説明

ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】各種工業用織物資材として有用な優れた耐摩耗性を有すると共に、製糸・製織時の工程通過性がすぐれたポリエステル系モノフィラメントおよびこのモノフィラメントを少なくとも一部に使用した各種工業用織物を提供する。
【解決手段】ポリトリメチレンテレフタレート(A)3〜40重量%およびポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル(B)97〜60重量%からなるポリエステル組成物(X)で構成されたポリエステルモノフィラメントであって、耐炭酸カルシウム摩耗性試験において、前記ポリエステル組成物(X)からなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)と、ポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)とが、同一直径条件下でM/M≧1.3であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業用織物資材として有用な優れた耐摩耗性を有すると共に、製糸・製織時の工程通過性がすぐれたポリエステルモノフィラメントおよびこのモノフィラメントを少なくとも一部に使用した抄紙ワイヤーやドライヤーキャンバスなどの抄紙用織物、サニタリー製品乾燥用ベルトなどのベルト用織物および、各種ベルトプレス用フィルターやセメントフィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはすぐれた力学特性および化学特性を有しているため、これらの特性を生かして衣料、工業用繊維材料、各種織物およびフィルムなどの分野に広く使用されてきた。
【0003】
例えば、ポリエステルモノフィラメントは、抄紙ワイヤーやドライヤーキャンバスなどの抄紙用織物、サニタリー製品乾燥用ベルトなどのベルト用織物、および各種ベルトプレス用フィルターやセメントフィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物の素材として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、ポリエステルモノフィラメントからなる工業用織物を実用するに際しては、他の物質、例えば金属、セラミックおよびプラスチックなどの粒子や構造物などと接触する用途に用いる場合に、これらの粒子や構造物などによって織物が擦過損傷を受けやすく、製品としての耐久寿命が短いという欠点があった。
【0005】
例えば、製紙業界においては、中性紙への転換にともないパルプに混入する填料(充填材)として炭酸カルシウムが使用されているが、炭酸カルシウム粒子は従来の填料であるタルク粒子よりも硬いため、抄紙工程において使用される抄紙ワイヤーの摩耗がはやく、特にポリエステルモノフィラメント製の抄紙ワイヤーは、ナイロン6などのポリアミドモノフィラメント製抄紙ワイヤーに比較して耐久寿命が短いという欠点を有していた。
【0006】
一方、ポリアミドモノフィラメント製抄紙ワイヤーは、上述したように比較的摩耗し難い利点はあるものの、抄紙時の水分により抄紙ワイヤーの寸法が変化し、製紙に支障をきたすという致命的な欠点を有しているため、抄紙時においても寸法安定性が良好なポリエステルモノフィラメント製抄紙ワイヤーの摩耗性の改良が強く望まれていた。
【0007】
また、抄紙ドライヤーキャンバスにおいても、填料含有紙と接触する面に使用する織物の摩耗問題が指摘されており、特に炭酸カルシウム粒子やカオリンなどの無機顔料を含有する塗料をコーティングして乾燥させる工程で使用されるドライヤーキャンバスを構成するポリエステルモノフィラメントでは摩耗が著しいため、その改善がしきりに求められていた。
【0008】
さらに、活性汚泥やビール粕などの脱水や、醤油絞りなどのベルトプレス工程で使用されるフィルターおよびセメントスラリー用フィルターなどの構成素材として用いられるポリエステルモノフィラメントにおいても、使用中に摩耗を受けやすいことから、その改善がしきりに求められていた。
【0009】
このような実状に鑑み、ポリエステルモノフィラメントの摩耗性を改良するための試みが、従来より数多くなされてきた。
【0010】
これら摩耗性改善の手法として、アルミナ粉,炭化ケイ素,ジルコニア系研磨材などの砥材粒子を配合したポリエステルモノフィラメントなどが一般に知られてはいるが、この砥材を含有するポリエステルモノフィラメントは、若干の耐摩耗性向上効果は認められるものの、ポリエステル中における砥材粒子の分散性が悪いため糸質が劣るものとなったり、モノフィラメント製造工程やモノフィラメントを用いた各種織物の製織工程および抄紙機などにおいて、モノフィラメントやモノフィラメントを用いた各種織物と接触する各種ローラー類やガイド類などの表面に擦過損傷を与えたりするというという重大な欠点を有している。
【0011】
また、ポリエステルモノフィラメントの表面にポリシロキサン系被覆剤および架橋アクリル系被覆剤などの硬質被膜を形成することにより耐摩耗性を付与する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この方法では表面被膜が脱落しやすいため、改良効果の耐久性が劣るという問題があった。
【0012】
さらに、ポリエチレンテレフタレートに特定量の熱可塑性ポリウレタンを含有させたモノフィラメントを使用してなる耐摩耗性の改良された抄紙用織物(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、この抄紙用織物は、使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂がポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸温度で分解し、モノフィラメント紡糸工程の操業性を著しく低下させることから、工業的に実用するのが困難であるという問題があった。
【0013】
なお、本出願人らも、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分(a)と、ポリプロピレン成分(b)と、ポリブテン成分(c)とからなるブロック共重合体(A)0.5〜40重量%およびポリエステル(B)99.5〜60重量%からなるポリエステル組成物(X)を芯成分とし、ポリエステル(Y)を鞘成分とする少なくとも二重芯鞘構造からなる複合モノフィラメント(例えば、特許文献3参照)を先に提案しているが、その後の検討によれば、これらの耐摩耗性改良ポリエステルモノフィラメントは、モノフィラメントの製糸工程において、上記ブロック共重合体チップに粘着性があるため、チップ同士のブロッキングが発生し、原料供給斑等の問題を生じ、操業性の悪化を招くという不具合を包含していることが判明した。
【0014】
しかるに、特に近年の製紙業界においては、従来に比較し抄紙機の高速化が進んでおり、従来よりも更に耐摩耗性にすぐれる抄紙ワイヤー用またはドライヤーキャンバス用のポリエステルモノフィラメントの実現が一層望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公平5−83678号公報
【特許文献2】特開平7−316428号公報
【特許文献3】特開平5−185425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0017】
したがって、本発明の目的は、各種工業用織物資材として有用な優れた耐摩耗性を有すると共に、製糸・製織時の工程通過性がすぐれたポリエステルモノフィラメントおよびこのモノフィラメントを少なくとも一部に使用した抄紙ワイヤーやドライヤーキャンバスなどの抄紙用織物、サニタリー製品乾燥用ベルトなどのベルト用織物および、各種ベルトプレス用フィルターやセメントフィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明のポリエステルモノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート(A)3〜40重量%およびポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル(B)97〜60重量%からなるポリエステル組成物(X)で構成されたポリエステルモノフィラメントであって、モノフィラメントの先端に荷重100gの重りをつけ、1500rpmで回転する直径60mmのセラミック製円筒表面に、炭酸カルシウム粉末の0.5%水懸濁液を1.2リットル/分の流量にて滴下しながら接触させ、該モノフィラメントが切断するまでの時間を測定する耐炭酸カルシウム摩耗性試験において、前記ポリエステル組成物(X)からなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)と、ポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)とが、同一直径条件下でM/M≧1.3であることを特徴とする。
【0019】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、ポリエステル組成物(X)を構成するポリエステル(B)がポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートであること、引張破断強度が2.5cN/dtex以上であることが好ましい条件であり、これらの条件を適用することでより一層すぐれた効果の取得が期待できる。
【0020】
また、本発明の工業用織物は、上記のモノフィラメントを少なくとも一部に使用したことを特徴とし、抄紙用織物、ベルト用織物およびフィルター用織物に好ましく適用される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリエステルモノフィラメントは各種工業用織物資材として有用な優れた耐摩耗性を有すると共に、製糸・製織時の工程通過性がすぐれたものである。そして、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用した抄紙ワイヤーやドライヤーキャンバスなどの抄紙用織物、サニタリー製品乾燥用ベルトなどのベルト用織物および、各種ベルトプレス用フィルターやセメントフィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物は、優れた耐摩耗性と、必要十分な強伸度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリエステルモノフィラメントにおいて、ポリエステル組成物(X)を構成するポリトリメチレンテレフタレート(A)(以下、PTTという)とは、テレフタル酸と1,3−プロパンジオールを縮重合して得られるポリマであり、テレフタル酸および1,3−プロパンジオールの一部を、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などのジカルボン酸成分、およびエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどのグリコール成分で置き換えた共重合ポリエステルであってもよい。
【0024】
具体例としては、Shell Chemicals製“CORTERRA CP513000などの市販品が挙げられる。また、PTT(A)は、他の樹脂類、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤などおよび各種粒子類、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸や架橋高分子粒子、および各種金属粒子などを配合したものであってもよい。上記ポリエステルの極限粘度は通常は0.6以上であればよい。ここで、極限粘度とはオルトクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔IV〕で表わされる。
【0025】
本発明のポリエステルモノフィラメントにおいて、ポリエステル組成物(X)を構成するポリエステル(B)とは、PTT(A)以外のポリエステルあり、かつジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0026】
なお、上記のジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、また、上記のグリコール成分の一部をジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えてもよい。更に、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0027】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%がエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)またはポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)の使用が好適である。
【0028】
上記ポリエステルには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、および各種強化繊維類などが添加されていてもよい。
【0029】
ポリエステル組成物(X)におけるPTT(A)の含有量は、3〜40重量%、特に10〜30重量%の範囲であることが望ましい。PTT(A)の含有量が3重量%より少ないと、得られるポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性が十分でなく、また40重量%より多いと、得られるポリエステルモノフィラメントの強伸度が低下するばかりか、モノフィラメント平均直径に対して、+10%を超えるような、繊維軸方向の極短い長さの直径増大変動異常部(以下、コブ糸という)の発生や線径斑が増加する傾向となるため好ましくない。
【0030】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、炭酸カルシウム摩耗試験において、前記ポリエステル組成物(X)からなる本発明のポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)と、ポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)とが、同一直径条件下でM/M≧1.3であること、つまりポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間に対して、同一直径条件下で1.3倍以上の切断時間であることが必要である。
【0031】
ここで、耐炭酸カルシウム摩耗試験とは、モノフィラメントの先端に荷重100gの重りをつけ、1500rpmで回転する直径60mmのセラミック製円筒表面に、炭酸カルシウム粉末の0.5%水懸濁液を1.2リットル/分の流量にて滴下しながら接触させ、該モノフィラメントが切断するまでの時間を測定する試験であり、本発明のポリエステルモノフィラメントが炭酸カルシウム等の無機充填剤が介在する環境下で使用された際の耐久性を示している。
【0032】
すなわち、本発明のポリエステノフィラメントが、ポリエステル(B)のみからなる従来のポリエステルモノフィラメントよりも、耐炭酸カルシウム摩耗性における切断時間が長ければ、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの無機填料による摩耗を著しく抑制されたものとなり、抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーキャンバス等の構成素材として好適な性能を発揮することになるのである。
【0033】
さらに、本発明のポリエステルモノフィラメントは、JISL1013に準じて測定した破断強度が2.5cN/dtex以上であることが好ましく、破断強度が2.5cN/dtex未満では、織物とした場合の強度が不十分となる傾向が招かれることがある。
【0034】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の一般的な方法を採用することが出来る。
【0035】
すなわち、PTT(A)と、PETなどのポリエステル(B)とを一般には減圧下、50℃〜160℃の温度で5〜24時間乾燥し、適当な混合機、例えばタンブラー、ヘンシェルミキサーなどで均一に混合したのち、メルトプレッシャー式またはエクストルダ型紡糸機などを用いて各ポリマを計量供給し、紡糸口金から各成分を溶融紡糸し、延伸・熱セットすることにより、本発明のポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【0036】
本発明のポリエステルモノフィラメントの断面形状はいかなるものでもよく、例えば丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型、馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。また、使用に当たってはこれら各種断面形状のモノフィラメントを適宜組み合わせて用いることができる。耐摩耗性向上の観点からは、丸形断面が最も摩耗しにくく好ましい。また、断面の直径は用途によって適宜選択できるが、0.01〜3mmの範囲が最もよく使用される。
【0037】
本発明の工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用した、抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーキャンバス、サニタリー製品乾燥用ベルト、各種ベルトプレス用フィルター、セメントフィルターなどのことである。
【0038】
ここで抄紙ワイヤーとは、一重織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものであり、織物の裏側のローラー、サクションボックスおよびホイルなどと接する部分の緯糸が特に激しい摩耗を受けることになる。したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部の構成素材として使用した長網あるいは丸網などの抄紙ワイヤーは、紙原料中の炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの無機填料による摩耗を著しく抑制されたものとなり、この用途にとって好適な性能を発揮する。
【0039】
また、抄紙ドライヤーキャンバスとは、一重織、二重織および三重織など様々な織物として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことであり、紙やローラー類および紙表面に施された各種塗料による摩耗を受ける。したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部の構成素材として用いた抄紙ドライヤーキャンバスは、キャンバスの摩耗が著しく抑制されるという、この用途にとって好適な性能を発揮する。
【0040】
また、同様に、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部の構成素材として用いた活性汚泥,ビール粕などの脱水や醤油絞りなどのベルトプレス工程で使用されるフィルター、セメントスラリー用フィルターおよびサニタリー製品乾燥用ベルト布などは、使用中の摩耗が著しく抑制されたものとなるため、これらの用途にとって好適な性能を発揮する。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中の各種特性は下記の方法に準じて行なった。
【0042】
[耐炭酸カルシウム摩耗性]
モノフィラメントの先端に荷重100gの重りをつけ、1500rpmで回転する直径60mmのセラミック製円筒表面に、中性紙抄紙用の填料として用いられる三共製薬(株)製の炭酸カルシウム粉末“エスカロン”(登録商標)#800の0.5%水懸濁液を1.2リットル/分の流量にて滴下しながら接触させ、該モノフィラメントが切断するまでの時間を測定した。なお、耐摩耗性は、本摩耗性評価におけるモノフィラメントの切断するまでに要する時間が長い方が良好である。結果は、切断時間と、同一直径条件下での本発明のポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)と、ポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)との比M/Mとで示した。
【0043】
[破断強伸度]
JISL1013に準じて、綛状にとった試料を20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間放置した後、(株)オリエンテック社製“テンシロン”UTM−4−100型引張り試験機を用い、糸長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定し、試料が切断した時の強力(N)を繊度で割り返して引張破断強度(cN/dtex)を求めた。また、試料が切断した時の伸びを測定し、伸度を求めた。
【0044】
[紡糸操業性]
24時間の連続紡糸を行ない、以下の三基準で判定した。
◎(極めて良好):原料の噛込み不良による紡糸不能状態や紡糸中の糸切れが全くない、また、コブ糸の発生が10回/トン未満であった。
なお、コブ糸の回数は、紡糸押出し総ポリマ重量(kg)/1000kg×コブ糸回数にて算出した。
○(良好):原料の噛込み不良による紡糸不能状態が無発生、また紡糸中の糸切れが2回以下、また、モノフィラメント平均直径に対して、+10%を超えるような、繊維軸方向の極短い長さの直径増大変動異常部(以下、コブ糸という)の発生が20回/トン未満であった。
×(不良):原料の噛込み不良による紡糸不能状態になる、または紡糸中に糸切れが3回以上発生する、またコブ糸が20回/トン以上発生するなど、連続操業に重篤な問題が発生した。
【0045】
[実施例1]
真空下105℃で12時間乾燥したPTT(A)として、Shell Chemicals製“CORTERRA CP513000、また、ポリエステル(B)として、真空下150℃で12時間乾燥した極限粘度0.70のPETペレットを準備した。
【0046】
次いで、PTT(A)15重量%とPET85重量%を混合したポリエステル組成物(X)を使用し、孔径1.0mmの押し出しノズルを備えたエクストルダ型溶融紡糸機に供給、溶融混練、押出しした後、常法に従って冷却後、220℃で5.3倍に延伸し、0.95倍で弛緩熱セットすることにより、直径0.22mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0047】
得られたポリエステルモノフィラメントの耐炭酸カルシウム摩耗性、引張破断強度および紡糸操業性を表1に示す。
【0048】
[実施例2〜4]
実施例1と同一のPTT(A)およびPET(B)を使用し、ポリエステル組成物(X)の混合比率を表1に示したように変更して、直径0.22mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0049】
得られたポリエステルモノフィラメントの耐炭酸カルシウム摩耗性、引張破断強度および紡糸操業性を表1に示す。
【0050】
[実施例5および6]
ポリエステル組成物(X)におけるポリエステル(B)として、真空下105℃で12時間乾燥した極限粘度1.20のPBTペレットを用い、混合比を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の条件にして、直径0.22mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0051】
得られたポリエステルモノフィラメントの耐炭酸カルシウム摩耗性、引張破断強度および紡糸操業性を表1に示す。
【0052】
[比較例1および2]
ポリエステル組成物(X)をPET単独またはPBT単独とした以外は、実施例1と同一の条件にして、直径0.22mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0053】
得られたポリエステルモノフィラメントの耐炭酸カルシウム摩耗性、引張破断強度および紡糸操業性を表1に示す。
【0054】
[比較例3および4]
ポリエステル組成物(X)のPTT(A)と、PET(B)の混合比を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の条件にして、直径0.22mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0055】
得られたポリエステルモノフィラメントの耐炭酸カルシウム摩耗性、引張破断強度および紡糸操業性を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から明らかなように、本発明のポリエステルモノフィラメント(実施例1〜6)は、いずれも優れた耐炭酸カルシウム摩耗性と紡糸操業性を有し、これらを織物を構成する原糸の一部に使用した場合においても、良好な織物摩耗特性を実現するなど、極めて好ましい特性を有していることがわかる。
【0058】
一方、本発明の規定を満たさないポリエステルモノフィラメント(比較例1〜4)においては、耐炭酸カルシウム摩耗性や紡糸操業性、引張破断強度が不十分であるばかりか、工業用織物を構成するポリエステルモノフィラメントして使用した場合にも、織物の摩耗性能の向上効果が認められないなど、いずれも好ましくないことが明らかである。
【0059】
すなわち、比較例1および比較例2では、ポリエステル(B)がPETまたはPBTのみであるため、モノフィラメントの耐摩耗性能が不十分で工業用織物用のモノフィラメントとしては耐久性に欠ける結果であった。
【0060】
同様に、ポリエステル組成物(X)を構成するPTT(A)およびポリエステル(B)の混合比が50重量%:50重量%と本発明の規定範囲外となる比較例3では、耐摩耗性能は良好であるが、引張破断強力が不足しているばかりか、コブ糸が20回/トン以上発生して連続操業に重篤な問題が発生した。
【0061】
また、比較例4では、ポリエステル組成物(X)を構成するPTT(A)の混合比が低すぎるため、耐炭酸カルシウム摩耗性の低いポリエステルモノフィラメントとなってしまい、十分な耐久性を得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明のポリエステルモノフィラメントは、各種工業用織物資材として有用な優れた耐炭酸カルシウム摩耗性を有するものである。したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用した抄紙ワイヤーやドライヤーキャンバスなどの抄紙用織物、サニタリー製品乾燥用ベルトなどのベルト用織物および、各種ベルトプレス用フィルターやセメントフィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物は、優れた耐摩耗性と、必要十分な強伸度を有しており、当該産業業分野への適用が大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレート(A)3〜40重量%およびポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル(B)97〜60重量%からなるポリエステル組成物(X)で構成されたポリエステルモノフィラメントであって、モノフィラメントの先端に荷重100gの重りをつけ、1500rpmで回転する直径60mmのセラミック製円筒表面に、炭酸カルシウム粉末の0.5%水懸濁液を1.2リットル/分の流量にて滴下しながら接触させ、該モノフィラメントが切断するまでの時間を測定する耐炭酸カルシウム摩耗性試験において、前記ポリエステル組成物(X)からなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)と、ポリエステル(B)のみからなるポリエステルモノフィラメントの切断時間(M)とが、同一直径条件下でM/M≧1.3であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
ポリエステル(B)がポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
JISL1013に準じて測定した破断強度が2.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。

【公開番号】特開2011−58143(P2011−58143A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211605(P2009−211605)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】