説明

ポリエステル繊維

【課題】カチオン染料に可染であり、かつ軽量、嵩高性、難燃性、及び耐光性を有したポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】以下に示すポリエステル繊維であることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。a)ポリエステル繊維が、特定のリン系化合物を該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されていること。b)ポリエステル繊維が、特定のカチオン可染剤を含有すること。c)断面形状が、繊維断面コアー部2から外側へ突出したフィン部1が3〜8個存在する形状であること。d)中空率が20〜40%の中空繊維であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量で嵩高性に富む難燃性カチオン可染性ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある)はその優れた機械的特性と化学的特性のため、 衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。しかし、ポリエステルは、衣料用繊維としては染色性が良好とは言えず、染色物の鮮明さが劣るという欠点を有している。
【0003】
従来、このような欠点を補うため、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などに代表されるスルホン酸塩基含有成分を共重合した、塩基性染料に可染性のポリエステル(以下、カチオン可染ポリエステルと略記。)が公知であり、そのようなポリエステルからなる繊維が衣料分野において使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらのカチオン可染ポリエステル繊維は、通常のポリエステル繊維よりも溶融粘度が高く、燃焼時の溶融落下が起き難いため、延焼しやすいという欠点があり、難燃性が要求される分野での使用が制限されるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、特定の含リンジカルボン酸化合物とスルホン酸塩基含有成分が共重合されたポリエステル樹脂を用いてマルチフィラメントとすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ポリエステル樹脂段階において、スルホン酸塩基含有成分を共重合する際には、その酸触媒作用によって、重合反応過程でジエチレングリコールの生成が促進され、得られるポリエステル中のジエチレングリコール含有量が高くなる傾向にある。したがって、リン化合物が共重合されている上、ジエチレングリコール含有量が高くなることにより、曳糸性、耐光性に問題が生じるおそれがあり、用途が制限されていた。
【0005】
このような問題を解決するためにジエチレングリコール(以下、DEGと略記) の含有量を規定しているが、ここで使用されているリン化合物の分子量が大きいために質量部換算で多量のリン化合物を使用する必要があるためにガラス転移温度の低下が起こり、繊維製造工程における乾燥時にポリマーの融着などの問題が発生する(例えば、特許文献3参照)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開平7−109621号公報
【特許文献3】特許第3168107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、軽量、嵩高性、カチオン可染性であり、かつ難燃性と耐光性を有したポリエステル糸を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果得られたもので、
即ち本発明によれば、
下記要件満足することを特徴とするポリエステル繊維、
a)ポリエステル繊維が、下記一般式(1)で表されるリン系化合物を該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されていること。
b)ポリエステル繊維が、カチオン可染剤を含有すること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【0009】
好ましくは、
カチオン可染剤が下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)であるポリエステル繊維、
【化2】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【0010】
さらに好ましくは、
カチオン可染剤が上記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(3)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有するポリエステル繊維、
【化3】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す]
【0011】
また、
繊維の繊維軸に直交する断面形状が偏平形状であり、その偏平形状は、長手方向に丸断面単糸の3〜6個が連続して融着したような形状を有し、単糸の断面形状が長手方向の長さ(長軸)/幅(短軸)の比が2/1〜5/1の範囲であるポリエステル繊維、
さらに、
繊維の繊維軸に直交する断面形状が、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在する形状で、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7であるポリエステル繊維、
突起係数=(a1―b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
また、
繊維が中空断面繊維で、中空率が20〜40%であり、単糸繊度が0.5〜5.0dtexであるポリエステル繊維、
上記中空断面繊維が、複数のスリットからなる吐出孔を有する紡糸口金を用い、吐出線速度3〜5cm/secの範囲で溶融ポリマーを吐出し、口金面から30〜50mmの付近より風速0.2〜0.8m/secで冷却固化したポリマー糸条を引き取り、そのまま又は一旦巻取り後に伸度25〜40%になるよう延伸処理することによって得られたものであるポリエステル繊維、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
一般に、カチオン可染ポリエステル繊維は、通常のポリエステル繊維よりも溶融粘度が高いため、燃焼しやすいという欠点を有しているが、本発明のポリエステル繊維は特定の有機リン化合物を含有しており、これが燃焼時にポリエステルの熱分解を促進して溶融落下を助長するため、難燃性が優れている。また、ジエチレングリコール(以下、DEGと略記)含有量が少なく、曳糸性に優れている。
好ましくは、ポリエステル繊維が2種の有機スルホイソフタル酸化合物が特定条件を満足するように共重合されているものであり、曳糸性、カチオン可染性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の扁平断面繊維の長さ方向に対する直角断面図の模式図を示すもの
【図2】本発明で使用する紡糸口金吐出孔の一実施態様を示した模式図
【図3】本発明のポリエステルマルチ繊維の一実施態様(異形断面繊維)を示した模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステル糸を構成するポリエステルは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、下記式(1)で表されるリン化合物を難燃剤として、且つカチオン可染剤を含有する必要がある。好ましくはカチオン可染剤が下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)であり、さらに好ましくは、下記式(2)と下記式(3)で表される化合物(B)を、下記数式1及び2を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであり、該ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5モル%以下であり、且つ得られる共重合ポリエステルの固有粘度は0.55〜1.0の範囲であることが好ましい。
【0015】
【化4】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【0016】
【化5】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【0017】
【化6】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0018】
難燃剤として上記一般式(1)で表される有機リン化合物が、ポリエステル全重量に対して、リン原子含有量で1,000〜10,000ppmとなるよう、好ましくは3,000〜9,000ppmとなるよう含むことが必要であり、好ましくは共重合されて含まれていることである。有機リン化合物の含有量が、リン原子の含有量として1,000ppm未満になると十分な難燃性能が得られず、10,000を超えると、紡糸操業性が低下したり、糸強度が不足したりするため好ましくない。
【0019】
(成分Aについての説明)
本発明で使用される上記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸の金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)が例示される。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。これらの群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸の金属塩が好ましく例示され、特に、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩およびそのジメチルエステルである5−スルホイソフタル酸ジメチルのナトリウム塩が特に好ましく例示される。
【0020】
(成分Bについての説明)
また、上記化学式(3)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸あるいはその低級アルキルアエステルの4級ホスホニウム塩または4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、アルキル基、ベンジル基、フェニル基が置換された4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記化学式1で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステルが好ましく例示される。
【0021】
(数式1の説明)
本発明において、ポリエステルに共重合させる成分Aと成分Bの合計は酸成分を基準として、A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。
【0022】
(数式2の説明)
また、成分Aと成分Bの成分比は、B/(A+B)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られるポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり成分Bの割合が多い状態では、反応が遅くなり、さらに成分Bの比率が多くなると分解が進むため重合度を上げることができない。さらに、成分Bの比率多くなると熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。
【0023】
上記式(1)のような有機リン化合物をポリエステルに共重合する方法としては、ポリエステルの重合段階において有機リン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、有機リン化合物をエチレングリコール(以下、EGと略記)、メタノール等と反応させてエステルの形にしてから反応系に添加してもよい。
【0024】
(DEG含有量について)
また、本発明においてポリエステルは、DEGの含有量が3.0重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のDEG含有量が3.0重量%を超えると、耐光性が劣り、染色物が色あせするため好ましくない。より好ましくは2.5重量%以下である。
【0025】
DEG含有量は、有機スルホン酸金属塩成分の共重合割合が増すに従い、その酸触媒作用によって増加する傾向にある。また、有機リン化合物の共重合割合が増しても、DEG量は増える傾向にある。しかしDEG含有量は、ポリエステルの重合の際、本発明に用いる有機スルホイソフタル酸化合物により増加を抑制させることが容易となる。
【0026】
また添加時期、添加後の反応条件により制御することが好ましく、PETオリゴマーを重縮合反応缶に移送し、必要に応じてEGを添加して解重合を行った後、250度以下の温度条件下で上記の化合物を添加し、その後15分以内に減圧を開始して重合反応を開始することが好ましい。
【0027】
本発明に用いるポリエステルには必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱安定剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤又は耐衝撃剤等の添加剤を共重合、又は混合してもよい。
【0028】
本発明に用いるポリエステルの固有粘度(ポリエステルチップをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した値)は、0.10〜2.00dL/g、より好ましくは0.30〜1.50dL/g、さらに好ましくは0.40〜1.30dL/gの範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明に用いるポリエステルには、ジエチレングリコールの生成を抑制するため、必要に応じて塩基成分を加えることができる。その塩基成分としては、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウムをはじめとする有機酸アルキル金属塩、又はトリエチルアミンをはじめとするアミン化合物、水酸化テトラエチルアンモニウムをはじめとするアンモニウム系化合物を例示することができる。
【0030】
また本発明の中空または異型断面糸の単糸繊度は0.5〜5.0dtex、好ましくは1.2〜4.0dtexの範囲が好ましい。以下に説明する。
【0031】
(異型断面糸)
本発明の異型断面糸の好ましい態様として偏平繊維が挙げられる。図1により説明する。図1(a)〜(e)は偏平断面繊維の断面形状を模式的に示したものであり、(a)は3個、(b)は4個、(c)は5個の丸断面単糸が接合したような形状を示している。すなわち、長手方向(長軸方向)に丸断面単糸が接合したような形状であり、長軸を軸として凸部と凸部(山と山)、凹部と凹部(谷と谷)が対称に互いに重なり合う形をしており、上記のように丸断面単糸の数は3〜6個である。丸断面単糸の数が2個の場合には、単に丸断面繊維を布帛にした場合に近いソフト性しか得られず、一方、丸断面単糸の数が6個を超えると、繊維が割れ易くなり、耐摩耗性が低下する。
【0032】
製糸方法としては該断面形状が得られるような口金装置を用いて、紡糸口金吐出孔でのポリマー吐出平均線速度が4〜7m/minで3500〜4500m/minの速度で紡糸捲き取りすることが好ましい。紡糸後に延伸と仮撚を同時にまたは続いて行う方法などの任意の製糸方法で製造することができる。紡糸口金吐出孔でのポリマー吐出平均線速度が4m/min未満の場合、吐出平均線速度が遅すぎることによる吐出斑(メルトフラクチャー)が発生し、糸斑による染色斑や紡糸工程での断糸による工程通過性が著しく低下する。ポリマー吐出平均線速度が7m/minを超える場合、繊維断面を高度に異型化することが出来なくなり該繊維に必要な偏平断面形状が得られない。
【0033】
また異型断面の別の一態様として図3で示すフィン付異型断面糸をあげることができる。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを270℃〜300℃の範囲で図2で示す口金から溶融紡糸して引取り速度は400〜5000m/minで紡糸することが好ましい。断面形状は、図3において、下記式で表される突起係数が0.3〜0.7、より好ましくは0.4〜0.6である、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部(図3の1)が3〜6個、好ましくは4〜6個存在する形状を呈していることが好ましい。
突起係数=(a1―b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
【0034】
該突起係数が0.3未満のフィン部は、延伸仮撚加工後の繊維断面に充分な空隙を形成する機能がなく、吸水・速乾性能を発現することができない。さらにこのような短小フィン部は、布帛に吸水処理剤を施す場合のアンカー効果が小さくなるため、該処理剤の洗濯耐久性を低下させる傾向にある。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、突起係数が0.7を越えるフィン部は、延伸仮撚加工時、該フィン部に加工張力が集中しやすいため、繊維断面の部分的破壊が発生して十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽も頻発する。フィン部の数が3個以上であることが好ましい。フィン部の数が1〜2個では、内側に閉じた繊維断面部分が最大1個しか形成されなくなるので、十分な毛細管現象が発現せず、吸水性能が不十分となる。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、6個を越える場合には、延伸仮撚加工時、フィン部への加工張力集中が発生し、繊維断面の部分的破壊が起こり、十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽が頻発する。
【0035】
(中空断面糸)
中空率は20〜40%であることが好ましい。20%未満であれば軽量とはならず、40%を超える場合は生産性が低下する。製糸方法は、共重合ポリエチレンテレフタレートチップを、同心円状の二重丸の単糸断面形状となる吐出孔を有した紡糸口金から、紡糸温度290℃で紡出し、油剤を付与し、紡糸速度3000m/minで引き取ることにより中空断面マルチフィラメントとすることができる。
【0036】
さらに詳しくは、複数のスリットからなる吐出孔を有する紡糸口金を用い、吐出線速度3〜5cm/secの範囲で溶融ポリマーを吐出し、口金面から30〜50mmの付近より風速0.2〜0.8m/secで冷却固化したポリマー糸条を引き取り、そのまま又は一旦巻取り後に伸度25〜40%になるよう延伸処理することによって得られる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
(2)リン原子含有量
リガク社製蛍光X線スペクトロメーター ZSX100e型を用いて、蛍光X線法により定量した。
(3)繊維の強度、伸度
JIS L−1013−75に準じて測定した。
(4)難燃性 #100%使いの筒編みで測定#
JIS K 7201に準拠してLOI値(限界酸素指数)を測定し、27以上を合格とした。
(5)紡糸性
紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数が1回未満を紡糸性:○とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
(6)染着率
CATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可溶性染料)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて120℃で40分、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD0−OD1)/OD0
OD0:染色前の染液の576nmの吸光度
OD1:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明の実施例では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0038】
[実施例1]
ジメチルテレフタレート100重量部、カチオン可染剤であるスルホイソフタル酸金属塩として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4.1重量部、エチレングリコール50重量部との混合物に酢酸カルシウム0.015重量部、撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、難燃剤[上記式(1)中、Rが2―ヒドロキシエチル基、Rがメチル基であり、Rが水素である化合物]3.0重量部をエステル交換反応後期に添加し、エステル交換反応を終了させた。
反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部とカチオン可染剤として5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート2.8重量部、及び水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、もしくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化した。
上記で得られたチップをエクストルーダー型押し出し機で紡糸温度295℃で紡出した。図1(b)に示す断面形状となる紡糸孔を有する紡糸口金からそれぞれ紡糸した糸条に油剤を付与し2800m/分の速度で紡糸し一旦巻き取った後に、予熱温度90℃、熱セット温度200℃で延伸機で1.56倍に延伸した。
得られた繊維を経糸、緯糸に用いて羽二重に製織し、常法に従って精練、熱セット、アルカリ減量加工(減量率15%)染色を施して無地の染め織物を得た。得られた結果を表1に記す。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様のポリエステル組成物を用いて以下の方法で紡糸した。半径0.15mm(図2のb2)のコアー部形成用円形吐出孔1個およびスリット幅が0.10mmでおのおの表3に示す該円形吐出孔中心点から先端部までの長さ(図2のa2)のフィン部形成用吐出孔が4個ある吐出孔群を24群穿設した紡糸口金を使用し、紡糸温度295℃で紡出した。糸条に油剤を付与し2600m/minの速度で紡糸し一旦巻き取った後に、予熱温度90℃、熱セット温度200℃で延伸機で1.65倍に延伸した。
得られた繊維を経糸、緯糸に用いて羽二重に製織し、常法に従って精練、熱セット、アルカリ減量加工(減量率15%)染色を施して無地の染め織物を得た。得られた結果を表1に記す。
【0040】
[実施例3]
実施例1で得られたチップを用いて以下の方法で紡糸した。4つのスリットからなる吐出孔であり、吐出孔48ホールが一列同心円状に配列してある紡糸口金から、ポリマー吐出温度293℃とし、単一吐出孔でのポリマー吐出平均線速度が3.6cm/secとなるようとなるように押し出して、紡糸口金直下に設けた50〜290℃の雰囲気温度に保持した長さ3.7cmの保温領域を通過させて20℃、平均風速0.4m/sec.の冷却風により溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、紡糸口金から600mmの位置にてオイリングノズルによるオイリングを行うと同時にマルチフィラメントの糸条を集束させて2900m/minの速度で紡糸捲き取りを行い繊度56dtex、フィラメント数48、伸度110%の部分的未延伸中空ポリエステルマルチフィラメントを得た。得られた部分的未延伸中空ポリエステル繊維を予熱温度90℃、熱セット温度200℃で1.56倍の延伸処理をおこない繊度36dtex、フィラメント数48、単糸繊度0.75dtex、伸度27%の中空ポリエステル繊維を得た。
得られた繊維を経糸、緯糸に用いて羽二重に製織し、常法に従って精練、熱セット、アルカリ減量加工(減量率15%)染色を施して無地の染め織物を得た。得られた結果を表1に記す。
【0041】
[実施例4]
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物にカチオン可染剤であるスルホイソフタル酸金属塩として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル2.3重量部、酢酸カルシウム0.063重量部、酢酸ナトリウム0.17重量部を、撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、[上記式(1)中、Rが2―ヒドロキシエチル基、Rがメチル基であり、Rが水素である化合物]3.0重量部をエステル交換反応後期に添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.018重量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、280℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、固有粘度0.58dL/g、ジエチレングリコール含有量が2.46重量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。
上記の方法で得られたチップを使用した以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、難燃剤を表1のようにした以外は同様のポリエステル組成物を用いて以下の方法で紡糸した。0.25Φの吐出孔を36ホールもつ口金から23g/分で吐出させた。紡糸筒により冷却した後、集束し、油剤を付加して、1300m/minの速度で引き取り、80dtex/36filの丸中実断面のポリエステル繊維を得た。結果を表1に示す。実施例1〜4に比べ難燃性能が劣っていた。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は優れた染色性を有しており、従来品よりもより広範な用途に応用できる。例えば、厚地織物、衣料、カーペット、カーテン、不織布、ボトル、フィルム、構造部品、機械的伝導部品等が挙げられる。特に、通常の繊維や通常の難燃繊維の間に本発明の繊維を挟んで製造される、遮光カーテン、テント地、キャンバス地、や衣料素材においては、難燃性と染色性と言うこれまで両立が困難であった機能が付与でき、工業的な価値は非常に大きいものがある。
【符号の説明】
【0045】
(a)本発明のポリエステル偏平断面繊維を構成する単糸の断面図
(b)本発明のポリエステル偏平断面繊維を構成する単糸の断面図
(c)本発明のポリエステル偏平断面繊維を構成する単糸の断面図
(d)本発明外の2つの山を有する偏平断面繊維の断面図
(e)本発明外の7つの山を有する偏平断面繊維の断面図
(f)本発明外の偏平断面繊維の断面図
1 :繊維断面フィン部
2 :繊維断面コアー部
3 :コアー部形成用円形吐出孔
4 :フィン部形成用吐出孔のスリット状開口部
5 :フィン部形成用吐出孔の小円状開口部
a1 :繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1 :繊維断面内面壁の内接円半径
a2:コアー部形成用吐出孔中心点からフィン部形成用吐出孔先端部までの長さ
b2:コアー部形成用吐出孔の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件を満足することを特徴とするポリエステル繊維。
a)ポリエステル繊維が、下記一般式(1)で表されるリン系化合物を該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されていること。
b)ポリエステル繊維が、カチオン可染剤を含有すること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【請求項2】
カチオン可染剤が下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)である請求項1記載のポリエステル繊維。
【化2】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【請求項3】
カチオン可染剤が下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(3)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有する請求項1記載のポリエステル繊維。
【化3】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【化4】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【請求項4】
繊維の繊維軸に直交する断面形状が偏平形状であり、その偏平形状は、長手方向に丸断面単糸の3〜6個が連続して融着したような形状を有し、単糸の断面形状が長手方向の長さ(長軸)/幅(短軸)の比が2/1〜5/1の範囲である請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
繊維の繊維軸に直交する断面形状が、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜8個存在する形状で、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7である請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル繊維。
突起係数=(a1―b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
【請求項6】
繊維が中空繊維であって、中空率が20〜40%であり、単糸繊度が0.5〜5.0dtexである、請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
中空断面繊維が、複数のスリットからなる吐出孔を有する紡糸口金を用い、吐出線速度3〜5cm/secの範囲で溶融ポリマーを吐出し、口金面から30〜50mmの付近より風速0.2〜0.8m/secで冷却固化したポリマー糸条を引き取り、そのまま又は一旦巻取り後に伸度25〜40%になるよう延伸処理することによって得られたものである請求項6に記載のポリエステル繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106071(P2011−106071A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264036(P2009−264036)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】