説明

ボールペンレフィル

【課題】本発明の課題は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座及びコイルスプリングが摩耗し難い、ボールペンレフィルを提供することである。
【解決手段】本発明は、インキ収容筒の先端部に、ボールの一部をチップ先端部より突出させて回転自在に抱持し、コイルスプリングの棒軸部により前方に押圧し、前記ボールとチップ先端部の内壁にて弁機構を具備してなるボールペンチップを直接、またはチップホルダーを介して装着し、インキ収容筒内に、ボールペン用インキを直詰めしてなるボールペンレフィルであって、前記コイルスプリングが、ステンレス鋼線の裸線からなり、前記ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンレフィルに関し、さらに詳細としては、ボールの後端にコイルスプリングを配設したボールペンチップを具備してなるボールペンレフィルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールの後端に、コイルスプリングを配設し、このコイルスプリングの押圧力によって、ボールをチップ先端部の内壁面に密接させるとともに、筆記時の筆圧によってボールとチップ先端部の内壁とに隙間を形成する弁機構を具備したボールペンチップはよく知られて、特開2000−158869号公報「ボールペンチップ」等に開示されている。
【0003】
こうした、弁機構を具備したボールペンチップは、ボールをチップ先端部の内壁面に密接することを意図しているが、ボールへの押圧力は、ボールの中心への押圧力を付与することで、ボールの傾きが発生せずにボールをチップ先端部の内壁面に密接しやすくなる。
【0004】
ところで、ボールの後端にコイルスプリングを配設したボールペンチップを具備してなるボールペンレフィルでは、筆記によるボールの回転によって、ボール座のみならずコイルスプリングの棒軸部の先端部が摩耗する問題があった。
【0005】
コイルスプリングの棒軸部の先端部が摩耗すると、ボールの押圧力が低減したり、摩耗粉によって、筆記不良の原因となる等、筆記性能に影響を及ぼす問題があった。
【0006】
こうした摩耗を抑制するには、特開平6−248217号公報「ボールペン用インキ組成物」、特開平9−151354号公報「油性ボールペン用インキ組成物」等に開示されているように、インキ収容筒に充填するボールペン用インキに、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤等、様々な界面活性剤を用いることで、潤滑性を高め、ボールとコイルスプリングとの回転抵抗を低減することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】「特開2000−158869号公報」
【特許文献2】「特開平6−248217号公報」
【特許文献3】「特開平9−151354号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2、3のような各種の界面活性剤を用いた場合、ある程度書き味を向上することが可能であるが、ボール座及びコイルスプリングの摩耗を抑制する効果としては、十分満足できなかった。
【0009】
本発明の目的は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座及びコイルスプリングが摩耗し難い、ボールペンレフィルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.インキ収容筒の先端部に、ボールの一部をチップ先端部より突出させて回転自在に抱持し、コイルスプリングの棒軸部により前方に押圧し、前記ボールとチップ先端部の内壁にて弁機構を具備してなるボールペンチップを直接、またはチップホルダーを介して装着し、インキ収容筒内に、ボールペン用インキを直詰めしてなるボールペンレフィルであって、前記コイルスプリングが、ステンレス鋼線の裸線からなり、前記ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有することを特徴とするボールペンレフィル。
2.前記芳香環を有する酸性化合物の分子量が、200以上であることを特徴とする第1項に記載のボールペンレフィル。
3.前記芳香環を有する酸性化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする第1項または第2項に記載のボールペンレフィル。
4.前記酸性化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
5.前記ボールペン用インキのpHが4〜10であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
6.前記ボールペン用インキの20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座及びコイルスプリングが摩耗し難い、ボールペンレフィルを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明におけるボールペンレフィルの縦断面図である。
【図2】図1における、一部省略した要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴は、ボールの後端にコイルスプリングを配設したボールペンチップを具備してなるボールペンレフィルにおいて、コイルスプリングとして、ステンレス鋼線の裸線を用いること、ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有することである。
【0014】
これは、摩耗の抑制を考慮すると、コイルスプリングとして、表面処理を施した線材を用いることが好ましいが、表面処理した材料の耐食性等、ボールペン用インキとの関係等、新たな課題が発生する。そのため、コイルスプリングとしては、ステンレス鋼線の裸線を用いることが最も好ましいためである。尚、ステンレス鋼線は、SUS304等、特に限定されるものではなく、ボールペンチップ内に配設する時点で、表面処理を施していない裸線であればよい。
【0015】
しかし、ステンレス鋼線の裸線は、耐摩耗性が低下するために、ボールペン用インキの潤滑性を高め摩耗を低減することが重要となる。そのため、本発明では、ボールペン用インキに芳香環を有する酸性化合物を含有する。
【0016】
これは、金属に吸着し易い潤滑膜を形成することでボールと接触するコイルスプリングの直棒部の摩耗を抑制するものと推測する。コイルスプリングにステンレス鋼線の裸線を用いているため、芳香環を有する化合物には、酸性化合物を用いることが重要である。これは、前記酸性化合物が、ステンレス鋼材の表面に形成される酸性被膜を保護する効果があり、ボールペンチップの耐食性等、経時安定性を向上することができるためである。
【0017】
このように、ボールとチップ本体及びコイルスプリングとの潤滑性を高めることで、摩耗の抑制のみならず、滑らかな筆感を得ることができ、書き味を向上する効果を奏する。
【0018】
本発明に用いる芳香環を有する酸性化合物とは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有する酸性化合物である。また、芳香環を有する酸性化合物は、ベンゼン環などの芳香環を多数有する方が、潤滑性をより向上し易いため、分子量が200以上のものが最も好ましい。
【0019】
芳香環を有する酸性化合物の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸
-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸などが挙げられる。また、芳香環を有する化合物が、硫黄原子を有する官能基(S、SO、SO、SOなど)を含むと、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成するため、潤滑性が向上すると考えられるため、より好ましく、特にアルキルベンゼン( R-CH-SO、R;アルキル基)が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルジフェニルオキシドスルホン酸などが挙げられる。
【0020】
また、前記芳香環を有する酸性化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られないおそれがあり、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.5〜10.0質量%であり、最も好ましくは、2.0〜8.0質量%である。
【0021】
また、こうした芳香環を有する酸性化合物には、水溶性の性質を有するものもあり、油性ボールペン用インキ中に溶解しずらく、インキ経時安定性に不安が残る。そのため、芳香環を有する酸性化合物を塩基性化合物と中和反応させた造塩体とすることが好ましい。こうして得た造塩体は、イオン結合力が強く、長期間のインキ経時安定性が著しく向上する。
【0022】
また、塩基性化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンや4級アミンなどが挙げられるが、酸性化合物を十分に中和反応させより安定した造塩体は4級アミンによる4級アンモニウム塩である。
【0023】
芳香環を有する4級 アミンは、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物として、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヤシアルキルジメチルベンジル、アンモニウム化合物としては、ドデシルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、書き味、経時安定性を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が最も好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0024】
また、前記造塩体にエチレンオキサイド(CH2CH2O)を有する有機アミンと併用すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、有機アミンとして、エチレンオキサイド(CH2CH2O)を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いる方が好ましい。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
ところで、ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有し、インキ経時安定性やコイルスプリングの耐食性を保つには、pH4.0〜10.0が好ましく、pH5.0〜9.0とすることが最も好ましい。pH値が3.9以下だと、チップ本体内の金属イオンが溶出し易いため、金属塩析出物が発生し易くなり、pH値が10.1以上だと、着色剤の良好な色調や、溶解または分散安定性が得られなくなってしまうため、pH値が4.0〜10.0の中性領域とすることで、インキ経時安定性が良好となるとともに、コイルスプリングの耐食性への影響を低減できる。
【0026】
さらに、前記造塩体の安定性を考慮すれば、pH値が3.9以下を強酸性領域、pH値が10.1以上を強アルカリ領域だと、造塩体のイオン結合が離れやすくなるため、pH4.0〜10.0の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)の方が、経時安定性が良いため最も好ましい。さらに、より経時安定性を考慮すれば、pH値が5.0〜9.0が好ましい。
【0027】
尚、本発明において、pH値が4.0未満を強酸性領域、pH値が10.0を超えると強アルカリ領域、pH4.0以上、6.0未満を弱酸性領域、6.0以上、8.0以下を中性領域、8.0を越え、10.0以下を弱アルカリ性領域とする。
【0028】
また、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。また、水性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、水性インキ組成物を容器に採取し、20℃にて測定した。
【0029】
芳香環を有する酸性化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られないおそれがあり、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.5〜10.0質量%であり、最も好ましくは、2.0〜8.0質量%である。
【0030】
本発明のボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、筆跡に滲みやインキ垂れ下がりの影響が出やすいため、また、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が5000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向がある。そのため、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度は、10〜5000mPa・sが好ましい。より好ましくは、50〜3、000mPa・sであり、最も好ましくは、ボール座及びコイルスプリングの摩耗を抑制する効果が顕著である100〜1500mPa・sである。
【0031】
本発明に用いる着色剤については、染料、顔料があるが、染料については、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、直接染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等が採用可能である。顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられる。これらの染料および顔料は、2種以上組み合わせて使用することが可能である。特に、顔料は、ボールとチップ本体の間で回転阻害による書き味の劣化の可能性があるため、染料を用いる方が好ましい。
【0032】
油性染料については、具体的には、バリファーストブラック1802、同ブラック1805、同1701、同ブルー1601、同ブルー1621、同レッド1320、同レッド1360、同イエロー1101、同イエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、同RO6G−B、同VPB−B、同VB−B、同MVB−3、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、同バイオレット C−RH、同ブルー GNH、同ブルー C−RH、同レッド C−GH、同レッド C−BH、同イエロー C−GNH、同イエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、同ブルーGLSH−スペシヤル、同レッド533、同オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー510、同イエロー530、S.R.C−BH等が挙げられる。
水性染料については、具体的には、ダイレクトブラック17、同19、同22、同154、同195、アシッドブラック1、同2、同24、ダイレクトエロー4、同26、ダイレクトレッド1、同23、同31、ダイレクトブルー1、同41、同71、同119、ダイレクトオレンジ6等、アシッドブラック1、同2、同24、同26、アシッドオレンジ56、アシッドエロー3、同17、同42、同61、アシッドレッド8、同9、同51、同73、アシッドブルー1、同7、同62、同90、アシッドグリーン3、同9、同16、アシッドバイオレット15、同17、C.I.ベ−シックエロ−1、同2、同21、C.I.ベ−シックオレンジ2、同14、C.I.ベ−シックレッド1、同2、同9、C.I.ベ−シックバイオレット1、同3、同10、C.I.ベ−シックブル−3、同7、同26、ベ−シックグリ−ン4、C.I.ベ−シックブラウン12、C.I.ベ−シックブラック2、メチルバイオレット、ビクトリアブルーFB、マラカイトグリーン、ローダミンのシリーズ等が挙げられる。
【0033】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これらの染料および顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜50.0質量%が好ましい。
【0034】
本発明に用いる溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3―メトキシブタノール、3―メトキシー3―メチルブタノール等のグリコールエーテル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール類、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類等、ボールペン用インキとして一般的に用いられる溶剤が例示でき、これらを1種又は2種以上用いることができる。有機溶剤の含有量は、着色剤の溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、5.0〜50.0質量%が好ましい。
【0035】
また、その他として、着色剤の経時安定性や潤滑性を向上させるために、有機アミンや界面活性剤として、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、脂肪酸等を、顔料分散剤として、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂等を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン等の樹脂や脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油、架橋型アクリル酸重合体、キサンタンガムなどの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水、防錆剤、防菌剤などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0036】
次に図面を参照しながら、本発明のボールペンの実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
図1、図2に示す実施例1のボールペンレフィル1は、インキ収容筒2の先端に、ボール径がφ0.7mmのボール3を回転自在に抱時したボールペンチップ4を装着するとともに、インキ収容筒2内に、インキ配合1のボールペン用インキ11及びインキ追従体12を直に収容してボールペンレフィル1を得ている。また、ボールペンチップ4内には、ボールの後端に、ボール3をチップ先端縁5aの内壁に常に押圧するコイルスプリング10を配設してある。尚、コイルスプリングには、SUS304の裸線を用いており、ボール押力は10gであった。
【0038】
ボールペンチップ4はボール抱持室6にインキ流通孔7と、放射状に延びたインキ流通溝8を有し、ボール抱持室6の底壁に設けた筆記用ボールと略同形のボール座9に、ボール3を載置し、チップ先端部5のチップ先端縁5aを内側にかしめことにより、ボール3の一部がチップ先端縁5aより突出するように回転自在に抱持している。
【0039】
ボールペン用インキは、着色剤として、染料、有機溶剤として、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、芳香環を有する酸性化合物(アルキルベンゼンスルホン酸)と塩基性化合物(ベンゾキソニウム化合物)との造塩体(造塩配合1)、有機酸としてオレイン酸、樹脂としてポリビニルピロリドン(PVP K−90:アイエスピー・ジャパン株式会社製)、ケトン樹脂(ハイラック110H:日立化成株式会社製)を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させ、油性ボールペン用インキを得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製
40mm2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度500sec−1にてインキ粘度を測定したところ、180mPa・sであった。また、100mあたりのインキ消費量は、46mg/100mであった。
【0040】
インキ配合1
染料(スピロンブラック−GMH−S) 15.0質量%
染料(バリーファ−スト バイオレット1701) 15.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 60.7質量%
造塩体(配合例1で作製したもの) 5.0質量%
有機酸(オレイン酸) 1.0質量%
樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.3質量%
樹脂(ケトン樹脂) 2.0質量%
【0041】
造塩配合例1
まず、ビーカーに水を100g、アルキルベンゼンスルホン酸Naを30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾキソニウム化合物19.5gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、造塩体(分子量600〜700)を得た。
【0042】
配合例2〜5
表1に示すように、各成分を変更した以外は、配合例1と同様な方法で配合例2〜5の造塩体を作成した。
【表1】

【0043】
実施例2〜5
表2に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜4の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0044】
実施例5の水性ボールペン用インキ組成物は、表2に示すように、各成分を変更し、まず、水、水溶性有機溶剤、潤滑剤、pH調整剤、保湿剤、防菌剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌して水性ベースインキを作成する。
【0045】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌した後、濾紙を用い濾過を行って、実施例5の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
【表2】

【0046】
比較例1〜4
表3に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜3の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表3に測定、評価結果を示す。比較例4の水性ボールペン用インキ組成物は、表3に示すように、各成分を変更し、上記実施例5と同様の手順で、配合し、比較例4の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
【表3】

【0047】
試験及び評価
インキ配合1〜5及び実施例1〜5、比較例1〜4で作製したボールペン用インキを、実施例1のボールペンレフィルに充填し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
試験及び評価
実施例1〜5及び比較例1〜4で作製した油性ボールペン用インキ組成物、水性ボールペン用インキ組成物、及びグリース状のインキ追従体を、ボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペン、水性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。尚、油性ボールペンと水性ボールペンでは、チップ仕様が異なるため、耐摩耗試験の試験項目を油性ボールペン用と水性ボールペン用とに分けて行った。
【0048】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかで良好なもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重く劣るもの ・・・△
重く劣るもの ・・・×
【0049】
耐摩耗試験1(油性ボールペン用):荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が10μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が10μm〜20μmであるが、筆記可能であるもの ・・・○
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
耐摩耗試験1(水性ボールペン用):荷重100gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が10μm未満であり、筆記可能のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が10〜40μmであり、筆記可能のもの ・・・○
ボール座の摩耗が40μmを越え、筆記不能になってしまうもの ・・・×
【0050】
耐摩耗試験2:(油性ボールペン用)荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のコイルスプリングの摩耗を顕微鏡にて観察した。
コイルスプリングの摩耗が0.1mm未満のもの ・・・◎
コイルスプリングの摩耗が0.3mm〜0.5m mであるもの ・・・○
コイルスプリングの摩耗が0.5mmを越えるもの ・・・×
耐摩耗試験2:(水性ボールペン用)荷重100gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のコイルスプリングの摩耗を顕微鏡にて観察した。
コイルスプリングの摩耗が0.1mm未満のもの ・・・◎
コイルスプリングの摩耗が0.3mm〜0.5mmであるもの ・・・○
コイルスプリングの摩耗が0.5mmを越えるもの ・・・×
【0051】
実施例1〜5では、書き味、耐摩耗試験ともに良好な性能が得られた。
【0052】
比較例1〜4では、芳香環を持たない化合物を用いているため、書き味が重く、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどく、筆記不良または筆記不能になった。
【0053】
尚、本発明のボールペンレフィルは、油性ボールペンレフィルや水性ボールペンレフィルとして用いることができる。
【0054】
インキ消費量については、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義すると、100mあたりのインキ消費量については、油性ボールペンレフィルとして使用する場合には、30mg未満だと、インキ消費量が少ないので、濃い筆跡が得られにくく、70mgを越えるとインキ消費量が多い過ぎ、筆跡乾燥性に悪影響を及ぼす可能性もある。そのため、インキ消費量が30〜70mg/100mが好ましく、より好ましくは、40〜60mg/100mである。また、水性ボールペンレフィルとして使用する場合には、100mあたりのインキ消費量については、50mg未満だと、インキ消費量が少ないので、筆跡にカスレが発生しやすく、300mgを越えると、インキ消費量が多いので、筆跡に滲みの発生や、筆跡乾燥性に影響を及ぼす可能性もある。そのため、インキ消費量が50〜300mg/100mであることが、好ましい。より、好ましくは、80〜250mg/100mである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のボールペンレフィルは、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能であるキャップ式、ノック式等、ボールペンとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ボールペンレフィル
2 インキ収容筒
3 ボール
4 ボールペンチップ
5 チップ先端部
5a チップ先端縁
6 ボール抱持室
7 インキ流通孔
8 放射状溝
9 ボール座
10 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部に、ボールの一部をチップ先端部より突出させて回転自在に抱持し、コイルスプリングの棒軸部により前方に押圧し、前記ボールとチップ先端部の内壁にて弁機構を具備してなるボールペンチップを直接、またはチップホルダーを介して装着し、インキ収容筒内に、ボールペン用インキを直詰めしてなるボールペンレフィルであって、前記コイルスプリングが、ステンレス鋼線の裸線からなり、前記ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有することを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項2】
前記芳香環を有する酸性化合物の分子量が、200以上であることを特徴とする請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記芳香環を有する酸性化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
前記酸性化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項5】
前記ボールペン用インキのpHが4〜10であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項6】
前記ボールペン用インキの20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−136511(P2011−136511A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298810(P2009−298810)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】