説明

ポリエステル、その製造方法、繊維およびポリエステル重合用触媒

本発明は、高速紡糸においても繊維を安定して形成する結晶化速度の抑制されたポリエステルを提供することを主な目的とする。本発明は、アンチモン触媒の存在下で得られるポリエステルであって、該アンチモン触媒が、(i)三酸化二アンチモン、並びに(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、からなることを特徴とするポリエステル、その製造方法、繊維およびポリエステル重合用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は製糸性が改良されたポリエステルに関する。更に詳しくは、特定の組成のアンチモン触媒を使用して製造された、結晶化速度が抑制され、高速紡糸時の糸切れが少なく、延伸性、仮撚加工性に優れ、良好な色相を有するポリエステルおよびその製造方法に関する。また、本発明は該ポリエステルからなる繊維に関する。さらに本発明はポリエステル重合用触媒に関する。
【背景技術】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは高強度、高ヤング率、熱寸法安定性に優れた素材である。ポリエステルから形成された繊維は、衣料用、産業資材用などに巾広く使用されている。しかも最近は、高速紡糸の採用により、従来必要であった延伸・熱処理工程が一工程に簡略化され、低コスト化が可能となり、ますます重要性を増している。
ところが、高速紡糸を行う際には上記の優れた面をもつ一方で次の問題がある。すなわち、ポリエステル繊維を製造する際には、糸の延伸、加工時のポリエステルの結晶化を抑制、制御する必要があるが、紡糸速度を高速化するに従って配向結晶化が顕著となり、糸の収縮率が極端に落ちてくるという品質に関する問題である。また同時に高速紡糸時での糸切れの回数が増大し易いという問題も有している。この中で糸切れの問題は重大である。なぜならば高速紡糸による製造工程では、従来の低速紡糸と比較すると、糸切れが生じた時の影響が大きくなるからである。すなわち、糸切れが隣接する糸条へ波及し易くなり、また糸切れを生じた錘を再度糸かけして復旧するのに多くの時間を要するなど、糸切れによる生産性の低下が大きくなるためである。
従って高速紡糸においては従来にも増して糸切れの発生頻度の少ないことが操業安定性を確保する上で必要不可欠である。
かかる問題を解決するために、紡糸温度、冷却条件などの紡糸条件の適正化や紡糸口金、紡糸口金下の加熱筒などの構造についての改良が種々提案されてきているが、これらの方法では限度があり、糸切れ回数を大きく減少させることはできない。
また、この問題をポリエステルの改質により解決しようとする試みも見られる。例えばZ平均分子量、重量平均分子量、および数平均分子量に着目し、分子量分布を制御したポリエステルの製造が試みられている(特許文献1参照)。しかし、紡糸時には、エステル再分配反応のため分子量分布は平衡状態へむかう。つまり製糸後の分子量分布を単分散にすることは末端封鎖剤等による再分配反応を抑制することを要し、工業的には困難である。
また分子量1,200または3,000といった低分子量の改質成分を導入したビニル系ポリマーをポリエステルに添加し、該ビニル系ポリマーがポリエステルと反応を起こして“分子架橋”を形成することによってポリエステルの配向抑制を発現させるという技術が開示されている(特許文献2参照)。該技術は、低分子量のビニル系ポリマーを使用して分子多価架橋剤として作用させようという技術である。しかし、ビニル系ポリマーの側鎖にあるエステル形成性反応基は反応基間の距離(分岐点間距離)が過度に短いため、重合反応器や紡糸機内部でゲルを発生しやすく、異物を形成し、製糸性を悪化させるという問題点がある。
一方で、ポリエステルの配向結晶化を抑制する手段として、ポリエステルにポリエーテル(ポリアルキレングリコール)やイソフタル酸を添加し共重合させる方法も知られている(特許文献3、4参照)。すなわち、低分子量のポリエーテルをポリエステルに添加・共重合させ、速い引き取り速度で溶融紡糸する技術が開示されている。該公報に述べられている技術によると、引き取り速度2,000m/分以上で溶融紡糸を行ったポリエステル繊維の“結晶化”は抑制されるが、糸強度が低下する問題点があった。
一方、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、若しくはステアリン酸ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のナトリウム化合物を含むポリエステルや、トリメリット酸並びにトリメリット酸のCa塩および/若しくはBa塩を含有するポリエステルが提案されている。これらのポリエステルは糸切れ抑制に対して一定の効果が得られる(特許文献5、6参照)。しかし、これらのポリエステルについて、紡糸速度、生産能力を上げるためポリマーの溶融押出能力を上げるのには限界があった。即ち、ポリマーの溶融押出能力を上げるため、紡糸温度を上昇させるとアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩が原因となってアルカリ分解が生じたり、微粒子の凝集によるパック詰まりが生じたりするため、連続運転時間に限界があった。
以上のごとく、従来の技術によってはポリマーを改質することによっても高速紡糸における糸切れを防ぐことは実現されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2001−89935号公報
【特許文献2】特開平11−61568号公報
【特許文献3】特開平11−240944号公報
【特許文献4】特開2001−271226号公報
【特許文献5】特開平11−279836号公報
【特許文献6】特開平11−247024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的の第一は、高速紡糸においても繊維を安定して形成する結晶化速度の抑制されたポリエステルおよびその製造方法を提供することである。また本発明の第二の目的は、そのポリエステルからなる結晶化速度の抑制された繊維を提供することである。さらに、本発明の第三の目的は、ポリエステル重合用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の問題点を解決するべく鋭意検討の結果、特定のアンチモン触媒を用いた場合、結晶化速度が改善され、長時間の高速紡糸にも耐え、色相をも両立しうるポリエステルを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、アンチモン触媒の存在下で得られるポリエステルであって、該アンチモン触媒が、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなることを特徴とするポリエステルである。
また、本発明は、上記ポリエステルを溶融紡糸してなる繊維である。
また、本発明は、ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いでアンチモン触媒の存在下で、重縮合反応することによりポリエステルを製造する方法であって、該アンチモン触媒が、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなることを特徴とするポリエステルの製造方法である。
さらに、本発明はポリエステル重合用触媒であって、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなる触媒である。
【発明の効果】
本発明によれば、結晶化速度が抑制され、紡糸時の糸切れ回数が低減され、延伸性、仮撚加工性に優れ、良好な色相を有するポリエステルおよび繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
(ポリエステル)
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体並びにジオールまたはそのエステル形成性誘導体からの繰り返し単位を有する線状飽和ポリエステルである。
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、P−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸ジメチル、その他ジカルボン酸のジフェニルエステルおよび酸ハライド等を挙げることができる。好ましくは、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体である。これらの主たるジカルボン酸成分の割合は、全ジカルボン酸成分の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
ジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。好ましくはエチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールが挙げられる。これらの主たるジオール成分は、全ジオール成分の割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
より好ましくはジカルボン酸成分としてテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を用い、ジオール成分としてエチレングリコールを用いたエチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とするポリエチレンテレフタレートが好ましい。主たる構成成分とは全繰返し単位中60モル%であることを表す。エチレンテレフタレート単位の割合は、全繰り返し単位中好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
更に本発明のポリエステルは、汎用樹脂としての物性を失わない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。共重合成分としては、上述した成分とは異なるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、並びにジオールまたはそのエステル形成性誘導体が挙げられる。
共重合ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、P−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、および5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸ジメチル等を挙げることができる。特に、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸ジメチルおよび2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。共重合ジカルボン酸成分の割合は、全ジカルボン酸成分の、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
また、共重合ジオール成分として、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコールおよびポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等が挙げられる。共重合ジオール成分の割合は、全ジオール成分の、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
これらのジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体並びにジオールまたはそのエステル形成性誘導体は、それぞれ1種ずつを単独で用いても、2種以上を併用してもどちらでもよい。
尚、本発明のポリエステルには、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、若しくはトリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、またはグリセリン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、若しくはジメチロールプロピオン酸カリウム等の多価ヒドロキシ化合物を、本発明の目的を達成する範囲内であれば共重合してもよい。
本発明のポリエステルは、主たる構成成分がポリエチレンテレフタレートであり、更に(A)〜(D)を同時に満たすことが好ましい。(A)として、ジエチレングリコール共重合量がポリエステルの全重量を基準として0.6重量%以上1.4重量%以下であることが好ましい。ジエチレングリコール共重合量が少なすぎると溶融紡糸時の粘度が高くなりすぎ、高速紡糸時の曳糸性に劣るようになる。ジエチレングリコール共重合量が多すぎると、耐熱性に劣るようになり、紡糸口金に昇華異物が発生しやすくなる。ジエチレングリコール共重合量を所定の範囲にするためには、以下のような手法が例示できる。例えば共重合量を多くするにはジエチレングリコールを所要量添加する手法が挙げられる。一方、共重合量を少なくするには、原料となるジオールまたはそのエステル形成性誘導体と、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とのモル比を小さくして、副生するジエチレングリコール量を下げる手法、重縮合反応において減圧下の反応前の加熱保持時間を短くする手法、または重縮合反応温度を低くする等の手法が挙げることができる。
(B)として、本発明のポリエステルの降温結晶化温度(Tcd)は、好ましくは180℃以上205℃以下、さらに好ましくは185℃以上200℃以下である。Tcdが高すぎると、紡糸直後に口金直下で結晶化が始まり、糸構造が固定化されるため、延伸性、加工性が劣るようになる。Tcdが低いと、紡出後、ポリエステルの配向が進んでから結晶化が始まるため、配向結晶化が支配的となり、紡糸調子の低下、延伸性・加工性に劣るようになることがある。
(C)として本発明のポリエステルは、昇温結晶化温度(Tci)と降温結晶化温度(Tcd)について、Tcd−Tciが好ましくは5℃以上30℃以下、さらに好ましくは15℃以上25℃以下である。Tcd−Tciが大きいと製糸の結晶化が進みすぎて、延伸性が悪くなり、紡糸断糸、延伸断糸、ラップまたは延伸斑等が生じやすくなる。Tcd−Tciが小さいと製糸後のポリエステルが容易に結晶化せず、糸構造が形成されないため糸強度が不十分となる。
TcdおよびTcd−Tciが上記範囲のポリエステルは、本発明のアンチモン触媒を用い、さらにジエチレングリコール共重合量を上述のようにポリエステルの全重量を基準として0.6〜1.4重量%にすることにより製造することができる。
(D)として、本発明のポリエステルは、200℃における半結晶化時間τが、好ましくは60秒以上90秒以下、さらに好ましくは65秒以上80秒以下である。τが短すぎると、結晶化速度が速すぎ、急速に糸構造が固定化するため、十分な緩和時間をとれず、延伸性が不十分となり、紡糸断糸、延伸断糸、延伸ラップまたは延伸斑が生じやすくなる。一方τが長すぎると結晶化が遅すぎ、結晶化構造が形成されず、糸強度が劣る結果となる。半結晶化時間が上記範囲のポリエステルは、本発明のアンチモン触媒を用い、さらにジエチレングリコール共重合量を上述のようにポリエステルの全重量を基準として0.6〜1.4重量%にすることで製造することが出来る。
本発明のポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は、好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以上0.08重量%以下である。
本発明のポリエステルには、ポリエステルの製造時に通常用いられるリチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、若しくはチタン等の金属元素を含む金属化合物触媒、着色防止剤としてのリン化合物、またはその他のポリエステルの改質に用いられる不活性粒子若しくは有機化合物等を、本発明の目的を達成する範囲内で含んでいてもよい。
(アンチモン触媒)
本発明のアンチモン触媒は、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンからなることを特徴とする。
四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンの含有量が三酸化二アンチモンに対し、1重量%未満であると、結晶性抑制効果に乏しく、10重量%を超えると触媒活性が不十分となり、ポリエステル重縮合反応が極めて遅くなり好ましくない。四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンの含有量は、三酸化二アンチモンに対し、好ましくは1重量%以上8重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上5重量%以下である。
四酸化二アンチモンと五酸化二アンチモンはそれぞれ単独で含有されていてもよいし、両者とも含有されていてもよい。両者とも含有されている場合、その比は任意の範囲でかまわない。
本発明のアンチモン触媒は、三酸化二アンチモンに、四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンを適宜混ぜ合わせることで得ることができる。
本発明のアンチモン触媒によって、なぜポリエステルの結晶化速度を抑制できるかについて詳細は不明である。しかし、本発明者の実験によれば、三酸化二アンチモンに四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンを添加した本発明のアンチモン触媒によれば、ポリエステルの結晶化速度を抑制することができた。
本発明のアンチモン触媒は、(a)Pb(鉛)元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。Pb元素の含有量が多いと結晶性抑制効果が乏しくなり、色相も劣るようになる。Pb元素の含有量を1ppm未満にすることは、晶析(精製)が困難で高価となり、工業的意味に乏しい。
また本発明のアンチモン触媒は、(b)As(砒素)元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。As元素の含有量が多いと結晶性抑制効果が小さくなる。As元素の含有量を1ppm未満にすることは、アンチモンの晶析(精製)が困難で高価となり、工業的意味に乏しい。
さらに本発明のアンチモン触媒は、(c)実質的にFe元素を含有しないことが好ましい。Fe元素を含有する場合には、色相が悪化する。実質的に含有しないとは、出願時の通常の分析技術では検出できないことを意味する。
これらのアンチモン触媒の不純物となる金属元素の含有量を従来より少ない所定の量とすることで、ポリエステルが結晶化する際の結晶核となる物質の量を抑制することができる。その結果、ポリエステルの結晶化速度の抑制ができるものと考えられる。
従って、本発明のアンチモン触媒を構成する三酸化二アンチモンは、(a)Pb元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。また、(b)As元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。また、(c)実質的にFe元素を含有しないことが好ましい。
また、本発明のアンチモン触媒を構成する四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモンは、(a)Pb元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。また、(b)As元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1ppm以上80ppm以下の範囲である。また、(c)実質的にFe元素を含有しないことが好ましい。
これらのPb、As、Feの含有量の少ない各アンチモンは、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモンまたは五酸化二アンチモンを、晶析精製することにより製造することができる。晶析過程は、溶解、酸化、冷却工程よりなり、三酸化二アンチモンを例にとれば、三酸化二アンチモンを溶解し、溶解温度により溶融液相中のPb量を決定することができる。さらに酸化槽において空気吹込み量を調節することで、三酸化二アンチモンより蒸気圧の高いPbを選択的に除去することができる。次にこれを冷却槽に送液するに際し、所定の目開きを持つフィルターにてろ過することにより、As、Fe量を制御することができる。その後冷却速度および冷却温度を制御することにより三酸化二アンチモン結晶中に取り込まれるAs量を制御することができる。
(ポリエステルの製造方法)
本発明のポリエステルは、前述のジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、前述のジオール成分またはそのエステル形成誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで前述のアンチモン触媒の存在下で、重縮合反応することにより製造することができる。この場合、前述のような共重合成分を用いてもよい。
アンチモン触媒は、得られるポリエステルの重量に対して、好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以上0.08重量%以下用いて製造する。アンチモン触媒量が少ないとポリエステル製造時に重縮合反応が進まず、十分な力学特性を有するポリエステルを得ることができない。多すぎると製糸時に解重合が進み、固有粘度が低下して強度が劣化したり色相が悪化する場合がある。
例えば、まず、ジカルボン酸とジオールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とオキサイドとを反応させて、テレフタル酸のジオールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階のエステル交換反応またはエステル化反応を行う。ジカルボン酸とジオールとを直接エステル化する場合、撹拌翼および蒸留塔を具備した反応器へ、ジオール/ジカルボン酸のモル比を1.1から2.0の範囲に調製したスラリーを投入し、常圧ないしゲージ圧0.3MPa下、230ないし270℃で所定量の水を留出させることで製造することができる。ジカルボン酸エステルとジオールをエステル交換させる場合、ジオール/ジカルボン酸エステルのモル比を1.4から2.0の範囲とし、エステル交換触媒の存在下、常圧ないしゲージ圧0.3MPa下、常温から、所定のアルコール分が留出するまで昇温しながらエステル交換反応することができる。
ついで得られた生成物を、撹拌翼、冷却器および真空設備を具備した重合反応缶へ送液し、常圧から200Pa以下へ減圧しながら270ないし320℃へ加熱して、撹拌トルクまたは撹拌電力を制御し、所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の重縮合反応によって製造することができる。なお、得られたポリエステル樹脂は、必要があれば、固相重合プロセスを通して、200℃からポリエステル樹脂の融点未満の温度で、真空反応または窒素吹き込みすることにより、固有粘度を増加させることができる。
本発明に使用されるアンチモン触媒は、通常、重縮合触媒として用いられるが、以下のように添加することが好ましい。すなわち三酸化二アンチモンは粉体のまま使用してもよく、エチレングリコールに代表されるグリコール類に溶解または分散して添加してもよい。添加時期は、重縮合反応開始前の任意の時期でよく、エステル交換反応時若しくはエステル化反応時の初期若しくは後半、または重縮合反応開始直前のいずれでもかまわない。
(繊維)
得られたポリエステルを繊維化する場合には特別の方法を採用する必要はなく、ポリエステル繊維の公知の溶融紡糸法の任意の条件を採用することができる。例えば、500〜2,500m/分の速度で溶融紡糸し延伸・熱処理する方法、1,500〜5,000m/分の速度で溶融紡糸し延伸と仮撚加工とを同時にまたは続いて行う方法、または5,000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等任意の製糸条件が採用される。ここで、紡出する繊維は中空部のない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよい。また、紡出するポリエステル繊維の横断面における外形や中空部の形状は、円形であっても異形であってもよい。また複合繊維とする際にも、複合繊維を構成する複数種のポリマーのうちの少なくとも1種の成分としても好ましく用いることができる。
本発明の繊維は、特にその製造時における高速紡糸時の工程調子および延伸性・加工性に優れる。製糸の配向結晶性について、沸水収縮率(BWS)と複屈折率(△n)との関係が下記式(1)を満たすことがのぞましい。
3,000×△n≦BWS≦5,000×△n (1)
BWSが3,000×△n未満であると、結晶化が進みすぎていることを示し、紡糸断糸、延伸断糸、ラップ、延伸斑等が発生しやすい傾向にあり、毛羽発生等の原因となる。一方BWSが5,000×△nを超えると糸構造が形成されていないため、強度に劣る傾向にある。BWSの上限は、4,000×△n程度でも良いが5,000×△nが好ましい。
この上記式(1)を満たす繊維を得るには、本発明のアンチモン触媒を用い、さらにはジエチレングリコール共重合量が上述のようにポリエステルの全重量を基準として0.6〜1.4重量%であるポリエステルを用いて、製造することができる。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。実施例、比較例における各特性の測定は以下の方法により行った。
(1)四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモンの定量:粉体を(株)リガク製回折X線装置により、アンチモン由来ピークを結晶形態ごとに計測して求めた。
(2)三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモンまたは五酸化二アンチモン中のPb、As、Fe元素の定量:試料に濃塩酸を添加して加熱溶解後、純水で定容して(株)島津製作所製 ICPS−8100を用いてICP発光分析(高周波プラズマ発光分析)法により金属成分を定量した。
(3)固有粘度([η]):1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量部とフェノール60重量部の混合溶媒中に試料を溶解して定法に従って35℃にて測定した。
(4)ジエチレングリコール(DEG)共重合量:冷却管つきナス型フラスコに試料と抱水ヒドラジン(ヒドラジンヒドラート)を投入し、マントルヒーターにて2時間処理し、分解反応後、得られた溶液を島津ガスクロマトグラフ GC−7Gで定量した。
(5)ポリエステル中のアンチモン化合物の定量:試料を(株)リガク製蛍光X線3270型を用いてアンチモン元素を定量し、その値を三酸化二アンチモンの重量に換算し、アンチモン化合物の含有量とした。
(6)カラー:試料を(株)日本電色製カラーメーターZE−2000を用いて、L、a、bを測定し、そのb値で評価した。
(7)昇温結晶化温度Tci、降温結晶化温度Tcd:パーキンエルマー DSC−7を使用した。試料10mgをDSC−7型で20℃/分で300℃まで昇温後、急冷し、再度20℃/分で昇温し、発生するピークトップの温度をTciとした。300℃まで昇温後、放冷し、降温時に発生する結晶化ピークのピークトップの温度をTcdとした。
(8)半結晶化時間τ:試料1gをスライドガラスにはさみ、ホットプレート上で285度で2分間保持後、急冷し、円形のシート状サンプルを得た。これを可視光源を有し、200℃に保持したシリコンオイルバスに投入し、結晶白化による可視光透過度の減衰を記録し、半減期をτとした。
(9)沸水収縮率(BWS):糸試料を沸騰水に2分間投入し、収縮率を測定した。
(10)複屈折率(△n):糸試料をニコン製ECLIPSE E400 POL偏向顕微鏡で測定した。
(参考例1)
・三酸化二アンチモン(A1)の調製
日本精鉱(株)製の三酸化二アンチモン(Pb含有量300ppm、As含有量300ppm、Fe含有量5ppm)を、700℃で連続的に溶融し、酸化槽へ送液し、同温の熱空気を2.4m/トン−Sbで送入し、Pb分を除去した。その後フィルターを通し送液した後、融点まで12hrで降温・晶析し、表1に示す金属元素含有量の三酸化二アンチモン(A1)を調製した。
(参考例2)
・三酸化二アンチモン(A2)の調製
三国精錬(株)製の三酸化二アンチモン(Pb含有量300ppm、As含有量300ppm、Fe含有量300ppm)を用いて、金属元素含有量が表1に示す値になるように、熱空気の送入量を1.2m/トン−Sbに変え、融点までの降温・晶析時間を6時間に変える以外は参考例1と同様の操作を実施し、表1に示す金属元素含有量の三酸化二アンチモン(A2)を調製した。
(参考例3)
・三酸化二アンチモン(A3)の調製
参考例2で用いた三国精錬(株)の三酸化二アンチモンを、640℃で溶解し、同温の熱空気を0.2m/トン−Sb吹込み、その後、3hrかけて析出するまで降温・晶析する以外は参考例1と同様の操作を実施し、表1に示す金属元素含有量の三酸化二アンチモン(A3)を調製した。
(参考例4)
・四酸化二アンチモン(B1)の調製
三国精錬製の四酸化二アンチモン(Pb含有量500ppm、As含有量500ppm、Fe含有量10ppm)を、750℃で連続的に溶融し、同温の熱空気を2m/トン−Sbで送入し、2時間で降温・晶析し、表1に示す金属元素含有量の四酸化二アンチモン(B1)を調製した。
(参考例5)
・四酸化二アンチモン(B2)の調製
三国精錬製の四酸化二アンチモン(Pb含有量500ppm、As含有量500ppm、Fe含有量10ppm)を、晶析条件として、720℃で連続的に溶融し、同温度の熱空気を1m/トン−Sbで送入し、その後、3hrかけて降温・晶析し、表1に示す金属元素含有量の四酸化二アンチモン(B2)を調製した。
(参考例6)
・五酸化二アンチモン(C1)の調製
日産化学製の五酸化二アンチモン(Pb含有量400ppm、As含有量400ppm、Fe含有量10ppm)を、730℃で連続的に溶融し、同温の熱空気を2m/トン−Sbで送入し、2時間で降温・晶析し、表1に示す金属元素含有量の五酸化二アンチモン(C1)を調製した。
[実施例1]
・アンチモン触媒溶液の調製:
三酸化二アンチモン(A1)と四酸化二アンチモン(B1)とを表2に示す割合で混合し組成物を得た。組成物中の四酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量を行い、その結果を表3に示した。得られた組成物をエチレングリコールに1.3重量%の濃度になるように、130℃×2hrかけて溶解しアンチモン触媒溶液を調製した。
・ポリエステルの製造:
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール70重量部、ジエチレングリコール0.5重量部を用い、酢酸マンガン4水和物0.038重量部を触媒として常法に従ってエステル交換反応を行った。生成したオリゴマーに、リン酸トリメチル0.025重量部を添加し15分間反応させてから、上記のアンチモン触媒溶液を2.3重量部添加した。更に、二酸化チタンを含有するエチレングリコールを、二酸化チタンの含有量が二酸化チタン含有ポリエステルに対して0.3重量%になるように添加した。その後、内温を250℃から290℃に昇温して0.133kPa以下の減圧下で3時間重縮合反応させて、[η]が0.62dL/gのポリエステルを得た。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.031重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
得られたポリエステルを、295℃、孔数24の紡糸口金から吐出し、紡糸速度5,000m/分にて直接巻き取った。ポリマー吐出量は巻き取り糸の総繊維繊度が150dtexとなるよう調整した。製糸は3日間行ない紡糸中の断糸回数を計測した。このポリエステル繊維の固有粘度は0.60dL/gであった。ポリエステル繊維の評価結果を表5に示す。
[実施例2、3および比較例1、2]
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の組成を表2に示すものとする以外は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示す。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコール(DEG)共重合量を表4に記載した通りになるようジエチレングリコール仕込み量を適宜変更すること以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は、実施例2、比較例1においては、実施例1と同じく0.031重量%であった。実施例3、比較例2において、アンチモン化合物の含有量はそれぞれ0.030重量%、0.032重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
(比較例3)
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の組成を表2に示すものにする以外は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコールを添加しない以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は実施例1と同じく0.031重量%であった。結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
[実施例4]
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の調製は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコール(DEG)共重合量を表4に記載した通りになるようDEGの仕込み量を変更し、アンチモン触媒溶液の投入量を1.53重量部とする以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.020重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
[実施例5]
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の調製は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコール(DEG)共重合量を表4に記載した通りになるようDEGの仕込み量を変更し、アンチモン触媒溶液の投入量を3.45重量部とする以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.046重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
[実施例6]
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の調製は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコール(DEG)共重合量を表4に記載した通りになるようDEGの仕込み量を変更し、アンチモン触媒溶液の投入量を4.6重量部とする以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.061重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
[実施例7、8および9]
・アンチモン触媒溶液の調製:
アンチモン触媒の組成を表2に示すものとする以外は、実施例1と同様の操作を行った。触媒組成物中の四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。
・ポリエステルの製造:
ジエチレングリコール(DEG)共重合量を表4に記載した通りになるようジエチレングリコールの仕込み量を適宜変更すること以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.030重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル繊維を製造した。結果を表5に示す。
[実施例10]
・アンチモン触媒溶液の調製:
三酸化二アンチモン(A1)と四酸化二アンチモン(B1)とを表2に示す割合で混合し組成物を得た。組成物中の四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、Pb、As、Feの定量結果を表3に示した。得られた組成物をエチレングリコールに1.3重量%の濃度になるように、130℃×2hrかけて溶解しアンチモン触媒溶液を調製した。
・ポリエステルの製造:
テレフタル酸85.5重量部とエチレングリコール70重量部を用い、無触媒で0.3MPa加圧し、255℃で常法に従ってエステル化反応を行った。生成したオリゴマーにさらにテレフタル酸85.5重量部とエチレングリコール70重量部を加え、0.1MPa加圧し、255℃で常法に従ってエステル化反応を行った。生成したオリゴマーから1/2体積量を取り出し、エステル化反応槽へ再度テレフタル酸85.5重量部とエチレングリコール70重量部を用い、0.1MPa加圧し、255℃で常法に従ってエステル化反応を行った。この操作を5回繰り返した後、取り出した1/2体積量のオリゴマー1回分にリン酸トリメチル0.025重量部を添加し15分間反応させてから、上記のアンチモン触媒溶液を2.3重量部添加した。更に、二酸化チタンを含有するエチレングリコールを、二酸化チタンの含有量が得られる二酸化チタンを含有したポリエステルに対して0.3重量%になるように添加した。その後、内温を250℃から290℃に昇温して0.133kPa以下の減圧下で3時間重縮合反応させて、[η]が0.62dL/gのポリエステルを得た。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.031重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
得られたポリエステルを、295℃、孔数24の紡糸口金から吐出し、紡糸速度5,000m/分にて直接巻き取った。ポリマー吐出量は巻き取り糸の総繊維繊度が150dtexとなるよう調整した。製糸は3日間行ない、紡糸中の断糸回数を計測した。このポリエステル繊維の固有粘度は0.59dL/gであった。ポリエステル繊維の評価結果を表5に示す。
(比較例4)
・ポリエステルの製造:
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール70重量部、ジエチレングリコール0.5重量部を用い、テトラブチルチタンの1重量%エチレングリコール溶液5.36重量部を触媒として常法に従ってエステル交換反応を行った。生成したオリゴマーに、リン酸トリメチル0.025重量部を添加し15分間反応させてから、更に、二酸化チタンを含有するエチレングリコールを、二酸化チタンの含有量が二酸化チタン含有ポリエステルに対して0.3重量%になるように添加した。その後、内温を250℃から290℃に昇温して0.133kPa以下の減圧下で3時間重縮合反応させて、[η]が0.64dL/gのポリエステルを得た。得られたポリエステル中のアンチモン化合物の含有量は0.0重量%であった。ポリエステルの特性の測定結果を表4に示す。
・ポリエステル繊維の製造:
得られたポリエステルを、295℃、孔数24の紡糸口金から吐出し、紡糸速度5,000m/分にて直接巻き取った。ポリマー吐出量は巻き取り糸の総繊維繊度が150dtexとなるよう調整した。製糸は3日間行ない紡糸中の断糸回数を計測した。このポリエステル繊維の固有粘度は0.60dL/gであった。ポリエステル繊維の評価結果を表5に示す。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、高速紡糸の際に結晶化速度の抑制されたポリエステルを提供することができる。本発明のポリエステルは高速紡糸の際に、従来のポリエステルに比較して結晶化しにくいので、その後の延伸操作、仮撚加工操作が容易に行うことができる。ゆえに仮撚加工したポリエステル繊維の生産性を挙げることができる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン触媒の存在下で得られるポリエステルであって、
該アンチモン触媒が、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなることを特徴とするポリエステル。
【請求項2】
アンチモン化合物の含有量が、0.01重量%以上0.1重量%以下である請求項1記載のポリエステル。
【請求項3】
ポリエステルの主たる構成成分がポリエチレンテレフタレートであり、さらに以下の要件、
(A)ジエチレングリコール共重合量がポリエステルの全重量を基準として0.6重量%以上1.4重量%以下、
(B)降温結晶化温度(Tcd)が180℃以上205℃以下、
(C)昇温結晶化温度をTciとしたときに、Tcd−Tciが5℃以上30℃以下、および
(D)200℃における半結晶化時間τが60秒以上90秒以下、
を満たす請求項1記載のポリエステル。
【請求項4】
該アンチモン触媒が、さらに以下の要件、
(a)Pb元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、
(b)As元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、および
(c)実質的にFe元素を含有しない、
を満たす請求項1記載のポリエステル。
【請求項5】
請求項1記載のポリエステルを溶融紡糸してなる繊維。
【請求項6】
沸水収縮率(BWS)と複屈折率(△n)との関係が下記式(1)を満たす請求項5記載の繊維。
3,000×△n≦BWS≦5,000×△n (1)
【請求項7】
ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いでアンチモン触媒の存在下で、重縮合反応することによりポリエステルを製造する方法であって、該アンチモン触媒が、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項8】
得られるポリエステルの重量に対して0.01重量%以上0.1重量%以下のアンチモン触媒の存在下で重縮合反応を行う請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
該アンチモン触媒が、さらに以下の要件、
(a)Pb元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、
(b)As元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、および
(c)実質的にFe元素を含有しない、
を満たす請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
ポリエステル重合用触媒であって、
(i)三酸化二アンチモン、並びに
(ii)三酸化二アンチモンに対し、1重量%以上10重量%以下の四酸化二アンチモンおよび/または五酸化二アンチモン、
からなる触媒。
【請求項11】
該触媒が、さらに以下の要件、
(a)Pb元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、
(b)As元素の含有量が1ppm以上100ppm以下の範囲、および
(c)実質的にFe元素を含有しない、
を満たす請求項10記載の触媒。

【国際公開番号】WO2005/054334
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516044(P2005−516044)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018444
【国際出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】