説明

ボルト

【課題】締め付けトルクを管理することが可能な構造であるにもかかわらず、安価で、一般的なドライバなどの手工具を用いて締結することが可能なボルトを提供する。
【解決手段】頭部2と、雄ねじ3を有する軸部4と、前記軸部4に突設された押圧子5と、前記押圧子5を収納する環状の空間6を有するカラー7とを備える。前記カラー7は、前記軸部4が貫通する状態で前記軸部4に回転自在に保持される。カラー7には、前記頭部2に対接する受圧部7aと、前記軸部4をカラー7に対して回転させたときの前記押圧子5の回転軌跡内に臨む弾性材からなる係合片8とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締め付けトルクを管理するための機構を備えたボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のボルトとしては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
特許文献1に開示されたボルトは、作業者が締め付けたり緩めたりするために回すキャップを備えている。このキャップは、締め付けトルクを制限するためのトルクリミット機構を介して前記ボルトの頭部に取付けられている。
【0003】
前記トルクリミット機構は、ボルトの頭部に固定されたばね片と、このばね片が係合する前記キャップの係合部とから構成されている。前記ばね片は、ボルトと一体に回転するように、ボルトの頭部に形成された溝に嵌合している。前記キャップは、プラスチックによって形成されており、作業者が把持する外筒と、ボルトの頭部に回転自在に支持されかつ外れ止めとして機能するボスと、前記ばね片が係合する係合部とが一体に形成されている。
【0004】
これらのばね片と係合部とは、キャップに加えられた回転トルクが前記係合部からばね片を介してボルトに伝達されるように形成されている。このトルクリミット機構は、ボルトを締め付けるトルクが所定値を上回ったときに、前記ばね片が弾性変形して係合部から離れ、トルクの伝達が遮断されるように構成されている。
【0005】
ところで、屋外に設置される通信機器は、建築物や電信柱などの支持部材に固定用ボルトによって固定されている。この屋外通信機器は、前記支持部材から脱落するようなことがあってはならないものである。このため、前記固定用ボルトを締め付けるときには、締め付けトルクを厳格に管理することが必要である。屋外通信機器を支持部材に取付けるためのの固定用ボルトは、安価であることが必要であるから、ドライバなどの手工具で簡単に締め付けることができるものが用いられている。この固定用ボルトを所定の締め付けトルクで締め付けるためには、トルクドライバが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−10537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記屋外通信機器を支持部材に取付ける取付作業は、上述したようにトルクドライバを使用しなければならないために、煩わしい作業であった。トルクドライバを使用することなく締め付けトルクを管理するためには、上述した特許文献1に開示されているようなボルトを使用することが考えられる。
【0008】
しかし、特許文献1に示すボルトは、複雑な形状のキャップとばね片とを使用しているために製造コストが高くなる。このため、このボルトは、通常のドライバで締め付けるような一般的なボルトに較べて高価なものとなるから、前記屋外通信機器の固定用ボルトとして使用することはできない。
【0009】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、締め付けトルクを管理することが可能な構造であるにもかかわらず、安価で、一般的なドライバなどの手工具を用いて締結することが可能なボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係るボルトは、頭部と、この頭部に一端部が接続しかつ他端部に雄ねじが形成された軸部と、前記軸部に突設された押圧子と、前記押圧子を収納する環状の空間を有しかつ前記軸部が貫通する状態で前記軸部に回転自在に保持されたカラーとを備え、前記カラーには、前記頭部に対接する受圧部と、前記軸部をカラーに対して回転させたときの前記押圧子の回転軌跡内に臨む弾性材からなる係合片とが設けられているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記軸部を雌ねじ側の部材に締め込むことによって、前記カラーが頭部と雌ねじ側の部材とによって挟まれる。このようにカラーが前記両者に挟まれた状態で前記軸部をさらに締め込むと、カラーと雌ねじ側の部材との摩擦によりカラーの回転が規制されるために、カラーに対して軸部が回転する。軸部がカラーに対して回転すると、押圧子がカラーの係合片に当たり、この状態からさらに軸部が締め込まれると、押圧子が係合片を弾性変形させて押し退け、係合片を越えて反対側に移動する。
【0012】
このとき、このボルトを締め込んでいた作業者は、ボルトから受ける反力が急激に変化するために、いわゆるクリック感を感じる。このため、締め付けトルクが所定値に達したときに作業者に上記クリック感を与えることができるから、締め付けトルクを管理することができるようになる。
【0013】
また、上記クリック感を作業者に与えるに当たっては、軸部にカラーを装着するだけで安価に実現することができる。さらに、前記頭部は、一般的な手工具が係合できるように形成することが可能である。
したがって、本発明によれば、締め付けトルクを管理することが可能な構造を採っているにもかかわらず、安価で、一般的なドライバなどの手工具を用いて締結することが可能なボルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るボルトの基本的な構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係るボルトの斜視図で、同図(A)は頭部側から見た状態を示し、同図(B)はねじ部側から見た状態で描いてある。
【図3】本発明に係るボルトの分解斜視図である。
【図4】要部の断面図で、同図(A)は押圧子が一方の係合片に当接した状態を示し、同図(B)は押圧子が一方の係合片を越えた状態を示す。
【図5】カラーの第2の半部を取外した状態の要部を示す斜視図で、同図(A)は押圧子が一方の係合片に当接した状態を示し、同図(B)は押圧子が一方の係合片を越えた状態を示す。
【図6】本発明に係るボルトの使用状態を説明するための断面図で、同図(A)は取付用ボードにボルトを挿通させた状態を示し、同図(B)は支持部材にボルトを螺着させた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施例)
以下、本発明に係るボルトの基本的な構成の一実施例を図1によって詳細に説明する。
図1に示すボルト1は、頭部2と、この頭部2に一端部が接続しかつ他端部に雄ねじ3が形成された軸部4と、前記軸部4に突設された押圧子5と、前記押圧子5を収納する環状の空間6を有しかつ前記軸部4が貫通する状態で前記軸部4に回転自在に保持されたカラー7とを備えている。
【0016】
前記カラー7には、前記頭部2に対接する受圧部7aと、前記軸部4をカラー7に対して回転させたときの前記押圧子5の回転軌跡内に臨む弾性材からなる係合片8とが設けられている。
このように構成されたボルト1においては、前記軸部4を雌ねじ側の部材9に締め込むことによって、前記カラー7が頭部2と雌ねじ側の部材9とによって挟まれる。
【0017】
このようにカラー7が前記両者に挟まれた状態で前記軸部4をさらに締め込むと、カラー7と雌ねじ側の部材9との摩擦によりカラー7の回転が規制されるために、カラー7に対して軸部4が回転するようになる。
前記軸部4がカラー7に対して回転すると、押圧子5がカラー7の係合片8に当たる。そして、この状態から引き続き軸部4が締め込まれると、押圧子5が係合片8を弾性変形させて押し退け、係合片8を越えて移動する。
【0018】
このとき、このボルト1を締め込んでいた作業者は、ボルト1から受ける反力が急激に変化するために、いわゆるクリック感を感じる。
このため、この実施例によれば、締め付けトルクが所定値に達したときに作業者に上記クリック感を与えることができるから、締め付けトルクを管理することができるようになる。
【0019】
また、上記クリック感を作業者に与えるに当たっては、押圧子5が予め形成されている軸部4にカラー7を装着するだけで安価に実現することができる。さらに、前記頭部2は、一般的な手工具が係合できるように形成することが可能である。
したがって、この実施例によれば、締め付けトルクを管理することが可能な構造を採っているにもかかわらず、安価で、一般的なドライバなどの手工具を用いて締結することが可能なボルトを提供することができる。
【0020】
(第2の実施例))
次に、本発明に係るボルトを具体的に示す一実施例を図2〜図6によって詳細に説明する。これらの図において、前記図1によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。なお、図2、図3、図5および図6に示す雄ねじは、ねじ山を省略した状態で描いてある。
図2(A),(B)において、本発明に係るボルトを構成するトルクネジ11は、頭部2と、この頭部2に一体に形成された軸部4と、この軸部4が貫通する状態で軸部4に回転自在に保持された中空円柱状のカラー7とを備えている。
【0021】
前記頭部2には、プラスドライバー(図示せず)を係合させるための係合溝12が形成されている。
前記軸部4は、図3に示すように、その一端部が前記頭部2に接続されるように形成されている。この軸部4の他端部には、雄ねじ3が形成されている。この実施例による雄ねじ3は、ねじ山の数が約10であり、前記軸部4の先端部にのみ形成されている。また、前記軸部4における前記雄ねじ3と前記頭部2との間の部位は、雄ねじ部分の谷径と同等の太さに形成されている。
【0022】
前記軸部4における前記頭部2と隣接する部位には、側面視長方形の板状を呈する二つの押圧子5が形成されている。これらの押圧子5は、それぞれ軸部4と一体に形成されており、図3および図4に示すように、軸部4から径方向の一方と他方とに突出するとともに、軸部4の軸線と平行に延在するように形成されている。この実施例によるこれら二つの押圧子5は、前記軸部4の軸心を通る同一平面上に位置するように形成されている。
【0023】
この実施例によるカラー7は、図3および図4に示すように、前記軸部4の径方向に分割形成された第1、第2の半部13,14どうしを結合させることによって構成されている。これらの半部13,14どうしは、例えば圧入や溶接によって、軸部4を挟んだ状態で分離することができないように結合されている。
【0024】
これらの第1、第2の半部13,14は、それぞれステンレスバネ材によって所定の形状に形成されている。この実施例による前記両半部13,14は、断面半円状の外壁15,16と、この外壁15,16の両端(カラー7の軸線方向の両端)から径方向の内側に延在する蓋体17,18とを備えている。前記第1の半部13の外壁15と、第2の半部14の外壁16とは、第1の半部13と第2の半部14とを結合させた状態で円筒となるように形成されている。この円筒の外径は、前記頭部2の外径と略等しくなるように形成されている。この実施例においては、第1の半部13の外壁15と、第2の半部14の外壁16とによって、請求項2記載の発明でいう筒状壁7b(図2参照)が構成されている。
【0025】
前記第1の半部13の二つの蓋体17,18と、第2の半部14の二つの蓋体17,18とは、第1の半部13と第2の半部14とを結合させた状態において、図2(B)に示すように、前記円筒の両端部を塞ぐ円環状の板7cとなるように形成されている。この円環状の板7cの中央部に形成されている穴の穴径は、前記軸部4の外径より僅かに大きくなるように形成されている。
【0026】
すなわち、第1、第2の半部13,14どうしを結合させることによって形成されたカラー7は、前記蓋体17,18によって前記軸部4に回転自在に支持されることになる。この実施例においては、第1、第2の半部13,14の蓋体17,18のうち、前記頭部2と隣接する蓋体18によって、本発明でいう受圧部7aが構成されている。
【0027】
前記第1の半部13の外壁15における第2の半部14の外壁16と接続される両端部には、図3および図4に示すように、係合片8がそれぞれ一体に形成されている。これらの係合片8は、長方形の板状に形成されており、前記外壁16からカラー7の径方向の内側に延在している。また、これらの係合片8は、前記軸部4をカラー7に対して回転させたときの前記押圧子5の回転軌跡5a(図3参照)内に臨むように形成されている。
【0028】
この実施例によるトルクネジ11を組立てるためには、先ず、押圧子5が形成されている軸部4をカラー7の第1、第2の半部13,14で挟み、これら両半部13,14どうしを互いに対向させる。そして、これら両半部13,14を例えば圧入や溶接によって分離できないように結合させる。これら両半部13,14どうしが結合することによって、カラー7が形成され、トルクネジ11の組立が終了する。
【0029】
このトルクネジ11は、図6に示すように、例えば屋外通信機器(図示せず)の取付用ボード21に挿通され、支持部材22に螺着される。前記取付用ボード21には、トルクネジ11の雄ねじ3と螺合するねじ孔23が形成されているとともに、支持部材22に接続するための取付金具24が取付けられている。この取付金具24には、前記雄ねじ3が挿通される貫通孔25が穿設されている。
【0030】
取付用ボード21には、図6(A)に示すように、支持部材22に取付ける以前に予めトルクネジ11が装着されている。このトルクネジ11は、雄ねじ3が取付用ボード21から突出して軸部4の相対的に径が細い部分がねじ孔23を挿通する状態で取付用ボード21に保持されている。
前記取付用ボード21を支持部材22に取付けるためには、トルクネジ11の雄ねじ3を前記取付金具24の貫通孔25内に挿通させ、支持部材22のねじ孔26に螺着させることによって行う。この締め付け作業は、トルクネジ11の頭部2に係合させたプラスドライバー(図示せず)を回すことによって行う。
【0031】
このトルクネジ11が支持部材22のねじ孔26に締め込まれると、図6(B)に示したように、カラー7が頭部2と前記取付用ボード21とによって挟まれる。このようにカラー7が前記両者に挟まれた状態でトルクネジ11をさらに締め込むと、カラー7と取付用ボード21との摩擦によりカラー7の回転が規制され、カラー7に対して軸部4が回転するようになる。
【0032】
軸部4がカラー7に対して回転すると、図4(A)および図5(A)に示すように、カラー7に二つ設けられている係合片8,8のうち、一方の係合片8に前記押圧子5が当たる。これらの図においては、トルクネジ11を締め込むときの回転方向を矢印Aで示す。押圧子5が係合片8に当接している状態からさらにトルクネジ11を締め込むと、押圧子5が前記係合片8を弾性変形させて押し退け、図4(B)および図5(B)に示すように、この係合片8を越えて反対側に移動する。このとき、このトルクネジ11を締め込んでいた作業者は、トルクネジ11から受ける反力が急激に変化するために、いわゆるクリック感を感じる。
【0033】
このため、この実施例においても、締め付けトルクが所定値に達したときに作業者に上記クリック感を与えることができるから、締め付けトルクが所定値に達して締結が完了したことを認識させることができ、締め付けトルクを管理することができるようになる。
また、上記クリック感を作業者に与えるに当たっては、押圧子5が予め形成されている軸部4にカラー7を装着するだけで安価に実現することができる。さらに、前記頭部2は、プラスドライバーを直接係合させることができるものである。
【0034】
したがって、この実施例においても、締め付けトルクを管理することが可能な構造を採っているにもかかわらず、安価で、一般的なドライバなどの手工具を用いて締結することが可能なトルクネジを提供することができる。
【0035】
図4(B)および図5(B)に示す状態からさらにトルクネジ11を締め込むと、他方の押圧子5が他方の係合片8を押し退けて反対側に移動することになり、作業者が再びクリック感を感じることになる。このため、作業者にクリック感を連続して与えることができるから、締結の完了を確実に認識させることができる。
【0036】
この実施例に示すトルクネジ11は、押圧子5が係合片8を越えて反対側に移動している締結状態においては、雄ねじ3が緩むことを阻止することができる。これは、雄ねじ3が緩む方向への押圧子5の移動が係合片8によって規制されるからである。
【0037】
この実施例による前記カラー7は、押圧子収容用の環状の空間6を形成する筒状壁7b(外壁15,16)を備えている。また、前記係合片8は、前記筒状壁7bから径方向の内側に延在する板状に形成され、かつ前記筒状壁7bに一体に形成されている。
このため、この実施例によれば、弾性変形する係合片8を筒状壁7bによって強固に支持することができるから、着脱を繰り返すような場合であっても係合片8が破損することがない。
【0038】
また、この実施例による前記カラー7は、前記軸部4の径方向に分割形成された第1、第2の半部13,14どうしを結合させることによって構成されている。このため、係合片8を内部に有するカラー7を簡単に形成することができるから、カラー7の製造がより一層簡単になる。
上述した実施例においては、頭部2にプラスドライバーが係合する係合溝12を形成する例を示したが、本発明はこのような限定にとらわれることはなく、頭部2は、その他の手工具が係合、あるいは嵌合する形状に形成することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ボルト、2…頭部、3…雄ねじ、4…軸部、5…押圧子、5a…回転軌跡、7…カラー、7a…受圧部、7b…筒状壁、8…係合片、11…トルクネジ、12…係合溝、13…第1の半部、14…第2の半部、15,16…外壁 17,18…蓋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と、
この頭部に一端部が接続しかつ他端部に雄ねじが形成された軸部と、
前記軸部に突設された押圧子と、
前記押圧子を収納する環状の空間を有しかつ前記軸部が貫通する状態で前記軸部に回転自在に保持されたカラーとを備え、
前記カラーには、前記頭部に対接する受圧部と、
前記軸部をカラーに対して回転させたときの前記押圧子の回転軌跡内に臨む弾性材からなる係合片とが設けられていることを特徴とするボルト。
【請求項2】
請求項1記載のボルトにおいて、前記カラーは、前記環状の空間を形成する筒状壁を備え、
前記係合片は、前記筒状壁から径方向の内側に延在する板状に形成され、かつ前記筒状壁に一体に形成されていることを特徴とするボルト。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のボルトにおいて、前記カラーは、前記軸部の径方向に分割形成された半部どうしを結合させることによって構成されていることを特徴とするボルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−117535(P2011−117535A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275485(P2009−275485)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)