説明

ポリアミドの固相重合方法

【課題】ポリアミドの固相重合工程において、外部からの熱輻射、熱伝導で所定の温度まで昇温させる方法では、固相重合装置内部に熱ムラが生じ、固相重縮合の反応度合が不均一なることや、反応時間が長いため、低分子量成分が多く発生し、この低分子量成分が、固相重合装置壁面に付着することで、さらに熱伝導が低下する問題がある。また、この低分子量成分は、得られた高分子量ポリアミドの性能低下を招き、ボトル、繊維、フィルムなどの生産性を低下させる。極めて均一性の高い、高分子量ポリアミドを効率的に得る固相重合方法を提供する。
【解決手段】ポリアミドの固相重縮合工程において、マイクロ波をポリアミドに直接照射して行うことにより課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高品質の高分子量ポリアミドを短時間で重合可能な固相重合方法に関するものである。さらに、ポリアミド粉砕物もしくは、加熱により生ずる低分子量成分が重合装置の壁面に融着および固着するのを防止するポリアミドの固相重合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素を含まないガスバリヤー性樹脂としては、ナイロン6やポリメタキシリレンアジパミド(以下、N−MXD6と略することがある)といったポリアミド樹脂やエチレンビニル共重合体(以下EVOHと略することがある)が知られており、なかでもポリメタキシリレンアジパミドは酸素バリヤー性、特に高湿度環境下やボイルやレトルト処理といった加熱殺菌処理後の酸素バリヤー性に優れ、且つ高い機械的性能を有しているので、食品包装用材料として好適であり、ポリエチレンテレフタレートとメタキシリレンアジパミドとの多層ボトルやブレンドボトルとしてや、延伸フィルム、ポリオレフィンといったベースフィルムと積層したものや、ナイロン6といった他材と混合して利用されている。
【0003】
一般に、成形材料用途に用いられるポリアミドは射出成形等により成形され、溶融時の流動性が高いことが求められ、いわゆる低粘度品が用いられる。一方、ボトル、シート、フィルム、繊維等の用途に用いられるポリアミドは、射出成形の他に押し出し成形によっても成形される。押し出し成形においては、溶融時の流動性は射出成形材の場合より低いことが求められ、主に中、高粘度品が用いられる。
【0004】
主に射出成形材料用途に用いられる低粘度ポリアミドとしては、溶融状態で重縮合して得られたポリアミドがそのまま用いられるか、又は更に乾燥したものが用いられる。しかし、ボトル、シート、フィルム、繊維等の用途に主に用いられる中、高粘度ポリアミドを、溶融状態における重縮合で得ようとするとき、一般的な攪拌装置では重合槽内の溶融状態を均一に保つための充分な攪拌動力が得られず、特殊な重合装置が必要となる。また、低粘度から中、高粘度に到達するまで重縮合反応を続けると、溶融状態を維持する時間(反応時間)が長くなり、ポリアミド分子が損傷(ラジカルの発生などによるポリマー分子の劣化)を受けたり、非直鎖の分子成長等の異常反応(三次元ポリマー化)が起こり、ゲル又はフィッシュアイの生成が多くなり、実用上不都合を生ずる。ゲル又はフィッシュアイを多量に含むポリアミドがボトル、シート、フィルム、繊維等の用途に用いられたとき、欠陥の発生率が極めて高くなり生産性の低下を招く。成形加工時にゲル又はフィッシュアイを除去するフィルターを設置したとしても、完全な除去は難しく、またフィルター交換頻度が増加し連続生産時間が短くなるため、ポリアミド中のゲル又はフィッシュアイは出来る限り少ないことが望ましい。
【0005】
ゲル又はフィッシュアイの少ない中、高粘度ポリアミドを得るには、一旦溶融状態で重縮合して低粘度ポリアミドを得た後、固相状態で加熱処理するいわゆる固相重合を行うことが知られている。溶融状態と固相状態の重縮合でゲル又はフィッシュアイの生成量に差が現れるのは、反応温度差に起因するポリアミド分子の損傷、あるいは異常反応の発生頻度の差と考えられる。固相重合により得られた中、高粘度ポリアミドは、溶融重合単独で得られた中、高粘度ポリアミドと比較して、ゲル又はフィッシュアイが低減できる。しかし、ボトル、シート、フィルム、繊維等の用途では、わずかなゲル又はフィッシュアイも生産性に著しく影響を与えることから、更に低減することができる改良された固相重合方法が望まれている。
【0006】
ゲル又はフィッシュアイはポリアミドを製造する際に生成する以外に、当然成形品に成形加工する際の溶融時においても生成する。ポリアミド製造後にゲル又はフィッシュアイの生成量に顕著な差が無なかったとしても、成形加工した際に差が現れる場合がある。この原因の一つとして、製造後には観測されない様な僅かなポリアミド分子の損傷の差、あるいは異常反応の発生頻度の差が成形加工の際に、フィルターあるいはダイ等の滞留部分で増幅されたためと推定される。つまり、ゲル又はフィッシュアイの少ない成形加工品を得るには、滞留部分の極めて少ない成形加工装置の設計が必要であると同時に、溶融重合および固相重合において分子レベルでの損傷および異常反応のない高品位なポリアミドの製造も不可欠である。
【0007】
ところで、結晶化度が13%以下であるポリメタキシリレンアジパミドのような非晶状態にある結晶性ポリアミドを、ガラス転移温度を越えて更に加熱するとき、非晶状態は結晶状態へ転移する。非晶状態ではガラス転移温度付近から粘着性が急激に発現
し、結晶化するまでこの粘着現象が見られる。固相重合は、当然ポリアミドより高温の熱媒からの伝熱により実施されるが、このとき加熱装置内壁の伝熱面においてポリアミドの移動が損なわれ滞留すると、加熱装置の壁面への融着が生じる。あるいは、ポリアミドの塊状化のような、粒子相互間で融着する現象が認められる。融着したポリアミドが崩れることなく、そのまま結晶化すると固着という不都合が生じる。結晶化後も固着塊が崩れることなくそのまま固相重合処理がなされると、均質な重合度を有する固相重合体が得られないばかりか、局所加熱によりポリアミド分子の損傷および異常反応を招きゲル又はフィッシュアイの生成が誘発される。
【0008】
このような不都合をさけるため、ポリアミドを固相重合するため、一般に次の様な方法が実施されている。
(イ)回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス中もしくは減圧下で穏やかに加熱し、融着を回避しつつ結晶化させた後、更に加熱し固相重合を同一装置で行うバッチ方式。(特許文献1)
(ロ)溝型攪拌加熱装置を用いて、不活性ガス流通下で加熱し、結晶化させた後(予備結晶化処理)、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス流通下で固相重合する連続方式。
(ハ)溝型攪拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて固相重合を行う半連続方式。
【0009】
従来行なわれているこれらの方法では、低分子量ポリアミドを所定の温度まで昇温する手段として、外部からの熱輻射、熱伝導で所定の温度まで昇温させるため、固相重合装置内部に熱ムラが生じ、固相重縮合の反応度合が不均一になることや、反応時間が長いため、低分子量成分が多く発生し、この低分子量成分が、固相重合装置壁面に付着することで、さらに固相重合中のポリアミドへの熱伝導が低下する、装置内壁に付着した膜は熱を常に受けることから皮膜が製品ペレットに混入することによりゲル又はフィッシュアイを増加させるという問題がある。
【0010】
また、反応時間が長いと、十分な窒素雰囲気下でも、ナイロンペレットの酸化により、黄色度が増すため、フィルムやPETボトルのガスバリヤー材として用いる場合には、外観上の問題が発生する。
【0011】
近年、ポリエステルやポリアミドなどの重縮合系ポリマーの溶融重合及び固相重合行程において、2.45GHzのマイクロ波を照射して、短時間で、分子量を上げる方法が知られている(特許文献2、3、4)。マイクロ波は、誘電体であるポリエステル及びポリアミドの粉砕物並びに粉砕物内部の水に直接作用して、誘電緩和に基づく、発熱により、内部の水分除去並びに、ポリエステル及びポリアミドの粉砕物の温度を上昇させる。
【0012】
しかしながら、マイクロ波が、ポリエステル及びポリアミドの粉砕物へ作用すると、速い速度で温度上昇が行われるため、連続して同一粉砕物へマイクロ波が照射すると、粉砕物同士の融着、粉砕物の溶融や、粉砕物のコゲ等が発生するため、粉砕物を均質に攪拌し続ける必要があるが、前記特許文献では、これを十二分に考慮していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平08−073587号公報
【特許文献2】特開2006−225591号公報
【特許文献3】特開2006−104305号公報
【特許文献4】特開2007−2087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ポリアミドの固相重合行程において、短時間で極めて均一性の高い、高分子量ポリアミドを効率的に得る固相重合方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミドの固相重縮合工程において、十二分に均一攪拌されたポリアミド粉砕物にマイクロ波を照射して行うことにより課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
即ち本発明は、攪拌型固相重合装置内でマイクロ波をポリアミド樹脂ペレットに照射することを特徴とするポリアミドの固相重合方法に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固相重合方法によれば、短時間でかつ高品質の高分子量ポリアミドを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、主として、溶融重合ポリアミドを更に固相重合して重合度(分子量)を上げる方法に関する。固相重合ポリアミドの重合度を更に上げるために本発明を用いてもよい。
【0019】
本発明で用いるポリアミドは、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分から形成されたポリアミド(以下、「ポリアミドX」と称す場合がある)である。キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンが例示されるが、メタキシリレンジアミンが好ましい。ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが例示される。キシリレンジアミンとビス(アミノメチル)シクロヘキサンは合計で70モル%以上となる範囲で併用してもよい。
【0020】
本発明において、キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとして、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明において、使用される炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示できるが、これら中でもアジピン酸が好ましい。本発明では、30モル%を超えない範囲で上記以外のジカルボン酸、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を使用することができる。
【0022】
上記以外のポリアミド形成化合物としては、特に限定されないが、カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸を挙げることが出来る。
【0023】
本発明で用いるポリアミドXは分子間水素結合を有する他の結晶性ポリマーと同様、その非晶部分に水が取り込まれるとガラス転移温度が低下し、それにともない結晶化開始温度が低下し結晶化速度が速くなる。水分を含まなくても極端に結晶化速度の速いポリマー(ナイロン6、ナイロン66等)、結晶化速度が水分の影響を受け難いポリマー、吸水率が低いポリマー(ポリエステル)、あるいは水分を含まなくてもガラス転移温度と結晶化温度が近接したポリマーでは、これら水分の影響が大きすぎるかあるいは小さ過ぎるため、水分濃度の調整による効果はほとんど認められない。しかし、ポリアミドXが水分濃度の調整により受ける影響は、ナイロン6より穏やかでありポリエチレンテレフタレートよりは大きく、本発明の効果が顕著に現れる。つまり、結晶化度が13%以下のポリアミドXを特定の水分濃度に調整すると、加熱による粘着性の発現する温度域が低下すると共に粘着性の現れている時間が短縮する。そのため、融着が抑えられ、その結果固着が生じない。
【0024】
ポリアミドXはDSC測定(示差走査熱量測定)において融解に起因する明瞭な吸熱ピークが確認される結晶性ポリアミドであり、固相重合後の結晶化度は20%以上に達する。溶融状態で重縮合して得られるポリアミドXの結晶化度は13%以下であるのが好ましい。ポリアミドは重合後、水冷槽によって造粒されるのが一般的であり、そのときの結晶化度は13%以下である。なお、本発明において、結晶化度は、DSC測定における結晶融解熱量より求めることができる。
【0025】
本発明で用いるポリアミドXの相対粘度は1.83以上、2.28以下が好ましく、更に好ましくは1.87以上、2.24以下である。相対粘度を1.83以上とすることにより溶融状態に於ける適当な粘度を維持でき、重合槽から取り出される際のストランドの形成が容易になり、作業性を良好に保つことができる。一方、相対粘度を2.28以下とすることにより、重合槽内の溶融状態を均一に保つことができ、均一な重合度を有するポリアミドを得ることが可能となる。更に溶融状態の熱履歴の増加に伴い、ポリアミド分子が損傷を受けるのを防止でき、非直鎖の分子成長等の異常反応を抑制できる。
【0026】
ポリアミドXの末端基バランス、つまり、末端カルボキシル基濃度と末端アミノ基濃度のバランスは、末端カルボキシル基濃度が末端アミノ基濃度より高く、その差が8μeq/g以上、82μeq/g以下であるのが好ましい。該差が零のとき、アミド基生成速度は最も速くなるので、溶融状態および固相状態での重合時間が最も短くポリアミド分子の損傷は最低限に抑えられると一般に予想される。しかし、検討の結果、本発明に使用するポリアミドXでは、該差が8μeq/g未満のとき、言い替えれば本発明で規定する濃度よりも末端アミノ基濃度が過剰になると、固相重合において、通常のアミド基生成反応以外の反応に起因すると考えられる粘度増加が観測された。これは、非直鎖の分子成長によるものと推定され、ゲル又はフィッシュアイの主たる原因になる。また、該差を82μeq/g以下とすることにより、アミド基生成速度を実用的な速度に維持でき、溶融状態および固相状態での重合時間が相当に長くなるのを防止でき、ポリアミド分子が損傷を受けるのを防止でき、ゲル又はフィッシュアイの発生を低減化することが可能となる。すなわち、ゲル又はフィッシュアイの少ないポリアミドXを得るためには、上記のようなこれまで開示されていない最適な末端基バランスの範囲が存在することを見出されている。
【0027】
上記の特性を有するポリアミドXは少なくとも一の工程が溶融状態で進行する重縮合方法により製造される。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で直接重縮合させる方法、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法等により製造される。重合条件は特に限定されず、ポリマー製造分野において通常知られている知識に基づいて、原料化合物の仕込み比、重合触媒、重合温度、重合時間を適宜選択することにより、上記の特性、特に相対粘度及び末端基バランスを有するポリアミドXを製造することができる。
【0028】
水分濃度は、固着防止を目的とすれば、ポリアミドXの0.2質量%以上が好ましく、固着防止のみならず融着防止をも目的とすれば、0.3質量%以上が好ましい。結晶化後の乾燥工程と固相重合工程における脱水操作を考えれば、0.3〜5質量%が好ましい。
【0029】
水分濃度の調整方法としては、ポリアミドXの吸水性を利用して予めポリアミドX粒子に吸湿あるいは吸水させて目的とする水分濃度となるよう調整した後、重合装置に供給する方法が挙げられる。また、加熱装置にポリアミドX粒子とともに氷、水あるいはスチームを仕込んで水分濃度を調整する方法等が挙げられる。このときポリアミドに吸収されない過剰の水分が重合装置内に存在してもかまわない。本発明はこれらの水分濃度の調整方法に限定されるものではない。
【0030】
水分濃度を調整した後、ポリアミドXを固相重合する。本発明では、固相重合は2段階の工程で実施されることが好ましい。
【0031】
第一の工程はポリアミドXの結晶化度が少なくとも15%以上に到達するまでの前処理工程である。第一工程では、水分により結晶化を促進すると共に融着を抑える。従って、重合装置内部の水分が装置外部に容易に散逸するのを防ぐために、減圧操作は避けるべきである。また、この温度域での熱伝導を有利にして、短時間で固相重合温度に到達させるためにも減圧状態は好ましくない。重合装置の内部は常圧であっても加圧であってもかまわないが、水分濃度を調整するために加えた水分が装置外に容易に散逸しないような構造であれば、特に加圧は必要としない。また、重合装置伝熱面の熱媒温度は融着を避けるために抑える必要はなく、目標とする最高の熱媒温度に等しく設定可能である。
【0032】
上記したように、第一工程では減圧にしないため、ポリアミドXと酸素との接触が避けられず、酸素による劣化が生じやすい。これを避けるために、加熱装置内部の雰囲気の酸素濃度を低く保つ必要がある。従って、重合装置内部の酸素濃度は5容量%以下が好ましい。更に好ましくは1容量%以下であり、0.1容量%以下が特に好ましい。同様の理由から、ポリアミドXのペレット温度は60℃以上160℃以下に保たれる。
【0033】
第二の工程は、第一工程により結晶化度が少なくとも15%に到達した後、ポリアミドXの乾燥と固相重合を行う工程である。第二工程では、ポリアミドXの付着水分と重縮合により生成した縮合水を積極的に取り除き、更に酸素による劣化を避けるため、重合装置内部は減圧状態に保たれる。このときの圧力は500Torr以下が好ましく、更に好ましくは100Torr以下であり、30Torr以下が特に好ましい。また融着を避けるため、ポリアミドXの温度は融点より15℃以上低い温度が好ましく、更に好ましくは210℃以下である。
【0034】
上記いずれの工程でも、ポリアミドXを加熱する際の重合装置伝熱面の最高温度は120℃以上230℃以下が好ましい。なお、ポリアミドXの共重合体の場合は、その融点に合わせて最高温度を調節する。当該120℃以上とすることにより全工程の所要時間が相当に長くなるのを防止でき、当該230℃以下とすることによりポリアミドXの融点に近くなるのを回避でき、装置内壁にポリアミドX粒子の融着が生ずるのを防止できる。
【0035】
第二工程の反応時間には特に制限はないが、上述の方法によって得られるポリアミドX固相重合体の末端カルボキシル基濃度と末端アミノ基濃度のバランスは、末端カルボキシル基濃度が末端アミノ基より高く、その差は8μeq/g以上、82μeq/g以下であるのが望ましい。その理由は上記したと同様である。更に、本発明のポリアミド固相重合体の相対粘度が2.30以上、4.20以下になるのに十分な反応時間であるのが好ましい。当該4.20を相当越えると、末端基バランスが上記の範囲内であっても、固相状態での重合時間が長くなるので、当該4.20以下とすることにより、固相状態での重合時間を実用的な範囲とすることができ、かつポリアミド分子の損傷を少なくでき、通常のアミド基生成反応以外の反応を抑制できる。
【0036】
本発明の固相重合で用いられる重合装置としては、バッチ式もしくは連続式の重合装置により、気密性に優れポリアミドXと酸素との接触を高度に絶つことができる回分式重合装置が好ましい。タンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型及び円筒型の重合装置が好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。特に、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合重合装置が、マイクロ波を照射するには、好適であり、太平洋機工株式会社製のプロシェアミキサーやさらに混合性に優れるアペックスグラニュエーターなどが良い。
【0037】
回分式重合装置の運転条件、つまり装置内のポリアミド樹脂ペレットの移動速度は、ポリアミド樹脂ペレットが均一に加熱される範囲で任意に選択され、融着防止を目的として特に速い移動速度を与える必要はない。ポリアミド樹脂ペレットの移動速度は充填率および撹拌速度に依存するため、ポリアミド樹脂ペレットが均一な加熱を受けるためには、充填率が高くなれば撹拌速度を速くする必要があり、充填率が低くなれば撹拌速度を遅くできる。例えば、回転ドラムの場合、充填率が40%未満のときには0.5rpm〜30rpmの回転数が好ましく、充填量が40%以上のときには2rpm〜60rpmが好ましい。しかし、前述したように、ポリアミド樹脂ペレットが均一に加熱される運転条件であれば特にこの条件に限定されるものではない。特に、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合重合装置の場合、分散混合性に優れるため、充填率は、40%以上90%以下でも良く、混合羽根の周速度は、0.1m/s〜10m/sが好ましく、特に、ポリアミド樹脂ペレットに損傷を与えないようにするには、5m/s以下が最適である。
【0038】
本発明で照射するマイクロ波は、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置によって発生させることができ、周波数が、0.3GHzから30GHzの電磁波をいう。市販の電子レンジなどで使用している2.45GHzが入手できる。固相重合装置は、マイクロ波を吸収したり、反射しない材料が好ましい。また、マイクロ波は、人体へ悪影響を及ぼすため、マイクロ波の漏洩がないようにする必要がある。
【0039】
本発明で照射するマイクロ波は、装置内のポリアミド樹脂ペレットの昇温速度に合わせて、照射量の調節を行うのが好ましく、連続照射でも、断続照射でも構わない。また、固相重合行程の全行程で、マイクロ波のみを利用しなくてもよく、熱媒との併用や、重合前半は、マイクロ波を利用し、重合後半は、熱媒のみといった利用方法でも良い。なお、熱媒と併用することで、重合装置の結露を防げるので、熱媒も併用するのが好ましい。さらに、マイクロ波の照射は、重合装置内の一か所からだけでなく、重合装置の容量や効率を鑑みて、数か所から照射しても構わない。
【実施例】
【0040】
以下に実施例、および比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお本発明における評価のための測定は以下の方法によった。
(イ)相対粘度
ペレット1gを精秤し、96%硫酸100ccに20〜30℃で攪拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液
5ccを取り、25℃±0.03℃の恒温槽中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下時間(t0 )も同様に測定した。tおよびt0 の測定値から式(D)により相対粘度を求めた。
式(D) 相対粘度=t/t0
(ロ)水分濃度(ppm)
ペレット1gを、平沼産業株式会社製、平沼微量水分滴定装置(AQ−2000)を用い、融点温度で30分の気化条件で水分量を定量し、水分濃度を求めた。
(ハ)フィルムのフィッシュアイ数
ペレットを単軸押出機(プラスチック工学研究所製PTM−25)から260℃で溶融押出して、Tダイ−冷却ロール法により50μm厚みの単層無延伸フィルムを作製し、このフィルムのフィッシュアイ数を、インライン式のフィッシュアイ検査機で測定した。フィッシュアイ検査機は、美鈴エリー製GX70Wを用いた。
【0041】
製造例1
[溶融重合ポリアミド(ポリアミド1)の調製]
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、アジピン酸を投入し、十分窒素置換した後、さらに窒素気流下で170℃まで昇温してアジピン酸を溶融状態とした後、メタキシリレンジアミンを撹拌下に滴下した。この間、内温を連続的に245℃まで昇温させ、またメタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を連続的に255℃まで昇温し、15分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600mmHgまで10分間で連続的に減圧し、その後、40分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.2MPaの圧力を掛けポリマーを反応缶下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後に切断し、ペレット形状のポリマーを得た(ポリアミド1)。得られたポリアミド1の相対粘度は2.1、融点は237℃であった。
【0042】
実施例1
[ポリアミド1の固相重合]
ポリアミド1 20kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製50L容量の回転ドラム式の重合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1Torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を180℃まで昇温した。系内温度が180℃に達した時点から、同温度にて固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出した(ポリアミド2)。全反応時間は145分であった。得られたポリアミド2は、ペレット同士の溶着やコゲ等もなく、相対粘度は2.65、融点は237℃、ガラス転移点85℃であり、水分濃度は205ppm、フィルムのフィッシュアイ数は200であった。
【0043】
比較例1
[ポリアミド1の固相重合]
ポリアミド1 20kgをステンレス製50L容量の回転ドラム式の重合加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1Torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を180℃まで昇温した。系内温度が180℃に達した時点から、同温度にて固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出した(ポリアミド3)。全反応時間は300分であった。得られたポリアミド3の相対粘度は2.62、融点は237℃、ガラス転移点は85℃であり、水分濃度は432ppm、フィルムのフィッシュアイ数は600であった。
【0044】
実施例2
[ポリアミド1の固相重合]
ポリアミド1 20kgを2.45GHzのマイクロ波照射装置とその導波管からなり、熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合重合装置に仕込み、3KWでマイクロ波を連続的に照射させながら、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1Torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を180℃まで昇温した。系内温度が180℃に達した時点から、同温度にて固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出した(ポリアミド4)。全反応時間は140分であった。得られたポリアミド4は、ペレット同士の溶着やコゲ等もなく、相対粘度は2.70、融点は237℃、ガラス転移点は85℃であり、水分濃度は205ppm、フィルムのフィッシュアイ数は200であった。
【0045】
比較例2
[ポリアミド1の固相重合]
ポリアミド1 20kgを、高温熱媒も流せるステンレス製の円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる50L容量の分散型混合重合装置に仕込み、0.5m/sで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1Torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を40分間で180℃まで昇温した。系内温度が180℃に達した時点から、同温度にて180分間、固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出した(ポリアミド5)。全反応時間は300分であった。得られたポリアミド5は、相対粘度は2.62、融点は237℃、ガラス転移点は85℃であり、水分濃度は700ppm、フィルムのフィッシュアイ数は650であった。
【0046】
比較例3
[ポリアミド1の固相重合]
攪拌羽根を停止し、攪拌しない以外は実施例2と同様に実施した。内温が110℃まで上昇した際、マイクロ波の局所照射により、ポリアミド樹脂ペレットの温度が部分的に融点を超え溶融してしまった。
【0047】
本発明に関わる固相重合では、従来の固相重合と比較して、短時間でかつ高品質の高分子量ポリアミドを効率的に、ポリアミド同士の融着や、コゲ等の発生もなく得ることができる。短時間の熱処理時間で所定の高分子量ポリアミドを得ることが可能であることから、低分子量成分の発生も極めて少なく、食品包装などのフィルム生産時のフィッシュアイ数などの発生も抑えられ、生産性が大幅に向上でき、その効果は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌型固相重合装置内でマイクロ波をポリアミド樹脂ペレットに照射することを特徴とするポリアミドの固相重合方法。
【請求項2】
前記ポリアミドが、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分から形成されるポリアミドである請求項1に記載の固相重合方法。
【請求項3】
攪拌型固相重合装置の熱源として、マイクロ波と熱媒を併用する請求項1又は2に記載の固相重合方法。
【請求項4】
前記攪拌型固相重合装置が、回分式である請求項1から3のいずれかに記載の固相重合方法。
【請求項5】
前記攪拌型固相重合装置が、円筒状容器と回転軸に取り付けられている混合羽根からなる分散型混合重合装置である請求項1から4のいずれかに記載の固相重合方法。

【公開番号】特開2010−215682(P2010−215682A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60548(P2009−60548)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】