説明

ポリイミドチューブ及び定着ベルト

【課題】定着性に優れるとともに、剛性が高く、駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じにくく、又、通紙を繰返しても裂けや破れが生じにくい優れた強度を有するポリイミドチューブ、並びに、前記ポリイミドチューブを基材として用いる定着ベルトを提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂中に、黒鉛及び針状酸化チタンを分散したポリイミド樹脂組成物からなるポリイミドチューブであって、黒鉛及び針状酸化チタンの配合量の合計が、前記ポリイミド樹脂組成物の全容量基準で15容量%以上であり、黒鉛の配合量が、組成物全容量基準で28容量%以下であり、かつ、針状酸化チタンの配合割合が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して15〜60容量%であることを特徴とするポリイミドチューブ、及び前記ポリイミドチューブを基材として用いる定着ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の定着ベルト等に用いられるポリイミドチューブに関する。より具体的には、定着ベルトに使用された場合優れた定着性を与えるとともに、剛性や強度(耐久性)に優れたポリイミドチューブに関する。本発明は、また、前記のポリイミドチューブをベルト基材とする定着ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式を利用した複写機、レーザービームプリンタ等における画像形成プロセスでは、露光工程、現像工程、転写工程を通してトナー像を記録紙等の被転写材上に形成した後、この未定着トナー像を被転写材に定着する定着工程が行われる。定着方式としては、未定着トナー像を加熱・加圧して被転写材上に融着させる方法が一般的である。加熱・加圧手段としては、定着ローラと加圧ローラとを対向させて、その間に未定着トナー像を載せた被転写材を通過させ、両ローラ間で加圧する共に定着ローラ内に設けられた加熱源により加熱する方法が広く採用されている。
【0003】
定着ローラとしては、SUSチューブが特許文献1等で開示されているが、SUSチューブは、材料費、加工費がともに高く価格上の問題があるとともに、可撓性に乏しく端部等に割れが発生しやすいとの問題があった。そこで、近年、図1に示すような、薄いエンドレスベルト1(定着ベルト)を介して、加熱手段(ヒータ)2により、被転写材4上の未定着トナー像5を加熱するとともに、加圧ローラ3により加圧して定着トナー像6を形成する方式が開発されている。
【0004】
このような定着ベルトの基材としては、耐熱性、機械的強度、引裂強度、可撓性等に優れているポリイミドが汎用されている。そして、ポリイミドチューブの熱伝導性を改良して、定着性を向上させるとともに、電源投入後の待ち時間の短縮、消費電力の低減、定着速度の高速化等を達成させるために、熱伝導性に優れたフィラー(高熱伝導性フィラー)を含有させる方法が知られている。
【0005】
高熱伝導性フィラーとしては、カーボンブラック、シリコンカーバイド、シリカ(特許文献2)、窒化ホウ素(特許文献3)、カーボンナノチューブ(特許文献4)等の無機フィラーが提案されている。又、特許文献5では、カーボンナノチューブ又は針状酸化チタン等の針状高熱伝導性フィラーを所定の容量%以上分散してなり、針状高熱伝導性フィラーの配向度を所定値以上としたポリイミドチューブが開示されている。そして、このポリイミドチューブは、高度の熱伝導率を有し機械的強度に優れるとともに、圧縮強度(押し込み荷重)にも優れており、このポリイミドチューブからなる定着ベルトは、オフセット性に優れ、又この定着ベルトを用いることにより鮮明な画像を得ることができると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−40425号公報
【特許文献2】特開平3−25478号公報
【特許文献3】特開平8−80580号公報
【特許文献4】特開2004−123867号公報
【特許文献5】特開2009−156965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし近年、定着ベルトに対する要請はさらに高度となり、前記の優れた定着性や高熱伝導性、優れた圧縮強度やオフセット性等とともに、例えば、剛性が高く、定着ベルトの基材として用いた場合に駆動時のねじれ変形や座屈による潰れ等を効果的に抑制できる性質が望まれている。又、通紙を繰返しても裂けや破れが生じない性質についてもより高度なものが望まれている。
【0008】
本発明の課題は、熱伝導性が高く、定着ベルトの基材として用いた場合に、定着性に優れるとともに、剛性が高く駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じにくく、又、通紙を繰返しても裂けや破れが生じにくい優れた強度を有するポリイミドチューブを提供することにある。本発明は、また、前記諸特性に優れたポリイミドチューブを基材として用い、駆動時のねじれ変形や座屈による潰れが生じにくく、裂けや破れも生じにくい定着ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリイミド樹脂中に、所定量の黒鉛とともに、針状酸化チタンを所定量分散させることにより、前記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は請求項1として、ポリイミド樹脂中に、黒鉛及び針状酸化チタンを分散したポリイミド樹脂組成物からなるポリイミドチューブであって、黒鉛及び針状酸化チタンの配合量の合計が、前記ポリイミド樹脂組成物の全容量基準で15容量%以上であり、黒鉛の配合量が、組成物全容量基準で28容量%以下であり、かつ、針状酸化チタンの配合割合が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して15〜60容量%であることを特徴とするポリイミドチューブを提供する。
【0011】
このポリイミドチューブは、ポリイミド樹脂中に、黒鉛及び針状酸化チタンを分散させたポリイミド樹脂組成物から構成されるものであるが、
黒鉛及び針状酸化チタンの配合量が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計で、組成物全容量基準で15容量%以上であり、
黒鉛の配合割合が、組成物全容量基準で28容量%以下であり、かつ
針状酸化チタンの配合割合が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して15〜60容量%であることを特徴とする。
【0012】
ここで、黒鉛及び針状酸化チタンの配合量が、組成物全容量基準で15容量%以上とは、ポリイミド樹脂と黒鉛及び針状酸化チタンを含有するポリイミド樹脂組成物の全容量に対する黒鉛及び針状酸化チタンの容量の合計が15%以上であることを意味し、この容量%は、JIS K7112A法に規定されている水中置換法等で測定した真比重に基づき求めた値である。
【0013】
ポリイミド樹脂に黒鉛及び針状酸化チタンを上記の割合、配合量で分散することにより、熱伝導性が高く定着性に優れるとともに、剛性が高く、又通紙を繰返しても裂けや破れが生じにくい優れた強度を有するポリイミドチューブが得られる。ポリイミドチューブの剛性が高いことにより、定着ベルトの基材として用いた場合に駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じにくくなり、いわゆる座屈強度の高い定着ベルトが得られる。
【0014】
黒鉛及び針状酸化チタンの配合量が小さすぎる場合は、高い熱伝導率が得られない。その結果、定着ベルトの定着性が低下する。又、黒鉛及び針状酸化チタン中に占める針状酸化チタンの割合が大きすぎる場合も、定着ベルトの定着性が低下する。一方、黒鉛及び針状酸化チタン中に占める針状酸化チタンの割合が小さすぎる場合は、剛性が低下し、座屈強度が低下し、定着ベルトの基材として用いた場合に駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じやすくなる。
【0015】
黒鉛の配合量を大きくすると、剛性は向上し、針状酸化チタンを配合しない場合やその割合が小さい場合でも所望の剛性を得ることは可能になる。しかし、この場合は、ポリイミドチューブの強度が低下し、通紙の繰返しにより裂けや破れが生じやすくなる。
【0016】
黒鉛及び針状酸化チタンの配合量を15容量%以上、黒鉛の配合割合を28容量%以下とし、かつ針状酸化チタンの配合割合が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して15〜60容量%とすることにより、優れた定着性及び剛性を有し、かつ通紙の繰返しにより裂けや破れが生じにくいポリイミドチューブ、定着ベルトを得ることができる。黒鉛及び針状酸化チタンの配合量は、好ましくは20容量%以上であり、針状酸化チタンの配合割合は、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して好ましくは18〜50容量%である。
【0017】
請求項2の発明は、前記黒鉛の平均粒子径が、0.3μm以上で30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドチューブである。
【0018】
黒鉛とは、通常、炭素原子が平面状に結合したシートが積層した元素鉱物であり六方晶系の六角板状結晶を意味するが、本発明においては、黒鉛、グラファイト等として市販されているものも用いることができる。このような黒鉛としては、平均粒子径が0.3μm以上で30μm以下の黒鉛が好ましい。平均粒子径が0.3μmよりも小さい場合、黒鉛の表面積が大きくなり樹脂との界面が増えるため、ポリイミドの前駆体と混合する際に、粘度が極端に上昇し製造工程に不具合が生じる可能性がある。一方、平均粒子径が30μmよりも大きい場合、後述のように、定着ローラに用いるポリイミドの厚みは、好ましくは10〜150μmであり、50μm前後の場合が多いため、定着ローラの表面状態(表面性)が悪化する可能性がある。黒鉛の平均粒子径は、より好ましくは、0.5μm以上で10μm以下であり、更に好ましくは、1μm以上で5μm以下である。なお平均粒子径はレーザ回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、重量比が50%となる粒子径(D50)をいう。黒鉛としては、中越黒鉛社製のBF−3AK等の市販品を用いることもできる。
【0019】
請求項3の発明は、前記針状酸化チタンの平均径が、0.3μm以上で30μm以下であり、平均長さが、0.10μm以上で1000μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミドチューブである。
【0020】
針状酸化チタンとは、酸化チタンの粒子であってその直径(太さ)に比べてその長さが十分大きい針状のものを言う。ここで、粒子の直径の平均を平均径と言い、粒子の長さの平均を平均長さと言う。酸化チタンとしては、白色の顔料として使われるルチル型の結晶構造の酸化チタンの他に、アナターゼ型やブルサイト型の酸化チタンも用いることができる。なお粒子の直径及び粒子の長さは、電子顕微鏡写真又はSEM写真から測定し、粒子を任意に30個選択して測定した値の平均値をそれぞれ平均径、平均長さとする。
【0021】
針状酸化チタンの平均径としては、0.01μm以上30μm以下が好ましい。平均径が0.01μmよりも小さい場合、針状酸化チタンの表面積が大きくなり樹脂との界面が増えるため、ポリイミドの前駆体と混合する際に、粘度が極端に上昇し製造工程に不具合が生じる可能性がある。一方、平均粒子径が30μmよりも大きい場合、後述のように、定着ローラに用いるポリイミドの厚みは好ましくは10〜150μmであり、50μm前後の場合が多いため、定着ローラの表面状態(表面性)が悪化する可能性がある。針状酸化チタンの平均径は、より好ましくは、0.05μm以上で10μm以下であり、更に好ましくは、0.10μm以上で1μm以下である。
【0022】
また、針状酸化チタンの平均長さについては、0.10μm以上で1000μm以下が好ましい。平均長さが0.10μmよりも小さい場合、針状酸化チタンの表面積が大きくなり樹脂との界面が増えるため、ポリイミドの前駆体と混合する際に、粘度が極端に上昇し製造工程に不具合が生じる可能性がある。一方、平均長さが1000μmよりも大きい場合、定着ローラの表面状態(表面性)が悪化する可能性がある。針状酸化チタンの平均長さは、より好ましくは、0.50μm以上で100μm以下であり、更に好ましくは、1μm以上で50μm以下である。
【0023】
なお、針状酸化チタンの平均径及び平均長さは上記の範囲が好ましいので、(平均長さ/平均径)は、5〜300の範囲が好ましく、より好ましくは、10〜100の範囲である。針状酸化チタンとしては、石原産業社製のFTL−300等の市販品を用いることができる。
【0024】
本発明のポリイミドチューブには、本発明の趣旨を損ねない範囲で、黒鉛及び針状酸化チタン以外のフィラーを配合してもよい。このようなフィラーとしては、ボロンナイトライド、カーボンナノチューブ、アルミナ、シリコンカーバイド、金属シリコン等の高熱伝導フィラーや、カーボンブラック、ケッチェンブラック、金属粉(ニッケル、アルミニウム、銅、銀、)等の導電性フィラーを挙げることができる。
【0025】
請求項4の発明は、厚みが10〜150μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドチューブである。
【0026】
ポリイミドチューブの厚み、外径、長さ等は、所望の機械的強度や用途等に応じて適宜選択することができる。本発明のポリイミドチューブを、電子写真方式の画像形成装置における定着ベルトの基材として使用する場合には、ポリイミドチューブの厚みを通常10〜150μm、好ましくは20〜120μm、より好ましくは30〜100μmとし、その外径を通常5〜100mm、好ましくは10〜50mmとする。ポリイミドチューブの長さは、例えば、コピー用紙等の被転写材の大きさに応じて、適宜設定することができる。
【0027】
本発明のポリイミドチューブを構成するポリイミド樹脂としては、熱硬化型ポリイミド樹脂(「縮合型ポリイミド樹脂」ともいう)及び熱可塑性ポリイミド樹脂のいずれも用いることができるが、熱硬化型ポリイミド樹脂から形成されたものであることが、耐熱性、引張強度、引張弾性率等の観点から好ましい。
【0028】
熱硬化型ポリイミド樹脂としては、耐熱性や機械的強度等の観点から縮合型の全芳香族ポリイミド樹脂が好ましい。例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物等の酸二無水物と、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノベンズアニリド、レゾルシンオキシジアニリン等のジアミンとを有機溶媒中で重合反応させてポリイミド前駆体を合成し、加熱して脱水閉環したものを挙げることができる。
【0029】
又、本発明で使用するポリイミド樹脂は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。このポリイミド樹脂としては、具体的には、特許文献5にその化学構造が記載されたもの等を挙げることができる。
【0030】
熱硬化型ポリイミド樹脂からなるポリイミドチューブは、ポリイミド前駆体(「ポリアミド酸」または「ポリアミック酸」ともいう)の有機溶媒溶液(以下、「ポリイミド前駆体ワニス」という。)に、黒鉛や針状酸化チタン等を添加して分散させたもの(以下、「ポリイミドワニス」という。)を、チューブの形状に賦形した後、加熱してポリイミド前駆体を脱水閉環してポリイミド化する方法により製造することができる。ポリイミド前駆体ワニスとしては、独自に合成したものの他、市販品を用いることができる。
【0031】
チューブの形状に賦形する方法としては、円柱状芯体の外面または円筒状芯体の外面もしくは内面にポリイミドワニスを塗布し、乾燥する方法を挙げることができる。ポリイミドワニスの塗布層を乾燥後、芯体表面に付着した状態で加熱硬化(イミド化)してもよいし、又は管状物としての構造を保持し得る強度まで固化した時点で、芯体表面から塗布層を取り外し、次の工程で加熱硬化してもよい。ポリイミド前駆体は、最高温度350℃から450℃まで加熱すると、ポリアミド酸が脱水閉環してポリイミド化する。
【0032】
ポリイミドワニスを、円柱状芯体の外面または円筒状芯体の外面(外表面)もしくは内面に塗布する方法としては、ディスペンサーを用いて、螺旋状に巻回して塗布層を形成する方法(ディスペンサー法)を挙げることができる。
【0033】
具体的には、ディスペンサー法では、
円柱状芯体の外面、又は円筒状芯体の外面もしくは内面に、ディスペンサー供給部の吐出口を近接又は接触し、
前記芯体を回転させながら、かつ前記吐出口を芯体の回転軸方向に相対的に移動させながら、
前記吐出口より、前記円柱状芯体の外面上、又は円筒状芯体の外面上もしくは内面上に、ポリイミドワニスを連続的に供給して塗布層を形成する工程、
前記塗布層の形成後、前記塗布層を固化又は硬化する工程、及び
前記固化又は硬化後、前記芯体から塗布層を脱型する工程、
が行われる。
【0034】
本発明のポリイミドチューブは、定着ベルトの基材として用いることができる。本発明は、請求項5として、前記本発明のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着剤層を介して、フッ素樹脂層が設けられていることを特徴とする定着ベルトを提供する。この定着ベルトは、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニット等に、好適に使用される。
【0035】
本発明のポリイミドチューブを定着ベルトの基材として使用する場合、その外周面にフッ素樹脂ワニスを塗布し、高温で焼結する方法を採用することがあるが、前記ポリイミド樹脂、ポリイミド共重合体、及びこれらのブレンド物は、このような高温での焼結に耐え得るだけの耐熱性を有している。
【発明の効果】
【0036】
本発明のポリイミドチューブは、熱伝導性が高く定着ベルトとして用いた場合に定着性が優れるとともに、剛性が高く、駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じにくく、又、通紙を繰返しても裂けや破れが生じにくい優れた強度を有する。本発明の定着ベルトは、駆動時のねじれ変形や座屈による潰れを生じにくく、裂けや破れが生じにくい定着ベルトであり、良好な画像性と強度を有するものとして、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニット等に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】定着ベルトを用いた定着方式を示す説明図である。
【図2】ディスペンサー法による塗布法を示す説明図である。
【図3】定着ベルトの一例の層構成を示す断面図である。
【図4】定着ベルトの他の一例の層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく本発明の趣旨を損なわない限り他の形態へ変更することができる。
【0039】
図2は、本発明のポリイミドチューブの製造に適用することができるディスペンサー法の説明図である。図2に示すように、円柱状芯体24を周方向に回転させながら、ポリイミドワニスをディスペンサーの供給部21から連続的に、円柱状芯体24の外面に供給する。該供給部の吐出口22は、該芯体24の外面に接触させる。なお、芯体としては、円柱状芯体24の代わりに、円筒状芯体を用いることが出来、この場合も図2の場合と同様に、芯体の外面にポリイミドワニスを供給することもできるが、芯体の内部に、ディスペンサーの供給部の吐出口を接触させて、芯体の内面にポリイミドワニスを供給することもできる。
【0040】
ポリイミドワニスを、ディスペンサー1の供給部21の吐出口22から連続的に供給するとともに該供給部21を芯体の回転軸方向に相対的に移動させると、供給したポリイミドワニスが螺旋状に巻回されて塗布層23が形成される。回転速度及び移動の速度は、芯体24の表面に隙間無くポリイミドワニスが塗布され、螺旋状に巻回されたポリイミドワニスの隣接部分が結合して均一な塗布層を形成できる速度とする。
【0041】
この塗布工程の後、常法により、塗布したポリイミドワニスを加熱硬化(イミド化)すると、強固な薄いチューブ状のフィルムが生成する。その後、該芯体からチューブを取り出すことにより、ポリイミドチューブを得ることができる。塗布工程後、完全にイミド化することなく、塗布層が少なくともチューブとしての構造を保持しうる強度を有するまで固化したチューブを脱型し、脱型後に該チューブを加熱硬化(イミド化)させてもよい。
【0042】
この製造方法に用いられるポリイミドワニスの25℃での粘度は、好ましくは100〜15000ポイズである。ポリイミドワニスの粘度が高すぎると、螺旋状に巻回塗布されたポリイミドワニスが互いに接触してつながる部分が他の部分より薄くなり、塗布層の表面に凹凸を生じる。ポリイミドワニスの粘度が低すぎると、塗布時または乾燥時に液だれもしくははじきが生じ、チューブを形成することが困難となる。
【0043】
使用する芯体の形状は、円柱状及び円筒状である。本発明で使用する芯体の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス等の金属;アルミナ、炭化ケイ素等のセラミックス;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール等の耐熱樹脂等が挙げられる。
【0044】
本発明のポリイミドチューブは、電子写真方式の画像形成装置における定着ユニットに装着される定着ベルトの基材として用いることができる。本発明の定着ベルトは、本発明のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着剤層を介してフッ素樹脂層が設けられた構造を有するものである。フッ素樹脂層は、定着ベルトに離型性を付与し、記録紙等の被転写材上のトナーが定着ベルト表面に付着しないようにするために設けられる。
【0045】
フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂としては、定着ベルトの高温での連続使用を可能とするために、耐熱性に優れたものが好ましく、その具体例としては、例えば、テトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0046】
本発明の定着ベルトは、加熱硬化(イミド化)したポリイミドチューブの外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層を形成することにより製造することができる。フッ素樹脂層の形成に際し、高温でフッ素樹脂の焼結を行う場合には、ポリイミドチューブの製造工程で溶媒を乾燥除去して固化したチューブを作製し、その上に、直接または接着層を介してフッ素樹脂層を形成した後、フッ素樹脂の焼結と同時にポリイミドチューブを加熱硬化させてもよい。フッ素樹脂層を形成する他の方法として、フッ素樹脂チューブを被覆する方法を採用することもできる。フッ素樹脂層の厚みは、通常1〜30μm、好ましくは5〜15μm程度である。
【0047】
フッ素樹脂層は、フッ素樹脂のみを用いて形成することができるが、帯電によるオフセットを防止するために、好ましくは導電性フィラーを含有させる。導電性フィラーとしては、特に限定されないが、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック、アルミニウム等の金属粉等を挙げることができる。
【0048】
定着ベルトには、ポリイミドチューブとフッ素樹脂層との間の接着性を向上させるために、中間層として接着層を設けることができる。接着層には、所望により、導電性フィラーを含有させることができる。接着層は、耐熱性の観点から、耐熱性樹脂により構成することが好ましい。接着層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂とポリアミドイミド樹脂との混合物、フッ素樹脂とポリエーテルスルホン樹脂との混合物等が好ましい。
【0049】
図3は、ポリイミドチューブ11の外周面にフッ素樹脂層13が形成された二層構造の定着ベルトを示す断面図である。図4は、ポリイミドチューブ11の外周面に、接着層12を介して、フッ素樹脂層13が形成された三層構造の定着ベルトを示す断面図である。さらに、本発明の趣旨を損ねない範囲で、中間層に、接着層以外の樹脂層またはゴム層を付加的に配置してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0051】
実施例1〜10、比較例1〜4
<ポリイミドワニスの製造>
下記「使用原料」の欄に示すポリイミド前駆体ワニス、黒鉛及び針状酸化チタンを、表1〜3に記載の配合割合で、撹拌機により予備撹拌し、3本ロールミルで配合後、真空脱泡を行い、ポリイミドワニスを得た。
【0052】
「使用原料」
[ポリイミド前駆体ワニス]
宇部興産社製「U−ワニスS−301」、比重1.446:下記式(A)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを形成するポリイミド前駆体を、溶剤(N−メチルピロリドン)に濃度18%で溶解したワニス(以下、「UワニスS」との略号で示す。)と、
I.S.T社製「Pyre ML RC−5019」:下記式(B)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを形成するポリイミド前駆体を、溶剤(N−メチルピロリドン)に濃度15%で溶解したワニス(以下、「Pyre ML」との略号で示す。)を、
80:20(重量比)で混合したワニス。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
[黒鉛] 中越黒鉛社製:BF−3AK(平均粒子径3μm、鱗片状)
【0056】
[針状酸化チタン] 石原産業社製:FTL−300(平均径×長さ:0.27μmφ×5.15μm 針状)
【0057】
<ポリイミドチューブの作製>
ディスペンサーの供給部にセットしたノズル(吐出口)を、外面にセラミックスをコーティングした外径20mmφのアルミニウム製円柱である芯体の外面に接触させ、該芯体を回転させるとともに、ノズルを該芯体の回転軸方向に一定速度で移動させながら、ノズルから前記ポリイミドワニスを芯体の外面に定量供給し、ポリイミドワニスの塗布を行った。塗布後、芯体を回転させながら400℃まで段階的に加熱し、冷却後、固化したポリイミド樹脂の塗布膜を芯体から、チューブとして脱型した。このようにして得られたポリイミドチューブの厚みは60μmであり、外径は24.2mmで、長さは233mmであった。
【0058】
得られたポリイミドチューブについて、下記の方法で、定着性試験、剛性の評価、強度の評価を行った。その結果を表1〜3に示す。
【0059】
(1)定着性試験
市販のレーザービームプリンタを用い、20枚/分の印刷速度で印刷を行い、トナーの脱落を目視して確認し、以下に示す基準で評価した。
◎:トナーの脱落がほとんどない。
○:トナーの脱落はあるが、わずかであり許容範囲である。
×:トナーの脱落が多く、問題を生じる。
【0060】
(2)剛性の評価
市販のレーザービームプリンタを用い、20枚/分の印刷速度で100K枚の印刷を行い、通紙100K枚後のローラの状態を確認し、以下に示す基準で評価する。
◎:通紙100Kでローラの座屈やねじれを殆ど生じない。
○:通紙100Kでローラの座屈を生じない。ねじれも許容範囲である。
×:通紙100Kでローラの座屈を生じる。またはねじれが発生し、問題を生じる。
【0061】
(3)ローラの強度(破れ及び裂けの発生)の評価
市販のレーザービームプリンタを用い、20枚/分の印刷速度で100K枚の印刷を行い、通紙100K枚後のローラの状態を、以下に示す基準で評価した。
◎:通紙100Kで裂けや破れを殆ど生じない。
○:通紙100Kで裂けや破れがわずかに発生するが許容範囲である。
×:通紙100Kで裂けや破れが発生し、問題を生じる。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
実施例1〜10及び比較例1〜4では、全て、黒鉛及び針状酸化チタンの配合量の合計は15容量%以上である。しかし、黒鉛の配合量が(28容量%を超える)30容量%である比較例1で得られたポリイミドチューブは、強度に劣り通紙100Kで裂けや破れが発生する等の問題を生じる。すなわち、この結果より、黒鉛配合量は28容量%以下とするべきことが示されている。
【0066】
又、針状酸化チタンを配合しない(針状酸化チタンの配合割合が15%未満)比較例2及び3で得られたポリイミドチューブは、剛性に劣り、定着ローラの座屈やねじれが発生している。従って、優れた座屈強度を得るためには、針状酸化チタンの添加が必要であることが示されている。
【0067】
一方、黒鉛を配合せず針状酸化チタンのみを配合(針状酸化チタンの配合割合が60容量%を超える)した比較例4で得られたポリイミドチューブは、定着性及び強度が劣る。従って、優れた定着性及び強度を得るためには、針状酸化チタンとともに黒鉛を添加するべきことが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリイミドチューブは、電子写真方式による画像形成装置の定着ユニットに配置する定着ベルトの基材として利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 定着ベルト
2 ヒータ
3 加圧ローラ
4 被転写材
5 未定着トナー像
6 定着トナー像
11 ポリイミドチューブ
12 接着層
13 フッ素樹脂層
21 ディスペンサー
22 供給部
23 塗布されたポリイミドワニス
24 芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂中に、黒鉛及び針状酸化チタンを分散したポリイミド樹脂組成物からなるポリイミドチューブであって、黒鉛及び針状酸化チタンの配合量の合計が、前記ポリイミド樹脂組成物の全容量基準で15容量%以上であり、黒鉛の配合量が、組成物全容量基準で28容量%以下であり、かつ、針状酸化チタンの配合割合が、黒鉛及び針状酸化チタンの合計に対して15〜60容量%であることを特徴とするポリイミドチューブ。
【請求項2】
前記黒鉛の平均粒子径が、0.3μm以上で30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドチューブ。
【請求項3】
前記針状酸化チタンの平均径が、0.3μm以上で30μm以下であり、平均長さが、0.10μm以上で1000μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミドチューブ。
【請求項4】
厚みが10〜150μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドチューブ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリイミドチューブをベルト基材とし、該ベルト基材の外周面に、直接または接着層を介して、フッ素樹脂層が設けられていることを特徴とする定着ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−225990(P2012−225990A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90977(P2011−90977)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】