説明

ポリエステル組成物、その製造方法及びそれからなるポリエステル繊維

【課題】優れた制電性、易染性、深色性、鮮明性、熱安定性を有するポリエステル組成物、その繊維を提供することにある。
【解決手段】分子量100以上4000未満の脂肪族多価カルボン酸が1モル%以上20モル%以下の割合で共重合された共重合ポリエステルを含むポリエステル組成物であり、(A)該共重合ポリエステルに対して、(a)スルホン酸アルカリ金属塩を0.5質量%以上5質量%以下、(b)重量平均分子量10000以上30000以下のポリオキシアルキレングリコールを0.3質量%以上5質量%以下、(c)平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下の二酸化チタンを0.03質量%以上1質量%以下、(d)有機整色剤を0.1〜10質量ppm、を含有するポリエステル組成物によって解決することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制電性と常圧〜110℃下の圧力で優れた染着率を有し、さらに鮮明性、深色染色性に優れ、高速紡糸法によって紡糸した場合でも製糸性の良好な繊維を得ることができるポリエステル組成物、その製造方法及びそれからなる常圧〜110℃下の圧力での染着性・制電性に優れたポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維布帛、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート及びこれらを主体とするポリエステル繊維布帛は、機械的強度、耐久性、機能性等の面で優れ、広く使用されているが、静電気が発生し易いため、製造時、加工時及び使用時に種々のトラブルを発生し易いという欠点がある。従来このような欠点を解決する種々の方法が提案されている。
【0003】
また一方、ポリエステル繊維布帛は染色されにくく、一般的な染色条件は130℃程度の高温条件で行われる。このため、他の素材糸との混繊布帛の染色が困難であるという問題があった。現在の多様化する素材要求に対して十分な制電性、及び他の素材との混繊が可能な染色性を共に兼ね備えるポリエステルは未だ存在しない。
【0004】
ポリエステルに制電性を付与する方法としては例えば、最も簡単な方法として、帯電防止剤を繊維表面に塗布する方法が挙げられるが、この場合、染色工程や洗濯によって帯電防止剤が消失し易く、永続的な制電効果が期待できない欠点がある。制電性繊維布帛における制電効果の永続性は基本的な要求特性であり、この特性を得るため、帯電防止剤をポリマーに練り込んでポリエステル自体を改質する方法、例えば、ポリオキシアルキレングリコールを繊維中に混入する方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。しかしながら、この方法で充分な制電性を発揮させるためには極めて多量のポリオキシアルキレングリコールを要するため、得られる制電性ポリエステル繊維の機械的性質及び耐光性が大きく低下し、使用に耐えないものとなる。
【0005】
また、ポリオキシアルキレングリコールとアルキルベンゼンスルホン酸ソーダとを併用し混入する方法(例えば特許文献2参照。)、ポリオキシアルキレングルコールとアルキルスルホン酸ソーダとを併用し混入する方法(例えば特許文献3参照。)、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物を配合する方法(例えば特許文献4参照。)が提案されている。これらの方法によればポリオキシアルキレングルコールの使用量を減じることができるため、物性低下の少ない制電性ポリエステル繊維を得ることができる。しかしながら、依然熱劣化により繊維の着色が著しい。また同時に熱劣化の原因のため紡糸口金の清掃周期が短くなり、生産性が低下し、製糸性に劣るという欠点がある。
【0006】
さらに上記いずれの方法においても、110℃以下の温度における染色性は不十分であり、染色性と制電性を併せ持つポリエステルはいまだ得られていない。とりわけ本発明者らの研究によれば、110℃以下の温度で染料を吸尽させると、その色相はくすみ感を有し、十分な色合いを得ることが困難であった。
【0007】
このように、帯電防止法として塗布法、練込法、複合紡糸法などの多数の方法が提案されているが、実用的なレベルの制電効果、その永続性、機械的特性、耐光性、110℃程度における常圧染色性、深色染色性、及び鮮明性、並びに製造コスト等を同時に満足するものが得られていないというのが現状である。まして、高速紡糸方法においては、通常の紡糸法よりも高温、厳しい条件でポリマーろ過を行うのが一般的であり、製糸工程における熱劣化、圧力上昇や製糸性を満足する易染・制電性ポリエステル繊維を用いた布帛はまだ得られていない。
【0008】
【特許文献1】特公昭39−5214号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特公昭47−11280号公報 特許請求の範囲
【特許文献3】特開昭53−149246号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開平3−124760号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題を解決し、優れた制電性、易染性、溶融時の熱安定性を有し、高速紡糸法によって紡糸した場合でも製糸性が良好で、さらに常圧〜110℃下の圧力での染色においても良好な深色性及び鮮明性を有するなポリエステル組成物を提供すること、及びそれからなる、優れた制電性、易染性、深色性、鮮明性、熱安定性を有する繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ポリエステル繊維特有の優れた性質を損なうことなく、良好な帯電防止効果を有し、かつ常圧〜110℃下の圧力での染色においても優れた深色性、鮮明性を有し、熱劣化による工程不良が抑制されたポリエスエルを容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、分子量100以上4000未満の脂肪族多価カルボン酸が1モル%以上20モル%以下の割合で共重合された共重合ポリエステルを含むポリエステル組成物であり、
(A)該共重合ポリエステルに対して、
(a)スルホン酸アルカリ金属塩を0.5質量%以上5質量%以下、
(b)重量平均分子量10000以上30000以下のポリオキシアルキレングリコールを0.3質量%以上5質量%以下、
(c)二酸化チタンを0.03質量%以上1質量%以下、
(d)有機整色剤を0.1〜10質量ppm、
含有し、
(B)該二酸化チタンの平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下で、粒径が1μmを超える粒子の質量分率が0.5質量%以上2質量%以下であり、Li、Na、K及びAlの群から選択される少なくとも1種の元素をその二酸化チタン中に0.01質量%以上0.5質量%以下含有し、
(C)該有機整色剤の濃度20mg/Lのクロロホルム溶液の最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ最大吸収波長における下記各波長での吸光度の割合が下記数式(1)〜(4)のすべてを満たすポリエステル組成物である。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm、及び700nmでの可視吸光スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【発明の効果】
【0012】
優れた耐久制電性を有し、常圧〜110℃下の圧力での染色工程及び熱劣化による物性低下が少なく、高速紡糸法によって紡糸した場合でも複雑な紡糸技術を用いることなく製糸性の良好な繊維を得ることができるポリエステル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるポリエステルは分子量100以上4000未満の脂肪族多価カルボン酸をポリエステルに対して1モル%以上20モル%以下共重合された共重合ポリエステルである。
【0014】
本発明に用いる共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールの重縮合反応により得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。ここで主たるとは全繰り返し単位中70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。好ましくは80モル%以上である。しかしこれに限定されるものではなく、例えば、テレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分として、例えばイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ナフタレンジカルボン酸等の酸成分を用いてもよく、またエチレングルコール成分以外のグリコール成分として1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを用いてもよい。これらの中でもポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。
【0015】
本発明におけるポリエステルには分子量100以上4000未満の脂肪族多価カルボン酸が共重合されている必要がある。脂肪族とは、主鎖に芳香族環を含まないことを指し、直鎖型脂肪族、分岐鎖型脂肪族、脂環族いずれでもかまわない。多価とは2官能以上を指し、ジカルボン酸、トリカルボン酸などが挙げられるが、2官能を超えるとポリエステル鎖の架橋が起こるため、2価が好ましく用いられる。例示すれば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などが挙げられ、これらの化合物群から少なくとも1種選ばれるジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であることが好ましい。
【0016】
脂肪族カルボン酸の分子量は100以上4000未満である必要がある。分子量100未満であると、常圧〜110℃下の圧力での可染性を得るために多量の共重合が必要となり、得られる繊維の強伸度等の物性が著しく失われるため好ましくない。一方分子量4000以上であるとガラス転移温度(Tg)が十分に低下せず、結果として常圧〜110℃下の圧力での染色性に劣るようになる。
【0017】
十分な常圧〜110℃下の圧力での染色性を得るための脂肪族多価の共重合量は1モル%以上20モル%以下である必要がある。1モル%未満では常圧〜110℃下の圧力での染色性改善効果に乏しく、20モル%を超えると、得られる繊維の物性が低下したり、制電性の耐久性に劣るようになる。好ましくは2モル%以上18モル%以下である。
【0018】
本発明においてはさらに共重合ポリエステルに対してスルホン酸アルカリ金属塩を0.5質量%以上5質量%以下含有する必要がある。スルホン酸アルカリ金属塩としては、アルキルスルホン酸アルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。本発明で用いるアルキルスルホン酸アルカリ金属塩は、一般式R−SOM(式中のRは炭素数8〜20のアルキル基、MはLi、Na又はKの金属原子を示す。)で表される化合物であり、具体的にはオクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、ステアリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。一方本発明で用いるアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩は、下記一般式(III)
【0019】
【化1】

[上記式中のR’は炭素数8〜20のアルキル基、M’はLi、Na又はKの金属原子を表す。]
で表される化合物であり、具体的にはオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらを単一種で用いても、複数種を同時に用いても良い。
【0020】
本発明者らの検討によれば、なかでもポリエステルマトリックス内で導伝相を良好に形成する点において、アルキルスルホン酸アルカリ金属塩が好ましく用いられる。アルキル鎖長は、炭素数にして8〜20であることが好ましい。炭素数が7未満であるとポリエステルとの相溶性に劣り、紡糸時に昇華性異物を発生したり、繊維表面にブリードアウトを起こすことがある。一方炭素数が20を超えると制電性能が劣るようになる。金属塩としてはLi、Na、K、などが挙げられるが、制電性に優れること、凝集異物を生成しにくいことからNaがより好ましい。すなわちスルホン酸アルカリ金属塩がアルキルスルホン酸ナトリウム塩であることがより好ましい。これらのスルホン酸アルカリ金属塩の含有量としては0.5質量%以上5質量%以下である必要がある。0.5質量%未満であると制電性能に乏しくなり、5質量%を超えると繊維の物性が劣るようになり好ましくない。スルホン酸アルカリ金属塩の含有量の好ましい範囲は、0.7質量%以上4質量%以下である。
【0021】
さらに本発明におけるポリエステル組成物は、重量平均分子量10000以上30000以下のポリオキシアルキレングリコールを共重合ポリエステルに対して0.3質量%以上5質量%以下含有している必要がある。ポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、その共重合体等があげられ、これらを単一種で用いても、複数種を同時に用いても良い。耐熱性、価格が優れることから好ましくは、ポリエチレングリコールが用いられる。また重量平均分子量は10000以上30000以下である必要があり、10000未満のものを含有させると一部共重合されて制電性が低下し、繊維物性も低下する。また繊維の摩擦帯電圧が2000V以上となりその結果制電性に劣り、また洗濯処理による耐久性が充分でない。一方重量平均分子量が30000を越えるとポリエステルと相分離し、均一分散を維持することが困難となり、染色性に悪影響を及ぼす。さらに繊維が着色し、紡糸時の糸切れが多くなるなど、製糸性が悪化する。すなわち具体的には紡糸時、パック圧変動を起こすなど好ましくない。重量平均分子量の好ましい範囲は15000以上25000以下である。ポリオキシアルキレングリコールの共重合ポリエステルへの配合量は、共重合ポリエステルに対して0.3質量%以上5質量%以下の範囲、特に0.5質量%以上4質量%以下の範囲が好ましい。ポリオキシアルキレングリコールの配合量が0.3質量%未満では充分な帯電防止効果が得られず、5質量%を超えると繊維の耐光性及び機械的特性が低下し、繊維の着色が著しくなる。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は共重合ポリエステルに対して、二酸化チタンを0.03質量%以上1質量%以下含有する必要がある。0.03質量%未満ではポリエステルのつやがテカリとなって製品の品位を損ねる。1質量%を超えても艶消し感はもはや向上せず、むしろパック圧の上昇、断糸等工程調子へ悪影響を及ぼすことがある。さらに二酸化チタンの平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下である必要があり、粒径が1μmを超える粒子の質量分率が0.5質量%以上2質量%以下であり、Li、Na、K及びAlの群から選択される少なくとも1種の元素を0.01質量%以上0.5質量%以下含有することが必要である。平均粒径が0.1μm未満では、粒子の比表面積が大きすぎ、ポリエステル組成物を製造する際に凝集粒子を形成しやすくなるため好ましくない。一方、平均粒径が0.5μmを超えると、紡糸時のパック圧上昇や断糸が多くなるので好ましくない。さらに、粒径が1μmを超える粒子の質量分率が2質量%を超えると、例えばポリエステル組成物を製糸化する際に断糸の原因となったり、熱劣化が大きくなり、溶融時の着色が著しくなる等の成形時の成形性に問題を生じ、また製糸後アルカリ減量する際に、繊維表面に形成される微細孔が大きくなって染色時の発色性が低下するので好ましくない。一方、1μmを超える粒子の割合の下限は小さいほど好ましいが、このような粗大粒子の少ない二酸化チタン粒子を製造することは困難であり、またコストも増大するため、該粒子の割合は0.5質量%以上とするのが好ましい。このような二酸化チタンの平均粒径や、粒径が1μmを超える粒子の質量分率を調整するには、さまざまな方法がある。例えば二酸化チタンを分散媒に分散したスラリーを一旦調製し、必要に応じて解砕用メディアと共にサンドグラインダーに供給し粉砕する方法が挙げられる。詳細にはスラリー流量、粉砕時間・回数、解砕用メディアの有無・種類によって、また更に粉砕後に所定の目開きのフィルターで濾過することによって細かく調整することが可能である。
【0023】
本発明における二酸化チタンは、さらに、Li、Na、K及びAlの群から選択される少なくとも1種の元素を、二酸化チタン粒子の全質量を基準として0.01質量%以上0.5質量%以下含有する必要がある。これらの元素は単一であっても複数であってもよい。これらの元素の含有量が0.01質量%未満の場合には、ポリエステル組成物の溶融安定性が低下するので好ましくない。一方0.5質量%を超える場合には、ポリエステル組成物の色相が低下するので好ましくない。より好ましくは0.03〜0.3質量%の範囲であり、0.04〜0.15質量%の範囲が更に好ましい。このような二酸化チタン中のLi、Na、K、Alの含有量を調整するのは例えば以下のような手法による。すなわち含有量を増やすには、二酸化チタンの製造工程において元の鉱石としてこれらの元素の含有量が多い鉱石を用いる方法や、焼成工程において有機の酸として、Li、Na、K、Al元素を含む化合物を添加する方法によって達成することができる。一方含有量を減らすには、含有量の少ない鉱石を用いる方法や、二酸化チタンを製造する際の加水分解工程で異物又は洗浄水と共に取り除く方法により達成することができる。
【0024】
このような二酸化チタンをポリエステルに配合する方法としては特に制限はなく、例えばポリエステルの重縮合反応開始前、重縮合反応途中、重縮合反応終了時などに配合してもよいし、また通常の手法によりポリエステルを製造した後、このペレットと二酸化チタンを押出機で混合してもよい。
【0025】
本発明のポリエステル組成物は共重合ポリエステルの全質量を基準として有機整色剤を0.1〜10質量ppm含有する必要がある。なおその有機整色剤とは、有機の多芳香族環系染料又は顔料を表す。具体的には後述のように青色系整色用色素、紫色系整色用色素、赤色系整色用色素、橙色系整色用色素等が挙げられる。これらは単一種で用いても複数種を併用して用いても良い。後述のような可視光吸収スペクトルに関する要件を満たしやすい点において、複数種を併用することが好ましい。さらにその有機整色剤は、濃度20mg/Lのクロロホルム溶液について光路長1cmにおいて波長380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルを測定したとき、最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ該最大吸収波長における吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記数式(1)〜(4)のすべてを満たす必要がある。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0026】
ここで可視光吸収スペクトルとは、通常分光光度計によって測定されるスペクトルであるが、本発明のポリエステル組成物に含有される有機整色剤溶液の可視光吸収スペクトルの最大吸収波長が540nm未満の場合は得られるポリエステル組成物の赤味が強くなり、また600nmを超える場合は得られるポリエステル組成物の青味が強くなる為好ましくない。最大吸収波長の範囲は545〜595nmの範囲が好ましく、550〜590nmの範囲が更に好ましい。
【0027】
また本発明のポリエステル組成物に含有される有機整色剤の濃度20mg/Lのクロロホルム溶液について光路長1cmにおいて可視光吸収スペクトルを測定したとき、最大吸収波長での吸光度に対する上記に示す各波長での吸光度の割合が上記数式(1)〜(4)のいずれか一つでも外れる場合、得られるポリエステル組成物の着色が大きくなり好ましくない。上記式(1)〜(4)を満たし、さらにそれぞれ下記数式(5)〜(8)のいずれか1つ以上を満たすことがより好ましく、更に下記数式(5)〜(8)すべてを満たしていることがさらに好ましい。
0.00≦A400/Amax≦0.15 (5)
0.30≦A500/Amax≦0.60 (6)
0.60≦A600/Amax≦0.95 (7)
0.00≦A700/Amax≦0.03 (8)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0028】
更に本発明のポリエステル組成物に含有される上述の有機整色剤の含有量が、0.1質量ppm未満の場合、ポリエステル組成物の黄色味が強くなる。一方、10質量ppmを超える場合、明度が弱くなり見た目に黒味が強くなる為好ましくない。該有機整色剤の含有量は0.3質量ppm〜9質量ppmの範囲が好ましく、0.5〜8質量ppmの範囲にあることが更に好ましい。
【0029】
本発明に使用する有機整色剤は、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定したときの質量減少開始温度が250℃以上である整色用色素から選ばれることが好ましい。ここで、熱天秤で測定したときの質量減少開始温度とは、JIS K−7120に記載の質量減少開始温度(T)のことであり、有機整色剤が有している耐熱性の指標となる。該質量減少開始温度が250℃未満である場合、有機整色剤の耐熱性が不十分であることから最終的に得られるポリエステル組成物の着色の原因となり好ましくない。該質量減少開始温度は300℃以上であることが更に好ましい。また共重合ポリエステルが溶融状態にある温度下で分解しないことが更に好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル組成物においては、有機整色剤として青色系整色用色素と紫色系整色用色素を質量比90:10〜40:60の範囲で併用すること、又は青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を質量比98:2〜80:20の範囲で併用することが好ましい。ここで青色系整色用色素とは、一般に市販されている整色用色素の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。同様に紫色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものを示す。赤色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Red」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が480〜520nm程度にあるものである。橙色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Orange」と表記されているものである。
【0031】
これらの整色用色素としては油溶染料が特に好ましく、具体的な例としては、青色系整色用色素には、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol BlueRLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94等が挙げられる。紫色系整色用色素には、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36等が挙げられる。赤色系整色用色素には、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179等が例示される。橙色系整色用色素には、C.I.Solvent Orange 60等が挙げられる。
【0032】
ここで青色系整色用色素と紫色系整色用色素を併用する場合、質量比90:10より青色系整色用色素の質量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、40:60より青色整色用色素の質量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。同様に青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を併用する場合、質量比98:2より青色系整色用色素の質量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、80:20より青色整色用色素の質量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。該整色用色素は、青色系整色用色素と紫色系整色用色素を質量比80:20〜50:50の範囲で併用すること、あるいは青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を質量比95:5〜90:10の範囲で併用することが更に好ましい。
【0033】
本発明におけるポリエステル組成物は、さらに公知の共重合物、公知の酸化防止剤等を含有していてもよい。ポリオキシエチレングリコールは、耐熱性が高くなく、耐久性を向上せしめるために酸化防止剤が有効に用いられることが好ましい。
【0034】
上記の成分、すなわち脂肪族多価カルボン酸、スルホン酸アルカリ金属塩、ポリオキシアルキレングリコール(以下「脂肪族多価カルボン酸等」と称する。)を本発明の共重合ポリエステルに配合する方法には特に制限はなく、共重合ポリエステルの形成が終了するまでの任意の段階、例えば共重合ポリエステルの重縮合反応開始前、重縮合反応途中、重縮合反応終了時などに配合してもよいし、また通常の手法によりポリエステル組成物を製造した後、この組成物ペレットと脂肪族多価カルボン酸等を押出機で混合してもよい。脂肪族多価カルボン酸等は同時に配合しても別々に配合してもよい。これらの方法うち、脂肪族多価カルボン酸は共重合せしめる観点から、本発明の共重合ポリエステルの重縮合反応開始前又は重縮合反応中にこれらの添加剤と同時に配合するのが、分散性の観点から好ましい。
【0035】
さらに本発明におけるポリエステル組成物はその重縮合触媒としてチタン化合物又はアルミニウム化合物を含有した触媒を用いた場合には、製糸性を高めることができ、さらに常圧〜110℃下の圧力での染色を行ったとき、その深色性、鮮明性が一層良好になり、好ましい。
【0036】
ここでチタン化合物としては特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。チタン化合物としてより好ましいのは、下記一般式(I)で表わされるチタン化合物、又は下記一般式(I)で表わされるチタン化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物、又は下記一般式(IV)で表されるチタン化合物を用いることである。
【0037】
【化2】

[上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ互いに独立に、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、互いに異なっていてもよい。]
【0038】
【化3】

[上記式中、qは2〜4の整数を表わす。]
【0039】
【化4】

[上記式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリール基、アリールオキシ基である。]
【0040】
一方、アルミニウム化合物としても特に限定はないが、触媒活性の点で有機アルミニウム化合物であることが好ましく、中でもアルミニウムアセチルアセトネートなどが安定で取扱いが容易な点において優れているので好ましい。また、これらチタン化合物とアルミニウム化合物はそれぞれの化合物を単独で用いても、両化合物を併用して用いても、又はそれぞれの化合物を2種類以上併用しても良いが、チタン化合物を単独で用いるのが特に好ましい。なかでも最も好ましいのが上記一般式(I)で表わされる化合物、又は上記一般式(I)で表わされる化合物と上記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物を単独で用いることである。
【0041】
一般式(I)で表わされるチタン化合物の中でテトラアルコキサイドチタン及び/又はテトラフェノキサイドチタンとしては、R〜Rが炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン又はテトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。また、かかるチタン化合物と反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸若しくはピロメリット酸又はこれらの酸の無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の全部又は一部を溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。また必要に応じてチタン化合物滴下後、残りの芳香族多価カルボン酸又はその無水物を加えればよい。
【0042】
本発明のポリエステル組成物は上述した通り、チタン化合物及び/又はアルミニウム化合物を重縮合触媒として用いられていることが好ましいが、更に耐熱性や色相を改善すべく、リン化合物を安定剤として併用することが好ましい。該リン化合物としては特に制限はないが、好ましくはリン酸、亜リン酸、ホスホン酸若しくはホスフィン酸又はこれらのアルキル、アリールエステル、ホスホノアセテート系化合物が特に好ましい。該リン化合物のポリエステル組成物中への添加方法は、エステル交換反応又はエステル化反応が実質的に終了した後であればいつでもよいが、通常はエステル化反応、若しくはエステル交換反応が終了した後すぐに添加し、その後重縮合反応せしめることが好ましい。
【0043】
さらに本発明のポリエステル組成物の製造方法は上述した共重合ポリエステル製造工程の任意の段階で有機整色剤を添加することによって製造されることが好ましい。なかでも有機整色剤がポリエステル組成物製造工程における重縮合反応工程が終了するまでの任意の段階で添加されることが更に好ましい。特にエステル化反応もしくはエステル交換反応が終了した後に有機整色剤を添加することが最も好ましい。
【0044】
このような本発明のポリエステル組成物を製造するにあたっては、通常公知の共重合ポリエステルの製造方法に準じて製造することができる。その中でもポリオキシアルキレングリコールの重合反応容器内への投入時期を重縮合反応が終了する前、好ましくは90〜40分前の時点でポリオキシアルキレングリコールを重合反応器内に投入することが好ましい。この時点より後の時点で反応器内に投入するとポリオキシアルキレングリコールの分散性が悪くなって制電性が発現出来ないことがある。一方この時点より前の時点で投入すると、ポリオキシアルキレングリコールが熱により分解し始めこれが共重合ポリエステルの熱劣化を誘発することがある。
【0045】
本発明のポリエステル繊維は、脂肪族多価カルボン酸等を配合して得られたポリエステル組成物を公知の溶融紡糸法で紡糸して得ることができる。特に延伸工程を必要としない高速紡糸法は、生産性の向上、延伸工程の省略によるコスト低減、染色性の向上及び他の種類の繊維との交編交織が容易で用途拡大が可能となる点で好ましい。延伸工程を経ることなく溶融紡糸工程のみで充分な実用特性を有する高配向糸を得るためには、巻取速度を5200m/分以上とするのが好ましい。5200m/分以下の巻取速度では製織・製編工程において伸長が起こり易く、また染斑や布帛の品質低下が生じ易くなる。高速紡糸法で得られた糸は延伸法で得られた糸に比べてソフトな風合いを有しているのでファンデーション、ランジェリー等インナー分野に特に有用である。
【0046】
さらに本発明のポリエステル繊維には、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系化合物などの抗酸化剤を配合してもよく、またその他必要に応じて着色剤、艶消剤等の添加剤を配合してもよい。さらに本発明に用いられるポリエステル繊維から得られる布帛は、公知の方法で織編して得られる。上記特定のポリエステル繊維を一部に用いる場合には制電性を失わない範囲で他の素材、例えば通常のポリエステル繊維が用いられるが、他の素材の種類、混合方法には特に制約はない。
【0047】
また公知の後加工剤を布帛の表面に付着させることにより、布帛の柔軟性が向上し、吸水性及び防汚性も向上するという効果が得られ好ましい場合が多い。本発明の布帛は、その優れた制電性、低温染色性、柔軟な風合い、吸水性、防汚性等を生かしてファンデーション、ランジェリー等のインナー分野、他の種類の繊維と混用してアウター分野など種々の用途への展開が可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。以下の例において「部」とは「質量部」を表す。なお、実施例中の測定値は次の方法により測定したものである。
(ア)ポリエステルの固有粘度:
o-クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した。
(イ)チタン、アルミニウム、アンチモン、リン含有量:
ポリエステル組成物中のポリエステルに可溶性のチタン元素量、アルミニウム元素量、アンチモン元素量、リン元素量は粒状のポリエステル組成物サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製 ZSX100e型)を用いて求めた。ただし、艶消剤として酸化チタンを添加したポリエステル組成物中のチタン元素量については、ポリエステル組成物中サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z-8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。
ここで0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させた。次に傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作によりポリエステル組成物中に酸化チタンを含有していてもポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。
(ウ)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステル組成物をチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、600m/分で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステル組成物の溶融物のフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
(エ)深色染色性評価:
繊維を布帛に形成した試験片を、沸騰した0.5質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸して、布帛の質量減少率が20%となるまでアルカリ減量処理を施した。取り出した布帛を水洗後、住友化学工業製分散染料Sumikaron Navy Blue S-2GLの2%owf溶液で浴比1:50に調製し、110℃で1時間染色した。染色布をグレタマクベス社製測色色差計(CE-3000型)により測色し、下記のクベルカ・ムンクの式により、深色度(K/S)を求めた。
K/S=max[(1−R)/2R]
上記数式中、Kは吸収係数、Sは散乱係数である。Rは分光反射率を示し、このスペクトルを測定し、最大値を深色度とする。本発明においては23以上を良好と判断した。
(オ)有機整色剤の質量減少開始温度:
理学電機工業株式会社製TAS-200熱天秤を用いてJIS K7120に従い、窒素雰囲気下中昇温速度10℃/分で測定した。
【0049】
(カ)摩擦帯電圧:
小池製作所製の小型筒編み機(CR−B型、針3.5インチ×220本)を用いてメリヤス編地を作製した。この編地を洗剤ニュービーズ(花王(株)社製)2g/リットルを使用して40℃で5分間洗濯し、常温で2分間のすすぎを2回行う。これを1サイクルとして30回繰り返して行った。この後、編地に30秒間帯電させ、放電半減期を測定した。
(キ)二酸化チタン、リチウム、カリウム、ナトリウム、及びアルミニウム含有量:
ポリエステル組成物中の二酸化チタンの含有量は、リガク株式会社製3270E型蛍光X線装置を用いてチタン元素量を測定し、その値から計算した。また二酸化チタン中のリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウムの含有量は、二酸化チタンを塩酸抽出してICPで分析を行った。ICPはセイコーインスツルメンツ(株)製「Vista−PRO CCD多元素同時型ICP発光分光分析装置」を用いた。
(ク)粒径測定:
微粒子の平均粒径及び粒度分布は、大塚電子製DLS-7000で測定し、粒度分布より1μmを超える質量分率として算出した。
(ケ)スルホン酸アルカリ金属塩の含有量:
ポリエステル組成物サンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製 ZSX100e型)を用いて硫黄元素の含有量を測定して、その値から算出した。
(コ)脂肪族多価カルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールの含有量(共重合量):ポリマーサンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A-600 超伝導FT-NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H-NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、脂肪族多価カルボン酸(アジピン酸等)及びポリオキシアルキレングリコール(ポリエチレングリコール等)成分含有量を定量した。
(サ)色相(L値、b値):
ポリエステル組成物チップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、2時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL及びbを、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。Lは明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、bはその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
【0050】
[参考例1]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2質量%)にテトラ−n−ブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0051】
[参考例2]有機整色剤(整色用色素)の可視光吸収スペクトル測定、有機整色剤調製
表1に示す整色用色素を室温で濃度20mg/Lのクロロホルム溶液とし、光路長1cmの石英セルに充填し、対照セルにはクロロホルムのみを充填して、日立分光光度計U−3010型を用いて、380〜780nmの可視光領域での可視光吸収スペクトルを測定した。整色用色素2種を混合する場合は合計で濃度20mg/Lとなるようにした。最大吸収波長とその波長における吸光度に対する、400、500、600及び700nmの各波長での吸光度の割合を測定した。更に粉末の整色用色素の熱質量減少開始温度を測定した。結果を表1に示す。尚、実施例、比較例でこれら有機整色剤をポリエステル製造工程で添加する場合は、100℃の温度で、原料として用いるグリコール溶液に対し、濃度0.1質量%となるように溶解又は分散させて調製した。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例1]
ジメチルテレフタレート700部、エチレングリコール470部を酢酸カルシウム0.7部を触媒として、窒素気流下140℃から240℃まで攪拌しながら、2時間30分かけて昇温し、エステル交換反応を終了した。次いでこの反応物に56質量%のリン酸水溶液0.045質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。表2に示す物性を有する平均粒径0.35μmの二酸化チタンを20質量%含有したエチレングルコールスラリーを1.8部(共重合ポリエステルに対して0.3質量%)、表1に示す整色剤Aの0.1質量%エチレングリコール溶液0.4質量部(共重合ポリエステルに対して0.6質量ppm)、参考例1で調製したチタン触媒A0.032質量部、及び表2に示す共重合量になるようにアジピン酸(旭化成(株)製)をそれぞれ添加した後、1時間かけて240℃から260℃に昇温し、その後1時間かけて260℃から280℃に昇温しながら、0.133kPa以下まで減圧した。所定の攪拌電力に到達した時点で、得られた共重合ポリエステルに対してテトラデシルスルホン酸ナトリウムを0.8質量%、PEG20000(日本油脂(株)製)を0.8質量%、酸化防止剤0.4質量%となるように添加し、280℃、0.133kPaで55分間反応を継続した段階で反応を終了、固有粘度0.64dl/gのポリエステル組成物を得た。二酸化チタン含有量は0.3質量%であった。
【0054】
得られたポリマーを常法により乾燥し、直接巻取方式の高速紡糸装置で公称口径(公称目開)20μmのろ過フィルターを通しながら、紡糸温度290℃で、スリット幅0.11mm、スリット長さ0.34mm及び孔数12の3軸等長紡糸口金より紡出し、冷却、固化させた後、33dtex/12fの原糸を得た。メリヤス編地を作成した後、20質量%のアルカリ減量処理した後、易染色性、摩擦耐電圧を測定した。
【0055】
[実施例2〜5]
アジピン酸の共重合量、添加する二酸化チタン、有機整色剤の種類・量を表1、表2に記載のとおりに変更する他は実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル組成物及び繊維を得た。二酸化チタン含有量はいずれも0.3質量%であった。これらの評価結果を表2、3に示した。
【0056】
[実施例6]
実施例1において、共重合ポリエステルに対してテトラデシルスルホン酸ナトリウムを1.0質量%となるように添加する他は実施例1と同様にして、ポリエステル組成物及び繊維を得た。これらの評価結果を表2、3に示した。
【0057】
[実施例7]
実施例1において、共重合ポリエステルに対してPEG20000(日本油脂(株)製)を0.6質量%となるように添加する他は実施例1と同様にして、ポリエステル組成物及び繊維を得た。これらの評価結果を表2、3に示した。
【0058】
[実施例8]
実施例1において、共重合ポリエステルを製造する際に参考例1で調製したチタン触媒A0.032質量部を用いる代わりに、アルミニウムアセチルアセトナート0.0231質量部を用いる他は実施例1と同様にして、ポリエステル組成物及び繊維を得た。これらの評価結果を表2、3に示した。
【0059】
[比較例1]
脂肪族多価カルボン酸等を添加しない以外は実施例1と同様の方法で重縮合反応を行い、通常のポリエチレンフタレートのみからなるポリエステル組成物を製造した。二酸化チタン含有量は0.3質量%であった。
【0060】
[比較例2]
有機整色剤を添加しない以外は、実施例1と同様に製造した。
【0061】
【表2】

【表3】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、優れた耐久制電性、常圧〜110℃下の圧力での染色における染色性が良好で、熱劣化による物性低下が少なく、高速紡糸法によって紡糸した場合でも複雑な紡糸技術を用いることなく製糸性の良好な繊維を得ることができるポリエステル組成物を提供することができる。またこのポリエステル組成物から得られるポリエステル繊維、及び布帛はその柔軟性が向上し、吸水性及び防汚性も向上するという効果が得られる期待がある。さらに本発明の繊維を用いた布帛は、その優れた制電性、低温染色性、柔軟な風合い、吸水性、防汚性等を生かしてファンデーション、ランジェリー等のインナー分野、他の種類の繊維と混用してアウター分野など種々の用途への展開が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量100以上4000未満の脂肪族多価カルボン酸が1モル%以上20モル%以下の割合で共重合された共重合ポリエステルを含むポリエステル組成物であり、
(A)該共重合ポリエステルに対して、
(a)スルホン酸アルカリ金属塩を0.5質量%以上5質量%以下、
(b)重量平均分子量10000以上30000以下のポリオキシアルキレングリコールを0.3質量%以上5質量%以下、
(c)二酸化チタンを0.03質量%以上1質量%以下、
(d)有機整色剤を0.1〜10質量ppm、
含有し、
(B)該二酸化チタンの平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下で、粒径が1μmを超える粒子の質量分率が0.5質量%以上2質量%以下であり、Li、Na、K及びAlの群から選択される少なくとも1種の元素をその二酸化チタン中に0.01質量%以上0.5質量%以下含有し、
(C)該有機整色剤の濃度20mg/Lのクロロホルム溶液の最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ最大吸収波長における下記各波長での吸光度の割合が下記数式(1)〜(4)のすべてを満たすポリエステル組成物。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm、及び700nmでの可視吸光スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【請求項2】
有機整色剤が、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定したときの質量減少開始温度が250℃以上である整色用色素から選ばれる請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
脂肪族多価カルボン酸がコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸よりなる群から少なくとも一種選ばれるジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体である請求項1又は2記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
スルホン酸アルカリ金属塩がアルキルスルホン酸ナトリウム塩である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
共重合ポリエステルが、チタン化合物又はアルミニウム化合物を含む重縮合触媒を用いて製造されたものである請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
チタン化合物が、下記一般式(I)で表される化合物、又は下記一般式(I)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸若しくは酸無水物とを反応させた生成物であることを特徴とする請求項5記載のポリエステル組成物。
【化1】

[上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ互いに独立に、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、互いに異なっていてもよい。]
【化2】

[上記式中、qは2〜4の整数を表す]
【請求項7】
アルミニウム化合物が、有機アルミニウム化合物である請求項5記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
有機整色剤として青色系整色用色素と紫色用整色用色素を質量比90:10〜40:60の範囲で併用する請求項1〜7のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
有機整色剤として青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を質量比98:2〜80:20の範囲で併用する請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項10】
有機整色剤がポリエステル組成物の製造工程における重縮合反応工程が終了するまでの任意の段階で添加される請求項5又は6のいずれか1項記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載されたポリエステル組成物を溶融紡糸してなるポリエステル繊維。

【公開番号】特開2006−176702(P2006−176702A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373037(P2004−373037)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】