説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】
剛性、耐衝撃性、耐熱性に優れ、成形時の発生ガスが少ないポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することを課題とする。
【解決手段】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体1〜100重量部、(C)ポリエチレン樹脂を1〜50重量部、(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体0.01〜20重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性、耐衝撃性、耐熱性に優れた、加熱使用時または成形時に発生するガスが少ないポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、強度、剛性などの機械的物性に優れ、しかも耐熱性、耐薬品性が良好であり電気電子部品、自動車用部品、建材部品、機械部品等に広く利用されている。しかし、絶乾時、低温時における耐衝撃性、寸法安定性に問題があり、環境によって使用が制限されている現状がある。
【0003】
近年では、ポリアミド樹脂の耐衝撃性を改良するため、ポリアミド樹脂に各種エラストマーを配合する方法がこれまでにも提案されている。例えば特許文献1には靭性に優れるエチレン・α−オレフィン系共重合体エラストマーを配合する方法が示されているが、ポリアミド樹脂の成形品を得るには230℃以上で成形することが必要であるため、耐熱性に劣るエチレン・α−オレフィン系共重合体が熱分解してガスが発生し、金型のベント詰まりや汚れにより成形品外観が悪化し、さらには、金型腐食が起き易くなる問題があった。一般的なエチレン・α−オレフィン系共重合体エラストマーはランダム共重合であり、エチレン成分を増やして耐熱性を向上させるとガラス転移点も高くなり、得られるポリアミド樹脂組成物の低温における靭性が不十分であり、耐寒性、耐冷熱性、耐凍結性などが要求される自動車用途や電気電子用途には不向きであった。また特許文献2にオレフィン系共重合体エラストマーを配合するポリアミド樹脂を用いた自動車部品のカバー材やクリップ材が提案されている。特にヒンジ部を有するクリップは、ヒンジ部を曲げたときに割れないように靭性が必要とされ、またクリップが外れないように剛性が必要とされている。ポリアミド樹脂にエラストマーを配合することにより、耐衝撃性が改善されるが、剛性が低下するため、クリップ材には適さなかった。
【0004】
以上のことから耐熱性、低ガス性を有し、剛性と耐衝撃性のバランスに優れるポリアミド樹脂が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−330478号公報
【特許文献2】特開平4−220460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成形時における低ガス性、耐熱性、耐衝撃性と剛性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。
(1)(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体1〜100重量部、(C)ポリエチレン樹脂1〜50重量部、および(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体0.01〜20重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)ポリアミド樹脂A)がポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー及びポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミド樹脂(A)の粘度数が90〜200ml/gであることを特徴とする(1)または(2)記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)前記エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体(B)のオレフィンがオクテンであり、融点が100℃以上、かつガラス転移点が−50℃以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)ポリエチレン樹脂(C)の密度が0.85〜0.98g/cmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
(7)成形品がヒンジ部を有するものである(6)記載の成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の低ガス性、耐熱性、耐衝撃性、剛性に優れるため、自動車部品、電気電子関連部品に適しており、ヒンジ部を有する成形品としたときに有効であり、とりわけ配線、コード、チューブを束ねるクリップ、クランプ、バンド用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく述べる。
【0010】
本発明に用いられる(A)ポリアミド樹脂としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6T/610)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5MT)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物ないし共重合体を挙げることができる。特に本発明に好適なポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン66/6T、ナイロン6T/610を挙げることができる。
【0011】
ここで用いられる(A)ポリアミド樹脂の重合度としては、溶媒として96%硫酸を使用したISO307に準拠して測定した粘度数が、機械特性や流動性の点で90〜200ml/gの範囲であることが好ましく、90〜150ml/gが特に好ましい。本発明に用いる(A)ポリアミド樹脂の重合方法は特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた方法を利用することができる。通常、溶融重合が好ましく用いられる。
【0012】
次に発明の必須成分である(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを共重合してなるものであるが、共重合の様式がブロック共重合であることが特長である。
【0013】
本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体は、化学的または物理的な特性が異なる2つまたはそれ以上の重合したモノマー単位の複数のブロック、いわゆるセグメントによって特徴付けられ、次式:
(AB)n
によって表すことができ、式中、nは少なくとも1好ましくは1より大きい整数、Aは、例えばエチレンのみが共重合したハードセグメントを表し、Bはα−オレフィンのみが共重合したソフトセグメントを表す。このハードセグメントとソフトセグメントが共存する分子骨格のため、他の結晶性樹脂のようにラメラ構造をとる。
【0014】
本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の製造方法は、特表2008−545016号報に開示されており、エチレンを高選択的に重合する触媒、α−オレフィンを高選択的に重合する触媒および可逆的連鎖移動剤を組み合わせることにより、従来のエチレン・α−オレフィン系共重合体の共重合様式であるランダム共重合とは異なるブロック共重合体を得ることができる。なお、従来のエチレン・α−オレフィン系共重合体はチタン、ジルコニウム等のIV族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒で構成されたメタロセン系触媒のみによって得られたものであり、同方法で得られる共重合の様式はランダム共重合である。また、メタロセン系触媒による製法が確立される以前に、チーグラー系触媒による製法が用いられてきたが、得られる共重合様式は同様にランダム共重合である。
【0015】
また、本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の炭素原子数3〜20のα−オレフィンとして、例えば、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1-デセン、1−ブテンなどが好ましく、1−オクテンが特に好ましい。
【0016】
また、本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の融点とガラス転移点は、融点が100℃以上かつガラス転移点が−50℃以下であり、好ましくは融点が110℃以上かつガラス転移点が−55℃以下であり、より好ましくは融点が115℃以上かつガラス転移点が−60℃以下である。融点が100℃以上であると、金型汚れを低減でき、ガラス転移点が−50℃以下であると、ポリアミド樹脂の低温靭性を向上させることができる。
【0017】
かかる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の融点は、示差走査型熱流量計(島津製作所製DSC−60)を用い、示差熱量測定によりポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度の観測後、180℃の温度でまで昇温し、同温度で3分間保持した後、20℃/分の降温条件で−30℃まで一旦冷却した後、10℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度を求め、融点とした。
【0018】
また、かかる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体のガラス転移点は、上記の示差走査型熱流量計により、20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度の観測後、130℃まで昇温し、同温度で3分間保持した後、10℃/分で−100℃まで冷却し、得られたDSC曲線から、JIS K7191に準拠して求めた。
【0019】
また、本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の密度は1.00g/cm以下であり、好ましくは0.90g/cm以下である。同密度が1.00g/cm以下であると、得られるポリアミド樹脂組成物の靭性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明に用いる(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、1〜100重量部の範囲が選択され、好ましくは3〜50重量部である。(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体の配合量が少なすぎると、引張破断伸びや衝撃強度などの靭性改良効果が軽微であり、多すぎるとポリアミド樹脂が本来有する剛性、耐熱性、耐薬品性が顕著に阻害される。
【0021】
本発明で用いられる(C)ポリエチレン樹脂として、密度が0.85〜0.98g/cm、曲げ弾性率が50〜1000MPaの範囲のものが好ましく、曲げ弾性率は100MPa〜500MPaが好ましい。ここで、曲げ弾性率はISO294−1に従って成形した成形品を用いて、ISO178に従って測定した値である。曲げ弾性率が50MPa未満では剛性改良効果が軽微であり、1000MPa以上では耐衝撃性が低下する。本発明に用いられるポリエチレンは、その性能を損なわない範囲内で他のモノマー、たとえばプロピレン、ブテン−1、ペンテン、4−メチルペンテン−1、ヘキセン、オクテン、デセン等のα−オレフィン類、ブタジエン、イソプレン等のジエン類、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン等のシクロオレフィン類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリレート類が共重合されていても良い。
【0022】
本発明に用いる(C)ポリエチレン樹脂の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、1〜50重量部の範囲が選択され、好ましくは10〜30重量部である。(C)ポリエチレン樹脂を配合することで、剛性、靭性、流動性のバランスを取ることができる。
【0023】
本発明で用いられる(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体は、(B)エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体にグラフト反応を起こすことが可能で系全体の親和性を向上させる化合物である。好ましい例としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジルエステル、シトラコン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸モノグリシジルエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸イミド、イタコン酸イミド、シトラコン酸イミドなどであり、特にメタクリル酸グリシジル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸イミドが好ましく使用できる。
【0024】
本発明で用いられる(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体の配合量はポリアミド樹脂100重量部に対し、0.01〜20重量部の範囲であり、好ましくは0.03〜15重量部の範囲である。配合量が0.01重量部に満たないと生成する樹脂組成物の系全体の親和性、均一性が不十分になるので好ましくなく、逆に配合量が20重量部以上になると過度のグラフト反応の進行による増粘、流動性低下が起こるので好ましくない。
【0025】
また(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト反応の起点となるラジカル発生剤を添加することが好ましい。ラジカル発生剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3などを挙げることができる。
【0026】
本発明における組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で、長期耐熱性を向上させるために銅化合物を添加することが好ましい。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの銅化合物などが挙げられる。なかでも1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第一銅、ヨウ化第一銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
また本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することが好ましい。例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、溶融混練において、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーから(A)ポリアミド樹脂、(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体、(C)ポリエチレン樹脂、(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体を供給する方法が挙げられる。
【0029】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形する方法は特に制限されず、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形など公知の方法を用いることができるが、形状自由度、生産性の点で射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0030】
本発明の組成物を成形して得られる成形品は、成形時の低ガス性、耐熱性、耐衝撃性、剛性に優れるため、自動車部品、電気電子関連部品に適しており、特にヒンジ部を有する成形品としたときに有効である。ここで言うヒンジ部は周辺部分より薄肉の形状であり、成形品を折り曲げることができる部位である。とりわけ配線、コード、チューブを束ねるクリップ、クランプ、バンド用途に有用である。
【実施例】
【0031】
実施例および比較例で得られた成形品は以下の方法で評価を行った。
【0032】
(1)引張強度、引張ひずみ
試験片:ISO294−1に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。
試験条件:ISO527に準処し、測定を行った。引張速度50mm/min、標点間115mm。
試験雰囲気:気温23℃、湿度50%RH
測定機器:インストロンジャパン株式会社製 万能試験機5581。
【0033】
(2)曲げ強度、曲げ弾性率
試験片:ISO294−1に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。
試験条件:ISO178に準処し、測定を行った。降伏速度2mm/min、スパン間64mm。
試験雰囲気:気温23℃、湿度50%RH
測定機器:インストロンジャパン株式会社製 万能試験機5566。
【0034】
(3)シャルピー衝撃強度
試験片:ISO294−1に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。この多目的試験片の中央部分より、80×10×4mmの試験片を切削加工し、得られた試験片を、JISK7144に準処しノッチ加工することで衝撃試験片を得た。
試験条件:ISO179に準処し、測定を行った。
試験雰囲気:気温23℃、−30℃、湿度50%RH
測定機器:CEAST社製 衝撃試験機TYPE6545。
【0035】
(4)荷重たわみ温度
試験片:ISO294−1に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。
試験条件:ISO75−2に準処し、0.46MPaの荷重をかけて測定を行った。
測定機器:東洋精機社製HDT−TESTER。
【0036】
(5)ヒンジ試験
試験片:長さ80mm、幅10mm、厚さ1mmの中心に長さ2mm、幅10mm、厚さ0.35mmのヒンジ部を有する試験片を成形した。
試験条件:試験片を−30℃、3h処理後、ヒンジ部を曲げて表面にクラックや割れが発生しない試験片を良品とみなした。試験は試験片10本で実施した。
良品率算出方法:良品の本数×100/10本(試験本数)。
【0037】
(6)加熱減量
試験条件:ペレットを秤量し、285℃、30分処理後に再度、秤量して減少量(%)を算出した。
算出方法:(処理後の秤量値−処理前の秤量値)×100/(処理前の秤量値)。
【0038】
実施例および比較例で使用した(A)ポリアミド樹脂(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体、(C)ポリエチレン樹脂、(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体は以下のとおりである。
【0039】
<ポリアミド樹脂>
A1 ポリアミド66樹脂:融点265℃、粘度数150ml/g
A2 ポリアミド66/6(97/3wt%)樹脂:融点260℃、粘度数125ml/g。
【0040】
<エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体>
B1 エチレン・1−オクテンブロック共重合体(ダウケミカル社製 インフューズ9107、密度0.87g/cm、融点121℃、ガラス転移点−62℃)
B2 エチレン・1−オクテンブロック共重合体(ダウケミカル社製 インフューズ9500、密度0.87g/cm、融点119℃、ガラス転移点−62℃)
B3 エチレン・1−オクテンブロック共重合体(ダウケミカル社製 インフューズ9807、密度0.87g/cm、融点118℃、ガラス転移点−62℃)。
【0041】
<オレフィン系ランダム共重合体>
b1(比較例) エチレン・1−ブテンランダム共重合体(三井化学(株)社製 タフマーA1050S、密度0.87g/cm、融点無し、ガラス転移点−64℃)
b2(比較例) エチレン・1−プロピレンランダム共重合体(JSR(株)社製 EP27、密度0.88g/cm、融点不明、ガラス転移点不明)
b3(比較例) エチレン・1−オクテンランダム共重合体(ダウケミカル社製 エンゲージ8100、密度0.87g/cm、融点無し、ガラス転移点−55℃)。
【0042】
<ポリエチレン樹脂>
C1 高密度ポリエチレン(プライムポリマー(株)社製 ハイゼックス1300J、密度0.96g/cm、融点134℃)。
【0043】
<α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体>
D1 無水マレイン酸(日油(株)社製 CRYSTAL MAN AB)。
【0044】
E1 グラフト反応促進剤として、ラジカル発生剤(日油(株)社製 パーヘキサ25B)を使用した。
【0045】
実施例1〜4、比較例1〜4
Werner−Pfleiderer社製二軸押出機ZSK−57を用いて、表1に示す組成でメインフィーダーから(A)ポリアミド樹脂(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体、(C)ポリエチレン樹脂、(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体を供給し、樹脂溶融温度を290℃とし、スクリュー回転を200rpmにて溶融混練後ペレット化した。得られたペレットを80℃、12時間の条件で真空乾燥した。乾燥したペレットを用いて、日精樹脂工業(株)社製の射出成形機NEX1000を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃の条件で成形し、各試験片を得た。評価結果は表1に示すとおりであった。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1〜4および比較例1〜4の結果より、本発明のポリアミド樹脂組成物は、剛性、耐衝撃性、耐熱性に優れ、加熱使用時または成形時に発生するガスが少ないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体1〜100重量部、(C)ポリエチレン樹脂1〜50重量部、および(D)α,β不飽和カルボン酸またはその誘導体0.01〜20重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)がポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー及びポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(A)の粘度数が90〜200ml/gであることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・α−オレフィン系ブロック共重合体(B)のオレフィンがオクテンであり、融点が100℃以上、かつガラス転移点が−50℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエチレン樹脂(C)の密度が0.85〜0.98g/cmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項7】
成形品がヒンジ部を有するものである請求項6記載の成形品。

【公開番号】特開2012−72302(P2012−72302A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218838(P2010−218838)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】