説明

ボルト又はナットの回り止め器具及び手摺駆動ローラの取り外し器具

【課題】取り扱い難い場所に設置されたボルトやナットを容易に固定でき被締結部材の簡便な着脱を可能とするボルト又はナットの回り止め器具を提供することである。
【解決手段】回り止め器具10は、回転器具20と共に手摺駆動ローラ着脱器具を構成する器具であって、嵌合部12がそれぞれ形成された2つの頭部14と、各頭部14をつなぐ軸部13とを有し、各嵌合部12は、ナット52Aと共にナット52Bに嵌合することで、ナット52Bを利用して、着脱対象の手摺駆動ローラ51Aに対応するナット52Aを容易に固定することができる。また、回り止め器具10によりナット52Aを固定した状態で、回転器具20を用いて軸56Aを回転させることで、簡便且つ迅速に手摺駆動ローラ51Aを着脱することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト又はナットの回り止め器具に関し、特に複数の被締結部材がそれぞれボルト又はナットを用いて締結された構造物に用いられるボルト又はナットの回り止め器具に関する。また、本発明は、乗客コンベアの手摺駆動ローラの取り外し器具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト又はナットを用いて締結された被締結部材は、ナット等を緩める(回転させる)或いはナット等を固定した状態で被締結部材を回転させることで、それが設置された構造物から取り外すことができる。一般的に、ナット等は、スパナやレンチ等の工具を用いて回転或いは固定されるが、スパナ等の工具がとどき難い場所にナット等が設置されている場合には、当該回転や固定の作業は容易ではない。
【0003】
本発明に関連する技術として、特許文献1には、柄部の少なくとも一端にリング状の口部が形成されためがねレンチにおいて、口部の一縁に、口部内方へ突出する受部が形成されためがねレンチが開示されている。また、特許文献1には、めがねレンチの口部にボルトの頭部やナットを嵌め入れることで、これらが受部によって受けられた状態となるため、締め付け作業や緩め作業の途中でボルトの頭部やナットが口部から抜け落ちることがない、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐107039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されためがねレンチによれば、作業中におけるナット等の抜け落ちを抑制することができると想定される。しかしながら、特許文献1のめがねレンチを含む従来の器具では、器具がとどき難い場所に設置されたナット等を緩める、締め付ける、或いは固定する場合には、その作業性を十分に改善することができない。
【0006】
例えば、器具がとどき難い場所に設置されるナット等としては、図7及び図8に示す手摺駆動装置50のナット52が挙げられる。なお、図7及び図8は、エスカレータの手摺駆動装置50を示す図であり、図7は図示しないステップ側(表側)から見た斜視図を、図8は図7のA‐A線断面図をそれぞれ示している。
【0007】
図7及び図8に示すように、手摺駆動装置50は、軸受け63を有する筒状体64を介して取り付け軸56(以下、軸56とする)に回転可能に設置された4つの手摺駆動ローラ51及び第1歯車53、第1歯車53と係合してステップリンク61からの動力を手摺駆動ローラ51に伝達する2つの第2歯車54、及び手摺駆動ローラ51と共に移動手摺62を挟む4つの加圧ローラ55を備えている。なお、軸56は、手摺駆動ローラ51を取り付けるための回転しない軸であって、筒状体64を介して手摺駆動ローラ51及び第1歯車53と一体化している。軸56の一端は、段付きボルトのように軸径が細くなった小径部にねじ溝が形成されると共に、当該小径部が取り付け板58の貫通孔から裏側に突出して、ナット52により取り付け板58に締結される。軸56の他端は、軸端に形成されたねじ孔に歯車取り付け板59を介してボルト65が挿入されている。
【0008】
手摺駆動装置50は、定期的に点検が行なわれて、例えば、手摺駆動ローラ51が磨耗している場合には、その交換作業が行われる。ここで、手摺駆動ローラ51の1つが交換を要する場合には、ボルト65、ボルト66、歯車取り付け板59及び第2歯車54を取り外し、ナット52を緩める等して交換対象の手摺駆動ローラ51のみを取り外せばよいが、スパナ等の工具を用いてナット52を緩める又はナット52を固定した状態で軸56を緩めるといった作業は容易ではない。
【0009】
なお、ナット52により直接締結される部材は、軸56であるが、軸56と手摺駆動ローラ51とは一体として手摺駆動装置50(取り付け板58)から取り外されるため、本明細書では、手摺駆動ローラ51もナット52の被締結部材と称して説明する。
【0010】
ナット52は、手摺駆動装置50の裏側に設置されていて、ナット52の上方は固定アングル60により覆われ、下方側にはステップリンク61等が存在するため、スパナ等の器具を用いた作業は極めて困難である。そこで、1つの手摺駆動ローラ51を取り外そうとする場合であっても、手摺駆動装置50の一式を取り外してから分解することを余儀なくされていた。
【0011】
本発明の目的は、取り扱い難い場所に設置されたボルトやナットを容易に固定でき被締結部材の簡便な着脱を可能とするボルト又はナットの回り止め器具を提供することである。また、本発明の他の目的は、手摺駆動ローラの簡便な取り外しを可能とする手摺駆動ローラの取り外し器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るボルト又はナットの回り止め器具は、複数の被締結部材がそれぞれボルト又はナットを用いて締結された構造物において、被締結部材の取り外し時に、取り外し対象の被締結部材を固定するボルト又はナットが回転することを止める回り止め器具であって、少なくとも2つのボルト又はナットに同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、同時に嵌合するとは、時間的に全く同時に嵌合する必要はなく、一方の嵌合部が先に嵌合してから他方の嵌合部が嵌合する場合を含む。即ち、本発明に係る回り止め器具は、取り外し対象の被締結部材に対応するボルト又はナットした状態で、その他の少なくとも1つのボルト又はナットに嵌合するように、少なくとも2つの嵌合部が所定間隔をあけて互いにつながって配置された構造を有している。
【0014】
上記構成によれば、取り外し対象の被締結部材に対応するボルト又はナットの回転を、その他のボルト又はナットを利用して止める(固定する)ことができる。ゆえに、取り外し対象に対応するボルト又はナットを片手で固定しながら無理な体勢で被締結部材を回転させるような作業や1人がボルト又はナットを固定した状態でもう1人が被締結部材を回転させるような2人作業等を行うことなく、両手で被締結部材を回転させて取り外すことができる。なお、本発明に係る回り止め器具は、被締結部材の取り付け時に、取り付け対象の被締結部材を固定するボルト又はナットが回転することを止めるために用いることもできる。
【0015】
また、本発明に係る回り止め器具において、各嵌合部は、同一形状を有する構成とすることができる。
【0016】
また、本発明に係る回り止め器具において、少なくともボルト又はナット、或いはボルト又はナットが取り付けられた構造物に吸着する磁石を有する構成とすることができる。当該構成によれば、磁力を利用して器具を構造物等に固定することができるので、被締結部材の取り外し時、取り付け時(着脱時)において、器具やボルト又はナットの落下を防止することができる。
【0017】
また、本発明に係る回り止め器具において、嵌合部同士の間隔を伸縮させることが可能なスライド構造を有する構成とすることができる。当該構成によれば、器具を取り付けるべきボルト又はナットの間隔が異なる構造体についても同一の器具を使用することができる。
【0018】
また、本発明に係る回り止め器具において、嵌合部は、ボルトヘッド又はナットの側面だけでなく、上面にも当接してボルト又はナットの抜け落ちを防止する係止構造を有する構成とすることができる。当該係止構造によれば、特に、被締結部材を取り付けるときに、ボルトヘッド又はナットの上面を押さえて、ボルト又はナットが器具から抜け落ちないように保持することができる。ここで、上面とは、側面に垂直な面(略垂直な面)であって、被締結部材の取り付け時にその取り付け方向に向いた面である。なお、当該係止構造と併せて、器具を構造物等に固定する上記磁石又はその他の固定構造が設けられることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る手摺駆動ローラの取り外し器具は、複数の手摺駆動ローラ及び手摺駆動ローラと共に回転する歯車の取り付け軸をそれぞれ締結する複数のナットが設置された乗客コンベアの手摺駆動装置において、手摺駆動ローラの取り外しに用いられる手摺駆動ローラの取り外し器具であって、少なくとも2つのナットに同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部を備える上記回り止め器具と、取り付け軸の軸端に係合する軸端係合部及び手摺駆動ローラと共に回転する歯車の歯に係合する歯車係合部を有する回転器具と、から構成されることを特徴とする。なお、本発明に係る手摺駆動ローラの取り外し器具は、手摺駆動ローラの取り付けにも用いられる手摺駆動ローラの着脱器具とすることもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るボルト又はナットの回り止め器具によれば、取り扱い難い場所、例えば、スパナやレンチ等の工具がとどき難い場所や無理な体勢での作業を余儀なくされる場所等に設置されたボルト又はナットの回転を容易に止めることができる。そして、本発明に係る回り止め器具によって対応するボルト又はナットを固定した状態で手摺駆動ローラ等の被締結部材を簡便に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態である回り止め器具を示す図である。
【図2】本発明の実施形態の第1変形例である回り止め器具を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の第2変形例である回り止め器具を示す図である。
【図4】図1の回り止め器具を手摺駆動装置に設置されるナットに取り付けた状態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態である回転器具を示す図である。
【図6】図5の回転器具を軸及び第1歯車に取り付けた状態を示す図である。
【図7】エスカレータの手摺駆動装置を示す前方斜視図である。
【図8】図7のA‐A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るボルト又はナットの回り止め器具及び手摺駆動ローラの取り外し器具の実施形態について、以下詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る回り止め器具は、図7及び図8に示すエスカレータの手摺駆動装置50において、手摺駆動ローラ51の取り外し時及び取り付け時(着脱時)に用いられる回り止め器具10として説明するが、これに限定されるものではない。本発明に係る回り止め器具は、複数の被締結部材がそれぞれボルト又はナットを用いて締結されたその他の構造物についても使用することができる。また、本発明に係る手摺駆動ローラの取り外し器具は、手摺駆動ローラの取り付け時にも使用される手摺駆動ローラの着脱器具として説明するが、取り外し時のみに使用されるものであってもよい。
【0023】
まず、図1〜図4を用いて、回り止め器具10の構成及び作用(使用方法)を詳細に説明する。なお、図2及び図3は、図1に示す回り止め器具10の変形例を示す図である。
【0024】
図1に示すように、回り止め器具10は、少なくとも2つのナット52に同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部12を備える器具であって、被締結部材である軸56(手摺駆動ローラ51)の着脱時に着脱対象に対応するナット52の回転を固定する器具である。即ち、回り止め器具10は、手摺駆動ローラ着脱器具の1つであって、回り止め器具10を対応するナット52に取り付けて回転しないように固定した状態で、着脱対象である手摺駆動ローラ51を回転させて着脱する。
【0025】
回り止め器具10は、所定長さの軸部13と、軸部13の両端に位置し、嵌合部12が形成された円盤形状の頭部14とを有する形状である。換言すると、回り止め器具10は、2つの嵌合部12が形成された頭部14が軸部13によって連結された構造である。回り止め器具10は、ナット52の固定時に加わる力で変形等が起こらない程度の機械的強度が要求されることから、工具鋼等の金属材料で構成されることが好ましい。また、回り止め器具10の厚み等も機械的強度等を考慮して設定される。
【0026】
軸部13は、2つの嵌合部12が嵌合される2つのナット52の設置間隔に適合した長さを有する。即ち、軸部13の長さは、後述の図4に示すように、2つの嵌合部12がそれぞれ着脱対象である手摺駆動ローラ51(以下、手摺駆動ローラ51Aとする)に対応するナット52(以下、ナット52Aとする)及びナット52Aの隣に取り付けられたナット52(以下、ナット52Bとする)に対して同時に嵌合することが可能な長さに設定される。なお、ナット52Bの右隣に取り付けられたナット52をナット52C、その右隣に取り付けられたナット52をナット52Dとする(手摺駆動ローラ51等についても同様)。
【0027】
また、軸部13は、略直方体形状を有する。軸部13の両端に位置する頭部14は、その円盤面が軸部13の長軸方向に沿って配置されている。そして、2つの頭部14の円盤面が互いに同一の仮想平面上に位置しており、回り止め器具10は、全体として直線状に形成されている。即ち、ナット52は、平坦な取り付け板58の裏側において同一平面上に設置されているから、図1に示す回り止め器具10は直線状の形状を有している。
【0028】
なお、2つの頭部14の円盤面が互いに同一の仮想平面上に位置した形態において、軸部13が屈曲或いは湾曲した形状とすることもできる。或いは、軸部13を折り曲げて、2つの頭部14の円盤面が互いに異なる仮想平面上に位置した形態として、2つの嵌合部12を同一平面上にないボルト又はナットに嵌合させることもできる。
【0029】
頭部14は、上記のように、円盤形状を有しており、円盤の中央に嵌合部12が形成された部分である。各頭部14は、互いに平行な2つの円盤面を有しており、当該円盤面に嵌合部12の開口が形成されている。そして、2つ存在する頭部14は、それぞれ同一形状を有する。ゆえに、回り止め器具10は、左右対称の形状である。例えば、頭部14の円盤面を平面視したときに、回り止め器具10の中心(軸部13の中心)を通る如何なる直線(対称軸)を基準としても左右対称である。
【0030】
回り止め器具10には、取り付け板58に吸着する図示しない磁石を設けることができる。磁石としては、一般的な永久磁石を用いることができ、頭部14に設けられていることが特に好ましい。例えば、磁石は、頭部14の円盤面に設けることができ、各頭部14において同じ側の円盤面又は両側の円盤面に設けられることが好ましい。或いは、頭部14自体を磁石から構成することもできる。また、頭部14は、磁石が取り付け板58に直接接触するように、円盤面の周縁部分にワッシャー(図8参照)を避けて取り付け板58に当接する凸部が形成された形態であって、当該凸部に磁石が設けられた形態とすることもできる。
【0031】
嵌合部12は、上記のように、頭部14に形成されたナット52に嵌合される部分である。嵌合部12は、ナット52に対応した6角形状の貫通孔(6角孔)であって、頭部14の円盤面に対して垂直に形成されている。そして、嵌合部12がナット52に嵌合されると嵌合部12の内壁面、即ち6角孔の内壁面がナット52の側面に当接するように形成されている。なお、ボルトの場合には、嵌合部12はボルトヘッドの側面に当接する。
【0032】
嵌合部12の形状としては、12角等の6角以外の多角形状とすることもできる。また、嵌合部12の形状は、ナット52の側面に嵌合して回転を固定できる形状であれば特に限定されず、スパナのようにナット52の対向する2側面に当接する略コの字形状やモンキーレンチのようにスキュリーギアによりそのサイズを変更できるもの等であってもよい。また、ボルト又はナットの形状等によっては、頭部14の一方の円盤面のみに開口が形成された凹形状(貫通しない嵌合部)とすることもできる。
【0033】
嵌合部12は、2つの頭部14にそれぞれ形成されている。嵌合部12は、2つ存在し、一方がナット52Aに嵌合された状態で、他方がナット52Bに嵌合できるように形成されている。即ち、2つの嵌合部12がナット52A及びナット52Bに同時に嵌合できるように、回り止め器具10の形状や回り止め器具10における嵌合部12の形成位置が調整される。
【0034】
また、2つの嵌合部12は、互いに同一形状(同一サイズの6角孔)を有し、同一形状の各頭部14の同じ位置に形成されている。ゆえに、回り止め器具10は、左右対称の形状を有しており、ナット52Aに嵌合する嵌合部12を変更しても、ナット52Aに嵌合した状態でナット52Bにもう1つの嵌合部12を嵌合させることができる。
【0035】
なお、図2に示すように、回り止め器具10は、4つの嵌合部12を備える形態とすることもできる。図2に示す例では、直線状の軸部13の両端及びその中途部に等間隔で頭部14が形成され、各頭部14に同一形状の6角孔である嵌合部12が形成されている。即ち、図2に示す回り止め器具10は、複数の嵌合部12が形成された頭部14が軸部13を介して直線状につながった構造である。当該形態では、例えば、後述の図4に示す4つのナット52A〜Dに、嵌合部12A〜Dを嵌合させて取り付けることができる。
【0036】
また、図2に示す例において、嵌合部12は、ナット52の上面に当接してナット52の抜け落ちを防止する係止構造として、一方の開口部分に、頭部14の円盤面に沿って当該開口の周縁に張り出した(突出した)フランジ15を有する。フランジ15は、嵌合部12がナット52に嵌合したときに、ナット52の上面に当接するように形成されている。ここで、ナット52の上面とは、ナット52の側面に垂直な面であって、軸56の取り付け時にその取り付け方向に向いた面を意味する。即ち、ナット52の上面は、後述の図4に表れている面である。なお、フランジ15は、ナット52の上面の周縁部分に当接し、軸56に接触しないような突出長さを有している。
【0037】
さらに、図2に示す例では、ボルト又はナットが設置された構造物、具体的には、取り付け板58に器具本体11を引っ掛けるためのフック16が設けられている。フック16は、器具本体11の両端2箇所に設けられている。なお、器具本体11を装置に取り付けることが可能な構造であれば、フック16や上記の磁石に限定されず、種々の取り付け・固定構造を適用することもできる。
【0038】
回り止め器具10は、上記のようなフランジ15を備える、好ましくはフック16や磁石等の固定構造を併せて備えることにより、特に手摺駆動ローラ51の取り付け時において、ナット52が軸56に押される等して落下することを防止できる。
【0039】
また、図3に示すように、回り止め器具10は、軸部13の長さが伸縮自在の伸縮構造17を有する形態とすることもできる。伸縮構造17は、軸部13の長さを伸縮させることで、嵌合部12の間隔を伸縮させることが可能なスライド構造である。例えば、伸縮構造17は、入れ子式のスライド構造であって、所定の長さで固定可能な複数の雌ねじと当該雌ねじにねじ込まれる雄ねじを有する構造とすることができる。
【0040】
また、図示しないが、回り止め器具は、所定の厚みを有する平面視で正方形や長方形、円形等の板形状とすることもできる。そして、板形状の回り止め器具において、複数のボルト又はナットに対応する位置に6角孔等の複数の嵌合部が形成された形態とすることもできる。
【0041】
次に、図4(図7及び図8)を用いて、回り止め器具10の使用方法(作用)を説明する。
【0042】
図4は、手摺駆動装置50を裏側から見た状態を模式的に示す図である。図4に示すように、回り止め器具10は、一方の嵌合部12(嵌合部12A)をナット52Aに嵌合させ、他方の嵌合部12(嵌合部12B)をナット52Bに嵌合させて取り付けられる。ここで、回り止め器具10の具体的な使用方法及び回り止め器具10の作用について、特に手摺駆動ローラ51A(軸56A)を取り外す手順を例示して説明する。
【0043】
手摺駆動ローラ51Aを取り外す場合、まず初めに、ボルト65、ボルト66、歯車取り付け板59及び第2歯車54を取り外す。なお、第2歯車54は歯車取り付け板59に連結されているので、ボルト65及びボルト66を緩めて両部材を簡単に取り外すことができる。また、歯車取り付け板59を取り外すことで、加圧ローラ55の加圧状態も解除することができる。
【0044】
次に、回り止め器具10をナット52A及びナット52Bに取り付ける。なお、ナット52A及びナット52Bは、回り止め器具10の嵌合部12A及び嵌合部12Bが同時に嵌合できるように、その回転角度が嵌合部12A及び嵌合部12Bの形状に適合するように調整されている必要がある。当該調整は、通常、手摺駆動装置50を最初に取り付ける際に行われる。そして、回り止め器具10を取り付けた状態で、手摺駆動ローラ51Aの軸56Aを取り外す方向(例えば、反時計回り)に回転させる。
【0045】
軸56Aを反時計回り回転させると、ナット52Aも同一方向に供回りしようとするが(図4に示す状態では時計回り)、ナット52Aの回転は、回り止め器具10により固定される。即ち、ナット52Aの回転力は、嵌合部12Aが形成された頭部14Aが受容して、軸部13を介して頭部14Bに伝達される。ナット52Aが時計回りに回転しようとするとき、頭部14Bには、下方に向かう力が加わり、嵌合部12Bの上側の内壁面がナット52Bに強く押し付けられる。下方への力を受けるナット52Bは、手摺駆動ローラ51Bの軸56Bに締結されているため、頭部14Bが下方に移動することなく、ナット52Aの回転力がナット52Bにより受容される。このように、回り止め器具10によれば、隣に設置されたナット52Bを利用してナット52Aの回転(供回り)を固定することができる。そして、回り止め器具10によりナット52Aを固定した状態で、軸56Aを回転させることで、軸56Aと共に手摺駆動ローラ51Aを取り付け板58から取り外すことができる。
【0046】
なお、ナット52Aは、手摺駆動ローラ51A(軸56A)を取り外した後においても、回り止め器具10により元の位置に保持されている。ゆえに、手摺駆動ローラ51Aを取り付ける場合は、軸56Aをナット52Aにねじ込むことで容易に取り付けることができる。手摺駆動ローラ51Aの取り付け時において、ナット52Aや回り止め器具10が落下することがないように、回り止め器具10には、フランジ15、及び磁石やフック16等の器具固定構造が設けられていることが好ましい。
【0047】
軸56Aを回転させる方法としては、例えば、軸56Aの軸端の角型に加工された軸端加工部57を種々の工具等で摘んで回転させる方法や軸56Aの軸端にボルト65を再度嵌め込んでそのボルト65をスパナ等の工具で回す方法等が挙げられる。他にも、第1歯車53を利用して操作性を向上させた回転器具20(図5及び図6参照)を用いる方法も好適である。
【0048】
ここで、図5及び図6を用いて、回転器具20について説明する。
【0049】
回転器具20は、回り止め器具10をナット52に取り付けた状態で使用される器具であって、回り止め器具10と共に手摺駆動ローラの着脱器具を構成する器具である。手摺駆動ローラの着脱器具は、手摺駆動ローラ51を取り外すときだけでなく、取り付けるときにも使用することができ、ナット52を固定した状態で軸56を回転させる器具である。
【0050】
図5に示すように、回転器具20は、軸56の軸端に形成された軸端加工部57に係合する軸端係合部21及び第1歯車53の歯に係合する歯車係合部22を有し、軸56を回転させる器具である。図5に示す例では、直線状の軸部23の中央に軸端係合部21が、その両側に所定間隔をあけて対向配置された2つの歯車係合部22が、軸部23の両端に把持部24がそれぞれ設けられた形態を有している。
【0051】
軸端係合部21は、軸端加工部57に係合する凹部が形成された部分であって、回転器具20の回転力はこの軸端係合部21を介して軸56に伝達される。軸端係合部21の形状は、軸端加工部57の形状等に応じて適宜変更することができる。例えば、軸56の端部が軸端加工部57のように角型に加工されていない場合、ボルト65のヘッドに嵌合する凹部が形成された軸端係合部21とすることができる。当該形態では、歯車取り付け板59を取り外した状態で軸56の軸端にボルト65を再度嵌め込んで、そのボルト65に軸端係合部21を係合させて使用することができる。
【0052】
歯車係合部22は、回転器具20を安定させるために、第1歯車53の径方向の両端に係合するように設けられる部分であって、手摺駆動ローラ51と共に回転する第1歯車53の歯型に対応する歯型が形成されている。歯車係合部22は、3箇所、4箇所といった多点、又は第1歯車53の全周囲に沿って、第1歯車53と係合する形態とすることもできる。なお、歯車係合部22及び軸端係合部21を含む回転器具20の形態としては、軸56及び第1歯車53に係合して、両部材を回転させることができる形態であれば図5に示す形態に限定されない。
【0053】
図6に示すように、回転器具20は、軸端係合部21の凹部が軸56Aの軸端加工部57Aと係合するように、且つ2つの歯車係合部22が手摺駆動ローラ51Aと共に回転する第1歯車53Aに係合するように取り付けられる。そして、交換作業者は、軸部23の両端に設けられた把持部24を握って、例えば、反時計回りに軸56Aを回転させることで、軸56A及び手摺駆動ローラ51Aを取り付け板58から取り外すことができる。なお、回転器具20を軸56A及び第1歯車53Aに取り付けて回転させる前に、歯車取り付け板59及び第2歯車54を取り外し、回り止め器具10をナット52A及びナット52Bに取り付けておく。
【0054】
以上のように、回り止め器具10は、回転器具20と共に手摺駆動ローラ着脱器具を構成する器具である。回り止め器具10は、少なくとも2つのボルト又はナットに、例えば、着脱対象に対応するナット52A及びその隣のナット52Bに、同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部12を備える。図1に示す例では、嵌合部12がそれぞれ形成された2つの頭部14と、各頭部14をつなぐ軸部13とを有する形態である。
【0055】
回り止め器具10によれば、近くに設置されたボルト又はナット(例えば、ナット52B)を利用して、着脱対象の被締結部材(例えば、手摺駆動ローラ51A)に対応するボルト又はナット(例えば、ナット52A)を容易に固定することができる。ゆえに、手摺駆動ローラ51Aを取り付け板58から取り外す場合、回り止め器具10によりナット52Bを利用してナット52Aを固定した状態で、回転器具20を用いて両手で軸56Aを回転させることができ、簡便且つ迅速に手摺駆動ローラ51Aを取り外すことが可能になる。また、同様にして、手摺駆動ローラ51Aを取り付け板58に取り付けることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 回り止め器具、11 器具本体、12 嵌合部、13 軸部、14 頭部、15 フランジ、16 フック、17 伸縮構造、20 回転器具、21 軸端係合部、22 歯車係合部、23 軸部、24 把持部、50 手摺駆動装置、51 手摺駆動ローラ、52 ナット、53 第1歯車、54 第2歯車、55 加圧ローラ、56 軸、57 軸端加工部、58 取り付け板、59 歯車取り付け板、60 固定アングル、61 ステップリンク、62 移動手摺、63 軸受け、64 筒状体、65、66 ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被締結部材がそれぞれボルト又はナットを用いて締結された構造物において、被締結部材の取り外し時に、取り外し対象の被締結部材を固定するボルト又はナットが回転することを止める回り止め器具であって、
少なくとも2つのボルト又はナットに同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部を備えることを特徴とするボルト又はナットの回り止め器具。
【請求項2】
請求項1に記載の回り止め器具において、
各嵌合部は、同一形状を有することを特徴とするボルト又はナットの回り止め器具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回り止め器具において、
嵌合部同士の間隔を伸縮させることが可能なスライド構造を有することを特徴とするボルト又はナットの回り止め器具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の回り止め器具において、
少なくともボルト又はナット、或いはボルト又はナットが取り付けられた構造物に吸着する磁石を有することを特徴とするボルト又はナットの回り止め器具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の回り止め器具において、
嵌合部は、ボルトヘッド又はナットの上面に当接してボルト又はナットの抜け落ちを防止する係止構造を有することを特徴とするボルト又はナットの回り止め器具。
【請求項6】
複数の手摺駆動ローラ及び手摺駆動ローラと共に回転する歯車の取り付け軸をそれぞれ締結する複数のナットが設置された乗客コンベアの手摺駆動装置において、手摺駆動ローラの取り外しに用いられる手摺駆動ローラの取り外し器具であって、
少なくとも2つのナットに同時に嵌合する少なくとも2つの嵌合部を備える請求項1〜5のいずれか1に記載の回り止め器具と、
取り付け軸の軸端に係合する軸端係合部及び手摺駆動ローラと共に回転する歯車の歯に係合する歯車係合部を有する回転器具と、
から構成されることを特徴とする手摺駆動ローラの取り外し器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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