説明

ポリイミド前駆体粉末

【課題】ポリイミド成形体の製造に好適に利用でき、安定性に優れており、機械特性に優れる高耐熱性ポリイミドに変換しうるポリイミド前駆体粉末を提供すること。
【解決手段】良溶媒中においてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類からなるポリイミド前駆体を重合し、得られたポリイミド前駆体溶液を貧溶媒と混合し析出したポリイミド前駆体を濾過し、揮発成分が3〜32質量%となるまで乾燥し得られるポリイミド前駆体粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたポリイミド特にポリイミドベンゾオキサゾ‐ルの成形体となし得るポリイミド前駆体粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
融点が400℃以上か又は明確な融点を示さない、溶媒に不溶などの不溶不融の挙動をとる耐熱性高分子であるポリイミドの成形体は、例えば、芳香族ポリイミドの粉末を圧縮成形して圧粉末(グリーン体)を形成し、次いで無圧の状態で窒素などの不活性雰囲気中で焼結して成形される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭49−005737号公報
【0003】
耐熱性高分子の一種である芳香族ポリイミド小片や粉末の製造方法は、例えばポリアミド酸溶液を第3級アミン存在下に加熱して芳香族ポリイミド粉末を得る方法(特許文献2、3参照)、また、ビフェニルテトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との等モルを、生成するポリイミドが1質量%以上溶解しないアミド系溶媒に155℃より低い温度で溶解した低い回転粘度の均一な溶液を、攪拌しながら160℃〜300℃の温度に短時間で昇温し、前記範囲内の温度に維持して対数粘度が0.2〜1である芳香族ポリイミドを生成させ微細な粒子として析出させるポリイミド粉末の製造法(特許文献4参照)、ポリイミドを生成しうる少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれと略等量の少なくとも1種の芳香族ポリイソシアネートとを、極性溶媒を主成分とする有機溶媒中100〜200℃の温度で加熱重合させて上記ポリイミドの粒子をスラリー状に沈殿析出させ、ポリイミド粒子をろ別ないし遠心分離し、ポリイミド粒子を上記同様の極性溶媒を主成分とする有機溶媒で洗浄する平均粒子系1〜20μmの球状多孔性のポリイミド粉末を得るポリイミド粉末の製造方法(特許文献5参照)、また、ポリアミド酸を良溶媒中に溶解してポリアミド酸溶液とし、100℃〜400℃の温度で加熱処理して、溶媒中にポリイミド粒子を沈澱させ、平均粒子径が200μm以下であり、X線回折によるポリマーの結晶化度が50%以上のポリイミドパウダーを直接採取する製造方法(特許文献6参照)、30モル%以上の2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸成分を含むビフェニルテトラカルボン酸二無水物の部分エステル化物と芳香族ジアミンとを反応させて、生成した固体状態のポリイミド前駆体を分離取得し、好適には150〜300℃で加熱して脱水閉環するポリイミド粉末の製法(特許文献7参照)など多数提案されている。
【0004】
さらに、成形性に優れ、力学的特性が優れたポリイミド成形体を得ることができ、溶媒への溶解性が優れたポリイミド前駆体の粉粒体として、ポリイミド前駆体と強く相互作用しない溶媒にテトラカルボン酸二無水物を溶解あるいは懸濁しておき、ジアミンを加えて重合すると、溶媒除去が容易であり、得られるポリイミド前駆体の粉粒体固有粘度が0.7dl/g以上であるポリイミド前駆体の粉粒体を得ることが開示されている(特許文献8参照)。
【特許文献2】特公昭39−030060号公報
【特許文献3】特開平04−142332号公報
【特許文献4】特開昭57−200452号公報
【特許文献5】特公昭61−026926号公報
【特許文献6】特開平07−033875号公報
【特許文献7】特開2000−128893号公報
【特許文献8】特開平05−271539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記のポリイミド粉末は、いずれもポリアミド酸を経由するなどしてのポリイミド粉末を得るための直接粉末を得る方法であり、溶媒の分離・除去などを伴い、その粉末の大きさと粒子径分布の制御においても多くの課題を有している。さらに特許文献8記載の方法は貧溶媒に近い特定溶媒で重合するものであり、極めて限定されたポリイミド前駆体粉末であり、重合時の制御が極めて限定されたものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、耐熱性、機械的性質に優れたポリイミドベンゾオキサゾ‐ルの成形体を容易に得ることができ、成形時における溶媒の離脱や成形時の容易さを得るために添加する熱可塑ポリイミドなどによる耐熱性、機械的性質の低下などの課題を解決し得る本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の構成である。
1.主としてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と、主として芳香族テトラカルボン酸類から得られるポリアミド酸を主成分とし、加熱揮発成分が32質量%未満であるポリイミド前駆体粉末。
【発明の効果】
【0007】
ポリアミド酸は一般に重合溶媒との溶液という形で得られるため、いわゆる再沈操作により粉末とすることができるが、通常、このようにして得られた粉末には重合溶媒、再沈溶媒を含み加熱揮発成分が残存し、成形時、ないしその後の加熱時に、かかる成分が揮発し、ボイド、気泡、表面のブリスターなどが生じやすく、このような応用の実用化が阻まれていた。ポリイミド樹脂の成形体は熱可塑ポリイミド、ないしは熱可塑ポリイミドと不溶不融ポリイミドの混合物という形でしか実現することができなかった。
本発明の主としてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と、主として芳香族テトラカルボン酸類から得られるポリアミド酸を主成分とし加熱揮発成分が32質量%未満であるポリイミド前駆体粉末は、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類が耐熱性が高く剛直な化学構造を有し、特に芳香族テトラカルボン酸無水物類と組み合わせてポリイミドとなすことにより優れた機械特性と高耐熱性を具備するポリイミド樹脂となり得る樹脂であり、かかる組み合わせのポリアミド酸樹脂の、加熱揮発成分を特定の範囲に制御することにより、取り扱い可能な粉末とすることができ、また一般の不溶不融ポリイミド樹脂に比較して圧縮成型が容易であり、なおかつ成形後の加熱プロセスにおいて揮発成分が抜けやすく、ポリアミド酸段階で整形してから加熱イミド化を行うことにより、形状自由度の高い成形体を得ることができる。
そのため、優れた耐熱性、機械特性、摺動特性を維持した成形体が得られ、電子、電気産業、自動車産業、宇宙、航空産業などにおいてエンジニアプラスチックとして使用することができ極めて有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の主としてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類(ジアミン又はその誘導体)と、主として芳香族テトラカルボン酸類(無水物、ハロゲン物、酸など)から得られるポリアミド酸を主成分の加熱揮発成分が32質量%未満であるポリイミド前駆体粉末は、例えばベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とを溶媒中で重縮合して得られるポリアミド酸の溶液を、貧溶媒と混合し析出したポリイミド前駆体を濾過し、揮発成分が下限が3質量%程度で上限が32質量%未満となるまで乾燥しポリイミド前駆体粉末を得る方法などで得られるものである。
本発明においては、加熱揮発成分が32質量%未満であるポリイミド前駆体粉末の揮発成分を、さらに5〜28質量%、最も好ましくは10〜24質量%とすることが好ましい。
加熱揮発成分が上限が32質量%未満の範囲を超えると、成形加工時にボイドが、ブリスターが発生しやすくなり、また粉末としての安定性が損なわれブロッキングが生じる場合がある。また加熱揮発成分が、下限3質量%程度の範囲より小さい場合には乾燥に長時間を要し、不経済的であるとともに、長時間の乾燥中に前駆体高分子が分解し、分子量が低下してしまう場合がある。
【0009】
本発明で用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを全芳香族ジアミン類の70モル%以上使用することが好ましい。
【0024】
本発明は、下記の芳香族ジアミンを使用してもよいが、好ましくは全芳香族ジアミン類の30モル%未満であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種又は二種以上、併用してのポリアミド酸もしくはポリイミド前駆体粉末である。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、
【0025】
3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4'−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
【0026】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0027】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4'−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、
【0028】
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4'−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4'−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4'−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4'−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0029】
3,3'−ジアミノ−4,4'−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノ−5,5'−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−4,5'−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−5'−フェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4,4'−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノ−5,5'−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−4,5'−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4'−ジアミノ−5'−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシル基、シアノ基、又はアルキル基又はアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基又はアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は好ましくは芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0031】
【化14】

【0032】
【化15】

【0033】
【化16】

【0034】
【化17】

【0035】
【化18】

【0036】
【化19】

【0037】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、全芳香族テトラカルボン酸類の30モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種又は二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、
【0038】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0040】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。
重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは20〜2000Pa・sであり、より好ましくは200〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0dl/g以上が好ましく、4.0dl/g以上がさらに好ましい。
【0041】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
上記のポリアミド酸には、滑剤をその溶液中に添加含有せしめるなどしてポリイミド樹脂成形体表面に微細な凹凸を付与し滑り性など他機能を付与又は改善することもできる。
滑剤としては、無機や有機の0.03μm〜3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。
【0042】
本発明のポリイミド前駆体粉末は、たとえばポリアミド酸の溶液を、ポリアミド酸の貧溶媒と混合し、析出した樹脂成分を濾過し、加熱揮発成分が32質量%以下となるように乾燥して得ることができる。ここに加熱揮発成分とは、主としてポリアミド酸製造時に使用する溶媒(例示は前記)、貧溶媒、脱水閉環反応時に出る水である。
貧溶媒としてはポリアミド酸を溶解しないものであれば特に限定されないが、アルコール類、ケトン類、エーテル類、芳香族系溶剤類から選択できる単一種でも、これらの組み合わせからなる複数種の混合溶媒でもかまわない。さらに、本発明の実施を妨げない範囲で、その他種々溶媒を上記溶媒に混合して反応溶媒として用いても差し支えない。
【0043】
アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。
エーテル類としては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
芳香族系溶剤類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
これら溶媒種のうち、本発明において特に好ましくは、メチルアルコール、アセトンもしくはジオキサンである。
【0044】
得られるポリイミド前駆体粉末の粒径は体積平均粒子径で1〜500μm、好ましくは5〜200μmである。形状については特に限定されない。飛散を防止し取り扱い性を容易とする観点より顆粒状に加工されることは好ましい態様である。
本発明のポリイミド前駆体粉末は、イミド閉環して熱可塑性のポリイミドに変換する。なお、イミド閉環はポリイミド前駆体粉末を加熱焼成することにより、あるいは無水酢
酸に代表される脱水剤で化学的に処理することにより進行する。焼成(イミド化)の昇温プロファイルは特に限定されないが、例えば、120〜230℃程度の温度で第1段階の焼成を行い、さらに230〜550℃程度の高温にて二次焼成を行う態様が好ましい。かかる熱処理によりポリイミド前駆体粉末がイミド閉環して高重合度の耐熱性ポリイミド成形体に変換される。
また、前記したように得られるポリイミドの種々特性を改善する目的で、無機もしくは有機質フィラーを配合することができる。
フィラーの配合は、必要量をポリアミド酸重合反応時、ないしはポリアミド酸重合後のポリアミド酸溶液中に添加しておく方法、あるいは粉末とした後に配合する方法、成形する直前に配合する方法などを例示することができる。本発明では、特にポリアミド酸重合反応時、ないしはポリアミド酸重合後のポリアミド酸溶液中にフィラーを添加することが好ましい。フィラーの添加量はポリアミド酸に対して0.1〜50質量%程度が好ましい。
本発明のポリイミド前駆体粉末は、容易にポリイミド粉末に変換でき、従来用いられているように成形体のマトリックスとして好適に利用できる。また、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチル−2−ピロリドン等の溶媒に再溶解してポリイミド前駆体溶液として用いることもできる。
本発明のポリイミド前駆体粉末を成形熱処理して得られるポリイミドベンゾオキサゾ‐ルの成形体の形状は特に限定されるものではないが好ましくはシートや丸棒・平板などの構造材や複雑形状の部品などである。
【実施例】
【0045】
実施例などで使用される評価方法は以下のとおりである。
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0046】
2.体積平均粒子径
粉末を、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1質量%を添加したイオン交換水に、超音波洗浄機を用いて分散し、レーザー散乱式粒度分布計LB−500(堀場製作所社製)により測定した。
【0047】
3.加熱揮発成分
加熱揮発成分の測定は、DSC測定装置を用いて、室温から200℃まで5℃/分の速度で昇温し、200℃にて60分保持する条件下での質量減を求め、下記式にて算出した。
加熱揮発成分(%)={(初期の質量−加熱後の質量)/(初期の質量)}×100
【0048】
〔実施例1〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後,コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(登録商標)DMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え,25℃の反応温度で24時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。このもののηsp/Cは4.0dl/gであった。
得られたポリアミド酸溶液A100質量部を、25℃攪拌下の1000質量部のメタノールに静かに滴下し、吸引漏斗で凝固物を回収した。ついで1000質量部のメタノールにて凝固物を洗浄し、再度吸引漏斗で濾過し、得られた粗粉末を、真空乾燥機にて110℃12時間乾燥し、瑪瑙乳鉢にて解砕し、11.8質量部のポリイミド前駆体粉末(A1)を得た。
得られたポリイミド前駆体粉末(A1)の体積平均粒子径は51μm、加熱揮発成分は28質量%であった。
得られた粉末を、直径30mm、厚さ3mmのディスク状の型に押し込み、100kg重の加重でプレスして成形体とし、マッフル炉を用いて、160℃にて30分間加熱し、ついで20℃/分にて420℃まで昇温し45分間保持した後、室温まで冷却し、ポリイミド樹脂成形体を得た。
得られた成形体は黒褐色で、用いた型と同様の直径約30mmの平坦なディスク形状であり、取り扱うに十分な強度を有していた。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1で得られたポリアミド酸溶液A100質量部を、25℃にて激しい攪拌下の1000質量部のメタノールに静かに滴下し、吸引漏斗で凝固物を回収した。ついで1000質量部のメタノールにて凝固物を洗浄し、再度吸引漏斗で濾過し、得られた粗粉末を、真空乾燥機にて110℃48時間乾燥し、瑪瑙乳鉢にて解砕し、10.5質量部のポリイミド前駆体粉末(A2)を得た。
得られたポリイミド前駆体粉末(A2)の体積平均粒子径は24μm、加熱揮発成分は19質量%であった。
得られた粉末を用いて実施例1と同様に、直径30mm、厚さ3mmのディスク状の型に押し込み、100kg重の加重でプレスして成形体とし、マッフル炉を用いて、160℃にて30分間加熱し、ついで20℃/分にて505℃まで昇温し5分間保持した後、室温まで冷却し、ポリイミド樹脂成形体を得た。
得られた成形体は黒褐色で、用いた型と同様の直径約30mmの平坦なディスク形状であり、取り扱うに十分な強度を有していた。
【0050】
〔比較例1〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、4170質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(登録商標)DMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)、と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Bが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7dl/gであった。
以下、実施例1と同様に操作し、ポリイミド前駆体粉末(B1)を得た。
得られたポリイミド前駆体粉末(B1)の体積平均粒子径は34μm、加熱揮発成分は31質量%であった。
得られた粉末を用いて実施例と同様にディスク型に入れて成形し、同様にマッフル炉にて熱処理を行った。得られた成形体は褐色の脆く崩れやすい塊であった。
【0051】
〔比較例2〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れた。次いで、4010質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(登録商標)DMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)と292.5質量部のジフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて12時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Cが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5dl/gであった。
以下、実施例と同様に操作し、ポリイミド前駆体粉末(C1)を得た。
得られたポリイミド前駆体粉末(C1)の体積平均粒子径は41μm、加熱揮発成分は32質量%であった。
得られた粉末を用いて実施例と同様にディスク型に入れて成形し、同様にマッフル炉にて熱処理を行いポリイミド樹脂成形体を得た。得られた成形体は黒褐色のディスク状で、取り扱い上十分な強度を有していたが、形状が歪み、平坦では無く、また成形体の一部に膨れが生じていた。成形体を膨れ部分で切断したところ、断面に空洞が観察された。
【0052】
〔比較例3〕
実施例1で得られたポリアミド酸溶液A100質量部を、25℃にて攪拌下の1000質量部のメタノールに静かに滴下し、吸引漏斗で凝固物を回収した。ついで1000質量部のメタノールにて凝固物を洗浄し、再度吸引漏斗で濾過し、得られた粗粉末を、真空乾燥機にて90℃にて12時間乾燥し、瑪瑙乳鉢にて解砕し、12.3質量部のポリイミド前駆体樹脂粉末(A3)を得た。
得られたポリイミド前駆体粉末(A3)の体積平均粒子径は67μm、加熱揮発成分は45質量%であった。
得られた粉末を用いて実施例1と同様に、直径30mm、厚さ3mmのディスク状の型に押し込み、100kg重の加重でプレスして成形体とし、マッフル炉を用いて、160℃にて30分間加熱し、ついで20℃/分にて505℃まで昇温し5分間保持した後、室温まで冷却し、ポリイミド樹脂成形体を得た。
得られた成形体は脆く崩れやすい物であった。また成形体の破断面に多数のボイドが観察された。また得られたポリイミド前駆体粉末(A3)は、室温での保管24時間後において全体が脆い塊状にブロッキングしていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリイミド前駆体粉末は自由度の高い成形が可能であり、また熱処理により形状が歪むことなく、実用上十分な強度を有するポリイミド樹脂成形体を得ることができる。
また本発明のポリイミド前駆体粉末を使用して得られるポリイミド樹脂成形体は、優れた耐熱性、機械特性、摺動特性を維持した成形体が得られ、電子、電気産業、自動車産業、宇宙、航空産業などにおいてエンジニアリングプラスチックとして使用することができ極めて有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と、主として芳香族テトラカルボン酸類から得られるポリアミド酸を主成分とし、加熱揮発成分が32質量%未満であるポリイミド前駆体粉末。

【公開番号】特開2007−112926(P2007−112926A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306985(P2005−306985)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】