説明

ポケット付き和紙の製造方法

【課題】ポケットが和紙本体と同じ製造工程で成形されて一体化されることにより、需用者の興味を引き、面白みに富んだポケット付き和紙を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】漉き枠に取り付けた網体18上に基層2となる和紙を漉く工程と、基層2が乾燥する前に、該基層上の所定位置にポケット形成用網体12を定置する工程と、ポケット形成用網体12上を含む前記基層上にポケット層3となる和紙を漉く工程と、基層2及びポケット層3からなる和紙を圧搾し、半乾燥状態でポケット形成用網体12を抜き取る工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポケット付き和紙の製造方法に関し、さらに詳細には、種々の小物を入れることができるポケットが付いた和紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
和紙は楮や三椏などを原材料とし、日本古来の独自の製法により作られる紙として知られている。和紙は、西洋紙とは異なり、原材料である楮や三椏などの靱皮繊維の素材感を紙全体に残し、この素材感と相俟って独特の風合いや自然感等を与えてくれるものであるため、従来より便箋や封筒などの紙製品、さらには壁掛けなどの種々の用途に使用されている。
【0003】
このような和紙に小物を入れるためのポケットがあれば、使用者は独自の趣向を凝らすことができ、夢が拡がる。例えば、便箋の場合、ポケットに押し花を挿入すると、装飾効果が得られるのみならず、文字によるものとは違ったメッセージを加えることができる。
【0004】
ポケットは和紙本体部と別途製造し、本体部に接着等により固定することもできる(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような加工方法により得られたポケット付き和紙は、ポケットが物を収容する機能を発揮するに止まり、面白みに欠ける。
【特許文献1】特開平9−108026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、ポケットが和紙本体と同じ製造工程で成形されて一体化されることにより、需用者の興味を引き、面白みに富んだポケット付き和紙を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、漉き枠に取り付けた網体上に基層となる和紙を漉く工程と、
前記基層が乾燥する前に、該基層上の所定位置にポケット形成用網体を定置する工程と、
前記ポケット形成用網体上を含む前記基層上にポケット層となる和紙を漉く工程と、
前記基層及びポケット層からなる和紙を圧搾し、半乾燥状態で前記ポケット形成用網体を抜き取る工程と
を含むポケット付き和紙の製造方法にある。
【0007】
より具体的には、前記ポケット形成用網体はその端部が保持部材に保持され、この保持部材は前記漉き枠に固定される。前記保持部材は、前記ポケット形成用網体の端部が着脱自在に取り付けられる取付け部材と、この取付け部材に中間部が取り付けられ、端部が前記漉き枠に取り付けられる線条部材とからなる。前記保持部材は、前記ポケット形成用網体の端部に形成された通し孔部と、この通し孔部に中間部が通され、両端部が前記漉き枠に取り付けられる線条部材とによる構成とすることもできる。
【0008】
上記のような保持部材を用いて、前記ポケット層となる和紙を漉いた後、圧搾する前に前記ポケット形成用網体を残置したまま前記保持部材を取り外す。
【0009】
上記のような二度漉きによらず、通常の一度漉きでも次のような工程により、ポケットを作ることができる。
すなわち、この発明は、漉き枠に取り付けた網体上に和紙を漉く工程と、
前記漉いた和紙層が乾燥する前に、該和紙層にポケット形成用型板を斜めに差し込む工程と、
前記和紙層を圧搾し、半乾燥状態で前記ポケット形成用型板を抜き取る工程と
を含むポケット付き和紙の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、基層上にポケット形成用網体を定置して、二度漉きを行うことにより、ポケット層が基層と一体となった和紙を得ることができる。このような和紙は、ポケットが接着等により和紙本体に固定されたものと異なり、需用者の興味を引き、面白みを与えてくれる。また、ポケット形成用型板を用いることにより、通常の一度漉きでも同様のポケット付き和紙を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1はこの発明により得られたポケット付き和紙を示す斜視図、図2は図1のA−A線矢視拡大断面図である。ポケット付き和紙1は、和紙本体である基層2と、この基層2と一体に成形されたポケット層3とからなる。図1において符号3aがポケットを示し、3bはその開口部を示している。
【0012】
ここで、和紙の主だった製造工程を工程順に示すと、次のようになる。「煮熟」→「ちり取り」→「打解」→「抄造(紙漉き)」→「圧搾」→「乾燥」。この発明は、抄造(紙漉き)工程において特殊な操作を施すことにより、図1,2に示したようなポケット付き和紙を得ることができる。
【0013】
図3は抄造工程で用いられるポケット形成用網体の取付け部材を示す斜視図、図4は同取付け部材に網体を装着した状態を示す平面図である。取付け部材10は形成すべきポケットの幅寸法に対応した長さを持つ直方体状の部材であり、後述する線条部材16とともにポケット形成用網体12の保持部材を構成している。取付け部材10の下部には長手方向に沿って溝11が形成されている。この溝11にポケット形成用網体12が着脱自在に嵌め込まれる。
【0014】
取付け部材10の上面に設けられた釘などの突起13は、図5に示すように、ポケット形成用網体12を漉き枠15の内方の所定位置に固定するためのものである。すなわち、突起13にタコ糸やテグスなどの線条部材16の中間部を固定し、線条部材16の両端部を釘などの突起17を介して漉き枠15に固定する。これにより、ポケット形成用網体12が漉き枠15の網体18の上方に定置される。なお、漉き枠15の網体18は、近年はステンレス鋼材で作られる場合が多く、ポケット形成用網体12も同材料で作ることができる。ただし、これに限定はされない。
【0015】
図6は、この発明の特徴とする工程を含む抄造工程を示す断面図である。(a)に示すように、まず、通常の手漉き和紙を漉く場合と同様の手法及び同様の和紙原料(パルプ及び水からなる流動性のもの)により、漉き枠の網体18上に基層2となる和紙を漉く。
【0016】
次に、(b)に示すように、取付け部材10に装着されたポケット形成用網体12を基層2上の所定位置に載置し、取付け部材10を図5に示したように線条部材16で漉き枠15に固定する。なお、ポケット形成用網体12を基層2上に載置する際、取付け部材10の下部を基層2内に押し込む。
【0017】
そして、(c)に示すように、ポケット形成用網体12を含む基層2上に、ポケット層3となる和紙を漉く。ポケット層3のための和紙原料は、基層2に使用した和紙原料と同じものでもよいし、趣向を凝らして異なったものとしてもよい。ポケット層3は、溜め漉きにより基層2上の全体に形成してもよいし、流し漉きにより基層2上の一部に形成してもよい。
【0018】
次に、(d)に示すように、ポケット形成用網体12を残置したまま、取付け部材10を取り外す。なお、和紙原料は乾燥前は塑性状を示すので、(d)のように保持部材10の抜き跡を賦形することが可能である。
【0019】
この後は、通常の手法と同様に基層2及びポケット層3からなる和紙を圧搾し、半乾燥状態でポケット形成用網体12を抜き取る。これにより、図1,2に示したようなポケット付き和紙1が得られる。
【0020】
図7及び図8は別の実施形態を示し、図7は同実施形態に使用するポケット形成用網体の保持部材を示す図、図8は抄造工程を示す断面図である。図7に示すように、ポケット形成用網体12は、端部が折り曲げられて通し孔部20が形成されている。この実施形態では、通し孔部20と、これに通される線条部材16とによりポケット形成用網体12の保持部材が構成される。
【0021】
この実施形態の場合、図8の(a)に示すように、漉き枠の網体18上に基層2となる和紙を漉いた後、(b)に示すように、通し孔部20に線条部材16を通したポケット形成用網体12を基層2上の所定位置に載置し、線条部材16の両端部を漉き枠15に固定する。
【0022】
そして、(c)に示すように、ポケット形成用網体12を含む基層2上に、ポケット層3となる和紙を漉いた後、(d)に示すように、線条部材16を少し引張ることにより、通し孔部20をポケット層3となる和紙層から突出させる。なお、通し孔部20がポケット層3から出たら、ポケット形成用網体12を残置したまま、線条部材16を引き抜く。
【0023】
この後は、通常の手法と同様に基層2及びポケット層3からなる和紙を圧搾し、半乾燥状態でポケット形成用網体12を抜き取る。これにより、図1,2に示したようなポケット付き和紙1が得られる。
【0024】
図9及び図10は別の実施形態を示し、図9は同実施形態に使用するポケット形成用型板を示す斜視図、図8は抄造工程を示す断面図である。ポケット形成用型板21は、アルミニウム等の金属や、プラスチック、木などからなる薄板である。
【0025】
この実施形態の場合、図10の(a)に示すように、漉き枠の網体18上に和紙層22を漉いた後、(b)に示すように、和紙層22にポケット形成用型板21を端部が和紙層22から出るように、斜めに差し込む。この後は、通常の手法と同様に和紙層22を圧搾し、半乾燥状態でポケット形成用型板21を抜き取る。
【0026】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、ポケットは1つのみが示されているが、複数個のポケットを持つ和紙を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の製造方法により得られたポケット付き和紙を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線矢視拡大断面図である。
【図3】ポケット形成用網体の取付け部材を示す斜視図である。
【図4】ポケット形成用網体が装着された取付け部材を示す平面図である。
【図5】ポケット形成用網体が取り付けられた漉き枠を示す平面図である。
【図6】この発明の特徴とする工程を含む抄造工程を示す断面図である。
【図7】ポケット形成用網体の保持部材の別の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図8】同保持部材を使用した別の実施形態(抄造工程)を示す断面図である。
【図9】ポケット形成用型板を示す斜視図である。
【図10】同型板を使用したさらに別の実施形態(抄造工程)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ポケット付き和紙
2 基層
3 ポケット層
3a ポケット
3b 開口部
10 保持部材
11 溝
12 ポケット形成用網体
13 突起
15 漉き枠
16 線条部材
17 突起
18 網体
20 通し孔部
21 ポケット形成用型板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漉き枠に取り付けた網体上に基層となる和紙を漉く工程と、
前記基層が乾燥する前に、該基層上の所定位置にポケット形成用網体を定置する工程と、
前記ポケット形成用網体上を含む前記基層上にポケット層となる和紙を漉く工程と、
前記基層及びポケット層からなる和紙を圧搾し、半乾燥状態で前記ポケット形成用網体を抜き取る工程と
を含むポケット付き和紙の製造方法。
【請求項2】
前記ポケット形成用網体はその端部が保持部材に保持され、この保持部材は前記漉き枠に固定されることを特徴とする請求項1記載のポケット付き和紙の製造方法。
【請求項3】
前記保持部材は、前記ポケット形成用網体の端部が着脱自在に取り付けられる取付け部材と、この取付け部材に中間部が取り付けられ、端部が前記漉き枠に取り付けられる線条部材とからなることを特徴とする請求項2記載のポケット付き和紙の製造方法。
【請求項4】
前記保持部材は、前記ポケット形成用網体の端部に形成された通し孔部と、この通し孔部に中間部が通され、両端部が前記漉き枠に取り付けられる線条部材とからなることを特徴とする請求項2記載のポケット付き和紙の製造方法。
【請求項5】
前記ポケット層となる和紙を漉いた後、圧搾する前に前記ポケット形成用網体を残置したまま前記保持部材を取り外すことを特徴とする請求項2,3又は4記載のポケット付き和紙の製造方法。
【請求項6】
漉き枠に取り付けた網体上に和紙を漉く工程と、
前記漉いた和紙層が乾燥する前に、該和紙層にポケット形成用型板を斜めに差し込む工程と、
前記和紙層を圧搾し、半乾燥状態で前記ポケット形成用型板を抜き取る工程と
を含むポケット付き和紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−57191(P2006−57191A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237957(P2004−237957)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(504314155)
【Fターム(参考)】