説明

ポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品

【課題】 ポリエチレンテレフタレートを改質し、該改質ポリエチレンテレフタレートとアクリル繊維とを混用することにより、ソフトでしなやかな風合を有し、同色性、染色堅牢度に優れた素材を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜8重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸の断面形状がW字状で、下記の条件(1)を満足するポリエステル繊維であって、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が下記(2)で示される範囲にある易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維とからなることを特徴とする易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品。
(1)2.0≦扁平度≦4.0
(2)85℃≦(Tmax)≦105℃

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品に関するものである。さらに詳しくは、特定の易染性ポリエステルを混用することによりアクリル繊維を痛めずに本来の風合、物性を最大限に発揮し、且つポリエステルの機能性を兼備したポリエステル繊維とアクリル繊維との混用布帛の染色製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル繊維からなる布帛は、常圧染色ができ、染色性、発色性がよく、軽く、かさ高性、保温性、着心地の良さなど優れた特性を持っている反面、耐磨耗性が弱く、毛玉ができやすい、湿熱時に変形しやすい等の欠点がある。このため、アクリル繊維に欠けているこれらの機能性に優れたポリエステル繊維を混用して形態安定性、しわ回復性、耐摩耗性を向上させることが行われている。
ポリエステル繊維は強度、寸法安定性、イージーケアー性に優れ、アクリル繊維の欠点を補い得るものであるが、ポリエステル繊維の難染性がゆえアクリル繊維と同条件で染色すると、ポリエステル繊維の発色性は著しく低く、アクリル繊維との同色性は得られない。一方、通常のポリエステル繊維の染色温度である130〜135℃の高温で染色してもアクリル繊維との同色性は得られず、アクリル繊維の風合が損なわれるばかりか黄化着色が発生する問題がある。また、常圧下でキャリヤー剤を用いて染色した場合には、アクリル繊維との同色性は得られず、染色堅牢度の低下や、繊維中の脱キャリヤー処理がし難い、キャリヤー臭による作業環境の低下等の問題が発生する。
【0003】
そこでアクリル繊維の染色温度領域で染色可能な常圧可染型ポリエステル繊維として、ナトリウムスルホイソフタル酸を5モル%以上共重合したカチオン染料可染型ポリエステル繊維の製造法が特許文献1、2に開示されている。しかしながら、染色性は高められるものの原糸強度が低く、伸縮回復性が乏しく、ソフトでしなやかな風合は得られず、耐薬品性が低く、カチオン染料の耐光堅牢度が乏しい等の問題がある。
また、ポリエチレングリコールの共重合による易染性ポリエステル繊維の製造法が特許文献3に開示されている。しかしながら染色性は良好なものの原糸での沸水収縮率が高く、原糸使いにおいてはソフトでしなやかな風合が得られない、原糸が黄変しやすく淡色系においては鮮明性が得られない等の問題がある。
【0004】
さらに、5000〜8000m/分の高速紡糸により繊維内部構造をかえた易染性ポリエステル繊維の製造法が特許文献4、5に開示されている。これらの高速紡糸によるポリエステル繊維は従来のポリエステル繊維に比べ易染性になっているものの完全な常圧可染とはいい難く、濃色に染色するには、110〜120℃の染色温度が必要であり、アクリル繊維との同色性は劣り、しかもソフトでしなやかな風合は得られない等の問題がある。
従って、現状ではポリエステル繊維の発色性とアクリル繊維の発色性、混用品の風合との兼ね合いから妥協点を見出した染色条件が採用されているが、しかるに分散染料で染色した場合、アクリル繊維に分散染料が過度に染まり、その染着性がコントロールできないことから染色時の色ブレが大きく、ポリエステル繊維との同色性が悪い問題がある。特に濃色に染色された混用布帛はアクリル繊維への分散染料の染着が大きいことから染色堅牢度が低下するという問題やポリエステル繊維の発色性が低く、イラツキとよばれる欠点があり、品質の悪い染色製品しか得られていないのが実状である。
【0005】
【特許文献1】特公昭61−017939号公報
【特許文献2】特開昭61−034022号公報
【特許文献3】特開平10−251928号公報
【特許文献4】特公平01−015610号公報
【特許文献5】特開昭59−059911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、改質されたポリエステル繊維とアクリル繊維を混用することにより、ポリエステル繊維の発色性が高く、同色性が良好で染色堅牢度性能の高いソフトでしなやかな風合を有するポリエステル繊維とアクリル繊維との混用染色製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はアクリル繊維に混用するポリエステル繊維について鋭意研究を行った結果、ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜8重量%共重合したポリエステルを5000m/分以上の巻き取り速度で紡糸したポリエステル繊維等が特定の粘弾性を有し、このようなポリエステル繊維をアクリル繊維と混用した布帛が上記課題を解決することを見出し、更に検討した結果、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜8重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸の断面形状がW字状で、下記の条件(1)を満足するポリエステル繊維であって、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が下記(2)で示される範囲にある易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維とからなることを特徴とするポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品である。
(1) 2.0≦扁平度≦4.0
(2) 85℃≦(Tmax)≦105℃
【発明の効果】
【0008】
ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜8重量%共重合した単糸の断面形状がW字状のポリエステル繊維であって、扁平度が2.0≦扁平度≦4.0で、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が85℃≦(Tmax)≦105℃である易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維を混用することでポリエステル繊維の発色性が高く、同色性が良好で染色堅牢度が高くソフトでしなやかな風合を有する混用染色製品が得られる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明における共重合成分として用いるポリエチレングリコールは、繊維の非晶構造に適当な乱れを起こすし、染色性の向上に寄与するものである。
ポリエチレングリコールの分子量が300未満の場合には、本発明でいう動的粘弾性測定から求められる力学的損失正接(tanδ)のピーク温度(以下、Tmaxと称す)が106℃以上となりアクリル繊維と混用した時の風合としてソフトでしなやかさが得られない。またポリエステル繊維の発色性が低く、アクリル繊維との同色性は得られない。しかもポリエチレンテレフタレートは真空下での重合のため分子量が300未満のポリエチレングリコールの場合、一部がプロダクト系外に飛散してしまい、ポリマー組成が不安定となる。一方、ポリエチレングリコールの分子量が2000を越えた場合、ブロック共重合にともない超高分子成分が増大し、紡糸性が不良となるばかりか、染色堅牢度、耐光性の低下が顕在化するため好ましくない。
【0010】
また、ポリエチレングリコールの共重合量が3重量%未満の場合には、Tmaxが106℃以上となりアクリル繊維と混用した場合の風合としてソフトでしなやかさが得られない。またポリエステル繊維の発色性が低く、アクリル繊維との同色性が不良となる。一方、8重量%を越える場合には、Tmaxが85℃未満となりアクリル繊維と混用した場合の風合としてのソフトでしなやかさは得られない。また、染色性は十分であるもののポリマー色調が悪化し、5000m/分以上の巻き取り速度においては、糸切れや毛羽の発生が多くなり、紡糸安定が不良となり生産が困難となる。また製糸されたフィラメントは耐光堅牢度、染色堅牢度が悪化し好ましくない。
本発明の易染性ポリエステル繊維は、その単糸の断面形状がW字状で、扁平度が2.0以上4.0以下であることが必要である。これはこの範囲で本発明が求めるソフトでしなやかな風合に優れた布帛が得られるからである。また常圧染色における発色性が向上するからである。扁平度が2.0未満の場合、比表面積が丸断面糸と近似するためソフトな風合は得られず、常圧染色における染料の吸尽速度が遅く発色性も不十分である。一方、扁平度が4.0を超えると単なる扁平糸に近くなり布帛の風合はペーパーライクとなり、イラツキ感のある光沢となり好ましくない。扁平度の好ましい範囲は2.5〜3.5の範囲である。
【0011】
本発明では、W字状断面の各凹部の開口角度が100〜150度であることが好ましい。開口角度は、断面形状の鋭利さを意味し、角度が小さい程断面が鋭利であり、角度が大きい程鈍調である。開口角度が100度未満では、延伸仮撚の際にW断面の変形が大きく、W断面形状の持つ溝の多くが潰れてしまい、ソフトな風合は得られず、発色性も不十分である。一方、開口角度が150度を越えても風合、発色性が不十分である。
ポリエステル繊維を高度に異型化し風合、染色性改善方法として単糸断面をY型断面、十字型断面、H型断面、星型断面等にするものがあるが、高度に異型化することで染色性は改善されるが、布帛の風合が硬いという致命的欠点が顕在化するのである。また、凹部を3個所以上持たせる方法もあるが、W断面同様に風合、染色性も改善されるが、凹部の増加により紡糸ノズルの吐出線速度が低下し、紡糸安定性が低下するので好ましくない。本発明では、単糸断面形状をW字断面とすることによりソフトでしなやかな風合が得られ、発色性が向上し、紡糸安定性に優れたポリエステル繊維が得られることを見出した。
【0012】
本発明の易染性ポリエステル繊維は、動的粘弾性測定から求められる損失正接のピーク温度(Tmax)が85〜105℃であることが必要である。これは、この範囲内で本発明が求めるソフトでしなやかな風合が確保できるばかりか、染色性が高まり、同色性、染色堅牢度が良好となる。またTmaxは、非晶部の分子の移動性に対応するものであり、この値が小さくなるほど染料が非晶部に入りやすくなり染色性が高まる。Tmaxが85℃未満では原糸での力学物性、耐熱性の低下の問題があり、一方、Tmaxが105℃を越えると染色性が低下し、より高い温度での染色が必要となるのでアクリル繊維の風合を損なう問題が発生する。Tmaxの特に好ましい範囲は90〜100℃である。
また、Tmaxほど重要な条件ではないが、Tmaxにおける損失正接の値(tanδmax)は0.13〜0.22の範囲であることが好ましい。損失正接の値は非晶量に対応しており、この範囲から外れると本発明で得られる風合の悪化や染色性、染色堅牢度が悪化するばかりか色の再現性が悪くなる惧れがある。
【0013】
次に本発明の易染性ポリエステル繊維の好適な製造法について述べる。
本発明でいうポリエステル繊維とは構成単位の少なくとも90%以上がエチレンテレフタレートであり、前記のポリエチレングリコール成分以外にも5モル%以下の他の成分を共重合していてもよい。例えば、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、ホウ酸等の鎖分岐剤を小割合重合したものであってもよい。
また、前記共重合成分の他に通常のエステル交換触媒、重合触媒、リン化合物、二酸化チタン等の艶消し剤、着色防止剤、酸化分解防止剤、消泡剤、ケイ光増白剤、顔料などを必要に応じて含有させてもよい。
本発明の易染性ポリエステル繊維を構成するポリマーの重合方法は、公知の方法を採用することができる。すなわち、ポリエチレングリコールはテレフタル酸、エチレングリコール等と反応させてもよく、あるいはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応を行った後に反応させてもよく、ポリエステルの重合反応が完了する任意の段階で添加してもよい。また、現在工業生産が行われているバッチ重合法、連続重合法のいずれも適用できる。
【0014】
本発明の易染性ポリエステル繊維は、5000m/分以上の巻き取り速度で紡糸する高速紡糸法によって好適に得ることができる。5000m/分以下の巻き取り速度で得られた糸では製織製編工程において伸張が起こり、染斑や布帛の品質低下を頻発するため実用上の障害となる。一方、当該共重合ポリエステルを通常法や直延法を用いて繊維化しても動的粘弾性測定から求められる損失正接のピーク温度(Tmax)が85〜105℃の範囲外となり、アクリル繊維と混用した時の風合としてソフトでしなやかさは得られない。また染色バッチごとの色の再現性も不良となる。これは高速紡糸で得た繊維の非晶部分の配向が通常法や直延法で得た繊維のそれよりもはるかに小さいことに起因する。特に、本発明で用いるポリマーは非晶部分に適度に分子鎖の長いポリエチレングリコールを有するので、非晶部の配向が一層低下し、染色性が向上するばかりかソフトでしなやかな風合がいっそう助長され、しかも力学物性に優れた画期的な繊維となる。
【0015】
本発明においてソフトでしなやかな風合を付与するため単糸形状をW断面とし、高速紡糸法において製糸した場合、糸切れ、毛羽が多発することが明らかとなった。この事態を回避するため発明者らは鋭意研究を重ねた結果、図1および図2に示す通り、紡口ランド部形状を楕円形とすることで、単糸断面形状がW字状であっても紡糸時の断糸、ケバ等欠点の少ない高品位のポリエステル繊維が得られることを見出した。糸切れ、毛羽が多発する原因は定かではないが、単糸形状がW断面で紡口ランド部形状が真円の場合、ランド部にて異常滞留が生じ、ポリマーの熱劣化による粘度低下物がフィラメントに混入し、糸切れ、毛羽が多発したものと考えられる。特に5000m/分以上の高速紡糸の場合、ポリマーの粘度変動や触媒、添加剤の凝集等の影響を受けやすいため、ポリマー重合段階および製糸工程において細心の注意をはらう必要がある。特に本発明の場合、易染性を付与するためにポリエチレングリコールを共重合しており、耐熱性においては通常ポリエチレンテレフタレートに比べ劣るため、重合工程および紡糸工程においては異常滞留を極力防止する必要がある。
【0016】
紡口ランド部の楕円形状は、図2に示す如く、楕円に外接する長方形の長辺と短辺の比が1.2〜3.5の範囲にあることが好ましい。長辺と短辺の比が1.2未満あるいは3.5を超える場合は、本発明の狙いとする紡糸時の断糸、ケバ等欠点の少ない高品位なポリエステル繊維が得られないことがある。原因は定かではないが、長辺と短辺の比が1.2未満あるいは3.5を越えた場合、紡口ノズル形状とランド部形状とが不均衡となりランド部にポリマー長期滞留箇所が生じ、長期滞留によるポリマー粘度低下物がフィラメントに混入するため断糸や毛羽が生じやすくなるものと推察される。
本発明の易染性ポリエステル繊維は、例えば図3に示す紡糸装置を用いて製造することができる。本発明に用いられる給糸用ノズルからなる収束ガイド、巻取装置、およびその他の溶融紡糸に必要な装置は、公知のものが使用できる。また、本発明に用いる仕上油剤は、エマルジョンタイプ、ストレートタイプの何れでもよく、その成分は既知のものでよい。
【0017】
本発明の易染性ポリエステル繊維は、その単糸デシテックスを特に限定するものではないが0.1〜5デシテックス、より好ましくは0.5〜3デシテックス、また特に限定はしないがトータルデシテックスが10〜340デシテックスでの繊維が好ましく適用される。また繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよい。そして、繊維が加工される糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、単糸デシテックスが0.1〜5デシテックス程度のマルチフィラメント原糸(極細糸を含む)、甘撚糸乃至は強撚糸、仮撚加工糸(POYの延伸仮撚糸を含む)、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等が挙げられる。
なお本発明の混用品は、本発明の目的を損なわない範囲内でポリトリメチレンテレフタレート系繊維、ナイロン、スパンデックス、綿、キュプラ、ビスコースレーヨン繊維、タンパク繊維等他の繊維を混紡(サイロスパンやサイロフィル等)、交絡混繊(高収縮糸との異収縮混繊糸等)、交撚、複合仮撚(伸度差仮撚等)、2フィード空気噴射加工等の手段によって混用することができる。
【0018】
本発明において、混用されるアクリル繊維は、アクリロニトリル重合体及びアクリロニトリル共重合体、モダクリル繊維から構成されている繊維であって、アクリロニトリル重合体は、重量分率で85%以上100%未満のアクリロニトリルを含有するもの、モダクリル繊維は重量分率で10%以上85%未満のアクリロニトリルを含有するものをいう。 アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸及びそのエステル類、アクリルアミド及びN置換アミド類、塩化ビニル等のビニルハライド類、酢酸ビニル等のビニルエステル類、イタコン酸、マレイン酸等のビニルカルボン酸及びそのエステル類、塩化ビニリデン等のビニリデンハライド類、ビニルピリジン及びそのN置換体類、ビニルピロリドン、スチレン、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸化合物及びその塩類が挙げられ、これらの2種類以上を共重合に用いることもできる。
またその組成中に酸化アンチモン等の難燃性を向上させるための練りこみ剤や酸化チタン等の艶消し剤、あるいは他の目的のために使用される練り込み剤が含有されていてもよい。これらの共重合体の重合方法は、通常知られているビニル系単量体の重合方法であればいずれでもよく、例えばレドックス触媒を用いた水相懸濁重合、溶液重合、あるいは乳化重合等が一般的に用いられているが、重合方法及び重合条件によって何等限定されるものではない。
【0019】
本発明の混用品における易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維の割合は、易染性ポリエステル繊維が概ね65重量%以下である。混用の割合は混用品の形態あるいは用途に応じて選択される。残りの混用成分であるアクリル繊維は、その他にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、ナイロン、スパンデックス、綿、麻、キュプラ、ビスコースレーヨン、アセテート、タンパク繊維等が混用されることもあり得る。中でもポリトリメチレンテレフタレート繊維やナイロンカバリング糸を用いた3者混用の場合にはよりソフトな風合が得られるとともに体の動きに追従し、優れたストレッチ性が得られるとともに、伸長回復性にも優れ、長く着用しても形態安定性、防シワ性にも優れ好ましい。
本発明において、混用されるポリトリメチレンテレフタレート系繊維とは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維をいい、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらには80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらには20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0020】
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の好ましい特性としては、強度は2〜5cN/dtex、好ましくは2.5〜4.5cN/dtex、さらには3〜4.5cN/dtexが好ましい。伸度は30〜60%、好ましくは35〜55%、さらには40〜55%が好ましい。弾性率は30cN/dtex以下、好ましくは10〜30cN/dtex、さらには12〜28cN/dtex、特に15〜25cN/dtexが好ましい。10%伸長時の弾性回復率は70%以上、好ましくは80%以上、さらには90%以上、最も好ましくは95%以上である。 ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。
この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に合成した後、ブレンド(ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は、質量%で50%以上である)したり、複合紡糸(偏芯鞘芯、サイドバイサイド等)により少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートで構成される潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維としてもよい。
【0021】
複合紡糸に関しては、特公昭43−019108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報等に例示されるような、第一成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロンを並列的あるいは偏芯的に配置したサイドバイサイド型又は偏芯シースコア型に複合紡糸したものがあり、特にポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましく、特に、特開2000−239927号公報に例示されるような固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを用い、低粘度側が高粘度側を包み込むように接合面形状が湾曲しているサイドバイサイド型に複合紡糸したものが、高度のストレッチ性と嵩高性を兼備するものであり特に好ましい。二種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.4(dl/g)であることが好ましく、特に0.1〜0.35(dl/g)、さらに0.15〜0.35(dl/g)がよい。例えば高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。尚、低粘度側の固有粘度は0.8(dl/g)以上が好ましく、特に0.85〜1.0(dl/g)、さらに0.9〜1.0(dl/g)がよい。
【0022】
また、この複合繊維自体の固有粘度即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)がよく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましい。特に、0.85〜1.15(dl/g)が好ましく、さらに0.9〜1.1(dl/g)がよい。
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーではなく、紡糸されている糸の粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレート特有の欠点としてポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても熱分解によって固有粘度が著しく低下し、複合マルチフィラメントにおいては両者の固有粘度差を大きく維持することが困難であるためである。
二種のポリエステル成分の複合比(一般的に質量%で70/30〜30/70の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)は特に限定されない。又、総繊度は20〜300dtex、単糸繊度は0.5〜20dtexが好ましく用いられる。
【0023】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等が挙げられる。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
さらに、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0024】
本発明においてポリトリメチレンテレフタレート繊維の紡糸については、1500m/分程度の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)の何れを採用しても良い。 又、繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(偏平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
さらに糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、単糸デシテックスが0.1〜5デシテックス程度のマルチフィラメント原糸(極細糸を含む)、甘撚糸〜強撚糸、仮撚加工糸(POYの延伸仮撚糸を含む)、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等が挙げられる。
【0025】
本発明の易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維との複合手段は、糸段階で複合するものとして、混紡(混綿、フリース混紡、スライバー混紡、コアヤーン、サイロスパン、サイロフィル、ホロースピンドル等)、交絡混繊、交撚、意匠撚糸、カバリング(シングル、ダブル)、複合仮撚(同時仮撚、先撚仮撚)、伸度差仮撚、位相差、仮撚加工後に後混繊、2フィード(同時フィードやフィード差)空気噴射加工等の手段が挙げられ、機上で複合する手段としては、一般的な交編機があり、例えば交編では、両者を引き揃えて給糸したり、二重編地(例えばダブル丸編機、ダブル横編機、ダブルラッセル経編機)において表面及び又は裏面に各々給糸又は引き揃えて給糸する方法が挙げられる。
交編では一方が経糸に他方を緯糸に用いる、経糸及び又は緯糸において両者を1〜3本交互に整経や緯入れにより配置する、さらには起毛織物やパイル織物において一方が地組織を構成し、他方が起毛部、パイル部を構成したり混用して地組織、起毛部等を構成する。二重織物において表面及び又は裏面を各々構成、又は混用して構成する等がある。またこれら各種の糸段階での複合と機上での複合を組み合わせてもよい。特に、芯部に易染性ポリエステル繊維を、鞘部にアクリル繊維を配置するように複合した鞘芯複合糸や交撚糸は、アクリル繊維の風合を保持しつつ、寸法安定性、防シワ性などの機能性をも付与でき好ましい。
【0026】
次に、本発明の易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品の染色にあたって、易染性ポリエステル繊維を分散染料で染色する場合、通常ポリエステル繊維が分散染料にて染色されている染色条件であればいずれでも適用でき、染色助剤の種類とその使用濃度、染色pH、染色浴比、染色時間等は被染色品の種類、用いられる処理装置、染色法を勘案して適宜設定すればよい。分散染料としては、ベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾ、ナフタレンアゾ系)や複素環アゾ系(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリドンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾ等)に代表されるアゾ系分散染料の使用が易染性ポリエステル繊維の常圧染色における発色性を高め、同色性、染色堅牢度を高める上で好ましい。また、特に染色濃度が低い場合には、拡散指数3.0以上の分散染料を用いるとアクリル繊維への汚染が極めて少なく、染色バッチごとの色のバラツキが少なくなるので好ましい。またアクリル繊維の染色は、カチオン染料や分散型カチオン染料にて通常アクリル繊維が染色されている条件であればいずれでも適用でき、染色法は分散染料との二浴染色法、一浴二段染色法、一浴染色法等適宜実施すればよい。
染色する際の染色温度は100℃以下が好ましく、染色操作は、ウインス、ジッガー、ビーム染色機、液流染色機等の装置を用い、バッチ方式、連続方式のいずれによっても実施することができる。なお、浸染以外にパディング染色法、プリント法であっても実施することができる。
得られた混用染色品は、易染性ポリエステル繊維への分散染料の染着率を高め、染料の無駄を低減して発色性が高く、アクリル繊維との同色性が良好で見栄えのよい混用品の染色物が得られる。また染色バッチごとの色のバラツキを抑え染色機の操業率を向上させる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、本発明で用いられる特性値の測定法を以下に示す。
(1)固有粘度[η](dl/g)
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリマーの希釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
(2)強度・伸度
オリエンテック社製引張試験機を用い、糸長20cm、引張速20cm/分の条件で測定する。
(3)扁平度
扁平度は、次式にて繊維の単糸横断面の外接長方形の長辺Aと短辺Bの比にて求めた。
扁平度=長辺A/短辺B
【0028】
(4)損失正接
オリエンテック社製レオバイブロンを用い、試料重量約0.1mg、測定周波数110Hz、昇温速度5℃/分、乾燥空気中にて測定を行い、各温度における力学的損失正接(tanδ)、および動的粘弾性(E’)を測定する。その結果から、tanδ−温度曲線が得られ、この曲線上でtanδが最大値を示す温度Tmax(℃)とそのときのtanδの極大値tanδmaxを求める。
(5)吸尽率、発色性(K/S)測定:染色性の評価
試料は、糸を一口編地としスコアロール400を2g/リットル含む温水を用いて、70℃、20分間精錬処理し、タンブラー乾燥機で乾燥させ、次いで、ピンテンターを用いて、180℃、30秒間の熱セットを行ったものを用いた。
【0029】
染料は、スミカロン ブルー S−3RF(住化ケムテックス(株)製、商品名)を布帛に対して5重量%使用し、さらに分散剤として、ニッカサンソルト7000(日華化学(株)製、商品名)0.5g/リットル、酢酸0.25ml/リットル、酢酸ナトリウム1.0g/リットルを添加してpHを5に調整して染液とした。浴比25倍の染浴中で95℃にて60分の染色後、吸尽率を求めた。吸尽率は、染料原液の吸光度をA、染色後の染液の吸光度aを分光光度計から求め、以下の式に代入して求めた。吸光度は、当該染料の最大吸収波長である580nmでの値を採用した。
吸尽率=(A−a)/A×100(%)
発色性は、K/Sを用いて評価した。この値は、染色後のサンプル布帛の分光反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。この値が大きいほど発色性が高い(表面濃度が高い)こと、すなはち、良く発色されていることを示す。当該染料の最大吸収波長である580nmでの値を採用した。
K/S=(1−R)2/2R
ちなみにレギュラーポリエステル繊維(56デシテックス/24f)を上記条件で130℃で60分染色後の吸尽率は94%で、K/S値は21であった。
【0030】
(6)紡糸性の評価
1錘で24時間紡糸した場合の糸切れ回数で以下のように評価した。糸切れ回数が1回以下を○、1〜3回までを△、3回を越える場合を×とした。
(7)風合い評価
検査者(30人)の触感によって布帛を次の基準で相対評価した。
◎ :ソフト、しなやか感が非常によい
○ :ソフト、しなやか感はよい
△ :ソフト、しなやか感はやや劣る
× :ソフト、しなやか感がない
【0031】
(8)同色性
易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維との明度差が少なく、色相差、彩度差、イラツキが少ないものを良好とし、5級(良好)〜1級(劣る)の5段階に判定した。
(9)洗濯堅牢度
混用染色品について、JIS−L−0844;A−2法に準じて評価した。但し、洗剤はアタック(花王(株)製:商品名)1g/リットルで用いた。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度をそれぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
【0032】
(10)汗アルカリ堅牢度
混用染色品について、JIS−L−0844に準じてアルカリ性人工汗液を用いて評価した。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度をそれぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
(11)伸長回復率
混用染色品について、布帛のタテ、ヨコ方向それぞれ巾5cm、長さ30cmの試験片を採取し、試験片の巾で、長さ1mの重量を初荷重とし、試験片の一端を固定し、他端に初荷重をかけ、20cm間隔に印しを付け、1.8kgの荷重を5分間かけたときの布帛の伸びをを測定し、伸長率(%)を求める。
伸長率(%)=(L1−L0)/L0×100
L0:印間の長さ(20cm)
L1:1.8kgの荷重をかけたときの印間の長さ
次にこの伸長率の80%まで伸ばして1分間放置し、原長までもどして3分間放置する。これを5回繰り返し操作したのち、初荷重をかけて再び印間の長さを測定(L2)し下記式で伸長回復率を求める。
伸長回復率(%)={(L1−L2)/(L1−L0}×100
測定値はタテ、ヨコの平均値で表す。
【0033】
[実施例1、比較例1]
テレフタル酸ジメチル(以下、DMTと称す)100部、エチレングリコール76部、エステル交換触媒として酢酸マンガン4水和物塩0.04部を仕込み、150℃から240℃に加熱して3時間を要してメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、安定剤としてトリメチルフォスフェート0.04部、重合触媒として三酸化アンチモン0.05部、艶消し剤として二酸化チタン0.4部を添加した後、表1記載の分子量及び添加量にてポリエチレングリコールと、熱安定剤としてイルガノックス245(チバガイギー社製)をポリエチレングリコールに対して3%となるように加え混合添加する。その後、30分かけて常圧にて重縮合反応を行い、重合槽に移送した。移送完了後、徐々に減圧して、真空度0.5Torr、275℃で重縮合反応を行い、固有粘度[η]=0.73の改質ポリエステルを得た。これらポリマーを用いて、紡口ランド部形状が楕円形(長辺/短辺の比が2.0)でW型に穿孔された紡糸孔30個有する紡口を使用して、紡糸温度280℃、巻取速度6000m/分で高速紡糸を行い、単糸断面形状がW断面を有した84デシテックス/30フィラメントの繊維を得た。なお、比較例1−(5) として丸型に穿孔された紡口を用いて得られた扁平度1.0の繊維の例、比較例1−(6) として紡口孔形状を変更して得られた扁平度1.8の繊維の例、比較例1−(7) として巻取速度が1500m/分で製造後延燃されて得られた繊維の例を示す。
得られた易染性ポリエステル繊維のTmax、偏平率、強度、伸度、発色性、紡糸性評価結果を表1に記載した。
この糸条とアクリル繊維60番単糸を用い、常法にて18ゲージ丸編フライス編地を編成した。ポリエステル繊維の混用率は50%で、編地目付は165g/m2 であった。
【0034】
得られた編地を80℃にて精練リラックスを行い、160℃で乾熱セットを行い、下記の染色条件で各々染色した。
染色条件
染料:ダイアニックス イエロー AC−E 0.363%omf
(拡散指数3.9)
ダイアニックス レッド AC−E 0.264%omf
(拡散指数4.8)
ダイアニックス ブルー AC−E 0.077%omf
(拡散指数5.2)
(分散染料は全てダイスター社製、染料濃度はポリエステル重量に対する
割合を示す)
カヤクリル イエロー 3RL−ED 0.347%omf
カヤクリル レッド GRL−ED 0.129%omf
カヤクリル ブルー GSL−ED 0.036%omf
(カチオン染料は全て日本化薬カラーズ社製、染料濃度はアクリル重量に
対する割合を示す)
酢酸: 0.8cc/リットル
酢酸ナトリウム: 1g/リットル
SR−1801Mコンク(高松油脂(株)製) 4%omf
浴 比 : 1:20
染色温度、時間: 95℃、30分
染色完了後、非イオン洗浄剤0.5g/リットルの浴で60℃、15分のソーピング、水洗し、140℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度、同色性の評価などの結果を表1に示す。
表1の結果より、本発明の実施例1で得られた混用品は、いずれも比較例1に比べ、ソフトでしなやかな風合を有し、イラツキがなく同色性が良好であり、且つ堅牢度性能も良好な商品価値の高い混用品が得られることがわかる。
【0035】
[実施例2、比較例2]
実施例1および比較例1で製造された84デシテックス/30フィラメントの各々のポリエステル原糸を2ヒータータイプの仮撚機にて次の加工条件にて仮撚加工糸を作製した。加工条件は、糸速500m/分、ファーストヒーター温度180℃、セカンドヒーター温度160℃、ベルト角105度、延伸倍率1.09とした。
次に、固有粘度[η]=0.92のポリトリメチレンテレフタレートを紡糸温度265℃、紡糸速度1200m/分で未延伸糸を得、次いで、ホットロール温度60℃、ホットプレート温度140℃、延伸倍率3倍、延伸速度800m/分で延撚して、84dtex/36fの延伸糸を得た。延伸糸の強伸度、弾性率並びに10%伸長時の弾性回復率は、各々3.4cN/dtex、48%、21cN/dtex並びに98%であった。尚、10%伸長時の弾性回復率は以下の方法で求めた。
【0036】
繊維をチャック間距離10cmで引っ張り試験機に取り付け、伸長率10%まで引っ張り速度20cm/分で伸長し1分間放置した。その後、再び同じ速度で収縮させ、応力−歪み曲線を描く。収縮中、応力がゼロになった時の伸度を残留伸度(A)とする。弾性回復率は以下の式に従って求めた。
10%伸長時の弾性回復率=[(10−A)/10]×100(%)
次に、2ヒータータイプの仮撚機を用い次の加工条件にて仮撚加工糸を作製した。加工条件は、糸速400m/分、ファーストヒーター温度170℃、セカンドヒーター温度170℃、ベルト角110度、延伸倍率1.225である。
次に得られた各々のポリエステル加工糸とポリトリメチレンテレフタレート加工糸とアクリル繊維60番単糸を混用しながら、実施例1と同様に18ゲージ丸編フライス編地を作製した。ポリエステル繊維の混用率は25%で、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の混用率は25%で、目付165g/m2 であった。
【0037】
得られた編地を40℃、60℃、90℃と温度を変えながら拡布状で精練リラックスした後、160℃にて乾熱セットを行い、下記の条件にて各々染色した。 染色条件
染料:ダイアニックス ブラック S−R (200) 5.5%omf
(ダイスター社製、染料濃度はポリエステル、ポリトリメチレンテレフタレ
ート重量に対する割合を示す)
カヤクリル ブラック R−ED 9.5%omf
(日本化薬カラーズ社製、染料濃度はアクリル重量に対する割合を示す)
酢酸: 0.8cc/リットル
酢酸ナトリウム: 1g/リットル
SR−1801Mコンク(高松油脂(株)製): 6%omf
浴比: 1:20
染色温度、時間: 98℃、50分
染色完了後、染色機から染色残液を排出し、染色機に水を入れ、温度を70℃まで昇温し、これに下記薬剤を添加して下記の濃度の還元洗浄浴を調整し、70℃で10分間の還元洗浄を実施した。
二酸化チオ尿素 1g/リットル
トリポリリン酸ソーダー 1g/リットル
ビスノールUP−10(一方社油脂工業(株)製) 0.5g/リットル
この還元洗浄後、残液を排出し、温湯及び水により染色物をすすぎ洗いした後、140℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。
仕上げた染色物の風合、同色性、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度の評価などの結果を表2に示す。
【0038】
[比較例3]
さらに比較として、アクリル繊維60番単糸を用い、実施例2と同様に18ゲージフライス編地を作製し、常法により精練、カチオン染料にて黒染色、ソーピングを行った後、140℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度の評価結果を表2に示す。
表2の結果より、本発明の実施例2による混用品は、いずれも比較例2に比べ、ソフトでしなやかな風合を有し、且つ同色性、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度も良好であることがわかる。またアクリル繊維とほぼ同じ風合が得られており、伸長回復率に優れている。
【0039】
[実施例3、比較例4]
ナイロン−6仮撚加工糸78dtex/24fと22dtexのポリエーテル系ポリウレタン繊維(旭化成せんい(株)製、商品名:ロイカSC)をドラフト2.5倍でZ方向に1200T/Mで合糸追撚した糸条と実施例2及び比較例2で作製した各々のポリエステル加工糸とアクリル繊維60番単糸の3種類を混用しながら18ゲージ片袋編地を作製した。ポリエステル繊維の混用率は25%で、ナイロンカバリング糸の混用率は25%で、目付180g/m2 であった。
得られた編地を40℃、60℃、90℃と温度を変えながら拡布状で精練リラックスした後、160℃にて乾熱セットを行い、下記の条件にて各々染色した。
【0040】
染色条件
染料:ダイアニックス イエロー AC−E 0.363%omf
(拡散指数3.9)
ダイアニックス レッド AC−E 0.264%omf
(拡散指数4.8)
ダイアニックス ブルー AC−E 0.077%omf
(拡散指数5.2)
(分散染料は全てダイスター社製、染料濃度はポリエステル重量に対する割合
を示す)
カヤノール イエロー N−3R 0.082%omf
カヤノール レッド NBR 0.049%omf
カヤノール ブルー NR 0.016%omf
(酸性染料は全て日本化薬カラーズ社製、染料濃度はナイロン重量に対する割
合)
カヤクリル イエロー 3RL−ED 0.347%omf
カヤクリル レッド GRL−ED 0.129%omf
カヤクリル ブルー GSL−ED 0.036%omf
(カチオン染料は全て日本化薬カラーズ社製、染料濃度はアクリル重量に対す
る割合を示す)
酢酸: 0.8cc/リットル
酢酸ナトリウム: 1g/リットル
SR−1801Mコンク(高松油脂(株)製) 4%omf
浴 比 : 1:20
染色温度、時間: 95℃、30分
【0041】
染色完了後、非イオン洗浄剤0.5g/リットルの浴で60℃、15分のソーピング、水洗し、140℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度、同色性の評価などの結果を表3に示す。
表3の結果より、本発明の実施例3で得られた混用品は、いずれも比較例4に比べ、ソフトでしなやかな風合を有し、イラツキがなく同色性が良好であり、かつ堅牢度性能も良好な商品価値の高い混用品が得られることがわかる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の混用品は特にインナー分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明で使用する易染性ポリエステル繊維の紡糸における紡口の断面概要図の例を示す。
【図2】本発明で使用する易染性ポリエステル繊維の紡糸における紡口のランド部平面概要図の例を示す。
【図3】本発明で使用する易染性ポリエステル繊維の紡糸生産工程例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜8重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸の断面形状がW字状で、下記の条件(1)を満足するポリエステル繊維であって、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が下記(2)で示される範囲にある易染性ポリエステル繊維とアクリル繊維とからなることを特徴とするポリエステル繊維とアクリル繊維との混用品。
(1) 2.0≦扁平度≦4.0
(2) 85℃≦(Tmax)≦105℃

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−57194(P2006−57194A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238019(P2004−238019)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】