説明

ポリエステル系樹脂発泡体およびその製造方法

【課題】 幅広い圧縮特性を有し、特に発泡倍率を高めずとも低圧縮特性を有するポリエステル系樹脂発泡体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 10%圧縮応力が0.03〜0.15MPaであるポリエステル系樹脂発泡体を用いて、フラワーアレンジメント用台座などを作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅広い圧縮特性を有し、特に発泡倍率を高めずとも低圧縮特性を有するポリエステル系樹脂発泡体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートなどの線状の芳香族ポリエステル系樹脂は、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などにすぐれているため、射出成形品、ブロー成形品、フィルム、繊維などの広範囲な用途に用いられている。しかしながら、該線状の芳香族ポリエステル系樹脂を用いて発泡成形を行なうには、その溶融時の粘弾性が不充分であるため、良好な発泡体をうることがきわめて困難であるという欠点がある。こうした欠点を改良する方法として、線状の芳香族ポリエステル系樹脂を押出発泡成形する際に、1分子中に2個以上の酸無水物基を有する化合物を該樹脂に混合する方法(特許文献1)や、同様の酸無水物基を有する化合物と特定の金属化合物とを組み合わせて該樹脂に混合する方法(特許文献2)が提案されている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性ポリエステル系樹脂と酸無水物基を有する化合物とを溶融混合してえられる樹脂組成物の物性は系内の含有水分量の影響を受けやすく、発泡体製造を安定的に行なうための溶融粘度の安定性が不充分であり、安定した状態で発泡体を製造することができないという問題があることがわかった。また、高発泡倍率のポリエステル系樹脂発泡体は得にくい為、高強度タイプの低発泡品しか得られない状況である。その為、低強度から高強度までの幅広い強度、特に低強度を有する発泡体の開発が望まれる。
【特許文献1】特公平5−15736号公報
【特許文献2】特公平5−47575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、幅広い圧縮特性を有し、特に発泡倍率を高めずとも低圧縮特性を有するポリエステル系樹脂発泡体およびその製造方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル系樹脂発泡体を、特定の温湿度条件下で湿熱処理することで低圧縮応力を有する、優れた緩衝性能を示すポリエステル系樹脂発泡体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、10%圧縮応力が0.03〜0.15MPaであるポリエステル系樹脂発泡体に関する。好ましい実施態様は、発泡倍率が10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を加水分解処理して脆化させてなる上記記載のポリエステル系樹脂発泡体に関する。より好ましくは、加水分解処理して脆化させた後、さらに加圧処理して独立気泡を脆性破壊させてなる上記記載のポリエステル系樹脂発泡体に関する。本発明の第二は、発泡倍率が10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を加水分解処理して脆化させることを特徴とするポリエステル系樹脂発泡体の製造方法に関する。好ましい実施態様は、加水分解処理して脆化させた後、さらに加圧処理して独立気泡を脆性破壊させることを特徴とする上記記載のポリエステル系樹脂発泡体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、幅広い圧縮特性を有し、特に発泡倍率を高めずとも低圧縮特性を有するポリエステル系樹脂発泡体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をより具体的に説明する。本発明のポリエステル系樹脂発泡体は、10%圧縮応力が0.03〜0.15MPaであり、発泡倍率が10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を加水分解処理して脆化させることで得られる。
【0009】
本発明のポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレートを代表とする芳香族ポリエステルや脂肪族ポリエステルなどのポリエステルを主成分とし、本発明の効果を阻害しない範囲において、他の樹脂を含有する樹脂が挙げられる。即ち前記ポリエステルの含有量は、ポリエステル系樹脂全体中、好ましくは50重量%以上含まれ、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含まれる。
【0010】
前記芳香族ポリエステルとしては、テレフタル酸などのカルボン酸とエチレングリコールなどのアルコールとを重縮合して得られる。前記カルボン酸の具体例としては、テレフタル酸のほかに、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸などが挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。前記アルコールの具体例としては、エチレングリコールのほかに、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、トリシクロデカンジメチロール、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、4,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホンなどがあげられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。加工のしやすさからポリエチレンフタレートが好ましい。
【0011】
前記脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸樹脂、ヒドロキシカルボン酸重縮合物、ポリカプロラクトン等のラクトンの開環重合物、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族カルボン酸との重縮合物が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種用いることができる。この中でも樹脂価格が安価で経済的である点や発泡しやすいといった点でポリ乳酸樹脂が好ましく用いられる。
【0012】
前記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、少なくとも1種を用いることができる。また、前記脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられ、少なくとも1種を用いることができる。また、前記脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0013】
前記ポリエステル系樹脂中には、例えば、黒、灰色、茶色、青色、緑色等の着色顔料又は染料を添加してもよい。着色した基材樹脂を用いれば着色された発泡体を得ることができる。着色剤としては、有機系、無機系の顔料、染料などが挙げられる。このような顔料及び染料としては、従来公知のものを用いることができる。着色顔料又は染料の添加量は着色の色によっても異なるが、通常、ポリエステル系樹脂100重量部に対して0.001重量部〜5重量部が好ましく、0.02重量部〜3重量部がより好ましい。
【0014】
前記ポリエステル系樹脂中には、本発明の効果を損なわない程度であれば、その他、本発明の効果を阻害しない限り、難燃剤、帯電防止剤、耐候剤などの従来公知の添加剤を添加しても良い。またさらには、気泡調整剤として、例えばタルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、ほう酸亜鉛、水酸化アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等の無機物を予め添加することができる。
【0015】
ポリエステル系樹脂に着色顔料、染料又は無機物等の添加剤を添加する場合は、添加剤をそのまま基材樹脂に練り込むこともできるが、通常は分散性等を考慮して添加剤のマスターバッチを作り、それと基材樹脂とを混練することが好ましい。
【0016】
本発明の発泡体の10%圧縮応力は、0.03〜0.15MPaが好ましい。0.03MPaより小さいと、発泡体が型崩れし易いため適用できる用途が限られる。一方0.15MPaより大きいと、低圧縮応力の効果が低い為好ましくない。なお10%圧縮応力の測定は、JIS K7220に準拠し、発泡体のある位置で、圧縮をかける方向に10%縮んだときの応力を測定すればよい。
【0017】
また本発明のポリエステル系樹脂発泡体の発泡倍率は10〜60倍が好ましく、より好ましくは10〜40倍、さらに好ましくは10〜30倍である。上記範囲では発泡倍率が低倍率ほど本発明の効果を大きく得られる。また独立気泡率は0〜50%が好ましい。発泡倍率や独立気泡率が上記範囲にあると、発泡体の10%圧縮応力を前記の好ましい値に調整しやすい。
【0018】
本発明のポリエステル系樹脂発泡体の製造方法を以下に例示する。
【0019】
まず、発泡方法に関しては公知の発泡方法であれば特に限定は無く、目的とする発泡体物性が得られれば良いが、生産性の点からは、押出機で樹脂を溶融させながら発泡剤を圧入し、押出機先端から一気に圧力を開放して発泡させる押出発泡法が好ましい。発泡倍率は、前記のように好ましくは10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を得られるよう押出し条件を調整する。得られるポリエステル系樹脂発泡体を、恒温高湿機中で60〜100℃、80〜100RH%で3〜24時間湿熱処理をし、必要に応じてさらに0.1〜20MPaのガス加圧を行い、所望の10%圧縮応力を有するポリエステル系樹脂発泡体を得ることができる。
【0020】
前記発泡剤としては、特に限定はなく従来公知のものが使用でき、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソヘキサン、ノルマルヘキサン、シクロブタン、シクロヘキサン、イソペンタン、ノルマルペンタン、シクロペンタン等の炭化水素系発泡剤や、塩化メチル、塩化メチレン、ジクロロジフルオロメタン等のハロゲン化炭化水素系発泡剤、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル系発泡剤、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等の無機系発泡剤が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。それらの内、ポリ乳酸系樹脂に対するガス散逸が少なく、発泡性粒子輸送が可能であり、所望の発泡性が得られる点から、炭素数3−6の炭化水素系発泡剤が好ましい。また、エーテル類や炭化水素類は爆発性があるため、防爆の設備が必要で汎用性に欠ける為、汎用性を考慮した場合には二酸化炭素などの無機系発泡剤が好ましい。発泡剤の含浸量としては、発泡剤の種類や所望の発泡倍率により調整すれば良いが、例えば、発泡倍率20倍以上の押出発泡体を得る場合には、基材樹脂100重量部に対して4重量部〜40重量部が好ましい。4重量部未満だと所望の高発泡倍率が得られない場合があり、40重量部より多くなると押出時の溶融粘度が低くなりすぎて、発泡体を得るのが困難となる場合がある。
【0021】
本発明のポリエステル系樹脂発泡体は、フラワーアレンジメント用台座などに用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0023】
PET:ポリエチレンテレフタレート(数平均分子量17000、比重1.37g/cm3
【0024】
<発泡体の発泡倍率の測定方法>
23℃のエタノールの入ったメスシリンダーを用意し、該メスシリンダーに相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて、適当な大きさに切り出した発泡体を、金網などを使用して沈めた時のエタノール液面上昇分より、発泡体の容積V(cm3)を読みとった。発泡体の発泡倍率は、発泡体の重量W(g)、発泡体の容積V(cm3)及び樹脂密度ρ(g/cm3)から次式で算出した。
発泡倍率=V/(W/ρ)
【0025】
<10%圧縮応力の測定方法>
JIS K7220に準拠し、実施例・比較例で得られた発泡体のある位置で、圧縮をかける方向に10%縮んだときの応力を測定した。サンプルは縦×横×厚みが50mm×50mm×25mmのものを使用し、圧縮応力測定装置としては、ミネベア社製引張圧縮試験機TG−20kNを用い、圧縮速度10mm/分にて測定した。また、同条件にて処理された発泡体を用いて、右に90°回転した位置で同様の測定を行った。
【0026】
(製造例1) 押出発泡体の作製
数平均分子量が17000、固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(A1)のペレット100重量部に対してピロメリット酸(A2)0.4部、トリフェニルホスファイト0.1重量部の割合で混合した組成物をシリンダー径30mmの二軸押出機(L/D:24)にて260〜275℃、スクリュー回転数70rpmにて押出混練してポリエステル系樹脂(A)(数平均分子量13000、固有粘度0.51dl/g)のペレットを作成した。
【0027】
シリンダー後半部に発泡剤注入口を有し、スクリュー構成要素として該注入口の上流部にニーディングディスク部(パドル)を配したシリンダー径45mmの同方向回転噛み合い型二軸押出機を1段目押出機とし、シリンダー径50mmの単軸押出機を2段目押出機として搬送管で連結した、口径50mmの円環状口金が取付けられたタンデム型押出機に、前記ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対して1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン(B)1.24重量部、タルク0.25重量部の割合で混合した組成物を振動式定量フィーダーより16kg/hrの割合で供給し、発泡剤注入口より発泡剤として液化ブタンガスを溶融物100重量部に対して2.2重量部の割合で注入し、以下の条件でノズルから大気圧中に押出して発泡倍率20倍の押出発泡体を16kg/hrの割合で得た。押出温度に関しては、以下の通り実施した。
1段目押出機シリンダー温度:265〜290℃
搬送管温度 :280〜285℃
2段目押出機シリンダー温度:270〜280℃
2段目押出機ヘッド温度 :270〜280℃
2段目押出機口金温度 :270〜280℃
【0028】
(実施例1) 湿熱処理品の作製
製造例1で得られた押出発泡体を機内温度:100℃、相対湿度:95%条件下の恒温恒湿機中で湿熱処理し、さらに窒素加圧0.5MPaにてポリエチレンテレフタレート押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の10%圧縮応力値は0.05MPaを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%圧縮応力が0.03〜0.15MPaであるポリエステル系樹脂発泡体。
【請求項2】
発泡倍率が10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を加水分解処理して脆化させてなる請求項1に記載のポリエステル系樹脂発泡体。
【請求項3】
加水分解処理して脆化させた後、さらに加圧処理して独立気泡を脆性破壊させてなる請求項2に記載のポリエステル系樹脂発泡体。
【請求項4】
発泡倍率が10〜60倍のポリエステル系樹脂発泡体を加水分解処理して脆化させることを特徴とするポリエステル系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
加水分解処理して脆化させた後、さらに加圧処理して独立気泡を脆性破壊させることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル系樹脂発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2010−65125(P2010−65125A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232400(P2008−232400)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】