説明

ポッド推進器を備えた船舶

【課題】 大舵角の操舵によっても大きな力が推進器自体に加わったり、エロージョン発生による損傷が生じることがなく、通常の操舵も効率的に行うことができるポッド推進器を備えた船舶を提供すること。
【解決手段】 ポッド推進器13とは独立に舵板21を備える操舵装置20を設けるようにし、例えば独立した舵板21をストラット14の後部に設けるようにする。
これにより、ストラット14の後部の舵板21で、ストラット14との相互干渉を利用して大きな舵力を得ることができるようになり、ポッド推進器13による舵角を小さくすることで、エロージョンの発生を抑え、損傷を防止できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポッド(POD)推進器を備えた船舶に関し、高速航行時に大舵角としてもポッド推進器に大きな力が加わったり、エロージョン発生による損傷が生じないようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来のプロペラによる推進機能と、操舵装置による舵機能とを独立させた船舶に代わり、これらの機能を持つポッド(POD)推進器を備えた船舶が開発されつつある。
【0003】
このポッド推進器を備えた船舶では、ストラットを介して船体にポッド推進器が回動可能に取り付けられ、ポッドの後方または前方に備えたプロペラをポッド内に設けたプロペラ駆動機構のモータで駆動することで推進力を得るとともに、ストラットの上端部の船体側に操舵用の旋回駆動機構を設けてポッド推進器ごと回動させることで操舵機能を得るようになっている。
【0004】
このようなポッド推進器の改良について研究開発がなされており、例えば特許文献1には、図3に示すように、船体1の直進性を維持するため常時ポッド推進器2を僅かな角度範囲で操舵した状態にすることを解消するため、整流材を兼ねるストラット3に補助操舵部材としてのフラップ4を設け、この補助操舵部材としてのフラップ4を操作することで船体1の方向維持および操舵力の向上を図るようにしている。
【特許文献1】特開2003−11893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1のように、補助操舵部材としてのフラップ4を設けることで、操舵力は多少向上できるものの、高速航行時の大舵角操舵を必要とする場合などでは、フラップ4だけでは十分な操舵力を得ることができない。
【0006】
このため、ポッド推進器の操舵機能を利用するため回動させる必要があり、特に高速走行時の大舵角操舵によってポッド推進器に大きな力が加わったり、エロージョン発生による損傷が生じるという問題がある。
【0007】
また、試運転時に規則上の最大舵角の35度まで操舵した場合や緊急回避のため大舵角の操舵を行った場合にも、上記と同様にポッド推進器自体に大きな力が作用したり、エロージョンの発生による損傷が生じるという問題がある。
【0008】
この発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので、大舵角の操舵によっても大きな力が推進器自体に加わったり、エロージョン発生による損傷が生じることがなく、通常の操舵も効率的に行うことができるポッド推進器を備えた船舶を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術が有する課題を解決するため、この発明の請求項1記載のポッド推進器を備えた船舶は、ポッド推進器を船体にストラットを介して設けた船舶であって、前記ポッド推進器とは独立して操作可能な舵板を備える操舵装置を設けてなることを特徴とするものである。
【0010】
このポッド推進器を備えた船舶によれば、ポッド推進器とは独立に舵板を備える操舵装置を設けるようにしており、独立した舵板によって大きな舵力を得ることができるようになるとともに、ポッド推進器による舵角を小さくすることで、エロージョンの発生を抑え、損傷を防止できるようにしている。
【0011】
また、この発明のポッド推進器を備えた船舶は、請求項1記載の構成に加え、前記舵板を前記ストラット後部に設けたり、前記ポッド推進器の下部に設けるようにしても良く、さらに、前記舵板を規則上必要な最大舵角で操舵可能に構成したり、前記ポッド推進器は通常35度以下の舵角で操舵する構成としても良い。
【0012】
これらのポッド推進器を備えた船舶によれば、ストラット後部の舵板で、ストラットとの相互干渉を利用して大きな舵力を得ることができるようになり、ポッド推進器の下部の舵板によっても舵力を得ることもでき、さらに、舵板を規則上必要な最大舵角まで操舵できるようにすることで、ポッド推進器の操舵角度を小さくできるようにしたり、ポッド推進器を通常35度以下の操舵角で操舵するようにして操舵による船速低下を抑えたり、エロージョンの発生を抑えるようにしている。
【発明の効果】
【0013】
この発明の請求項1記載のポッド推進器を備えた船舶によれば、ポッド推進器とは独立に舵板を備える操舵装置を設けるようにしたので、独立した舵板によって大きな舵力を得ることができるとともに、ポッド推進器による舵角を小さくすることで、エロージョンの発生を抑え、損傷を防止することができる。
【0014】
また、この発明の請求項2記載のポッド推進器を備えた船舶によれば、ストラット後部の舵板で、ストラットとの相互干渉を利用して大きな舵力を得ることができる。
【0015】
さらに、請求項3の発明によれば、ポッド推進器の下部の舵板によっても大きな舵力を得ることもでき、さらに、請求項4の発明によれば、舵板を規則上必要な最大舵角まで操舵できるようにすることで、ポッド推進器の操舵角度を小さくすることができ、請求項5の発明によれば、通常ポッド推進器を35度以下の操舵角で操舵することができる。
【0016】
そして、これらの発明により、ポッド推進器の操舵角度を小さくすることができ、操舵による船速低下を抑えたり、エロージョンの発生を抑えることができ、しかも操舵系統をポッド推進器と舵板との2系統とすることで、信頼性の向上も図ることができる。
【0017】
さらに、これら各請求項記載の構成を複数組み合わせたポッド推進器を備えた船舶によれば、それぞれの作用効果を組み合わせて発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の一実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、この発明のポッド推進器を備えた船舶の一実施の形態にかかり、(a)はポッド推進器部分の概略構成図、(b)は舵板およびストラット部分の横断面図である。
【0019】
このポッド推進器を備えた船舶10では、船体11の後部などの船体外板12にポッド推進器13がストラット14を介して垂直軸回りに回動可能に取り付けられており、この垂直軸回りの回動によってポッド推進器13自体の向きを変えることができるようになっている。
【0020】
このポッド推進器13は、ポッド13aの前方(または後方)に推進力を発生するプロペラ13bを備え、ポッド13aの内部にプロペラ駆動機構が設けられ、例えばポッド13b内にモータを設置したり、船体に設置したモータの駆動力をポッド13b内に設けた伝達系を介してプロペラ13bに伝達して駆動するようにしてある。
【0021】
また、ポッド推進器13を回動可能に支持するストラット14の船体外板12から下方に突き出す部分は横断面形状が流線形とされ、船体外板12の内側の支柱14aには、操舵装置用デッキ15に設けた操舵機構として例えば油圧操舵ユニット16が連結され、ポッド推進器13の向きを変えて操舵できるようにしてある。
【0022】
このようなポッド推進器を備えた船舶10では、ポッド推進器13による操舵機能に加え、独立した操舵装置20を備えている。
【0023】
この操舵装置20では、舵板21がストラット14の後方に配置されて船体11に支柱22を介して垂直軸回りに回動可能に取り付けられており、ストラット14と互いが衝突するなどの干渉が起こらずに舵板21を回動できるようにしてある。
【0024】
また、このようなストラット14の後方に近接して配置することで、水の流れに対する相互干渉を利用して大きな舵力を発生させることができるようにしてある。
【0025】
この独立した操舵装置20は、規則上必要な操舵機能を備えており、たとえば最大舵角として必要な35度の範囲の舵角で操舵できるようにし、この操舵装置20だけで必要な操舵できる機能を備える意で独立した操舵装置となっている。
【0026】
そして、この操舵装置20の操舵用油圧ユニット23が操舵装置用デッキ15に設置され、ポッド推進器13とは独立して操舵する。
【0027】
なお、ポッド推進器13の操舵機能としては、通常35度以下の操舵角で操舵するようにしてポッド推進器13に大きな力が加わることを防止することから、この範囲の小さな操舵角が取れれば良いが、一般に操船上の必要からポッド推進器13自体を360度回動できるようにする。
【0028】
このように構成したポッド推進器を備えた船舶10では、次のようにして操船される。
【0029】
試運転の操舵試験時や高速航行時あるいは緊急回避のためなどの大舵角操舵時には、ポッド推進器13による操舵は行わず、あるいはわずかな舵角での操舵とし、独立して設けた操舵装置20の舵板21を操舵用油圧ユニット23により必要な操舵角、例えば最大舵角35度などとして十分な舵力を発生させる。
【0030】
また、この舵板21をストラット14の後方に近接して翼型断面の舵板21の先端部が配置してあるので、水の流れに対する相互干渉を利用して大きな舵力を得ることができる。
【0031】
これにより、ポッド推進器13による操舵が行われない、あるいはわずかな舵角の操舵とすることから、ポッド推進器13自体に大きな力が作用することもなく、またエロージョンが発生し損傷が生じることも防止できる。
【0032】
さらに、通常の操舵時においても、ポッド推進器13を大きな舵角で操舵する必要がなくなり、ポッド推進器13を操舵することによる船速低下を極力抑えることができる。
【0033】
また、操舵系統が油圧操舵ユニット16によるポッド推進器13と独立した操舵用油圧ユニット23による操舵装置20との二系統となり、いずれでも操舵することができ、操船上の信頼性を向上することができる。
【0034】
次に、この発明の他の一実施の形態について、図2により説明するが、すでに説明した上記実施の形態と同一部分については、同一記号を記し、重複する説明は省略する。
【0035】
このポッド推進器を備えた船舶10Aでは、ポッド推進器13部分の構成は、すでに説明した船舶10と同一であり、独立して設置する操舵装置30の構成が異なるものである。
【0036】
このポッド推進器を備えた船舶10Aでは、独立して設置する操舵装置30の舵板31がポッド推進器13の下部に配置され、ポッド13aに支柱32を介して垂直軸回りに回動可能に取り付けてある。
【0037】
この独立した操舵装置30も、同様に規則上必要な操舵機能を備えており、たとえば最大舵角として必要な35度の範囲の舵角で操舵でき、この操舵装置30だけで必要な操舵できる機能を備える意で独立した操舵装置となっている。
【0038】
そして、この操舵装置30の操舵用油圧ユニット33がポッド13a内に設置され、操舵用リンク機構34を介して支柱32と連結され、ポッド推進器13とは独立して操舵できるようにしてある。
【0039】
なお、ポッド推進器13の操舵機能としては、すでに説明したように、通常35度以下の操舵角で操舵するようにしてポッド推進器13に大きな力が加わることを防止することから、この範囲の小さな操舵角が取れれば良いが、一般に操船上の必要からポッド推進器13自体を360度回動できるようにする。
【0040】
このように構成したポッド推進器を備えた船舶10Aでは、次のようにして操船される。
【0041】
試運転の操舵試験時や高速航行時あるいは緊急回避のためなどの大舵角操舵時には、ポッド推進器13による操舵は行わず、あるいはわずかな舵角での操舵とし、独立して設けた操舵装置30の舵板31を操舵用油圧ユニット33および操舵用リンク機構34により必要な操舵角、例えば最大舵角35度などとして十分な舵力を発生させる。
【0042】
これにより、ポッド推進器13による操舵が行われない、あるいはわずかな舵角の操舵とすることから、ポッド推進器13自体に大きな力が作用することもなく、またエロージョンが発生し損傷が生じることも防止できる。
【0043】
さらに、通常の操舵時においても、ポッド推進器13を大きく操舵する必要がなくなり、ポッド推進器13を操舵することによる船速低下を極力抑えることができる。
【0044】
また、操舵系統が油圧操舵ユニット16によるポッド推進器13と独立した操舵用油圧ユニット33および操舵用リンク機構34による操舵装置30との二系統となり、いずれでも操舵することができ、操船上の信頼性を向上することができる。
【0045】
以上のようなポッド推進器を備えた船舶10,10Aによれば、ポッド推進器13に大きな力が加わらず、エロージョンの発生を防止して損傷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明のポッド推進器を備えた船舶の一実施の形態にかかり、(a)はポッド推進器部分の概略構成図、(b)は舵板およびストラット部分の横断面図である。
【図2】この発明のポッド推進器を備えた船舶の他の一実施の形態にかかるポッド推進器部分の概略構成図である。
【図3】従来のポッド推進器部分の概略構成図および舵板とストラット部分の横断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10,10A ポッド推進器を備えた船舶
11 船体
12 船体外板
13 ポッド推進器
13a ポッド
13b プロペラ
14 ストラット
14a 支柱
15 操舵装置用デッキ
16 油圧操舵ユニット
20、30 独立した操舵装置
21、31 舵板
22、32 支柱
23、33 操舵用油圧ユニット
34 操舵用リンク機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポッド推進器を船体にストラットを介して設けた船舶であって、
前記ポッド推進器とは独立して操作可能な舵板を備える操舵装置を設けてなることを特徴とするポッド推進器を備えた船舶。
【請求項2】
前記舵板を前記ストラット後部に設けたことを特徴とする請求項1記載のポッド推進器を備えた船舶。
【請求項3】
前記舵板を前記ポッド推進器の下部に設けたことを特徴とする請求項1記載のポッド推進器を備えた船舶。
【請求項4】
前記舵板を規則上必要な最大舵角で操舵可能に構成してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポッド推進器を備えた船舶。
【請求項5】
前記ポッド推進器は通常35度以下の舵角で操舵する構成としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポッド推進器を備えた船舶。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−103490(P2006−103490A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292393(P2004−292393)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)