説明

ボールペンチップ及びボールペン

【課題】ボール及びボールホルダが磨耗しにくく、長期に亘り良好な筆記特性を示すボールペンチップを実現できるようにする。
【解決手段】ボールペンチップは、ボール101と、ボール101を回転自在に保持するボールホルダ111とを備えている。ボール101はボール本体102及びボール本体102の表面を覆うように形成された第1の炭素質膜103を有する。第1の炭素質膜103は、炭素原子及び炭素原子と結合した酸素原子を有し、第1の炭素質膜103の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンチップ及びボールペンに関し、特に炭素質膜により被覆されたボールを有するボールペンチップ及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具として使用されているボールペンの先端には、球状のボールペン用ボール(以下、単にボールともいう)が取り付けられている。インキ収容管から流出してくるインキがボールの回転により紙等の記録体に転写されたり、浸透したりすることにより筆記が行われる。ボール及び該ボールを保持するボールホルダが磨耗すると、ボールが滑らかに回転しなくなり筆記特性が大きく低下し、最終的には筆記ができなくなる。このため、ボール及びボールホルダの磨耗の低減は重要である。
【0003】
ボールの磨耗を低減するため、セラミックス製のボールを用いたり、金属ボールの表面を硬質の材料によりコーティングしたりすることが試みられている。また、ボールによるボールホルダの磨耗を低減するために、ボールだけでなくボールホルダを硬質の材料によりコーティングすることが試みられている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−338134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ボール及びボールホルダの硬度を高くしただけでは、ボール及びボールホルダの磨耗を低減することは困難である。ボール及びボールホルダの磨耗を低減するためには、ボールとボールホルダとの界面に適量のインキが存在し、ボールとボールホルダとが直接に接触していない状態とすることが重要である。ボールの表面とインキとの親和性が低い場合には、ボールの表面においてインキがはじかれてしまい、ボールとボールホルダとの界面にインキを保持することができない。前記従来のボール及びボールホルダのコーティングにおいては、インキとの親和性については考慮されておらず、ボールとボールホルダとが直接に接触し、ボール及びボールホルダが大きく磨耗するという問題がある。
【0006】
本発明は、前記の問題を解決し、ボール及びボールホルダが磨耗しにくく、長期に亘り良好な筆記特性を示すボールペンチップを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、ボールペンチップをボールホルダ及びボールの少なくとも一方に炭素−酸素結合を有する炭素質膜が形成されている構成とする。
【0008】
具体的に、本発明に係る第1のボールペンチップは、ボール本体とボール本体を覆う炭素質膜とを有するボールと、ボールを回転自在に保持するボールホルダとを備えている。炭素質膜は、炭素原子及び炭素原子と結合した酸素原子を有し、炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上である。
【0009】
第1のボールペンチップは、ボールの表面を覆う炭素質膜における酸素原子と結合した炭素原子の比率が0.1以上である。このため、ボールの表面は硬度が高いだけでなく、インキとの親和性も高い。従って、ボールとボールホルダとの間に適量のインキを保持することができ、ボールとボールホルダとが直接に接触することによる磨耗を低減することができる。従って、長期に亘り筆記特性の劣化が生じにくいボールペンチップを実現できる。
【0010】
第1のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、その表面のゼータ電位が−25mV以下とすればよい。このようにすることにより、ボールの表面を十分に親水性とすることができる。
【0011】
第1のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であればよい。このようにすることにより、十分な硬度を確保することができる。
【0012】
第1のボールペンチップにおいて、ボールは、ボール本体と炭素質膜との間に形成された中間層を有し、中間層は、炭素及びシリコンを含んでいてもよい。
【0013】
第1のボールペンチップにおいて、ボール本体の表面における算術平均粗さは、3nm以下とすればよい。
【0014】
第1のボールペンチップにおいて、ボールホルダは、少なくともボールと接触する部分を覆う炭素質膜を有していてもよい。このようにすることにより、ボールホルダの磨耗をより低減できる。
【0015】
本発明に係る第2のボールペンチップは、ボールと、ボールを回転自在に保持するボールホルダとを備えている。ボールホルダは、少なくともボールと接触する部分を覆う炭素質膜を有する。炭素質膜は、炭素原子及び炭素原子と結合した酸素原子を有し、炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上である。
【0016】
第2のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、その表面のゼータ電位が−25mV以下とすればよい。このようにすることにより、ボールの表面を十分に親水性とすることができる。
【0017】
第2のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であればよい。このようにすることにより、十分な硬度を確保することができる。
【0018】
第2のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、ボールホルダの表面に中間層を介して形成されており、中間層は、炭素及びシリコンを含んでいてもよい。
【0019】
本発明に係るボールペンは、本発明のボールペンチップと、インキが充填されたインキ収容管とを備え、炭素質膜の表面におけるインキの接触角は、55°以下である。このようにすることにより、ボールの表面にインキが十分行き渡り、ボールとボールホルダとの直接の接触を生じにくくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るボールペンチップによれば、ボール及びボールホルダが磨耗しにくく、長期に亘り良好な筆記特性を示すボールペンチップを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施形態に係るボールペンを示す断面図である。
【図2】一実施形態に係るボールペンチップの要部を示す断面図である。
【図3】図2のIII−III線における横断面を示す断面図である。
【図4】一実施形態に係るボールペンチップのボールを示す部分断面図である。
【図5】一実施形態に係るボールペンチップのボールの変形例を示す部分断面図である。
【図6】一実施形態に係るボールペンチップの変形例の要部を示す断面図である。
【図7】炭素質膜を形成したボールの深さ方向の元素分析の結果である。
【図8】酸素原子を導入した炭素質膜の具体例を示す表である。
【図9】インキの接触角の測定結果である。
【図10】水性ゲルインキを用いた場合の走行試験の結果である。
【図11】水性ゲルインキを用いた場合の走行試験の結果である。
【図12】油性インキを用いた場合の走行試験の結果である。
【図13】水性インキを用いた走行試験の結果である。
【図14】ボールホルダ側に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果である。
【図15】表面粗度が異なるボール本体の表面に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果である。
【図16】表面粗度が異なるボール本体の表面に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果である。
【図17】表面粗度が異なるボール本体の表面に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果である。
【図18】表面粗度が異なるボール本体の表面に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、一実施形態に係るボールペンは、インキ15を収容するインキ収容管10とインキ収容管10の先端部に取り付けられたボールペンチップ20とを有している。インキ収容管10とボールペンチップ20とは直接接続されていても、接続部材(図示せず)を介して接続されていてもよい。また、インキ収容管10及びボールペンチップ20からなるボールペンレフィルを収容するケース(図示せず)を備えていることが一般的であるが、インキ収容管10がケースを兼ねている構成とすることも可能である。
【0023】
図2に示すように、ボールペンチップ20は、ボール101と、ボール101を保持するボールホルダ111とを有している。ボールホルダ111は、フェライト系ステンレス鋼等の材料から形成されており、ボール101を保持するボール保持室113と、インキが供給されるインキ通路114とを有している。ボール保持室113は、ボールホルダ111の先端部に形成された凹部であり、ボール保持室113の先端縁部118と底面116とによりボール101を回転自在に保持する。先端縁部118は、所定のかしめ角度で内側(ボール101の中心方向)にかしめられており、ボール101の一部が先端縁部118よりも突出するようにして、ボール101を回転自在に保持すると共に、ボール101のボール保持室113からの抜け落ちを防止する。
【0024】
図3は図2のIII−III線の位置における横断面を示している。図3においてボール101の図示は省略している。インキ通路114は、ボール保持室113の底面116の中心に設けられており、筆記時に、インキ収容管に収容されたインキが、ボール保持室113内に流通する際の主経路となっている。インキ通路114の周囲には、所定の幅及び間隔で放射状に設けられた複数の溝部115が形成されている。筆記時には、インキ通路114を通過したインキが、溝部115を介して、ボール保持室113内に供給される。底面116におけるインキ通路114の周囲にはボール座117が設けられている。ボール座117は、筆記時にボール101と当接したボール保持室113の底面116の磨耗を抑えるために設けられており、ボール101と同形の球面状に形成されている。
【0025】
図4に示すように、ボール101は、ボール本体102とボール本体102の上に形成された炭素質膜103とを有している。ボール本体102の材質は、特に限定されないが、例えば各種金属の単体若しくは合金又はセラミックス等とすればよい。具体的に鋼、銅、アルミニウム又はニッケル等の金属単体を用いてもよく、洋白又はステンレス等の合金を用いてもよい。また、金属等の炭化物、酸化物、窒化物、硼化物又は硅化物等を用いることができる。炭化物としてはチタン、バナジウム、クロム、タンタル、ニオブ、モリブデン、ホウ素、ジルコン、タングステン若しくは珪素等の炭化物を用いることができる。酸化物としてはアルミニウム、クロム、マグネシウム、シリコン、ベリリウム、トリウム、チタン、カルシウム若しくはジルコン等の酸化物を用いることができる。窒化物としてはチタン、ホウ素、シリコン若しくはアルミニウム等の窒化物を用いることができる。硼化物としてはジルコン、クロム若しくはチタン等の硼化物を用いることができる。硅化物としてはモリブデン、チタン若しくはクロム等の硅化物を用いることができる。また、サーメット等の金属とセラミックスとの複合材料としてもよい。ボール本体の直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
【0026】
炭素質膜103は、ダイヤモンド様膜(DLC膜)に代表されるsp2炭素−炭素結合(グラファイト結合)及びsp3炭素−炭素結合(ダイヤモンド結合)を含む膜である。DLC膜のようなアモルファス状態の膜であっても、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。通常、sp2炭素−水素結合及びsp3炭素−水素結合を含んでいるが、炭素−水素結合は必須の構成要素ではない。また、シリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。本実施形態の炭素質膜103は、ボール101とインキとの親和性を向上するために、少なくともその表面に炭素−酸素結合を含んでいる。炭素質膜103の表面における炭素−酸素結合を形成している炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上であることが好ましい。炭素−酸素結合の比率については後で詳細に説明する。
【0027】
炭素質膜103は、炭化水素ガスを原料として用いるプラズマ化学気相堆積法(プラズマCVD法)又は触媒化学気相堆積法(CAT−CVD法)等により形成すればよい。また、固体グラファイトを原料とするスパッタリング法、アークイオンプレーティング法等により形成してもよい。さらに、他の方法により形成してもよく、複数の方法を組み合わせて形成してもよい。
【0028】
炭素質膜103の表面への炭素−酸素結合の導入は、例えば酸素プラズマ又は酸素を含むガスのプラズマ等の照射により行えばよい。酸素を含むガスとしては水蒸気、空気等を用いればよい。また、酸素原子を含む有機物化合物等のガスを用いることもできる。さらに、酸素を含む雰囲気において炭素質膜に紫外線を照射したり、炭素質膜を酸化性の溶液に浸漬したりしてもよい。また、炭素質膜103を成膜する際に雰囲気中の酸素濃度を高くすることにより、炭素質膜を成膜する際に炭素−酸素結合を導入することも可能である。炭素質膜の成膜直後にはその表面に未結合手が存在している。このため、成膜直後の炭素質膜を酸素を含む雰囲気に放置することにより未結合手と酸素とを反応させて炭素−酸素結合を導入することも可能である。
【0029】
炭素質膜103の膜厚は、0.001μm〜3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.005μm〜1μmの範囲である。また、炭素質膜103はボール本体102の表面に直接形成することができるが、ボール本体102と炭素質膜103とをより強固に密着させるために、図5に示すようにボール本体102と炭素質膜103との間に中間層105を設けてもよい。中間層105の材質としては、ボール本体102の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。その厚みは特に限定されるものではないが、0.001μm〜0.3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.005μm〜0.1μmの範囲である。中間層105は、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いて形成すればよい。
【0030】
本実施形態のボールペンチップは、ボール101がボール本体102の表面に形成された炭素−酸素結合を有する炭素質膜103を有している。このため、ボール101は耐久性が高いだけでなく、ボール101とインキとの親和性が高い。このため、ボール101とボールホルダ111との界面にインキが保持され、ボール101とボールホルダ111の内壁面との直接の接触が生じにくくなる。従って、ボール101とボールホルダ111とが直接に接触することによるボール101及びボールホルダ111の磨耗を低減でき、耐久性に優れ且つ使用に伴う書き味の劣化が生じにくいボールペンを実現することができる。また、ボール101とインキとの親和性が向上することにより、インキの供給を安定化することができるので、より均一な筆跡及び描線を実現することが可能となる。ボールペン用インキは主に水性インキ、水性ゲルインキ及び油性インキに分類される。ボールペン用の油性インキは一般にアルコール系又はグリコールエーテル系等の親水性の官能基を有する成分を溶剤として含んでいる。このため、炭素質膜103への炭素−酸素結合の導入は、ボールペン用の水性インキ及び水性ゲルインキだけでなくボールペン用の油性インキに対しても、耐久性及び使用感の向上を実現することができる。
【0031】
本実施形態のボールペンチップは、ボール101とインキとの親和性が高いため、ボールホルダ111を一般的な材質により形成した場合にも、ボール101及びボールホルダ111の磨耗を低減できる。ボールホルダ111の少なくともボール101と接触する部分に、ボール101と同様の炭素質膜を形成することによりさらにボール101及びボールホルダ111の磨耗を低減できる。例えば、ボール座117の表面に炭素質膜を形成することにより、ボール101及びボールホルダ111の磨耗をさらに低減することが可能となる。また、図6に示すように、先端縁部118及び底面116等の表面を覆うように炭素質膜121が形成された構成としてもよい。また、ボールホルダ111の外側にも炭素質膜が形成されていてもよい。さらに、ボールペンチップ20のボールホルダ111以外の部分にも炭素質膜が形成されていてもよい。また、ボールホルダ111に炭素質膜が形成されている場合には、炭素質膜に覆われていない通常のボールを用いてもよい。
【0032】
ボールホルダ111に形成する炭素質膜121と、ボール101の表面に形成する炭素質膜103とは官能基の導入量を同じにすればよい。また、ボールホルダ111とボール101とに、官能基の導入量が互いに異なる炭素質膜を形成してもよい。
【0033】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計の変更を行ってよい。
【0034】
−ボールの製造方法−
ボール本体として炭化タングステン(WC、ISO K−10相当)を用いた。ボール本体の径は0.5mm又は0.7mmとした。まず、ボール本体の表面にSiとCとを含むアモルファス膜からなる中間層(図示せず)を形成した。成膜にはイオン化蒸着法を用いた。真空ポンプを用いイオン化蒸着用のチャンバー内を所定の圧力に調整すると共に、チャンバー内にテトラメチルシラン(Si(CH)を導入し、ボールに1kVのバイアス電圧を印加して、30分間放電を行った。成膜の際にチャンバー内においてボール本体を回転させることにより、ボール本体の表面全面に中間層が形成されるようにした。
【0035】
中間層の形成後、チャンバ内に供給するガスをDLC−1の場合にはベンゼンに変更し、DLC−2の場合にはアセチレンに変更して炭素質膜を形成した。DLC−1の場合には、チャンバー内を真空ポンプを用いて所定の圧力に調整した後、ボールに1kVのバイアス電圧を印加して、90分間放電を行った。DLC−2の場合には放電終了後に、高周波電源を用いたプラズマに切り替え、10Paの圧力下で60秒間さらに成膜を行った。成膜の際にチャンバー内においてボール本体を回転させることによりボール本体の表面全面に炭素質膜が形成されるようにした。
【0036】
この後、酸素を含む雰囲気においてプラズマ照射を行い、炭素質膜への炭素−酸素結合の導入を行った。プラズマ照射は、チャンバー内を100Paの圧力に調整し、DLC−1の場合には出力を10Wとし、DLC−2の場合には出力を50Wとした。
【0037】
−炭素質膜の評価方法−
得られた炭素質膜の組成は、X線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90°とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定の時間は0.1msとし、1つの試料について64回測定を行った。
【0038】
XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士が結合したspC−C及びspC−C、炭素と水素とが結合したspC−H及びspC−H、炭素と酸素とが結合したC−O、C=O及びO=C−Oの7つの成分にカーブフィッティングにより分解した。spC−Cの結合エネルギーは283.8eV、spC−Cの結合エネルギーは284.3eV、spC−Hの結合エネルギーは284.8eV、spC−Hの結合エネルギーは285.3eV、C−Oの結合エネルギーは285.9eV、C=Oの結合エネルギーは287.3eV、O=C−Oの結合エネルギーは288.8eVとした。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をC1sピーク全体の面積により割った値を、各成分の組成比とした。C−O、C=O及びO=C−Oの組成比の和を炭素−酸素結合した炭素原子の全炭素原子に対する割合(COtotal)とした。
【0039】
炭素質膜及び中間層の膜厚は、オージェ電子分光分析法によりエッチングを行い、深さ方向の元素分析を行うことにより求めた。オージェ電子分光分析において、電子銃の加速電圧は10kVとし、試料電流は500nAとし、アルゴンイオン銃の加速電圧は2kVとした。40μm角の領域について深さ方向の分析を行った。
【0040】
接触角の測定には、自動接触角測定機(協和界面科学社製DM−500)を用いた。炭素質膜の表面上にインキを1μl滴下して接触角を測定した。なお、測定タイミングは水性インキの場合には滴下直後とし、粘度の高い水性ゲルインキ及び油性インキの場合には滴下の3秒後とした。測定値は3点の平均値とした。
【0041】
ゼータ電位の測定には、ゼータ電位・粒径測定システム(ELS−Z:大塚電子株式会社製)を用い、10mMの塩化ナトリウム(NaCl)溶液中に分散したモニタ用粒子(大塚電子株式会社製)を用いた。セル深さ方向の各レベルについてモニタ粒子の電気泳動を行い、セル内部の見かけの速度分布を測定した。電気泳動は、平均電場が17.33V/cmで、平均電流が1.02mAの条件で行った。得られた見かけの速度分布を森・岡本の式に基づいて解析することにより、炭素質膜表面の表面電位を求めた。
【0042】
−耐久性の評価方法−
炭素−酸素結合を有する炭素質膜を形成したボールを、市販されているボールペン(株式会社パイロットコーポレーション)のボールホルダに装着し、走行試験を行った。ボールホルダの材質はフェライト系ステンレスとした。走行試験は、ボールペンを紙面に対して70度傾斜させた状態で保持し、直径32mmの円を描くように回転させ、筆記用紙(JIS:P3201)を4m/分の速さで移動させる試験機を用いて、ボールペンの筆記距離を調べる試験である。ボールペンが1つの円を描くことにより約10cmの距離を筆記する。筆記距離の100mごとにボールホルダからのボール先端位置までの距離を測定した。ボール及びボールホルダの磨耗により、ボールホルダからのボール先端位置までの距離が小さくなるため、ボール先端位置の変化量(沈み量)を磨耗量とした。
【0043】
−評価結果−
図7は、炭素質膜を形成したボールのオージェ電子分光分析の結果を示している。表面から80nm程度の深さまではほぼ炭素原子(C)だけが存在しており、炭素質膜が形成されていることが明らかである。80nm〜120nmの深さにおいては、Si原子が存在しており、SiCからなる中間層が形成されていることが明らかである。100nm以上の深さの部分では炭化タングステン(WC)からなるボール本体が検出されている。
【0044】
炭素質膜に酸素プラズマを照射することにより、炭素質膜の表面に炭素−酸素結合を導入した。プラズマ照射条件を変えることにより、図8に示すように炭素−酸素結合の割合が異なる2種類の炭素質膜を得た。図8においてC−CはspC−CとspC−Cとの和であり、C−HはspC−HとspC−Hとの和である。DLC−1は、高周波電源の出力を10Wとし、60秒秒間酸素プラズマを照射した。DLC−2は、高周波電源の出力を50Wとし、60秒間酸素プラズマを照射した。酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率(COtotal)は、DLC−1では0.16であり、DLC−2では0.43であった。酸素プラズマを照射する際の電源出力が高いDLC−2の方がDLC−1よりもCOtotalの値が大きくなった。COtotalをさらに詳しくみると、C−Oの全炭素に対する比率は、DLC−1とDLC−2とでほぼ同じとなったが、C=Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約6倍となり、O=C−Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約9倍となった。
【0045】
ボールペン用のインキは主に着色剤としての染料又は顔料と溶剤とからなり、水性ゲルインキの場合には増粘剤をさらに含んでいる。溶剤は水性インキ及び水性ゲルインキの場合には主に水である。このため、炭素質膜の表面がある程度親水性である方が炭素質膜とインキとの親和性が高くなる。また、油性インキの有機溶剤にも、アルコール系又はグリコエーテル系等の親水性の官能基を有する成分が含まれているため、炭素質膜の表面がある程度親水性である方が炭素質膜とインキとの親和性が高くなると考えられる。
【0046】
XPSにより求めた組成のC−Oは水酸基及びエーテル等を主に構成し、C=Oはカルボニル基及びケトン等を主に構成し、O=C−Oは主にカルボキシル基及びエステル等を主に構成していると考えられる。このため、COtotalの値が大きくなるほど、炭素質膜の表面における親水性が増大し、炭素質膜とインキとの親和性が高くなると考えられる。COtotalの値は少なくとも0.1以上とすればよい。ただし、COtotalの値が大きくなりすぎると、炭素同士の結合が減少し硬度が低下するため、0.5以下とすることが好ましい。
【0047】
図9は、水性インキ、水性ゲルインキ及び油性インキについて接触角を測定した結果を示している。使用した水性インキは、有機溶剤、水及び水溶性の染料系着色剤等からなる市販(株式会社パイロットコーポレーション製)のインキである。20℃の環境下における粘度は1〜2mPa・sである。水性ゲルインキは、市販のゲルインキボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製:G−2)に使用しているインキである。有機溶剤、水溶性の染料系着色剤、剪断減粘性付与剤、保湿湿潤剤及び水等を含む。20℃の環境下で、剪断速度384.0秒−1における粘度は50mPa・sである。油性インキは、市販の油性ボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製)に使用しているインキを低粘度にしたものである。油性インキの場合、粘度が低い方がボール座における磨耗が大きくなるため、低粘度のインキを用いた。有機溶剤であるフェニルグリコール及びベンジルアルコール、油溶性の染料系着色剤、樹脂、潤滑剤及び粘度調整剤等を含む。20℃の環境下における粘度は1500mPa・sである。なお、粘度の測定にはデジタル粘度計(ブルックフィールド社製DV−II:CPE−42ローター)を用いた。
【0048】
コントロールとして、炭素質膜を形成していない炭化タングステン(WC)ボールについても測定を行った。水性インキ、水性ゲルインキ及び油性インキのいずれについても、WCよりもDLC−1の接触角が小さく、さらにDLC−2の接触角が小さくなった。水性インキの場合には、未処理のWCボールでは60°程度あった接触角がDLC−1では55°程度まで低下し、DLC−2では3°程度まで低下しており非常に親和性が高くなっていることがわかる。水性ゲルインキについても、未処理のWCボールでは44°程度あった接触角がDLC−1では39°になり、DLC−2では22°程度まで低下した。油性インキについても、同様に32°程度あった接触角が、25°及び20°程度まで低下しており、いずれのインキにおいても、炭素−酸素結合を有する炭素質膜を形成することにより、インキとの親和性が向上することが明らかである。
【0049】
炭素−酸素結合を導入することによりカルボキシル基が生成すると、炭素質膜の表面におけるゼータ電位が低くなると考えられる。DLC−1におけるゼータ電位は−25mV程度となり、DLC−2におけるゼータ電位は−50mV以下となった。このように、炭素−酸素結合を有する炭素質膜では、ゼータ電位が負の値を示し、O=C−Oの比率が高いDLC−2において特に低い値を示していることからも、炭素質膜の表面にカルボキシル基が形成されていると考えられる。
【0050】
図10は、先に述べた接触角の測定と同じ組成の水性ゲルインキについて走行試験を行った結果を示している。市販されている水性ゲルインキボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製:G−2)のボールペンレフィルのボールを、先に述べたDLC−1又はDLC−2が形成されたボールに交換した。インキ収容筒内には、接触角の測定に用いたものと同じ組成の水性ゲルインキを充填した。ボールの径は0.7mmとし、10本のボールペンについて測定を行った平均値を示している。ボールペンに加える荷重は、100gf(約0.98N)とした。また、コントロールとして、積極的な官能基導入を行っていないDLC膜(DLC−0)を形成したボールを装着したボールペン及びDLC膜を形成していない未処理のボールを装着したボールペンについても同様に測定を行った。
【0051】
炭素質膜を形成していない未処理のボールの場合には、筆記距離が増加するに従い磨耗量が増加しており、筆記距離が1000mでは、0.01mm以上の磨耗が認められた。また、表面に積極的な官能基導入を行っていない従来のDLC(DLC−0)の場合には、試験の前半では磨耗量が0.001mm程度で安定したが、筆記距離が600m以上になると磨耗量の増加が認められた。一方、DLC−1の場合には、筆記距離が800mまではほとんど磨耗しておらず、1000mにおいても0.001mm程度の磨耗しか認められなかった。DLC−2の場合には全く磨耗が認められなかった。一般に、ボールホルダにおけるボール座が最も磨耗しやすく磨耗量(沈み量)の増加はボール座の磨耗によるものであると考えられる。水性ゲルインキにおいては、ボールとボール座との間での混合潤滑になると考えられるが、DLC−1及びDLC−2の場合にはボールと水性ゲルインキとの親和性が向上し、ボールとボール座等との間にインキが十分に保持され、ボールとボール座との直接の接触が生じにくいため、ボール及びボール座が磨耗しにくくなったためである考えられる。また、水性ゲルインキと親和性がより高いDLC−2において、磨耗量がより低減されたと考えられる。
【0052】
図11は、ボールの径を0.5mmとした場合の走行試験の結果を示している。この場合、WCボールのバインダをコバルト(Co)からニッケル(Ni)に変更している。ボールの径は0.5mmとし、ボールの径が0.7mmの場合と同様にして作成した10本のボールペンについて測定を行った平均値を示している。ボールペンに加える荷重は100gf(約0.98N)とした。ボールの径が0.7mmの場合と同様に筆記距離が増加するに従い磨耗量が増大し、筆記距離が900mでは、0.01mm程度の磨耗が生じた。また、表面に積極的な官能基導入を行っていない従来のDLC(DLC−0)の場合には、試験の前半は磨耗が認められないが、筆記距離が700mから磨耗の増加が認められた。一方、DLC−1の場合には筆記距離が500mまでは磨耗しておらず、1000mにおいても磨耗量は0.001mm以下であった。また、DLC−2の場合には、筆記距離が1000mにおいてもほとんど磨耗が認められなかった。ボールの径が0.7mmの場合と同様に、ボールとインキとの親和性が向上し、ボールとボール座等との間にインキが十分に保持され、ボールとボール座との直接の接触が生じにくいため、ボール及びボール座が磨耗しにくくなったためであると考えられる。また、水性ゲルインキとより親和性がより高いDLC−2において、磨耗量がより低減されていると考えられる。
【0053】
図12は、接触角の測定に用いたものと同じ組成の油性インキについて走行試験を行った結果を示している。ボールの径は0.5mmとし、水性ゲルインキの場合と同様にして作成した10本のボールペンについて測定を行った平均値を示している。インキ収容筒内には、接触角の測定に用いたものと同じ組成の油性ゲルインキを充填した。油性ボールペンにおいては筆圧が高くなるため、ボールペンに加える荷重を400gf(約3.92N)とした。炭素質膜を形成していないボールの場合には、水性ゲルインキの場合と同様に、筆記距離が増加するに従い磨耗量が増大し、筆記距離が1000mでは、0.01mm程度の磨耗が生じ、1500mでは0.02mm程度の磨耗が生じた。また、表面に積極的な官能基導入を行っていない従来のDLC(DLC−0)の場合には、試験の前半は磨耗が認められなかったが、筆記距離が900mから磨耗の増加が認められた。一方、DLC−1及びDLC−2の場合には、1500mの筆記距離ではほとんど磨耗が認められなかった。一般的に油性インキにおいては、ボールとボール座との間での流体潤滑になると考えられるが粘度が低いために混合潤滑となる。DLC−1及びDLC−2の場合にはボールと油性インキとの親和性が向上し、ボールとボール座等との間にインキが十分に保持され、ボールとボール座との直接の接触が生じにくいため、ボール及びボール座が磨耗しにくくなったためである考えられる。このように、水性ゲルのインキだけでなく油性のインキにおいても、耐久性が大きく向上した。なお、油性インキの場合の方が水性ゲルインキよりボール座の磨耗量が大きいのは、ボールペンに加える荷重の大きさ等が要因の一つである。
【0054】
図13は、接触角の測定の用いたものと同じ組成の水性インキについて走行試験を行った結果を示している。ボールの径は0.5mmとし、水性ゲルインキの場合と同様にして作成した10本のボールペンについて測定を行った平均値を示している。インキ収容筒内には、接触角の測定に用いたものと同じ組成の水性インキを充填した。ボールペンに加える荷重は100gf(約0.98N)とした。水性インキにおいても炭素質膜を形成していない場合には、筆記距離が増加するに従い磨耗量が増大し、筆記距離が1000mでは、0.01mm程度の磨耗が生じた。また、表面に積極的な官能基導入を行っていない従来のDLC(DLC−0)の場合には、試験の前半では磨耗が認められないが、筆記距離が200mから磨耗が認められ、600mから磨耗の増加が認められた。一方、DLC−1の場合には、筆記距離が600mにおける磨耗は0.001mm程度であり、1000mにおいても0.002mmの程度であった。DLC−2の場合には筆記距離が1000mでもほとんど磨耗が認められなかった。水性インキにおいても、ボールとボール座との間での混合潤滑になると考えられるが、炭素−酸素結合を有する炭素質膜を形成した場合には、ボールと水性インキとの親和性が向上し、ボールとボール座との直接の接触が生じにくいため、ボール及びボール座が磨耗しにくくなったためである考えられる。
【0055】
なお、ボールの表面だけでなくボールペンチップの表面にも炭素質膜を形成すればさらに耐磨耗性が向上する。この場合、ボールホルダの少なくともボールと接触する部分を覆うように炭素質膜を形成すればよい。ボールペンチップの表面に形成する炭素質膜は、ボールの表面に形成する炭素質膜と官能基の導入量又はCOtotalの値等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、ボールペンチップの表面に炭素質膜を形成する場合も、炭素質膜とボールペンチップとの間に中間層を形成してもよい。
【0056】
例えば、図12に示した油性インキの場合の走行試験と同様にして、ボールペンチップの表面にDLC−1と同じ組成の炭素質膜を形成し、このボールペンチップにDLC−1又はDLC−2を形成したボールを装着した10本のボールペンについて走行試験を行った。この場合、DLC−1を形成したボール及びDLC−2を形成したボールのいずれにおいても、1000mの筆記距離においてほとんど磨耗が認められなかった。また、ボールペンチップの表面にDLC−2と同じ組成の炭素質膜を形成した場合においても、DLC−1を形成したボール及びDLC−2を形成したボールのいずれにおいても、1000mの筆記距離においてほとんど磨耗が認められなかった。
【0057】
ボールホルダに炭素質膜を形成した場合には、炭素質膜に覆われていないボールを用いることも可能である。図14は、ボールを炭素質膜に覆われていない通常のボールとし、ボールペンチップの表面に炭素質膜を形成した場合の走行試験の結果を示している。図6に示すように、ボールホルダ111の先端縁部118、底面116及びボール座117等の表面を覆うように従来のDLC(DLC−0)、DLC−1及びDLC−2を形成したボールホルダを形成した。ボールは通常のコバルトをバインダとする直径が0.5mmのWCボールとした。インキ収容筒内に接触角の測定に用いたものと同じ組成の油性インキを充填した10本のボールペンレフィルについて測定した平均値を示している。ボールペンに加える荷重は400gf(約3.92N)とした。
【0058】
図14に示すように、ボールホルダ側にDLC−1又はDLC−2を形成した場合には、ボール側にDLC−1又はDLC−2を形成した場合と同様に、1000mの筆記距離においてもほとんど磨耗が認められなかった。一方、未処理のボールホルダ又は従来のDLC−0を形成した場合には、筆記距離が長くなるに従い、0.01mm〜0.005mm程度の磨耗が生じた。
【0059】
図10〜図13に示した走行試験の結果において、DLC−1又はDLC−2を形成している場合にも若干の磨耗が生じる場合が認められた。本願発明者らは、DLC−1又はDLC−2を形成した場合に生じる若干の磨耗が、炭素質膜を形成する前のボール本体の表面粗度の影響を受けることを見出した。
【0060】
図15は、算術平均粗さ(Ra)が異なるWCボールの表面にDLC−1を形成し、水性ゲルインキについて走行試験を行った結果を示している。走行試験の結果において◎は磨耗が全く認められなかったことを示し、○は0.003mm程度のわずかな磨耗が認められたことを示している。Raが3nm未満のボール本体にDLC−1を形成した場合には、1000mの筆記距離においても全く磨耗が認められなかった。一方、Raが3nm以上のボール本体にDLC−1を形成した場合には、1000mの筆記距離において0.003mm程度の磨耗が認められた。図16に示すようにボール本体の直径が0.7mmの場合にも0.5mmの場合と同様の結果となった。また、図17及び図18に示すように油性インキの場合にも同様の結果となった。水性インキと水性ゲルインキとでは走行試験の結果が大きく変わらないことから、同様の結果は水性インキにおいても得られると考えられる。また、DLC−2の場合にも磨耗量の差は小さいものの同様の結果が得られると考えられる。このように、官能基を導入したDLC膜を形成するボール本体のRaを3nm未満とすることにより、さらに磨耗量を低減できる。なお、ボール本体は、市販のWCボール(ツバキ・ナカシマ株式会社製)を用いており、Raの値は製品に添付の値を用いた。また、ボール本体がWCボールの場合だけでなく、他のセラミックス又はステンレス等からなる場合にも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るボールペンチップ及びボールペンは、ボール及びボールホルダが磨耗しにくく、長期に亘り良好な筆記特性を示し、ボールペンチップ及びボールペン等として有用である。
【符号の説明】
【0062】
10 インキ収容管
15 インキ
20 ボールペンチップ
101 ボール
102 ボール本体
103 炭素質膜
111 ボールホルダ
113 ボール保持室
114 インキ通路
115 溝部
116 底面
117 ボール座
118 先端縁部
121 炭素質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール本体と、該ボール本体の表面を覆う炭素質膜とを有するボールと、
前記ボールを回転自在に保持するボールホルダとを備え、
前記炭素質膜は、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有し、
前記炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上であることを特徴とするボールペンチップ。
【請求項2】
前記炭素質膜は、その表面のゼータ電位が−25mV以下であることを特徴とする請求項1に記載のボールペンチップ。
【請求項3】
前記炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペンチップ。
【請求項4】
前記ボールは、前記ボール本体と前記炭素質膜との間に形成された中間層を有し、
前記中間層は、炭素及びシリコンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
【請求項5】
前記ボール本体の表面における算術平均粗さは、3nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
【請求項6】
前記ボールホルダは、少なくとも前記ボールと接触する部分を覆う炭素質膜を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
【請求項7】
ボールと、
前記ボールを回転自在に保持するボールホルダとを備え、
前記ボールホルダは、少なくとも前記ボールと接触する部分を覆う炭素質膜を有し、
前記炭素質膜は、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有し、
前記炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は0.1以上であることを特徴とするボールペンチップ。
【請求項8】
前記炭素質膜は、その表面のゼータ電位が−25mV以下であることを特徴とする請求項7に記載のボールペンチップ。
【請求項9】
前記炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載のボールペンチップ。
【請求項10】
前記炭素質膜は、中間層を介して前記ボールホルダの表面に形成されており、
前記中間層は、炭素及びシリコンを含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のボールペンチップと、
インキが充填されたインキ収容管とを備え、
前記炭素質膜の表面における前記インキの接触角は、55°以下であることを特徴とするボールペン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate