は溶媒に溶解しない固体部分として含まれる。したがって、濾過精製によって前記固体部分を除去し、次いで蒸留精製を行うことによって、高純度のボラジン化合物を製造することができる。
【0044】
濾過精製の条件は、特に限定されない。環境や規模に応じて、常圧濾過、加圧濾過、減圧濾過などの手段を選択すればよい。濾過材の種類も、特に限定されず、環境や規模に応じて、濾紙、濾過板、カートリッジフィルターなどを用いればよい。また、濾紙の材質についても、特に限定されないが、合成するボラジン化合物の反応性を考慮すると、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製やグラスファイバー製の濾紙等を用いることが好ましい。濾過材の孔径は、析出物の量や大きさに応じて決定すればよい。段階的に濾過材の孔径を小さくしていってもよい。濾過材の孔径は、好ましくは0.01〜1.0μmであり、より好ましくは0.05〜0.1μmである。好ましくは、孔径の異なる、または同一のフィルターを用いて、2段階または3段階で濾過精製を行う。
【0045】
蒸留精製に用いられうる蒸留装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。蒸留装置は、特に制限されないが、多段式蒸留塔のような回分式(バッチ式)蒸留装置または連続式蒸留装置が好適である。多段式蒸留塔である場合における蒸留塔の段数は、特に限定されるものではないが、塔頂(最上段)と塔底(最下段)とを除いた段数が2段以上であることが好ましい。このような蒸留塔としては、例えばラシヒリング、ポールリング、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、スルーザーパッキング等の充填物が充填された充填塔、泡鐘トレイ、シーブトレイ、バルブトレイ等のトレイ(棚段)を使用した棚段塔等、一般的に用いられている蒸留塔が好適である。中でも、オルダーショウ式蒸留塔などのシーブトレイを使用した棚段塔が好ましく用いられうる。また、棚段と充填物層とを併せ持つ複合式の蒸留塔も採用することができる。上記の段数とは、棚段塔においては棚段の数を示し、充填塔においては理論段数を示す。上記段数は、好ましくは3〜100段であり、より好ましくは5〜50段である。
【0046】
蒸留塔の構成としては、リボイラ、コンデンサ等を備えた一般的な構成を採用できる。蒸留塔の本数は限定的ではなく、1本または2本の蒸留塔が使用できる。
【0047】
蒸留塔における圧力操作は、混合物の組成、加熱源、冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から、減圧下で行うことが好ましい。具体的には60kPa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。また、同様に塔底温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。蒸留塔の塔頂における還流比は限定的ではないが、好ましくは0.1〜50、より好ましくは0.3〜30とすればよい。その他の操作条件は、公知の蒸留条件に従えばよい。
【0048】
また、回分式の蒸留を行う際に、除去したい軽沸点成分の濃度が低い場合には、蒸留塔を全還流で保持して還流槽に軽沸点成分を濃縮し、還流槽の組成が安定したところで、槽内の液を短時間で抜き出す方式で軽沸点成分を除去してもよい。この操作を複数回繰り返すことで、軽沸点成分をさらに除去することができる。全還流にて保持する時間は、装置によって異なるが、還流槽の液量に対して、2倍の液が塔頂より留出する時間より長くすることが望ましい。本操作の終了後に、塔底から残存する液を抜きだすか、塔頂から留出させることで、軽沸点成分を低減した液を得ることができる。
【0049】
本発明の製造方法によって製造されるボラジン化合物は、好ましくは、純度が99.0質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上であり、特に好ましくは99.9質量%以上である。ここで、ボラジン化合物の純度の値は、ガスクロマトグラフィによって測定した値を採用するものとする。このような高純度のボラジン化合物を用いることにより、半導体素子などの製品の性能を向上させることができる。
【0050】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、ボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物が用いられてもよい。ボラジン化合物またはボラジン化合物の誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0051】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法が用いられうる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0053】
なお、下記の実施例および比較例において、原料であるアミン塩および水素化ホウ素アルカリ、並びに溶媒の水分含量は、以下の手法により測定した。
【0054】
すなわち、アミン塩、溶媒、および水素化ホウ素アルカリの水分含量については、カールフィッシャーCA−100(三菱化学株式会社製)を用いて測定した。この際、発生液としてはアクアミクロンAXを用い、対極液としてはアクアミクロンCXUを用いた。
【0055】
さらに、ボラジン化合物の純度は、ガスクロマトグラフィを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
【0056】
【表1】

【0057】
<実施例>
反応原料として、アミン塩であるメチルアミン塩酸塩を準備した。次いで、このメチルアミン塩酸塩(30kg:水分含量1.3質量%)をコニカルドライヤーに投入し、80℃、0.001MPa、6rpmの条件で回転させながら、12時間減圧乾燥させた。
【0058】
同様に反応原料として、水素化ホウ素アルカリである水素化ホウ素ナトリウムを、25℃、0.001MPa、6rpmの条件で回転させながら、12時間減圧乾燥させた。
【0059】
一方、溶媒として、トリグライムを準備した。減圧蒸留により精製することにより、純度99.9質量%以上、水分含量200質量ppmのトリグライムを得た。トリグライムは窒素置換したステンレス製ドラムに密閉して保管した。
【0060】
冷却器を備えた反応装置に、窒素置換しながら、上記で乾燥したメチルアミン塩酸塩(8.4kg;水分含量100質量ppm)、および上記で乾燥したトリグライム(30.0kg、水分含量200質量ppm)を仕込み、反応系を150℃まで昇温した。
【0061】
一方、上記で乾燥させた水素化ホウ素ナトリウム(5.3kg、水分含量200質量ppm)を準備し、これを別途準備した、上記で精製したトリグライム(20.0kg;水分含量200質量ppm)中に添加して、スラリーを調製した。
【0062】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを、上記で150℃に昇温した反応装置に7時間かけてゆっくりと添加した。
【0063】
スラリー添加終了後、反応系を170℃まで30分かけて昇温し、さらに170℃で2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンを、0.013MPa、150〜170℃にて蒸留し、2.5kgの精製N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られた精製N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度は99.8質量%であった。
【0064】
<比較例>
冷却器および撹拌羽根を備えた反応装置に、窒素置換しながら、乾燥させていないメチルアミン塩酸塩(8.4kg;水分含量1.3質量%)と、乾燥したトリグライム(30kg;水分含量200質量ppm)を仕込み、反応系を150℃まで昇温した。
【0065】
一方、乾燥させていない水素化ホウ素ナトリウム(5.3kg;水分含量1.0質量%)を、別途乾燥したトリグライム(20kg;水分含量200質量%)中に添加してスラリーを調製した。
【0066】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを、上記で150℃に昇温した反応装置に7時間かけてゆっくりと添加した。
【0067】
スラリー添加終了後、反応系を170℃まで30分かけて昇温し、さらに170℃で2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンを、0.013MPa、150〜170℃にて蒸留し、1.0kgの精製N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られた精製N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度は97.0質量%であった。
【0068】
以上の実施例および比較例に示す結果から、ボラジン化合物の合成原料である水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩の水分含量を低い値に制御することにより、合成されるボラジン化合物の純度および収率を向上させうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される少なくとも1種の水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子または置換基があってもよいアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表される少なくとも1種のアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階を有し、
前記水素化ホウ素アルカリおよび前記アミン塩のうち少なくとも一方が、撹拌しながら加熱乾燥することによって水分含量が1質量%以下としたものであることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法。
【請求項2】
水分含量が1質量%以下の前記溶媒が反応に用いられる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌しながら加熱乾燥することが、乾燥容器、撹拌手段、および加熱手段を備えた装置で、減圧下で加熱しながら前記乾燥容器を回転させることによって行われる、請求項1または2に記載の製造方法。