説明

ポリアミドチューブを使用した試料調製装置および方法

【課題】非水性液に汚染物質を溶解または浸出させない固相抽出チューブを提供する。
【解決手段】中空のポリアミドチューブと、このチューブ内に収容された抽出媒体とを有するポリアミド試料調製チューブが、試料調製装置において使用される。試料調製チューブは、実質的に不活性であり、非水性液体中に汚染物質を溶解または浸出させにくい。ポリアミドチューブは、GC、GC/MS、LCまたはLC/MSなどの分析手続き用の試料の調製に使用されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として、試料を調製するための装置および方法に関し、より詳しくは、試料調製におけるポリアミドチューブおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2007年5月8日に出願された仮出願第60/928,235号の優先権を主張する。
試料調製は、多くの分析処理における本質的な段階である。調製手順は、例えば、とりわけ、試料中に存在する望ましくない成分の除去、分析対象物(検体)が溶けている一溶媒を別の溶媒に交換すること、または分析対象物の濃縮を含んでいてもよい。個相抽出(「SPE」)は、試料の抽出、濃縮および浄化に使用されてもよいそのような試料調製手続きの1つである。一般的なSPE装置は、SPEチューブ内の多孔性フィルタディスクの間に入れられた吸着剤の充填層を使用している。
【0003】
非水性液体がSPE処理で使用される際、チューブは非水性液体中に汚染物質を溶解または浸出させない材料で形成されているのが、一般に望ましい。従来は超清浄ポリプロピレンが使用されてきたが、本願発明者は本明細書において、非水性液体を使用した際に、ポリプロピレンSPEチューブから、および高密度ポリプロピレンSPEチューブからも、汚染物質が溶解または浸出することを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0216206号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゆえに、実質的に不活性で、非水性液体中に汚染物質を溶解または浸出させないSPEチューブが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本願発明者は、従来のポリプロピレンチューブに比べて、非水性液体に対して実質的に不活性の新規な試料調製チューブを考案することに成功した。新規な試料調製チューブは、チューブを化学的に不活性にするポリアミド、それも特にナイロンにより形成されている。
このように、実施態様の一例では、試料調製装置が提供される。この装置は、中空のポリアミドチューブ、特にナイロンチューブと、チューブ内に保持された抽出媒体とを含んでいる。ポリアミドチューブは、入口および出口の両方を有しており、さまざまな実施態様において、抽出媒体は、入口側溶融ガラスフィルタと出口側溶融ガラスフィルタとの間に収容されていてもよい。入口側溶融ガラスフィルタおよび出口側溶融ガラスフィルタも、このチューブ内に収容されている。くわえて、このチューブはさらに、入口側溶融ガラスフィルタとチューブ入口との間に、ポリアミドスクリーンを収容していてもよい。
【0007】
実施態様の別の例では、上述したような試料調製用の装置を作製する方法が提供される。この方法は、中空のポリアミドチューブ、特にナイロンチューブを設け、このチューブ内に抽出媒体を配置することを含む。ある実施態様では、抽出媒体は、同様にこのチューブ内に保持された入口側および出口側溶融ガラスフィルタの間に配置される。くわえて、ポリアミドスクリーンが、入口側溶融ガラスフィルタとチューブ入口との間に配置されていてもよい。
【0008】
実施態様の別の例は、上述した装置を使用して試料を調製するための方法を提供する。この方法は、(a)抽出媒体を収容する中空のポリアミドチューブ、特にナイロンチューブを設けるステップと、(b)抽出媒体を調整するステップと、(c)調整した抽出媒体を介して、試料不純物を維持するように試料を誘導するステップと、(d)抽出媒体から発生する調整された試料を回収するステップとを含んでいてもよい。
【0009】
実施態様のさらなる例では、試料調製装置を使用して分析されることになる試料を調製するための方法が提供される。この方法は、(a)抽出媒体を収容する中空のポリアミドチューブ、特にナイロンチューブを設けるステップと、(b)抽出媒体を調整するステップと、(c)分析されることになる試料中に存在する1種以上の検体を、調整された抽出媒体に吸着させるステップと、(d)1種以上の吸着された検体を、抽出媒体から溶出させるステップとを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ポリアミン試料調製装置の一実施態様を示す。
【図2】図1のポリアミン試料調製装置用の96個のウェルプレートフォーマット(構成)を示す。
【図3】ポリプロピレンSPEチューブを通過したジクロロメタンのGC/FIDクロマトグラムを示す。
【図4】高密度ポリエチレンSPEチューブを通過したジクロロメタンのGC/FIDクロマトグラムを示す。
【図5】テフロン(登録商標)SPEチューブを通過したジクロロメタンのGC/FIDクロマトグラムを示す。
【図6】本発明の実施態様にかかるポリアミドSPEチューブを通過したジクロロメタンのGC/FIDクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の他の装置、システム、方法、特徴および利点は、上記の図面および以下の詳細な説明を検討することにより、当業者に明らかにされるであろう。このような追加のシステム、方法、特徴および利点はすべて、この説明に含まれ、本発明の範囲とされ、かつ、添付の特許請求の範囲により保護されることを意図している。
上記の図面を参照することにより、本発明をよりよく理解できるであろう。図中の構成要素は必ずしも等尺(縮尺率が同じ)ではなく、むしろ、本発明の原理を説明するにあたって強調されている。
【0012】
本発明は、ポリアミド試料調製チューブに向けられている。このチューブは、従来のポリプロピレンチューブに比べて、実質的に不活性である。この新規なチューブの化学的不活性特性は、そのポリアミド組成に起因している。ポリアミドまたはナイロンは従来、試料調製チューブ、特にSPEチューブの作製用としては考慮されてこなかった。これは、従来のポリプロピレンチューブが、行われる手続き用に十分清浄であると一般に考えられてきたためである。しかし、より清浄な抽出物を必要とする新しい試験が導入されてきている。テフロン(登録商標)および他のフッ素化ポリマーで形成されたチューブが検討されてきたものの、ナイロンは、より新しい試験用に十分な不活性水準を有するSPEチューブを作製することができる材料とは考えられてこなかった。
【0013】
本明細書で使用するポリアミドという用語は、ペプチド結合で結ばれたポリマー、特にナイロンポリマーを指すことを意図している。本発明のナイロンポリマーは、ジアミンとジカルボン酸ポリマーとの反応により形成されたものなどのような熱可塑性物質である。例えば、ナイロン6/6は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との反応により形成することができる。他のナイロンポリマーは、当該技術で公知の異なる調製方法により、調整することができる。例えば、ホモポリマーナイロン6は、カプロラクタムの開環重合により、または、アミノカプロン酸を重合させることにより、形成することができる。さまざまなナイロンポリマーのいずれであっても、抽出媒体を保持するため、取り付けのため、および抽出順で使用するために適した中空のチューブに形成できる限り、本発明の試料調製チューブ用に使用することができる。非限定的な例として、本発明で使用することのできるナイロン類のいくつかには、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン12/12、ナイロン4/6、ナイロン6、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン6/6およびナイロン6/9が含まれる。上記のナイロンを組み合わせて使用することも可能である。
【0014】
このように、さまざまな実施態様において、本発明のポリアミドは合成ポリアミドであってもよい。さまざまな実施態様において、このポリアミドはナイロンであってもよい。さまざまな実施態様において、このポリアミドは、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。さまざまな実施態様において、このポリアミドは、ポリアミドの混合物、または1種以上のポリアミドと1種以上の他のポリマーとの組み合わせであってもよい。
【0015】
ポリアミドチューブは、例えば射出成型処理により形成されてもよい。通常、ナイロン6/6ポリマーが、まず乾燥されて、含水率が0.2%未満とされる。次いで、ポリマーは、約500oF〜約600oFの温度下で融解されて、比較的冷えた金型内に、例えば約10,000〜約18,000psiの高圧下で射出される。次いで、ポリマーを、加圧下で固化し、ナイロンチューブを取り出してもよい。
【0016】
ポリプロピレン用に設計された射出成型用の型を、ナイロンSPEチューブを形成するために適用するのは容易でない。入口(ゲート)はランナ(溝)に沿って小さい側にあり、これらがプレス器(押型機)から空洞(キャビティ)へと材料を供給する。ナイロンは剛性であるため、空洞からランナを引き抜く引き抜きピン(プラーピン)は、ポリプロピレンの射出成型に必要とされるよりも、より多くアンダーカットされていることが必要である。この方法の一変形例では、チューブのノズル端の出っ張りを除去するために、コアピンの逃げ(角度)がより大きくされている。
【0017】
「試料調製チューブ」、「試料調製装置」および「試料調製カラム」という用語は、本明細書において、本発明に言及して交換可能に使用されることを意図している。
試料調製装置は、中空のポリアミドチューブ内に抽出媒体を含んでいる。この抽出媒体は、無極性の、混合モードのまたはイオン交換の吸着剤であってもよい。単なる非限定的な例として、無極性の吸着剤は、オクタデシル官能化シリカなどの官能化シリカ系吸着剤、または、スチレンジビニルベンゼンポリマーなどの樹脂系吸着剤を含んでいてもよい。混合モードの吸着剤は、スルホン酸および第四(第四級)アミンなどの結合官能基を有するシリカ系吸着剤を含んでいてもよい。イオン交換の吸着剤は、アミノプロピル基などのアニオン交換体またはカルボキシル酸基もしくはプロピルスルホン酸基などのカチオン交換体を有するシリカ系吸着剤を含んでいてもよい。このように、広範な吸着剤を本発明の試料調製チューブに使用してもよく、使用できる吸着剤の範囲は、いずれかの特定の吸着剤または吸着剤のクラスに限定されることを意図していない。
【0018】
本発明の試料調製チューブは本質的に、所望の特定の試料の種類および調製用に選択された抽出媒体を収容する中空のポリアミドチューブからなっていてもよい。他の構成要素があってもよく、ポリアミドチューブ、抽出媒体および他の構成要素の一例を、図1に示すように試料調製チューブの一実施例に示している。
図1は、中空のポリアミドチューブ100を含む試料調製チューブ1を示している。図に示す例において、ポリアミドチューブの入口側は上側に示されており、ポリアミドチューブの出口側は下側に示されており、試料および溶媒の流動の方向は矢印で示されている。図に示す実施態様において、出口側は入口側よりも小さな直径を有している。図に示すように、抽出媒体101は、溶融(フリット)ガラスフィルタであってもよい入口側および出口側フリット102の間に収容されている。出口側の直径がより小さくされていることで、構成要素をポリアミドチューブ内に保持することができる。くわえて、チューブはさらに、入口側溶融ガラスフィルタとチューブ入口との間にポリアミドスクリーン103を収容していてもよく、このスクリーン103は、チューブ内で部品を所定の位置に保持することができる。
【0019】
ポリアミド試料調製チューブは、上記特許文献1に記載されているものなど、いずれの適切な寸法、形状および抽出媒体組成のものであってもよい。さらに、ポリアミド試料調製チューブの寸法は、20、25、50、100、200、500マイクロリットルなどのマイクロリットル範囲内、または例えば1、3、6、12、20、60、140 mLなどのmL範囲内の試料に適していてもよい。くわえて、ポリアミド試料調製チューブは、図2に示す例えば1または2 mLの96個のウェルプレートフォーマット(構成)などの、ウェルプレートフォーマットに組み立てられていてもよい。2:3の矩形行列(マトリックス)に配置されて、上述したようにマイクロリットルまたはmL用の寸法である、6、24、96、384、1536個、またはより多くの試料調製チューブを有する他のウェルプレートフォーマットを使用してもよい。
【0020】
ポリアミド試料調製チューブは、固相抽出、たんぱく質ろ過または試料浄化用に使用してもよい。特に、ポリアミド試料調製チューブは、GC、GC/MS、LC、LC/MSなどの分析方法とあわせた分析の前の試料調製用に使用してもよい。
ポリアミド調製チューブは、比較的不活性であり、非水性液体中に汚染物質を溶解または浸出させにくい。ポリアミド調製チューブが不活性であることについて、以下の実施例に示す。
実施例
この実施例により、ジクロロメタンに対するポリアミド試料調製チューブが相対的に不活性であることを、ポリプロピレン、高密度ポリプロピレンおよびテフロン(登録商標)で形成された試料調製チューブのそれと比較して示す。
【0021】
ポリアミド試料調製チューブを、ナイロン6/6を使用して射出成型処理により作製した。ナイロン6/6をまず乾燥して、含水率を0.2%未満とした。次いで、ポリマーを融解し、加圧下で冷えた金型内に射出した。
ジクロロメタンにポリアミド試料調製チューブを通過させ、GC/FIDを使用して分析した。次いで、このようにして生成されたクロマトグラムを、ポリプロピレン、高密度ポリプロピレンおよびテフロン(登録商標)で形成されたチューブを通過させたジクロロメタンからGC/FID分析を使用して得られたものと比較した。図3および図4のクロマトグラムに示されているように、汚染物質は、ポリプロピレンチューブおよび高密度ポリエチレンチューブの両方からの流出物中に存在する。これと比較して、ポリアミドチューブからの流出物は、図6に示すように汚染物質を実質的に含んでおらず、図5に示すテフロン(登録商標)により得られたものよりも優れていた。
【0022】
本発明のさまざまな実施形態について説明したが、本発明の範囲内でより多くの実施形態および実施態様が可能であることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物に照らした場合を除いて、限定されない。
本明細書において、本発明を有利に使用する仕方を説明する目的で、本発明に係るポリアミドチューブを使用した特定の試料調製装置および方法を説明したが、本発明がこれに限定されないことを理解されたい。すなわち、本発明は適切に、列挙した要素を備えていても、列挙した要素からなっていても、または、列挙した要素から本質的になっていてもよい。さらに、例として本明細書中に開示した本発明は適切に、本明細書で特に開示されていない、いずれかの要素なしで実施されてもよい。したがって、当業者が想到するいずれかのおよびすべての修正、変更または均等の構成は、添付の特許請求の範囲で規定する本発明の範囲内に含まれるとみなすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のポリアミドチューブであって、入口および出口、ならびに、当該チューブ内に収容された入口側溶融ガラスフィルタおよび出口側溶融ガラスフィルタを有するチューブと、
前記入口側溶融ガラスフィルタと前記出口側溶融ガラスフィルタとの間に収容された抽出媒体とを備えている、試料調製装置。
【請求項2】
前記入口側溶融ガラスフィルタと前記チューブ入口との間に、ポリアミドスクリーンをさらに備えている、請求項1に記載の試料調製装置。
【請求項3】
前記ポリアミドがナイロンである、請求項2に記載の試料調製装置。
【請求項4】
前記抽出媒体が、官能化シリカ系吸着剤、樹脂系吸着剤、混合モードの吸着剤およびイオン交換の吸着剤からなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の試料調製装置。
【請求項5】
前記抽出媒体が、オクタデシル官能化シリカと、スチレンジビニルベンゼンポリマーと、スルホン酸および第四アミンなどの結合官能基を有するシリカ系吸着剤と、アミノプロピル基などのアニオン交換体またはカルボン酸基もしくはプロピルスルホン酸基などのカチオン交換体を有するシリカ系吸着剤とからなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の試料調製装置。
【請求項6】
前記ナイロンが、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン12/12、ナイロン4/6、ナイロン6、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン6/6およびナイロン6/9、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選ばれたものである、請求項3に記載の試料調製装置。
【請求項7】
前記入口が、前記出口よりも小さな直径を有している、請求項2に記載の試料調製装置。
【請求項8】
入口および出口を有する中空のポリアミドチューブを設けるステップと、
前記チューブ内に、入口側溶融ガラスフィルタおよび出口側溶融ガラスフィルタを設けるステップと、
前記入口側溶融ガラスフィルタと前記出口側溶融ガラスフィルタとの間で、前記チューブ内に抽出媒体を配置するステップとを含んでいる、試料調製用の装置を作製する方法。
【請求項9】
前記入口側溶融ガラスフィルタと前記チューブ入口との間に、ポリアミドスクリーンを配置するステップをさらに含んでいる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリアミドがナイロンである、請求項9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−527006(P2010−527006A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507599(P2010−507599)
【出願日】平成20年5月6日(2008.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/062769
【国際公開番号】WO2008/141006
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】