説明

ポリウレタン系弾性繊維、その製造方法及びその用途

【課題】 優れた耐塩素脆化性能を有し、特に水着用途に好適に使用されるポリウレタン系弾性繊維を提供する。
【解決手段】 本発明のポリウレタン系弾性繊維は、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも1個有する分子量が300以上である片ヒンダードフェノール化合物、分子量が400以上である有機硫黄化合物、及び無機系塩素劣化防止剤を含有することを特徴とするものであり、これら添加物は、それぞれ、0.15〜3重量%、0.15〜5重量%、0.1〜10重量%含有されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系弾性繊維、その製造方法、伸縮性布帛ならびに水着に関する。さらに詳しくは、スイミングプールなどで使用される水着に好適な耐塩素性およびNOx耐黄変性に優れたポリウレタン系弾性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンやポリウレタンウレアからなる弾性繊維(以下、ポリウレタン系弾性繊維という)は、高度のゴム弾性を有し、引張応力、回復性などの機械的性質、熱的性質に優れているため、レッグウェア、インナーウェア、スポーツウエアなどに広く使用されている。
【0003】
しかし、ポリウレタン系弾性繊維が使用された衣料製品は、塩素漂白剤に長時間浸せきし、洗濯を行うことを繰り返すことによってポリウレタン系弾性繊維の弾性機能が低下するという問題点がある。すなわち、ポリウレタン系弾性繊維を使用した水着を水泳プールなどの活性塩素濃度0.5〜3ppmの殺菌用塩素水中に繰り返し浸けると、ポリウレタン系弾性繊維の弾性機能が著しく損なわれたり、糸切れを生じるのである。
【0004】
ポリウレタン系弾性繊維の耐塩素性を改善するためには、脂肪族ポリエステルジオールを原料に用いたポリエステル系ポリウレタン系弾性繊維が好ましいが、それでも耐塩素性は不十分であった。しかも、脂肪族ポリエステルは生物活性が高いため、ポリエステル系ポリウレタン系弾性繊維は黴に侵され易いという欠点があり、使用中または保管中に水着の弾性機能が低下したり糸切れが生じ易いという問題点がある。
【0005】
一方、生物活性が極めて少ないポリエーテルジオールを原料に用いたポリエーテル系ポリウレタン系弾性繊維は黴による脆化のおそれは少ないが、耐塩素性がポリエステル系ポリウレタン系弾性繊維よりも劣るという問題点がある。ポリエーテル系ポリウレタン系弾性繊維の耐塩素性を改善するために、各種の添加剤、すなわち無機系塩素劣化防止剤が提案されている。例えば、無機系塩素劣化防止剤として、酸化亜鉛(特許文献1参照)、酸化マグネシウムや酸化アルミニウム等(特許文献2参照)、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等(特許文献3、4参照)、酸化マグネシウムと酸化亜鉛の固溶体(特許文献5参照)、酸化亜鉛の結晶にアルミニウムが固溶した酸化亜鉛系固溶体(特許文献6参照)、亜鉛とアルミニウムの複合酸化物(特許文献7参照)、また、フンタイト及びハイドロマグネサイトの鉱物混合物(特許文献8参照)が、開示されている。
【0006】
また、無機系塩素劣化防止剤として、フンタイト及びハイドロマグネサイトの混合物を用いる場合、非対称性両ヒンダードフェノール化合物及び/又はpクレゾール−ジビニルベンゼン重合体と、片ヒンダードフェノール化合物とを併用添加することにより、耐塩素性及び耐煙性が改善されることが提案されている(特許文献9参照)。しかしながら、耐塩素性は未だ満足すべきレベルには達していなく、さらなる向上が望まれていた。
【0007】
無機系塩素劣化防止剤として酸化亜鉛を用いる場合、有機硫黄化合物を併用することにより、光、NOx等のガスに対する耐黄化性を改善させることが提案されている(特許文献10参照)。しかしながら、この組成では、有機硫黄化合物を併用させても耐塩素性を改善することは困難である。
【0008】
更にまた、ハイドロタルサイト、フェノール系化合物、及び有機硫黄化合物を併用することにより、耐熱性及び熱に対する変着色を改善させることが提案されている(特許文献11参照)。しかしながら、ここで用いているフェノール系化合物は両ヒンダード化合物であり、この組成では、満足すべき耐塩素性を得ることは困難である。
【0009】
【特許文献1】特公昭60−43444号公報
【特許文献2】特公昭61−35283号公報
【特許文献3】特開昭59−133248号公報
【特許文献4】特許第2887402号公報
【特許文献5】特許第3228351号公報
【特許文献6】特開2002−121537公報
【特許文献7】特開平10−292225号公報
【特許文献8】特表平10−508916号公報
【特許文献9】特表2004−528471号公報
【特許文献10】特開平11−323662号公報
【特許文献11】特開2000−53856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、より優れた耐塩素性および優れたNOx耐黄変性を有し、特に水着用途に好適に使用されるポリウレタン系弾性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、本発明のポリウレタン系弾性繊維は、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも1個有する分子量が300以上である片ヒンダードフェノール化合物と、分子量が400以上である有機硫黄化合物と、無機系塩素劣化防止剤とを含有することを特徴とするものであり、この添加剤組合せで併用添加することによって特に優れた耐塩素性を奏することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐塩素脆化性能をさらに一層向上させることができるので、特に水着用途に好適に使用されるポリウレタン系弾性繊維とすることができる。
そして、本発明のポリウレタン系弾性繊維を用いることにより、フィット性、風合いが優れ、しかもスイミングプール等の塩素水による劣化が少なく、耐久性に優れた伸縮性布帛及び水着を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、さらに詳細に述べる。
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、ポリウレタン系重合体を紡糸することにより得られる繊維である。
【0014】
本発明におけるポリウレタン系重合体は主構成モノマ成分がポリオールとジイソシアネートとジアミンであるポリウレタンウレア重合体であってもよいし、主構成モノマ成分がポリオールとジイソシアネートとジオールであるポリウレタン重合体であってもよく、またポリウレタンウレア重合体とポリウレタン重合体の混合物もしくは共重合体であってもよい。
【0015】
ポリウレタン系重合体に用いられるポリオールとしては、ポリエーテル系グリコール、ポリエステル系グリコール、ポリカーボネートジオールなどが用いられる。
【0016】
ポリウレタン系弾性繊維を特に水着に使用する場合に要求される、黴による脆化の防止という観点から、ポリオールとしては、ポリエーテル系グリコールが好ましい。このポリエーテル系グリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)と環状エーテルやジオールとを共重合させた共重合ポリテトラメチレンエーテルグライコール(以下、共重合PTMGと略す)が挙げられる。この共重合PTMGとしては、例えば、THFと3−メチルTHFとの共重合体(以下、3M−PTMGと略す)、THFと2,3−ジメチルTHFとの共重合体、THFとエチレンオキシドとの共重合体がある。さらに、THFとネオペンチルグリコールとの共重合体なども用いることが出来る。また、これらのポリエーテル系グリコールの1種または2種以上を混合もしくは共重合させて使用するのも好ましい。
【0017】
また、ポリウレタン系弾性繊維として耐摩耗性や耐光性が特に必要とされる場合には、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸より形成されるポリエステルポリオール、ネオペンチルグリコールと1,12−ドデカンジオン酸より形成されるポリエステルポリオールや、ポリカーボネートジオールなどが、ポリオールとして好ましい。
【0018】
また、こうしたポリオールは単独で使用してもよいし、2種以上を混合もしくは共重合させて用いてもよい。伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れたポリウレタン系弾性繊維を得る観点から、本発明のポリウレタン系重合体に用いられるポリオールの数平均分子量は1000以上8000以下の範囲にあるのが好ましく、1800以上6000以下の範囲にあるのがより好ましい。
【0019】
本発明のポリウレタン系重合体に用いられるジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など)及びこれらの2種以上の混合物などが好ましい。
【0020】
前記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記する)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。
【0021】
前記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが好ましい。
【0022】
前記脂環族ジイソシアネートの具体例としては、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。
【0023】
前記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが好ましい。
【0024】
これらのうち、各種用途において、最終製品の強度を向上させ、優れた耐熱性や強度を得る観点から、芳香族ジイソシアネートが好ましく、特に好ましいものはMDIである。また、ポリウレタン系弾性繊維の黄変を抑制する観点からは脂肪族ジイソシアネートが好ましい。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
本発明のポリウレタン系重合体に用いられる鎖伸長剤は低分子量ジアミンが好ましい。低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,3−ブタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,3−ジアミノ−2,2−ジメチルブタン、N−メチルアミノビス(3−プロピルアミン)、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイド、m−キシリレンジアミンなどが好ましい。これらの低分子量ジアミンから1種または2種以上を選択して使用するのが好ましい。特に伸度及び弾性回復性、さらに耐熱性に優れたものを得る観点からエチレンジアミンが好ましい。
【0026】
また、鎖伸長剤として、低分子量ジオールを用いることも好ましい。低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1、3プロパンジオール、1、4ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、パラキシリレンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレートなどが好ましい。これらの低分子ジオールから1種または2種以上が選ばれて用いられることが好ましい。
【0027】
さらに、鎖伸長剤として、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものが使用されてもよい。これらの鎖伸長剤に、架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミンなどが効果が失われない程度に使用されてもよい。
【0028】
本発明のポリウレタン系弾性繊維には、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも1個有する分子量が300以上である片ヒンダードフェノール化合物と、分子量が400以上である有機硫黄化合物と、無機系塩素劣化防止剤とを、ともに含有させることが必要である。この添加剤の組み合わせで含有する場合、大きな相乗効果を発揮して、極めて優れた耐塩素劣化効果および優れたNOx耐黄変性を発揮することができる。即ち、上記有機硫黄化合物は、上記片ヒンダードフェノール化合物と無機系塩素劣化防止剤とを併用する場合にさらに添加した場合に特異的に耐塩素劣化効果およびNOx耐黄変性の向上に寄与する。
【0029】
本発明で用いる片ヒンダードフェノール化合物としては、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも2つ含み、かつ、ビスエステル、アルキリデンから選択される骨格を有する化合物であることが好ましい。ここで、ヒドロキシフェニル基における水酸基に隣接する環位置に存在するアルキル基はターシャリーブチル基であることが望ましく、水酸基の当量が600以下であることが更に望ましい。
【0030】
かかる片ヒンダードフェノール化合物としては、例えば、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基がビスエステル骨格に共有結合した構造のエチレン−1,2−ビス(3,3−ビス[3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブチレート)(下記の化学式V)、 片ヒンダードのヒドロキシフェニル基がアルキリデン骨格に共有結合した構造の1,1−ビス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン(下記の化学式VI)や、1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン(下記の化学式VII)が好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
更に次に示す化学構造の片ヒンダードフェノール化合物も望ましいものである。
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
前記した片ヒンダードフェノール化合物を含有させることにより、耐塩素劣化の効果を高めることができる。この効果を十分なものとし、かつ、繊維の物理的特性に悪影響を与えない観点から、片ヒンダードフェノール化合物は繊維重量に対し0.15〜3重量%含有されるのが好ましく、0.5〜2重量%含有されるのがより好ましい。
【0039】
また本発明のポリウレタン系弾性繊維には、前記した片ヒンダードフェノール化合物の他に、分子量が400以上である有機硫黄化合物を含有させることが必要である。
かかる有機硫黄化合物としては、下記の一般式I、II、III、IVのいずれで表される化学構造を有するものであることが望ましい。
【0040】
【化8】

【0041】
かかる有機硫黄化合物としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジステアリル3,3’−チオプロピオネート、ジオクタデシルスルフィドが好ましい。
【0042】
この有機硫黄化合物を、前記した片ヒンダードフェノール化合物及び後述する無機系塩素劣化防止剤とともに併用添加させることにより、ポリウレタン系弾性繊維の耐塩素劣化効果およびNOx耐黄変性を高めることができる。この効果を十分なものとし、かつ、繊維の物理的特性に悪影響を与えない観点から、有機硫黄化合物は繊維重量に対し0.15〜5重量%含有されることが好ましく、0.5〜3重量%含有されるのがより好ましい。
【0043】
さらに本発明のポリウレタン系弾性繊維には、前記した片ヒンダードフェノール化合物、有機硫黄化合物とともに、無機系塩素劣化防止剤を含有させることが必要である。
【0044】
かかる無機系塩素劣化防止剤としては、
1)ハイドロタルサイト類化合物、
2)フンタイト及びハイドロマグネサイトの混合物
3)Ca、Mg、Zn、Al、Baから選択された金属の酸化物、複合酸化物、水酸化物のいずれか、並びに、
4)Ca、Mg、Zn、Al、Baから選択された金属の炭酸塩、酸化物、複合酸化物、及び水酸化物の群から選択された2種以上からなる固溶体、の群から選択された少なくとも1種の金属化合物が用いられるのが好ましい。
【0045】
かかる無機系塩素劣化防止剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、2価金属M(但し、MはZn、Ca、Mg、Baから選択される少なくとも1種を表す)とアルミニウムを含有しアルミニウムに対する2価金属のモル比が1〜5である複合酸化物、MgOとZnOの複合酸化物、2ZnO・ZnAl24、3ZnO・ZnAl24、4ZnO・ZnAl24、5ZnO・ZnAl24で表される複合酸化物、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2OやMg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oに代表されるハイドロタルサイト類化合物、MgO/ZnO固溶体、ZnOにAlが固溶した酸化亜鉛系固溶体、MgO/ZnO/AlO固溶体、Mg2Ca(CO34(フンタイト)及びMg4(CO34・Mg(OH)3・4H2O(ハイドロマグネサイト)の混合物等が好ましい。
【0046】
特に、フンタイト及びハイドロマグネサイトの混合物、ハイドロタルサイト類化合物、酸化亜鉛、MgO/ZnO固溶体、ZnOにAlが固溶した酸化亜鉛系固溶体、並びにxZnO・ZnAl24(ただしxは2〜5の整数を示す。)が好ましい。
【0047】
この無機系塩素劣化防止剤を含有させることにより、耐塩素劣化の効果を高めることができる。この効果を十分なものとし、かつ、繊維の物理的特性に悪影響を与えない観点から、無機系塩素劣化防止剤は繊維重量に対し0.1〜10重量%含有されるのが好ましく、1〜5重量%含有されるのがより好ましく、2〜4重量%含有されるのがさらに好ましい。
【0048】
この無機系塩素劣化防止剤は紡糸溶液中に配合されて紡糸されるので、紡糸の安定性の観点から、無機系塩素劣化防止剤は、平均粒径2μm以下の微細な粉末であることが好ましく、平均粒径1μm以下の微細な粉末であることが一層好ましい。
【0049】
この無機系塩素劣化防止剤を微細粉末化するためには、無機系塩素劣化防止剤を、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略する)、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略する)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略する)、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略する)などやこれらを主成分とする溶剤、他の添加剤、例えば増粘剤等と混合し、スラリーを調製し、縦型または横型ミル等によって粉砕する方法を用いることが好ましい。
【0050】
また、この無機系塩素劣化防止剤の糸中への分散性を向上させ、紡糸を安定化させる等の目的で、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステル、ポリオール系有機物等の有機物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、水ガラス、脂肪酸金属塩またはこれらの混合物で表面処理された無機系塩素劣化防止剤を用いることも好ましい。
【0051】
本発明のポリウレタン系弾性繊維の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、断面形状は円形であってよく、また扁平であってもよい。
【0052】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、必要に応じ各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などとして、いわゆるBHTや住友化学工業(株)製の“スミライザー”GA−80などをはじめとする両ヒンダードフェノール系薬剤、チバガイギー社製“チヌビン”等のベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業(株)製の“スミライザー”P−16等のリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料、ポリフッ化ビニリデンなどを基とするフッ素系樹脂粉体またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸化合物、リン酸エステル化合物などの各種の帯電防止剤などが添加され、またポリマと反応して存在することが挙げられる。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、酸化窒素捕捉剤、例えば日本ヒドラジン(株)製のHN−150、熱酸化安定剤、例えば、住友化学工業(株)製の“スミライザー”GA−80等、光安定剤、例えば、住友化学工業(株)製の“スミソーブ”300#622などの光安定剤などを含有させることが好ましい。
【0053】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、種々の用途で使用することができるが、なかでも、他の天然繊維、化学繊維、合成繊維、半合成繊維と交編織して伸縮性布帛にすることが好ましく、さらに、染色仕上げ加工後、縫製して水着等の製品とするのが好ましい。布帛としては、織物、編物のいずれであってもよいが、水着用途とするためには編物であるのが好ましい。
【0054】
ポリウレタン系弾性繊維と他の繊維からなる編地を編成するには種々の交編方法が用いられる。かかる編地は、経編でも緯編でもよいが水着用途の場合、その機能からみて経編が好ましい。また、トリコット編機で編成されてもよいし、ラッセル編機で編成されてもよい。編組織はハーフ編、逆ハーフ編、ダブルアトラス編、ダブルデンビー編などいずれでもよい。また、編地表面が他の天然繊維、化学繊維、合成繊維、半合成繊維で構成されていることが風合の点で好ましい。
【0055】
本発明のポリウレタン系弾性繊維が交編職された布帛を、通常の方法を用いて染色加工後、縫製することにより、水着を製造することができる。得られた水着は、フィット性、風合いがよいことに加え、スイミングプール等の塩素水による劣化が少なく、耐久性が向上する。
【0056】
次に、本発明のポリウレタン系弾性繊維の製造方法について説明する。
本発明法においては、最初に、ポリウレタン系重合体を溶質とする溶液を調製するのが好ましい。
【0057】
ポリウレタン系重合体を製造する方法はいずれの方法であってもよい。すなわち、溶融重合法でも溶液重合法のいずれでもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合は、ポリウレタン系重合体にゲルなどの異物の発生が少なく、低繊度のポリウレタン系弾性繊維を得やすい。また、溶液重合法の場合、溶液にする労が省け、生産効率の観点からも好ましい。
【0058】
本発明で使用されるポリウレタン系重合体としては、分子量が1000〜8000のポリオール(特に好ましくは、分子量が1800〜6000であるPTMG)、MDI、低分子量アミンや低分子量ジオールなどの鎖伸長剤から合成された重合体であることが好ましい。
【0059】
本発明におけるポリウレタン系重合体の合成方法としては、例えば、ポリオールとMDIをまず溶融反応せしめた後、反応物をDMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤に溶解し、次いで、前記鎖伸長剤と反応せしめ、ポリウレタン系重合体溶液とする方法が好ましい。また、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤中に、各原料を投入、溶解せしめ、適度な温度に加熱し、反応せしめポリウレタン系重合体溶液を得る、いわゆるワンショット法も好ましい。
【0060】
なお、このポリウレタン系重合体の合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒を1種または2種以上混合して使用してもよい。
【0061】
このアミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N,N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N,’N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリエチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノエチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミンなどが好ましい。
【0062】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチルなどが好ましい。
【0063】
所望の分子量あるいは粘度に調整することを目的として、活性水素を有する一官能性化合物、例えばジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジ-イソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ-イソブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、水などを反応停止剤として用いてもよい。これらは1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0064】
本発明法において溶液紡糸に供するポリウレタン系重合体溶液の濃度は、通常、25〜80重量%の範囲が好ましい。より好ましくは30〜60重量%の範囲であり、さらに好ましくは35〜55重量%の範囲である。25重量%に満たないと乾式紡糸の際、溶媒等の蒸発に必要な熱量が多くなるため紡糸が困難となる傾向がある。一方、80重量%を越えると原液の安定性が悪化し、その結果、紡糸性が悪化し、原液の安定性を向上させるため重合体の重合度を下げると糸質が低下する傾向がある。
【0065】
ポリウレタン系重合体溶液の粘度は2500〜5500ポイズであることが好ましい。2500ポイズ以上の粘度があれば、乾式紡糸する際の粘度低下による糸切れも少なく紡糸性が良く、5500ポイズ以下の粘度であれば口金部分での圧損をある程度抑えることができるため、紡糸性や糸質を高めることができる。なお、粘度の値は40℃における鋼球落下式粘度測定法によるものである。
【0066】
本発明法において、片ヒンダードフェノール化合物、有機硫黄化合物、及び無機系塩素劣化防止剤を、重合体溶液に添加する方法としては任意の方法を採用することができ、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法などが好ましい。各々の添加剤成分をそれぞれ単独に添加することでもよいし、あらかじめ他の数種類の添加剤を混合したスラリーを添加することでもよい。
【0067】
本発明法においては、次いで、ポリウレタン系重合体を溶質とし、さらに、片ヒンダードフェノール化合物、有機硫黄化合物及び無機系塩素劣化防止剤を含有する紡糸溶液を、溶液紡糸する。その紡糸方法としては乾式紡糸もしくは湿式紡糸が好ましい。乾式紡糸の方法は特に限定されるものではなく、任意の方法を採用することができる。
【0068】
得られるポリウレタン系弾性繊維のセット性と応力緩和は、紡糸工程におけるゴデローラーと巻取機との間の速度比に特に影響を受けやすいので、その速度比条件は、繊維用途に応じて適宜決定するのが好ましい。本発明のポリウレタン系弾性繊維製造の場合は、ゴデローラーと巻取機との間の速度比を1.15〜1.65として巻き取るのが好ましい。なかでも、特に高いセット性と、低い応力緩和のポリウレタン系弾性繊維を製造する場合には、前記速度比を1.15〜1.40として巻き取るのがより好ましく、1.15〜1.35として巻き取るのがさらに好ましい。一方、低いセット性と、高い応力緩和のポリウレタン系弾性繊維を製造する場合には、前記速度比を1.25〜1.65として巻き取るのがより好ましく、1.35〜1.65として巻き取るのがさらに好ましい。
【0069】
また、製造するポリウレタン系弾性繊維の強度を向上させる観点から、紡糸速度は450m/分以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明する。
以下において、ポリウレタン系弾性繊維の強度、伸度、耐塩素脆化能、NOx耐黄変性は次の方法で測定した。
【0071】
[強度、伸度]
強度、伸度は、試料糸を“インストロン”4502型引張試験機を用い、引張テストをすることにより測定した値であり、これらは下記により定義される。
【0072】
5cm(L1)長の試料糸を50cm/分の引張速度で300%伸長させ回復させる操作を5回繰返した。5回目の300%伸長時の応力を(G1)とした。次に、300%伸長状態を30秒間保持し、30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に、伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料糸の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料糸が切断するまで伸長し、この破断時の応力を(G3)、破断時の試料糸の長さを(L3)とした。
【0073】
以下、前記特性は下記式により与えられる。
強度 =(G3)
伸度 =100×((L3)−(L1))/(L1)
【0074】
[耐塩素脆化能]
次亜塩素酸ナトリウム液をイオン交換水で希釈して有効塩素濃度3ppmとし、さらに尿素を添加して尿素濃度3ppmとし、硫酸の緩衝溶液でpHを7.2に調整し、塩素水を調製した。この塩素水を28℃に温度調節した恒温槽に入れ、試料糸を5gの加重をかけて浸漬させ、試料糸が切れるまでの時間を測定した。
また、試料が編地の場合は、ヨコ方向に50%伸張した状態の編地を、上記と同じ塩素水恒温槽の中に浸漬し、編地中のポリウレタン弾性糸の切れが認められるまでの時間を測定した。
【0075】
[NOx耐黄変性]
ポリウレタン系弾性繊維をステンレス板に10g巻き取り試料カードを作製した。この試料を、スコットテスターを使用して、空気中にNO2ガスを規定の濃度(7ppm)含有させたガス中に50時間暴露した。この暴露処理の前後で、カラーマスター(D25 DP−9000型 シグナルプロセッサー)を使用して“b”カラーを測定し、処理前後の差“△b”によって黄変程度を評価した。
【0076】
また、試料が編地の場合は、リラックス状態の生地を上記と同様に暴露し、分光測色計(ミノルタ CM−3700d)を使用して“b”カラーを測定し、処理前後の差“△b”によって黄変程度を評価した。
【0077】
[実施例1]
分子量1800のPTMGとMDIとをモル比にてMDI/PTMG=1.58/1となるように容器に仕込み、90℃で反応せしめ、得られた反応生成物をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、エチレンジアミン及びジエチルアミンを含むDMAc溶液を前記反応物が溶解した溶液に添加して、ポリマ中の固体分が35重量%であるポリウレタンウレア溶液(溶液A1)を調製した。
次に、溶液A1に、下記の添加剤3種を加え、2時間攪拌し、溶液B1とした。
【0078】
片ヒンダードフェノール化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のエチレン−1,2−ビス(3,3−ビス[3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブチレート(“Hostanox”(登録商標)O3(Clariant Corporation 製))、
有機硫黄化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のジオクタデシルスルフィド(“Hostanox”(登録商標)SE10(Clariant Corporation 製)、
無機系塩素劣化防止剤: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が3重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量の微細酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製)、
【0079】
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で、溶液B1を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
得られたポリウレタン系弾性繊維は耐塩素脆化能が273時間と、極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
有機硫黄化合物として、“Hostanox”(登録商標)SE10の代わりに、ジステアリル3,3’−チオプロピオネート(“Hostanox”(登録商標)SE4(Clariant Corporation 製)を用い、弾性繊維中の含有量が2重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタンウレア弾性繊維を製造した。
【0081】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0082】
[実施例3]
有機硫黄化合物として、“Hostanox”(登録商標)SE10の代わりに、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(“Sumilizer”(登録商標)TP−D(住友化学(株)製)を用い、弾性繊維中の含有量が2重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0083】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0084】
[実施例4]
有機硫黄化合物として、“Hostanox”(登録商標)SE10の代わりに、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート(“Sumilizer”(登録商標)TPM(住友化学 製)を用い、弾性繊維中の含有量が2重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0085】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0086】
[実施例5]
片ヒンダードフェノール化合物として、“Hostanox”(登録商標)O3の代わりに、1,1−ビス[2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブタン(“Lowinox”(登録商標)44B25(Great Lakes Chemicals 製))を用い、弾性繊維中の含有量が3重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0087】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0088】
[実施例6]
片ヒンダードフェノール化合物として、“Hostanox”(登録商標)O3の代わりに、1,1,3−トリス[2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブタン(“Lowinox”(登録商標)CA22(Great Lakes Chemicals 製、)を用い、弾性繊維中の含有量が3重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0089】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0090】
[実施例7]
塩素劣化防止剤として、酸化亜鉛の代わりに、3ZnO・ZnAl24の粉体を用い、弾性繊維中の含有量が4重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0091】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0092】
[実施例8]
塩素劣化防止剤として、酸化亜鉛の代わりに、ハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)の粉体を用い、弾性繊維中の含有量が4重量%となる量を添加した以外は、実施例1と同様にして紡糸溶液を調製し、ポリウレタン系弾性繊維を製造した。
【0093】
得られたポリウレタン系弾性繊維は極めて優れた耐塩素脆化性能と優れたNOx耐黄変性を有するものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0094】
[比較例1]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1に塩素劣化防止剤として弾性繊維中の含有量が3重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量の微細酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製)のみを加え、2時間攪拌し、紡糸溶液B2とした。
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で紡糸溶液B2を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
【0095】
得られたポリウレタン系弾性繊維は、片ヒンダードフェノール化合物と有機硫黄化合物を含有しないものであり、優れたNOx耐黄変性を有するものであったが、耐塩素脆化性能が低いものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0096】
[比較例2]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1に、下記の添加剤3種を加え、2時間攪拌し、紡糸溶液B3とした。
【0097】
両ヒンダードフェノール化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が1.2重量%となる量のp−クレゾールとジビニルベンゼンの縮重合体
有機硫黄化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2.0重量%となる量のペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(“Sumilizer”(登録商標)TP−D(住友化学 製))、
無機系塩素劣化防止剤: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が3重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量の微細酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製)、
【0098】
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で、紡糸溶液B3を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
得られたポリウレタン系弾性繊維は片ヒンダードフェノール化合物の代わりに両ヒンダードフェノール化合物を含有したものであり、NOx耐黄変性は優れたものであったが、耐塩素脆化性能は低いものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0099】
[比較例3]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1に、下記の添加剤2種を加え、2時間攪拌し、紡糸溶液B4とした。
【0100】
片ヒンダードフェノール化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のエチレン−1,2−ビス(3,3−ビス[3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブチレート(“Hostanox”(登録商標)O3(Clariant Corporation 製))、
無機系塩素劣化防止剤: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が3重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量の微細酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製)、
【0101】
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で、紡糸溶液B4を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
得られたポリウレタン系弾性繊維は有機硫黄化合物を含有しないものであり、耐塩素脆化性能はやや不十分なものであり、NOx耐黄変性は劣るものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0102】
[比較例4]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1に、下記の添加剤2種を加え、2時間攪拌し、紡糸溶液B5とした。
【0103】
片ヒンダードフェノール化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のエチレン−1,2−ビス(3,3−ビス[3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブチレート(“Hostanox”(登録商標)O3(Clariant Corporation 製))、
有機硫黄化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のジオクタデシルスルフィド(“Hostanox”(登録商標)SE10(Clariant Corporation 製)、
【0104】
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の的切り速度で、紡糸溶液B5を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
得られたポリウレタン系弾性繊維は無機系塩素劣化紡糸剤を含有しないものであり、NOx耐黄変性は優れたものであったが、耐塩素脆化性能は極めて低いものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0105】
[比較例5]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1に、下記の添加剤2種を加え、2時間攪拌し、紡糸溶液B6とした。
【0106】
有機硫黄化合物: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が2重量%となる量のジオクタデシルスルフィド(“Hostanox”(登録商標)SE10(Clariant Corporation 製)、
無機系塩素劣化防止剤: ポリウレタン系弾性繊維中の含有量が3重量%かつ平均粒径が1μm以下となる量の微細酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製)、
【0107】
ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で、紡糸溶液B6を乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
得られたポリウレタン系弾性繊維は片ヒンダードフェノール化合物を含有しないものであり、NOx耐黄変性は優れたものであったが、耐塩素脆化性能は低いものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0108】
[比較例6]
実施例1で調製したポリウレタンウレア溶液A1をそのまま紡糸溶液とし、ゴテローラと巻取機との間の速度比が1.20となるようにし、540m/分の巻き取り速度で乾式紡糸することにより、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス、4フィラメント)を製造し巻き取った。
【0109】
得られたポリウレタン系弾性繊維は、耐塩素脆化性能が極めて低いものであり、NOx耐黄変性は劣るものであった。その結果を併せて表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
[実施例9]
実施例1で製造したポリウレタン系弾性繊維と、ポリヘキサメチレンアジパミドを溶融紡糸して得られたポリアミド繊維(55.6デシテックス/17フィラメント)とを用いて通常の方法で経編みの2ウェイトリコットを作製した。さらに、このトリコット編地を染色仕上げ加工した後、縫製し、水着を作製した。
【0112】
染色したトリコット編地のNOx耐黄変性は“Δb”が3.2と優れたものであった。また、耐塩素脆化能は210時間と優れたものであり、風合いも優れたものであった。さらに、得られた水着を実際のスイミングプールで実着用テストした結果、ポリウレタン弾性糸の糸切れが認められるまでの時間が198時間(4着の平均値)と耐久性に優れていた。
【0113】
[比較例7]
比較例1で製造したポリウレタン系弾性繊維と、実施例9で用いたポリアミド繊維とを用いて、実施例9と同様にトリコット編地及び水着を作製した。染色後のトリコット編地のNOx耐黄変性は“Δb”が3.3と優れたものであったが、耐塩素脆化能は87時間と短かく、水着の実着用テストでも80時間でポリウレタン弾性糸の糸切れが認められた。
【0114】
[比較例8]
比較例3で製造したポリウレタン系弾性繊維と、実施例9で用いたポリアミド繊維とを用いて、実施例9と同様にトリコット編地及び水着を作製した。染色後のトリコット編地のNOx耐黄変性は“Δb”が11.4と劣るものであった。また、耐塩素脆化能は173時間とやや短く、水着の実着用テストでも161時間でポリウレタン弾性糸の糸切れが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、種々の用途で使用することができる。なかでも、他の繊維と交編織して伸縮性布帛にすることが好ましく、さらに、染色仕上げ加工後、縫製して水着等の製品とするのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも1個有する分子量が300以上である片ヒンダードフェノール化合物、分子量が400以上である有機硫黄化合物、及び無機系塩素劣化防止剤を含有することを特徴とするポリウレタン系弾性繊維。
【請求項2】
片ヒンダードフェノール化合物を0.15〜3重量%含有し、有機硫黄化合物を0.15〜5重量%含有し、かつ、無機系塩素劣化防止剤を0.1〜10重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項3】
有機硫黄化合物が、下記一般式I、II、III、IVのいずれかで表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリウレタン系弾性繊維。
【化1】

【請求項4】
有機硫黄化合物の含有量が0.5〜3重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項5】
片ヒンダードフェノール化合物が、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも2つ含み、かつ、ビスエステル、アルキリデンから選択される骨格を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項6】
片ヒンダードフェノール化合物が、エチレン−1,2−ビス(3,3−ビス[3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]ブチレート)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項7】
片ヒンダードフェノール化合物が、1,1−ビス(2−メチル−5−t−ブチル−4ヒドロキシフェニル)ブタン、及び/又は、1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4ヒドリキシフェニル)ブタン)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項8】
片ヒンダードフェノール化合物の含有量が0.5〜2重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項9】
無機系塩素劣化防止剤が、ハイドロタルサイト類化合物、フンタイト及びハイドロマグネサイトの混合物、Ca、Mg、Zn、Al、Baから選択された金属の炭酸塩、酸化物、複合酸化物、水酸化物のいずれか、並びに、Ca、Mg、Zn、Al、Baから選択された金属の炭酸塩、酸化物、複合酸化物及び水酸化物のうちの2種以上からなる固溶体、の群から選択された少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項10】
無機系塩素劣化防止剤が、フンタイト及びハイドロマグネサイトの混合物、ハイドロタルサイト類化合物、酸化亜鉛、MgOとZnO固溶体、ZnOにAlが固溶した酸化亜鉛系固溶体、並びに、ZnとAlの複合酸化物であるxZnO・ZnAl24(ただしxは2〜5の整数を示す。)から選択された少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項11】
無機系塩素劣化防止剤の含有量が2〜4重量%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維を含有することを特徴とする伸縮性布帛。
【請求項13】
請求項12に記載の布帛からなることを特徴とする水着。
【請求項14】
片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも1個有する分子量が300以上である片ヒンダードフェノール化合物、分子量が400以上である有機硫黄化合物、及び無機系塩素劣化防止剤を含有させた紡糸溶液を、溶液紡糸することによりポリウレタン系弾性繊維を製造することを特徴とするポリウレタン系弾性繊維の製造方法。

【公開番号】特開2006−193880(P2006−193880A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329885(P2005−329885)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】