説明

ポリオキシアルキレン化合物の製法

【課題】 通常の製造設備を用い、副生成物の生成を抑制しつつ、多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させて高分子量のポリオキシアルキレン化合物を効率良く得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るポリオキシアルキレン化合物の製造方法は、1分子当り3個以上の水酸基を有する飽和化合物にアルキレンオキサイドを付加反応させてアルキレンオキサイドが合計で60モル以上付加したポリオキシアルキレン化合物を得る方法であって、前記水酸基含有飽和化合物の水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド低モル付加物を得る初期工程(I)と、
前記初期工程で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物に、前記アルキレンオキサイド低モル付加物の水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させる付加モル数調整工程(II)とを含み、
前記初期工程(I)で得られるアルキレンオキサイド低モル付加物は、25℃で液体状態であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させて、アルキレンオキサイドが高モル付加したポリオキシアルキレン化合物を製造する方法に関する。前記化合物は、高性能AE減水剤、コンクリート用収縮低減剤などの水硬性材料用添加剤の用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
アルコール類等の水酸基含有化合物にアルキレンオキサイドを付加させてなるポリオキシアルキレン化合物は、例えば、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸とのエステル化反応や(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応により不飽和基を導入した後に不飽和カルボン酸と共重合させて、高性能AE減水剤等の水硬性材料用添加剤に適したポリカルボン酸を得るのに有用であり、従来から、セメント添加剤等の用途に用いるポリマーの原料として汎用されている。このような場合、分散性等の性能をより向上させるためには、ポリオキシアルキレン化合物の分子量は大きい方が好ましいことが良く知られている。
【0003】
分子量の大きいポリオキシアルキレン化合物を製造するには、水酸基含有化合物にアルキレンオキサイドをより多く付加させれば良いのであるが、この場合、原料の仕込み容量に対して、生成物の容量が非常に大きくなる。このため、通常は、特殊な形状の反応器を用いたり、特殊な攪拌装置を用いたりする必要があり、使用可能な製造設備に種々の制約があった。
【0004】
そこで、それを解決するためには、特許文献1には、活性水素含有化合物にアルキレンオキサイドを付加させる際に、特定の条件で2段階で付加する方法が開示され、特許文献2には、水酸基含有飽和化合物にアルキレンオキサイドを付加させる際に、特定の条件下に複数段階で付加する方法が提案されている。
【0005】
一方、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールに、アルキレンオキサイドを付加反応させて得られるポリオキシアルキレン化合物は、1価の飽和アルコール化合物のポリオキシアルキレン化合物とは性状が大きく異なるものであった。
【0006】
そのため、前記ポリオキシアルキレン化合物を製造する際の問題として、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加体は、アルキレンオキサイド付加モル数によってその付加体の性状が大きく異なるため、1価の飽和アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体の場合と同様な方法で、複数段階でアルキレンオキサイドを付加しようとしても、初期段階の反応で得られた中間体が冷却時、貯蔵時または次の工程に移送する際に固化してしまう問題があった。そのような固化を防止するためには、容器や装置、配管に保温装置が必要であったり、再度加温融解させる工程が必要となっていた。
【0007】
すなわち、上記特許文献の方法を採用しても、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドが高モル付加したポリオキシアルキレン化合物を生産性良く製造することができないのが現状であった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−321103号公報
【特許文献2】特表2005−526159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させて、アルキレンオキサイドが高モル付加したポリオキシアルキレン化合物を、通常の製造設備を用いて効率良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを高モル付加反応させて高分子量のポリオキシアルキレン化合物を得る際に、まず前記多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させて、25℃で液体状態であるアルキレンオキサイド低モル付加物を得た後、前記アルキレンオキサイド低モル付加物に、さらにアルキレンオキサイドを付加することにより解決できることを見出した。この場合の液体状態とは、流動性がある状態のことを云い、一部固体成分を含んでいても、全体として流動性があれば良い。
【0011】
すなわち、本発明にかかるポリオキシアルキレン化合物の製法は、1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させてアルキレンオキサイドが合計で60モル以上付加したポリオキシアルキレン化合物を得る方法であって、前記多価アルコールの水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド低モル付加物を得る初期工程(I)と、
前記初期工程で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物に、該アルキレンオキサイド低モル付加物の水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させる付加モル数調整工程(II)とを含み、
前記初期工程(I)で得られるアルキレンオキサイド低モル付加物は、25℃で液体状態であることを特徴とする。
【0012】
前記初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の全量もしくは一部を、アルカリ触媒の共存下に、液体状態で前記付加モル数調整工程(II)に移送することが好ましい態様である。
【0013】
また前記付加モル数調整工程(II)において、さらにアルカリ触媒を追加してアルキレンオキサイドを付加させることが好ましい態様である。
【0014】
また前記アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイドであることが好ましく、前記1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールは、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリンおよびポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコールもしくはそのアルキレンオキサイド3〜6モル付加物であることが好ましいものである。
【0015】
また本発明で得られるポリオキシアルキレン化合物は、コンクリートの収縮低減剤等の水硬性材料用添加剤として好適に用いられるものである。
【0016】
なお、本発明において付加モル数とは、平均付加モル数のことを意味し、水酸基1モルに対する平均付加モル数のことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において用いることのできる1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリン、およびポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコールもしくはそのアルキレンオキサイド3〜6モル付加物であることが、高付加モル数のポリオキシアルキレン化合物を得る上で好ましいものである。なかでも、トリメチロールプロパンもしくはそのアルキレンオキサイドの3〜6モル付加物またはペンタエリスリトールもしくはそのアルキレンオキサイドの3〜6モル付加物が特に好ましい。
【0018】
本発明において用いることのできるアルキレンオキサイドとしては、特に制限されるものではないが、反応性が良い点で、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが好ましく、具体的には、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でもエチレンオキサイドが特に好ましい。
【0019】
アルキレンオキサイド低モル付加物を得る初期工程(I)
本発明の製法において、前記多価アルコールの水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させて、25℃で液体状態のアルキレンオキサイド低モル付加物を得る初期工程(I)を有する。
【0020】
初期工程(I)におけるアルキレンオキサイドの付加量は、上記多価アルコールの水酸基1モルに対して平均5モル以上であれば特に限定されないが、好ましくは5モル以上50モル以下、より好ましくは、5モル以上30モル以下、さらに好ましくは、10モル以上20モル以下である。これにより、初期工程(I)における反応前後の容量変化を通常の製造設備で対応できる範囲、例えば、好ましくは28倍以下、より好ましくは22倍以下、さらに好ましくは16倍以下、さらにより好ましくは10倍以下に抑えることができる。
【0021】
また、初期工程(I)で得られるアルキレンオキサイド低モル付加物は、25℃で液体状態であることが必須である。この液体状態とは、流動性がある状態であれば良く、一部固体成分を含んでいても、全体として流動性があれば良い。そうすることにより、移送、貯蔵時に加温等の操作が不要で取り扱いが容易であり、連続生産等の生産性が向上する。
【0022】
前記アルキレンオキサイド低モル付加物の粘度は、25℃で、通常10〜5000mPa・sの範囲、好ましくは、10〜3000mPa・sの範囲、より好ましくは、10〜2000mPa・sの範囲である。上記アルキレンオキサイド低モル付加物の粘度は、測定温度25℃において、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドル、回転数は、粘度に応じて、適宜選択すれば良く、粘度値は、測定時に装置に表示される値(読み値)と、スピンドル番号−回転数から決まる係数から算出して得られる。
【0023】
初期工程(I)で得られるアルキレンオキサイド低モル付加物のアルキレンオキサイド付加モル数としては、付加に供する多価アルコールの種類によって、アルキレンオキサイド低モル付加物の性状が異なり一定でないので包括的に定義できないが、通常、前記多価アルコールの水酸基1モルに対して、好ましくは5モル以上50モル以下、より好ましくは、5モル以上30モル以下、さらに好ましくは、10モル以上20モル以下の範囲である。
【0024】
初期工程(I)において、アルキレンオキサイドを付加させる際の反応温度は、特に制限はないが、好ましくは60〜180℃の範囲内、より好ましくは70〜170℃の範囲内、さらに好ましくは80〜160℃の範囲内とするのが良い。反応温度が180℃を超えると、ポリアルキレンオキサイド等の副生成物が増える傾向があり、例えば、得られたポリオキシアルキレン化合物を用いてセメント分散剤用ポリマーを得た場合、減水性能等の性能が低下する傾向がある。一方、反応温度が60℃未満であると、付加速度が遅くなり、生産性が低下する場合がある。
【0025】
初期工程(I)においてアルキレンオキサイドを付加させる際には、触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらの水酸化物が好ましく、より好ましくは、ナトリウム、ナトリウムアマルガム、ナトリウムハライド、水酸化ナトリウム、カリウム、カリウムアマルガム、カリウムハライド、水酸化カリウム等の1種以上を用いることができる。なお、触媒の使用量については特に制限はないが、ポリオキシアルキレン化合物に対して10〜5000ppmとするのが好ましい。
【0026】
初期工程(I)における付加反応は、回分式で行っても連続式で行っても良いが、通常、多価アルコール、および必要に応じて前記触媒を添加した中に、アルキレンオキサイドを連続的に投入して行われる。
【0027】
また前記付加反応は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましく、窒素雰囲気下で行なうのが特に好ましい。また、前記付加反応は、加圧下で行なうのが好ましい。
【0028】
付加モル数調整工程(II)
本発明の製法において、初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物に、該アルキレンオキサイド低モル付加物の水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させる付加モル数調整工程(II)を有する。また上述のように、付加モル数調整工程(II)では、初期工程(I)で得られた25℃で液体状態のアルキレンオキサイド低モル付加物を使用することを特徴とする。
【0029】
本発明における付加モル数調整工程(II)では、初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の全量もしくは一部の量を使用することができるが、付加モル数調整工程(II)において初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の一部の量を使用することにより、仕込み容量に対する生成物の容量の増大を考慮することなく、通常の設備を用いて、アルキレンオキサイドの付加モル数が高いポリオキシアルキレン化合物を製造することができるので好ましい。さらに、この方法によれば、生成物の容量を考慮して原料の仕込み量を少なくする必要がないので、かかる原料の仕込み量に対する、装置から混入する水分の相対量の増加を防ぐことができ、ポリアルキレンオキサイド等の副生成物の増大が抑えられる。
【0030】
初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の一部の量を使用する場合、使用しなかった残りのアルキレンオキサイド低モル付加物は、一旦タンク等に貯蔵して、さらに付加モル数調整工程(II)に使用しても良い。
【0031】
また、初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の全量のうち、一部の量を使用して付加モル数調整工程(II)を行い、さらに残りの少なくとも一部を用いて、2回以上に分けて付加モル数調整工程(II)を行なうことが、本発明の効果を十分に発現するうえで好ましい。
【0032】
本発明における付加モル数調整工程(II)において用いるアルキレンオキサイド低モル付加物の使用量を、該工程で使用する反応器の全容量の60%以下とすることが好ましい。より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下、さらにより好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下である。本発明における付加モル数調整工程(II)では、反応前後の容量変化は小さいので、通常の設備を用いて、アルキレンオキサイドの付加モル数を向上させることができるのであるが、アルキレンオキサイド低モル付加物の使用量が反応器の全容量の60%を超えると、通常の設備においてはアルキレンオキサイドの使用量が制限され、所望の付加モル数にまでアルキレンオキサイドを付加させることが困難になる場合がある。
【0033】
本発明において、付加モル数が非常に高いポリオキシアルキレン化合物を得ようとする場合、付加モル数調整工程(II)を2回以上に分けて行なうことが好ましい。具体例を挙げると、例えば、付加モル数が200以上のポリオキシアルキレン化合物を所望する場合には、一例として、第1回目の付加モル数調整工程(II)でアルキレンオキサイドの150モル付加物を製造し、次いで、得られたアルキレンオキサイドの150モル付加物の一部に対して、50モル以上のアルキレンオキサイドをさらに付加させれば良い。
【0034】
本発明において、付加モル数調整工程(II)は、初期工程(I)後、得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の一部を抜き出して貯蔵タンク等に移し、初期工程(I)と同一の反応器を用いて行っても良いし、初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の一部を別の反応器に移し、初期工程(I)と異なる反応器で行っても良い。
【0035】
付加モル数調整工程(II)においては、アルレンオキサイドの使用量をアルキレンオキサイド低モル付加物1モルに対して平均400モル以下とすることが好ましい。このアルキレンオキサイドの使用量は、より好ましくは平均300モル以下、さらに好ましくは平均250モル以下、さらにより好ましくは平均200モル以下である。これにより、付加モル数調整工程(II)における反応前後の容量変化を通常の製造設備で対応できる範囲(例えば、好ましくは25倍以下、より好ましくは22倍以下、さらに好ましくは16倍以下、さらにより好ましくは、10倍以下)に抑えることができる。
【0036】
付加モル数調整工程(II)で用いるアルキレンオキサイドの使用量がアルキレンオキサイド低モル付加物1モルに対して平均400モルを超えると、反応前後の容量変化が大きくなり、特殊な反応器形状や特殊な攪拌装置を用いなければならなくなる。また、アルキレンオキサイド低モル付加物の仕込み量を減らして通常の設備を使用することも考えられるが、この場合、装置から混入する水分量が多くなり、ポリアルキレンオキサイド等の副生成物が増加することになるので好ましくない。
【0037】
付加モル数調整工程(II)において、アルキレンオキサイドを付加させる際の反応温度は、特に制限はないが、好ましくは80〜180℃の範囲内、より好ましくは90〜170℃の範囲内、さらに好ましくは100〜160℃の範囲内とするのが良い。反応温度が180℃を超えると、ポリアルキレンオキサイド等の副生成物が増える傾向があり、例えば、得られたポリオキシアルキレン化合物を用いてセメント添加剤用ポリマーを得た場合、収縮低減性能等の性能が低下する傾向がある。一方、反応温度が80℃未満であると、付加速度が遅くなり、生産性が低下するので好ましくない。
【0038】
付加モル数調整工程(II)においてアルキレンオキサイドを付加させる際には、触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらの水酸化物が好ましく、より好ましくは、ナトリウム、ナトリウムアマルガム、ナトリウムハライド、水酸化ナトリウム、カリウム、カリウムアマルガム、カリウムハライド、水酸化カリウム等の1種以上を用いることができる。これら触媒は、付加モル数調整工程(II)では初期工程(I)で得られた生成物中に残存する触媒が作用するので、初期工程(I)でのみ添加するようにしても良いが、初期工程(I)と付加モル数調整工程(II)の両方において添加することが好ましい。なお、触媒の使用量については特に制限はないが、ポリオキシアルキレン化合物に対して10〜5000ppmとするのが好ましい。
【0039】
付加モル数調整工程(II)において、さらに前記触媒を追加してアルキレンオキサイドを付加させることが好ましい態様である。
【0040】
付加モル数調整工程(II)における付加反応は、回分式で行っても連続式で行っても良いが、通常、アルキレンオキサイド低モル付加物、および必要に応じて前記触媒を添加した中に、アルキレンオキサイドを連続的に投入して行われる。
【0041】
また前記付加反応は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましく、窒素雰囲気下で行なうのが特に好ましい。また、前記付加反応は、加圧下で行なうのが好ましい。
【0042】
また初期工程(I)と付加モル数調整工程(II)とは、同じ反応容器内で行なっても良いし、各々の工程を別々の反応容器で行なっても良く、初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の全量もしくは一部を、前記触媒の共存下に、液体状態で付加モル数調整工程(II)に移送、輸送することが好ましい態様である。移送、輸送時におけるアルキレンオキサイド低モル付加物の温度は、アルキレンオキサイド低モル付加物が液体状態であれば特に制限はないが、移送、輸送時に加温等の操作を必要としないことが生産効率上好ましい。また、付加モル数調整工程(II)において、さらに前記触媒を追加してアルキレンオキサイドを付加させる場合には、該アルキレンオキサイド低モル付加物の温度が高いと、副反応が起こりやすくなるので、前記触媒追加の際におけるアルキレンオキサイド低モル付加物の温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下、最も好ましくは40℃以下である。
【0043】
前記付加モル数調整工程(II)の後に、さらに必要により、水で希釈してポリオキシアルキレン化合物水溶液の濃度を調整する工程を設けても良い。
【0044】
本発明によれば、アルキレンオキサイドが合計で60モル以上付加したポリオキシアルキレン化合物が効率良く得られる。得られるポリオキシアルキレン化合物のアルキレンオキサイドの合計付加モル数は、好ましくは、60モル以上1000モル以下、より好ましくは、100モル以上900モル以下、さらに好ましくは、200モル以上800モル以下である。
【0045】
本発明の製造方法によって得られたポリオキシアルキレン化合物の特に好適な用途として、セメント添加剤が挙げられ、特に、乾燥収縮低減剤用に好適である。本発明の製造方法によって得られたポリオキシアルキレン化合物は、水溶液の形態でそのままセメント添加剤の主成分として使用しても良く、また他の公知のセメント添加剤と組み合わせて使用しても良い。他の公知のセメント添加剤としては、例えば、セメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張材、防水剤、遅延剤、急結剤、分離低減剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤、硬化促進剤、消泡剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、実施例および比較例に記載の「部」および「%」はそれぞれ「重量部」および「重量%」を示している。
【0047】
実施例1(ポリオキシアルキレン化合物(TMP225)の製造)
初期工程(I):
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキサイド導入管を備えたステンレス製高圧反応容器に、トリメリロールプロパン190部、48%水酸化ナトリウム水溶液8.59部を仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温して加熱攪拌した。加熱攪拌下、微量の窒素を流通させながら、反応容器内を減圧し、内温を120℃まで上げて内圧50mmHgで1時間脱水を行なった。1時間脱水後、窒素で加圧し、内温を150℃まで上げて、安全圧下(反応容器内の窒素分圧の方がエチレンオキサイド分圧より常に高くなるような条件)で内温を150℃に保持したまま、エチレンオキサイド1871.4部を6時間かけて反応容器内に導入した。さらに、30分間その温度を保持してエチレンオキサイド付加反応を完結させ、トリメリロールプロパンに、水酸基1モル当たり10モルのエチレンオキサイドを付加したエチレンオキサイド低モル付加物(A)を2061.4部得た。得られたエチレンオキサイド低モル付加物(A)は25℃で液体状態で、粘度は1400mPa・sであった。
【0048】
付加モル数調整工程(II):
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキサイド導入管を備えた別のステンレス製高圧反応容器に、1段目で得られたエチレンオキサイド低モル付加物(A)340部を、配管を通じて送液して導入し、反応容器内を窒素置換し、内温を150℃まで上げて、安全圧下(反応器内の窒素分圧の方がエチレンオキサイド分圧より常に高くなるような条件)で内温を150℃に保持したまま、エチレンオキサイド2006.3部を7時間かけて反応容器内に導入した。さらに、30分間その温度を保持して、エチレンオキサイド低モル付加物(A)に、水酸基1モル当たり65モルのエチレンオキサイドを付加させた。その結果、トリメチロールプロパン1モルに対して、エチレンオキサイドが合計で225モル付加したポリオキシアルキレン化合物(TMP225)を2346.3部得た。
【0049】
実施例2(ポリオキシアルキレン化合物(PNT800)の製造)
初期工程(I):
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキサイド導入管を備えたステンレス製高圧反応容器に、ペンタエリスリトールEO4モル付加体140部、48%水酸化ナトリウム0.67部を仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温して加熱攪拌した。加熱攪拌下、微量の窒素を流通させながら、反応容器内を減圧し、内温を120℃まで上げて内圧50mmHgで1時間脱水を行なった。1時間脱水後、窒素で加圧し、内温を150℃まで上げて、安全圧下(反応容器内の窒素分圧の方がエチレンオキサイド分圧より常に高くなるような条件)で内温を150℃に保持したまま、エチレンオキサイド697.3部を5時間かけて反応容器内に導入した。さらに、30分間その温度を保持してアルキレオキサイド付加反応を完結させ、ペンタエリスリトールに、水酸基1モル当たり10モルのエチレンオキサイドを付加したエチレンオキサイド低モル付加物(B)を837.3部得た。得られたエチレンオキサイド低モル付加物(B)は25℃で液体状態で、粘度は1100mPa・sであった。
【0050】
付加モル数調整工程(II):
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキサイド導入管を備えた別のステンレス製高圧反応容器に、1段目で得られたエチレンオキサイド低モル付加物(B)400部を、配管を通じて送液して導入し、次に48%水酸化ナトリウム水溶液0.315部を仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温して加熱攪拌した。加熱攪拌下、微量の窒素を流通させながら、反応容器内を減圧し、内温を120℃まで上げて内圧50mmHgで1時間脱水を行なった。1時間脱水後、窒素で加圧し、内温を150℃まで上げて、安全圧下(反応容器内の窒素分圧の方がエチレンオキサイド分圧より常に高くなるような条件)で内温を150℃に保持したまま、エチレンオキサイド370.1部を4時間かけて反応容器内に導入した。さらに、30分間その温度を保持して、エチレンオキサイド低モル付加物(B)に、水酸基1モル当たり10モルのエチレンオキサイドを付加させた。その結果、ペンタエリスリトール1モルに対して、エチレンオキサイドが合計で80モル付加したポリオキシアルキレン化合物(PNT800)を770.1部得た。
【0051】
比較例1
初期工程(I):
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキサイド導入管を備えたステンレス製高圧反応容器に、トリメリロールプロパン120部、48%水酸化ナトリウム水溶液4.35部を仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温して加熱攪拌した。加熱攪拌下、微量の窒素を流通させながら、反応容器内を減圧し、内温を120℃まで上げて内圧50mmHgで1時間脱水を行なった。1時間脱水後、窒素で加圧し、内温を150℃まで上げて、安全圧下(反応容器内の窒素分圧の方がエチレンオキサイド分圧より常に高くなるような条件)で内温を150℃に保持したまま、エチレンオキサイド3545.8部を10時間かけて反応容器内に導入した。さらに、30分間その温度を保持してアルキレオキサイド付加反応を完結させ、トリメリロールプロパンに、水酸基1モル当たり30モルのエチレンオキサイドを付加したエチレンオキサイド低モル付加物(C)を3665.8部得た。得られたエチレンオキサイド低モル付加物(C)は常温に冷却したところ、固体状となり、そのままでの移送、計量等は困難となった。
【0052】
付加モル数調整工程(II):
予め、所定量のエチレンオキサイド低モル付加物(C)を60℃に加熱溶融した後、移送、計量してから、実施例1と同様に別の反応容器に仕込み、実施例1と同様に反応を行なったが、生産効率が大きく低下した。
【0053】
[収縮低減性の評価]
実施例で得られたポリオキシアルキレン化合物の、コンクリート収縮低減剤用途としての評価をモルタル試験にて行なった。比較参考例として、トリメリロールプロパンのEO6モル付加体も評価した。
(1)モルタルの混練
モルタルの混練は以下のとおり実施した。所定量のポリオキシアルキレン化合物を秤量して水で希釈したもの225gと普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)450gおよびセメント強さ試験用標準砂(JIS R5201−1997附属書2の5.1.3に規定;セメント協会)1350gを、ホバート型モルタルミキサー:型番N−50(ホバート社製)を用い、JIS R5201−1997の方法に従いモルタルの混練を行った。
【0054】
また、モルタル空気量がポリオキシアルキレン化合物を添加しないモルタル(基準モルタル)の空気量±3vol%となるように、必要に応じて空気量調整剤を使用してモルタル空気量の調整を行なった。モルタル空気量の測定は500mlメスシリンダーを用い、JIS A1174(まだ固まらないポリマーセメントモルタルの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法))に準拠して実施した。
(2)乾燥収縮低減性の評価
モルタルの混錬は上記項目(1)と同じ方法により実施した。
次に、乾燥収縮低減性評価用のモルタル供試体(4×4×16cm)の作成をJIS A1129に従い実施した。
【0055】
型枠には予めシリコングリースを塗布して止水すると共に容易に脱型できるようにした。また、供試体の両端にはゲージプラグを装着した。混錬して得られたモルタルを流し込んだ型枠を容器に入れ、密閉し20℃で保管し、初期養生を行なった。1日後に脱型し、供試体に付着したシリコングリースを、たわしを用いて水で洗浄し、続いて20℃の静水中で6日間養生(水中養生)した。
【0056】
JIS A1129に従い、ダイヤルゲージ((株)西日本試験機製)を使用した。静水中で6日間養生した供試体の表面の水を紙タオルでふき取った後、直ちに測長し、この時点の長さを基準とした。その後、温度20℃、湿度60%に設定した恒温恒湿室内に保存し、適時測長した。この際、長さ変化比は、下記式(2)で示されるように、基準モルタルの収縮量に対する、ポリオキシアルキレン化合物添加モルタルの収縮量の比とし、値が小さいほど収縮を低減できることを示す。
【0057】
長さ変化比
={(ポリオキシアルキレン化合物添加モルタルの収縮量)/(基準モルタルの収縮量)}×100
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、本発明のポリオキシアルキレン化合物は、コンクリートの収縮低減剤として用いた時に、良好な収縮低減性能を示していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリオキシアルキレン化合物の製法によれば、副生成物の生成を抑制し、仕込み容量に対する生成物の容量の増大を考慮することなく、通常の設備を用いて、アルキレンオキサイドの付加モル数が高いポリオキシアルキレン化合物を、作業性、生産性良く製造することができる。また初期工程(I)で得られる中間体を一旦タンクに保管する際の保温が不要で、その後、触媒等の反応添加物を追加投入する場合でも室温で混合できるので加温する必要がなく、加温による副生成物の生成を抑制できる利点もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子当り3個以上の水酸基を有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させて、前記多価アルコール1モルに対して、アルキレンオキサイドが合計で60モル以上付加したポリオキシアルキレン化合物を得る方法であって、
前記多価アルコールの水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させてアルキレンオキサイド低モル付加物を得る初期工程(I)と、
該初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物に、該アルキレンオキサイド低モル付加物の水酸基1モルに対して5モル以上のアルキレンオキサイドを付加させる付加モル数調整工程(II)とを含み、
前記初期工程(I)で得られるアルキレンオキサイド低モル付加物が、25℃で液体状態であることを特徴とする、ポリオキシアルキレン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記初期工程(I)で得られたアルキレンオキサイド低モル付加物の全量もしくは一部を、アルカリ触媒の共存下に、液体状態で前記付加モル数調整工程(II)に移送することを特徴とする、請求項1に記載のポリオキシアルキレン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記付加モル数調整工程(II)において、さらにアルカリ触媒を追加してアルキレンオキサイドを付加させることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリオキシアルキレン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のポリオキシアルキレン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリンおよびポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコールもしくはそのアルキレンオキサイド3〜6モル付加物であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のポリオキシアルキレン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオキシアルキレン化合物は、コンクリートの収縮低減剤として用いられるものである請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−132803(P2010−132803A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311094(P2008−311094)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】