説明

ポリアリーレン電解質分散液の製造方法、ポリアリーレン電解質分散液及び燃料電池電極用インク

【課題】ポリアリーレン電解質溶液を作製することなくポリアリーレン電解質分散液を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】固体状のポリアリーレン電解質と、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶の溶媒との混合物を得る。次に、前記混合物を、前記ポリアリーレン電解質が前記溶媒に浸漬している状態で、前記ポリアリーレン電解質の膨潤率が一定となるまでの時間以上熟成させる。そして、前記工程で熟成させた混合物に超音波を照射して、前記ポリアリーレン電解質を前記溶媒中に分散させる。分散液中の、ポリアリーレン電解質の濃度としては0.1重量%〜2重量%の範囲が好ましい。また、溶媒は実質的に水であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレン電解質分散液の製造方法、ポリアリーレン電解質分散液及び燃料電池電極用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンに、例えばスルホン酸基(−SOH)やカルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO(OH))、ホスフィン酸基(−POH(OH))、スルホンイミド基(−SONHSO−)を導入したポリアリーレン電解質は、固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」という。)におけるイオン伝導膜や電極用バインダーとして用いた場合に高い発電特性が得られることが知られている。
【0003】
かかるポリアリーレン電解質の粒子が分散してなるポリアリーレン電解質分散液の製造方法として、例えば、特許文献1には次のような製造方法が提案されている。まず、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基などの親水性基を有するポリアリーレン電解質を、N−メチルピロリドンに溶解してポリアリーレン電解質溶液を作製する。そして、作製したポリアリーレン電解質溶液を蒸留水に滴下して、ポリアリーレン電解質を粒子状に析出させる。次いで、この粒子状のポリアリーレン電解質が分散した分散液を膜分離処理してN−メチルピロリドンを除去することにより、ポリアリーレン電解質分散液を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-31466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案される製造方法では、ポリアリーレン電解質溶液を作製する際に用いたN−メチルピロリドンをポリアリーレン電解質溶液から除去する必要がある点で必ずしも満足できる方法ではなかった。
【0006】
かかる状況下、ポリアリーレン電解質溶液を作製することなくポリアリーレン電解質分散液を製造できる方法が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポリアリーレン電解質分散液の製造方法は、固体状のポリアリーレン電解質と、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶の溶媒との混合物を得る工程と、前記混合物を、前記ポリアリーレン電解質が前記溶媒に浸漬している状態で、前記ポリアリーレン電解質の膨潤率が一定となるまでの時間以上熟成させる工程と、前記工程で熟成させた混合物に超音波を照射して、前記ポリアリーレン電解質を前記溶媒中に分散させる工程とを有することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記ポリアリーレン電解質は非架橋であることが好ましい。
【0009】
また、前記分散液中の、前記ポリアリーレン電解質の濃度は0.1重量%〜2重量%の範囲であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記溶媒は実質的に水であることが好ましい。
【0011】
そしてまた、本発明によれば、前記記載の製造方法によって得られるポリアリーレン電解質分散液が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、前記記載のポリアリーレン電解質分散液と触媒成分とを含む燃料電池電極用インクが提供される。
【0013】
前記触媒成分は貴金属元素を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、ポリアリーレン電解質溶液を作製することなくポリアリーレン電解質分散液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】固体高分子型燃料電池の一例を示す概略断面構成図である。
【図2】実施例1及び比較例1、比較例2の分散液のフローカーブを示すグラフである。
【図3】実施例2〜4の分散液のフローカーブを示すグラフである。
【図4】実施例5及び比較例3の分散液のフローカーブを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(I)本発明に係る製造方法では、まず、固体状のポリアリーレン電解質と、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶の溶媒との混合物を得る。
【0017】
本発明で使用するポリアリーレン電解質は、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系高分子であって、該芳香環の一部又は全部に、スルホン酸基(−SOH)やカルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO(OH))、ホスフィン酸基(−POH(OH))、スルホンイミド基(−SONHSO−)などのイオン交換基を、直接及び/又は適当な連結基を介して導入したものである。
【0018】
ポリアリーレン電解質に導入されたイオン交換基の量を表すイオン交換容量(以下、「IEC」という)は、0.5meq/g以上であることが好ましく、2.0meq/g以上であることがさらに好ましく、3.0meq/g以上であることがより一層好ましい。なお、IECの上限は、例えば7.0meq/gであり、好ましくは6.5meq/gであり、より好ましくは6.0meq/gである。IECが0.5meq/g以上であるポリアリーレン電解質を用いると、得られる分散液の分散性が高くなる傾向にあり、IECが7.0meq/g以下のポリアリーレン電解質を用いると、ハンドリング性が高くなる傾向がある。
【0019】
ここで、「芳香族炭化水素系高分子」とは、芳香族基同士が連結されているものや、芳香族基が、2価の基を介して連結し主鎖を構成しているものを意味する。該2価の基としては、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、アミド基、エステル基、炭酸エステル基、炭素数1〜4程度のアルキレン基、炭素数1〜4程度のフッ素置換アルキレン基、炭素数2〜4程度のアルケニレン基、炭素数2〜4程度のアルキニレン基が挙げられる。また、芳香族基としては、フェニレン基、ナフタレン基、アトラセニレン基、フルオレンジイル基等の芳香族基、ピリジンジイル基、フランジイル基、チオフェンジイル基、イミダゾリル基、インドールジイル基、キノキサリンジイル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0020】
また、該芳香族基は、前記のイオン交換基以外に、置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子が挙げられる。なお、置換基としてハロゲン原子を有する場合や、前記芳香族基を連結する2価の基としてフッ素置換アルキレン基を有している場合、当該芳香族系高分子電解質の元素重量組成比で表して、ハロゲン原子が15重量%以下とする。
【0021】
ポリアリーレン電解質は、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有する共重合体電解質であると燃料電池触媒層用の電解質として使用した場合に高いプロトン伝導性を発現することができるので好ましい。該2種類のセグメントの共重合体様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよく、これらの共重合様式の組合せでもよいが、共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合であるポリアリーレン電解質が好ましい。なお、「イオン交換基を有するセグメント」とは、当該セグメントを構成する繰り返し単位1個あたりにイオン交換基が0.5個以上含まれているセグメントを意味するものであり、繰り返し単位1個あたりイオン交換基が1.0個以上含まれていることがより好ましい。「イオン交換基を実質的に有しないセグメント」とは、当該セグメントを構成する繰り返し単位1個あたりイオン交換基数が0.1個未満であるセグメントを意味し、繰り返し単位1個あたりのイオン交換基数が平均0.05個以下であることはより好ましく、イオン交換基を有していないことはさらに好ましい。
【0022】
特に好ましいポリアリーレン電解質としては、下記式(1a)、(2a)、(3a)又は(4a)[以下、場合により、「式(1a)〜(4a)のいずれか」と記すことがある]で示されるイオン交換基を有するセグメントと、下記式(1b)、(2b)、(3b)又は(4b)[以下、場合により、「式(1b)〜(4b)のいずれか」と記すことがある]で表される、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有し、その共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合であるポリアリーレン電解質が例示される。
【0023】
【化1】

(式中、Ar〜Arは、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有する。Z、Z’は互いに独立にCO、SOのいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)
【0024】
【化2】

(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい芳香族炭素基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SOのいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)
【0025】
【化3】

(式中、R及びRは互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、RとRとが連結して環を形成していてもよい。)
【0026】
式(1a)〜(4a)におけるAr〜Arは、互いに独立に、芳香族基を表す。芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられ、好ましくは単環性芳香族基である。
【0027】
また、Ar〜Arに含まれる水素原子は、互いに独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0028】
Ar〜Arは、互いに独立に、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。該イオン交換基として、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO(OH))、ホスフィン酸基(−POH(OH))、スルホンイミド基(−SONHSO−)が好ましく、スルホ基がより好ましい。
【0029】
式(1a)〜(4a)から選ばれる構造単位からなるセグメントの重合度は2以上であり、2〜1000であることが好ましく、10〜500であることがさらに好ましい。この重合度が2以上であれば、燃料電池用のポリアリーレン電解質として、十分なプロトン伝導度を発現し、この重合度が1000以下であれば、式(1a)〜(4a)から選ばれる構造単位からなる共重合体の製造がより容易である。
【0030】
式(1b)〜(4b)におけるAr11〜Ar19は、互いに独立に、芳香族基を表す。芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは単環性芳香族基である。
【0031】
また、Ar11〜Ar18に含まれる水素原子は、互いに独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。なお、ここでいう「置換基を有していてもよい」における置換基は、イオン交換基を包含するものではない。
【0032】
ここで、前述の芳香族基(Ar〜Ar及びAr11〜Ar19)が有しうる置換基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェニル基等のアリール基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、アセチル基、ブチリル基等のアシル基が挙げられる。
【0033】
また、式(1b)〜(4b)から選ばれる構造単位からなるセグメントの重合度は2以上であり、2〜100であることが好ましく、2〜80であることがさらに好ましい。この重合度が2以上であれば、燃料電池用のポリアリーレン電解質として、十分な機械強度を有し、該重合度が100以下であれば、製造がより容易である。
【0034】
このように、好適なポリアリーレン電解質は、前記式(1a)〜(4a)のいずれかで表される構造単位からなる、イオン交換基を有するセグメントと、前記式(1a)〜(4a)のいずれかで表される構造単位からなる、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するものであり、ポリアリーレン電解質の製造の容易さを勘案すると、ブロック共重合体が好ましい。セグメントの好適な組み合わせの例を挙げると、下記の表1の<A>〜<H>に示すセグメントの組み合わせを挙げることができる。
【0035】
【表1】

【0036】
ブロック共重合体は、より好ましくは、前記の<B>、<C>、<D>、<G>又は<H>であり、さらに好ましくは<G>又は<H>である。
【0037】
具体的に、好適なブロック共重合体を挙げると、以下に示すイオン交換基を有する繰り返し単位から選ばれる1種以上の繰り返し単位を含むセグメント(イオン交換基を有するセグメント)と、以下に示すイオン交換基を有しない繰り返し単位から選ばれる1種又は2種以上の繰り返し単位を含むセグメント(イオン交換基を実質的に有しないセグメント)とからなるブロック共重合体を挙げることができる。なお、以下に挙げたイオン交換基を有する繰り返し単位の例は、イオン交換基がスルホ基である例である。
【0038】
また、両セグメントは直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。ここでいう両セグメントを結合する原子又は原子団の典型的なものとしては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらを組み合わせてなる2価の基を挙げることができる。
【0039】
(イオン交換基を有する繰り返し単位)
【化4】

【0040】
(イオン交換基を有しない繰り返し単位)
【化5】

【0041】
前記例示の中でも、イオン交換基を有するセグメントを構成する繰り返し単位としては、(4a−10)及び/又は(4a−11)及び/又は(4a−12)が好ましく、その中でも(4a−11)及び/又は(4a−12)がより好ましい。このような繰り返し単位を含むセグメントを有する高分子電解質、特に、このような繰り返し単位からなるセグメントを有する高分子電解質は、優れたイオン伝導性を発現できるものであり、当該セグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。イオン交換基を有しないセグメントを構成する繰り返し単位としては、(4b−2)、(4b−3)、(4b−10)及び(4b−13)がより好ましい。
【0042】
より好適なブロック共重合体としては、例えば、特開2005−126684号公報や特開2005−139432号公報に記載された芳香族ポリエーテル構造を有し、イオン交換基を有するブロック(セグメント)と、イオン交換基を実質的に有しないブロック(セグメント)と、からなるブロック共重合体;特開2007−177197号公報に記載されたイオン交換基を有するポリアリーレンブロックを有するブロック共重合体が挙げられる。
【0043】
ポリアリーレン電解質の分子量は、その構造などにより好適な範囲が異なるが、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して、1,000〜2,000,000の範囲が好ましい。当該数平均分子量の下限としては、より好ましくは5,000であり、さらに好ましくは10,000である。一方、上限としては、より好ましくは1,000,000であり、さらに好ましくは500,000である。
【0044】
ポリアリーレン電解質は、非架橋であることが好ましい。非架橋であると、本発明の方法により分散液を作製する際、熟成及び分散に要する時間を短くすることができる。
【0045】
一方、本発明で使用する溶媒は、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶であるものである。具体的には、25℃において前記ポリアリーレン電解質が溶媒100重量部に対して5質量部以下しか溶解しない溶媒である。このような溶媒は、使用するポリアリーレン電解質の溶解度を勘案して適宜決定すればよく、例えば、水;メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒;ヘキサンやトルエンなどの非極性有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、酢酸エチルなどの極性有機溶媒及びこれらの混合物が挙げられる。これらの溶媒の中でも工業的に使用した場合の環境負荷低減の観点からは水又は水を主成分とした溶媒がより好ましい。
【0046】
(II)次に、固体状のポリアリーレン電解質と、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶の溶媒との混合物を、前記ポリアリーレン電解質が前記溶媒に浸漬している状態で、前記ポリアリーレン電解質の膨潤率が一定となるまでの時間以上熟成させる。かかる熟成により、前記ポリアリーレン電解質は前記溶媒で膨潤する。熟成させる時間は、例えば、1時間〜50時間、好ましくは、2時間〜24時間である。熟成させる際の温度としては特に限定はないが、好ましくは、高温の方が膨潤しやすいことから常温以上、ハンドリングのし易さから90℃以下とすることが好ましい。
【0047】
ポリアリーレン電解質は、300〜7,000%の膨潤率を有することが好ましく、500〜6,000%の膨潤率を有することがより好ましく、800〜5,000%の膨潤率を有することがさらに好ましい。ここで、膨潤率とは、膨潤前のポリアリーレン電解質単位質量あたりに対する、膨潤後のポリアリーレン電解質に含まれる溶媒の質量の百分率を意味する。
【0048】
(III)次いで、熟成させた混合物に超音波を照射して、前記ポリアリーレン電解質を前記溶媒中に分散させる。ここで使用する超音波照射装置としては、従来公知の超音波分散装置を用いることができる。
【0049】
照射する超音波の周波数としては15〜60kHzの範囲が好ましい。また、照射時間は、照射された総エネルギーが1.0×10[J/m−分散媒 g−電解質]以上となるようにすることが好ましい。また、混合物におけるポリアリーレン電解質の濃度に特に限定はないが、効率的に分散させる観点からは0.1重量%〜2重量%の範囲が好ましい。
【0050】
以上のようにして作製されたポリアリーレン電解質分散液は、ポリアリーレン電解質の平均粒径が、動的光散乱法により求められた体積平均粒子径で表して、100nm〜200μmの範囲である。かかる平均粒径としては、好ましくは、150nm〜1μmの範囲であり、さらに好ましくは、200nm〜500nmの範囲である。ポリアリーレン電解質の平均粒径が上記範囲であると、得られるポリアリーレン電解質分散液がより高度の貯蔵安定性を有するものとなり、被膜を形成させたとき、該被膜の均一性が比較的良好となる利点がある。また、ポリアリーレン電解質分散液の粘度が低くなり、取り扱い性が格段に向上する。さらに、以上のようにして作製されたポリアリーレン電解質分散液は、作製後1週間以上静置しても、沈殿物を生じることはない。
【0051】
本発明に係るポリアリーレン電解質分散液は、上記のポリアリーレン電解質に加え、所望の特性に応じ、燃料電池用電極に適用したとき、触媒の被毒が生じない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、高分子に使用される可塑剤、安定剤、密着助剤、離型剤、保水剤、無機あるいは有機の粒子、増感剤、レベリング剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。これらの成分の触媒被毒能の有無は、サイクリックボルタンメトリー法による公知の方法により判定することができる。
【0052】
本発明により得られるポリアリーレン電解質分散液には、ラジカル耐性を付与し得る安定剤を添加することが好ましい。
【0053】
これらの他の成分は、ポリアリーレン電解質分散液を構成するポリアリーレン電解質中に含まれていてもよいし、分散媒中に溶解していてもよいし、ポリアリーレン電解質とは別に、他の成分からなる微粒子として存在していてもよい。
【0054】
本発明の製造方法から得られるポリアリーレン電解質分散液は、プライマーやバインダー樹脂、高分子固体電解質膜など種々の用途に応用可能であり、特に、乳化剤などの添加剤に起因する特性低下が懸念される用途に好適に使用できる。例えば、ポリアリーレン電解質分散液を製膜して乾燥させることによって燃料電池用イオン伝導膜として使用できる。このとき膜厚としては、0.01〜1000μmの範囲が好ましく、0.05〜500μmの範囲がより好ましい。また、製膜方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば、キャストフィルム成形やスプレー塗布、刷毛塗り、ロールコーター、フローコーター、バーコーター、ディップコーターなどが挙げられる。
【0055】
また、本発明で得られたポリアリーレン電解質分散液は、触媒成分と組み合わせて燃料電池電極用インク(以下、「触媒インク」と記すことがある)とすることができる。ここで使用する触媒成分としては、水素又は酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に限定はなく、例えば、貴金属、貴金属合金、金属錯体等が挙げられる。これらの中でも、貴金属元素を含むものが好ましい。さらに好ましくは、白金の微粒子を含むものが好ましく、活性炭や黒鉛等の粒子状又は繊維状のカーボンに白金の微粒子が担持されてなるものが好ましい。
【0056】
この触媒インクをイオン伝導膜の両面に塗布することにより、膜電極接合体(以下、「MEA」と記すことがある)を得ることができる。あるいは、本発明で得られたポリアリーレン電解質分散液をイオン伝導膜の両面に塗布し、塗膜が乾燥する前に、白金担持カーボンと電解質とが複合された粒子を載せることによってもMEAを得ることができる。
【0057】
さらに、本発明で得られたポリアリーレン電解質分散液をMEAの両面に塗布し、触媒層にガスを供給するためのガス拡散層を接着することにより、膜電極ガス拡散層接合体(以下、「MEGA」と記すことがある)を得ることができる。
【0058】
次に、本発明のポリアリーレン電解質分散液により得られたMEAを備える固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と記すことがある)について説明する。
【0059】
図1は、本発明に係る燃料電池の一例を示す概略断面構成図である。図1に示すように、燃料電池10は、イオン伝導膜12の両側に、これを挟むように触媒層14a,14bが形成されており、これが本発明の製造方法で得られるMEA20である。さらに、MEA20の両面の触媒層には、それぞれ、ガス拡散層16a,16bを備え、該ガス拡散層にセパレータ18a,18bが形成されている。ここで、MEA20とガス拡散層16a,16bを備えたものが、上述のMEGAである。
【0060】
ここで、触媒層14a,14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらのいずれか一方がアノード触媒層となり、他方がカソード触媒層となる。
【0061】
ガス拡散層16a,16bは、MEA20の両面を挟むように設けられており、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進するものである。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されるものが好ましい。例えば、多孔質性のカーボン不織布やカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるため、好ましい。
【0062】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。かかるセパレータ18a,18bは、図示しないが、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝が形成されていると好ましい。
【0063】
そして、燃料電池10は、上述したようなMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合することで得ることができる。
【0064】
また、燃料電池10は、上述した構造を有するものを、ガスシール体等で封止したものであってもよい。さらに、上記構造の燃料電池10は、直列に複数個接続して、燃料電池スタックとして実用に供することもできる。そして、このような構成を有する燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また燃料がメタノール水溶液である場合は直接メタノール型燃料電池として動作することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0066】
(合成例1)
国際公開第2009/142274号明細書 合成例3−2に記載される方法に準拠し、ポリアリーレン電解質を得た。
得られたポリアリーレン電解質の化学構造を下記に示す。なお、m、l、n及びkはそれぞれ独立に、ポリアリーレン電解質を構成する各セグメントを構成する重合度を表し、「block」の記載は、括弧内の繰り返し単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを示すものである。
【0067】
【化6】

【0068】
(合成例2)
特開2009−275219号公報 実施例4に記載される方法に準拠し、下記式(A)で示される繰り返し単位と、下記式(B)で示されるセグメントとを含むポリアリーレン電解質を得た。なお、m’は重合度を表す。
【0069】
【化7】

【0070】
【化8】

【0071】
実施例1
合成例1で得られたポリアリーレン電解質0.9gを、分散媒としてのイオン交換水に0.5重量%になるように配合し混合物を得た。そして、前記混合物を25℃で約16時間熟成させてポリアリーレン電解質を膨潤させた(膨潤率4,200%)。次いで、超音波分散機(エスエムテー社製「UH−150」)を用いて前記混合物に超音波を照射しポリアリーレン電解質を分散させた。超音波の照射条件は以下の通りである。
超音波照射条件
出 力 :150W
周波数 :20kHz
振 幅 :40μm
照射時間:10min
【0072】
得られた分散液中のポリアリーレン電解質の平均粒径を下記の測定方法により測定したところ350nmであった。得られた分散液を1週間以上静置したところ、沈殿物は確認されなかった。また、HAAKE社製「MARSII」を用いて、剪断力を上げていってまた下げて(フロー力一ブ)分散液の粘度を測定した。結果を図2に示す。
[測定方法]
以下の実験において、分散液中のポリアリーレン電解質の平均粒径は、いずれも動的光散乱法(濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000、大塚電子社製)により測定した。かかる測定における測定温度は25℃、積算時間は300秒、測定に用いたレーザーの波長は633nmとした。得られたデータを、上記の装置に付属した解析ソフトウェア(FPARシステム VERSION5.1.7.2)を用い、Cumulant法で解析することにより散乱強度分布から平均粒径を算出した。
【0073】
実施例2〜4
合成例1で得られたポリアリーレン電解質0.9gを、分散媒としてのイオン交換水に0.4重量%、0.3重量%、0.2重量%になるように配合しそれぞれ混合物を得た。そして、実施例1と同様にしてポリアリーレン電解質を膨潤させた(膨潤率4,200%)後、混合物に超音波を照射しポリアリーレン電解質を分散させた。得られた分散液の粘度を実施例1と同様にして測定した。結果を図3に示す。また、実施例2〜4で得られた分散液を1週間以上静置したところ、沈殿物は確認されなかった。
【0074】
比較例1
合成例1で得られたポリアリーレン電解質0.9gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に0.2重量%になるように溶解させてポリアリーレン電解質溶液を作製した。一方、1Lのイオン交換水を2Lセパラフラスコ(槽径:143mm)に仕込み、撹拌速度2000rpm(撹拌羽根:4枚傾斜パドル翼(翼径57.0mm))で撹拌した。ここに、上記のようにして得たポリアリーレン電解質溶液100mLをビュレットを用いて、滴下速度1.1mL/minで滴下して、ポリアリーレン電解質を粒子として析出させて分散液を得た。次いで、この分散液を膜分離処理してNMPをイオン交換水で置換・除去し、濃度0.5重量%に濃縮したポリアリーレン電解質分散液を得た。得られたポリアリーレン電解質の平均粒径を、実施例1と同様にして測定したところ1446nmであった。また、ポリアリーレン電解質分散液の粘度を実施例1と同様にして測定した。結果を図2に合わせて示す。
【0075】
比較例2
合成例1で得られたポリアリーレン電解質0.9gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に1重量%になるように溶解させてポリアリーレン電解質溶液を作製した以外は、比較例1と同様にして濃度0.5重量%に濃縮したポリアリーレン電解質分散液を得た。得られたポリアリーレン電解質分散液の粘度を実施例1と同様にして測定した。結果を図2に合わせて示す。
【0076】
実施例5
合成例2で得られたポリアリーレン電解質0.9gを用いて、実施例1と同様にして、水中で熟成させて膨潤させた(膨潤率4,200%)後、実施例1と同様に超音波を照射し濃度0.4重量%のポリアリーレン電解質分散液を得た。得られたポリアリーレン電解質分散液の粘度を、実施例1と同様にして測定した。結果を図4に示す。また、実施例5で得られた分散液を1週間以上静置したところ、沈殿物は確認されなかった。
【0077】
比較例3
合成例2で得られたポリアリーレン電解質0.9gを用いて、比較例2と同様にして、濃度0.4重量%のポリアリーレン電解質分散液を得た。得られたポリアリーレン電解質分散液の粘度を実施例1と同様にして測定した。結果を図4に合わせて示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の製造方法によれば、ポリアリーレン電解質溶液を作製することなくポリアリーレン電解質分散液を製造でき有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 固体高分子型燃料電池
12 イオン伝導膜
14a,14b 触媒層
16a,16b ガス拡散層
18a,18b セパレータ
20 膜電極接合体(MEA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状のポリアリーレン電解質と、前記ポリアリーレン電解質が不溶又は難溶の溶媒との混合物を得る工程と、
前記混合物を、前記ポリアリーレン電解質が前記溶媒に浸漬している状態で、前記ポリアリーレン電解質の膨潤率が一定となるまでの時間以上熟成させる工程と、
前記工程で熟成させた混合物に超音波を照射して、前記ポリアリーレン電解質を前記溶媒中に分散させる工程と
を有するポリアリーレン電解質分散液の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアリーレン電解質が非架橋である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記分散液中の、前記ポリアリーレン電解質の濃度が0.1重量%〜2重量%の範囲である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が実質的に水である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法によって得られるポリアリーレン電解質分散液。
【請求項6】
請求項5記載のポリアリーレン電解質分散液と触媒成分とを含む燃料電池電極用インク。
【請求項7】
前記触媒成分が貴金属元素を含む請求項6記載の燃料電池電極用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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