説明

ボードの製造方法

【課題】 ケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの製造において、生産効率が良くコストの低いボードの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ケナフの小片をマット化し、そのマットの表面には水が添加されており、次いでそのマットをプレス機で180〜260℃の温度で加熱加圧することにより、高温高圧水蒸気処理とボード成型とを一つの工程で行うことを特徴とするボードの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケナフを原料としたボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の小片を合成樹脂接着剤で固めたパーティクルボード、ファイバーボード等のボードは広く工業化されている。
しかし合成樹脂接着剤の使用は、ホルムアルデヒド等の化学物質の放出、自然界で分解されない、石油資源に依存する等の問題があった。また木材の使用について、二酸化炭素固定化による地球温暖化の防止、森林の保護のため、非木材の新たな植物原料の使用が望まれている。
【0003】
本発明者の一部は、先に、ケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの製造技術を開発した(特許文献1)。これによると、ケナフには加熱することで自己接着する成分が含まれており、接着剤を添加しなくても加熱加圧成形することによりボードを作ることができる。また、ケナフを前もって高温高圧水蒸気処理することによって、より優れた強度性能のボードを作ることができる。
しかしながら、特許文献1の方法によると、強度性能の優れたボードを得るためには、ケナフをあらかじめ高温高圧水蒸気処理する必要があり、製造工程が複雑である。また、耐圧容器、高温高圧水蒸気発生装置等の設備費もかかる。また、高温高圧水蒸気を発生させるためのエネルギーコストがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3034956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの製造において、生産効率が良くコストの低いボードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これまで耐圧容器などの設備で行われた高温高圧水蒸気処理の工程を簡略化するために鋭意研究を行ってきた。そして、本来ボードを成形するための設備であるプレス機で高温高圧水蒸気処理も一緒にできないものかと考え、ケナフで作ったマットの表面を水で湿らせてからプレス機で加熱加圧した所、マット表面の水分がプレス機の熱で水蒸気となり、それがマットの内部を通り全体が水蒸気処理されることを見出した。更に、マット表面に添加する水の量とプレス機の加熱加圧時間を調節することにより、耐圧容器中で高温高圧水蒸気処理する時と同等の処理条件を作り出せることを明らかにし、課題を解決するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、ケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの製造方法であって、ケナフの小片をマット化し、そのマットの表面には水が添加されており、次いでそのマットをプレス機で180〜260℃の温度で加熱加圧することにより、高温高圧水蒸気処理とボード成型とを一つの工程で行うことを特徴とするボードの製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明において原料として使用されるケナフは、茎部、根、葉等あらゆる部位が対象となる。茎部を使用する場合、木質部(芯部)のみ又は木質部と靭皮部とを混合して使用するのが好ましい。靭皮部のみの使用は、靭皮部には自己接着する成分の含有量が少ないので好ましくない。
【0009】
使用するケナフの形態は特に限定されないが、チップ状、フレーク状、繊維状、パルプ状、粉末状等従来のパーティクルボード、ファイバーボードで使用される一般的な形状が好ましい。
パルプを使用する場合、特に常温でかつ無薬品で作られたパルプが好ましい。かかるパルプは、ケナフに含まれる自己接着成分が流出せずそのまま温存している。また、ケナフ芯部が細長い繊維状になっており、三次元形成など複雑な形状のボードを作るうえで有効である。また、パルプを使用する場合、特に発芽後4ヶ月以内に収穫したケナフから作ったパルプが好ましい。発芽後4ヶ月以内のケナフは柔軟性に富み複雑な形状のボードを作るうえでより適している。
【0010】
本発明のボードの製造において合成樹脂接着剤は使用されない。ここで言う合成樹脂接着剤とは、従来ボードで使用されてきた尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂をはじめ化学合成して得られる接着剤である。
【0011】
本発明において、ケナフ以外の植物原料を混合して使用しても良い。ケナフ以外の植物原料として、木材、樹皮、非木材の各種バイオマスがあげられるが、リグニン、タンニン、糖類など植物から単離して得た物質もこれに含まれる。ケナフ以外の植物原料の使用量は、乾燥重量でケナフよりも少ないことが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法においては、合成樹脂接着剤を使用する従来のパーティクルボード又は乾式ファイバーボードと同じ製造設備を使用することができる。また、接着剤の添加が不要で水の添加が必要な以外は従来のボードと同様の製造工程が適用できる。すなわち、原料のケナフの小片をホーミングマシン等を使用してコール板(当て板)の上に散布し、目的のボードの大きさに応じた面積と厚さに堆積する(この堆積物をマットと言う)。次いで、このマットをコール板(当て板)ごとプレス機まで運搬しそこで加熱加圧形成してボードにするものである。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記マットの表面に水が添加されていなければならない。水の添加方法は、マット下面の場合は、マット形成する前に、あらかじめコール板に水を散布するのが好ましい。また、マット上面の場合は、マット形成後に、直接表面に水を散布するのが好ましい。
水の添加量は、マットの表層部20%の平均含水率が12%以上になる量であり、好ましくは20%以上、より好ましくは40%になる量である。尚、ここで言うマットの表層部20%とは、マット両面の表層側の乾燥重量でマット全体の20重量%を占める部分のことである。
【0014】
一方、マットの芯層側の含水率はできるだけ低い方が良く、マットの芯層部80%の平均含水率は8%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。
水蒸気は、最初にマットの表層部で発生し、それがマット芯層部を通過し、最後にプレス機の側部から出る。芯層部に水分が残っていると、表層部から送られて来る水蒸気の温度を下げてしまい、処理条件を悪くする。尚、ここで言うマットの芯層部80%とは、マットの芯層部の乾燥重量でマット全体の80重量%を占める部分のことである。
【0015】
次いでマットはプレス機で加熱加圧される。この工程で、まず水蒸気が発生し高温高圧水蒸気処理が施される。水蒸気が出終わると今度は熱硬化反応が始まりボードが成形される。プレス機の温度は180℃〜260℃、好ましくは200度〜230℃で実施される。180℃未満の温度では、高温高圧水蒸気処理条件が弱くまた、熱硬化反応も不十分となるので好ましくない。また、260℃を超える温度では、ケナフが劣化するので好ましくない
加熱加圧時間は、温度や水の添加量によっても異なるが、通常目的とするボードの厚さに比例し、厚さ1mmに対して40〜150秒が好ましく、60〜90秒がより好ましい。
プレス機の種類は、多段ホットプレス、一段平板ホットプレス等パーティクルボード、乾式繊維板の製造で一般的なものが使用できる。
【0016】
以上の方法により、耐圧容器を使用した高温高圧水蒸気処理の工程を経ることなく、それと同等の強度性能のケナフを原料とした合成樹脂接着剤を使用しないボードを作ることができる。
【0017】
尚、本発明において、プレス機での加熱加圧時間を短縮するために、触媒として酸を使用しても良い。酸の種類としては、シュウ酸、硫酸、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等、あらゆる酸又は酸性塩が対象となる。酸の使用量は、ケナフに対して2重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。酸の使用により、プレス機での加熱加圧時間が、20〜50%短縮できる。
【0018】
また、本発明において、ホウ砂又はホウ酸を添加して不燃ボードを作ることができる。ホウ砂、ホウ酸の添加は、プレス機での加熱加圧の前に原料のケナフに添加しても構わないし、ボード成型後に含浸させても構わない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば次のような効果がある。
(1)本発明の製法によれば、高温高圧水蒸気処理とボード成型を一つの工程で行うことができるので、製造工程を大幅に簡略化できる。
(2)本発明の製法によれば、耐圧容器、水蒸気発生装置など高温高圧水蒸気処理を行うための専用設備が必要ない。
(3)本発明の製法によれば、プレス機の熱で水蒸気を発生するので、水蒸気発生のためのエネルギーコストが低い。
(4)本発明の製法によれば、ケナフを原料として使用し二酸化炭素の固定化に有利で地球温暖化防止に貢献する。
(5)本発明の製造方法によれば、合成樹脂接着剤を使用しないので、その製品はそのままで、また焼却しても、有害物質を発生せず安全である。
(6)本発明の製造方法によれば、石油由来である合成樹脂接着剤を使用しないので、地球温暖化防止に貢献する。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
実施例及び比較例では、40cm角のコール板の上に22cm角のフォーミングボックスを置き、原料のケナフを手撒きし手押ししてマットにした後、50cm角の成型可能な電熱ヒーター付油圧プレス機を使用し、所定の厚さのスペーサーを用い、温度220℃、圧力28kg/cmで所定の時間加熱加圧した。
また、完成したボードの強度性能を調べるために曲げ強さを、JIS A 5908.5.6に準拠し、50×200mmのサイズにカットした3本の試験片の測定値の平均値で求めた。
【比較例1】
【0021】
(特許文献1に準拠した製造方法)
ケナフ茎部から靭皮部を除去した後の直径0.5〜3.0cmの棒状のケナフ木質部を約20cmの長さに切断し、これを耐圧容器に入れ、内温が100℃になるまで予熱した。
次いで、この耐圧容器に連結した高温高圧水蒸気発生装置から250℃の高温高圧水蒸気を送り込み、耐圧容器の内温を180℃にし3分間維持した。その後、耐圧容器の内温が100℃以下になるまで冷却し、ケナフ木質部を取出した。
次に、このケナフ木質部を、Pallmanナイフリングフレーカーを使用し刃出し0.6mmで加工してフレーク状の小片にし、それを乾燥機で含水率5%になるまで乾燥した。
このようにして得たケナフ木質部の小片340gを使用してマットにし、それをプレス機で10mmのスペーサーを使用して15分間加熱加圧して、ケナフを原料とした合成樹脂接着剤を使用しないボードを得た。このボードの曲げ強さは28N/mmであった。
【実施例1】
【0022】
(本発明の製造方法)
比較例1で使用したものと同様のケナフ木質部を、水蒸気処理はしないで、Pallmanナイフリングフレーカーを使用し比較例1と同じ方法でフレーク状の小片にし、それを乾燥機で含水率5%になるまで乾燥した。
次に、コール板にフォーミングボックスを置きその上からスプレーで水14gをコール板上に噴霧し、次いでケナフの小片340gを手撤き手押ししてマットにし、次にそのマットにスプレーで水を14g噴霧した。このマットは、計算上、表層側20%の平均含水率が50%となる。
このマットを10mmのスペーサーを使用してプレス機で17分加熱加圧した。加熱加圧開始20秒後にプレス機側面から蒸気が出はじめ、それが激しくなるが、2分後にほとんど出なくなった。この間にケナフは水蒸気処理された。次いで、残りの15分間にケナフは熱硬化反応して、ボードに成形された。
このケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの曲げ強さは、27N/mmであった。
【比較例2】
【0023】
(特許文献1に準拠した製造方法)
発芽後3ヶ月経って収穫したケナフの茎部を原料として常温かつ無触媒で製造したパルプを、耐熱容器に入れ比較例1と同じ方法で高温高圧水蒸気処理を行った。次にこのパルプを、乾燥機で含水率5%になるまで乾燥した。
このパルプ160gを使用してマットにし、プレス機で4mmのスペーサーを使用して6分間加熱加圧して、ケナフを原料とした合成樹脂接着剤を使用しないボードを得た。このボードの曲げ強さは32N/mmであった。
【実施例2】
【0024】
(本発明の製造方法)
比較例2で使用したものと同様のケナフパルプを、乾燥機で含水率5%になるまで乾燥した。
次に、コール板にフォーミングボックスを置き、その上からスプレーで水3.8gをコール板上に噴霧し、次いでケナフパルプ160gを手撒き手押ししてマットにし、次にそのマットにスプレーで水を3.8g噴霧した。このマットは、計算上、表層側20%の平均含水率が30%となる。
このマットをプレス機で4mmのスペーサーを使用して7分間加熱加圧した。加熱加圧開始後間もなくプレス機側面から蒸気が出はじめるが1分後にはほとんど出なくなった。この間にケナフパルプは水蒸気処理された。次いで、残りの6分間にケナフパルプは、熱硬化反応してボードに成形された。
このケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの曲げ強さは、34N/mmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケナフを原料とし合成樹脂接着剤を使用しないボードの製造方法であって、ケナフの小片をマット化し、そのマットの表面には水が添加されており、次いでそのマットをプレス機で180〜260℃の温度で加熱加圧することにより、高温高圧水蒸気処理とボード成型とを一つの工程で行うことを特徴とするボードの製造方法。
【請求項2】
前記マットの表面への水の添加が、マット下面はマット形成前にあらかじめコール板に水を散布しておくことによって、かつマット上面はマット形成後にマット表面に水を散布することによって行われることを特徴とする請求項1のボードの製造方法。
【請求項3】
前記マットの表面に添加する水の量を、マットの表層側20%の平均含水率が12%以上になるようにすることを特徴とする請求項1又は2のボードの製造方法。
【請求項4】
前記マットの表面に水を添加する量を、マットの表層側20%の平均含水率が20%以上になるようにすることを特徴とする請求項3のボードの製造方法。
【請求項5】
前記ケナフが、常温かつ無薬品でパルプ化されたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のボードの製造方法。
【請求項6】
前記ケナフが発芽後4ヶ月以内に収穫したものであることを特徴とする請求項5のボードの製造方法。

【公開番号】特開2011−224950(P2011−224950A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110635(P2010−110635)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(500068913)河野新素材開発株式会社 (12)
【出願人】(501104524)株式会社シャイニン (1)
【出願人】(594059330)
【Fターム(参考)】