説明

ポリエステル樹脂組成物

【課題】結晶性に優れ、成形材料として成形性に優れるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、オキソ酸の金属塩(B)0.1〜5質量部と、数平均分子量が600以上5000以下であり、かつ、両末端が封止されているポリアルキレングリコール(C)1〜15質量部を含有するポリエステル樹脂組成物。また、ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートであるポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性に優れ、成形性や生産性に優れるポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的特性、化学的安定性、透明性等に優れ、かつ、安価であり、各種のシート、フィルム、容器等として幅広く用いられている。しかしながら、一般にポリエステル樹脂は、結晶化速度が遅いため、成形サイクルが長く、成形材料としての利用は限られていた。
【0003】
ポリエステル樹脂の結晶化速度を向上させる方法として、各種化合物を添加して結晶化を促進する方法が開示されている。特許文献1では、モノヒドロキシポリアルキレンオキサイド化合物を添加する方法、特許文献2では、スルホンアミド化合物の金属塩と末端封止したポリアルキレングリコールを添加する方法、特許文献3では、オルガノポリシロキサンと脂肪族ポリエステルとエポキシ化合物とオキソ酸の金属塩を添加する方法が開示されている。しかしながら、このような方法で得られたポリエステル樹脂組成物でも、成形用途における要求性能、コストパフォーマンスおよび汎用性を満足することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−38321号公報
【特許文献2】国際公開第2008/038465号パンフレット
【特許文献3】国際公開第97/19126号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、結晶性に優れ、成形品に加工することが容易であり、各種の耐熱用途にも好適に使用することができるポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために検討した結果、オキソ酸の金属塩とポリアルキレングリコールを併用することによって、格段に結晶化速度が向上することを見出し、本発明に到達した。本発明の要旨は以下のとおりである。すなわち、
(1)ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、オキソ酸の金属塩(B)0.1〜5質量部と、数平均分子量が600以上5000以下であり、かつ、両末端が封止されているポリアルキレングリコール(C)1〜15質量部を含有するポリエステル樹脂組成物。
(2)ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートである該ポリエステル樹脂組成物。
(3)オキソ酸の金属塩(B)が、炭素数10〜40の有機カルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩である(1)または(2)記載のポリエステル樹脂組成物。
(4)DSC測定による等温結晶化ハーフタイムがホールド温度90〜130℃において2分以内である該ポリエステル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オキソ酸の金属塩やポリアルキレングリコールを単独で添加したポリエステル樹脂組成物に比べて、極めて結晶化速度が早く、成形サイクルが短く、成形材料として成形性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)に、オキソ酸の金属塩(B)およびポリアルキレングリコール(C)を含有させたものである。
【0009】
ポリエステル樹脂(A)としては、公知の熱可塑性ポリエステルが挙げられ、特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートに他の酸成分および/またはグリコール成分(例えばイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタール酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ダイマー酸のような酸成分、ヘキサメチレングリコール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加体、ネオペンチルグリコールのようなグリコール成分)を共重合したポリエステル樹脂、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリプロピロラクトン、芳香族ポリエステル/ポリエーテルブロック共重合体、芳香族ポリエステル/ポリラクトンブロック共重合体、ポリアリレートが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリ乳酸が好ましく、樹脂特性およびコストパフォーマンスの観点からポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0010】
本発明においては、ポリエステル樹脂(A)に、オキソ酸の金属塩(B)を配合する。オキソ酸の金属塩としては、炭素数10〜40の有機カルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる塩であることが好ましい。例えば、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、カリウムジベンゾエート、リチウムベンゾエート、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸/ブチレングリコールエステルカルシウム塩、モンタン酸/ブチレングリコールエステルナトリウム塩が挙げられる。中でも、ポリエステルの結晶性を向上する効果が高いことからモンタン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0011】
オキソ酸の金属塩(B)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜5質量部とすることが必要であり、0.2〜0.8質量部が好ましく、0.3〜0.6質量部がより好ましい。(B)の含有量が0.1質量部未満では結晶化促進効果に劣り、(B)の含有量が5質量部を超えるとオキソ酸の金属塩(B)の凝集による異物が発生したり、樹脂が着色したりするので好ましくない。
【0012】
オキソ酸の金属塩は、ポリエステル樹脂に配合された際に、ブリードアウトしにくいため効果的に結晶化を促進し、また、成形時の金型への付着も抑制され金型汚れが軽減する。
【0013】
本発明においては、オキソ酸の金属塩と共にポリアルキレングリコール(C)を配合する。ポリアルキレングリコールとしては、コストパフォーマンスと汎用性の観点からポリエチレングリコールが最も好ましい。
【0014】
ポリアルキレングリコール(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、1〜15質量部とすることが必要であり、3〜7質量部が好ましい。(C)の含有量が1質量部未満では結晶化を促進させる効果が低く、(C)の含有量が15質量部を超えると樹脂濃度を希釈することになり結晶性を低下させるので好ましくない。ポリアルキレングリコールを適当量配合することでポリエステル樹脂組成物のガラス転移点を低下させ、成形における一般的な金型温度である90〜130℃の範囲の結晶化を促進させることができる。
【0015】
ポリアルキレンエーテルグリコール(C)の分子量は600〜5000とすることが必要で、1000〜3000が好ましい。(C)の分子量が600未満の場合、結晶化を促進させる効果が低く、(C)の分子量が5000を超えると、樹脂中で相分離を生じるため好ましくない。配合するポリアルキレングリコールの分子量を適当な範囲にすることで、樹脂中で相分離が生じず、しかも、十分に可塑化効果を得ることができる。
【0016】
本発明のポリアルキレングリコール(C)は、両末端に封止基を有することが必要である。封止基の種類は限定されないが、例えば、アルキル基、アシル基、シリル基等が挙げられる。両末端に封止基がない場合、ポリアルキレングリコール(C)の末端基が極性基であり、分子間力によって高分子鎖の運動を拘束すると考えられるため好ましくない。両末端に封止基を有したポリアルキレングリコールを配合することで、極性基が保護され、分子間力が小さくなり、分子鎖のレプテーション運動が容易になると推察され、より結晶化速度が向上する。
【0017】
オキソ酸の金属塩とポリアルキレングリコールを併用することで、理由は定かではないが、それぞれ単独で使用しているときよりも、各成分の効果が相乗的に高められるため、格段に結晶化速度が向上する。
【0018】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の等温結晶化ハーフタイムは、ホールド温度90〜130℃において2分以内であることが好ましい。この値が2分以内であると、成形において結晶化が十分に進み、成形サイクルタイムが短くなるので好ましい。
【0019】
また、昇温結晶化温度は、125℃以下であることが好ましく、120℃以下がより好ましい。昇温結晶化温度が125℃以下であれば、一般的な金型温度において成型時間を短縮することができる。
【0020】
等温結晶化ハーフタイムおよび昇温結晶化温度は、オキソ酸の金属塩とポリアルキレングリコールの種類と配合量を調整することで、上記範囲とすることができる。
【0021】
次に本発明の製造方法について説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)にオキソ酸の金属塩(B)およびポリアルキレングリコール(C)を混合して製造する。混合する方法は特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂(A)の重合時にオキソ酸の金属塩(B)とポリアルキレングリコール(C)を添加する方法、あるいは、単軸あるいは二軸押出機等を用いて(A)〜(C)の各原料を溶融混練する方法等が挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂(A)の重合時にオキソ酸の金属塩(B)およびポリアルキレングリコール(C)を添加する方法が、均一に分散でき、ポリエステルの極限粘度を容易に所望の値にすることができるので好ましい。
【0022】
ポリエスエル樹脂(A)の重合段階時に添加する方法としては、例えば、エステル化反応工程と重縮合反応工程からなる公知の重合方法において、オキソ酸の金属塩(B)とポリアルキレングリコール(C)を添加する以下のような方法が挙げられる。
【0023】
エステル化反応工程では、(A)の原料のみ、または、(A)〜(C)の各原料を、不活性雰囲気下、加熱溶融して反応させる。(A)の原料のみで加熱溶融した場合には、重縮合反応前に、オキソ酸の金属塩(B)およびポリアルキレングリコール(C)を添加する。なお、オキソ酸の金属塩(B)およびポリアルキレングリコール(C)は、粉体の状態で添加しても、また、(A)の原料であるグリコールに分散させてスラリー状態で添加してもよい。
【0024】
重縮合反応工程では、触媒添加後、減圧下、エステル化反応で得られたエステル化物から、過剰のグリコールを留去させ、所望の極限粘度に達するまで重縮合反応を進める。得られたポリエステル樹脂は、ストランド状に払い出し、カットすることによりチップ化する。反応温度は220〜280℃が好ましく、減圧度は、0.01〜10hPaが好ましい。
【0025】
重縮合反応の際には、触媒として、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o−スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物から適宜選択して使用することができる。
【0026】
なお、本発明の効果を損なわない範囲内で、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤等の各種添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、1種類で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種物性値測定は以下の方法によりおこなった。
(1)数平均分子量
ポリアルキレングリコールをクロロホルムとヘキサフルオロイソプロピルアルコールとの等質量混合物に溶解し、Waters社製ゲルパーミエイションクロマトグラフィー600E型にて、数平均分子量を求めた。
(2)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で測定した。
【0028】
(3)昇温結晶化温度 パーキンエルマー社製示差走査熱量計Diamond DSCを用い、窒素気流中、昇温(降温)速度20℃/分の条件で測定をおこない、1stスキャンにおいての発熱ピークの頂点温度を昇温結晶化温度とした。
(4)等温結晶化ハーフタイム
樹脂を280℃で5分間保持して溶融した後、ドライアイス/エタノール中で約−90℃に急冷した。その後、パーキンエルマー社製示差走査熱量計Diamond DSCを用い、320℃/分で昇温後、110℃に保持し、110℃に達してから結晶化ピークが発現するまでの時間を等温結晶化ハーフタイムとした。
(5)凝集物の有無
ペレットの外観で判断し、凝集物がなければ「○」、凝集物があれば「×」とした。
【0029】
実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)モンタン酸ナトリウムのスラリー:
モンタン酸ナトリウム(クラリアント・ジャパン社製LicomontNaV101)0.38gをエチレングリコール7.22gに分散した固形分5質量%のスラリー溶液
(2)重縮合触媒のスラリー:
三酸化アンチモン0.03gをエチレングリコール1.47gに分散した固形分2質量%スラリー状溶液
【0030】
実施例1
エステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコール(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化物(テレフタル酸:エチレングリコール=100:113(モル比))を得た。
【0031】
得られた前記エステル化物100.5gとエチレングリコール25.1gを添加し、常圧、窒素雰囲気下、260℃にて1時間攪拌した。その後、モンタン酸ナトリウムのスラリーを7.6g、ジメトキシポリエチレングリコール(竹本油脂社製、数平均分子量1000)を6.7g、重縮合触媒のスラリーを1.5g(テレフタル酸1モルあたり2×10−4モル)を重縮合試験管に添加し、280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に0.4hPaとし、重縮合反応を3時間おこない樹脂組成物を得た。仕込組成から計算される樹脂組成物の組成は、ポリエチレンテレフタレート、モンタン酸ナトリウム、ジメトキシポリエチレングリコールが、それぞれ96.1g(100質量部)、0.38g(0.4質量部)、6.7g(7.0質量部)である。
【0032】
実施例2〜7、比較例1〜10
樹脂組成物中のオキソ酸の金属塩とアルキレングリコールの種類と含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
【0033】
実施例1〜7、比較例1〜10で得られた樹脂組成物の特性値を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、実施例1〜7のポリエステル樹脂組成物は、等温結晶化ハーフタイムが全て2.0分以下で、高い結晶性を有しており、成形用途に使用できるものであった。
【0036】
比較例1の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールを含有していなかったため、昇温結晶化温度が高く結晶性に劣るものであった。
比較例2〜4の樹脂組成物は、オキソ酸の金属塩を使用していなかったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例5の樹脂組成物は、オキソ酸の金属塩およびポリアルキレングリコールを含有していなかったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例6の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの数平均分子量が低かったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例7の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの数平均分子量が高かったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例8の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの末端が封止されていなかったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例9の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの含有量が多かったため、等温結晶化ハーフタイムが長くなり、結晶性に劣るものであった。
比較例10の樹脂組成物は、オキソ酸の金属塩が多かったため、凝集物が発生し、成形用途に使用できないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、オキソ酸の金属塩(B)0.1〜5質量部と、数平均分子量が600以上5000以下であり、かつ、両末端が封止されているポリアルキレングリコール(C)1〜15質量部を含有するポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートである請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
オキソ酸の金属塩(B)が、炭素数10〜40の有機カルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩である請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
DSC測定による等温結晶化ハーフタイムがホールド温度90〜130℃において2分以内である請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。












【公開番号】特開2011−195669(P2011−195669A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62657(P2010−62657)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】