説明

ポリエーテルイミド製造における環状物の形成を低減する新規方法

ポリエーテルイミドの製造における不要環状オリゴマー副産物の量を低減する方法が開示されている。得られるポリエーテルイミドは高まった熱機械特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルイミド樹脂の合成時の環状オリゴマー生成量を低減する方法に関する。さらに具体的には、立体障害置換芳香族ジアミンを利用して不要環状オリゴマー副産物の形成を低下させる。本明細書に記載の方法で製造されるポリエーテルイミドも提供される。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエーテル、特にポリエーテルイミドは、その優れた特性のために重要なエンジニアリング樹脂である。これらのポリマーの合成の1つの経路はビスフェノールA二ナトリウム塩(BPA.Na)のようなジヒドロキシ芳香族化合物の塩とジハロ芳香族分子との反応である。例えば、ポリエーテルイミドは、ジヒドロキシ芳香族化合物の塩と、次式(I)の構造を有する1,3−ビス[N−(4−クロロフタルイミド)]ベンゼン(以下「ClPAMI」ともいう。)に例示されるようなビス(ハロフタルイミド)との反応によって都合よく製造される。
【0003】
【化1】

このビス(ハロフタルイミド)自体は、1種以上のジアミノ化合物、好ましくはm−フェニレンジアミン(mPD)又はp−フェニレンジアミン(pPD)のような芳香族ジアミンと、3−クロロフタル酸無水物(3−ClPA)、4−クロロフタル酸無水物(4−ClPA)、ジクロロフタル酸無水物、又はこれらの混合物のような1種以上のハロフタル酸無水物とを反応させることによって製造されることが多い。
【0004】
米国特許第5229482号及び同第5830974号によると、芳香族ポリエーテルは、使用する温度条件下で実質的に安定な相間移動触媒を用いて、比較的非極性の溶媒の溶液中で製造することができる。米国特許第5229482号に開示されている溶媒には、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン及びジフェニルスルホンがある。米国特許第5830974号では、アニソール、ジフェニルエーテル、又はフェネトールのようなモノアルコキシベンゼンを使用している。同じタイプの溶媒を、ビス(ハロフタルイミド)中間体の製造に使用することができる。
【0005】
これらの置換重合で製造されるポリエーテルイミドは、ClPAMIモノマーを製造するのに使用した3−ClPA及び4−ClPAの量に応じて約2.6〜約3.6の範囲の比較的高い多分散度を有する。ビス(ハロフタルイミド)の製造及びそれに続くポリエーテルイミドの製造に対する一般的な反応スキームを図1に示す。
【0006】
ビスフェノールA、mPD及び4−ClPAを使用してポリエーテルイミドを製造する場合、最終生成物中の環状オリゴマーのレベルは約3%であることが判明した。しかしながら、環状物の量は、ClPAMI合成の出発材料として3−ClPAのレベルが増大するにつれて増大することが判明した。100%3−ClPAとmPDを出発材料として使用すると、環状オリゴマーの量は約15%〜約20%の範囲になり得る。興味深いことに、環状オリゴマーの約2/3は単純な1:1付加物であることが判明した。3−ClPAMIを使用して環状オリゴマー副産物を伴ってポリエーテルイミドを生成する反応スキームを図2に示す。
【0007】
これらの環状オリゴマーのレベルが高いと、得られるポリマーの特性に悪影響が出る可能性がある。かかるマイナスの効果としては、ガラス転移温度(Tg)の低下、延性の低下、及び光沢の低下で示される表面外観を始めとする加工処理に伴う問題がある。
【0008】
加えて、規格外の環状副産物は、分離後廃棄しなければならず、コストと廃棄物流の量を増大させると共にプロセスの効率が低下する。
【特許文献1】米国特許第5229482号明細書
【特許文献2】米国特許第5830974号明細書
【特許文献3】米国特許第4217438号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、3−ClPAを他のビスフェノール及びジアミンと組み合わせて使用すると、高いTg(約15〜約20℃高い)、及び高剪断時に改良された流動性を有するポリエーテルイミドが生成し得ることも判明した。従って、ポリエーテルイミドの製造における出発材料として、少なくとも一部に3−ClPAを使用することが望ましいが、環状オリゴマーのレベルを低減するための手段が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、不要環状オリゴマー副産物の量が低下したポリエーテルイミド樹脂を製造するのに利用することができるビス(フタルイミド)を製造する方法を提供する。
【0011】
本発明は、その局面の1つにおいて、110℃以上の温度で、1種以上のハロフタル酸無水物、アミン官能性の1つに対してオルト位に1以上の置換基を有する1,3−ジアミン、並びにo−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン、アニソール及びベラトロールの極性以下の極性を有する有機液体を混合することを含んでなる、ビス(ハロフタルイミド)の製造方法を含む。
【0012】
一実施形態では、イミド化触媒を加えてビス(ハロフタルイミド)の生成を促進する。
【0013】
別の実施形態では、ビス(ハロフタルイミド)は、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン、アニソール及びベラトロールの極性以下の極性を有する有機液体の存在下で、そのアミン官能性の1つに対してオルト位に1以上の置換基を有する1,3−ジアミンと3−クロロフタル酸無水物とを110℃以上の温度で接触させることによって作成されたジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体である。幾つかの実施形態では、ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体は、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエン、又は2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエンであることができる。
【0014】
本発明のもう一つ別の局面は、相間移動触媒の存在下で上記ビス(ハロフタルイミド)をジヒドロキシ置換芳香族化合物の1種以上のアルカリ金属塩と混合することによってポリエーテルイミドを製造する方法に関する。好ましくは、そうして製造されたポリエーテルイミドは低レベルの不要環状オリゴマー副産物を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の方法によって、驚くべきことに、ビスフェノールA二ナトリウム塩とClPAMIモノマーの重合反応の間に生成する環状オリゴマーのレベルが、ClPAMIの生成にmPD以外のジアミンを利用することによって低減し得ることが判明した。
【0016】
本発明で使用するのに適切な無水物は次式(II)を有する。
【0017】
【化2】

式中、Xは反応を妨害することのないいかなる有機基であってもよい部分である。一実施形態では、Xは後の重合反応に関与する置換可能な基である。好ましくは、Xはニトロ、ニトロソ、トシルオキシ(−OTs)又はハロゲンであり、最も好ましくはXは塩素である。殊に好ましい無水物として、3−クロロフタル酸無水物、4−クロロフタル酸無水物、及びジクロロフタル酸無水物がある。最も好ましい実施形態では、ClPAMIモノマーは、実質的に純粋な3−ClPAから、又は4−クロロフタル酸無水物、ジクロロフタル酸無水物、及びこれらの置換類似体からなる群から選択される他のフタル酸無水物モノマーと組み合わせた3−ClPAの混合物から作成される。ここで、無水物の芳香環上の他の位置は水素原子であるか、又はアルキル若しくはアリール基のような非反応性基及びこれらの混合物で置換されている。
【0018】
加えて、本発明の一実施形態では、フタル酸無水物(すなわち、式(II)の構造でXが水素である化合物)を別途反応混合物に添加してもよい。かかる場合、フタル酸無水物を反応混合物に添加することによって、重合可能なモノマーと、末端封鎖性モノマー、すなわち、反応性部位を1つしかもたず、従って重合反応において成長するポリマー鎖を末端封鎖することができるハロフタルイミドとの両者を含む混合物が得られる。かかる場合、フタル酸無水物を使用して末端封鎖性モノマーを形成することにより、その後の重合反応において生成するポリエーテルイミドの分子量を調節することができる。加えて、当業者には公知のように、他の無水物を利用して末端封鎖性モノマーを形成することができる。
【0019】
本発明により、驚くべきことに、アミン官能性の1つに対してオルト位に1以上の置換基を有する1,3−ジアミンを使用することによって、BPA二ナトリウム塩と反応して、不要環状オリゴマー副産物のレベルが低減したポリマーを得ることができるClPAMIモノマーを作成することができるということが判明した。これらのジアミンは市販されており、比較的安価である。好ましいジアミンは次式の構造(III)を有する。
【0020】
【化3】

式中、nは1〜4であり、Gは高温で安定でありフェノキシド置換重合と適合性である任意の基であることができる。Gの例としては、限定されることはないが、−R、−OR、−SR、−Ar、−OAr、−SAr、−CNなどがある。
【0021】
適切なR基としては、限定されることはないが、C〜C30脂肪族炭化水素、C〜C30不飽和脂環式炭化水素、アラルキル炭化水素、及びこれらの置換誘導体、例えば、メチル、エチル、シクロペンチル、ベンジル、などによる置換がある。
【0022】
適切な芳香族部分としては、限定されることはないが、6〜30個、好ましくは6〜18個の環炭素原子を有する単環式、多環式及び縮合芳香族化合物、並びにこれらの置換誘導体がある。多環式芳香族部分は(例えば、ビフェニルのように)直接結合していてもよいし、又は1若しくは2個の原子を含む結合部分で隔てられていてもよい。芳香族部分の具体的な非限定例としては、フェニル、ビフェニル、ナフチル、及びこれらの置換誘導体がある。加えて、幾つかの実施形態では、Gは限定されることはないが
を始めとする別の縮合環の一部である構造を含んでいることができる。
【0023】
このオルト立体効果はまた、他のビス芳香族ジアミンにも拡大して、ポリマーの熱的性質(例えば、Tg)を増大する点で類似の効果があるかどうかを検査することもできる。加えて、環上の他の位置をGについて上記したのと同じ置換基で置換してもよい。
【0024】
好ましい置換基としては、1種以上の芳香族基、好ましくはフェニル基、アルコキシ若しくはアリールオキシ基、これらのイオウ類似体、ハロゲン置換フェニル基、又はこれらの混合物がある。
【0025】
ビス(ハロフタルイミド)の製造は、好ましくは非極性有機液体、通常ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリジノンのような双極性非プロトン性溶媒の極性よりも実質的に低い極性を有する非極性有機液体の存在下で行う。前記非極性溶媒は好ましくは約100℃超、最も好ましくは約150℃超の沸点を有していて、その温度よりも高い温度を必要とするこの反応を促進する。このタイプの適切な液体としては、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン並びにアニソール及びベラトロールのようなアルコキシベンゼンがあり、より一般的には前記液体の極性以下の極性を有する液体がある。クロロベンゼンのように類似の極性を有しているが沸点の低い液体は大気圧よりも高い圧力で使用することができる。アニソールとo−ジクロロベンゼンが通常好ましい。
【0026】
本発明のビス(ハロフタルイミド)の製造方法では、通例、110℃以上、好ましくは150〜約275℃、好ましくは約175〜225℃の範囲の温度を使用する。110℃未満の温度では、反応速度が殆どの場合経済的操業としては低すぎる。大気圧を超える圧力、通例約5atm以下の圧力を使用して、蒸発〜沸騰で液体が失われることなく高温の使用を容易にすることは本発明の範囲内である。
【0027】
もう一つ別の特徴は、同じ理由から、反応混合物中の固形分含量が重量で約5%以上、好ましくは約12%以上、最も好ましくは約15〜25%であることである。「固形分含量」とは、ビスハロフタルイミドと溶媒の総重量のパーセントとしてのビスハロフタルイミド生成物の割合を意味する。さらに、反応混合物を1つの容器から別の容器に移送するためといった理由から反応中に固形分含量を変化させることも本発明の範囲内である。
【0028】
反応混合物中の他の構成成分割合として、好ましくは、無水物とジアミンのモル比は約1.98:1〜約2.04:1の範囲であり、約2:1の比が最も好ましい。他の比も使用することができるが、多少過剰の無水物又はジアミンが望ましいであろう。使用する場合、触媒は、反応を促進するのに有効な量で、通常ジアミンの重量を基準にして約0.1〜0.3重量%で存在する。適切なイミド化触媒としては、限定されることはないが、フェニルホスフィン酸ナトリウム、酢酸、安息香酸、フタル酸、又はこれらの置換誘導体がある。一実施形態では、フェニルホスフィン酸ナトリウムをイミド化触媒として利用する。
【0029】
本発明の方法により、1種以上のアミン反応体と1種以上の無水物反応体の反応の結果、一般に式(I)のフタルイミドを含む生成物が得られる。置換1,3−ジアミンから生成し得る式(I)と類似のビス(ハロフタルイミド)としては、ジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体、例えば、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエン、2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエン並びに対応するクロロ、ブロモ及びニトロ化合物がある。かかる化合物の混合物も使用し得る。出発フタル酸無水物が純粋な3−ClPAである場合、反応スキーム(II)に示した3−3’−ClPAMIが生成し、その後追加の成分と反応して所望のポリエーテルイミドを生成する。しかし、上述したように、別の実施形態では、3−ClPAと、4−ClPA、ジクロロフタル酸無水物、及びフタル酸無水物を始めとする他のフタル酸無水物との混合物を利用して所望のハロフタルイミドを製造することができ、次にこれを利用して所望のポリエーテルイミドを製造する。
【0030】
次いで、1種以上のジヒドロキシ置換芳香族炭化水素をClPAMIと反応させて、所望のポリエーテルイミドを製造する。適切なジヒドロキシ置換芳香族炭化水素には次式を有するものがある。
HO−−A−−OH (IV)
式中、Aは二価芳香族炭化水素基である。適切なA基としては、m−フェニレン、p−フェニレン、4,4’−ビフェニレン、4,4’−ビ(3,5−ジメチル)フェニレン、2,2−ビス(4−フェニレン)プロパン、及び名称又は式(一般又は個々)が米国特許第4217438号に開示されているジヒドロキシ置換芳香族炭化水素に対応するもののような類似の基がある。
【0031】
基は好ましくは次式を有する。
−−A−−Y−−A−− (V)
式中、AとAは各々が単環式二価芳香族炭化水素基であり、Yは1又は2個の原子がAとAを隔てている橋架け炭化水素基である。式V中の遊離の原子価結合は通常AとA上でYに対してメタ又はパラの位置にある。Aが式Vを有する化合物はビスフェノールであり、簡潔にするために本明細書ではジヒドロキシ置換芳香族炭化水素を指定するために用語「ビスフェノール」を使用することがあるが、このタイプのビスフエノールではない化合物も適宜使用できるものと了解されたい。
【0032】
式V中で、A及びA基は非置換フェニレン又はそのハロ若しくは炭化水素置換誘導体であることができ、具体的な置換基(1以上)はアルキル、アルケニル、ブロモ、クロロである。非置換フェニレン基が好ましい。AとAは好ましくは両方がp−フェニレンであるが、両方がo−若しくはm−フェニレンであってもよいし又は一方がo−若しくはm−フェニレンで、他方がp−フェニレンであってもよい。
【0033】
橋架け基Yは1若しくは2個、好ましくは1個の原子がAとAを隔てているものである。このタイプの具体的な基はメチレン、シクロヘキシルメチレン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチルメチレン、エチレン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン及びアダマンチリデンであり、gem−アルキレン(アルキリデン)基が好ましい。また、不飽和基も包含される。
【0034】
使用できる二価フェノールの幾つかの好ましい例としては、6−ヒドロキシ−1−(4’−ヒドロキシフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロ−ヘキシリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(一般にビスフェノール−Aといわれる)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−フェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチル−3−メトキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−クロロフェニル)エタン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、レゾルシノール、C1−3アルキル置換レゾルシノールがある。入手容易性と、本発明の目的にとって特に適していることから、一実施形態では好ましい二価フェノールは、式Vの基が2,2−ビス(4−フェニレン)プロパン基であり、Yがイソプロピリデンで、AとAが各々p−フェニレンであるビスフェノールAである。
【0035】
本発明の方法においてはジヒドロキシ芳香族化合物の塩の反応を利用するのが好ましい。さらに好ましくは、ジヒドロキシ置換芳香族炭化水素のアルカリ金属塩を使用する。これらのアルカリ金属塩は通例ナトリウム又はカリウム塩であり、ナトリウム塩がその入手容易性と比較的低いコストのために好ましいことが多い。最も好ましくは、ビスフェノールA二ナトリウム塩(BPA.NA)を利用する。
【0036】
好ましい実施形態では、ビスフェノールA二ナトリウム塩を有機溶媒に加え、混合物を乾燥条件になるまで共沸させる。次いで、第2のコモノマー、例えば1,3−ジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]を加え、混合物を乾燥条件になるまで共沸させることができる。その後、触媒を有機溶媒中の予め乾燥した溶液として加えることができる。このプロセスは、予め乾燥した溶媒とコモノマーを使用すると促進される。好ましくは、ビスフェノールA二ナトリウム塩と1,3−ジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]、例えば1,3−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエンとのモル比は約1.0:0.9〜0.9:1.0の範囲である。
【0037】
ポリエーテルイミドを製造するのに利用される好ましい溶媒の1つのクラスには、低い極性のものがある。このタイプの適切な溶媒としては、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン及び1,2,4−トリクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族化合物、及びジフェニルスルホンがある。類似の極性を有するが沸点の低い溶媒、例えばクロロベンゼンは、大気圧を超える圧力で使用することができる。別のクラスの好ましい溶媒としては、ジフェニルエーテル、フェネトール(エトキシベンゼン)、及びアニソール(メトキシベンゼン)のような芳香族エーテルがある。O−ジクロロベンゼン及びアルコキシベンゼン、最も好ましくはアニソールが特に好ましい。多くの場合、ハロゲン化芳香族溶媒がアルコキシベンゼンさらに好ましい。というのは、前者は後者よりも以下に述べる相間移動触媒と相互作用して不活性化する傾向が少ないからである。本発明に適切な別のクラスの溶媒は極性非プロトン性溶媒であり、その具体的な例としてはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN−メチルピロリジノン(NMP)がある。
【0038】
好ましい相間移動触媒は、その高温における特に優れた安定性と高分子量の芳香族ポリエーテルポリマーを高い収率で生成する有効性との理由から、ヘキサアルキルグアニジニウム及びα,ω−ビス(ペンタアルキルグアニジニウム)アルカン塩である。簡潔にするために、両方のタイプの塩を以下「グアニジニウム塩」ともいう。
【0039】
適切なグアニジニウム塩は次式のもので例示される。
【0040】
【化4】

式中、各々のR、R、R、R及びRは第一アルキル基であり、Rは第一アルキル又はビス(第一アルキレン)基であるか、又は1以上のR〜R、R〜R及びR〜Rと結合している窒素原子との組合せが複素環式基を形成し、Xは陰イオンであり、nは1又は2である。
【0041】
2−6として適切なアルキル基としては、一般に約1〜12個の炭素原子を含有する第一アルキル基がある。Rは通常R2−6と同じ構造のアルキル基又は末端炭素が第一であるC2−12アルキレン基であり、最も好ましくは、C2−6アルキル又はC4−8直鎖アルキレンである。或いは、R2−7と対応する窒素原子(複数のこともある)との組合せがピペリジノ、ピロロ又はモルホリノのような複素環式基を形成してもよい。
【0042】
基は任意の陰イオンでよく、好ましくは強酸の陰イオンであり、例は塩素、臭素及びメタンスルホン酸である。塩素及び臭素イオンが通常好ましい。nの値はRがアルキルであるかアルキレンであるかに応じて1又は2である。
【0043】
式VIから分かるように、グアニジニウム塩の正電荷は1つの炭素と3つの窒素原子上に非局在化している。このため、これらの塩は本発明の実施形態で遭遇する比較的高温の条件で安定していると考えられる。
【0044】
また、この反応は通例水に対して敏感であり、溶媒を含む反応混合物は、通例触媒を加える前に、公知の方法により、例えば混合物から水を沸騰又は共沸させることによって乾燥するのが好ましい。一実施形態では、系からの水の除去は、蒸留塔と1以上の反応器との併用のような当技術分野で周知の手段を用いて回分式、半連続式又は連続式プロセスで行うことができる。一実施形態では、反応器から留出する水と非極性有機液体の混合物を蒸留塔に送り、そこで水を塔頂から取り出し、所望の固形分濃度を維持又は増大する速度で溶媒をリサイクルして反応器に戻す。水を除去するその他の方法としては、限定されることはないが、凝縮した留出物を乾燥床に通して水を化学的又は物理的に吸着させるものがある。
【0045】
いかなる理論にも縛られたくはないが、立体障害置換1,3−芳香族ジアミンは、ジアミン環に結合しているC−N結合の回りのイミド環の回転を制限し、従ってビスイミド分子が環状オリゴマー、殊に1:1単環式付加物の形成につながる共平面性及び構造を取るのを防ぐと考えられる。環状オリゴマーの量を低減することによって、イミドカルボニルと隣接するアルキル基との間の好ましくない相互作用が回避される。
【0046】
本発明は1,3−ジアミンに焦点を合わせているが、他のジアミンを立体障害ジアミンを生成する化合物と置き換えてもよく、次にこの立体障害ジアミンを用いて重合によってポリエーテルイミドを生成するモノマーを形成することができる。得られるポリエーテルイミドは、非置換モノマーを用いて得られるポリマーよりも環状副産物のレベルが低い。
【0047】
本発明の方法で製造されたポリエーテルイミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)又は加熱撓み温度(HDT)のような改良された熱機械性能特性を有している。
【実施例】
【0048】
以下の非限定実施例により本発明を例証する。
【0049】
実施例1
3−ClPAと置換1,3−ジアミンからClPAMIモノマーを製造した。利用した置換1,3−ジアミンは、2,4−トルエンジアミン(2,4−TDA)、2,6−トルエンジアミン(2,6−TDA)、及びジエチルトルエンジアミン(Ethacure 100)であった。m−フェニレンジアミン(mPD)が親の非置換1,3−ジアミンである。比較のためにp−フェニレンジアミン(pPD)、ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS及び4,4’−DDS)及び4,4’−オキシジアニリン(ODA)を含めた。
【0050】
ClPAMIモノマーの合成に用いた置換1,3−ジアミンで得られた固体分析及び溶解性の結果を下記表1にまとめて示す。
【0051】
これらの各種ジアミンから製造したClPAMIモノマー中の%固形分は、試料の理論重量を試料と溶媒の重量で割って決定した。
【0052】
ClPAMIモノマーの溶解性は、溶媒の沸点(o−DCBの場合180℃)において表示した特定の%固形分で生成物が完全に可溶性であるときに目視で決定した。その他の場合は、溶解性は低いか、又はモノマーはやや溶けにくかった。
【0053】
【表1】

上記実施例から明らかなように、2,4−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミン、及びジエチルトルエンジアミンで製造したClPAMIモノマーはmPD及びpPDと比較して高まった溶解性を有していた。
【0054】
実施例2
次いで、上記実施例1に記載の方法で製造したClPAMIモノマーを利用してポリエーテルイミドを製造した。得られた各樹脂のガラス転移温度(Tg)は、Perkin Elmer DSC7機を用いて示差走査熱量測定により得られた。%環状モノマー及び%総環状物はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で決定した。GPC分析は、PLゲル5um Mixed−CカラムとUV検出器を備えたHP 1100 Series装置で溶離液としてクロロホルムを用い(溶離速度0.8ml・min−1)製造業者のソフトウェアを利用して行った。溶離速度0.7mL/minは、PLゲルMixed−CカラムとUV検出器を備えたPolymer Labs HT−120 GPC系で、Perkin Elmer Turbochromソフトウェアを利用して行った。
【0055】
下記表2に示す結果は、置換1,3−ジアミンを用いて製造したClPAMIモノマーで、同等もしくは優れたガラス転移温度を有し、しかも環状物レベルの低減したポリエーテルイミドが得られることを立証している。
【0056】
【表2】

以上の結果は、明らかに、簡単な比較的安価で市販の置換1,3−ジアミンが驚くべきことに、ClPAMIの合成容易性、環状物の生成低減、及び良好な熱的性能(Tg)にわたる良好な性能バランスを、しかも低いコストで得ることができるということを示している。
【0057】
典型的な実施形態について本発明を説明してきたが、いかなる意味でも本発明の思想から逸脱することなく様々な修正と置換をなすことが可能であるので、本発明がここに示した詳細に限定されることはない。すなわち、当業者には日常の実験の範囲内でここに開示した本発明の別の修正と等価物が明かであり、かかる修正と等価物は全て特許請求の範囲に記載の本発明の思想と範囲内に入るものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、ClPAMI及びポリエーテルイミドの合成過程の概要である。
【図2】図2は、不要環状物の形成を示すClPAMI合成の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(ハロフタルイミド)の製造方法であって、
1種以上のハロフタル酸無水物と、
アミン官能性の1つに対してオルト位に1以上の置換基を有する1,3−ジアミンと、
o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン、アニソール及びベラトロールの極性以下の極性を有する有機液体と
を110℃以上の温度で混合し、
ビス(ハロフタルイミド)を得る
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記混合段階が、さらに、実質的に純粋な3−クロロフタル酸無水物、及び4−クロロフタル酸無水物、ジクロロフタル酸無水物、フタル酸無水物及びこれらの混合物からなる群から選択される別のフタル酸無水物と3−クロロフタル酸無水物との組合せからなる群から選択される1種以上のハロフタル酸無水物と混合することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合段階が、さらに、次式の1,3−ジアミンと混合することを含む、請求項1記載の方法。
【化1】

式中、nは1〜4であり、Gは−R、−OR、−SR、−Ar、−OAr、−SAr及び−CNからなる群から選択され、RはC〜C30脂肪族炭化水素、C〜C30不飽和脂環式炭化水素、及びアラルキル炭化水素からなる群から選択される。
【請求項4】
o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン、アニソール及びベラトロールの極性以下の極性を有する有機液体の存在下で、3−クロロフタル酸無水物を、アミン官能性の1つに対してオルト位に1以上の置換基を有する1,3−ジアミンと、110℃以上の温度で接触させることを含んでなる、ジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記混合段階が、さらに、3−クロロフタル酸無水物を、4−クロロフタル酸無水物、ジクロロフタル酸無水物、フタル酸無水物及びこれらの混合物からなる群から選択される別のフタル酸無水物と混合することを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記混合段階が、さらに、次式の1,3−ジアミンと混合することを含む、請求項4記載の方法。
【化2】

式中、nは1〜4であり、Gは−R、−OR、−SR、−Ar、−OAr、−SAr、及び−CNからなる群から選択され、RはC〜C30脂肪族炭化水素、C〜C30不飽和脂環式炭化水素、及びアラルキル炭化水素からなる群から選択される。
【請求項7】
ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体が、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエン、及び2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエンからなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項8】
請求項4記載の方法で製造したジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体を、相間移動触媒の存在下で、ジヒドロキシ置換芳香族化合物の1種以上のアルカリ金属塩と混合し、ポリエーテルポリマーを得ることを含んでなり、得られたポリエーテルポリマーが低減したレベルの環状オリゴマー副産物を有する、芳香族ポリエーテルポリマーの製造方法。
【請求項9】
ビスフェノールA二ナトリウム塩と、
ジアミンのビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体と、
o−ジクロロベンゼン及びアニソールからなる群から選択される希釈剤と、
触媒活性量の相間移動触媒と
を混合し、
ポリエーテルイミドを得る
ことを含んでなる、ポリエーテルイミドの製造方法であって、前記ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体が3−クロロフタル酸無水物と次式の1,3−ジアミンを含む混合物の反応生成物を含んでなる方法。
【化3】

式中、nは1〜4であり、Gは−R、−OR、−SR、−Ar、−OAr、−SAr、及び−CNからなる群から選択され、RはC〜C30脂肪族炭化水素、C〜C30不飽和脂環式炭化水素、及びアラルキル炭化水素からなる群から選択される。
【請求項10】
ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]誘導体が、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]トルエン、2,4−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエン、及び2,6−ビス[N−(3−クロロフタルイミド)]−3,5−ジエチルトルエンからなる群から選択される、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−503437(P2007−503437A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524631(P2006−524631)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/021181
【国際公開番号】WO2005/023903
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】