説明

ポリアミン代謝制御による環境ストレス耐性を改良した植物、及びその作出方法

【課題】植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内で実用的に利用可能なレベルの種々の環境ストレス耐性を付与した植物、および該植物の作出方法を提供する。
【解決手段】外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下で安定に保持し、且つ該外因性のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を有していない比較対照植物に比べて少なくとも1種のストレス耐性が改良された植物及びその子孫。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミン代謝を制御することで改良されたストレス耐性を有する植物及び植物、詳細には改良された塩ストレス耐性、乾燥ストレス耐性、水ストレス耐性、低温ストレス耐性、弱光ストレス耐性、強光ストレス耐性、高温ストレス耐性、酸化ストレス耐性、除草剤ストレス耐性、病原菌ストレス耐性などを有する植物及び植物に関する。
【0002】
また、本発明は該植物の作出方法に関する。
さらに、本発明は、該植物及び植物から有用物質(例えばデンプン、タンパク質、色素、エタノール)或いはその誘導体(例えば生分解性プラスチック)を得ることを目的とする。
【背景技術】
【0003】
植物はそれぞれの生息地の温度や塩などの様々な環境ストレスに適応して生活している。しかし、例えば温度ストレスにおいては、植物が生育適温の上限または下限を越えるような環境に遭遇すると高温ストレスや低温ストレスを受け、徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて障害をひきおこす。これまで、種々の温度環境に適応した野生の植物を食料作物や工芸作物などに利用するために、選抜や交雑育種など育種的手段によって作物の温度適応性の拡大に努めてきた。また、野菜や花卉、果樹等の園芸作物においては育種的手段に加えて、施設園芸で栽培可能な期間の拡大を図ってきた。しかし、特に日本は南北に長く、地域によっては気候が著しく異なるとともに、四季の変化が著しいので地域や季節によっては作物は生育に不適な温度環境にさらされる危険性が大きい。例えば、熱帯を起源とするイネは、明治以来の品種改良によって東北地方や北海道などの冷涼地でも栽培できるようになり、現在ではこれらの地域の基幹作物として栽培されているが、これらの地域では初夏に異常低温があると冷害を受け、著しい減収になることが現在でも問題になっている。近年、地球温暖化やエルニーニョ現象が原因と考えられる異常気象によって作物が重大な被害を受け、1993年のひどい冷害による米不足は記憶に新しい。また、野菜類についてみると、トマト、キュウリ、メロン、スイカなど果菜類の中には熱帯起源の作物が多い。これらの作物は需要が大きく農業経営上も重要性の大きい作物で早くから施設栽培に取り入れられてきた。しかし、昭和49年のオイルショック以来、施設園芸における省資源や暖房コストの低減が問題となっている。施設園芸における省資源については温室の構造的なものから栽培技術まで各方面から検討されているが、最も基本的なことは作物の低温ストレス耐性を高めることである。
【0004】
高温ストレスについては植物にとって重要なストレスで、特に夏場の高温によって作物の生育や収量は著しく左右される。
【0005】
塩ストレスについては全陸地面積の約10%が塩害地域といわれ、近年東南アジアやアフリカなどの乾燥地を中心に塩類土壌の拡大が農業上深刻な問題となっている。
【0006】
乾燥ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は水ストレスによって著しく左右される。
【0007】
浸透圧ストレスや水ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は水ストレスによって著しく左右される。
【0008】
種々の環境ストレス耐性を高めるために交雑育種、最近の遺伝子工学技術を利用した育種、植物ホルモンや植物調節剤の作用を利用した方法等が行われている。
【0009】
これまでに遺伝子工学技術を利用した、環境ストレス耐性植物の作出が行われている。低温ストレス耐性の改良に用いられたに遺伝子としては、生体膜脂質の脂肪酸の不飽和化酵素遺伝子(ω−3デサチュラーゼ遺伝子、グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、ステアロイル−ACP−不飽和化酵素遺伝子)や光合成に関与するピルビン酸リン酸ジキナーゼ遺伝子、凍結保護・防止活性を持つタンパク質をコードする遺伝子(COR15、COR85、kin1)等が報告されている。
【0010】
塩ストレスや乾燥・水ストレス耐性の改良に用いられた遺伝子としては、浸透圧調節物質のグリシンベタイン合成酵素遺伝子(コリンモノオキシゲナーゼ遺伝子、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子)、プロリン合成酵素遺伝子(1−ピロリン−5−カルボン酸シンテターゼ)等が報告されている。
【0011】
ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する遺伝子の発現量を高めてストレス耐性を改良する方法としては転写因子(DREB遺伝子)をコードする遺伝子を利用する方法が報告されている(非特許文献1:Nature Biotechnology, 17, 287-291, 1999、非特許文献2:The Plant Cell, 10, 1391-1406, 1998)。いずれの報告でも、恒常的にDREB遺伝子を植物で過剰発現させることによって、rd29A、kin1、P5CS等のストレス耐性遺伝子群の発現量が高まり乾燥ストレス、塩ストレスおよび凍結ストレス耐性が向上することが示されているが、成長阻害が強く見られ生育が停止して枯死する個体が観察など生育への悪影響が示されている。
【0012】
しかし、これらの遺伝子を形質転換した植物の多くは、実際には産業上利用可能な程度に十分な効果は得られておらず、実用化に至っていないのが現状である。
【0013】
ポリアミンとは第1級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素の総称で生体内に普遍的に存在する天然物であり、20種類以上のポリアミンが見いだされている。代表的なポリアミンとしてはプトレシン、スペルミジン、スペルミンがある。ポリアミンの主な生理作用としては(1)核酸との相互作用による核酸の安定化と構造変化(2)種々の核酸合成系への促進作用(3)タンパク質合成系の活性化(4)細胞膜の安定化や物質の膜透過性の強化などが知られている。植物におけるポリアミンの役割としては細胞増殖や分裂時に核酸、タンパク質生合成の促進効果や細胞保護が報告されているが、最近ではポリアミンと環境ストレス耐性との関わりも注目されている。
【0014】
近年、ポリアミンの種々の環境ストレスに対する関わりが報告されている。低温ストレス(非特許文献3:J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999、非特許文献4:J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999、非特許文献5:Plant Physiol. 124, 431-439, 2000)、塩ストレス(非特許文献6:Plant Physiol., 91, 500-504, 1984)、酸ストレス(非特許文献7:Plant Cell Physiol., 38(10), 156-1166, 1997)、浸透ストレス(非特許文献8:Plant Physiol. 75, 102-109, 1984)、病原菌感染ストレス(非特許文献9:New Phytol., 135, 467-473, 1997)、除草剤ストレス(非特許文献10:Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998)などとの関わりが報告されているが、いずれの報告も生長発育反応やストレス抵抗性とポリアミン濃度の変化の関連性からポリアミンの関与を推定したものであり、ポリアミン合成酵素遺伝子によるポリアミン代謝制御と環境ストレス耐性との関係については十分に調べられていない。
【0015】
植物のポリアミン生合成に関わるポリアミン合成酵素としてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)、スペルミジン合成酵素(SPDS)、スペルミン合成酵素(SPMS)等が知られている。これらのポリアミン合成酵素をコードするポリアミン合成酵素遺伝子については植物から既に幾つか単離されている。ADC遺伝子はエンバク(非特許文献11:Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(非特許文献12:Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(非特許文献13:Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(非特許文献14:Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(非特許文献15:Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、トマト(非特許文献16:Plant Cell Physiol., 42, 314-323, 2001)、SAMDC遺伝子はジャガイモ(非特許文献17:Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(非特許文献18:Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、ニチニチソウ(非特許文献19:Eur. J. Biochem., 228, 74-78, 1995)、SPDS遺伝子はシロイヌナズナ(非特許文献20:Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998)、コーヒー(非特許文献21:Plant Sci., 140, 161-168, 1999)、リンゴ(非特許文献22:Mol. Gen. Genomics, 268, 799-807, 2003)、SPMS遺伝子はシロイヌナズナ(非特許文献23:EMBO J., 19, 4248-4256, 2000)から単離されている。
【0016】
エンバク由来のアルギニン脱炭酸酵素遺伝子(ADC遺伝子)やTritordeum由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子(SAMDC遺伝子)をイネに導入して塩ストレス下での生育が向上したこと(非特許文献24:Plant Sci., 160, 869-875, 2001、非特許文献25:Plant Sci., 163, 987-992, 2002)が開示されているが、人為的にABA(アブシジン酸)を添加してADC遺伝子の発現を高め、短期間の塩ストレス条件下のみでのシュート長や生体重の変化を調べたもので実用的な評価とは言えない。ヒト由来のSAMDC遺伝子を恒常性プロモーターで制御してタバコで過剰発現させることで、塩ストレス、乾燥ストレス、病原菌に対する耐性が高まること(非特許文献26:Plant Sci., 164, 727-734, 2003)が開示されているが、形質転換タバコでは生長の遅れや短節間などの成長阻害が観察されており、実用的なレベルではない。クロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(SPDS遺伝子)を恒常性プロモーターで制御してシロイヌナズナで過剰発現させることで種々の環境ストレス耐性が高まること(特許文献1:WO02/23974) が開示されているが、恒常性プロモーター(CaMV35プロモーター)のみの結果であり、ストレス誘導性プロモーターや時期誘導性プロモーターの結果については全く調べられていない。さらに前記に示した開示はシロイヌナズナ、タバコ、イネなどのモデル植物で、サツマイモなどの工業原料植物や実用化植物では効果は確認されていない。さらに、前記非特許文献や特許文献では環境ストレス耐性が高まることは開示されているが、短期間の成育や生長を調べたものがほとんどで、成育阻害も観察されており実用的に利用できるレベルではない。実際にサツマイモの塊根のように実用的に利用される組織や部位での生育、生産性及び収量への影響については全く調べられていない。
【特許文献1】WO02/23974
【非特許文献1】Nature Biotechnology, 17, 287-291, 1999
【非特許文献2】The Plant Cell, 10, 1391-1406, 1998
【非特許文献3】J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999
【非特許文献4】J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999
【非特許文献5】Plant Physiol. 124, 431-439, 2000
【非特許文献6】Plant Physiol., 91, 500-504, 1984
【非特許文献7】Plant Cell Physiol., 38(10), 156-1166, 1997
【非特許文献8】Plant Physiol. 75, 102-109, 1984
【非特許文献9】New Phytol., 135, 467-473, 1997
【非特許文献10】Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998
【非特許文献11】Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990
【非特許文献12】Plant Physiol., 103, 829-834, 1993
【非特許文献13】Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996
【非特許文献14】Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995
【非特許文献15】Biocem. J., 314, 241-248, 1996
【非特許文献16】Plant Cell Physiol., 42, 314-323, 2001
【非特許文献17】Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994
【非特許文献18】Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995
【非特許文献19】Eur. J. Biochem., 228, 74-78, 1995
【非特許文献20】Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998
【非特許文献21】Plant Sci., 140, 161-168, 1999
【非特許文献22】Mol. Gen. Genomics, 268, 799-807, 2003
【非特許文献23】EMBO J., 19, 4248-4256, 2000
【非特許文献24】Plant Sci., 160, 869-875, 2001
【非特許文献25】Plant Sci., 163, 987-992, 2002
【非特許文献26】Plant Sci., 164, 727-734, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
環境問題や食糧問題から植物にストレス耐性を付与することは極めて重要な課題であり、遺伝子組換え技術によってストレス耐性を改良する試みは幾つか行われているが、実際には産業上利用可能な程度に十分な効果は得られておらず、実用化に至っていないのが現状である。さらに、転写因子の一つであるDREBをコードする遺伝子を植物で過剰発現させることでストレス耐性遺伝子群の発現レベルを高めて、ストレス耐性が改良されているが、生育や生長に対して強い阻害効果が見られ、種子が採取できない等の問題がある。
【0018】
植物を工業原料として利用する場合、特に生産費の低減を図ることが求められている。その方策の一つとして単位面積当たりの収量増加が挙げられる。植物の低温ストレス耐性や乾燥・水ストレス耐性を高めることで異常気象による冷害や干ばつが回避できる可能性がある。また、ストレスの程度は予測することが困難であるので、ストレスの程度にかかわらず、安定して植物にストレス耐性を付与することが重要である。
SAMDC、ADC、ODCなどはストレス耐性との関連が知られているが、一方で過剰発現により植物に悪影響を及ぼすことも知られており、これらの遺伝子を用いて、植物に悪影響を及ぼすことなく、ストレス耐性のみを付与することが求められている。
【0019】
従って、本発明の目的は、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子のようなポリアミン含量を増加させることが可能なポリアミン合成酵素遺伝子を、例えばストレス遭遇時に機能する誘導性プロモーター制御下により植物に導入することで、ストレス遭遇時にポリアミン含量(特にスペルミジン又はスペルミン含量)を植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内で増加させ、実用的に利用可能なレベルの種々の環境ストレス耐性を付与した植物、および該植物の作出方法、さらには種々の環境ストレス耐性を付与する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意努力した結果、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子のようなポリアミン生合成に関わるポリアミン合成酵素遺伝子を単離して、該遺伝子を植物に導入して恒常性タイプのプロモーターではなくストレス遭遇時に機能するストレス誘導性プロモーター、温度変化又は温度遭遇時(高温又は低温)に機能する温度誘導性プロモーター、光強度又は光遭遇時に機能する光誘導性プロモーター、生育変化又は生育段階又は生育時期によって機能する時期誘導性プロモーターなどの誘導性タイプのプロモーター制御下で過剰発現することによって、植物の生長や生育には悪影響を及ぼさない範囲内でポリアミン代謝を操作してポリアミン(特にスペルミジン)含量を一定の範囲内で高めることで、ストレスの程度にかかわらず種々の環境ストレス耐性のパラメーターが実用レベルまで改良されることを見出した。さらに、発現量や翻訳量をコントロールしているといわれている5’非翻訳領域(uORF:small upstream open reading frameなど)を有しているADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子については5’非翻訳領域を含んだ形で過剰発現させることが重要であり得ることも見出した。
【0021】
ポリアミンは分子中にアミンを多く含む塩基性物質であり、代表的なポリアミンとしては二分子のアミンを含むプトレシン、三分子のアミンを含むスペルミジン、四分子のアミンを含むスペルミン等がある。植物において、これらのポリアミン生合成に関わるポリアミン合成酵素としてはプトレシンについてはADC、ODC、スペルミジンについてはADC、ODC、SAMDC、スペルミンについてはADC、ODC、SAMDCが見つかっている。これらのポリアミン合成酵素をコードしているポリアミン合成酵素遺伝子についても既に幾つかの植物で単離されている。例えば、植物のポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)が知られている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードするポリアミン代謝関連遺伝子については植物から既に幾つか単離されている。ADC遺伝子はエンバク(Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、クロダネカボチャ(WO02/23974、WO03/84314)、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、SAMDC遺伝子はジャガイモ(Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、クロダネカボチャ(WO02/23974、WO03/84314)から単離されている。加えて植物への導入が試みられており、ポリアミン含量の変化や一部では環境ストレス耐性の改良が調べられているが、ストレスの程度によっては必ずしも十分ではない。
【0022】
本明細書で引用された文献は、その全体が参考として援用される。
【0023】
このような状況下に、本発明者らは実用的に利用可能なレベルの植物のストレス耐性を改良するために鋭意検討した結果、ADC、ODCまたはSAMDC遺伝子を誘導性タイプのプロモーター制御下(例えばストレス遭遇時に機能するストレス誘導性プロモーター)で発現させることで、生育や生長には影響を及ぼさない範囲内でポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)含量が増加し、ストレスの種類及び強さに関わりなく、そのポリアミン量の増加範囲が種々のストレス耐性の改良にとって極めて重要であることを見出した。ポリアミン合成酵素遺伝子の中でもポリアミン代謝の比較的上流で作用して代謝への影響が強いと言われているADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子については恒常性タイプのプロモーターではなく、誘導性タイプのプロモーターを用いることがポリアミン量を一定の範囲内で維持するためには重要である。さらにはADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子は発現や翻訳に影響している5’非翻訳領域(uORFなど)を含有した形で誘導性タイプのプロモーター制御下で過剰発現させることが重要であり得ることも見出した。理論により拘束されることを望むものではないが、本発明者らは(1)ポリアミン合成酵素遺伝子による植物の形質転換によって増加したポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)が細胞に対して穏やかなストレス原因物質として作用し、細胞がストレスを感じることで種々のストレス耐性機構やメカニズムのスイッチをオンにする。(2) ポリアミン合成酵素遺伝子による植物の形質転換によって増加したポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)がセカンドメッセンジャー(シグナル伝達物質)として作用し、シグナル伝達に関与するプロテインキナーゼを活性化することでストレス耐性に関与する遺伝子群の発現を誘導する。(3) ポリアミン合成酵素遺伝子による植物の形質転換によって増加したポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)がポリアミン酸化酵素(PAO)の作用により分解し、その時に生成した過酸化水素(ROS)がシグナル伝達を活性化することでストレス耐性に関与する遺伝子群の発現を誘導すると考えている。種々のストレス耐性を改良するためにはストレス耐性機構やメカニズムを誘導させることやストレス遭遇時に発現量が高まるようなストレス耐性に関与する遺伝子群を誘導させることが重要であり、そのためにはポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)含量の一定範囲内での増加が極めて重要であることを本発明者らは見出した。ポリアミン含量(特にスペルミジン又はスペルミン)を植物の生長や生育には悪影響を及ぼさずに一定の範囲内で増加させるためには、ADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子を利用することができる。ADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子はポリアミン代謝では比較的上流に作用するためにポリアミン代謝への影響が大きいので恒常性タイプのプロモーターではなく、誘導性タイプのプロモーターを利用することが重要で生長や生育には悪影響を及ぼさずにポリアミン含量を増加させることができ、それによって種々のストレス耐性のパラメーターが改良され、実用レベルで生産性(例えば収量)や形質が向上することを見出して本発明に至った。

本発明は、以下の発明を提供するものである。
項1: 外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下で安定に保持し、且つ該外因性のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を有していない比較対照植物に比べて少なくとも1種のストレス耐性が改良された植物及びその子孫。
項8: 植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を安定に保持し、且つ該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を作出する方法。
項9:植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を作出する方法。
項16:以下の工程:
(1)植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、
(2)該形質転換細胞から、該外因性遺伝子を有していない植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を選抜する工程
を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定された植物の作出方法。
項18:
以下の工程:
(1)植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良された生産性ないし種子もしくは胚珠、子房、繊維、穂、莢の数、大きさを有する植物を選抜すること
を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし種子もしくは胚珠、子房、繊維、穂、莢の数、大きさを有する形質が固定された植物の作出方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、植物のストレス耐性を改良することができ、植物の生育および生長過程において遭遇する様々なストレスによる障害の回避や生長抑制を軽減することができ栽培の安定化、生産性の向上、栽培地域の拡大、栽培期間の拡大などが期待できる。不毛地域や塩類集積土壌でも植物の栽培が可能となり地球温暖化や食糧問題に対して貢献が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において「ストレス」とは、環境からうけるあらゆるストレスで、例えば高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤、老化などを指す。
【0026】
本発明で得られる植物及びその子孫は、栽培環境(例えばストレス)に左右されずポリアミンの発現量が増大し、種々のストレス耐性を改良することができる。
【0027】
本発明の形質転換される植物は、特に限定されるものではないが、双子葉植物、単子葉植物、草本性植物、木本性植物などが挙げられる。例えば、サツマイモ、トマト、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ、タバコ、シロイヌナズナ、ピーマン、ナス、マメ、サトイモ、ホウレンソウ、ニンジン、イチゴ、ジャガイモ、イネ、トウモロコシ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、ダイズ、ナタネ、ソルガム、ユーカリ、ポプラ、ケナフ、杜仲、サトウキビ、シュガービート、テンサイ、キャッサバ、サゴヤシ、アカザ、ユリ、ラン、カーネーション、バラ、キク、ペチュニア、トレニア、キンギョソウ、シクラメン、カスミソウ、ゼラニウム、ヒマワリ、シバ、ワタ、マツタケ、シイタケ、キノコ、チョウセンニンジン、柑橘類、バナナ、キウイ等が挙げられる。好ましくは、サツマイモ、トマト、キュウリ、イネ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ、ペチュニア、トレニア、ユーカリ、ワタ、ナタネである。
【0028】
本発明において「該ポリアミン量を調節する外因性遺伝子を有していない比較対照植物」、とは該外因性遺伝子(外因性のSAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子))を導入する前のあらゆる植物を意味する。従って、いわゆる野生種のほか、通常の交配によって樹立された栽培品種、それらの自然または人工変異体、並びにSAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子以外の外因性遺伝子を導入されたトランスジェニック植物などをすべて包含する。
【0029】
本発明で言うところの「ポリアミン」はプトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンが挙げられる。
ポリアミン合成酵素遺伝子
本発明において「ポリアミン合成酵素遺伝子」とは、植物におけるポリアミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、プトレシンについてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子とオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミジンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、スペルミンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子が関与し、律速になっていると考えられている。
【0030】
アルギニン脱炭酸酵素(ADC:arginine decarboxylase EC4.1.1.19.)はL−アルギニンからアグマチンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。オルニチン脱炭酸酵素(ODC:ornithine decarboxylase EC4.1.1.17.)はL−オルニチンからプトレシンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC:S-adenosylmethionine decarboxylase EC4.1.1.50.)はS−アデノシルメチオニンからアデノシルメチルチオプロピルアミンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。本明細書では、これらの遺伝子(ADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子)を総称して「ポリアミン合成酵素遺伝子」と呼ぶことがある。従って「ポリアミン合成酵素遺伝子」にはADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子が含有される。
【0031】
これらの遺伝子は、植物の生長や生育に対して悪影響を及ぼさない範囲内でポリアミン(特にスペルミジン又はスペルミン)含量を増加させることができれば、いずれの由来であってもよく、植物、微生物、動物などが挙げられる。例えば、種々の植物からも単離することができる。具体的には、双子葉植物、例えばウリ科;ナス科;シロイヌナズナ等のアブラナ科;アルファルファ、カウピー(Vigna unguiculata)等のマメ科;アオイ科;キク科;アカザ科;ヒルガオ科からなる群から選ばれたもの、又は単子葉植物、例えばイネ、小麦、大麦、トウモロコシ等のイネ科などが含まれる。好ましくは、ウリ科植物、アブラナ科植物、イネ科、アオイ科、マメ科植物、より好ましくはクロダネカボチャ、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、コムギ、ワタ、ダイズがよい。
【0032】
本発明のポリアミン合成酵素遺伝子を単離する植物組織としては種子形態、または生育過程にあるものである。生育中の植物は全体、あるいは部分的な組織から単離することができる。単離することができる部位としては、特に限定はされないが、好ましくは植物の全樹、蕾、花、子房、果実、葉、茎、根などである。さらに好ましくはストレス耐性や抵抗性を示す部位である。
【0033】
本発明の「uORF」とは、upstream open reading frameを指し、アミノ酸をコードするORFの5’上流側(5’非翻訳領域)に存在する。uORFはポリアミン合成酵素遺伝子(ADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子)の5’非翻訳領域に存在し、uORFの機能としてはポリアミン合成酵素遺伝子の発現やポリアミン合成酵素の翻訳を制御していると考えられている。
【0034】
本発明において使用される好ましいポリアミン合成酵素遺伝子として、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子を挙げることができる。具体的には、
・配列番号1(クロダネカボチャ)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号3(クロダネカボチャ)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列を有するDNA、
が挙げられる。さらに、
・該上記いずれかの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。更に、
・該上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
【0035】
なお、「ポリアミン合成酵素遺伝子」は、公知の遺伝子並びに該遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のポリアミン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを含有する。更に、上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のポリアミン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを包含する。
【0036】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特定ポリアミン合成酵素遺伝子(例えばスペルミジン合成酵素遺伝子)と同等の酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列が該特定配列とハイブリット(いわゆる特異的ハイブリット)を形成し、同等の活性を有しないポリペプチドをコードする塩基配列は該特定配列とハイブリット(いわゆる非特異的ハイブリット)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaHPO,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは50%ホルムアミド、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaHPO,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.1×SSCにより洗浄する条件が挙げられる。
【0037】
ここでいう「1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列」とは、一般的に生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列において1個もしくは複数のアミノ酸が置換、削除、挿入または付加された場合であっても、その生理活性が維持される場合があることは当業者において広く認識されている。本発明にはこのような修飾が加えられ、かつポリアミン合成酵素(例えばスペルミジン合成酵素)をコードする遺伝子も本発明で使用することができる。例えば、polyAテールや5’、3’末端の非翻訳領域が「欠失」されてもよいし、アミノ酸を欠失するような範囲で塩基が「欠失」されてもよい。また、フレームシフトが起こらない範囲で塩基が「置換」されてもよい。また、アミノ酸が付加されるような範囲で塩基が「付加」されてもよい。但し、そのような修飾があっても、ポリアミン合成酵素(例えばスペルミジン合成酵素)活性を有することが必要である。好ましくは、「1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された遺伝子」がよい。
【0038】
このような改変されたDNAは例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
ストレス耐性が改良された植物、ストレス耐性ないし生産性が改良された植物及びその子孫
本発明において、「ストレス」としては、上述のごとく、高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤などの環境から受けるストレスが例示される。この中で「高温ストレス」とは、植物の生育適温度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、高温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「低温ストレス」とは、植物の生育適温度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、低温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「塩ストレス」とは、植物の生育適塩濃度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、塩ストレスを受けた植物は過剰な塩が細胞内に流入して徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「浸透圧ストレス」とは、植物の生育適浸透圧の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、浸透圧ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「乾燥ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、乾燥ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「水ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、水ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「弱光ストレス」とは、植物の生育適光強度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、弱光ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「強光ストレス」とは、植物の生育適光強度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、強光ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「除草剤ストレス」とは、植物の生育適除草剤濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、除草剤ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「病原菌ストレス」とは、植物の生育不適な病原菌に感染又は罹病することによって植物が受けるストレスであり、病原菌ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「害虫ストレス」とは、植物不適な害虫に遭遇あるいは食害あるいは感染することによって植物が受けるストレスであり、害虫ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。
【0039】
本発明において、「ストレス耐性が改良された植物」および「改良されたストレス耐性を有する植物」、「改良された生産性を有する植物」とは、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することによって、導入前に比してストレス耐性(抵抗性)、生産性が付与若しくは向上した植物をいう。
【0040】
具体的には、「酸化ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する酸化ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「除草剤ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する除草剤ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「塩ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する塩ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「乾燥ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する塩ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「水ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する水ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「低温ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する低温ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「弱光ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する弱光ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「強光ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する強光ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。
「高温ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する高温ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。「病原菌ストレス耐性が改良された植物」とは、植物の生育過程において遭遇する病原菌ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができた植物である。これによって、栽培の安定化、生産性、収量の向上、栽培地域、面積の拡大などが期待できる。さらに、植物の生産性や収量が高まることによって、植物から得られる種々の有用物質(澱粉、天然色素等)の生産性の向上も期待することができる。
【0041】
本発明の植物には、植物体全体(全樹)に限らず、そのカルス、種子、あらゆる植物組織、葉、茎、蔓、根、塊根もしくは塊茎、花などが含まれる。更にその子孫も本発明の植物に含まれる。
【0042】
本発明において「植物及びその子孫から得られる有用物質」とは、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することによって、導入前に比して生産性が向上した植物およびその子孫で生産された有用物質をさし、有用物質としては例えば、アミノ酸、油脂、デンプン、タンパク質、フェノール、ポリフェノール、炭化水素、セルロース、天然ゴム、色素、酵素、抗体、ワクチン、医薬品、生分解性プラスチックなどが含まれる。
【0043】
イモ類からはサツマイモデンプン、ジャガイモデンプン等の糖質が大量に得られ、該糖質は生分解性プラスチックの製造原料とすることができる。生分解性プラスチックとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ(D,L,DL)乳酸(ポリラクチド)、ポリグリコール酸(ポリグリコシド)、酢酸セルロース、キトサン/セルロース/デンプン、変性デンプンなど、或いはこれらの2元共重合体、3元共重合体が例示される。これらの生分解性プラスチックは公知であり、公知の発酵法、化学合成法などを用いて製造することができる。
【0044】
本発明の植物は、該外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を有していない植物に、遺伝子工学的手法により外因性ポリアミン合成酵素遺伝子が導入され、且つ安定に保持されたものである。ここで「安定に保持される」とは、少なくともポリアミン合成酵素遺伝子が導入された当代の植物体で該ポリアミン合成酵素遺伝子が発現し、それによってストレス耐性が改良するのに十分な期間、該植物細胞内に保持されることをいう。従って、現実的には、該ポリアミン合成酵素遺伝子は宿主植物の染色体上に組み込まれるのが好ましい。該ポリアミン合成酵素遺伝子は次世代に安定に遺伝することがより好ましい。
【0045】
また、ここで「外因性」とは、植物が生来有しておらず、外部より導入されたものを意味する。従って、本発明の「外因性ポリアミン合成酵素遺伝子」は、遺伝子操作により外部より導入される、宿主植物と同種の(すなわち、該宿主植物由来の)ポリアミン合成酵素遺伝子であってもよい。コドン使用(codon usage)の同一性を考慮すれば、宿主由来のポリアミン合成酵素遺伝子の使用もまた好ましい。
【0046】
外因性ポリアミン合成酵素遺伝子はいかなる遺伝子工学的手法によって植物に導入されてもよく、例えば、ポリアミン合成酵素遺伝子を有する異種植物細胞とのプロトプラスト融合、ポリアミン合成酵素遺伝子を発現するように遺伝子操作されたウイルスゲノムを有する植物ウイルスによる感染、あるいはポリアミン合成酵素遺伝子を含有する発現ベクターによる宿主植物細胞の形質転換が挙げられる。
【0047】
好ましくは、本発明の植物は、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換することにより得られる、トランスジェニック植物である。
【0048】
植物中で機能し得る誘導性タイプのプロモーターとしては、ストレス遭遇時に機能するストレス誘導性プロモーター、温度変化又は温度(高温又は低温)遭遇時に機能する温度誘導性プロモーター、光強度又は光遭遇時に変化する光誘導性プロモーター、生育変化又は生育段階又は生育時期に機能する時期誘導性プロモーター、病原体感染時又は病原体遭遇時に機能する病原体誘導性プロモーター、傷害遭遇時又は害虫遭遇時に機能する傷害誘導性プロモーター等を用いることができる。例えば、ポリアミン合成酵素遺伝子と植物が低温に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、BN115プロモーター:Plant physiol.,106, 917-928, 1999)を用いることによって、低温時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し低温ストレス抵抗性を改良することができる。ポリアミン合成酵素遺伝子と植物が乾燥に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、Atmyb2プロモーター:The Plant Cell, 5, 1529-1539, 1993)を用いることによって、乾燥時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し乾燥ストレス抵抗性を改良することができる。種々のストレスで誘導されるペルオキシダーゼプロモーター(特許第3571639号、特許第3259178号)を用いることによって、種々のストレス時に植物体のポリアミン代謝を制御し種々の環境ストレス抵抗性を改良することができる。さらにポリアミン合成酵素遺伝子と栄養生長期に働くプロモーターを用いることによって、栄養生長期のみでストレス耐性を改良することができる。
【0049】
ADC遺伝子、ODC遺伝子、SAMDC遺伝子はポリアミン代謝では比較的上流に作用するため、ポリアミン代謝への影響が強くて恒常性タイプのプロモーターではなく、誘導性タイプのプロモーターを利用することが本発明において極めて重要で植物の生長や生育には悪影響を及ぼさない範囲内でポリアミン含量を増加させることができ、それによって種々のストレス耐性のパラメーターを改良することができる。
【0050】
本発明の植物の生長や生育には悪影響を及ぼさない範囲内でポリアミン含量を増加させるとは、構成的又は恒常的に植物内のポリアミン含量を増加させるのではなく、ストレス遭遇時、温度遭遇時、光遭遇時又は生育段階時などにポリアミン含量を変化させることである。前記に示した必要な時期又は特徴的な時期にポリアミン含量を制御することで、生長や生育への影響を回避できる。好ましくはストレス遭遇時、温度(高温又は低温)遭遇時にポリアミン含量を増加させることである。より好ましくはストレス遭遇時にポリアミン含量を増加させることである。増加させるポリアミンの形態としては遊離型ポリアミン、化合型ポリミン、結合型ポリアミンが挙げられる。好ましくは遊離型ポリアミン又は化合型ポリアミンである。より好ましくは遊離型ポリアミンである。増加させるポリアミンの種類としてはプトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンである。好ましくはスペルミジン又は/及びスペルミンである。より好ましくはスペルミジンである。増加させるポリアミン含量の範囲は1.1〜5.0倍量である。好ましい範囲は1.1〜4.0倍量である。より好ましい範囲は1.3〜3.5倍量である。増加させるポリアミン含量の範囲は生長や生育に対して悪影響を及ぼさないこと及び種々のストレス耐性のパラメーターの改良にとって極めて重要である。
【0051】
本発明の発現ベクターにおいて、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子は、植物中で機能し得るプロモーターによりその転写が制御されるように、該プロモーターの下流に配置される。該ポリアミン合成酵素遺伝子の下流には、植物で機能し得る転写終結シグナル(ターミネーター領域)がさらに付加されていることが好ましい。例えば、ターミネーターNOS(ノパリン合成酵素)遺伝子等が挙げられる。
【0052】
本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列等のシス調節エレメントをさらに含んでもよい。また、該発現ベクターは、薬剤耐性遺伝子マーカーなどの形質転換体選抜のためのマーカー遺伝子、例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、ホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT)遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子等をさらに含んでもよい。選択圧をかけない条件では、組み込まれた遺伝子が脱落する現象が起こる場合があるので、除草剤耐性遺伝子をベクター上で共存させておけば、栽培中該除草剤を使用することにより、常に選択圧がかかった条件を実現できるという利点もある。
【0053】
さらに、大量調製および精製を容易にするために、該発現ベクターは、大腸菌での自律複製を可能にする複製起点および大腸菌での選択マーカー遺伝子(例えばアンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等)を含むことが望ましい。本発明の発現ベクターは、簡便には、pUC系またはpBR系の大腸菌ベクターのクローニング部位に上記ポリアミン合成酵素遺伝子の発現カセットと必要に応じて選択マーカー遺伝子を挿入することにより構築することができる。
【0054】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacteriumu rhizogenes)による感染を利用して外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を導入する場合には、該細菌が保持するTiまたはRiプラスミド上のT−DNA領域(植物染色体に転移する領域)内に該ポリアミン合成酵素遺伝子発現カセットを挿入して用いることができる。現在、アグロバクテリウム法による形質転換の標準的な方法ではバイナリーベクター系が使用される。T−DNA転移に必要な機能は、T−DNA自身とTi(またはRi)プラスミドの両者から独立に供給され、それぞれの構成要素は別々のベクター上に分割できる。バイナリープラスミドはT−DNAの切り出しと組込みに必要な両端の25bpボーダー配列を有し、クラウンゴール(または毛状根)を引き起こす植物ホルモン遺伝子が除去されており、同時に外来遺伝子の挿入余地を与えている。このようなバイナリーベクターとして、例えばpBI101やpBI121(Clontech社製)などが市販されている。なお、T−DNAの組込みに作用するVir領域は、ヘルパープラスミドと呼ばれる別のTi(またはRi)プラスミド上にあってトランスに作用する。
【0055】
植物の形質転換には、従来公知の種々の方法を使用することができる。例えば、セルラーゼやヘミセルラーゼなどの細胞壁分解酵素処理により、植物の細胞からプロトプラストを単離し、該プロトプラストと上記ポリアミン合成酵素遺伝子の発現カセットを含む発現ベクターとの懸濁液にポリエチレングリコールを加えてエンドサイトーシス様の過程で該発現ベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(PEG法)、ホスファチジルコリン等の脂質膜小胞内に超音波処理等により発現ベクターを入れ、該小胞とプロトプラストをPEG存在下に融合させる方法(リポソーム法)、ミニセルを用いて同様の課程で融合させる方法、プロトプラストと発現ベクターの懸濁液に電気パルスを印加して外液中のベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(エレクトロポレーション法)が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、プロトプラストから植物体へ再分化させる培養技術を必要とする点で煩雑である。細胞壁を有するインタクトな細胞への遺伝子導入手段としては、マイクロピペットを細胞に刺し込み、油圧やガス圧でピペット内のベクターDNAを細胞内に注入するマイクロインジェクション法、およびDNAをコーティングした微小金粒子を火薬の爆発やガス圧を利用して加速し、細胞内に導入するパーティクルガン法等の直接導入法と、アグロバクテリウムによる感染を利用した方法とがある。マイクロインジェクションは操作に熟練を要し、また、扱える細胞数が少ないという欠点がある。従って、操作の簡便性を考慮すれば、アグロバクテリウム法および、パーティクルガン法により植物を形質転換することが好ましい。パーティクルガン法は、栽培中の植物の頂端分裂組織に直接遺伝子を導入することが可能である点さらに有用である。また、アグロバクテリウム法において、バイナリーベクターに植物ウイルス、例えばトマトゴールデンモザイクウイルス(TGMV)等のジェミニウイルスのゲノムDNAをボーダー配列の間に同時に挿入することにより、栽培中の植物の任意の部位の細胞に注射筒などを用いて菌懸濁液を接種するだけで、植物体全体にウイルス感染が拡がり、同時に目的遺伝子も植物体全体に導入される。これらの方法は、当該分野に置いて周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当該者により適宜選択され得る。
【0056】
SAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子などのポリアミン関連酵素遺伝子の取得、アグロバクテリウムによる目的核酸配列の導入および形質転換植物の作出は、例えば特許文献1を参考にして実施することができる。
【0057】
ポリアミン代謝関連酵素遺伝子についてホモ接合体である本発明の植物は、改良された環境ストレス抵抗性が固定された系統として、種子産業の分野において極めて有用である。
【0058】
本発明の形質転換植物は、サザン解析やノーザン解析でポリアミン合成酵素遺伝子の遺伝子発現解析、ポリアミン量の分析、ストレス耐性遺伝子の発現評価、ストレス耐性の評価を行うことができる。
【0059】
例えば、ポリアミンの定量は、試料をサンプリングしてポリアミンを抽出する。抽出したポリアミンの定量はダンシル化またはベンゾイル化等で標識した後、蛍光又はUV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて内部標準法で分析することができる。具体的には、野生株(非組換え植物)と形質転換体(遺伝子組換え植物)を同時に栽培して、葉、茎、根、種子、果実などの組織中に含まれるポリアミン含量を調べることができる。ポリアミン含量は生育状況によってその含量が変化することから同じ条件下で栽培し、生育期間や栽培期間が揃った組織(例えば葉の場合は同じ葉齢)を調べることが重要である。ポリアミンは遊離型ポリアミン、化合型ポリアミン、結合型ポリアミンがあり抽出方法は異なるがいずれも解析することができる(Plant Cell Physiol., 43(2), 196-206, 2002)。具体例として葉の遊離型ポリアミンの分析方法について詳細に示す。約0.1〜1.0gの葉(同じ葉齢の若葉など)をサンプリングして凍結保存する。サンプリングした試料に希釈内部標準液(1,6−hexanediamine、内部標準量=7.5又12nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり5〜20ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出する。磨砕液を、4℃・35,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取し本液を遊離型ポリアミン溶液とする。スクリューキャップ付きのマイクロチューブに400μlの遊離型ポリアミン溶液、200μlの飽和炭酸ナトリウム水溶液、200μlのダンシルクロライド/アセトン溶液(10mg/ml)を加えて軽く混和する。チューブの栓をしっかりと閉めたのちアルミ箔で覆い、60℃のウォーターバスで1時間加温してダンシル化を行う。チューブを放冷した後、プロリン水溶液(100mg/ml)を200μl加えて混和する。アルミ箔で覆ってウォーターバスで30分間再加温する。放冷後、窒素ガスを吹き付けてアセトンを除いた後に、600μlのトルエンを加えて激しく混和する。チューブを静置して2相に分かれた後に、上層のトルエン層を300μlマイクロチューブに分取する。分取したトルエンに窒素ガスを吹き付けてトルエンを完全除去する。チューブに200μlのメタノールを加えてダンシル化遊離型ポリアミンを溶解させる。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの遊離型ポリアミン量の定量は蛍光検出器(励起波長:365nm・発光波長:510nm)を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析する。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用する。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出する。
【0060】
例えば、ポリアミン分析の結果から外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換された形質転換体の系統(セルライン)の中から、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換されていない非形質転換植物(野性株)に比べてスペルミジン含量又はスペルミン含量が1.1〜4.0倍量高まっている系統(セルライン)を選抜又はスクリーニングする。
【0061】
例えば、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換された形質転換体の系統(セルライン)の中から、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換されていない非形質転換植物(野性株)に比べてストレス耐性遺伝子の発現レベルが1.5〜5.0倍量の範囲内の系統(セルライン)を選抜又はスクリーニングする。ストレス耐性遺伝子の発現レベルの解析はノーザンハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ解析法、定量的RT−PCR法等で調べることができる。
例えば、低温ストレス耐性は、0〜20℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や低温傷害等を調べることにより評価することができる。10℃〜18℃でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)を調べることにより低温ストレス耐性を評価することができる。高温ストレス耐性は、35〜50℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や高温傷害等を調べることにより評価することができる。35℃〜45℃でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)を調べることにより高温ストレス耐性を評価することができる。塩ストレス耐性は、10〜300mM NaClを含んだ培地中で、25〜30℃で生育させて生育状況や塩ストレス障害等を調べることにより評価できる。10〜150mM NaClを含んだ培養土でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)調べることにより塩ストレス耐性を評価できる。乾燥・水ストレス耐性は、水の供給を停止させて停止後の生育状況や障害程度を調べることにより評価することができる。潅水制限した培養土でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)調べることにより乾燥・水ストレスを評価できる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
実施例1:植物由来のポリアミン合成酵素遺伝子のクローニング
(1)ポリ(A)RNAの調製
クロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)をバーミキュライトに播種し、子葉展開時に市販の床土(サンサン床土;タキイ種苗社製)を詰めた鉢に移植した。鉢上げしたクロダネカボチャを植物栽培用のインキュベーター(気温 昼26℃/夜22℃、13時間日長)内に置いた。第2本葉展開時にインキュベーター内の温度を昼18℃/夜14℃まで下げ低温処理を開始した。低温処理3日後に、根、茎、葉に分けてサンプリングした。RNA抽出まで-80℃のフリーザーに保存した。
【0063】
約4gのクロダネカボチャの根組織を直ちに液体窒素中で凍結し、液体窒素存在下乳鉢で細かく粉砕した。その後、10 mlの抽出用0.2Mトリス酢酸緩衝液〔5M guanidine thiocyanate、0.7%β−mercaptoethanol、1%polyvinylpyrrolidone(M.W.360,000)、0.62%N−Lauroylsarcosine Sodium Salt、pH8.5)を加えポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用い氷冷下2分間粉砕した。ただし、β−メルカプトエタノールとポリビニルピロリドンは使用する直前に添加した。その後、粉砕液を17,000×gで20分間遠心分離し、上清を回収した。
【0064】
この上清をミラクロスで濾渦し、その濾液を超遠心分離管に入れた5.7M塩化セシウム溶液1.5 mlに静かに重層し、155,000×g、20℃で20時間遠心した後、上清を捨てRNAの沈殿を回収した。この沈殿を3mlの10mM Tris-HCl、1mM EDTA・2Na、pH8.0(TE緩衝液と呼ぶ)に溶解し、さらに等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(容積比、25:24:1)を加え良く混合した後、遠心分離を行って上層の水層を回収した。得られた水層に、1/10倍量の3M 酢酸ナトリウム(氷酢酸でpH6.2に調製)と、2.5倍量のエタノールを添加して良く混合し、-20℃で一晩静置した。その後、17,000×gで20分間遠心分離し、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄して減圧乾燥した。
【0065】
この乾燥標品を500μlの前述のTE緩衝液に溶解し、全RNA溶液を得た。このRNA溶液を65℃で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。これに2×結合緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、1M NaCl、0.5% SDS、pH7.5)を等量になるようにRNA溶液に加え、平衡化緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、0.5M NaCl、0.5% SDS、pH7.5)で予め平衡化したオリゴdTセルロースカラム(Clontech社製)に重層した。次いで、カラムを約10倍量の前述の平衡化緩衝液で洗浄した後、溶出緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、pH7.5)でpoly(A)RNAを溶出した。
【0066】
得られた溶出液に1/10倍量の前述の3M 酢酸ナトリウム水溶液と、2.5倍量のエタノールを加え混合し、-70℃で静置した。その後、10,000×gで遠心分離を行ない、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄して減圧乾燥した。この乾燥標品を再度500μlのTE緩衝液に溶解し、オリゴdTセルロースカラム精製を繰り返し行った。得られた低温処理したクロダネカボチャの根由来のpoly(A)RNAはPCR用のcDNAライブラリーと完全長遺伝子単離用のcDNAライブラリーの作製に用いた。
(2)cDNAライブラリーの作製
cDNAライブラリーの作製はMarathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を使用し、プロトコールに従った。poly(A)RNAを鋳型として3’末端に2つのdegenerate nucleotide position を持つ修飾lock-docking オリゴdTプライマーと逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAの両末端にMarathon cDNAアダプター(T4 DNA ligaseによりds cDNAの両末端へ結合しやすくなるように5’末端をリン酸化したもの)を連結した。得られたアダプター結合のcDNAをライブラリーとした。
(3)PCR用プライマーの設計
既に植物や哺乳類から単離されているアルギンニン脱炭酸酵素遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子、スペルミジン合成酵素遺伝子の決定されている塩基配列を比較した。そして、非常に相同性が高く保存されている領域を選び出し、DNAオリゴマーを合成した(配列プライマーI〜IV)。
SAMDCプライマーI(配列番号5):5’−TATGTGCTGTCTGAGTCGAGC−3’
SAMDCプライマーII(配列番号6):5’−GCTAAACCCATCTTCAGGGGT−3’
ADCプライマーIII(配列番号7):5’−GGGCT(T/G)GGA(G/A)T(G/C)GACTA(C/T)−3’
ADCプライマーIV(配列番号8):5’−(T/C)CC(A/G)TC(A/G)CTGTC(G/A)CA(G/C)GT−3’
(4)PCRによる増幅
(2)で得られたPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、(3)で設計した配列プライマーを用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、45℃、1分間、72℃、2分間で5サイクル、続いて94℃、30秒、55℃、1分間、72℃、2分間で30サイクル行った。
(5)アガロースゲル電気泳動
PCR増幅産物を1.5%アガロースで電気泳動し、泳動後のゲルをエチジウムブロマイド染色し、UVトランスイルミネーター上で増幅バンドを検出した。
(6)PCR産物の確認と回収
検出された増幅バンドを確認し、カミソリの刃を用いてアガロースゲルから切り出した。切り出したゲルを1.5mlのマイクロチューブに移し、QIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルからDNA断片を単離精製した。回収したDNA断片をpGEMTクローニングベクター(Promega社製)にサブクローニングし、大腸菌に形質転換後、常法に従ってプラスミドDNAを調製した。
(7)塩基配列決定
得られたプラスミドの挿入配列の塩基配列決定をダイデオキシ法(Messing, Methods in Enzymol., 101, 20-78, 1983)により行った。SPDS遺伝子については3種類の遺伝子、SAMDC遺伝子については1種類の遺伝子、ADC遺伝子については2種類の遺伝子が単離された。
(8)ホモロジー検索
これらの遺伝子の塩基配列を既知遺伝子塩基配列のデータベースとホモロジーサーチを行うとSAMDC遺伝子については既知の植物由来のSAMDC遺伝子と70%以上の相同性を示した。ADC遺伝子については既知の植物由来のADC遺伝子と67%以上の相同性を示した。
(9)完全長遺伝子の単離
完全長遺伝子の単離はMarathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を使用した5’-RACE(rapid amplification of cDNA ends)及び3’-RACEを一体化した方法(Chenchik et al., 1995)で行った。5’-RACEはcDNAライブラリーをテンプレートとして、AP1プライマー(5’-CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC-3’;配列番号9)と遺伝子特異的プライマー(SAMDC-F-1: 5’-CATCAGGACTTCCCATCACATAAG-3’(配列番号10), ADC-R-2: 5’-AAGCCCATCTACCGCAGCTAGTTC-3’(配列番号11))を用いてPCRを行った。PCRのステップは、SAMDC遺伝子は最初、94℃、30秒、60℃、60秒、68℃、3分で30サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。ADC遺伝子は、最初、94℃、30秒、58℃、60秒、72℃、3分で30サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。3’-RACEはcDNAライブラリーをテンプレートとして、AP1プライマー(5’-CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC-3’ ;配列番号9)と遺伝子特異的プライマー(SAMDC-F-2: 5’-CTTGATGGCTACTTGGCCAAGCTT-3’ (配列番号12), ADC-R-3: 5’-CCATGAGCTCGATTGAACGTCAGT-3’ (配列番号13))を用いてPCRを行った。PCRのステップは、SAMDC遺伝子は最初、94℃、30秒、60℃、60秒、68℃、3分で30サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。ADC遺伝子は、最初、94℃、30秒、58℃、60秒、72℃、3分で30サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。5’-RACEと3’-RACEで得られた遺伝子断片をそれぞれpGEM-Tクローニングベクター(Promega社製)、又はpT7Blue(Novagen社)ベクターにサブクローニングした。RACE法で得られた5’遺伝子断片と3’遺伝子断片はプロトコールに従って重複領域に存在する制限酵素を利用して1本鎖(完全長鎖)にした。さらに前述した方法に従って全塩基配列を決定し、DINASIS-Mac version 3.6 software package(日立ソフトウエアエンジニアリング社製)で解析した。
【0067】
完全長のクロダネカボチャ由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子をFSAM24(配列番号1,2)、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子をFADC76(配列番号3,4)と命名した。
【0068】
得られたFSAM24を既知の植物由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子(SAMDC遺伝子)とアミノ酸レベルで比較したところ、FSAM24は63〜66%の相同性が認められた。FADC76を既知の植物由来のアルギニン脱炭酸酵素遺伝子(ADC遺伝子)とアミノ酸レベルで比較したところ、FADC76は71〜77%の相同性が認められた。FSPM5をシロイヌナズナ由来のスペルミン合成酵素遺伝子(ACL5:GenBankアクセッションナンバーAF184093)とアミノ酸レベルで比較したところ、アミノ酸の完全一致が認められた。

実施例2:トランスジェニックサツマイモの作製と解析
(1)発現コンストラクトの作製
配列番号1に示したポリアミン合成酵素遺伝子FSAM24の塩基配列より5’非翻訳領域(uORF)とオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSAM24+/−、pBIC2−FSAM24+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSAM24+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FSAM24+/−と命名した。
【0069】
配列番号3に示したポリアミン合成酵素遺伝子FADC76の塩基配列より5’非翻訳領域(uORF)とオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FADC76+/−、pBIC2−FADC76+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FADC76+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FADC76+/−と命名した。
(2)プラスミドのアグロバクテリウムへの導入
(1)で得られた大腸菌pBI35S−FSAM24+/−、大腸菌pBIC2−FSAM24+/−、大腸菌pBI35S−FADC76+/−、大腸菌pBIC2−FADC76+/−とヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101株を、それぞれ50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムEHA101株を50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブに取り集菌したのち、LB培地で洗浄した。これらの菌体を1mlのLB培地に懸濁後、3種の菌を100μlずつ混合し、LB培地寒天培地にまき、28℃で培養してプラスミドをアグロバクテリウムに接合伝達(三者接合法)させた。1から2日後に一部を白金耳でかきとり、50mg/lカナマイシン、20mg/lハイグロマイシン、25mg/lクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28℃で2日間培養した後、単一コロニーを選択した。得られた形質転換体をEHA101/pBI35S−FSAM24+/−、EHA101/pBIC2−FSAM24+/−、EHA101/pBI35S−FADC76+/−、EHA101/pBIC2−FADC76+/−と命名した。
(3)サツマイモの形質転換
サツマイモ高系14号(石川県立農業短期大学農業資源研究所島田多喜子教授より提供、以下「高系14号」又は「野生株」という)を鉢植えにて通常の栽培管理により栽培し、茎頂を含む5cm程度の茎先端部数十本を採取した。これを滅菌した300mlビーカーに入れた70%エタノール150mlに2分浸漬の後、同様に滅菌したビーカーに入れた滅菌液(5%次亜塩素酸ナトリウム、0.02%Triton X−100)150mlに2分浸漬して滅菌を行った。滅菌した茎先端部は、滅菌ビーカーに入れた滅菌水で3回洗浄を行った。洗浄後、実体顕微鏡下で無菌的に茎頂分裂組織を含む0.5mm程度の組織を摘出した。これを胚性(Embryogenic)カルス誘導培地〔4F1プレート:LS培地(1.9g/l KNO、1.65g/l NHNO、0.32g/l MgSO・7HO、0.44g/l CaCl・2HO、0.17g/l KHPO、22.3mg/l MnSO・4HO、8.6mg/l ZnSO・7HO、0.025mg/l CuSO・5HO、0.025mg/l CoCl・6HO、0.83mg KI、6.2mg HBO、27.8mg FeSO・7HO、37.3mg/l Na・EDTA、100mg/l myo−イノシトール、0.4mg/l 塩酸チアミン)、1mg/l 4−fluorophenoxyacetic acid(4FA)、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8〕上に置床し、植物インキュベーター(サンヨー社製、MLR−350HT)中で26℃、暗黒条件下にて培養した。約1ヶ月後、増殖した組織より植物体への再分化能を持つ胚性カルスを選抜した。選抜した胚性カルスは以後、1ヶ月毎に新しい4F1プレートに移植し、増殖させた。アグロバクテリウムの感染は形質転換アグロバクテリウム株EHA101/pBI35S−FSAM24+/−、EHA101/pBIC2−FSAM24+/−(CaMV35Sプロモーターを西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼプロモーターに置き換えたもの)、EHA101/pBI35S−FADC76+/−、EHA101/pBIC2−FADC76+/−(CaMV35Sプロモーターを西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼプロモーターに置き換えたもの)を50mg/lカナマイシン及び50mg/lハイグロマイシンを含むLB寒天培地にて27℃、2晩培養後、菌体を飯粒2粒程度掻き取り、感染培地(LS培地、20mg/l アセトシリンゴン、1mg/l 4FA、30g/l ショ糖、pH5.8)50mlに懸濁し、100rpm、26℃、暗黒条件下にて1時間振とうした。この菌体懸濁液を、滅菌したステンレスネット製バスケットを入れた300ml滅菌ビーカーに移した。ビーカーに2週間〜3週間培養した胚性カルスをこのビーカーのバスケットに入れて2分間浸したのち、2枚重ねた滅菌濾紙上にバスケットごと乗せて余分な水分を除き、共存培養培地(4F1A20プレート:LS培地、1mg/l 4FA、20mg/l アセトシリンゴン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移して、22℃、暗黒条件下にて3日間共存培養した。3日間共存培養した胚性カルスを、除菌液(滅菌水にカルベニシリンを終濃度500mg/lとなるように加えたもの)50mlを入れた滅菌したステンレスバスケット入り300mlビーカーのバスケットに移し、ピンセットでバスケットをつまみ、数分間良く洗浄した。次に胚性カルスを、バスケットごと除菌液を入れた300ml滅菌ビーカーに移し、再び洗浄を行った。同じ操作を再度繰り返した後、滅菌濾紙上で余分な水分を除き、選抜培地(4F1HmCarプレート:LS培地、1mg/l 4FA、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に並べて26℃、暗黒条件下にて培養した。形質転換カルスの選択は2週間培養した胚性カルスを、以後2週間毎に新しい4F1HmCarプレートに移植し、培養した。非形質転換カルスは褐変したが、一部の形質転換された細胞は淡黄色の胚性カルスを形成した。形質転換された胚性カルスは、選抜培地置床後60日で、体細胞胚形成培地(A4G1HmCarプレート:LS培地、4mg/l ABA、1mg/l GA3、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し26℃、弱光(30〜40μmol/m/s)、全日長条件下にて2週間培養の後、植物体形成培地(A0.05HmCarプレート:LS培地、0.05mg/l ABA、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し、同条件で培養した。以後2週間毎に新しいA0.05HmCarプレートに移植した。形質転換された細胞は緑色を呈する胚性カルス由来体細胞胚を形成するので、これを植物生育培地(0Gプレート:LS培地、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し、シュートを形成させた。FSAM24とFADC76を35Sプロモーターで制御したコンストラクトについては、C2プロモーターで制御したコンストラクトに比べて明らかに得られる形質転換体の数が少なかった。ポリアミン代謝の上流で作用しているSAMDC遺伝子やADC遺伝子はポリアミン代謝への影響が強いことから、FSAM24とADC76を35Sプロモーターのような恒常性タイプのプロモーターで制御する場合には、ポリアミン量が過剰または急激に変化することで生長に悪影響を及ぼしている可能性が認められた。FSAM24とFADC76を35Sプロモーターで制御したコンストラクトについては、できるだけ多くの形質転換体を確保し、できるだけ多くの形質転換体を確保し、その中からポリアミン含量の増加範囲内が1.1〜4.0倍量の範囲内で、生育や生長への影響が小さいか又はほとんどないような形質転換体を選んだ。得られた形質転換体について導入遺伝子の確認と発現解析を行った。具体的には導入遺伝子の確認については、ゲノムDNAを調整した後に、PCR法とサザンハイブリダーゼーションを行った。導入遺伝子の発現解析は、RNAを調製した後に、ノーザンブロッティングを行った。その結果、目的遺伝子が導入されて発現している形質転換サツマイモ(形質転換体)を得ることができた。さらに、ノーザンブロッティングとウエスタンブロッティングにより発現レベルと翻訳レベルを詳細に調べ、ポリアミン合成酵素遺伝子が導入されて且つ該遺伝子が安定的に発現又は翻訳しているセルラインを選抜した。FSAM24がセンス方向(+)で導入されているセルライン、TSA−SS−1、TSA−SS−2、TSA−SS−5、TSA−SS−6、TSA−CS−1、TSA−CS−7、TSA−CS−9を選抜し、TSA−SS−1、TSA−SS−2、TSA−SS−5、TSA−SS−6はプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターが導入されている系統、TSA−CS−1、TSA−CS−7、TSA−CS−9は西洋わさび由来のペルオキシダーゼプロモーター(C2プロモーター)が導入されている系統である。FADC76がセンス方向(+)で導入されているセルライン、TAD−SS−1、TAD−SS−2、TAD−SS−4、TAD−CS−1、TAD−CS−8、TAD−CS−10を選抜し、TAD−SS−1、TAD−SS−2、TAD−SS−4はプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターが導入されている系統、TAD−CS−1、TAD−CS−8、TAD−CS−10は西洋わさび由来のペルオキシダーゼプロモーター(C2プロモーター)が導入されている系統である。
(4)ポリアミンの解析
(3)で作製した形質転換サツマイモについて、恒常性タイプの35Sプロモーターと誘導性タイプのC2ペルオキシダーゼプロモーター制御のセルラインを選び非ストレス条件下でのポリアミン分析を行った。同時に栽培を行った野生株(WT)と形質転換体(TSA、TAD)から約0.3〜0.9gの若葉をサンプリングして凍結保存した。サンプリングした試料に希釈内部標準液(1,6−hexanediamine、内部標準量=7.5又12nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり5〜10ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出した。磨砕液を、4℃・35,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取し本液を遊離型ポリアミン溶液とした。スクリューキャップ付きのマイクロチューブに400μlの遊離型ポリアミン溶液、200μlの飽和炭酸ナトリウム水溶液、200μlのダンシルクロライド/アセトン溶液(10mg/ml)を加えて軽く混和した。チューブの栓をしっかりと閉めたのちアルミ箔で覆い、60℃のウォーターバスで1時間加温してダンシル化を行った。チューブを放冷した後、プロリン水溶液(100mg/ml)を200μl加えて混和した。アルミ箔で覆ってウォーターバスで30分間再加温した。放冷後、窒素ガスを吹き付けてアセトンを除いた後に、600μlのトルエンを加えて激しく混和した。チューブを静置して2相に分かれた後に、上層のトルエン層を300μlマイクロチューブに分取した。分取したトルエンに窒素ガスを吹き付けてトルエンを完全除去した。チューブに200μlのメタノールを加えてダンシル化遊離型ポリアミンを溶解させた。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの遊離型ポリアミン量の定量は蛍光検出器(励起波長:365nm・発光波長:510nm)を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用した。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出した。その結果の一部を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、明らかなようにポリアミン合成酵素遺伝子(FSAM24、FADC76)を35Sプロモーター制御下でセンス方向に導入したセルライン(TSA、TAD)は、プトレシン含量、スペルミジン含量、スペルミン含量が野生株(WT)より有意に増加し、総ポリアミン含量も野生株(WT)より有意に増大していることが示された。TSA(FSAM24)は、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子はポリアミン代謝への影響が大きいにも関わらず、5’非翻訳領域(uORF)を全て含んだ形でSAMDC遺伝子を植物に導入したことで、翻訳レベルが抑制されて過剰なポリアミン含量の増大は見られなかった。TAD(FADC76)は、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子はSAMDC遺伝子と同様にポリアミン代謝への影響が大きいにも関わらず、5’非翻訳領域(uORF)を全て含んだ形でADC遺伝子を植物に導入したことで、翻訳レベルが抑制されて過剰なポリアミン含量の増大は見られなかった。
【0072】
次にストレス条件下でのポリアミン分析を行った。形質転換体系統から4系統(TSA-SS-6, TAD-SS-2, TSA-CS-1, TAD-CS-1)を選抜した。形質転換体4系統と野生株(WT:高系14号)を供試して閉鎖系ガラス室で栽培実験を行った。1芽を付けた挿し穂を調製し、市販の床土(サンサン床土)に挿し穂して発根させた後、閉鎖系ガラス室(気温23℃/21℃、湿度55%、自然日長)で5枚目の葉が完全展開するまで育成した。 3週間後に、これらの苗から生育が揃った苗を選抜し、1系統あたり6個の20 Lの培養土(サンサン床土)を詰めた30 Lプランターに4株ずつ定植し(1処理区当たりのプランター数は2個)、閉鎖系ガラス室(設定気温23〜24℃/21〜22℃、湿度55%、自然日長)で栽培を始めた。肥料はプランター当たり硫酸カリウムを3.6 g、エコロング(14-12-14、100日型)を13.4 g施与した。土壌水分は全てのプランターにテンシオメーター(DM-8M、三商社製)を設置して測定した。ストレス処理は非ストレス区(対照区)、塩ストレス区、乾燥ストレス区とし、1処理区に2個のプランターを供試した。塩ストレス区は、定植時に培養土100 L当たり120 gのNaClを土壌全層に混和し、NaCl濃度はプランター当たりで合計約21 mmol/Lとなった。対照区と塩ストレス区の潅水は、土壌水分吸引圧がpF 2.3を潅水点とし、pFが圃場容水量(pF 1.5)にまで低下する量の水道水(1.5〜6 L/回・プランター)を潅水した。乾燥ストレス区は潅水制限により与え、pFが2.9になった時にプランター当たり0.75〜3 Lを潅水した。定植から30日目に蔓の先端から第5〜7位の葉をサンプリングしてポリアミン分析を行った。ポリアミンの抽出と定量は前記に示した方法と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2より、明らかなようにポリアミン合成酵素遺伝子(FSAM24、FADC76)を35Sプロモーター制御下で導入したセルライン(TSA−SS、TAD−SS)は、ストレス処理の有無に関係なくポリアミン含量が有意に増加した。ストレス誘導性タイプのC2プロモーター制御下で導入したセルライン(TSA−CS、TAD−CS)は、ストレス処理区で顕著にポリアミン含量が有意に増加した。特にSAMDC遺伝子(FSAM24)はスペルミジンとスペルミン含量、ADC遺伝子(FADC76)はプトレシン、スペルミジン、スペルミン含量が顕著に高まった。特にスペルミジンとスペルミン含量の増加が顕著であった。C2プロモーターが塩ストレスと乾燥ストレスによって機能していることも確認された。
実施例3:トランスジェニックサツマイモの種々のストレス耐性の評価
(1)酸化・除草剤・強光ストレス耐性の評価
形質転換体系統の中から系統(TSA-SS-6, TSA-CS-1, TAD-SS-2, TAD-CS-1)を選抜した。形質転換体4系統と野性株(WT)の挿し苗を育成し、同じ葉齢の若葉からリーフディスクを調製し、パラコートを含むか(1, 2, 5, 10μM)、含まない溶液に浮かべて、25℃の光条件(240 μmol m-2 s-1 PPFD)で38時間培養後の葉片のクロロフィル保有量を調べた。クロロフィルの抽出はリーフディスクを蒸留水で洗浄後に水切り。2〜4枚のリーフディスクをポリチューブに移して、80%のアセトン溶液を2又は3ml加えた。ポリトロンミキサー(小ジェネレーター・速度8)で3分間、氷水中で磨砕した後、4℃・11,000rpmで10分間遠心分離した。上澄液を採取して、その一部(900μl)について吸光度(OD645, OD663)を測定した。クロロフィル含量は吸光度の値から、Arnonらの方法(Plant Physiol., 24, 1-15, 1949)に従ってクロロフィル含量(保有量)を算出した。その結果を図1に示した。パラコートを含んだ溶液では野性株(WT)に比べて形質転換体では有意にクロロフィル保有量が高く、パラコートによるクロロフィルの分解抑制程度が大きかった。SAMDC遺伝子又はADC遺伝子を植物に導入することによって、サツマイモの酸化、除草剤および強光ストレス耐性が有意に増大することが明らかとなった。プロモーターについては恒常性タイプのプロモーターに比べて(SSライン)誘導性タイプのプロモーター(CSライン)の方が全てのパラコート区で有意にクロロフィル分解の抑制程度が大きかった。特に、高濃度のパラコート区(5, 10μM)では、顕著な差が見られ特にTSA-CS-1、TAD-CS-1でクロロフィル分解の抑制程度が顕著に大きかった。以上の結果から、SAMDC遺伝子とADC遺伝子については、特により強いストレス条件下では恒常性プロモーター(35Sプロモーター)に比べてストレス・傷害誘導性プロモーター(C2プロモーター)の方が酸化・除草剤・強光ストレス耐性を高める効果が顕著に優れていることが示された。
(2)塩ストレス耐性の評価
形質転換体系統の中から系統(TSA-CS-1, TAD-CS-1)を選抜した。形質転換体2系統と野生株(WT)の挿し穂を、高濃度の150mM NaClを含むか含まない生育培地(MS培地、20g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に植え込んでグロースチャンバー(気温25℃、16時間日長、光条件50μmol m-2 s-1 PPFD)に移して塩ストレス試験を開始した。試験開始から1ヶ月後に塩ストレス傷害を調べた。その結果、野性株(WT)の葉では塩ストレス傷害の一つである黄化現象が顕著に観察された。一方、形質転換体2系統(TSA-CS-1, TAD-CS-1)の葉では黄化現象は全く見られなかった。TSA-CS-1の葉姿を図2に示した。以上の結果から、通常の塩ストレス条件よりも高い濃度(150mM)で短期間の塩ストレスに遭遇させた場合、ストレス・傷害誘導性プロモーター制御下でSAMDC遺伝子又はADC遺伝子を過剰発現させた形質転換体は、野性株に比べて塩ストレスによる生育障害が小さく、塩ストレス耐性が顕著に優れていることが示された。
(3)乾燥ストレス耐性の評価
形質転換体系統から2系統(TSA-CS-1, TAD-CS-1)を選抜した。形質転換体2系統と野生株(WT:高系14号)を供試して閉鎖系ガラス室で栽培実験を行った。1芽を付けた挿し穂を調製し、市販の床土(サンサン床土)に挿し穂して発根させた後、閉鎖系ガラス室(気温23℃/21℃、湿度55%、自然日長)で5〜6枚目の葉が完全展開するまで育成した。 約1ヶ月後に、突然給水を停止して強い乾燥ストレスを与えた。その結果、66時間目には野性株は全ての個体が著しく萎れた。一方、形質転換体は一部の個体では僅かに萎れが見られたが、ほとんどの個体では萎れが全く見られず正常であった。その結果を図3に示した。図3の結果から明らかなように、野性株は著しく萎れているが形質転換体(TSA-CS-1, TAD-CS-1)は正常であった。以上の結果から、突発的かつ通常より強い乾燥ストレスに遭遇させた場合、ストレス・傷害誘導性プロモーター制御下でSAMDC遺伝子又はADC遺伝子を過剰発現させた形質転換体は、野性株に比べて乾燥ストレスによる生育障害が小さく、乾燥ストレス耐性が顕著に優れていることが示された。
【0075】
種々な環境ストレス耐性の評価実験の結果から、ストレス・傷害誘導性プロモーター制御下でSAMDC遺伝子又はADC遺伝子を過剰発現させた形質転換体では、特に短期間の強い環境ストレスに遭遇した場合には野性株に比べて著しくストレス耐性や抵抗性が高まること、及び恒常性タイプのプロモーター制御下でSAMDC遺伝子又はADC遺伝子を過剰発現させた形質転換体よりも優れたストレス耐性や抵抗性が高まることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】ポリアミン合成酵素遺伝子で導入したサツマイモと野性株との酸化・除草剤・強光ストレス耐性の比較を示す図である。
【図2】ポリアミン合成酵素遺伝子で導入したサツマイモと野性株との塩ストレス耐性の比較を示す図である。
【図3】ポリアミン合成酵素遺伝子で導入したサツマイモと野性株との乾燥ストレス耐性の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下で安定に保持し、且つ該外因性のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を有していない比較対照植物に比べて少なくとも1種のストレス耐性が改良された植物及びその子孫。
【請求項2】
該ストレス耐性が改良された植物が、前記誘導性プロモーターの制御下にある前記外因性ポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物を形質転換して得られる形質転換植物である、請求項1記載の植物及びその子孫。
【請求項3】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及び/又はS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子である請求項1または2に記載の植物及びその子孫。
【請求項4】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、該遺伝子の上流側にuORFを含むアルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及び/又はS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子である請求項1または2に記載の植物及びその子孫。
【請求項5】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項1〜4のいずれかに記載の植物及びその子孫。
(a)配列番号1(SAMDC、1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項6】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項1〜4のいずれかに記載の植物及びその子孫。
(a)配列番号3(ADC、3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項7】
改良されるストレス耐性が、酸化ストレス耐性、除草剤ストレス耐性、塩ストレス耐性、乾燥ストレス耐性、水ストレス耐性、低温ストレス耐性、弱光ストレス耐性、強光ストレス耐性、高温ストレス耐性及び病原菌ストレス耐性からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の植物及びその子孫。
【請求項8】
植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を安定に保持し、且つ該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を作出する方法。
【請求項9】
植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を作出する方法。
【請求項10】
該形質転換細胞から植物を再生する工程をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及び/又はS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、該遺伝子の上流側にuORFを含むアルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及び/又はS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項9記載の方法。
(a)配列番号1に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項14】
該ポリアミン合成酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項9記載の方法。
(a)配列番号3に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項15】
改良されるストレス耐性が、酸化ストレス、除草剤ストレス、塩ストレス耐性、乾燥ストレス耐性、水ストレス耐性、低温ストレス耐性、弱光ストレス耐性、強光ストレス耐性、高温ストレス耐性及び病原菌ストレス耐性からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、
(2)該形質転換細胞から、該外因性遺伝子を有していない植物に比べて改良されたストレス耐性を有する植物を選抜する工程
を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定された植物の作出方法。
【請求項17】
請求項9〜16に記載の方法により得られた植物を栽培し、植物を収穫することを特徴とする比較対照植物に比べてストレスが改良された植物の製造方法。
【請求項18】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得る誘導性プロモーターの制御下にある外因性のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン合成酵素酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良された生産性ないし種子もしくは胚珠、子房、繊維、穂、莢の数、大きさを有する植物を選抜すること
を含む、該外因性遺伝子を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし種子もしくは胚珠、子房、繊維、穂、莢の数、大きさを有する形質が固定された植物の作出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−21(P2007−21A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180644(P2005−180644)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】