説明

ポリエステル系難燃糸

【課題】ハロゲンを用いることなく、難燃性に優れたポリエステル系難燃糸を提供する。
【解決手段】芯部にリン含有ポリエステルと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含み、リン含有ポリエステルのリン濃度が0.9質量%から2.0質量%、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.01質量%から2.0質量%の範囲で含まれる芯鞘複合ポリエステル系繊維において、芯鞘複合繊維の鞘部の径Rと芯部の径rの比R/r が、1.45以上であるポリエステル系難燃糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンを用いることなく、難燃性に優れたポリエステル系難燃糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からリン化合物を共重合したポリエステルを製糸することにより、難燃性能を有するポリエステル繊維が得られることが公知の技術として知られている。しかしながら、ポリエステル鎖中のリン酸エステルは耐熱が低く、繊維を製造するにあたり、押出機中で熱分解が起こり、歩留の低下するといった問題があるだけでなく、原糸の耐光堅牢度が低くなるなどの問題があった。
【0003】
特許文献1及び特許文献2では、繊維中にリン化合物を含有するポリエステルを繊維化して難燃性ポリエステル繊維を得る方法が記載されているが、リン化合物が添加されている難燃繊維は、耐光堅牢度に乏しいという欠点があった。
【0004】
このような問題があるため、リン化合物を含むポリエステル難燃繊維では、はやくから芯鞘複合により、芯部にリン化合物を添加する技術が開発されてきた。特許文献3〜5では、芯鞘複合構造として、芯成分にリン化合物を添加してなるポリエステル繊維を開示している。しかしながら、このような方法では、繊維そのものが十分な難燃性能を得ることができる量のリンを含有させた場合、リン化合物を添加する芯成分のリン濃度が極端に高濃度になるため、耐熱性が極端に低くなり、芯成分が押出機中で過度に熱分解を起こすために、芯成分の分配斑や、紡糸中にドラフト切れを起こすなどの問題があった。
【特許文献1】特開2001−164423号
【特許文献2】特開2003−129339号
【特許文献3】特開昭62−6910号
【特許文献4】特開平07−102418号
【特許文献5】特開2006−169687号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ハロゲンを用いないで十分な難燃性能を有するポリエステル繊維を得ることであり、さらに溶融紡糸工程において、糸切れを起こしにくく、工程通過性の良好なポリエステル系難燃繊維を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、芯部にリン含有ポリエステルと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含み、リン含有ポリエステルのリン濃度が0.9質量%から2.0質量%、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.01質量%から2.0質量%の範囲で含まれる芯鞘複合ポリエステル系繊維において、芯鞘複合繊維の鞘部の径Rと芯部の径rの比R/r が、1.45以上であるポリエステル系難燃糸にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、難燃性能が高いポリエステル系難燃糸を、製糸安定性に富む条件で歩留よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0009】
本発明のポリエステル系難燃糸は、芯鞘複合繊維であることが必要である。リン酸エステルが高濃度に共重合されているリン含有ポリエステルが繊維表面に露出している場合、染色工程などで前記リン含有ポリエステル成分が未変性ポリエステルよりも大きく加水分解されてしまうために、極端な強伸度特性の低下などを起こすために好ましくない。このため、リン含有ポリエステルは芯鞘複合糸の芯部に含まれ、表面に露出しない芯鞘複合繊維であることが必要である。
【0010】
本発明のポリエステル系難燃糸では、芯部にリン含有ポリエステルが含まれることが必要である。リン成分は一般的に燃焼段階で不燃層を形成し、延焼を抑制する効果があると言われている。ハロゲンを含まない難燃繊維を得るためにリンを添加することが必要である。
【0011】
本発明におけるリン含有ポリエステルとは、リン化合物が共重合されたポリエステルであり、式1や式2の構造を含むポリエステルである。前記ポリエステルは主鎖或いは側鎖にリン化合物が重合されたポリマーであり、リン酸エステル系難燃剤とは異なる。リン含有ポリエステルのポリエステル鎖の化学構造については特に限定されず、市販の商品名;ファイヤータード(三洋化成工業株製)等が使用される。本発明のリン含有ポリエステルとは、前記リン含有ポリエステル単独のものと、リン含有ポリエステルを他のポリエステルと溶融混練して希釈したリン含有ポリエステルとポリエステルの混合物を含む。
【化1】

【化2】

【0012】
(上記式中のR1は及びR2はそれぞれ炭化水素基であり、R3はエステル形成性官能基を有する炭化水素基を表す。R4、R7はそれぞれ炭化水素基を表し、R5は炭化水素基であり、R6は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
本発明のポリエステル系難燃糸では、芯部ポリマーのリン濃度が0.9質量%から2.0質量%であることが必要である。1.2〜1.8質量%であることがさらに好ましい。リン濃度が、0.9質量%未満では、複合繊維として十分な難燃性能が得られないために好ましくない。2.0質量%を超えると、溶融紡糸工程においては、リン含有ポリエステルが熱分解し、急激に粘度が低下する影響が大きく、製糸安定性を損なうために好ましくない。
【0013】
本発明のポリエステル系難燃糸では、芯部にヒンダードフェノール系酸化防止剤が含まれることが必要である。リン酸エステルが共重合された前記リン含有ポリエステルは、耐熱性が著しく低下しているために、リン濃度が0.8質量%以上の場合、溶融紡糸工程でポリエステルを紡糸するために必要な温度を付与しようとすると、著しい熱分解が発生するため、ポリマー粘度が大きく低下し、製糸安定性が悪化する。
【0014】
本発明のポリエステル系難燃糸では、芯部にヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.01質量%から2.0質量%の範囲で含まれていることが必要である。濃度が0.01質量%未満では、熱分解の抑制効果が十分に得られない。また、2.0質量%を超えると、添加量に比例して熱分解抑制効果が得られないために、経済的に好ましくない。さらに、繊維表面にブリードアウトする量が増え、NOxガスなどと反応して黄変するなどの問題があるために好ましくない。熱分解の抑制効果と、経済性を考慮すると、0.1質量%から0.8質量%の範囲であることがより好ましい。
【0015】
本発明の芯鞘複合繊維を製糸するにあたり、鞘部と芯部の割合は、鞘部の径Rと芯部の径rの比R/r が、1.45以上となることが必要である。R/r が1.45未満であると、リン含有ポリエステルが繊維中に占める割合が大きく、紡糸工程での熱分解による影響を大きく受けるために、製糸安定性を維持することが難しくなる。さらに、鞘部にカチオン可染性のポリエステルを使用して、カチオン染料により染色をする場合、染着される部位が鞘部だけとなるため、特に鞘部が薄くなると濃色に染色が難しくなる傾向が顕著に現れる。製糸安定性、および、染色の安定性を考慮すると、R/r が1.58〜2.23であることがより好ましい。
【0016】
R/rが1.45以上で大きくなればなるほど、リン含有ポリエステルの割合が少なくなるために、熱分解の影響を受けやすいポリマーの量が減ることになるが、芯部割合が低下するに従って、難燃性能を得るために芯部に添加されるリン濃度が増加する。難燃性能を得るために繊維に添加されていなければならないリン量は、芯鞘複合の芯部に添加されている場合も、繊維全体に添加されている場合においても同じ量が必要であり、従って芯部のみにリンが添加される場合においては、芯部分のリン添加濃度を高くする必要がある。
【0017】
本発明に用いるリン含有ポリエステルに添加されるヒンダードフェノール系酸化防止剤は、分子中に水酸基を3個以上持つ化合物であることが必要である。水酸基が3個未満であると、溶融紡糸工程でのリン含有ポリエステルの粘度低下が著しく大きく、十分な製糸安定性を得ることができない。
【0018】
なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子に含まれる水酸基としては、2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル基)(以下ヒンダードフェノール基と標記する)であることが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子構造中にヒンダードフェノール基を2個或いは1個のみ有する化合物では、ヒドロキシラジカルをトラップする酸化防止効果は、構造中にヒンダードフェノール基を3個以上有する化合物と比較して差があるかどうかについては定かではないが、リン含有ポリエステルに添加された場合、ヒンダードフェノール基が構造中に2個或いは1個のみを有する化合物では、溶融紡糸工程でのリン含有ポリエステルの粘度低下が非常に大きいために、十分な製糸安定性を得ることができない。しかしながら、ヒンダードフェノール基を3個又は4個を構造中に有する化合物を添加した場合、溶融紡糸工程での粘度低下が小さいために、十分な製糸安定性を確保できる。ヒンダードフェノール基が3個以上構造中にある場合には、酸化防止効果の他に、押出機或いは紡糸ノズル内等の溶融紡糸工程のポリマーライン中で、エステル交換反応により架橋構造を形成して、併せてリン含有ポリエステルの粘度低下を抑制できるために、製糸安定性を得ることができると推定される。
【0019】
本発明の芯鞘複合ポリエステル系難燃糸に使用される芯部に添加されるリン含有ポリエステルのリン濃度が0.9質量%から2.0質量%の間にあるときは、そのままリン含有ポリエステルを使用することが出来るが、添加するリン含有ポリエステルのリン濃度が2.0質量%より大きい場合には、予めリン含有ポリエステルを他のポリエステルで希釈して溶融混練したものを使用することが必要となる。前記の希釈に用いるポリエステルは未変性ポリエステルであることが好ましく、ポリブチレンテレフタレートであることがより好ましい。融点の高いポリエチレンテレフタレートの場合、希釈のための溶融混練の段階で溶融粘度の低下が大きくなり、溶融紡糸工程でも押出機中での溶融粘度の低下がポリブチレンテレフタレートに比較して大きくなる。ブチレンテレフタレート或いはエチレンテレフタレートを主体とした共重合ポリマーを使用する場合も、溶融紡糸工程の押出機中での耐熱性が低くなり、溶融紡糸工程で芯成分の溶融粘度の低下が大きいために製糸安定性を得ることが難しくなる。
【0020】
本発明の芯鞘複合ポリエステル系難燃糸の鞘成分に用いるポリエステルは、ジカルボン酸類又はそのエステル形成誘導体とジオール又はそのエステル形成誘導体を原料として重縮合反応によって製造できる線状飽和ポリエステルであり、融点が250℃以下であるポリエチレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。前記ポリエチレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、共重合成分としてアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、p―オキシエトキシ安息香酸等のジカルボン酸類またはそのエステル形成誘導体成分、およびテトラメチレングリコール、ヘキサンメチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコール、p―キシレングリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール等のジオール又はそのエステル形成誘導体成分を含んでいてもよい。これらの共重合成分は互いに1種ずつ用いても良いし、2種以上用いることもできる。
【0021】
また、鞘部に使用するポリエステルには、ポリエステルが実質上線状である範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩等の多価カルボン酸成分、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウム等の多価ヒドロキシ化合物を少量共重合させても良い。
【0022】
更に抗酸化剤、艶消剤、染顔料、難燃剤等通常用いられる添加剤を添加することも可能である。
【0023】
本発明のポリエステル系難燃糸を得るために、以下のような一般的な溶融紡糸工程及び延伸工程が採用される。溶融紡糸工程では、まず紡糸口金から溶融押出した前記ポリマーを任意の紡糸油剤を付与した後、巻き取ることにより未延伸糸を得る。溶融押出温度は、製糸安定性が得られる範囲で出来るかぎり低い温度が好ましい。溶融温度が280℃より高くなった場合、芯部のリン含有ポリエステルの熱分解が進み、溶融粘度が低下するために、製糸安定性を確保することが難しくなるために好ましくない。溶融紡糸温度は250から270℃の範囲に設定されることが、リン含有ポリエステルの耐熱性の点から好ましく、そのためには鞘部に使用されるポリエステルの融点は、250℃以下であることが好ましい。未延伸糸は紡糸されてから連続で延伸を行っても良く、一旦巻取った後、独立して延伸を行っても良い。延伸工程は1段或いは2段以上の多段であっても良く、接触或いは非接触型の熱源を用いても何ら問題ない。延伸倍率についても溶融紡糸されたフィラメントの破断伸度の範囲で任意に設定することが可能である。
【0024】
前記操作により得られたフィラメントの繊度及びフィラメント数に関しては用途に応じて任意に設定されても何ら問題は無い。フィラメントの断面形状は円形または楕円、三角或いは四角等の多角形であってもよく、トリローバル等の多葉形状であっても良い。繊維は中実であっても中空形状であってもよい。芯鞘複合繊維の鞘部の径Rと芯部の径rの比R/r が、1.45以上となっていればよく、異形断面の場合は、その外接円の径の比が1.45以上となっていれば良い。
【0025】
なお、本発明のポリエステル系難燃糸の各種評価は、下記の通りに行った。
【0026】
(難燃性評価方法)
難燃糸の筒編地を作成し、試料1gをJIS L1091 D法(接炎試験)により、接炎回数をもとめ、難燃性能を測定した。測定にはスガ試験機株式会社製 45°燃焼性試験機 FL−45型を使用した。接炎回数は5回測定の各接炎回数を示した。同時に溶融して落下するドリップ成分の燃焼についても観察し、ドリップ成分の燃焼が観察されたものは有、観察されないものは無と示した。
【0027】
難燃性能の評価は、接炎試験5回のうち、1度も2回という結果が出ず、すべて3以上であり、合計回数が17以上で、かつドリップ成分の燃焼が観察されないものを合格とした。
【0028】
(リン含有ポリエステル組成物、ポリエステル組成物の固有粘度[η]の測定方法)
ポリマーをフェノールとテトラクロロエタンの1:1の混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計により25℃において測定した。
【0029】
(製糸安定性評価方法)
実施例及び比較例に示した製糸条件で溶融紡糸を行い、1時間連続で観察した。一度も糸切れが発生しない場合を○○、糸切れが1〜3回確認された場合を○、糸切れが4〜6回確認された場合を△、糸切れが7回以上確認された場合を×とした。
【実施例】
【0030】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0031】
(実施例1〜3、比較例1)
芯ポリマーは、リン含有ポリエステル組成物(三洋化成工業株式会社製、製品名:ファイヤータード B−5(以下B−5と標記)、固有粘度[η]0.458、リン含有率:6質量%)26.7質量%、ヒンダードフェノール基を4個有するヒンダードフェノール系加工安定剤(チバスペシャルティーケミカルズ株式会社製、製品名:IRGANOX 1010(以下1010と標記))0.3質量%及びポリブチレンテレフタレート(長春製、製品名:1100−211MB(以下PBTと標記))73.0質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して240℃で溶融混練を行い、リン含有量が1.60質量%であるリン含有ポリエステル含むブレンドポリマーを作成した。(以下MB−Aと標記)
鞘ポリマーは、ジメチルテレフタレート(以下DMTと称す)を全酸成分に対して92.75mol%、5−ナトリウムスルホキシジメチルイソフタレート(以下DMSと標記する)を全酸成分に足して2.25mol%、エチレングリコール全酸成分に対して75重量%をエステル交換釜に仕込み、酢酸マグネシウムを全酸成分に対して900ppmを添加して、150〜230℃にてエステル交換反応を行った。引き続き、得られた反応生成物を重合釜に供給し、ビス(2−ヒドロキシエチル)アジペート(以下ADEと標記する)/エチレングリコール=2/1の溶液をADEが全酸成分に対して5.0mol%となるように添加し、さらにトリメチルフォスフェイトを全酸成分に対して0.06重量%、三酸化アンチモン及び艶消剤として酸化チタンを、生成ポリエステルに対して0.04重量%及び0.5重量%となるよう各々エチレングリコール溶液または分散液として加え、反応温度280℃で重縮合反応を行った。得られたポリエステルポリマー(以下PesAと標記)を使用した。 PesAの融点を測定したところ、242.0℃となった。
【0032】
直径30mmの一軸押出機を2基有する芯鞘複合型溶融紡糸機の芯成分側押出機に、MB−AとPBTを、表1の実施例1〜3及び表2の比較例1に記載のリン濃度となるようにチップブレンドして芯側押出機に投入した。押出機の設定温度は240℃とした。同時に鞘成分側押出機に、PesAを投入し、265℃の温度で押出した。
【0033】
紡糸ノズル温度を265℃とし、ホール直径が0.4mm、ホール数24である紡糸ノズルより芯部と鞘部の吐出量の体積比を30:70として、合計吐出量35.3g/minでポリマーを吐出し、紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取速度1600m/minで巻取って、未延伸糸を得た。
【0034】
前記未延伸糸をローラー温度80℃、熱板温度130℃で最終延伸速度400m/minにて、2.6倍に延伸を行い、繊度80dtex/24フィラメント(以下 fと標記)の芯鞘複合ポリエステル難燃繊維を得た。
【0035】
(実施例4)
DMTを全酸成分に対して91.7mol%、ジメチルイソフタレートを全酸成分に足して8.3mol%、エチレングリコール全酸成分に対して75重量%をエステル交換釜に仕込み、酢酸マグネシウムを全酸成分に対して900ppmを添加して、150〜230℃にてエステル交換反応を行った。引き続き、得られた反応生成物を重合釜に供給し、トリメチルフォスフェイトを全酸成分に対して0.06重量%、三酸化アンチモン及び艶消剤として酸化チタンを、生成ポリエステルに対して0.04重量%及び0.5重量%となるよう各々エチレングリコール溶液または分散液として加え、反応温度280℃で重縮合反応を行い、ポリエステルポリマー(以下PesBと標記)を得た。 PesBの融点を測定したところ、237.0℃となった。
【0036】
芯ポリマーは、ポリブチレンテレフタレートをPesBに変更した以外は、実施例1〜3と全く同じ方法により、ブレンドポリマー(以下MB−Bと標記)を作成した。
【0037】
鞘ポリマーは、PesBを使用した。
【0038】
芯及び鞘部ポリマーをそれぞれMB−B、PesBに変更した以外は、実施例1〜3と同様の方法により製糸を行い、芯鞘複合ポリエステル難燃繊維を得た。
【0039】
(比較例2)
芯ポリマーは、ヒンダードフェノール系加工安定剤を用いないで、B−5 26.7質量%、PBT 73.3質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して240℃で溶融混練を行い、リン含有量が1.60質量%であるリン含有ポリエステル含むブレンドポリマー(以下MB−Cと標記)を作成した。
【0040】
鞘ポリマーは、PesAを使用した。
【0041】
芯ポリマーをMB−Cに変更した以外は、実施例3と同様の方法により紡糸を行ったが、MB−Cの粘度が押出機中で大幅に低下していることが観察され、糸切れが頻繁に起こりサンプルを得ることが出来なかった。
【0042】
(比較例3)
芯ポリマーは、B−5 35.0質量%、1010 1.0質量%及びPBT 64.0質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して240℃で溶融混練し、リン含有量が2.10質量%であるリン含有ポリエステル含むブレンドポリマー(以下MB−Dと標記)を作成した。
【0043】
鞘ポリマーは、PesAを使用した。
【0044】
芯ポリマーにMB−Dに変更した以外は、実施例3と同様の方法により紡糸を行ったが、MB−Dの粘度が押出機中で大幅に低下し、製糸できなかった。
【0045】
(比較例4)
芯ポリマーは、B−5 26.7質量%、ヒンダードフェノール基が化合物中に1個だけであるヒンダードフェノール系加工安定剤(チバスペシャルティーケミカルズ株式会社製、製品名:IRGANOX 1222(以下1222と標記))、 0.3質量%及びPBT 73.0質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して240℃で溶融混練し、リン含有量が1.60質量%であるリン含有ポリエステル含むブレンドポリマー(以下MB−Eと標記)を作成した。
【0046】
鞘ポリマーはPesAを使用し、芯ポリマーにMB−Eに変更した以外は、実施例3と同様の方法により紡糸を行ったが、MB−Dの粘度が押出機中で大幅に低下し、製糸できなかった。
【0047】
(比較例5,6)
芯ポリマーは、B−5 12.0質量%、1010 0.3質量%及びPBT 87.7質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して240℃で溶融混練を行い、リン含有量が0.72質量%であるリン含有ポリエステル含むブレンドポリマー(以下MB−Fと標記)を作成した。
【0048】
鞘ポリマーは、PesAを使用した。
【0049】
直径30mmの一軸押出機を2基有する芯鞘複合型溶融紡糸機の芯成分側押出機に、MB−Fを投入した。押出機の設定温度は240℃とした。同時に鞘成分側押出機に、PesAを投入し、265℃の温度で押出した。
【0050】
紡糸ノズル温度を265℃とし、ホール直径が0.4mm、ホール数24である紡糸ノズルより芯部と鞘部の吐出量の体積比を比較例5では50:50、比較例6では60:40として、合計吐出量35.3g/minでポリマーを吐出し、の紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取速度1600m/minで巻取って、未延伸糸を得た。
【0051】
実施例1〜3と同様の方法により延撚を行い、芯鞘複合ポリエステル難燃繊維を得た。
【0052】
比較例5では紡糸中の糸切れが起こり製糸安定性に乏しかった。得られた芯鞘複合難燃繊維の接炎試験を行ったところ、接炎回数はすべて3以上で合計も17となったが、ドリップへの着炎が観察され、難燃性能が十分でないことがわかった。また、比較例6では、紡糸中に糸切れが発生し、製糸することが困難となった。
【0053】
(比較例7)
芯ポリマーは、MB−Aを使用した。
【0054】
鞘ポリマーは、DMTを全酸成分に対して97.75mol%、DMSを全酸成分に足して2.25mol%、エチレングリコール全酸成分に対して75重量%をエステル交換釜に仕込み、酢酸マグネシウムを全酸成分に対して900ppmを添加して、150〜230℃にてエステル交換反応を行った。引き続き、得られた反応生成物を重合釜に供給し、トリメチルフォスフェイトを全酸成分に対して0.06重量%、三酸化アンチモン及び艶消剤として酸化チタンを、生成ポリエステルに対して0.04重量%及び0.5重量%となるよう各々エチレングリコール溶液または分散液として加え、反応温度280℃で重縮合反応を行い、得られたポリエステルポリマー(以下PesCと標記)を使用した。 PesCの融点を測定したところ、250.0℃となった。
【0055】
直径30mmの一軸押出機を2基有する芯鞘複合型溶融紡糸機の芯成分側押出機に、MB−Aを芯側押出機に投入した。押出機の設定温度は240℃とした。同時に鞘成分側押出機に、PesCを投入し、285℃の温度で押出した。
【0056】
紡糸ノズル温度を285℃とし、ホール直径が0.4mm、ホール数24である紡糸ノズルより芯部と鞘部の吐出量の体積比を30:70として、合計吐出量35.3g/minでポリマーを吐出し、の紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取速度1600m/minで巻取ったが、途中糸切れが頻発した。
【0057】
得られた未延伸糸をローラー温度80℃、熱板温度130℃で最終延伸速度400m/minにて、2.6倍に延伸を行ったが、毛羽が多数発生し、糸切れが多く、十分な製糸性が得られているとは言えなかった。
【0058】
(実施例5)
芯ポリマーに使用するリン含有ポリエステルを含むブレンドポリマー(MB−G)を作成する際に添加するヒンダードフェノール系加工安定剤をヒンダードフェノール基を3個有する化合物(チバスペシャルティーケミカルズ株式会社製、製品名:IRGANOX 3114(以下3114と標記))に変更した以外は、実施例3と同様の方法により製糸を行い、芯鞘複合ポリエステル難燃繊維を得た。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部にリン含有ポリエステルと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含み、リン含有ポリエステルのリン濃度が0.9質量%から2.0質量%、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.01質量%から2.0質量%の範囲で含まれる芯鞘複合ポリエステル系繊維において、芯鞘複合繊維の鞘部の径Rと芯部の径rの比R/r が、1.45以上であるポリエステル系難燃糸
【請求項2】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、分子中に水酸基を3個以上持つ化合物である請求項1に記載のあるポリエステル系難燃糸
【請求項3】
鞘成分が、融点250℃以下のポリエチレンテレフタレートである、請求項1〜2のいずれかに記載のあるポリエステル系難燃糸

【公開番号】特開2008−101280(P2008−101280A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282454(P2006−282454)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】