説明

ポリエステル樹脂

【課題】 透明性、耐熱性、耐光性などに優れ、かつ、屈折率が高く、固有複屈折および吸水率が小さい光学部品製造用材料として好適な、ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】 ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸成分(A)の85モル%以上が脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、ジオール成分(B)が、特定のトリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格を有するジオールを含むもの、であることを特徴とするポリエステル樹脂を要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に関する。さらに詳しくは、透明性、耐熱性、耐光性などに優れ、かつ、屈折率が高く、固有複屈折および吸水率が小さい光学部品製造用材料として好適な、トリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格を有するポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品製造用材料に現在使用されている代表的な樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル樹脂などが挙げられる。PMMAは、優れた透明性と耐光性を有し、固有複屈折が小さく成形性にも優れていることから、各種光学レンズ、位相差フィルムのような各種光学フィルム、光ファイバー、光ディスク基板などの製造用に使用されている。しかし、PMMAは吸水性が高く変形しやすいことと、耐熱性が悪いという欠点を有する。ポリカーボネート(PC)も、透明性、耐熱性、耐衝撃性、低吸水などが優れているので、重要な光学部品製造用の原料樹脂である。しかしながら、PCは固有複屈折が大きく、光ディスクのような反射光を使う光学材料としては必ずしも適当ではない。
【0003】
一方、特殊なポリエステル樹脂として、主として芳香族ジカルボン酸成分およびそのエステル形成性誘導体をジオール成文とし、トリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格を有する化合物をジオール成分としたポリエステル樹脂が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、このポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分が主として芳香族ジカルボン酸であるため、耐熱性に優れているが固有複屈折が大きく、光学部品製造用としては不適当であり、光学用途としての有用性については言及されていない。また、光学部品製造用のポリエステル樹脂としては、特許文献3に記載のポリエステル樹脂が提案されている。特許文献3に記載のポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはそのハロゲン化物と、トリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格構造を有するジオール成分とを反応させて得られるポリエステル樹脂である。しかしながらこのポリエステル樹脂は、そのジカルボン酸成分は芳香族ジカルボン酸が主であるため、ポリエステル樹脂は耐熱性に優れており吸水性も低く優れているが、固有複屈折が大きく光学部品製造用材料としては不満足である。
【特許文献1】特開昭58−174419号公報
【特許文献2】特開2003−119259号公報
【特許文献3】特開昭63−260490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記状況に鑑み、従来の諸欠点を解消した技術を提供することを目的として鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の目的は、透明性、耐熱性、耐光性に優れ、かつ、屈折率が高く、固有複屈折および吸水率が小さく、光学部品製造用材料として好適な、ポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、上記課題を達成するために、ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸成分(A)の85モル%以上が、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、ジオール成分(B)が、一般式(I)で表されるトリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格を有するジオールを含むものである、ことを特徴とするポリエステル樹脂を提供する。
【0006】
【化1】

{一般式(I)において、nは1または2、R、Rは炭素数1〜4のヒドロキシアルキレン基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るポリエステル樹脂は、以下詳細に説明するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係るポリエステル樹脂は、透明性、耐熱性、耐光性に優れている。
2.本発明に係るポリエステル樹脂は、屈折率が高く、固有複屈折および吸水率が小さく、光学部品製造用材料として好適である。
3.本発明に係るポリエステル樹脂は、成形性に優れているので光学部品製造用材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件(実施態様)の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの記載内容に限定されるものではない。本発明に係るポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(A)の85モル%以上が、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a1)と、上記一般式(I)によって表されるトリシクロデカン、または、ペンタシクロペンタデカン骨格を有するジオール成分とを、エステル化反応またはエステル交換反応を経て、重縮合反させて得られるものである。ジカルボン酸成分(A)は、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a1)を15モル%未満の範囲で他のジカルボン酸(a2)で置換することができ、ジオール成分(B)は、上記一般式(I)によって表されないジオール成分(b2)と併用することができる。
【0009】
<脂肪族ジカルボン酸成分(A)>
本発明におけるジカルボン酸成分(A)は、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a1)を含み、具体的には、1,2− 、1,3− 、1,4− シクロヘキサンジカルボン酸(以後、シクロヘキサンジカルボン酸を「CHDA」と記載することがある。 )、1,4− 、1,5− 、2,6− 、2,7− デカヒドロナフタレンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸類、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸などの脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。これらはそれぞれ単独でも、必要に応じて2種以上を併用することもできる。これらジカルボン酸成分(A)の中では、得られるポリエステル樹脂の耐熱性、工業的入手の容易性などの観点から、1,4−CHDAが得に好ましい。1,4−CHDA酸、または、そのエステル形成性誘導体は、通常は、トランス体とシス体との混合物として得られる。1,4−CHDA酸、または、そのエステル形成性誘導体のトランス体/シス体との比率は、得られるポリエステル樹脂の耐熱性の観点から、好ましい範囲は80/20〜100/0であり、より好ましいのは85/15〜100/0、特に好ましいのは90/10〜100/0である。
【0010】
全ジカルボン酸成分(A)に対する上記脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a1)の量は、耐熱性の観点から85モル%以上が好ましく、中でもより好ましいのは90モル%以上である。脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a1)と置換できる他のジカルボン酸成分(a2)としては、芳香族ジカルボン酸類が挙げられる。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸類は、全ジカルボン酸(A)に対して15モル%以下とする。15モル%を超えると、得られるポリエステル樹脂の固有複屈折が大きくなり、好ましくない。
【0011】
<ジオール成分>
本発明において、前記一般式(I)で表されるジオール成分(B)の具体例としは、例えば、トリシクロデカンジメタノール(以後、「TCDDM」と記載することがある。)、 トリシクロデカンジエタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール(以後、「PCPDDM」と記載することがある。)、ペンタシクロペンタデカンジエタノールなどが挙げられる。これらは単独でも、2種以上を併用することができる。中でも、得られるポリエステルの固有複屈折が低いこと、エステル化反応またはエステル交換反応の容易性などの観点から、PCPDDMが好ましい。ジオール成分(B)は、前記一般式(I)で表される化合物が、全ジオール成分量(B)に対して5モル%以上とするのが好ましい。前記一般式(I)で表されるジオール成分が5モル%未満では、得られるポリエステル樹脂の耐熱性が低く、固有複屈折が大きく、本発明の目的が達成されないので好ましくない。全ジオール成分量(B)に対して占める前記一般式(I)で表されるジオール成分の割合は、より好ましくは10モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。
【0012】
前記一般式(I)で表されないジオール成分(b2)であって、前記一般式(I)で表されるジオール成分(b1)と併用できるものとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどのジオール類や、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以後、「1,4−CHDM」と記載することがある。)、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、アダマンタンジメタノール、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの脂環族ジオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、パラキシリレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール類、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン系化合物類が挙げられ、これらはそれぞれ単独でも、必要に応じて2種以上を併用することもできる。中でも、1,4−CHDM、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、得られるポリエステル樹脂は耐熱性が高く、固有複屈折が小さくなるので好ましい。
【0013】
本発明に係るポリエステル樹脂製造用成分には、上記カルボン酸成分(A)(a1、a2)、上記ジオール成分(B)(b1、b2)のほかに、本発明の効果を損なわない程度少量の共重合成分(c)を加えることができる。加えることができる共重合成分(c)としては、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、アルコキシカルボン酸、および、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分などが挙げられる。
【0014】
<ポリエステルの製造>
本発明に係るポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(A)、ジオール成分(B)、および、要すれば共重合体成分(c)を共存させ、エステル化反応またはエステル交換反応させ、引き続いて重縮合反応を遂行することにより製造することができる。エステル化反応またはエステル交換反応は、ジカルボン酸成分(A)、ジオール成分(B)、および、要すれば共重合体成分(c)を共存させ、攪拌機および留出管を備えたエステル化反応槽に仕込み、触媒を加え、不活性ガス雰囲気下、常圧または減圧下で攪拌しつつ、反応により生じた水分などの副生成物を反応系から留去しながら、反応を遂行させることにより行う。使用する原料の比率、すなわち、ジカルボン酸成分(A)の合計モル(a’)に対するジオール成分(B)の合計モル(b’)のモル比{(a’)/(b’)の比率}は、通常1.0〜2.0とするのが好ましい。
【0015】
エステル化反応またはエステル交換反応、引き続いての重縮合反応において十分な反応速度を得るためには、触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、エステル化反応またはエステル交換反応に使用される触媒であれば特に限定されず、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物などが挙げられる。また必要に応じて、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属の化合物類を添加することもできる。
【0016】
チタン化合物は、エステル化反応またはエステル交換反応、続いて行われる重縮合反応の両反応において活性が高いので、好ましい。チタン化合物の具体例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、これらの有機チタネートの加水分解物、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、酸化チタン、チタニア/シリカ複合酸化物などが挙げられる。ゲルマニウム化合物は、色調の良好なポリエステル樹脂が得やすいので、好ましい。ゲルマニウム化合物の具体例としては、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウムなどの無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、およびテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムおよびそのアルコール溶液、水溶液が好ましい。触媒は、2種類以上を併用してもよく、また、必要に応じ、上記触媒にさらに、マグネシウム化合物やリン化合物などを組合せて使用することもできる。
【0017】
触媒の使用量は、生成するポリエステ樹脂に対し、通常、5ppm〜2000ppmの範囲で選ばれる。中でも好ましいのは、10ppm〜1000ppmである。エステル化反応またはエステル交換反応の触媒は、そのまま重縮合反応触媒としても使用することもできる。反応温度は、触媒の種類、その使用量などによるが、通常、150℃〜300℃の範囲で選ばれ、好ましくは180℃〜250℃の範囲である。反応時間は、触媒の種類、その使用量、反応温度などによるが、通常、10分〜10時間の範囲とされで選ばれ、好ましくは30分〜5時間の範囲である。エステル化反応またはエステル交換反応終了時の反応率は、90%〜100%である。ここで、反応率とは、反応系に仕込んだ全カルボン酸成分に対する、反応によりエステル化反応またはエステル交換されたカルボン酸成分の比を百分率で表す。
【0018】
重縮合反応は、エステル化反応またはエステル交換反応終了後の反応液を、攪拌機、留出管、温度計、圧力計および減圧付加装置などを備えた重縮合槽に移送し、これに必要に応じ、触媒を加え、重縮合槽内を徐々に減圧にしながら反応を進行させることにより行う。十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、重縮合反応使に使用される触媒であれば特に限定されず、上記のエステル化反応またはエステル交換反応において使用可能なものとして例示した触媒を、そのまま重縮合反応触媒として使用することができる。また、好ましい触媒についても上記したものと同じである。重縮合反応で新たに触媒を使用する場合、その使用量は、生成するポリエステル樹脂に対し、通常5ppm〜2000ppmの範囲で選ばれ、好ましくは10ppm〜1000ppmの範囲とされる。
【0019】
重縮合反応は、反応槽内を徐々に減圧にしながら遂行する。反応槽内の圧力は、大気圧雰囲気下から最終的には1KPa以下に調節し、特に反応終期の圧力を0.5KPa以下とするのが好ましい。反応温度は、触媒の種類、その使用量などによるが、上記のエステル化反応またはエステル交換反応終了時の温度〜300℃の範囲、好ましくは、反応終了時の温度〜275℃の範囲で選ぶものとする。反応時間は、触媒の種類、その使用量、反応温度などによるが、通常、10分〜10時間の範囲内で選ばれ、好ましくは30分〜5時間とされる。なお、エステル化反応槽に減圧付加装置を備えた一つの槽内で、エステル化反応またはエステル交換反応と、重縮合反応を行うことができる。さらに、これらエステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応などは、回分方式、連続方式のいずれの方式でも遂行できる。
【0020】
重縮合反応終了後は、反応槽から反応生成物を取り出すと、目的とするポリエステル樹脂が得られる。通常は、反応槽底部からポリエステル樹脂をストランド状にして抜き出し、ストランドを水冷しながら切断し、外観がペレット状のポリエステル樹脂とする。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は、通常、0.4〜1.5dl/gの範囲とされる。固有粘度が0.4dl/g未満の場合は、これを原料として溶融成形してフィルムなどの成形品とすると、その機械的強度が十分でなく、1.5dl/gより大きい場合は、溶融時の流動性が低下し成形性に劣り成形品にし難くなるので、いずれも好ましくない。固有粘度の好ましい範囲は、0.5〜1.4dl/gである。なお、こうして得られた外観がペレット状のポリエステル樹脂は、さらに必要に応じ、固相重合に付してもよい。固相重合は、公知の方法により行うことができる。得られたポリエステル樹脂のYellowness Indeex(YI値)は、通常、−10 〜30の範囲が好ましく、YI値が30 以上であると黄味が強く、この樹脂を用いて成形品を製造したときの成形品も黄味が強くなり、好ましくない。YI値のより好ましい範囲は、−5〜18の範囲である。
【0021】
得られたポリエステル樹脂の固有複屈折は、好ましくは0.08以下である。固有複屈折が0.08以上であると、光学用部品中を光が透過する際、振動面の向きにより通過速度の差が大きくなるため、通過後の像が2重になり、光学材料として不適当である。固有複屈折は、0.06以下がより好ましい。また、得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は70℃〜180℃の範囲である。ガラス転移温度(Tg)が70℃未満であると、これを原料とするフィルムなどの光学用部品の耐熱性が劣り、180℃超えるとフィルムに延伸するとき延伸むらが起きやすく、いずれも好ましくない。ガラス転移温度(Tg)のより好ましい範囲は、100〜160℃である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。なお、以下の例で使用して原料樹脂の特性値は、次に記載の方法により測定した。
【0023】
(1)固有粘度(dl/g):ポリエステル樹脂試料0.5g
を、フェノール/ テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として、110℃の温度で、30分間で溶解させ、濃度(c)が1.0g/dlの溶液を調製した。この溶液を、30℃ の温度で、ウベローデ型粘度計を使用して、溶媒のみ(c=0)に対する相対粘度(η r e l )を測定した。この相対粘度(η r e l )−1を比粘度(η r e l )とし、濃度(c)との比(η r e l /c)を算出した。同様にして濃度(c) を0.5g/dl 、0.2g/dl 、0.1g/dlとして、それぞれの比(ηs p /c)を算出し、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの(ηs p /c)を固有粘度(dl/g)とした。
【0024】
(2)ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量計(セイコーインスチルメンツ社製、型式:DSC220)を使用し、窒素気流下、室温から、速度20℃/minで300℃
まで昇温し、その後、室温まで速度20℃ /minで冷却し、再び、室温から速度20℃/minで300℃ まで昇温した時の再昇温過程において、最初にベースラインが階段状に変化する箇所における最大傾斜を示す温度を、ガラス転移点(Tg)とした。
【0025】
(3)YI値(Yellowness Index):JIS K7103に準拠し、得られたポリエステル樹脂のペレット状試料を、内径36mm 、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルにすりきり充填し、光電色彩計(日本電色工業社製、型式:ZE−2000)を使用して、反射法により三刺激値X、Y、Zを測定し、YI(黄色度)は次式、すなわち、YI=100(1.28X−1.06Z)/Y、によって計算でした。なお、三刺激値の測定は、測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値である。
【0026】
(4)固有複屈折:He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と、振動型粘弾性測定装置とを組合せた装置(レオロジー社製、型式:DVE−3)を使用して測定した{測定方法の詳細は、日本レオロジー学会誌、Vol.19,p93〜97(1991)参照}。
温度80℃で5時間真空乾燥したポリエステル樹脂の試料4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmの枠を使用して、熱プレス機によって熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20Paの条件で1分間加圧した後、熱プレス機から枠ごと取り出し、水管冷却式プレスによって圧力20Paで3分間加圧冷却し、シートを作製した。得られたシートから幅5mm、長さ20mmに試料を切り出し、粘弾性測定装置(レオロジー社製、型式:DVE−3)に固定し、複素弾性率E*を測定した。同時に、照射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で検知し、ロックインアンプを通して、角周波数ωまたは2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O*を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
【0027】
次いで、限られた測定周波数のデータ(1〜130Hz)から広い周波数のデータへ換算するために、時間温度換算則に準拠して、周波数に対するE*およびO*のマスターカーブを描いた。ここで、複素弾性率E*および複素ひずみ光学係数O*は、次式、すなわち、E*(ω)=E’(ω)+iE”(ω)、O*(ω)=O’(ω)+iO”(ω)、によって表すことができるので、これより、周波数に対するE’、E”およびO’、O”のマスターカーブを描いた。修正応力光学則(MSOR)に準拠すると、応力-光学係数CRは、次式、すなわち、CR=O’(ω=0)/E’(ω=0)、で算出し、固有複屈折Δn0は、次式、すなわち、Δn0=5・CR*E’R(ω=∞)/3、により算出できる{詳細は、高分子論文集、Vol.53,p602〜613(1996)参照}。
【0028】
[実施例1]
攪拌機、留出管、温度計、圧力計、および、減圧装置を装備した容量450mlの反応器に、1,4−CHDA75.86g(0.4406mol)、1,4−CHDM32.77g(0.2272mol)、ペンタシクロペンタデカンジメチロール(PCPDDM)57.80g(0.2203mol)、および、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.178g(得られるポリエステル樹脂に対してチタンとして10重量ppm)とを仕込んだ。反応器空間を窒素ガスで置換したあと、窒素ガス気流下、油浴中で150℃ まで加熱し、反応器内温を30分かけて180℃ まで昇温し、その後2時間にわたって180℃ に保持した。このあと、内温を60分かけて220℃に昇温し、この温度でエステル化反応を行った。続いて、反応物を90分かけて220℃ から250℃ に昇温させながら徐々に反応器内を減圧にし、重縮合反応を行った。さらに、反応器内圧力を0.1Kpa、反応温度を250℃ に保ち、所定の粘度(0.5N/50rpm)になるまで反応を継続した。反応後反応器内を窒素ガスで複圧し、得られたポリエステル樹脂を、反応器底部からストランド状にして水中に抜き出し、ペレット状にした。表−1に、エステル化反応の際のカルボン酸成分、ジオール成分の種類、仕込みモル数、触媒の種類、その量、重縮合反応時間などを記載した。なお、表−1における重縮合時間は、減圧開始から反応終了までの時間とした。反応終了は、反応槽内の圧力が常圧になった時点とした。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、ガラス転移温度(Tg)、色調(YI値)、固有複屈折などを、前記した方法で測定し、その結果を表−2に示した。
【0029】
[実施例2]
実施例1に記載の例において、1,4−CHDAの量を88.33gに、1,4−CHDMの量を67.80gに、PCPDDMの量を13.46gに、それぞれ変更したほかは、同例におけると同様の手順で、エステル化反応、重縮合反応行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0030】
[実施例3]
実施例1に記載の例おいて、1,4−CHDAの量を65.46gに、1,4−CHDMの量を3.57gに、PCPDDMの量を94.77gに、それぞれ変更したほかは、同例におけると同様の手順で、エステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0031】
[実施例4]
実施例1に記載の例において、1,4−CHDAの量を64.48gに、1,4−CHDMの量を0gに、PCPDDMの量を99.74gに、それぞれ変更したほかは、同例におけると同様の手順で、エステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0032】
[実施例5]
実施例1に記載の例において、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.178gの代わりに、二酸化ゲルマニウム1重量%水溶液を10.8gと変更し、かつ、この触媒液をエステル化反応終了後に添加するように変更したほかは、同例におけると同様の手順で、エステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0033】
[実施例6]
実施例1に記載の例において、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液の量を、0.89g(得られるポリエステル樹脂に対してチタンとして50重量ppm)に変更したほかは、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0034】
[実施例7]
実施例6に記載の例において、1,4−CHDA量75.86gの10モル%を、テレフタル酸(7.30g)で置換したほかは(1,4−CHDAの仕込み量は68.28gとなる)、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0035】
[実施例8]
実施例6に記載の例において、PCPDDMをTCDDM51.08gに代えたほかは、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0036】
[比較例1]
実施例6に記載の例において、1,4−CHDAの量を92.12gに、1,4−CHDMの量を79.07gに、PCPDDMの量を0にそれぞれ変更したほかは、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0037】
[比較例2]
実施例7に記載の例において、1,4−CHDA量75.86gの30モル%を、テレフタル酸(21.96g)で置換したほかは(1,4−CHDA量の仕込み量は53.10gとなる)、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0038】
[比較例3]
実施例7に記載の例において、1,4CHDA量を0とし、全量テレフタル酸量を73.19g(全ジカルボン酸の100モル%)に変更したほかは、同例におけると同様の手順でエステル化反応、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂を、同例におけると同様の手順でペレット化し、同様の手順で各種特性を測定し、その結果を表−2に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
[注]表−1における略号は、次の意味である。
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(トランス/シス:95/5)
TPA :テレフタル酸
PCPDDM:ペンタシクロペンタデカンジメタノール
TCDDM:トリシクロデカンジメタノール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
TBT :テトラブチルチタネート
Ge :二酸化ゲルマニウム
*脂肪族カルボン酸のモル%は、全ジカルボン酸成分(A)に対するモル%を意味する。
*一般式(I)のジオールのモル%は、全ジオール成分(B)に対するモル%を意味する。
*触媒の量(ppm)は、得られるポリエステル樹脂中のチタンとしての重量(ppm)を意味する。ただし、Geはポリエステル樹脂中のゲルマニウムとしての重量(ppm)を意味する。
【0041】
【表2】

【0042】
表−1および表−2より、次のことが明らかとなる。
1.ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)の双方が、ともに請求項1で規定する要件を満たす実施例のポリエステル樹脂は、耐熱性が高く、固有複屈折率が小さく、光学部品製造用材料として優れている(実施例1〜実施例8参照)。
2.他方、ジカルボン酸成分(A)は請求項1の要件を満たすが、一般式(I)で表されるジオール成分(B)を含まないポリエステル樹脂は耐熱性が劣り、実用性に問題がある(比較例1参照)。
3.ジオール成分(B)は請求項1の要件を満たすが、ジカルボン酸成分(A)が請求項1で規定する要件を満たさないものは、実施例のものより固有複屈折率が大きく、光学部品製造用材料としては使用できない(比較例2、比較例3参照)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るポリエステル樹脂は、透明性、耐熱性、耐光性などに優れ、かつ、屈折率が高く、固有複屈折および吸水率が小さく、各種光学レンズ、位相差フィルムのような各種光学フィルム、光ファイバー、光ディスク基板などの光学部品製造用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸成分(A)の85モル%以上が、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、ジオール成分(B)が、一般式(I)で表されるトリシクロデカンまたはペンタシクロペンタデカン骨格を有するジオールを含むものである、ことを特徴とするポリエステル樹脂。
【化1】

{一般式(I)式において、nは1または2、R、Rは炭素数1〜4のヒドロキシアルキレン基であり、同一でも異なっていてもよい。}
【請求項2】
ジオール成分(B)が、主としてペンタシクロペンタデカン骨格を有するジオールである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
脂肪族ジカルボン酸が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である、請求項1または請求項2に記載のポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2007−238856(P2007−238856A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65819(P2006−65819)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】