説明

ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 厚肉成型品用又はダイレクトブロー成型用として好適な外観および耐衝撃性に優れたポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールを主たるグリコール成分とするポリエステルにおいて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。ポリエステルの極限粘度が0.5未満の段階でポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%投入し、重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法に関するものであり、特に成型品の外観および機械的特性が良好で、厚肉成型品用やダイレクトブロー成型品用に好適なポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PETと略す。)は、機械的特性、化学的安定性、透明性等に優れ、かつ、安価であり、各種のシート、フィルム、容器等として幅広く用いられており、特に炭酸飲料、果汁飲料、液体調味料、食用油、酒、ワイン用等の中空容器(ボトルと略す。)用途の伸びが著しい。
【0003】
PET製ボトルは、一般に、PETチップを射出成型又は押出成型によりプリフォームに成型し、続いてこのプリフォームを金型内で延伸ブロー成型する方法で製造されている。
【0004】
近年では、リサイクル可能という利点から、PETが広範囲に使われるようになってきており、化粧品や医薬品等の容器や文房具等にも用いられるようになっている。しかし、これらは上記のようなボトルとは異なり、厚肉であるため、PETでは成型時に白化が起こりやすく、透明な成型品が得られにくい。
【0005】
また、ポリ塩化ビニル製ボトルの代替の目的で、ダイレクトブロー成型によるPET製ボトルが注目されている。しかし、通常のPETは、ダイレクトブロー成型するには溶融粘度が低いため、成型時にドローダウンを起こしやすく、また、結晶性が高いため、成型時に白化し、透明性が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、これらの成型用ポリエステルには、種々の共重合成分を共重合したポリエステルを用いることが試みられている。中でも、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、CHDMと略記する)を共重合したポリエステルは、透明性や耐熱性、耐衝撃性が良好であることから、成型用途においては非常に望ましい樹脂である。しかし、一般にCHDM共重合ポリエステルは、溶融粘度が高く、成型時に金型との摩擦が大きいために、成型品の表面が波打つ、いわゆるビビリが発生しやすいという問題点がある。
【0007】
この解決策として、ポリアルキレンエーテル等の可塑効果のある添加剤をCHDM共重合ポリエステルに添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、これら添加剤の添加方法としては、スクリュー型押出機等を用いた溶融混練が一般的である。
【0008】
しかし、上記の添加剤を均一に分散させるためには、混練時の溶融粘度を低下させるために攪拌を高温で実施する必要があるが、基材のポリエステル樹脂および添加剤の熱分解が促進されるため、得られた成型品の機械的強度の低下や、色調悪化の原因となる。
【0009】
また、熱分解を抑制するために温度を下げて混練した場合には、添加剤の分散性が低下するため可塑効果が小さくなる。そこで十分な可塑効果を得るために添加剤の量を増やした場合には成型品の機械的特性に与える悪影響が問題となる。
【特許文献1】特表平11−511500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、色調、成型時の流動性および成型品の機械的特性が良好なポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールとCHDMを主たるグリコール成分とするポリエステルにおいて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(2)テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールとCHDMを主たるグリコール成分とするポリエステルを製造する方法において、ポリエステルの極限粘度が0.5未満の段階でポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%投入し、重合することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、色調、成型時の流動性および成型品の機械的特性が良好なポリエステル樹脂組成物およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明におけるポリエステル樹脂組成物について詳細に説明する。
【0014】
本発明におけるポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールとCHDMを主たるグリコール成分とするポリエステルである。
【0015】
グリコール成分中のCHDMは、全グリコール成分に対し、10〜90モル%含まれていることが好ましい。CHDMの共重合量が10モル%よりも少ないと、ポリエステルの結晶化速度が速くなり、成型時に白化して透明性が悪くなったり、また、十分な耐熱性や衝撃強度を持つポリエステルが得られないため好ましくない。また、90モル%を超えても、結晶性を有し、成型時に白化して透明性が悪くなるため好ましくない。
【0016】
ポリエステルには、その特性を損なわない範囲で、他の共重合成分を含有させることができる。共重合成分の具体例としては、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4'-ビフェニルジカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%含有する必要がある。含有量が0.25質量%未満では、成型時に金型口部と樹脂との離型性が乏しく、ビビリを抑制できない。また、含有量が5質量%を超えると、樹脂の色調悪化および成型品の強度低下が著しく、本発明の効果が失われる。
【0018】
添加するポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシプロピレンメチルエーテルスルホン酸カリウム、ポリオキシブチレンフェニルエーテル硫酸エステルリチウム等が挙げられる。
【0019】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の分子量は、300以上であることが好ましい。分子量が300未満の場合には、高温、減圧下で行われる重縮合反応中に揮発し、樹脂中の含有量が少なくなるため、成型流動性の改善効果が小さくなるため好ましくない。
【0020】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、極限粘度が0.6以上であることが好ましい。
【0021】
極限粘度が0.6未満のものでは、実用に供することのできる強度の中空容器とすることができない、あるいはダイレクトブロー成型を行う際にドローダウン等の問題が起こり、成型そのものができないため、好ましくない。極限粘度の上限は特にないが、好ましくは1.4以下である。極限粘度が1.4を超えると重合時間が長くなり、ポリエステル樹脂組成物の色調が悪化したり、熱分解物が生成しやすくなり、また、生産サイクルやコストの点でも好ましくない。
【0022】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造は、例えば次のようにして行うことができる。
【0024】
ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、PETオリゴマーと略す。)の存在するエステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールのスラリーを投入し、通常150〜290℃、好ましくは180〜260℃で、圧力0.01〜0.5MPaの条件で2〜4時間反応させ、エステル化反応率が90〜95%のエステル化反応物を得る。
【0025】
これを、重縮合反応缶へ移し、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルの全酸成分1モルに対し、1×10−5〜1×10−2モル添加し、その後、重縮合反応缶を0.01〜60hPa程度の圧力まで徐々に減圧して、温度240〜310℃、好ましくは260〜290℃で重縮合反応を行う。その重縮合反応途中で、一旦減圧解除したのち、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を、生成する樹脂組成物に対して塩の含有量が0.25〜5質量%となるように投入する。その後再び減圧し、0.01〜60hPa程度の圧力下、温度240〜310℃、好ましくは260〜290℃で重縮合反応を2〜5時間継続したのち、所定の粘度に到達したところで、ストランド状に払い出し、冷却カットすることによりペレット化する。
【0026】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の添加は、エステル化反応、またはエステル交換反応中でも良く、また、重縮合反応前または反応中のいずれでも良いが、重縮合反応におけるポリマーの極限粘度が0.5を越えない段階で投入するのが好ましい。極限粘度が0.5よりも高くなると、ポリオキシアルキレンアルキルアルキルエーテル硫酸エステル塩の分散性が劣り、成型流動性が低下するため好ましくない。
【0027】
なお、エステル化反応あるいは重合反応時に、必要に応じて、酸化防止剤等の添加剤を含有させることができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物を用いることにより外観および強度に優れた成型体が得られる理由は、次のように考えてられる。通常、成型体のビビリを抑制する目的で、可塑剤を基材樹脂と成型時に溶融混練するが、高粘度下での混練となるため、樹脂中に可塑剤を均一に分散させることが困難でとなり、可塑効果が現れにくい。また、一般的なポリエチレングリコールなどの可塑剤は、重合時に添加すると共重合されるため効果が現れにくい。しかし、本発明におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩は、溶融粘度が低い重合反応時に添加することが可能なため、樹脂中に均一に分散し易く、また、共重合されることなく樹脂中に存在するため、少量の添加でも大きなビビリ改善効果を得ることができる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0030】
なお、ポリエステルの特性値は次のようにして測定した。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(b)CHDM共重合量
ポリエステルを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合量を求めた。
(c)プレート色調
乾燥したポリエステルを押出温度240℃、金型温度20℃、冷却時間30秒の条件で、厚さ5mm×長さ10cm×幅6cmのプレートを射出成型し、色調を日本電色工業社製の色差計ND-Σ80型を用いて測定した。
【0031】
色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系(+は黄味、−は青味)を表す。ポリエステルの色調としてはL値が大きいほど、a値が0に近いほど、また極端に小さくならない限りb値が小さいほど良好である。ここでは、b値が4.0以下を色調良好で合格とした。
(d)中空容器の外観
乾燥したポリエステルを、シリンダー温度240℃で押出機からパリソンを押し出し、成形温度240℃、ブロー金型冷却温度15℃の条件でボトル形状にダイレクトブロー成形した。その外観を目視で観察し、次の2段階で評価した。
【0032】
○:良好(ビビリが認められない)
×:不良(ビビリが認められる)
(e)中空容器の耐衝撃性
得られた中空容器にイオン交換水1000mlを入れて、23℃、65%RHの条件で一日放置し、その後1mの高さからコンクリート面に落下させ、何回目で割れたかで示した。最高5回まで落下させた。
【0033】
○:5回落下させても破壊しない。
【0034】
△:2〜5回落下で破壊した。
【0035】
×:1回落下で破壊した。
【0036】
ここでは、○を耐衝撃性良好で合格とした。
実施例1
PETオリゴマーの存在するエステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間8時間としてエステル化反応率95%のポリエステルオリゴマーを連続的に得た。
【0037】
このポリエステルオリゴマー60kgと、CHDM15kgを重合反応器に仕込み、続いて、添加剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム水溶液(三洋化成工業社製 サンデットEN)を、得られるポリエステル樹脂組成物に対し塩としての含有量が3質量%となるように、触媒として二酸化ゲルマニウムを酸成分1モルに対してゲルマニウム元素の含有量が1.0×10−4モルとなるように、三酸化アンチモンを酸成分1モルに対してアンチモン元素の含有量が1.2×10−4モルとなるように、酢酸コバルトを酸成分1モルに対してコバルト元素の含有量が2.0×10−5モルとなるようにそれぞれ加え、反応器を減圧にして最終圧力0.9hPa、温度280℃で4時間重合反応を行い、CHDM共重合量30モル%のポリエステル樹脂組成物を得た。ポリエステル樹脂組成物の粘度は0.79であった。このポリエステル樹脂組成物を用い、射出成型によりプレート、ダイレクトブロー成型により中空容器を得た。プレートb値は1.8と良好であり、また中空容器にはビビリもなく、耐衝撃性も良好であった。
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムの添加量を表1のようにした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を製造し、射出成型によりプレート、ダイレクトブロー成型により中空容器を得た。
比較例3
PETオリゴマーの存在するエステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間8時間としてエステル化反応率95%のポリエステルオリゴマーを連続的に得た。
【0038】
このポリエステルオリゴマー60kgと、CHDM15kgを重合反応器に仕込み、続いて触媒として二酸化ゲルマニウムを酸成分1モルに対してゲルマニウム元素の含有量が1.0×10−4モルとなるように、三酸化アンチモンを酸成分1モルに対してアンチモン元素の含有量が1.2×10−4モルとなるように、酢酸コバルトを酸成分1モルに対してコバルト元素の含有量が2.0×10−5モルとなるようにそれぞれ加え、反応器を減圧にして最終圧力0.9hPa、温度280℃で4時間重合反応を行い、極限粘度0.81、CHDM共重合量30モル%のポリエステルを得た。得られたポリエステル樹脂に対し、一般的な可塑剤としてポリエチレングリコール(分子量1000)を、得られる樹脂組成物に対し5質量%の含有量となるように添加し、射出成型によりプレート、ダイレクトブロー成型により中空容器を得た。
比較例4
可塑剤の種類を、やはり一般的に用いられているポリテトラメチレングリコール(分子量1000)とした以外は、比較例3と同様にしてポリエステル樹脂組成物を製造し、射出成型によりプレート、ダイレクトブロー成型により中空容器を得た。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1〜4で得られたポリエステルと中空容器の評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜3のポリエステル樹脂組成物からは、色調が良好であり、ビビリが無く、耐衝撃性が良好な中空容器が得られた。これに対して、比較例1〜4では、次のような問題があった。
【0041】
比較例1では添加剤の含有量が少なかったため、成型流動性が乏しく、成型品にビビリが生じた。比較 例2では添加剤の含有量が過剰であったため、プレートの色調が悪化し、耐衝撃性も低下した。
【0042】
比較例3、4では、可塑剤として一般的なポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを含有した樹脂組成物から成型体を作製したが、ビビリを改善することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールを主たるグリコール成分とするポリエステルにおいて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールを主たるグリコール成分とするポリエステルを製造する方法において、ポリエステルの極限粘度が0.5未満の段階でポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を0.25〜5質量%投入し、重合することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−63216(P2006−63216A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248414(P2004−248414)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】