説明

ボラジン化合物並びにこれを用いた還元剤および還元方法

【課題】安全性が高く、非極性有機溶媒中でも取扱いが容易な還元剤、およびこれを用いた還元方法を提供する。
【解決手段】化学式1で表され、還元剤として用いられる、ボラジン化合物である。化学式1において、Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物に関する。詳細には、本発明は、ボラジン化合物の還元剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元反応は、化学反応のうち、反応に関与する原子間で酸素または電子の授受を伴う反応であり、現在、化学工業分野において極めて重要な反応の1つとして位置づけられている。
【0003】
この酸化還元反応においては、微視的に見れば、反応に関与する一方の物質Aが酸素を受け取るかまたは電子を放出する反応(酸化反応)と、他方の物質Bが酸素を放出するかまたは電子を受け取る反応(還元反応)とが同時に進行する。この際、物質A(酸化されて酸化数が増加する物質)は還元剤と称され、物質B(還元されて酸化数が減少する物質)は酸化剤と称される。
【0004】
化学工業分野において用いられる還元剤としては、例えば、ホウ素含有化合物が知られている。かようなホウ素含有化合物としては、例えば、ジボラン(B)や、水素化ホウ素アルカリ(ABH;Aはアルカリ金属)など(例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH))が知られている。ここで、ジボランは自然発火点が38〜52℃と低く、爆発範囲は0.8〜98容量%と広い。しかも、許容濃度(TLV−TWA(時間加重平均許容濃度))は0.1ppmと低く、取扱い時の危険性が高いという問題点を有している。また、水素化ホウ素アルカリは非極性有機溶媒に溶解しにくく、用途によっては取扱いが困難であるという問題点を有している。
【0005】
ところで、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が知られている(例えば、特許文献1を参照)。ボラジン化合物は分子分極率が小さいため、半導体用層間絶縁膜などに用いられる低誘電率膜の形成などの用途を念頭に、開発が進められている。しかしながら、かようなボラジン化合物が酸化還元反応における還元剤として用いられうることは、未だ知られていない。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高く、非極性有機溶媒中でも取扱いが容易な還元剤、およびこれを用いた還元方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ボラジン化合物についての研究を進めていく過程において、ボラジン化合物が還元性を示すことを見出した。具体的には、ボラジン骨格を形成するホウ素原子の少なくとも1つに水素原子が結合したボラジン化合物が、非極性有機溶媒中でも優れた還元性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、下記化学式1:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である、
で表され、還元剤として用いられる、ボラジン化合物である。
【0011】
また、本発明の第2は、下記化学式1:
【0012】
【化2】

【0013】
式中、Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である、
で表されるボラジン化合物を還元剤として用いる、被還元性物質の還元方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボラジン化合物を採用することで、安全性が高く、かつ、非極性有機溶媒中でも取扱いが容易な還元剤、およびこれを用いた還元方法が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1は、下記化学式1:
【0016】
【化3】

【0017】
で表され、還元剤として用いられる、ボラジン化合物である。本発明は、上記化学式1で表されるボラジン化合物が還元性を示すことを見出したことにより完成されたものであるが、化学式1で表されるボラジン化合物が還元性を示すメカニズムについては完全に明らかとはなっていない。ただし、以下のメカニズムが推定されている。すなわち、後述するように、化学式1で表されるボラジン化合物において、ホウ素に結合しているRの少なくとも1つは水素原子であるが、このB−H結合における水素原子がヒドリド(H)として作用し、還元性を示すものと考えられるのである。なお、当該メカニズムはあくまでも推測に基くものであって、他のメカニズムによってボラジン化合物の還元性が発揮されていたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
【0018】
化学式1において、Rは、水素原子またはアルキル基である。かようなアルキル基としては特に制限されず、直鎖状、分岐状または環状のいずれであってもよいが、アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜2個である。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。なかでも、合成および取扱いが容易であるという観点から、Rはメチル基またはエチル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。なお、Rはそれぞれ同一であってもよいし、互いに異なっていてもよいが、合成および取扱いが容易であるという観点から、Rは全て同一であることが好ましい。
【0019】
化学式1において、Rは、水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である。かようなアルキル基の形態およびアルコキシ基の炭素原子数の形態としては、上記のRと同様であるため、ここでは説明を省略する。アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オクトキシ基、ノニロキシ基、デシロキシ基などが挙げられる。これら以外のアルコキシ基が用いられてもよい。なかでも、還元反応の効率という観点から、Rは水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。なお、Rはそれぞれ同一であってもよいし、互いに異なっていてもよいが、合成および取扱いが容易であるという観点から、Rは全て同一(すなわち、Rが全て水素原子)であることが好ましい。
【0020】
本発明において用いられうるボラジン化合物の具体例としては、例えば、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(s−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(t−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。なお、本発明において還元剤として用いられるボラジン化合物は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合物の形態で用いられてもよい。
【0021】
ボラジン化合物の入手経路は、特に制限されない。ボラジン化合物の商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、自ら調製したボラジン化合物を用いてもよい。
【0022】
ボラジン化合物を自ら調製する手法についても特に制限されない。上記の化学式1で表されるボラジン化合物のうち、Rが全て水素原子であるN−アルキルボラジンの調製方法の一例を挙げると、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させる手法が例示される。
【0023】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0024】
アミン塩((RNHX)において、Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。nが2である場合に、Rは、それぞれ同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。合成反応の収率や取扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。Rは、上記化学式1におけるRに対応することから、アミン塩におけるRの具体的な形態は、上記化学式1におけるRと同様であり、所望のボラジン化合物の構造に応じて選択されうる。従って、ここでは詳細な説明を省略する。アミン塩の例としては、例えば、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)などが挙げられる。ただし、これらに制限されることはない。
【0025】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0026】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0027】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0028】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0029】
一方、ボラジン骨格を形成するホウ素原子の1つまたは2つにアルキル基またはアルコキシ基が結合したボラジン化合物は、Rが全て水素原子であるアルキルボラジンのB−H基に対して、アルケンを挿入するハイドロボレーション反応や、アルキル金属化合物またはアルコールなどによる置換反応といった手法によって合成されうる。
【0030】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0031】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。少量のボラジン化合物を処理するのであれば、蒸留管を用いた蒸留精製が用いられうる。例えば、少量のボラジン化合物を処理する蒸留装置の具体例としては、3つ口フラスコにクライゼン型の連結管でリービッヒ冷却管を取り付けた蒸留装置が用いられうる。ただし、このような蒸留装置を用いる実施形態に、本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
【0032】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0033】
本発明は、ボラジン化合物を還元剤として用いる点に特徴を有する。従って、本発明の第2としては、上記化学式1で表されるボラジン化合物を主成分とする還元剤が提供される。そして、本発明の第3としては、上記化学式1で表されるボラジン化合物を還元剤として用いる、被還元性物質の還元方法が提供される。以下、ボラジン化合物が還元剤として用いられる際の具体的な形態を説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。
【0034】
本発明において、還元反応の種類は、ボラジン化合物が還元剤として作用しうる限り特に制限されない。還元反応の一例を挙げると、例えば、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボン酸からアルコールへの還元、カルボニル基からメチレン基への還元、アミドからアミンへの還元、不飽和結合への水素付加、還元的アミノ化、エステル、カルボン酸、アミド、ニトリルからアルデヒドへの還元などが挙げられる。ただし、これら以外の還元反応にボラジン化合物が用いられてもよい。
【0035】
被還元性物質の種類については、上述したボラジン化合物により還元されうる物質であればよく、特に制限はない。例えば、上述した還元反応の基質となる化合物が挙げられ、その具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類(アルコールへの還元反応)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類(アルコールへの還元反応)、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒドなどのアリールアルデヒド類(アルコールへの還元反応、カルボニル基からメチレン基への還元反応)、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどのアリールケトン類(アルコールへの還元反応、カルボニル基からメチレン基への還元反応)、酢酸エチル、酢酸フェニルなどのエステル類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸などのカルボン酸類(アルコールへの還元反応、アルデヒドへの還元反応)、ホルムアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、ベンズアミド、1−ナフトアミド、2−ナフトアミドなどのアミド類(アミドからアミンへの還元反応、アミドからアルデヒドへの還元反応)、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類(ニトリルからアルデヒドへの還元反応)などが例示される。ただし、これら以外の物質が被還元性物質として用いられても、勿論よい。
【0036】
還元反応におけるボラジン化合物および被還元性物質の仕込み量の割合(モル比)は特に制限されないが、反応の効率という観点からは、被還元性物質1モルに対して、ボラジン化合物のホウ素に結合した水素原子(すなわち、Rの水素原子)が、好ましくは1.0〜10.0モル、より好ましくは1.0〜5.0モル、さらに好ましくは1.0〜2.0モルとなる量のボラジン化合物が用いられる。ボラジン化合物の仕込み量が1.0モル以上であれば、反応を充分に完結させうるため好ましい。一方、ボラジン化合物の仕込み量が10.0モル以下であれば、製造コストや後処理に要する手間が削減されうるため好ましい。ただし、これらの範囲を外れる形態が採用されても、勿論よい。
【0037】
本発明において、ボラジン化合物を用いた還元反応は、無溶媒系で行われてもよいし、溶媒中で行われてもよいが、反応熱を充分に除去するという観点からは、本発明における還元反応は溶媒中で行われることが好ましい。還元反応に用いられる溶媒は、還元反応に悪影響を及ぼさない限り、特に制限されない。ここで、ボラジン化合物は水との接触により分解してしまうため、反応溶媒としては有機溶媒が用いられる。当該有機溶媒の一例を挙げると、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ギ酸エステル、酢酸エステルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;ピリジンなどのその他の有機窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの有機硫黄化合物類;テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの有機ケイ素化合物類;ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、ピナン、テトラヒドロジシクロペンタジエンなどの環式炭化水素、等が挙げられる。これらの溶媒は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上の混合溶媒の形態で用いられてもよい。なかでも、入手および取扱いが容易であるという観点からは、溶媒として、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサンが好ましく用いられる。
【0038】
還元反応が溶媒中で行われる場合、溶媒の使用量は特に制限されないが、ボラジン化合物および被還元性物質の合計量100質量%に対して、好ましくは50〜100000質量%であり、より好ましくは100〜10000質量%である。溶媒の使用量が50質量%以上であれば、反応熱が充分に除去されるため好ましい。一方、溶媒の使用量が100000質量%以下であれば、製造コストや後処理に要する手間が削減されうるため好ましい。
【0039】
反応系には、必要に応じて、反応物および溶媒以外の物質を添加剤として添加してもよい。かような添加剤としては、例えば、ルイス酸などが挙げられる。ルイス酸を添加することで、被還元性物質のカルボニル基が活性化され、反応性や官能基選択性の向上といった効果が得られる。例えば、α,β−不飽和カルボニル化合物の還元においては、炭素−炭素二重結合およびカルボニル基の双方が還元されうるが、ルイス酸の添加により、カルボニル基の選択的還元が可能となる。かようなルイス酸の例としては、例えば、塩化セリウム(III)、塩化アルミニウム(III)、四塩化チタン、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体などが挙げられる。ただし、これら以外のルイス酸が用いられても、勿論よい。
【0040】
還元反応が行われる際の反応条件についても特に制限はなく、ボラジン化合物により還元される反応物質の種類に応じて適宜決定されうる。反応条件の一例を挙げると、反応温度は−78〜100℃程度であり、好ましくは0〜50℃である。また、反応時間は0.01〜50時間程度であり、好ましくは0.1〜5時間である。さらに、反応時の雰囲気についても特に制限はないが、好ましくは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下にて行われる。ただし、これら以外の反応条件が採用されても、勿論よい。
【0041】
還元反応の反応形態についても特に制限はない。例えば、ボラジン化合物、被還元性物質、および必要に応じて溶媒を、全て反応器中に仕込んだ状態で還元反応を進行させてもよいし、ボラジン化合物または被還元性物質の一方または双方を、反応系に徐々に添加しながら還元反応を進行させてもよい。ボラジン化合物および/または被還元性物質を反応系に徐々に添加する形態としては、両者を別々のラインから連続的に反応系に添加(滴下)する形態;両者を別々のラインから段階的に(例えば、数〜数十分おきに)反応系に添加する形態;両者が非加熱状態では反応しない場合には、両者の混合物を1つのラインから連続的または段階的に反応系に添加(滴下)する形態、などが例示されうる。
【0042】
還元反応を終了させる際には、反応系に水を添加するとよい。これにより、ボラジン化合物が分解され、還元剤としての機能を消失するためである。この際添加される水の量は特に制限されないが、通常、使用したボラジン化合物に含まれる水素原子1モルに対して、10〜100モル程度である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0044】
<実施例>
反応器に、被還元性物質(ケトン)であるアセトン2.00gおよび溶媒であるテトラヒドロフラン50gを仕込み、反応系とした。その後、N,N’,N”−トリメチルボラジン4.22gを10分間かけて反応系に滴下した。20℃にて2時間撹拌後、水10gを反応系に添加して反応を完結させた。その結果、アセトンの還元により生成しうるイソプロピルアルコールが1.76g生成していた。なお、イソプロピルアルコールの生成は、以下の測定条件下で、GC−MSにより確認した。
【0045】
[GC−MSの測定条件]
装置:サーモエレクトロン株式会社製 POLARIS Q
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 TC−WAX
長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:1.0mL/分
試料注入温度:250℃
カラム温度:40℃(5分)→15℃/分の昇温速度で230℃まで昇温
保持時間:2.18分(イソプロピルアルコール)

以上の実施例に示す結果から、ボラジン化合物との反応によりアセトンがイソプロパノールに還元されたことがわかる。
【0046】
従って、本発明によれば、ボラジン化合物を還元剤として採用することで、安全性が高く、非極性有機溶媒中でも取扱いが容易な還元剤、およびこれを用いた還元方法が提供されうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

式中、Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である、
で表され、還元剤として用いられる、ボラジン化合物。
【請求項2】
前記Rのすべてがアルキル基である、請求項1に記載のボラジン化合物。
【請求項3】
前記アルキル基がメチル基である、請求項2に記載のボラジン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のボラジン化合物を主成分とする還元剤。
【請求項5】
下記化学式1:
【化2】

式中、Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、少なくとも1つのRは、水素原子である、
で表されるボラジン化合物を還元剤として用いる、被還元性物質の還元方法。
【請求項6】
前記Rのすべてがアルキル基である、請求項5に記載の還元方法。
【請求項7】
前記アルキル基がメチル基である、請求項6に記載の還元方法。

【公開番号】特開2008−24678(P2008−24678A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201685(P2006−201685)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】