説明

ポリアリ−レンスルフィド樹脂組成物の製造方法

【課題】 ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型品が優れた耐衝撃性および曲げ強度を有し、かつ該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時に発生するガスが少ない、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの熱可塑性エラストマー粒子(B)とを、該熱可塑性エラストマー粒子(B)が全配合成分に対して0.1質量%〜2.0質量%となる割合で溶融混練すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電気又は電子部品の用途に適する、優れた耐衝撃性および曲げ強度を有し、かつ成型時の発生ガス量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、機械部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
これらのなかでも自動車の電気又は電子部品の用途では、耐衝撃性および曲げ強度のような優れた機械的物性を有する樹脂材料が要求されており、該要求を満足させるために、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂、溶融シリカ、およびエラストマーからなる電子部品封止用材料として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が知られている。(特許文献1参照)。しかしながら、前記ポリアリ−レンスルフィド樹脂組成物は成型品の良好な機械的物性を得るために該ポリアリ−レンスルフィド樹脂組成物全量に対して前記エラストマーを3質量%〜5質量%という多量な範囲で配合する必要があり、その為、300℃以上の高温条件下に溶融混練され成型に供される場合に前記エラストマーが成型時に分解して多量のガスを発生させるものであった。このような多量のガス成分は、成型時に金型表面で凝縮してヤニを形成してしまう為、金型の頻繁なメンテナンスを要することになり、成型効率の低下を招いていた。一方、前記エラストマーの含有率を低くした場合には、発生ガス量は低減できるものの、前記ポリアリ−レンスルフィド樹脂組成物の機械的物性は低下するものであった。このように前記ポリアリ−レンスルフィド樹脂組成物を自動車部品の電気又は電子部品の用途に用いた場合、成型品の良好な機械的物性と溶融混練時の発生ガス量とのバランスをとることは困難なものであった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−349813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型品において優れた耐衝撃性および曲げ強度を有し、かつ該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時に発生するガスが少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対して、所定の体積平均粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子(B)を、所定配合となる割合で溶融混練することにより、上記課題を解決出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを、該熱可塑性エラストマー粒子(B)が全配合成分に対して0.1質量%〜2.0質量%となる割合で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時に発生するガスが少なく、さらに該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型品が格別優れた耐衝撃性および曲げ強度を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、前記した通りポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを、該熱可塑性エラストマー粒子(B)が全配合成分に対して0.1質量%〜2.0質量%となる割合で、溶融混練することを特徴とするものである。
【0010】
前記したように本発明では前記体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの範囲にあるごく微小な前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を用いることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中での前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の分散性が非常に大きく改善されるものである。このように、本発明は体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの範囲にあるごく微小な前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を用いることで、その配合量が前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対して0.1質量%〜2.0質量%とごく微量であるにもかかわらず優れた耐衝撃性と曲げ強度とを発現するものである。
【0011】
また、本発明の製造方法において、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とはこれらを溶融混練する前に、両者を予め混合装置でドライブレンドしてから溶融混練装置に投入して溶融混練することが、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を良好に混合できることから好ましい。
【0012】
ここで前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを予めドライブレンドする方法は、ナウタミキサー、タンブラー、又はヘンシェルミキサーなどの混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。例えばナウタミキサーを用いて混合する際の運転条件は、前記ナウタミキサー内部に設置されたスクリューの自転回転数が50rpm〜80rpmの範囲にあり、公転回転数が1.5rpm〜2.5rpmの範囲にある回転数の運転条件が挙げられる。
【0013】
次に前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを溶融混練する方法は、260℃〜370℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを溶融混練する方法が挙げられる。前記溶融混練温度が260℃より高い温度である場合、粘度が低下し前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を均一に分散し易いものである。また前記溶融混練温度が370℃より低い場合、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の分解を抑制できるものである。これらの範囲の中でも前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の均一分散が容易であることと、分解の抑制し易さのバランスを考えることにより、280℃〜360℃の温度範囲で溶融混練することがより好ましい。
【0014】
前記溶融混練に用いられる溶融混練機は押出機、ニーダー等の溶融混練機が挙げられる。これらの装置の中でも溶融混練後のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の取り扱いが容易なことから押出機を使用することが好ましい。
【0015】
溶融混練に前記押出機を用いる場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分の投入口から、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が溶融混練された後に排出される吐出口の方向に温度勾配を設けることが好ましい。すなわち、前記押出機の溶融シリンダー内の軸方向の全長に対し、前記投入口から前記吐出口に向かって5分の2の長さの部分の溶融シリンダー内温度が330℃〜370℃の範囲であって、かつ、前記吐出口から前記投入口に向かって溶融シリンダー内の全長の5分の2の長さの部分の溶融シリンダー内温度が260℃〜320℃の範囲であることが好ましい。このように溶融シリンダー内の軸方向で温度勾配を設けることにより、各配合成分の投入口付近では配合成分が速やかに溶融して分散性が良好となると共に、前記吐出口付近では剪断発熱による熱劣化を回避することができ、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の均質性と成型品の機械的強度が一層良好なものとなる。
【0016】
このように溶融シリンダー内に温度勾配を設ける具体的手段としては、例えば、1つあたり溶融シリンダー内の軸方向の全長を5等分した長さを有する5つのヒーターを、該シリンダーの外殻に投入口から吐出口に向かって順に第1のヒーター、第2のヒーター、第3のヒーター、第4のヒーター、第5のヒーターとして配設し、前記第1のヒーター及び第2の加熱ヒーターを330℃〜360℃の範囲に、第3のヒーターを320℃〜330℃の範囲に、第4のヒーター及び第5のヒーターを280℃〜320℃の範囲に設定する方法が挙げられる。
【0017】
前記押出機は該押出機のシリンダーの内部に配設された前記押出用のスクリューの数が一本の一軸押出機、該スクリューの数が二本の二軸押出機が挙げられるが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の全配合成分の混練効率が高いことから、前記二軸押出機を用いる方法が好ましい。
【0018】
前記二軸押出機での溶融混練の運転条件は、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜0.2(kg/hr・rpm)となる条件下で溶融混練する方法が挙げられる。かかる条件下に製造することによって、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を均一分散性がより良好なものとなる。
【0019】
前記押出方法につき更に詳述すれば、前記した吐出量とスクリュー回転数との比が0.02〜0.2(kg/hr・rpm)となる条件下で溶融混練するためには、前記スクリュー回転数が220rpm〜280rpmの範囲で樹脂成分の吐出量は5〜50kg/hrの範囲となる。
【0020】
これらのなかでも前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の分散性の点から、前記スクリュー回転数が240rpm〜260rpmの範囲の場合の樹脂成分の吐出量が15〜35kg/hrであることがより好ましく、さらに樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、0.06〜0.15(kg/hr・rpm)であることがより好ましい。また、2軸押出機のトルクは最大トルクが10〜100(A)、特に20〜50(A)となる範囲にあることが、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の分散性が良好となる点から好ましい。
【0021】
本発明の製造方法で用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記構造式(1)
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0024】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0025】
【化2】

【0026】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性や結晶性の観点より好ましい。
【0027】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)〜(7)
【0028】
【化3】

【0029】
で表される構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に、上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0030】
前記したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、架橋型のポリアリーレンスルフィド樹脂、及び実質的に線状構造を有する所謂リニア型のポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。かかるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れることから、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンとを反応させる方法によって製造することができる。
【0031】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、体積平均粒子径が1.0mm〜3.0mmの範囲の粒径を有するポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることが好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が1.0mm以上の場合、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)が再凝集しにくく取り扱いが容易で、熱可塑性エラストマー粒子(B)を均一に混合し易い。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が3.0mm以下の粒子である場合、該熱可塑性エラストマー粒子(B)と均一に混合し易いため前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が向上する。これらの中でも、体積平均粒子径が1.5mm〜2.5mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることがより好ましい。
【0032】
前記した体積平均粒子径が1.0mm〜3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)は、以下の(イ)又は(ロ)の方法によって製造できる。
(イ)前記した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却し、次いで水または温水で数回洗浄した後に乾燥して得られた、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の粒子を、ベルトプレス装置等のプレス機を用いて圧縮固着することにより板状の固形物を得、次いで粉砕して体積平均粒子径が1.0mm〜3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
(ロ)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却する前の、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が反応溶媒に溶解した状態で水を添加し、体積平均粒子径が1.0mm〜3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
【0033】
これらの中でも未反応原料及び重合中の副生物等が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)に取り込まれ難いことから、前記(イ)の方法を用いることが好ましい。
【0034】
前記した通り本発明では前記のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に、体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの範囲にある前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対して0.1質量%〜2.0質量%となる範囲の少量配合するものである。従って前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の両者共に反応性に優れたものである場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とは良好に反応することができ、相溶性が改善され均一な分散状態が得られることによって、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的物性の改善が図られ、より好ましいものとなる。
【0035】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の分子構造中に活性水素原子を有する官能基として、カルボキシル基を有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性をより高くできる点より好ましく、具体的には、中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、前記のカルボキシル基の含有量が10μmol/g〜200μmol/gの範囲にあることが好ましい。前記した中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、カルボキシル基の含有量が10μmol/g以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性を高めることができ、一方200μmol/g以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性の制御が容易になる。これらの中でも10μmol/g〜100μmol/gの範囲にあることが特に好ましい。
【0036】
前記の分子構造中に活性水素原子を有する官能基としてカルボキシル基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、室温まで冷却し水で洗浄した後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をろ別し、酸で処理した後、次いで水で洗浄する方法が挙げられ、この際使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、シュウ酸、プロピオン酸が前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を分解することなく、残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、これらのなかでも酢酸、塩酸がより好ましい。
【0037】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましく、具体的には非ニュートン指数が0.90〜1.20の範囲にあるものが好ましい。すなわち、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量と、前記リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量とを、溶融粘度が同等となる条件で比較した場合、後者のリニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂の方がより高分子量となり且つ該ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子の直線性が高くなるため、該リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂は前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂と比較して優れた靭性を発現する。このように該リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子量が高く優れた靭性を有すると共に、溶融粘度が低く流動性が良いという特徴を有しているため、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを溶融混練して得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度を低溶融粘度に制御し易くかつ優れた耐衝撃性および曲げ強度を発現できる。この点から、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましい。これらの非ニュートン指数の範囲のなかでも0.95〜1.15の範囲にあることがより好ましく、特に0.95〜1.10の範囲にあることが好ましい。
【0038】
ここで、前記非ニュートン指数とは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をキャピラリーレオメーターにて、温度300℃の条件下、直径1mm、長さ40mmのダイスを用いて100〜1000(秒−1)の剪断速度に対する剪断応力を測定し、下記式(I)を用いて算出した値である。N値が1であればニュートン流体であり、N値が1を超えれば非ニュートン流体であることを示す。
【0039】
【数1】

【0040】
[ここで、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ニュートン/m)、そしてKは定数を示す。]
【0041】
更に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、成型に適した範囲の溶融粘度を有しかつ良好な耐衝撃性および曲げ強度を有するため、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記したリニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂に、分子量の異なるリニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を配合して粘度調整することが好ましい。この場合、混合物の状態で非ニュートン指数が0.90〜1.20の範囲にあることが好ましい。
【0042】
さらに本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、300℃で測定した溶融粘度が、50ポイズ〜600ポイズの範囲にあるものが好ましい。該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が50ポイズ以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の靭性が向上し、一方、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が600ポイズ以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の粘度上昇の制御が容易になる。これらの中でも、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の微量添加による強度改善効果と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の流動性とのバランスの点から、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度は、特に100ポイズ〜500ポイズの範囲にあることが好ましい。
【0043】
ここで、前記した300℃で測定したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度とは、高下型フローテスターを用い、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して、300℃、荷重20kgf/cmの条件で、及び6分間保持した後に測定した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(ポイズ)を示す。
【0044】
次に、本発明の製造方法で用いられる前記熱可塑性エラストマー粒子(B)はその粒子径が体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの範囲にあるものである。該熱可塑性エラストマー粒子(B)の体積平均粒子径が0.1mm未満の場合、該熱可塑性エラストマー粒子(B)の比表面積が大きくなり、該熱可塑性エラストマー粒子(B)の再凝集が発生し取り扱いが困難になり、所定配合量の前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の配合が難しくなる。一方、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の体積平均粒子径が3.0mmを超える粒子である場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し均一混合することが困難になり、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が発現されない。前記した体積平均粒子径のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の作業上の取り扱いの容易性、均一混合の容易性、及び耐衝撃性や曲げ強度が改善される効果の各効果のバランスの点から、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の体積平均粒子径は、特に0.3mm〜2.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0045】
前記した、体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの範囲にある粒子径を有する前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を製造する方法は、3.0mmを超える体積平均粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を、切断機を用いて細かく切断して製造する方法、あるいは前記の体積平均粒子径が3.0mmを超える粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を凍結粉砕する方法を挙げることができる。凍結粉砕の方法は、ドライアイスあるいは液体窒素等で凍結させた後、通常のハンマータイプ粉砕機、カッタータイプ粉砕機あるいは石臼型の粉砕機等を用いて粉砕する方法が挙げられる。前記した方法のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を容易に製造することができる点から、凍結粉砕して該前記熱可塑性エラストマー粒子(B)を製造する方法が好ましい。
【0046】
また、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の配合割合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対して0.1質量%〜2.0質量%となる範囲のものである。前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の配合割合が0.1質量%未満の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性や曲げ強度の改善効果が発現されない。一方、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の配合割合が、全配合成分に対して2.0質量%を超える場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時のガス発生量が増加する。これらのなかでも、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的強度大きく改善され、さらに前記ガス発生量少ない点から、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の配合割合は、全配合成分に対して特に0.5質量%〜1.0質量%の範囲にあることが好ましい。
【0047】
また、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)は、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とを溶融混練して得られる、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性や曲げ強度の改善効果が優れる点より好ましい。また、耐熱性に優れる点からポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはニトリル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0048】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物構造、エステル構造及びイソシアネート基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基または構造を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましい。これらのなかでもカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造またはエステル構造を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性により優れ、相溶性がより向上し均一混合された前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得られる点で特に好ましい。
【0049】
前記したカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、α−オレフィン類とカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するビニル重合性化合物類との共重合で得ることができ、前記α−オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の炭素数2〜8のα−オレフィン類等が挙げられる。
【0050】
前記したカルボキシル基を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸類、またはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸類と前記α−オレフィン類との共重合で得ることができる。前記したエポキシ基を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等と前記α−オレフィン類との共重合で得ることができる。
【0051】
前記した酸無水物構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸類の酸無水物等のα,β−不飽和ジカルボン酸の無水物と前記α−オレフィン類との共重合で得ることができる。前記したエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル類等のα,β−不飽和カルボン酸類のアルキルエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸のモノ及びジエステル類と前記α−オレフィン類との共重合で得ることができる。
【0052】
また、これらの二種以上の官能基類又は構造を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α−オレフィン類、アクリル酸エステル、メタクリル酸グリシジルの三元共重合体が挙げられる。
【0053】
次に、前記ニトリル系熱可塑性エラストマーは、不飽和ニトリルと共役ジエン類との共重合体が挙げられる。前記不飽和ニトリルは例えばアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられ、前記共役ジエン類は例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でもアクリロニトリル−ブタジエン共重合体類が好ましく、さらに前記共役ジエン類の二重結合の一部または全部を水素添加し、ニトリル基の三重結合を維持したまま耐熱性を高めた水添ニトリル系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0054】
また、前記水添ニトリル系熱可塑性エラストマーは、ビニル基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物構造、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、イソシアヌレート基、マレイミド基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基類を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましく、これらの中でもカルボキシル基を有する水添ニトリル系熱可塑性エラストマーが、耐熱性及び反応性に優れる点から特に好ましい。
【0055】
本発明では前記各成分に加え、更にエポキシシランカップリング剤(C)を併用することにより、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー粒子(B)と該エポキシシランカップリング剤との優れた反応性のため、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の均一分散性が改善されるとともに、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)との界面における密着性が向上し前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の強度改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
【0056】
前記エポキシシランカップリング剤(C)は、アルキル基として炭素原子数1〜4の直鎖型アルキル基を有する、グリシドキシアルキル基、3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基のようなエポキシ構造含有基と、2個以上のメトキシ基及びエトキシ基とが珪素原子に結合した構造を有するシラン化合物が好ましい。
【0057】
このようなエポキシシランカップリング剤(C)は、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びエポキシ系シリコーンオイルが挙げられる。
【0058】
前記エポキシ系シリコーンオイルは炭素原子数2〜6アルコキシ基を繰り返し単位として2単位乃至6単位で構成されるポリアルキレンオキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0059】
前記エポキシシランカップリング剤(C)のなかでも、特に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、及び前記熱可塑性エラストマー粒子(B)との反応性に優れる点からγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランに代表されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0060】
前記エポキシシランカップリング剤(C)の含有率は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対する含有率として、0.1質量%〜5質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%以上の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)との相溶性が良くなり、5質量%以下の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスが減少する。これらのなかでも前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対する含有率として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)との相溶性、及び前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスの量のバランスの点から、特に0.1質量%〜2質量%の範囲にあることが好ましい。
【0061】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記した配合物に加え、適宜無機フィラーを配合することが成型物の機械的強度の点から好ましい。前記無機フィラーは、繊維状無機フィラーと非繊維状無機フィラーとを挙げることができる。
【0062】
前記繊維状無機フィラーは、例えば、ガラス繊維、PAN系又はピッチ系の炭素繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、及びアラミド繊維等の有機質繊維状物質等が挙げられる。
【0063】
また、前記非繊維状無機フィラーは、例えば、マイカ、タルク、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、クレー、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ゼオライト、パイロフィライトなどの珪酸塩や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄などの金属酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムなどが挙げられる。これらの前記繊維状無機フィラー、及び前記非繊維状無機フィラーは、単独使用でも2種以上を併用してもよい。これらの非繊維状無機フィラーの配合時期は特に限定されないが前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。
【0064】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記無機フィラーとの配合割合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融特性やその成型品の力学的特性の観点から前者/後者の割合で30質量部〜100質量部/70質量部〜0質量部となる範囲にあることが好ましい。さらに、前記繊維状無機フィラーと前記非繊維状無機フィラーとの混合割合は成型品に要求される力学的特性の観点から任意の配合でよいが、前者/後者の割合で20質量部〜100質量部/80質量部〜0質量部となる範囲にあることが好ましい。
【0065】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記繊維状フィラーは前記2軸押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが前記繊維状フィラーの分散性が良好となる点から特に好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記2軸押出機のスクリュー全長に対する、押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.6の範囲にあることが好ましく、これらの中でも0.2〜0.4の範囲にあることが特に好ましい。
【0066】
更に、本発明の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、加工熱安定剤、可塑剤、離型剤、着色剤、滑剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、ワックスを適量添加してもよい。これらの添加剤の配合時期は特に限定されないが前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。
【0067】
更に本発明の製造方法では、更に、要求される特性に合わせてその他の樹脂成分を適宜配合してもよい。配合時期は特に限定されないが前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー粒子(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。ここで使用し得る樹脂成分としては、エチレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの単量体の単独重合体または共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルなどの単独重合体、ランダム共重合体またはブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0068】
このようにして溶融混練された前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ペレットとして得られ、次いで、この前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形機に供して溶融成形することにより目的とする成形物が得られる。前記溶融成形法は、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられ、特に限定するものでない。
【0069】
このようにして得られた前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形物は、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の分散性に優れ、且つごく微量の該熱可塑性エラストマー粒子(B)を溶融混練して得られるものであるため、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、成型時の発生ガスが少ないだけでなく、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)の含有率から期待される力学的物性をはるかに超えた、格別良好な性能を前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に付与することが可能となる。
【0070】
本発明の製造方法によって得られた前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば自動車部品として用いられる電気又は電子部品の用途に用いることができ、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物成型品の成型時に発生するガスが少なく、さらに該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、格別優れた耐衝撃性や曲げ強度のような機械的物性を兼備したものである。
【実施例】
【0071】
実施例1、2及び比較例1〜3
表1に記載する組成(質量%)に従い、各配合材料(ガラス繊維チョップドストランドを除く)をナウタミキサーで均一に混合した。その後、二軸押出機に前記配合材料を投入し、また、サイドフィーダー(スクリュー全長に対する樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率:0.28)から繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランドを表1に記載する組成(質量%)になる割合で供給しながら、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、最大トルク65(A)、投入口から吐出口に向かって順に第一のヒーターから第五のヒーターまで加熱ヒーターが5個配設された二軸押出機の各加熱ヒーターの温度設定値として、第一のヒーターと第二のヒーターを330℃、第三のヒーターを320℃、前記した第四のヒーターと第五のヒーターを310℃の温度に設定し溶融混練してポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
次いで、このポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを用いて以下の各種評価試験を行った。
【0073】
〔曲げ強度〕
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを射出成形機で成形し、幅12.5mm、長さ127mm、厚さ3.0mmの試験片を得た。次いでこの試験片について、ASTM D790に準じて曲げ強度を測定した。
【0074】
〔衝撃強度〕
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを射出成形機で成形し、幅12.5mm、長さ63mm、厚さ3.0mmの試験片を得た。次いでこの試験片について、ASTM D256に準じてノッチ無しの試片を用いIzod衝撃強度を測定した。
【0075】
〔ガス発生量〕
直径10mm、高さ80mmの密栓可能なガラス製容器中にポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを所定量入れ、密栓した後、325度で15分加熱後、密栓したまま室温まで冷却し発生ガスを凝縮させた。冷却後、該ガラス製容器にクロロホルムを所定量注入して、前記の凝縮した発生ガスをクロロホルムに溶解した。該クロロホルム溶液をガスクロマトグラフに注入し、FID法により前記発生ガス量を測定し、濃度既知の1−クロロナフタレンを用いて作製した検量線を用いて、発生ガス量を1−クロロナフタレンの量に換算した値として定量し、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレット1g当たりの質量%として定量した。
【0076】
〔スパイラルフロー〕
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを、下記射出成形機を用い、下記の射出成型条件で幅6.0mm、厚さ1.6mmのスパイラル状金型にて成形された試験片の長さ(cm)をスパイラルフロー値とした。
【0077】
射出成型機
スクリュー径:26.0mm
射出成型条件
シリンダー温度 : 330℃
金型温度 : 150℃
【0078】
【表1】

【0079】
なお、表1中の配合樹脂、材料は下記のものである。
【0080】
PPS−1:大日本インキ化学工業(株)製 リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂「DSP T−1G」(非ニュートン指数:1.00、溶融粘度:100ポイズ、カルボキシル基の含有量:20μmol/g、体積平均粒子径:2mm)
PPS−2:大日本インキ化学工業(株)製 リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂「DSP T−2G」(非ニュートン指数:1.05、溶融粘度:500ポイズ、カルボキシル基の含有量:20μmol/g、体積平均粒子径:2mm)
PPS−3:大日本インキ化学工業(株)製 架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂「DSP MB−600−80G」(非ニュートン指数:1.20、溶融粘度:500ポイズ、カルボキシル基の含有量:1μmol/g、体積平均粒子径:2mm)
PPS−4:大日本インキ化学工業(株)製リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂「DSP P−3051G」(非ニュートン指数:1.05、溶融粘度:500ポイズ、カルボキシル基の含有量:40μmol/g、体積平均粒子径:2mm)
熱可塑性エラストマー 1: ポリプロピレン、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸グリシジルの三元共重合体の粒子、体積平均粒子径:1mm
熱可塑性エラストマー 2: ポリプロピレン、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸グリシジルの三元共重合体の粒子、体積平均粒子径:5mm
GF : 繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド
エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と体積平均粒子径が0.1mm〜3.0mmの熱可塑性エラストマー粒子(B)とを、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)が全配合成分に対して0.1質量%〜2.0質量%となる割合で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、体積平均粒子径1.0mm〜3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー粒子(B)が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物構造、エステル構造及びイソシアネート基からなる群の中から選ばれる1つ以上の官能基または構造を分子構造中に有する熱可塑性エラストマー粒子(B)である、請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、熱可塑性エラストマー粒子(B)に加え、更にエポキシシランカップリング剤(C)を溶融混練する請求項1〜3の何れか一つに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、カルボキシル基を分子構造中に有し、該官能基の含有量が10μmol/g〜200μmol/gであるポリアリーレンスルフィド樹脂である、請求項3又は4の何れか一つに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が0.90〜1.20の非ニュートン指数を有するものである請求項1〜5の何れか一つに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、300℃で測定した溶融粘度が、50ポイズ〜600ポイズのものである、請求項6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−163112(P2008−163112A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352207(P2006−352207)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】