説明

ボールねじ

【課題】ナット内部に発生した塵埃を外部に極力出さないようにして、従来のボールねじよりも高い発塵低減効果を得る。
【解決手段】ボールねじを、ダブルナット10と、ねじ軸2と、ボール3と、リング状の非接触シール4と、エンドデフレクタ5と、環状のスペーサ6とで構成する。ダブルナット10は、第1のナット1と第2のナット1Aが間座9を介して連結されたものである。ボール戻し経路を各ナット1,1Aの内部に形成し、ダブルナット10の軸方向両端にリング状の非接触シール4を配置する。間座9に吸引穴7を形成し、給脂穴8を第1のナット1のフランジ11に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示パネルを製造する環境に塵埃が存在すると歩留まり低下の原因になるため、これらの製造はクリーンルーム等の清浄な環境下で行われている。よって、半導体素子や液晶表示パネルの製造に使用される装置(製造装置や搬送装置)を構成するボールねじには、使用状態で塵埃が発生しないことが求められている。
下記の特許文献1には、ボールねじのボール戻し経路が、ボールを循環チューブのタングに衝突させてナットの外部にすくい上げる構造であると、衝突の際にボール等に付着しているグリースの油分が飛散して、ねじ軸とナットの間から外部に微粒子として放出されるため、発塵の原因になることが記載されている。この原因をなくすために、ボールねじのボール戻し経路を、ナットの軸方向に延びる貫通穴(ボール戻し通路)と、これに連続するボール循環コマで形成し、ボール循環コマを、ボールがタングに衝突しない状態で循環できる形状にすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献1に記載されたボールねじは、低発塵性グリースで潤滑され、ねじ軸とナットの環状隙間が、ナットの軸方向両端に配置されたリング状の接触シールで塞がれている。
下記の特許文献2には、ボールねじのナットに設けた給油孔に吸引配管を接続して、ナットの内部に発生した塵埃を吸引除去することが記載されている。また、ねじ軸にグリースプレーティング(潤滑剤含有溶液に浸漬後、乾燥することで潤滑剤被膜を形成する方法)を施すことで、潤滑剤からの発塵を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112517号公報
【特許文献2】特許第2638955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載されたボールねじには、発塵低減効果の点でさらなる改善の余地がある。
この発明の課題は、ナット内部に発生した塵埃を外部に極力出さないようにして、従来のボールねじよりも高い発塵低減効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は、内周面に螺旋溝が形成されたナットが間座を介して二個連結されたダブルナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、前記二個のナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される各軌道の間に配置されたボールと、ボールを各軌道の終点から始点に戻す二個のボール戻し経路とを備え、前記各軌道内をボールが転動することで前記ダブルナットがねじ軸に対して相対移動する、循環回路を二個有するボールねじであって、前記ダブルナットの軸方向両端に、リング状の非接触シールが配置され、前記ダブルナットを径方向に貫通する吸引穴が、前記間座に形成されていることを特徴とする。
【0007】
ボールねじの発塵源は潤滑剤であり、ボールが軌道を転動する際に潤滑剤を飛び散らすことによって塵埃が生じる。ねじ軸のナットの外側にある部分にも潤滑剤は付着しているが、その部分の螺旋溝にはボールが存在しないため、ねじ軸が回転していてもその部分からの発塵は少ない。すなわち、ボールねじにおいては、主にナット内部の軌道の範囲(ボールが転動する範囲)内で塵埃が発生している。
【0008】
この発明のボールねじは、ナットが間座を介して二個連結されたダブルナットを備え、前記間座に吸引穴が形成されているため、前記吸引穴からの吸引時に、各ナットの軌道の範囲に存在している塵埃が前記間座とねじ軸との間に移行することで、各ナット内部の塵埃が効率的に吸引除去される。
また、非接触シールが配置されているため、ねじ軸とシールとの接触による発塵が防止される。
【0009】
また、ボール戻し経路が各ナットの内部に形成されていると、各ナット内部の塵埃が外部に出る経路がダブルナットの軸方向両端に限定されるため好ましい。このダブルナットの軸方向両端にはリング状の非接触シールが配置されているため、ダブルナットとねじ軸との隙間は、ねじ軸と非接触シールとの隙間のみになる。よって、吸引穴に吸引手段を接続してダブルナットの内部を吸引している間、ダブルナットの外部の空気が非接触シールとねじ軸との隙間を通ってダブルナットの内部に入り、ダブルナットの内部の空気が非接触シールとねじ軸との隙間を通って外部に向かうことを妨げる。
【0010】
なお、この発明のボールねじは、ねじ軸と非接触シールとで形成される円環状隙間が周方向全体でほぼ同じになるように、非接触シールの内周部の形状とねじ軸の螺旋溝の形状を組合せることが好ましい。例えば、ねじ軸の螺旋溝を研削逃げが形成されていない単純なゴシックアーク形状とし、非接触シールの内周部をこれに対応させた形状とする。これにより、吸引時に、円環状隙間の周方向全体からナット内部に均一に空気が導入されて、空気の流れが周方向全体で均一になるため吸引効率が高くなる。ねじ軸と非接触シールとで形成される円環状隙間は0.5mm以下であることが好ましい。
【0011】
この発明のボールねじのダブルナットに、その内部に潤滑剤を供給する給脂穴を形成する場合は、前記間座以外の部分(すなわち、二個のナットのいずれか)に形成することが好ましい。前記給脂穴から供給された潤滑剤は、ボールの転動に伴うダブルナットのねじ軸に対する相対的往復移動により、ダブルナットの軸方向両端の非接触シールの内側に溜まり易く、各ナット内部の軌道の範囲には溜まりにくい。この発明のボールねじでは、両ナットの前記軌道の範囲で挟まれた間座に吸引穴が形成されているため、吸引穴が潤滑剤で塞がれにくく、安定的に吸引を行うことができる。
【0012】
これにより、ボールねじの潤滑をダブルナットの内部へ潤滑剤を供給することで行いながら、ナットの内部に発生した塵埃のほとんどを外部に向かわせずに、効率的に吸引除去することができる。
前記潤滑剤としては、ちょう度が300以下の低発塵性グリースを使用することが好ましい。
また、ナットの内部に潤滑剤を供給して慣らし運転をすることにより、非接触シールとねじ軸との隙間に潤滑剤を介在させると、ねじ軸と非接触シールとの間に微小な隙間ができる。よって、この発明のボールねじは、慣らし運転を行った後に使用することで吸引効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
この発明のボールねじによれば、ナットの内部に発生した塵埃のほとんどが外部に向かわず、効率的に吸引除去されるため、従来のボールねじよりも高い発塵低減効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1実施形態のボールねじを示す断面図である。
【図2】この発明の第2実施形態のボールねじを示す断面図である。
【図3】この発明の第3実施形態のボールねじを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態のボールねじを示す断面図である。
図1に示すように、このボールねじは、ダブルナット10と、ねじ軸2と、ボール3と、リング状の非接触シール4と、エンドデフレクタ5と、環状のスペーサ6とで構成されている。ダブルナット10は、第1のナット1と第2のナット1Aが、環状体からなる間座9を介して連結されたものである。
第1のナット1の軸方向一端にはフランジ11が形成されているが、第2のナット1Aにはフランジが形成されていない。両ナット1,1Aの内周面に螺旋溝1aが形成され、ねじ軸2の外周面に螺旋溝2aが形成されている。両ナット1,1Aの螺旋溝1aとねじ軸2の螺旋溝2aで形成される軌道の間に、ボール3が配置されている。
【0016】
両ナット1,1Aには、軸方向に延びる貫通穴13が形成されている。両ナット1,1Aの貫通穴13の両端部に、エンドデフレクタ5を配置する凹部15が形成されている。すなわち、このボールねじの二個のボール戻し経路は、貫通穴13からなるボール戻し通路と、その両端に接続されたエンドデフレクタ5とにより、両ナット1,1Aの内部に形成されている。エンドデフレクタ5は接線すくい上げ形状のものを用いている。
【0017】
ダブルナット10の軸方向両端に、スペーサ6と非接触シール4を取り付けるための凹部14が形成されている。ダブルナット10の凹部14内に、軸方向内側から順に、スペーサ6、非接触シール5が配置され、これらが、図示されないボルトで凹部14の端面14aに固定されている。これにより、ダブルナット10の軸方向両端に、非接触シール4とスペーサ6とねじ軸2とで囲まれた空間46が生じる。これらの空間46が、グリ−ス(潤滑剤)溜まり空間となる。スペーサ6は両ナット1,1Aと一体に形成されていてもよい。
【0018】
ダブルナット10の間座9に、吸引手段に接続する吸引穴7が形成されている。吸引穴7は、ダブルナット10の軸方向中央となる位置に、間座9をなす環状体の径方向に貫通する貫通穴として形成されている。吸引穴7の間座9の外周側は拡径されて、吸引配管の先端を挿入して取り付ける取り付け穴71となっている。
第1のナット1のフランジ11が形成されている部分の隣り合う螺旋溝1aの間となる位置に、内部に潤滑剤を供給する給脂穴8が、径方向に貫通する貫通穴として形成されている。給脂穴8のナット外周側は(フランジ11に配置されている部分は全て)拡径されて、給脂配管の先端を挿入して取り付ける取り付け穴81となっている。
【0019】
ねじ軸2の螺旋溝2aの断面形状は、研削逃げ溝が形成されていない単純なゴシックアーク形状である。これに対応させて、非接触シール4の内周部の形状を、ねじ軸2と非接触シール4とで形成される円環状隙間が周方向全体でほぼ同じになるようにしてある。
このボールねじは、例えば以下の手順で使用される。
第1のナット1の給脂穴8の取り付け穴81に、ちょう度が300以下の低発塵グリースの給脂配管の先端を取り付け、間座9の吸引穴7の取り付け穴71に吸引配管の先端を取り付ける。そして、先ず、給脂穴8から第1のナット1の内部に、ダブルナット10の内部空間の1/4程度となる量の低発塵グリースを供給することで、グリ−ス溜まり空間46にグリースを溜める。
【0020】
次に、慣らし運転として、ダブルナット10を、ねじ軸2に対してダブルナット10の長さ分のストロークで数回相対移動させることで、グリース溜まり空間46のグリースを移動させて、非接触シール4とねじ軸2との隙間にグリースを介在させる。これにより、非接触シール4とねじ軸2との間に微小な(0.5mm以下の)円環状の隙間が形成される。
【0021】
次に、吸引配管の吸引源を作動させてダブルナット10の内部を吸引し、この状態でボールねじの運転を開始する。これにより、ボール3の転動により両ナット1,1Aの内部に発生した塵埃が、間座9とねじ軸2との間に移行して、吸引穴7から吸引除去される。また、外部の空気が非接触シール4とねじ軸2との微小な隙間を通って両ナット1,1Aの内部に入り、両ナット1,1Aの内部の空気が非接触シール4とねじ軸2との隙間を通って外部に向かうことを妨げる。
【0022】
このようにして、ダブルナット10の内部の塵埃が効率的に吸引除去される。グリース溜まり空間46を設けたことで、非接触シール4とねじ軸2との間に微小な円環状の隙間が形成されるため、吸引効率が特に高くなる。また、非接触シール4を用いているため、ねじ軸2との接触による発塵が防止される。
したがって、この実施形態のボールねじによれば、ボールねじの潤滑をダブルナットの内部へ潤滑剤を供給することで行いながら、ダブルナットの内部に発生した塵埃のほとんどが外部に向かわず吸引除去されるため、従来のボールねじよりも高い発塵低減効果が得られる。
なお、長期間の使用により、吸引時にダブルナット10の内部のグリースが吸引穴7から吸引配管に入ることが考えられるが、吸引配管にグリースを溜める部分を設けて、その部分から定期的にグリースを取り除くこと等により、長期間の使用でも吸引効率を低下させないようにすることができる。
【0023】
図2は、第2実施形態のボールねじを示す断面図である。
この実施形態では、ダブルナット10の軸方向両端の凹部14に、それぞれスペーサ6を介して2枚の非接触シール41,42を取り付けている。これにより、グリース溜まり空間46が非接触シール41,42の間に形成されている。これ以外の点は第1実施形態と同じである。
図3は、第3実施形態のボールねじを示す断面図である。
第1および第2実施形態では、第1のナット1のフランジ11に給脂穴8が形成され、この給脂穴8からグリースを供給しているが、第3実施形態では、第1のナット1に給脂穴8を設けず、ねじ軸2にグリースプレーティングを施すことで潤滑を行っている。これにより、図3のボールねじは、シール4とねじ軸2との隙間がほぼ一定に保持されるとともに、吸引穴7にグリースが入らない。
【0024】
これに対して、図1および図2のボールねじでは、給脂穴8から供給したグリースが吸引穴7に入る可能性がないとは言えない。そして、吸引穴7にグリースが入ると吸引効果が低減する場合がある。よって、図3のボールねじは、図1および図2のボールねじよりも高い発塵低減効果が得られる可能性がある。
ねじ軸2にグリースプレーティングを施すことに代えて、固体潤滑剤からなる被膜をねじ軸2の表面に形成することによっても、上記と同様の効果を得ることができる。前記被膜をなす固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、軟質金属(例えば、金、銀、鉛)、および高分子材料(例えば、PTFE、ポリイミド)の少なくとも1種からなるものが挙げられる。
また、これらの実施形態のボールねじは、貫通穴13からなるボール戻し通路とエンドデフレクタ5とからなるボール戻し経路を有するが、この発明は、ボール戻し経路がエンドキャップ式、循環チューブ式、コマ式であるボールねじにも適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 第1のナット
1A 第2のナット
1a ナットの螺旋溝
10 ダブルナット
11 フランジ
13 ボール戻し通路をなす貫通穴
14 シール取り付け用の凹部
14a 凹部14の端面
15 エンドデフレクタ取り付け用の凹部
2 ねじ軸
2a ねじ軸の螺旋溝
3 ボール
4 非接触シール
41 非接触シール
42 非接触シール
46 グリース溜まり空間
5 エンドデフレクタ
6 スペーサ
7 吸引穴
71 取り付け部
8 給脂穴
81 取り付け部
9 間座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットが間座を介して二個連結されたダブルナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、前記二個のナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される各軌道の間に配置されたボールと、ボールを各軌道の終点から始点に戻す二個のボール戻し経路とを備え、前記各軌道内をボールが転動することで前記ダブルナットがねじ軸に対して相対移動する、循環回路を二個有するボールねじであって、
前記ダブルナットの軸方向両端に、リング状の非接触シールが配置され、
前記ダブルナットを径方向に貫通する吸引穴が、前記間座に形成されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記間座以外の部分に、前記ダブルナットの内部に潤滑剤を供給する給脂穴が形成されている請求項1記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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