説明

ポリイミド粉体の製造方法

【課題】微細なポリイミド粉体を、高い精度で、短時間に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルム又はシート等のポリイミド加工品を、350℃以上の高温雰囲気に曝して熱処理した後、粉砕することを特徴とするポリイミド粉体の製造方法であり、ポリイミドフィルム又はシートとして製造現場で発生した屑フィルム又はシートを使用することもできる。これを配合した樹脂組成物を成形してなる成形品は、表面外観特性、破断伸び及び耐熱性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド粉体の製造方法に関する。詳細には、樹脂加工分野等で使用されるポリイミド粉体の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド粉体は、例えば、粉体を金型に充填して圧縮成形して樹脂体を製造する際の原料、あるいはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂に添加するフィラーとして、樹脂加工分野で広く使用されている。さらに、電線、ケーブル、変圧器、抵抗器など高電圧廻りの樹脂に添加する難燃剤としても用途が拡大されつつある(特許文献1参照)。
【0003】
これまでポリイミド粉体としては、ポリアミド酸溶液を第3級アミン存在下に加熱して得られる芳香族ポリイミド粉体(例えば、特許文献2参照)、ポリアミド酸溶液を水、トルエン、ヘキサンのようなポリアミド酸に対する貧溶媒と接触させて粉体とし、これを加熱して得られる粉体(特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記の公知文献に記載されているポリイミド粉末の製造法では、ポリアミド酸に対して大量の貧溶媒が必要で、かつポリアミド酸溶液と貧溶媒の混合条件を厳密に制御しなければならないなどの問題があった。また、基本的に球状あるいはそれに類した形状のポリイミド粉体しか得られず、これらの粉体は使用時に凝集しやすいという問題があった。
【0005】
そのため、ポリイミドフィルムを原料としこれを粉砕することが提案された(特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、ポリイミドフィルムを粉砕するポリイミド粉体の製造法では、微細なポリイミド粉体を得るためには長時間粉砕する必要があった。そのため、粉砕作業効率が悪いだけでなく、ポリイミド粉体を微細化していくほど粉体の粒度にばらつきが生じ易く、粉砕精度の点でも課題があった。
【特許文献1】特開2007−297564号公報
【特許文献2】特開平4−142332号公報
【特許文献3】特開昭61−252228号公報
【特許文献4】特開2008−56755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、微細なポリイミド粉体を高い精度で、短時間に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を採るものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリイミド加工品を350℃以上の高温雰囲気に曝して熱処理した後、粉砕することを特徴とするポリイミド粉体の製造方法を提供する。ポリイミドはガラス転移点(Tg)が不明瞭で融点も存在しない高耐熱性素材であるため、高温下に曝しても熱分解するおそれがない。このような高温雰囲気に曝して熱処理することにより、粉砕精度及び粉砕能力が大幅に向上する。また、得られた微細なポリイミド粉体は、他の樹脂へ配合した際の分散性に優れており、成形品の成形特性も良好である。
【0010】
ポリイミド加工品としてポリイミドフィルム又はシートを使用することが好ましい。ポリイミドフィルム又はシートは厚みがないため、機械的粉砕手段により微細粒子を安定的に得ることができるからである。
【0011】
また、ポリイミドフィルム又はシートとして製造現場で発生した屑フィルム又はシートを使用することが好ましい。ポリイミドフィルム又はシートの製造現場では製品ロールを作製する際に破棄される屑フィルム又はシートが多量に発生する。かかる屑フィルム又はシートは、熱をかけても溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないためリサイクルが難しく、一般に埋め立てや焼却により処理されている。本発明によれば、産業廃棄物処理の問題も解決することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温で熱処理したときよりも、ロットによるバラツキが殆んどなく短時間に粉砕することができるため、粉砕精度及び製造能力が大幅に向上する。しかも、微細なポリイミド粉体を短時間で効率よく製造することができる。
得られるポリイミド粉体は、樹脂の配合剤として用いた場合に混合時の凝集等が殆んど起こらず、通常の混合方法で混合して樹脂組成物を得た後、これを成形機に供給する等の方法で、極めて分散性に優れた成形品を得ることができる。成形品はブツブツ感や浮き現象が無く表面外観特性が良好で、機械的特性にも優れている。
また、本発明法で得られるポリイミド粉体は、他の樹脂に配合した場合に成形品の耐熱性を向上させる効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリイミド粉体の製造方法においては、ポリイミド加工品を350℃以上の高温雰囲気に曝して熱処理する。熱処理温度は350℃以上、800℃以下が好ましい。加熱処理時間としては0.5〜5時間程度が適当である。熱処理は、通常の方法により、電気炉等の加熱処理装置を用いて行えば良い。
【0014】
原料となるポリイミド加工品は特に限定されず、また組成も限定されない。好ましくはフィルム又はシートが用いられ、これらはどのような厚さのものでも良い。原料として市販のポリイミドフィルム又はシートを使用することもでき、例えば、東レ・デュポン(株)製「カプトンH」(商品名)、同「カプトンEN」、同「カプトンTN」、同「カプトンTJ」等を使用することができる。組成や厚みの異なる2種類以上のポリイミドフィルム又はシートを同時に原料として使用することもできる。フィルム又はシートは、細かく裁断してから熱処理に供しても良い。
【0015】
なお、本発明においては、原料ポリイミドフィルム又はシートとして、ポリイミドフィルム又はシートを製造する際に多量に発生する屑フィルム又はシートを使用することにより、産業廃棄物の発生を無くすることができる。
【0016】
粉砕の際には、ジェットミル、ターボミル、アトマイザー、インパクトミル、振動ミル、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕機器を使用することができ、複数の異なる粉砕機器を組み合わせて使用しても良い。
【0017】
本発明のポリイミド粉体の製造方法では、粉砕機器や粉砕時間等の粉砕条件を変更することにより、所望の粒径のポリイミド粉体を製造することができる。就中、本方法によれば、平均粒径200μm以下の微細なポリイミド粉体を製造することができる。特に、平均粒径を5〜150μm、より好ましくは5〜50μmのポリイミド粉体を製造するのが良い。このような粉体を樹脂に配合した場合に、分散性が良好な成形品を得ることができるからである。
【0018】
本発明の製造方法は粉砕精度が良好で、粉砕効率が高く、それによって得られるポリイミド粉体は粒度が安定しているため、例えば、粉体を金型に充填して圧縮成形して樹脂体を製造する際の原料、樹脂に配合するフィラーなどとして、樹脂加工分野で広く使用することができる。
【0019】
上記の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリ1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂、ポリカプロアミド(ナイロン6)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)樹脂、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)樹脂、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)樹脂、ポリドデカンアミド(ナイロン12)樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6T)樹脂、ポリヘキサンメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)樹脂、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、フッ素樹脂、又はこれらの樹脂を変性させた変性樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0020】
あるいは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、珪素樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、シアネート樹脂、これらの共重合体樹脂、これら樹脂を変性させた変性樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0021】
本発明の方法で得られたポリイミド粉体を樹脂に配合するときの配合量は特に限定されず、使用目的に応じて適宜決定すればよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、下記実施例及び比較例における各物性値は、以下のようにして測定したものである。
【0023】
(実施例1)
厚み50〜100μmのポリイミドフィルムを裁断した後、ヤマト科学製電気炉(型式FP300)に入れ、500℃で3時間熱処理した後、中央化工機製MB型振動ミルにて3時間粉砕を行った。粒度をレーザー式粒度分布測定機LMS−30にて測定したところ、平均粒径(メディアン径)は7μmであった。
【0024】
(実施例2)
厚み50〜100μmのポリイミドフィルムを裁断した後、ヤマト科学製電気炉(型式FP300)に入れ、500℃で3時間熱処理した後、中央化工機製MB型振動ミルにて1時間粉砕を行った。粒度をレーザー式粒度分布測定機LMS−30にて測定したところ、平均粒径(メディアン径)は19μmであった。
【0025】
(比較例1)
厚み50〜100μmのポリイミドフィルムを裁断した後、ヤマト科学製電気炉(型式FP300)に入れ、250℃で3時間熱処理した後、中央化工機製MB型振動ミルにて3時間粉砕を行った。粒度をレーザー式粒度分布測定機LMS−30にて測定したところ、平均粒径(メディアン径)は302μmであった。
【0026】
(比較例2)
厚み50〜100μmのポリイミドフィルムを裁断した後、ヤマト科学製電気炉(型式FP300)に入れ、300℃で3時間熱処理した後、中央化工機製MB型振動ミルにて6時間粉砕を行った。粒度をレーザー式粒度分布測定機LMS−30にて測定したところ、平均粒径(メディアン径)は314μmであった。
【0027】
(比較例3)
厚み50〜100μmのポリイミドフィルムを裁断した後、ヤマト科学製電気炉(型式FP300)に入れ、300℃で24時間熱処理した後、中央化工機製MB型振動ミルにて12時間粉砕を行った。粒度をレーザー式粒度分布測定機LMS−30にて測定したところ、平均粒径(メディアン径)は297μmであった。
【0028】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(PP)(商品名ノバテック:日本ポリプロピレン社製)に、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたポリイミド粉体を、各20質量%配合したものを、東芝機械製スクリュー径45mmφの二軸押出機にてシリンダ温度280℃、スクリュー回転数220rpmで溶融混練りしてストランド状のガットを形成し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒してペレットを得た。得られたペレットを、東芝機械製射出成形機IS100を用いて、バレル温度280℃で成形して成形品を得、成形品を以下の方法により評価した。
【0029】
[成形品の表面外観特性]
目視観察により評価した。成形品の表面にブツブツが存在するもの又は浮き現象が見られるものを×、見られないものを○とした。
【0030】
[引張り破断伸び]
ASTM D−1708に準拠した。
【0031】
[荷重たわみ温度(DTUL)]
JIS K7207(ASTM D−648)に規定される低荷重(0.46MPa)下での荷重たわみ温度を測定した。
【0032】
上記の評価結果を、ポリイミド粉体の粉砕条件及び平均粒径とあわせて表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から、ポリイミドフィルムの熱処理温度が低い場合は、粉砕時間を長くしてもポリイミド粉体の粒度を細かくすることは困難であった。
【0035】
これに対し、本発明法によれば、短時間の粉砕で微細粒子を得ることができ、これを配合した成形品は表面外観特性、破断伸び及び耐熱性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のポリイミド粉体の製造方法によれば、粉砕精度が良好となりそれによって得られるポリイミド粉体は微細で粒度も安定しているため、例えば、粉体を金型に充填して圧縮成形して樹脂体を製造する際の原料、樹脂に配合するフィラーなどとして、樹脂加工分野で広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド加工品を350℃以上の高温雰囲気に曝して熱処理した後、粉砕することを特徴とするポリイミド粉体の製造方法。
【請求項2】
ポリイミド加工品がポリイミドフィルム又はシートであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド粉体の製造方法。
【請求項3】
ポリイミドフィルム又はシートとして製造現場で発生した屑フィルム又はシートを使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド粉体の製造方法。

【公開番号】特開2009−292985(P2009−292985A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150024(P2008−150024)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】