説明

ポリエステル複合長繊維不織布

【課題】低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが鞘部に配された複合繊維の長繊維からなる不織布であって、繊維構造物等に介在させて熱接着処理する際には低い温度で加工することができ、さらには、熱収縮率が小さく、寸法安定性や耐熱性、難燃性に優れた繊維構造物(製品)を得ることができるポリエステル複合長繊維不織布を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、非晶性のポリエステルBとで構成され、かつ繊維中のリン原子の含有量が2000〜15000ppmである複合長繊維が堆積したウエブで構成された長繊維不織布であって、面積収縮率が10%以下であるポリエステル複合長繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが鞘部に配され、かつ難燃剤を含有する複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成された長繊維不織布であって、寸法安定性及び熱接着性、難燃性に優れたポリエステル複合長繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
近年、自動車用内装材において、繊維を接着してなる不織構造物が提案されており、さらにこれを補強する目的で不織構造物同士を接着させて用いることがある。このように不織構造物同士を接着させる際には、不織構造物と不織構造物の間に熱接着性を有する繊維からなる不織布を介在させて、熱処理を施すことにより両不織構造物を接着させる。このような不織布としては、不織構造物が主としてポリエステル系繊維からなるため、リサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなるものが好適である。
【0004】
そして、このような不織布としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートで構成された長繊維からなる不織布が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織布では、熱接着させる際に接着剤として機能するものは、不織布中に含まれるバインダー繊維(ポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリマーで構成された繊維)のみである。バインダー繊維の量は相対的に少ないため、不織構造物同士を長繊維不織布で接着させるには接着性が弱く、剥離しやすいものであった。
【0005】
また、不織構造物との接着性を向上させるために、ポリエチレンテレフタレートを芯部とし、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合長繊維からなる不織布も用いられている。この不織布は、高融点を有する芯部と低融点を有する鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、芯部を溶融させず繊維形態を保持させ、鞘部のみを溶融させることにより、強度を保持することができる。
【0006】
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、熱接着処理の際に繊維が収縮し、得られた不織構造物の寸法安定性が悪くなるという問題があった。また、接着後の不織構造物を高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下して変形するという問題も生じるものであった。
【0007】
上記問題を解決するものとして、特許文献1には芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
【0008】
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、この複合繊維を用いた不織布は、熱接着処理の際の収縮が小さいものとなる。このため、この不織布を用いて接着した不織構造物等の寸法安定性は優れており、また、接着後の不織構造物を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性も優れたものとなる。
【0009】
しかしながら、鞘部の共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着処理の際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0010】
また、自動車用内装材やインテリア用途等においては、熱接着性を有する長繊維不織布を用いて熱接着して得られた不織布構造物等の繊維製品が難燃性を有していることも要望されており、繊維製品に良好な難燃性を付与することができるバインダー繊維からなる長繊維不織布が要望されている。
【特許文献1】特開2006−118066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが鞘部に配された複合繊維であって、通常の製造装置で操業性よく紡糸し、繊維化して得ることができる複合繊維の長繊維からなる不織布であって、繊維構造物等に介在させて熱接着処理する際には低い温度で加工することができ、さらには、熱収縮率が小さく、寸法安定性や耐熱性、難燃性に優れた繊維構造物(製品)を得ることができるポリエステル複合長繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度とポリエステルAの融点との差(R−Tm)が+5℃以下である非晶性のポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しており、かつ繊維中のリン原子の含有量が2000〜15000ppmである複合長繊維が堆積したウエブで構成された長繊維不織布であって、少なくとも一部に熱接着部を有し、(Tm−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル複合長繊維不織布を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル複合長繊維不織布は、複合繊維の鞘部に配されているポリエステルAが、ジオール成分としてヘキサンジオールを50モル%以上共重合しているため、低融点でありながら、結晶性に優れており、かつ0.01〜5.0質量%の結晶核剤を含有しているため、降温時の結晶化速度が速い。このため、一方のポリエステルBは非晶性ポリマーであるが、長繊維不織布を製造する際の紡糸工程において糸条間の溶着及び切れ糸の発生がなく、操業性よく安定的に品位の優れた(地合の良好な)長繊維不織布とすることができる。さらには、ポリエステルAが結晶性に優れ、降温時の結晶化速度が速いことにより、繊維の熱収縮率を小さくすることができ、(Tm−30)℃雰囲気下での面積収縮率10%以下の長繊維不織布とすることができる。このため、本発明のポリエステル複合長繊維不織布を繊維構造物等に介在させて熱接着処理する際には、収縮が小さく、寸法安定性に優れた製品を得ることができる。また、ポリエステルAの融点が100〜150℃であるため、熱接着処理を低温化、高速化することが可能であり、コスト的にも優位である。
【0014】
そして、熱接着処理時において、ポリエステルBは非晶性ポリマーのため溶融すると流動性が低いものとなり、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この流動性の異なる2種類のポリエステルを組み合わせることで、適度な流動性を有することとなり、強固な接着力を有する長繊維不織布とすることができ、繊維構造物等に介在させて熱接着処理する用途に好適に用いることが可能となる。
【0015】
さらには、本発明のポリエステル複合長繊維不織布を構成する複合長繊維は、繊維中にリン原子を含有するものであるため、熱接着処理により溶融すると難燃性を有する接着成分となり、本発明のポリエステル複合長繊維不織布を繊維構造物等に介在させて熱接着処理することにより、繊維構造物等に良好な難燃性を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の複合長繊維不織布は、ポリエステルAとポリエステルBとで構成された複合長繊維が堆積したウエブで構成されるものである。そして、本発明において、ポリエステル複合長繊維は、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)において、ポリエステルAが繊維表面の鞘部に配され、ポリエステルBが芯部に配された芯鞘形状を呈するものである。
【0017】
なお、このような芯鞘形状としては、芯部を複数有するものであってもよく、複数の芯部を有する場合は、芯部の数を2〜10個とすることが好ましい。
【0018】
まず、ポリエステルAについて説明する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点が100〜150℃のものである。
【0019】
ポリエステルAの融点(Tm)は100〜150℃であり、中でも110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、得られた長繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0020】
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0021】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0022】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0023】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0024】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0025】
上記したポリエステルAは組成的に結晶性を有しているが、長繊維不織布を製造する際の溶融紡糸工程における単糸間の溶着を解消するまでのものではない。そこでポリエステルA中に結晶核剤を含有することにより、降温時の結晶化速度を向上させることができ、ポリエステルAは後述する(1)式を満足するものとなり、単糸間の溶着を生じることなく溶融紡糸を行うことができる。さらには、熱収縮率の低い長繊維とすることができ、(Tm−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下の長繊維不織布を得ることができる。
【0026】
本発明においては、ポリエステルAは結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜4.0質量%含有することが好ましい。
【0027】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、熱収縮率の低い長繊維とすることができず、面積収縮率の低い長繊維不織布を得ることができない。また、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となる。
【0028】
一方、結晶核剤の含有量が5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、溶融紡糸時の操業性が悪化する。そして、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、得られる長繊維不織布の面積収縮率が高くなる。
【0029】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。
【0030】
無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、降温時の結晶化速度を向上させることが困難となりやすい。
【0031】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0032】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。
なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0033】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0034】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0035】
さらに、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0036】
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mg(長繊維不織布中の複合長繊維の質量)で測定する。
【0037】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、ポリエステルAのDSC曲線において、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0038】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。仮に、糸条をより十分に冷却するため紡糸口金と引き取り手段との間の距離を大きくして製糸したとしても、糸条の揺れが生じて開繊性が劣り、得られる不織布は品位が劣るものとなる。さらには、得られる長繊維不織布の面積収縮率も高くなる。
【0039】
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0040】
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBは、非晶性のポリエステルであり、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度とポリエステルAの融点(Tm)との差(R−Tm)が+5℃以下である。
【0041】
つまり、本発明のポリエステル複合長繊維不織布においては、ポリエステルA、ポリエステルBともに熱接着処理により溶融させて接着成分とすることが好ましいものであり、通常、熱接着処理温度は、繊維表面に配されているポリエステルAの融点より10℃高い温度で行うものであるため、このような熱接着処理温度でポリエステルBが溶融するためには、ポリエステルBの流動開始温度は、ポリエステルの融点より高くても5℃以下とすることが必要であり、中でもポリエステルAの融点より低いことが好ましい。
【0042】
また、ポリエステルBの流動開始温度は、105〜155℃であるが、中でも110〜140℃、さらには115〜135℃であることが好ましい。
【0043】
ポリエステルBの流動開始温度が105℃未満であると、長繊維不織布の製造工程内で熱処理を施すことができず、長繊維の熱収縮率が高いものとなり、得られる長繊維不織布の面積収縮率が高いものとなる。一方、155℃を超えると、製品を得る際の熱接着処理温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。
【0044】
ポリエステルBとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記の流動開始温度のものとするため、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
【0045】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0046】
中でもポリエステルBとしては、イソフタル酸を共重合したPETを用いることが好ましく、中でもイソフタル酸を25〜40モル%共重合したものが好ましい。イソフタル酸の共重合量が25モル%未満であると、流動開始温度が高くなり155℃を超えるものとなりやすい。一方、40モル%を超えると、流動開始温度が低くなり105℃未満のものとなりやすい。
【0047】
そして、本発明における複合長繊維はリン原子を2000〜15000ppm含有しているものであり、中でも4000〜10000ppm含有していることが好ましい。つまり、複合長繊維を構成するポリエステルA、ポリエステルBのいずれか一方、又は両方にリン化合物が含有されているものである。そして、熱接着処理によりポリエステルA、ポリエステルBともに溶融して難燃性を有する接着成分となるものである。
【0048】
複合長繊維中のリン原子の含有量が2000ppm未満であると接着成分の難燃性能が不十分となり、一方、15000ppmを超えると、リン化合物の含有量が多くなることから紡糸や不織布の製造工程における操業性が悪くなり、地合の悪い長繊維不織布となる。
【0049】
複合長繊維中にリン原子を含有させる方法としては、ポリエステルAやポリエステルBにリン化合物を共重合させることが好ましい。
【0050】
リン化合物としては、リン酸エステル及びその誘導体、ホスホン酸及びその誘導体、ホスフィン酸及びその誘導体が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上併用して使用することができる。
【0051】
リン酸エステル及びその誘導体の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート等があり、ホスホン酸及びその誘導体の具体例としては、フェニルホスホン酸、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸等があり、ホスフィン酸及びその誘導体の具体例としては、ホスホラン、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドのマレイン酸付加物やイタコン酸付加物等がある。また、ジフェニルホスフィンオキシドとp−ベンゾキノンの反応物にエチレンカーボネートを付加させた化合物等も挙げられる。
【0052】
また、ポリエステルAとポリエステルB中には、安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0053】
また、本発明における複合長繊維のポリエステルAとポリエステルBの複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0054】
本発明の複合長繊維不織布を構成するポリエステル複合長繊維の単糸の断面形状は、芯鞘形状を呈していれば、丸型のみならず扁平型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状のものでもよい。
【0055】
さらには、ポリエステル複合長繊維の単糸繊度は特に限定するものではないが、1〜15dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満であると紡糸、引取工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる不織布の強力も劣る傾向となる。一方、単糸繊度が15dtexを超えると紡糸糸条の冷却性が不十分になるので好ましくない。
【0056】
次に、本発明の複合長繊維不織布は、前述のポリエステルAとポリエステルBからなる複合長繊維が堆積したウエブで構成されるものであり、形態安定性の観点から、ウエブの少なくとも一部に熱接着部を有するものである。
【0057】
つまり、ウエブを構成する長繊維同士が溶融または軟化して接着している熱接着部を少なくとも一部に有するものである。中でもウエブの一部が熱接着されているものが好ましく、ウエブ表面の一部のみが熱接着されたものやウエブ表面(片面)のみ全面が熱接着されたもの等が挙げられる。
【0058】
なお、ウエブの全部が熱接着されているものであってもよいが、このような全面熱接着された不織布はフィルム状のものとなり、厚みの薄いものとなる。
【0059】
また、ウエブを構成する長繊維同士が溶融または軟化して接着している熱接着部においては、ポリエステルAのみ溶融して熱接着部を成していても、ポリエステルAとともにポリエステルBも溶融して熱接着部を成していてもよい。
【0060】
ウエブを製造する方法としては、複合紡糸装置から紡出され繊維化可能温度に下がったポリマーを高速気流によるエアサッカーにて吸引延伸し、その後開繊装置を用いて開繊し、コンベア状ネットに捕集してウエブとするスパンボンド法や紡糸装置から紡出され溶融ポリマーの細流に対して加熱高速ガスを噴き当て、そのガス流の作用によって溶融ポリマーを引伸ばして極細化し、捕集してウエブを得るメルトブロー法等がある。中でも、本発明においては、ウエブがスパンボンド法により製造されたものであることが好ましい。
【0061】
そして、ウエブの少なくとも一部を熱接着させる方法としては、熱エンボス加工装置や超音波溶着装置等を用いる熱圧着方式、熱風乾燥機等の乾熱による熱風循環方式、加熱スチームを用いた湿熱方式、超音波溶着装置を用いた方式等を効果的に用いることができる。
【0062】
まず、上記した熱圧着方式としては、例えば、一対のエンボスロールまたはエンボスロールとフラットロールからなる部分熱圧着装置や一対のフラットロールからなる全面熱圧着装置を用いた方式が挙げられる。
【0063】
部分熱圧着としては、エンボスロールの凸部に当接する部位に存在する長繊維を溶融または軟化させて点状の融着区域を形成させ、その融着区域により繊維同士を接着させる。個々の融着区域は丸、楕円型、菱形、三角形、T字型、井形などの任意の形状であってもよい。
【0064】
全面熱圧着としては、ウエブ表面に存在する長繊維を溶融または軟化させ全面的に熱接着させる。なお、全面熱圧着装置に通す前に、移動堆積装置上に形成されたウエブに、搬送作業を容易に行うため等、必要に応じて部分的な仮熱圧着処理を施してもよい。
【0065】
また、超音波融着装置は約20kHz程度の超音波を発振する超音波発振器と、円周上に点状または帯状に凸状突起部を具備するパターンロールとからなる装置であり、パターンロールと超音波発振器を持った支持体との間にウエブを通し、20kHz程度の超音波を発振させて点圧着させるものである。
【0066】
乾熱による熱風循環方式、加熱スチームを用いた湿熱方式を採用する場合は、ウエブ表面の繊維交点における長繊維を溶融または軟化し、繊維同士の交点で接着する。なお、加熱スチームとしては、加圧を行える装置を用いることで効果的に熱処理を行うことができる。
【0067】
そして、本発明の複合長繊維不織布は、(Tm−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下である。つまり、本発明の長繊維不織布を構成する長繊維(複合繊維)は、結晶性に優れ、かつ降温結晶化速度の速いポリエステルAが鞘部に配されたものであるため、熱収縮率が低く、長繊維不織布の面積収縮率を10%以下のものとすることができる。中でも面積収縮率は8.5%以下であることが好ましく、さらには8.0%以下であることが好ましい。面積収縮率は以下のようにして求めるものである。
【0068】
複合長繊維不織布をカットし、面積A0(20cm×20cm=400cm)としたものをサンプルとし、これを(Tm−30)℃に維持した熱風乾燥機中に15分間放置し、この熱処後の不織布の面積をA1とし、下式により面積収縮率を求める。
面積収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
【0069】
複合長繊維不織布の面積収縮率が10%以下であることにより、熱接着処理した際の収縮が小さく、繊維構造物等の間に介在させて接着させる際の収縮が小さく、得られる製品(繊維構造物等)は寸法安定性に優れたものとなる。面積収縮率が10%を超えると、熱収縮率が大きくなり、本発明の長繊維不織布を用いて熱接着して得られる製品は、熱接着処理した際の収縮が大きくなり、寸法安定性に劣るものとなる。
【0070】
また、本発明の長繊維不織布は、長繊維不織布を得る際、ウエブの少なくとも一部を熱接着させる処理においても、ポリエステルAとポリエステルBとからなる長繊維の熱収縮率が小さいため、長繊維不織布を得る際の寸法安定性にも優れるものである。
【0071】
そして、本発明の長繊維不織布の目付は特に限定するものではないが、10〜300g/mであることが好ましい。目付が10g/m未満であると、地合及び機械的強力に劣り、実用に耐えないものとなりやすい。一方、目付が300g/mを超えるとコスト面で不利となる。
【0072】
このように、本発明の複合長繊維不織布を構成する複合長繊維は、上記したようなポリエステルAとポリエステルBとからなる複合繊維であるため、低温の熱処理によりポリエステルAとポリエステルBとが溶融するものであり、両ポリエステルを溶融させて熱接着成分とすることが好ましいものである。そして、ポリエステルAとポリエステルBの流動性の違いから強固な接着力を有するものとなる。つまり、本発明の複合長繊維不織布を繊維構造物等の間に介在させて熱処理、接着を施す場合に、ポリエステルAは流動性が高いため、その多くが構造物の内部に浸透し、アンカー効果が生じ接着力が高くなる。一方、ポリエステルBは流動性が低いため、その多くが構造物の接着面に存在することによって接着力が高くなる。よって、この2つの効果が相まって強固な接着強力を有するものとなる。したがって、本発明の複合長繊維不織布は、繊維構造物等の間に介在させて熱処理を施すことにより構造物同士を接着させる用途に用いることが好適であり、強固に接着した繊維構造物(製品)を得ることが可能となる。
【実施例】
【0073】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(d)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル複合短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(e)繊度
JIS L 1015 正量繊度 A法により測定した。
(f)目付
得られた長繊維不織布から縦10cm×横10cmのサンプル10点を作成し、平衡水分に至らしめた後、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して不織布の目付(g/m)とした。
(g)紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(h)地合
得られた不織布表面の地合を目視にて、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
(i)面積収縮率
前記の方法により測定した。
(j)接着強力(N)
ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維長51mm、繊度2.2T)と、ユニチカ社製ポリエステル系芯鞘複合バインダー繊維<7080>(繊維長51mm、繊度2.2T)とを質量比率1:1で混綿し、カード機で目付け400g/mのウエブを作成し、熱風乾燥機を用いて熱処理条件180℃×60秒で融着処理を行い、短繊維不織布を得る。
さらに、上記短繊維不織布2枚の間に、得られた複合長繊維不織布をはさみ、積層不織布の厚みを5mmとなるように厚みを規制し、熱風乾燥機を用いて熱処理条件(ポリエステルAの融点+10)℃×100秒で融着処理を行い、厚さ5mmの積層体を作成する。積層体より試料長20cm、試料幅5cmの試料片を5点作成し、試料片の短繊維不織布の2枚の間を10cm剥離させ、剥離部分をつかみ間隔5cm、引張速度10cm/分で伸長し、剥離強力(N/5cm)を測定した。そして試料片5点の平均値を接着強力(N)とした。
なお、本発明においては、この接着強力は20N以上であることが好ましい。ここで接着強力とは、複合長繊維不織布を短繊維不織布(繊維構造物)と一体化させた後に、複合長繊維不織布を溶融させて短繊維不織布同士を一体化させ、その後に短繊維不織布間を剥離させる際に要する強力の値である。
この接着強力が20N未満であると、繊維構造物との接着強力に劣り、一体化させた繊維構造物は使用するうちに繊維構造物同士の剥離が生じやすくなる。
(k)難燃性
得られた複合長繊維不織布を、消防安第65号に準拠して限界酸素指数(LOI)で評価し、LOI値30以上を合格とした。
【0074】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEGのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶に移送し、HDを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。次に、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクと、化学式(1)に記載のリン化合物とを含有するEGスラリーを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルAは、酸性分としてTPA87mol%、リン化合物13mol%、グリコール成分としてEG2mol%、HD98mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃、リン原子の含有量が12000ppmとなるように共重合したもの(表2のA−1)であった。
ポリエステルBとして、イソフタル酸を酸成分として33mol%共重合したPET(流動開始温度130℃、極限粘度0.79、表3のB−1)を用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状となるようにし、両成分の質量比を50/50として丸型紡糸口金より溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、単孔吐出量1.00g/分で溶融紡糸した。
次に、紡出糸条を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてスパンボンド法によりウエブを製造した。まず、エアサッカーにて3000m/分で引き取り、これを開繊して移動するコンベアの捕集面上に堆積して不織ウエブを形成した。次いでこの不織ウエブをエンボスロールとフラットロールからなる部分的熱圧着装置に通し、ロール温度100℃、圧着面積率14.9%、圧着点密度21.9個/cm、線圧500N/cmの条件にて部分的に熱圧着し、リン原子の含有量が6000ppm、単糸繊度3.3dtexの複合長繊維からなる目付40g/mの複合長繊維不織布を得た。
【0075】
実施例2、比較例1〜2
ポリエステルBとして表3のB−2〜B−4のポリエステルを使用した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維不織布を得た。
【0076】
実施例3〜4、比較例3〜4
ポリエステルAとして表2のA−2〜A−5のポリエステルを使用し、複合長繊維中のリン原子の含有量が表1に示すものとなるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維不織布を得た。
【0077】
実施例5
エステル化反応缶に、TPA、HD、BDを供給し、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m2/gのタルクと、化学式(1)に記載のリン化合物17mol%を添加し、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルAは、酸性分としてTPA87mol%、リン化合物13mol%、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)1mol%、HD99mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.98、融点130℃、リン原子の含有量が12000ppmとなるように共重合したもの(表2のA−6)であった。
実施例1と同様のポリエステルB(表3のB−1)を用い、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維不織布を得た。
【0078】
比較例5
ポリエステルAとして表2のA−1のみを紡糸装置に供給し、紡糸温度220℃、吐出量1.00g/分で溶融紡糸した以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。
【0079】
実施例6
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃のもの(表2のA−7)を用いた。
エステル化反応缶に、TPA、IPA、EG及び化学式(1)に記載のリン化合物を添加し、温度240℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルBは、酸性分としてTPA67mol%、イソフタル酸25mol%、リン化合物8mol%、グリコール成分としてヘキサンジオール(HD)100mol%、極限粘度0.79、融点115℃、リン原子の含有量が12000ppmとなるように共重合したもの(表3のB−5)であった。
そして、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0080】
実施例7〜8、比較例6〜7
実施例6と同様のポリエステルA(表2のA−7)を用い、ポリエステルBとして、表3のB−6〜B−9のポリエステルを用いた以外は、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0081】
比較例8
実施例6と同様のポリエステルA(表2のA−7)を用い、実施例1と同様のポリエステルB(表3のB−1)を用い、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0082】
実施例1〜8、比較例1〜8で得られた複合長繊維と長繊維不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【化1】

【0087】
表1から明らかなように、実施例1〜8の複合長繊維不織布は、紡糸操業性よく得ることができ、地合が良好で、面積収縮率が低いものであり、他のポリエステル系繊維からなる構造物との接着強力に優れ、難燃性にも優れたものであった。
比較例1の複合長繊維不織布は、ポリエステルBとして流動開始温度の高い共重合PETを用いたため、他の繊維等からなる構造体を接着する際の熱接着処理においてポリエステルBが溶融せず、接着強力の低いものであった。比較例2の複合長繊維不織布は、ポリエステルBとして流動開始温度の低い共重合PETを用いたため、紡糸時に切れ糸が発生し、地合が悪く、面積収縮率も高いものとなった。比較例3、6の複合長繊維不織布は、複合長繊維中のリン原子の含有量が少なすぎたため、比較例8の複合長繊維不織布は、複合長繊維中にリン原子を含有量していなかったため、いずれも難燃性に劣るものであった。比較例4、7では、ポリエステルA又はポリエステルB中のリン原子の含有量が多すぎたため、複合長繊維を紡糸することができず、不織布を得ることができなかった。比較例5の長繊維不織布はポリエステルAのみからなる不織布であり、流動性の異なるポリエステルBが存在しないため、接着強力の低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明のポリエステル複合長繊維不織布におけるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度とポリエステルAの融点との差(R−Tm)が+5℃以下である非晶性のポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しており、かつ繊維中のリン原子の含有量が2000〜15000ppmである複合長繊維が堆積したウエブで構成された長繊維不織布であって、少なくとも一部に熱接着部を有し、(Tm−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル複合長繊維不織布。
【請求項2】
ポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1記載のポリエステル複合長繊維不織布。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項3】
複合繊維の長繊維が堆積したウエブがスパンボンド法により製造されたものである請求項1又は2記載のポリエステル複合長繊維不織布。


【図1】
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【公開番号】特開2009−275306(P2009−275306A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125995(P2008−125995)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】