説明

ボールペンチップ

【課題】インキの種類や粘度に関係なくインキ追従性に優れたボールペンチップを提供する。
【解決手段】チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持し、該ボール抱持室の底壁の中央に、チップ後端部の内孔に連通するインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しない、横断面が略コ字状のインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面との接合部の角度が、150度以上、180度以下であることを特徴とする。または、前記インキ流通溝の底壁面が、円弧状面であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持してなるボールペンチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボール抱持室の底壁の中央に、インキ流通孔に連通するインキ流通溝を有するボールペンチップはよく知られている。こうしたボールペンチップにおいて、実開平7−31382号公報「ボールペン」のように、インキ流通孔から放射状に延び、チップ後端部の内孔に達しないタイプのインキ流通溝もよく知られている。
【0003】
こうした、インキ流通孔から放射状に延び、チップ後端部の内孔に達しないタイプのインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、特開平8−207482号公報「ボールペン用金属チップ」には、インキ流通孔の径とインキ流通孔の長さを一定比率とし、上向き放置後の再筆記のカスレ防止や高速筆記時のインキ追従性を向上させたボールペンチップが開示されている。
【特許文献1】「実開平7−31382号公報」
【特許文献2】「特開平8−207482号公報」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インキ流通孔から放射状に延び、チップ後端部の内孔に達しないタイプのインキ流通溝は、特許文献1、2に開示されているように、横断面が略コ字状とし、縦断面は略L字状とすることが一般的である。こうしたインキ流通溝は、図8、図9に示すように、ボールペンチップ101のボール抱持室102の底壁103にツール109を当接し、押圧することよって、インキ流通孔105から放射状に延び、チップ後端部の内孔107に達しない長さLのインキ流通溝106を形成している。
【0005】
こうした、インキ流通溝106を形成するツール109は、耐久性等を考慮して、先端角を90度にすることが一般的であるため、インキ流通溝106のインキ流通孔105に対して最も離間した外壁面106aと底壁106bとの接合部S5の角度αは135度であり、急な勾配で形成してあった。
【0006】
本発明者は、インキ流通溝とインキ追従性について検討した結果、インキ流通溝の縦断面における傾斜角度とインキ追従性が密接な関係にあることが解った。これは、筆記具インキがチップ後端部の内孔からインキ流通溝を連通する時に、縦断面において前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面との接合部近傍で乱流を引き起こしているためと考えられる。
【0007】
本発明の目的は、インキの種類や粘度に関係なくインキ追従性に優れたボールペンチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持し、該ボール抱持室の底壁の中央に、チップ後端部の内孔に連通するインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しない、横断面が略コ字状のインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面が、チップ先端から後端に向かって縮径する傾斜状に形成するとともに、該インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面との接合部の角度が、150度以上、180度以下であることを特徴とする。
【0009】
また、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面が、チップ先端から後端に向かって縮径する傾斜状に形成したことを特徴とする。
【0010】
また、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面とが、接合部のない傾斜面に形成したことを特徴とする。
【0011】
また、チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持し、該ボール抱持室の底壁の中央に、チップ後端部の内孔に連通するインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しないインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、前記インキ流通溝の底壁面が、円弧状面であることを特徴とする。
【0012】
また、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面とが、接合部のない円弧状面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
インキの種類や粘度に関係なくインキ追従性に優れたボールペンチップを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明のボールペンチップ及びそれを用いたボールペンの実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図1、図2に示すボールペンチップ1は、チップ本体のボール抱持室2の底壁3にボール8を載置し、チップ先端縁4を内側にかしめることより、ボール8を回転自在に抱持してある。また、ボール抱持室2の底壁3には、チップ後端部の内孔7に連通するインキ流通孔5と、このインキ流通孔5から放射状に延び、チップ後端部の内孔7に連通しない4本の長さがL1のインキ流通溝6を形成してある。
【0016】
図3に示すようにインキ流通溝6は、横断面を略コ字状とし、縦断面が略L字状となるように、ボールペンチップの底壁3にツール9を当接し、押圧(図3の矢印F方向)するよってインキ流通溝6を形成してあり、インキ流通孔5に対して最も離間した外壁面6aと底壁面6bとの接合部S1の角度α1を150度に形成してある。
【0017】
インキ流通溝6のインキ流通孔5に対して最も離間した外壁面6aと底壁面6bとの接合部S1の角度を150度にすることよって、図8、図9に示す従来のボールペンチップ101は、インキ流通溝106のインキ流通孔105に対して最も離間した外壁面106aと底壁面106bとの接合部Sの角度αを135度に比べて、角度が大きく(α<α1)なっているので、筆記具インキがチップ後端部の内孔7からインキ流通溝6を通過する時に、接合部S1近傍で乱流を引き起こし難くなり、インキ追従性が向上する。
【実施例2】
【0018】
図4に示す実施例2のボールペンチップ11は、インキ流通溝16のインキ流通孔15に対して最も離間した外壁面16aが、チップ先端から後端に向かって縮径する傾斜状に形成し、インキ流通溝16のインキ流通孔15に対して最も離間した外壁面16aと底壁面16bとの接合部S2の角度α2を150度にした以外は、実施例1と同様にして、チップ本体のボール抱持室12の底壁13にボール8を載置し、チップ先端縁14を内側にかしめることより、ボール8を回転自在に抱持し、ボール抱持室2の底壁3に、チップ後端部の内孔17に連通するインキ流通孔15と、このインキ流通孔15から放射状に延び、チップ後端部の内孔17に連通しない4本の長さがL2のインキ流通溝16を形成してボールペンチップ11を得ている。
【0019】
インキ流通溝16のインキ流通孔15に対して最も離間した外壁面16aをチップ先端から後端に向かって縮径する傾斜状に形成することによって、インキ流通溝16のインキ流通孔15に対して最も離間した外壁面16aと底壁面16bとの接合部S2の角度α2を150度とするのに、インキ流通溝16の長さL2を従来のボールペンチップ101のインキ流通溝106の長さL6と同じにすることができる等、インキ流通溝16の長さの設定が容易になり、インキ流通溝16を深く形成することなく形成できるので好ましい。
【実施例3】
【0020】
図5に示す実施例3のボールペンチップ21は、インキ流通溝26のインキ流通孔25に対して最も離間した外壁面26aと底壁面26bとが、接合部のない傾斜面に形成した以外は、実施例1と同様にして、チップ本体のボール抱持室22の底壁23にボール8を載置し、チップ先端縁24を内側にかしめることより、ボール8を回転自在に抱持し、ボール抱持室22の底壁23に、チップ後端部の内孔27に連通するインキ流通孔25と、このインキ流通孔25から放射状に延び、チップ後端部の内孔27に連通しない4本の長さがL3のインキ流通溝26を形成してボールペンチップ21を得ている。
【0021】
インキ流通溝26のインキ流通孔25に対して最も離間した外壁面26aと底壁面26bとが、接合部のない(角度α3=180度)傾斜面に形成することで、筆記具インキがチップ後端部の内孔27からインキ流通溝26を通過する時に、接合部近傍で乱流が発生しないのでインキ追従性がより向上する。
【0022】
尚、インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面との接合部の角度は、150度未満では乱流の抑制効果が低くなるので、150度以上とする。また、180度であれば接合部に乱流が発生しないので最も好ましい。
【実施例4】
【0023】
図6に示す実施例4のボールペンチップ31は、インキ流通溝36の底壁面36bを円弧状面に形成した以外は、実施例1と同様にしてチップ本体のボール抱持室32の底壁33にボール8を載置し、チップ先端縁34を内側にかしめることより、ボール8を回転自在に抱持し、ボール抱持室32の底壁33に、チップ後端部の内孔37に連通するインキ流通孔35と、このインキ流通孔35から放射状に延び、チップ後端部の内孔37に連通しない4本の長さがL4のインキ流通溝36を形成してボールペンチップ31を得ている。
【0024】
インキ流通溝36の底壁面36bを円弧状面に形成することで、実施例3と同様に筆記具インキがチップ後端部の内孔37からインキ流通溝36を通過する時に、インキ流通溝36のインキ流通孔35に対して最も離間した外壁面36aと底壁面36bとの接合部S3近傍での乱流が発生し難い。また、インキ流通溝36の底壁面36bを円弧状面にすることによって、インキ流通溝36の長さL4が実施例2、3及び従来技技術と同じであってもインキ流通溝36の体積を多くすることができるので、インキ流通溝36を通過するインキ量が多く、インキ追従性がより向上するので好ましい。
【実施例5】
【0025】
図7に示す実施例5のボールペンチップ41は、インキ流通溝46のインキ流通孔45に対して最も離間した外壁面46aと底壁面46bとが、接合部のない連続する円弧状面に形成した以外は、実施例1と同様にしてチップ本体のボール抱持室42の底壁43にボール8を載置し、チップ先端縁44を内側にかしめることより、ボール8を回転自在に抱持し、ボール抱持室42の底壁43に、チップ後端部の内孔47に連通するインキ流通孔45と、このインキ流通孔45から放射状に延び、チップ後端部の内孔47に連通しない4本の長さがL5のインキ流通溝46を形成してボールペンチップ41を得ている。
【0026】
また、インキ流通溝46のインキ流通孔45に対して最も離間した外壁面46aと底壁面46bとが、接合部のない連続する円弧状面に形成することで、実施例3と同様に筆記具インキがチップ後端部の内孔47からインキ流通溝46を通過する時に、乱流が発生しない。また、円弧状面にすることによって、実施例4と同様に、インキ流通溝46の長さL5が実施例2、3及び従来技技術と同じであってもインキ流通溝46の体積を多くすることができるので、インキ流通溝46を通過するインキ量が多く、インキ追従性が極めて良好となるので好ましい。
【0027】
尚、インキ流通溝46のインキ流通孔45に対して最も離間した外壁面46aと底壁面46bとが、接合部のない連続する円弧状面は、同一の円弧でもよいし、異なる円弧が連続した構造であってもよい。
【0028】
本実施例では、便宜上、ボール座を形成しない構造としてあるが、ボール抱持室の底壁にボール座を形成してあってもよい。また、インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しないインキ流通溝であれば、形状や数も特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
油性インキ、剪断減粘性インキ、水性インキ等、インキの種類やインキ粘度に限定されることなく実施可能であり、筆記時に紙面に多く吐出する剪断減粘性インキや低粘度の油性インキに特に効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1のボールペンチップを示す一部省略した縦断面図である。
【図2】図1における一部省略したA−A断面図である。
【図3】図1におけるインキ流通溝を形成する前の状態を示す図である。
【図4】実施例2のボールペンチップを示す一部省略した縦断面図である。
【図5】実施例3のボールペンチップを示す一部省略した縦断面図である。
【図6】実施例4のボールペンチップを示す一部省略した縦断面図である。
【図7】実施例5のボールペンチップを示す一部省略した縦断面図である。
【図8】従来のボールペンチップにおける一部省略した要部拡大断面図である。
【図9】図8におけるインキ流通溝を形成する前の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1、11、21、31、41、101 ボールペンチップ
2、12、22、32、42、102 ボール抱持室
3、13、23、33、43、103 底壁
5、15、25、35、45、105 インキ流通孔
6、16、26、36、46、106 インキ流通溝
6a、16a、26a、36a、46a、106a 外壁面
6b、16b、26b、36b、46b、106b 底壁面
7、27、37、107 チップ後端部の内孔
8 ボール
9、109 ツール
S、S1、S2、S3 接合部
α、α1、α2、α3、 接合部の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持し、該ボール抱持室の底壁の中央に、チップ後端部の内孔に連通するインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しない、横断面が略コ字状のインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面との接合部の角度が、150度以上、180度以下であることを特徴とするボールペンチップ。
【請求項2】
前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面が、チップ先端から後端に向かって縮径する傾斜状に形成したことを特徴とする請求項1に記載のボールペンチップ。
【請求項3】
前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面とが、接合部のない傾斜面に形成したことを特徴とする請求項2に記載のボールペンチップ。
【請求項4】
チップ先端のボール抱持室にボールを回転自在に抱持し、該ボール抱持室の底壁の中央に、チップ後端部の内孔に連通するインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延び、前記チップ後端部の内孔に達しないインキ流通溝を有するボールペンチップにおいて、前記インキ流通溝の底壁面が、円弧状面であることを特徴とするボールペンチップ。
【請求項5】
前記インキ流通溝の前記インキ流通孔に対して最も離間した外壁面と底壁面とが、接合部のない円弧状面であることを特徴とする請求項4に記載のボールペンチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−334866(P2006−334866A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160881(P2005−160881)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】