説明

ポリエステル樹脂の合成方法

【課題】 本発明は、繊維強化プラスチックなどに使用される不飽和ポリエステル樹脂、容器あるいは繊維などに使用される飽和ポリエステル樹脂を、従来法よりも低温で合成することを目的とする。
【解決手段】 環状ケタールエステルと酸無水物を反応させることにより、ポリエステル樹脂を従来法よりも低温で合成することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の合成方法に関し、さらに詳しくは、繊維強化プラスチックなどに使用される不飽和ポリエステル樹脂、容器あるいは繊維などに使用される飽和ポリエステル樹脂を、環状ケタールエステルと酸無水物の反応によって得ることを可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル樹脂は、多塩基酸または酸無水物とグリコール類を反応させて合成する。また、多塩基酸またはグリコール類のエステルを原料として合成することもできる。しかしながら、いずれの方法においても、200℃程度の高温で反応を進行させる必要がある。また、縮合物は水またはアルコール類であり、極性が高いため、150℃以下の低温ですべてを留去することは困難である。
【0003】
ケタールを原料としてポリエステル樹脂を合成する方法としては、以下のようなものがある。
【0004】
特開平6−100638号公報、特開平7−41526号公報、特開2003−197830号公報、特開2004−231702号公報では、パーオキシケタールをポリエステル樹脂の触媒または硬化剤として使用している。しかし、これらの発明においてパーオキシケタールは、不飽和基の反応触媒として用いられており、酸無水物と反応させることを目的としていない。
【0005】
特開平5−230280号公報、特開平5−230381号公報、特開平5−239257号公報、特開平5−287118号公報、特開平7−11151号公報では、エチレン性不飽和エーテル化合物、アミノ基含有化合物、多価金属のアルコキシドまたは多価金属のキレート化合物、ポリカルボジイミド、シロキシ基を有する化合物等と、カルボン酸のヘミケタールエステルを反応させて重合体を得ているが、ヘミケタールとケタールは異なる化合物類であり、しかも酸無水物と反応させる例はない。
【0006】
特開2002−173465号公報では、活性水素化合物とカルボン酸からケタール等を合成している。合成されたケタールの利用法に関する記載はない。
【0007】
また、繊維強化プラスチックFRPは強度を有する分野で広く用いられる材料であるが、複合材料であることからリサイクルが難しく、問題となっている。これまで、FRPのリサイクルとしては、リン酸カリウムとジエチレングリコールモノメチルエーテル(DGMM)により、FRPに含まれる無機成分をほぼ定量的に分離し再利用する方法が報告されている(特開2002−194137号公報)が、樹脂成分の再利用については十分な検討がなされていなかった。
【特許文献1】特開平6−100638号公報
【特許文献2】特開平7−41526号公報
【特許文献3】特開2003−197830号公報
【特許文献4】特開2004−231702号公報
【特許文献5】特開平5−230280号公報
【特許文献6】特開平5−230381号公報
【特許文献7】特開平5−239257号公報
【特許文献8】特開平5−287118号公報
【特許文献9】特開平7−11151号公報
【特許文献10】特開2002−173465号公報
【特許文献11】特開2002−194137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上を鑑み、本発明は、低温で速やかにポリエステル樹脂を合成する方法を提供するものである。また、本発明は、ポリエステル樹脂合成の際に生じる成分が低温で留去できる成分であるポリエステル樹脂の合成方法を提供するものである。また、FRPのリサイクル分野での活用できる、分解により得られた樹脂成分の再樹脂化に適用可能なポリエステル樹脂の合成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、繊維強化プラスチックなどに使用される不飽和ポリエステル樹脂、容器あるいは繊維などに使用される飽和ポリエステル樹脂を、環状ケタールエステルと酸無水物の反応によって従来法よりも低温で合成することを可能にする方法に関する。
【0010】
また、本発明は、ポリエステル樹脂の合成の際に生じる成分が低温で留去できるものである方法に関する。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)環状ケタールエステルと酸無水物とを反応させることを特徴とするポリエステル樹脂の合成方法である。
【0012】
また、本発明は、(2)環状ケタールエステルの原料として水酸基を有する環状ケタールを用いることを特徴とする前記(1)記載のポリエステル樹脂の合成方法である。
【0013】
また、本発明は、(3)環状ケタールエステルと酸無水物とを酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする前記(1)または(2)記載のポリエステル樹脂の合成方法である。
【0014】
また、本発明は、(4)水酸基を有する環状ケタールがソルケタールであることを特徴とする前記(2)または(3)記載のポリエステル樹脂の合成方法である。
【0015】
また、本発明は、(5)反応を180℃以下で行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル樹脂の合成方法である。
【0016】
また、本発明は、(6)反応を150℃以下で行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル樹脂の合成方法である。
【0017】
また、本発明は、(7)環状ケタールエステルと酸無水物とを、酸触媒下に反応して得られたポリエステル樹脂である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環状ケタールエステルと酸無水物とを反応させることによって、従来法よりも低温でポリエステル樹脂を合成することが可能である。また、本発明によれば、合成の際に生じる成分がケトンであるため低温で留去することが可能である。さらに本発明によれば、FRPに含まれる樹脂成分を分離して得られた分解物を再樹脂化し、再利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のポリエステル樹脂の合成方法は、環状ケタールエステルと酸無水物とを反応させる。
【0020】
本発明で用いる環状ケタールエステルは、環状ケタール骨格を有するエステル化合物であり、例えば、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(ソルケタール)、2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−メチル−2−プロピル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−メチル−2−ブチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2,2−ジエチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2,2−ジプロピル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−プロピル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2−イソプロピル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−エタノール、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−プロパノール等の環状ケタールの骨格を有するエステル化合物などが挙げられる。
【0021】
かかる環状ケタールエステルの原料としては水酸基を有する環状ケタールを用いることが好ましく、環状ケタールエステルは、ソルケタール等の水酸基を有する環状ケタールとカルボン酸、カルボン酸エステル、酸クロリド、酸無水物のいずれかとの反応によって合成することができる。
【0022】
水酸基を有する環状ケタールは、多価アルコール類とケトン類の反応によって合成する。多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、トリオキシイソブタン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオールおよびこれらのアルキル置換体などが挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセチル、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロン等が挙げられる。
【0023】
カルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸でもよく、一塩基酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、ブテン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ビニル酢酸、メタクリル酸、ペンテン酸、プロピオール酸、テトロール酸、ペンタジエン酸、ヘキサジエン酸、ジアリル酢酸、リノール酸、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、エチル安息香酸、クミン酸などが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、メチルフマル酸、メチルマレイン酸、ムコン酸、イタコン酸、クエン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、メリット酸などが挙げられる。
【0024】
カルボン酸エステルとしては、例えば、上記カルボン酸の、メチル、エチル、プロピル、イソピロピル、ブチル、イソブチル、シクロヘキシル、ベンジル等のエステルが挙げられる。なかでも、安息香酸メチル、フタル酸ジメチルが好ましい。
【0025】
酸クロリドとしては、例えば、上記カルボン酸の酸クロリド誘導体が挙げられ、塩化ベンゾイル等の安息香酸またはフタル酸のクロリドが好ましい。
【0026】
酸無水物としては、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、グリセロールトリストリメリテート、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、無水トリメリット酸などが挙げられる。なかでも、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0027】
多価アルコール類とケトン類を反応させて水酸基を有する環状ケタールを合成する際には、任意の溶媒、触媒等を用いてもよい。また、水酸基を有する環状ケタールとカルボン酸、カルボン酸エステル、酸クロリド、酸無水物のいずれかとの反応によって環状ケタールエステルを合成する際にも、任意の溶媒、触媒等を用いてもよい。
【0028】
環状ケタールエステルと酸無水物を反応させる際に用いる酸無水物の例は、上記の酸無水物の例と同様である。
【0029】
環状ケタールエステルと酸無水物の配合量は、通常、環状ケタールエステルの環状ケタール基1当量に対して、酸無水物を0.05〜10当量配合する。好ましくは、0.2〜2当量である。0.05当量よりも少ない場合には環状ケタール基が残存しやすく、10当量よりも多い場合には酸無水物が残存しやすく、高分子量体が得られにくい。
【0030】
本発明では、環状ケタールエステルと酸無水物を反応させる際、あるいは反応後に、不飽和基を有する化合物を加えて反応させることもできる。不飽和基を有する化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メタクリル酸メチル、フタル酸ジアリル、α−メチルスチレン、シアヌル酸トリアリル、ジビニルベンゼン、プロピレンオキシド、エポキシ樹脂、イソシアネート類、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
環状ケタールエステルと酸無水物を反応させる際、あるいは反応後に、充填材を加えてもよい。充填材の例としては、金属及び金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、窒化物、天然有機物、人工有機物などがある。例えば、ホウ素、アルミニウム、鉄、ケイ素、チタン、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、タングステン、白金、金、鉛、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、マイカ、シリカ、粘土、ガラス、炭素、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、木材、プラスチック片、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂硬化物などがあり、これらの材料の各成分を融合したものでもよく、混合したものでもよい。また、充填材の形状としては、粉末、繊維、ビーズ、箔、フィルム、線、回路などがある。繊維はマット状にしたものでもよく、布のように織られたものでもよい。これらの充填材が樹脂硬化物中に含まれている比率は任意であるが、一般的には5〜90wt%の範囲にある。
【0031】
環状ケタールエステルと酸無水物を反応させてポリエステル樹脂を合成する際には、任意の溶媒、触媒等を用いてもよい。
【0032】
溶媒の例としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、カプロラクタム、カルバミド酸エステルなどのアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロンアセチルアセトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセタール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセタールなどのエーテル系溶媒、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセタート、2−エチルブチルアセタート、2−エチルヘキシルアセタート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ酪酸イソブチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソペンチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、γ−ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジエチル、サリチル酸メチル、エチレングリコールジアセタート、ホウ酸トリブチル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのエステル系溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、スチレン、メチルシクロヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素溶媒等が挙げられる。溶媒の使用量は、溶質の濃度が10〜90wt%になるように用いることが好ましく、より好ましくは、20〜80wt%になるように用いる。10wt%よりも濃度が低い場合には、合成した樹脂を回収することが困難になり、90wt%超では、溶媒を使用する効果が小さい。
【0033】
触媒の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、錫、アンモニウムなどの水素化物、水酸化物、ホウ水素化物、アミド化合物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、アルコラート、フェノラート及びこれらの水和物、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、リン酸、硝酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、三フッ化ホウ素化合物などがある。これらのなかでも、塩化物、アルコラート、または酸が好ましく、トルエンスルホン酸、硫酸等の酸がより好ましく、パラトルエンスルホン酸が特に好ましい。触媒の使用量は、環状ケタール基1当量に対して、0.0001〜0.2モルが好ましく、より好ましくは0.001〜0.05モルである。0.0001モルよりも少ない場合には、触媒としての促進効果が少なく、0.2モルよりも多い場合には、樹脂中に残存した触媒が除去しにくく、硬化物の物性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
環状ケタールエステルと酸無水物を反応させる際の温度は、180℃以下であり、用いる原材料、溶媒が凝固する温度以上で適宜選択される。副反応の防止、省エネルギーの観点からは、反応温度は170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
反応時間は、用いる原料や反応条件等に応じて適宜選択されるが、
通常1分間〜24時間、好ましくは10分間〜20時間、より好ましくは1時間〜15時間である。1分間未満では高温で反応させた場合でも十分に反応せず、24時間を越えると合成の効率が著しく低下する。
【0035】
本発明では、環状ケタールエステルと酸無水物を反応させる際、温度を例えば2回のように複数回に分けて段階的に上げることが好ましい場合がある。樹脂を合成する際に、温度を数段階に分けて行うことにより、保護基の脱離反応と二重結合等による高分子量化反応を制御することが可能になる。
【0036】
反応の際の雰囲気はどのようなものでもよいが、簡便な方法を重視する場合には大気中であることが好ましく、副生成物を減らし火災等の可能性を低減するためには、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素などの不活性気体中であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂の合成方法では、ケトン類が縮合して脱離する。かかるケトン類は低温で留去することができる。留去の方法は常法に従って行なえばよいが、常圧下あるいは減圧下で除去することが好ましい。
【0038】
かくして得られるポリエステル樹脂は、重量平均分子量が200〜100,000、数平均分子量が150〜10,000である。重量平均分子量が200未満、数平均分子量が150未満の場合には、重合反応が十分に進んでおらず、良好な物性の硬化樹脂が得られにくい。重量平均分子量が100,000超、数平均分子量が10,000超の場合には、種々の温度範囲で流動性が著しく低下し、良好な成形品を与えることが困難になりがちである。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂の合成方法の1モデル(反応式)を示す。
【化1】

【実施例】
【0040】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
[安息香酸ソルケタールエステルの合成方法]
【化2】

【0042】
乾燥窒素下、乾燥エーテル(40ml)にトリエチルアミン(7.18g,0.071mol)およびソルケタール(9.72g,0.071mol)を加えた。氷で冷やしながら塩化ベンゾイル(10.00g,0.071mol)を滴下ロートにより滴々滴下した。2時間還流し、放冷後反応液に水を注ぎ固体を溶かし、酢酸エチル50mlで3回、ついで飽和重曹水50mlで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒をエバポレーターにて減圧留去した。減圧蒸留(95℃/0.1mmHg)により、生成物として安息香酸のソルケタールエステルを収率77.7%(12.38g,0.068mol)で得た。得られたソルケタールエステルのスペクトルデータを以下に示す。
【0043】
スペクトルデータ:
IR(cm−1,neat)2988、2937、2885、1732、1454、1265、1072
H−NMR(400MHz,δ,CDCl)1.31(s,3H,>C(CH)1.38(s,3H,>C(CH)3.80(dd,J=5.60and8.40Hz,1H,>CHCHCHO−)4.09(dd,J=6.40and8.40Hz,1H,>CHCHCHO−)4.28(dd,J=5.60and11.60Hz,1H,−COCH−)4.32(dd,J=4.80and11.60Hz,1H,−COCH−)4.36(m,1H,−OCHCHCHO−)7.36(m,2H,Ph−)7.48(m,1H,Ph−)7.98(m,2H,Ph−)
13C−NMR 25.4(>C(CH)26.7(>C(CH)64.9(−OCHCH<)66.2(>CHCHCHO−)73.5(−OCHCHCHO−)109.5(−C<)128.1,129.4,132.8(C−)165.9(−COCH
ここで、IRはJASCO社製FT/IR−230、H−NMR及び13C−NMRは日本電子(株)製JNM-AL400を用いて、それぞれ測定を行った(以下、同様)。
【0044】
また、安息香酸メチルをリン酸カリウム触媒存在下、減圧でソルケタールと反応させるエステル交換法(以下の反応式)によっても、合成可能である。
【化3】

【0045】
[安息香酸ソルケタールエステルと酸無水物の重合反応]
実施例1〜22
ナスフラスコに安息香酸のソルケタールエステル5.0mmol、酸無水物5.0mmolおよび触媒0.25mmol(5.0mol%)を入れて、所定の温度で所定の時間反応を行なった。得られたポリマーの分子量(重量平均分子量、数平均分子量)の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィーGPC(標準物質ポリスチレン(Pts)、流動相溶媒THF流量1ml/min)を用いた。ここで、GPCの測定は、JASCO社製880PU(ポンプ)、875-UV、830-RI(検出器)、shodex社製KF804L+80M(カラム)を用いて行った。また、保護基の解離率は、アセトンの脱離をH−NMRスペクトルにおけるソルケタール基中のジメチル基のプロトン(δ1.31並びに1.38)の減少率から算出した。結果を表1に示す。表1中、100℃/6h+150℃/4hは、100℃で6時間撹拌後、150℃に昇温し、4時間反応させた。
【0046】
反応式は、以下のとおり。
【化4】

【表1】

【0047】
実施例1〜実施例11に示すように、得られたポリマーの重量平均分子量は、モノマーの平均分子量167に対して、いずれも上昇している。保護基であるアセトンが脱離した後の繰り返し単位の分子量は276であり、平均の繰り返し単位数すなわち重合度が1から3になっていることがわかる。また、100℃で6時間反応により、アセタール骨格がほぼ消失することがわかる。さらに、温度を2段階に分けて150℃に加熱した実施例12〜実施例22では、重合度が上昇していることが分かる。また、触媒として、パラトルエンスルホン酸を用いた実施例19では、重量平均の重合度が100、数平均でも4であることがわかる。
【0048】
[フタル酸ソルケタールエステルの合成方法]
【化5】

【0049】
フラスコに、フタル酸ジメチル500mg(2.57mmol)、ソルケタール850mg(6.43mmol)、触媒としてリン酸三カリウム163mg(0.77mmol、フタル酸ジメチルに対して30mol%)を入れ、100℃のオイルバスにつけ、アスピレーターで減圧(34mmHg)し、メタノールを除去しながら1時間反応を行った。得られたフタル酸ソルケタールエステルの収率をH−NMRにより求めた結果、91%であった。
【0050】
得られたフタル酸ソルケタールエステルのスペクトデータを以下に示す。
【0051】
スペクトルデータ:IR(cm−1,neat)2988、2937、2885、1732、1454、1265、1072
H−NMR(400MHz,δ,CDCl)1.31(s,6H,>C(CH)1.38(s,6H,>C(CH)3.80(dd,J=5.60and8.80Hz,2H,>CHCHCH−)4.09(dd,J=6.40and8.40Hz,2H,>CHCHCHO−)4.31(dd,J=4.80Hzand11.20Hz,2H,−OCHCH<)4.36(dd,J=4.80and11.20Hz,2H,−COCH−)4.41(m,2H,−OCHCHCHO−)7.53(m,2H,Ph−)7.72(m,2H,Ph−)
13C−NMR 25.4(>C(CH)26.8(>C(CH)65.8(−OCHCH<)66.4(>CHCHCHO−)73.3(−OCHCHCHO−)109.7(−C<)128.9,131.1,131.5(C−)165.9(−COCH
また、反応温度と触媒量を変えて検討した結果を表2に示す。尚、表2中の触媒量は、フタル酸ジメチルに対するリン酸三カリウムの量(mol%)を示す。
【表2】

【0052】
[フタル酸ソルケタールエステルとマレイン酸無水物の重合反応]
実施例23〜40
フタル酸ソルケタールエステル100mmol、表3に示す所定量のマレイン酸無水物、所定量のスチレン(実施例23〜31ではマレイン酸無水物に対して0mol%、実施例32〜40ではマレイン酸無水物に対して50mol%)、パラトルエンスルホン酸(PTSA)5mmolをフラスコに入れ、100℃で6時間撹拌後、150℃に昇温し4時間撹拌した。実施例23〜31の反応式は、以下のとおり。
【化6】

【0053】
得られた硬化物のガラス転移温度(Tg)並びに熱分解温度(Td)を評価した。また、参考までに、熱分解開始後10%減量したときの温度(Td10)を測定した。結果を表3に示す。
【0054】
ここで、Tgは、デュポン社製示差走査熱量計2000型DSCを用いて試料量10mgで測定し、ファーストスキャンを50〜250℃(昇温速度5 ℃/min)、センカンドスキャンを50℃〜200℃(昇温速度10 ℃/min)で行い、セカンドスキャン時に観察されたものを示した。Td、Td10は、マックサイエンス(株)製熱天秤TG/DTAにより行い、試料10mgを空気中で600℃(昇温速度5℃/min)まで昇温した。
【表3】

【0055】
表3中のTd10(℃)欄の−は未測定を示す。
【0056】
実施例23〜実施例31に示すように、フタル酸ソルケタールエステルとマレイン酸無水物の重合によって、Tgが100℃以上、Tdが255℃以上の硬化物が得られることが分かる。それらにスチレンを加えた実施例32〜実施例40では、Tgが150℃以上の硬化物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ケタールエステルと酸無水物とを反応させることを特徴とするポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項2】
環状ケタールエステルの原料として水酸基を有する環状ケタールを用いることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項3】
環状ケタールエステルと酸無水物とを酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項4】
水酸基を有する環状ケタールがソルケタールであることを特徴とする請求項2または請求項3記載のポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項5】
反応を180℃以下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項6】
反応を150℃以下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂の合成方法。
【請求項7】
環状ケタールエステルと酸無水物とを、酸触媒下に反応して得られたポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2006−83226(P2006−83226A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267151(P2004−267151)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】