説明

ポリオルガノシロキサン歯科用印象材

ポリビニルシロキサンと界面活性剤とを含む歯科用印象材であって、該界面活性剤が該組成物に、該印象材が約3分後に約50度未満である水との表面接触角を有するように濡れ性を付与する歯科用印象材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはポリオルガノシロキサン歯科用印象材を対象とする。より詳しくは、本発明は、改良された濡れおよび引裂強度を含む改良された物性を有する上記材料を対象とする。具体的には、本発明は、シリコーングリコール界面活性剤を使用する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、硬化または固化するときに優れた寸法安定性を有する常温重合性ポリオルガノシロキサンの改良を対象とする。より詳しくは、本発明は、一般に2成分タイプの組成物における改良を対象としており、1つの成分は、ケイ素に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサンとの付加反応にあずかることができるビニル基を有するオルガノポリシロキサンを含む。第2の成分は、ビニル基を介してケイ素原子に結合している水素原子の付加を促進することができる触媒を含む。
【0003】
これら常温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物のいくつかを使用する主要な分野は、歯科である。上記材料は、クラウン、ブリッジ、義歯、その他の口腔内補綴物のその後の綿密な仕上げを支える口腔内の硬質および軟質組織の近似形態を確保するための印象材として一般的に使用されている。歯科用途に対しては、口腔内補綴物の適合などの優れた忠実度を確保するために、構造再現性の並外れた忠実度が必要である。これとの関連で、印象材の硬化中における寸法変化は回避しなければならない。さらに、複製物または口腔内補綴物などの表面には、凹凸、傷、穴、その他の欠陥が有意に存在してはならない。これは、上記印象から導出された成型物および補綴物は、適切に適合し、良好な接着を達成し、繊細な口腔内構造の刺激を避けるために、良好な表面の品質を有しており、穴や凹凸があってはならないためである。これらのポリオルガノシロキサンは、また、計測科学、SEMの実験室処理、さらに宝石類の加工など、精密な再現性が重要である他の分野においても有用である。
【0004】
歯科用印象材としてポリオルガノシロキサンを使用する場合、多くの困難が生ずる。まず第1に、引裂強度が低い傾向がある。効果的に印象を採得しようとする場合、特に薄い境界領域における歯列から細部を維持しつつ引裂かれることなく印象を容易に取り外すことができることが必要である。従来、引裂強度を改良するためには、様々な種類の充填剤が添加されてきた。この添加により約10%程度の改良をもたらすことができるが、その程度の改良では不十分であることが判明している。
【0005】
Paradisoは、WO93/17654において、四官能を含む多官能ポリシロキサン成分を印象材に組み込んで、得られた硬化印象材基質に、特に線状ビニルで末端封鎖のポリシロキサン主成分の長さに沿って、さらなる架橋結合を付加することにより引裂強度を改良することを記載している。このParadisoの組成物は、その分子からのペンダントを形成しているMeSi単位でキャップをしたSiOH基を含んでいる。これらのペンダントは、線状ポリシロキサン鎖の間に単なる力学的または物理的連結を提供するに過ぎない。この解決法は、非化学的であり、架橋密度が低くて不十分である。
【0006】
Voigtらは、EP0522341A1において、架橋を促進し、増加する手段として「QM」樹脂を利用し、35〜45秒という非常に短い処理時間で歯列咬合採得デバイスを形成することについて記載している。これらの樹脂は、Qとして四官能のSiO4/2、およびMとして単官能単位のRSiO1/2(Rは、ビニル、メチル、エチルまたはフェニルである)あるいは同様の三官能または二官能単位などのビルディング・ブロックを含む。Voigtは、高い靭性および硬度を有する弾性変形の小さいエラストマーが生じることを言及している。しかしながら、上記材料は、柔軟性を欠き、伸び率が低く、印象を得るには不適当である。そのQM樹脂の高められた架橋速度はまた、処理時間を非常に限定された不満足なものにする。
【0007】
ポリオルガノシロキサン印象材に伴う他の主要な良く知られた問題点は、その本来有する疎水性により引き起こされる。この特性は、口腔内の虫歯の環境が濡れており、唾液や血液により汚染されていることが多いために、硬いものと軟らかいものとが存在する口腔内組織の複製物を作製することを困難にする。印象材の疎水性により、歯列の重要表面においてしばしば表面の細部を失うことが起こり得る。
【0008】
ポリオルガノシロキサン印象材の多くの改良は、ポリシロキサンの疎水性を低下させ、その組成物をより親水性にするために歯科用印象材に界面活性剤成分を添加することに集中している。例えば、Bryanらは、米国特許第4657959号において、シロキサンまたはペルフルオロアルキル可溶化基を含有するエトキシ化ノニオン界面活性剤を添加し、3分後に約65度未満の水接触角を得たことを記載している。界面活性剤をシリコーン・プレポリマーに溶解または分散させるためにヒドロカルビル基を含む界面活性剤が、エチレンオキシ基を含めて言及されているが、得られた結果は、決して最適ではないようである。
【特許文献1】WO93/17654
【特許文献2】EP0522341A1
【特許文献3】米国特許第4657959号
【非特許文献1】Gower著、「Handbook of Industrial Surfactants」1993
【非特許文献2】ADA規格19:非水性エラストマー印象材(1976;1982の19aにおいて修正されている)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
要するに、ポリオルガノシロキサン印象材は、適切な作業時間、引裂強度および濡れ性を提供することで、口腔内の硬質および軟質組織の印象を採得するための組成物の改良された使用法を提供するため、引裂強度や濡れ性の改良を依然として必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
新規なポリビニルシロキサン印象材は、口内の硬質および軟質組織を記録する低粘度および高粘度の印象材において有用である。この新規な印象材は、白金触媒、ビニルポリシロキサン材料の2成分である。1成分が重合用の触媒を含んでいる歯科用印象製造用のこの2成分重合性オルガノシロキサン組成物は、
(a)ビニル基を含有するQM樹脂;
(b)該QM樹脂と共に、約0.16〜0.24ミリモル/gのビニル含量を有する分散体を形成する線状ビニル終端ポリジメチルシロキサン液;
(c)該ビニル基を架橋するためのオルガノハイドロジェンポリシロキサン;
(d)該各成分の重合を促進するための有機白金錯体触媒;
(e)該錯体触媒のための乳化性可塑剤;
(f)該重合の開始を一次的に遅延させるのに十分な量の遅延剤成分;
(g)充填剤(フィラー);および
(h)該組成物に、該組成物の水との表面接触角が3分後に50度未満となるような濡れ性を与える界面活性剤
を含んでいる。
【0011】
本発明はまた、30秒において約10度未満の水接触角を達成するシリコーングリコール界面活性剤を使用したポリオルガノシロキサン印象材も提供する。好ましい界面活性剤は、例えばBASFから市販されているMasil SF 19などのPEG−8メチコーンである。本発明の1実施形態によれば、以下に明らかになるように、30秒において2度の接触角が達成された。
【0012】
好ましくは、(a)と(b)との分散体は、約5,000〜60,000cpsの粘度を有する。(a)と(b)との分散体は、所望の粘度とQM樹脂含量を有する複数の分散体成分を含むことができる。好ましくは、該QM樹脂含有分散体は、約5,000〜7,000cpsの粘度を有する第1の分散体成分;および約45,000〜60,000cpsの粘度を有する第2の分散体成分とを含んでおり、前記QM樹脂は各分散体の約20〜25重量%を構成している。
【0013】
好ましいQM樹脂は、SiO4/2単位およびRSiO1/2単位(式中、Rは不飽和、好ましくはビニルであり、Rは、メチル、エチル、フェニルなどのアルキル、アリールなどである)を含むポリオルガノシロキサンを含んでいる。より好ましくは、該QM樹脂は式:##STR1##を有する。
【0014】
該組成物の遅延剤成分は、該組成物の少なくとも約0.030重量%の量を占める線状または環状ポリシロキサンである低分子量のビニル官能性流体である。好ましくは、該遅延剤成分は流体状1,3−ジビニル,ジメチルジシロキサンを該組成物の約0.030〜0.10重量%の量で含む。
【0015】
該組成物は、歯科用印象を採得するのに適した組成物を有利に形成することができるよう、所望の取扱い特性および流動特性を錯体触媒に与えて第2の成分の特性に適合させる乳化性可塑剤を含む。好ましくは、該可塑剤は、前記触媒成分の約0.5〜2.0重量%の、アルキルフタレート、最も好ましくはフタル酸オクチルベンジルを含む。
【0016】
本発明の充填剤成分は前記組成物の約15〜約45重量%を構成し、好ましくは約20〜約40重量%の充填剤混合物を含む。
【0017】
本発明に係る組成物の重要な成分は、濡れ性を付与する界面活性剤であり、好ましくは約8〜11のHLBと約6〜8のpHとを有する。最も好ましい界面活性剤は、非イオン界面活性剤である、約10.8のHLBを有するノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールである。
【0018】
重合後、本発明に係る組成物は270〜300PSI(1.86〜2.06MPa)の引裂強度を有し、その水に対する接触角は3分において約50度未満である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の例示的な重合性ポリシロキサン組成物は、一般的には:1分子当たり少なくとも約2個のビニル基を有し、それに分散させた四官能性ビニルポリシロキサン樹脂をさらに含むオルガノポリシロキサン;1分子当たり少なくとも2個のケイ素原子に結合した少なくとも約2個の水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン;該水素原子に結合した該ケイ素原子の該ポリシロキサンビニル基への付加を促進するための、乳化性可塑剤を含む触媒;充填剤;重合の開始を遅らせるための低分子量遅延剤組成物;および該印象材に濡れ性を付与する乳化性界面活性剤を含んでいる。
【0020】
本発明の組成物は、2つの成分に分けられる。第1の成分(便宜的に「基材ペースト」と呼ぶ)は、該ビニルオルガノポリシロキサン分散体、該オルガノハイドロジェンポリシロキサン、該充填剤および該界面活性剤の一部を含む。この2成分組成物の第2の成分は、「触媒ペースト」と呼び、該ビニルポリシロキサンの第2の部分を、前記付加反応を促進するための触媒、前記乳化性可塑剤、重合の間に放出される水素のための掃気剤、ならびに通常は充填剤および顔料の追加分量と共に含んでいる。
【0021】
上記四官能性ビニルポリシロキサンを含む分散体を形成するためのものとして本発明の歯科用ポリシロキサン組成物中に含有させる、1分子当たり少なくとも約2個のビニル基を有する種々の有機ポリシロキサンが知られている。これら材料の各々は、本発明の実施に応じて含有濃度をより大きくまたはより小さくすることができる。本発明における使用に好ましいものは、鎖状のビニル終端ポリジビニルシロキサン、好ましくは、ジビニルポリジメチルシロキサンである。かかるポリマーとしては、種々の粘度とそれに応じた種々の平均分子量を有するものが販売されている。これらの材料は、得られるシリコーン材料が直面する条件に適した粘度を有するように選択するのが望ましい。
【0022】
重要な分散体は5,000〜60,000cpsの範囲内の粘度を有する。実際には、異なる粘度と物理的性質とを有する分散ポリマー類の配合物を使用して所望のチキソトロピー性と粘度とを有する組成物を提供することが好ましい。
【0023】
重要な分散体は、2つの粘度範囲:(1)約5,000〜7,000cpsの粘度を有する第1の分散体;および(2)約45,000〜65,000cpsの粘度を有する第2の分散体で形成されることが好ましい。この目的のためにメチル置換基を有するポリシロキサンオリゴマーを用意することが好都合であるが、他の置換基もまた本発明による組成物中に包含させることができる。したがって、アルキル、アリール、ハロゲンおよび他の置換基を、有用である該ビニルポリシロキサンの一部として、より大きいあるいはより小さい濃度で包含させることができる。当業者であれば、上述した考慮すべき各事項から、ある特定の用途のためにはどのポリシロキサン材料が好適であるかを決定することができるであろう。
【0024】
本技術分野でQM樹脂として呼ばれかつ知られている四官能性ポリシロキサンは、それにより得られる重合架橋密度の増加によって、重合した印象組成物に対して向上した引裂強度を提供する。知られているように、該QM樹脂は、四官能性SiO4/2単位;およびRSiO1/2(式中、Rは不飽和のもの、好ましくはビニルであり、Rはメチル、エチルあるいはフェニルといったアルキル、アリールなどである)のようなM単位から構成される。好ましい組成物において、Rはビニルであり、両Rはメチルである。最も好ましい組成物は式:##STR2##によって表される。
【0025】
該QM樹脂は、該ビニル終端ポリジビニルシロキサンを含む分散体中のビニル濃度として少なくとも約0.16ミリモル/gを与える。好ましくは、該ビニル濃度は0.16〜0.24ミリモル/gである。QM樹脂の量は分散体の好ましくは約20〜25重量%である。かかる分散体は、ペンシルバニア州ピッツバーグのMiles,Inc.によって販売されている。「未希釈」のもの、あるいは該好適な流体ポリジビニルシロキサン以外の担体に分散されたものを含む他のQM樹脂配合物を使用することもできる。
【0026】
本発明の重要な要素は、組成物を使用する十分な作業時間を与えるようにQM樹脂/分散体の重合開始を遅らせる遅延剤成分である。この遅延剤はそれが消費されることで、そうでなければ速く進み過ぎる重合を遅らせる。好ましい重要な印象材における好ましい遅延剤液は、遅延機能が作用する十分な濃度レベルの1,3ジビニルジメチルジシロキサンであり、それは、該組成物の少なくとも約0.03重量%、好ましくは約0.03〜0.10重量%の範囲内である。この好ましい量は組成物の安定化のためにPVS系で用いられる典型的な量である0.0015〜0.020重量%といった少ない量とは対照的である。その他の適切な遅延剤は、重合時にまず消費されて、硬化を適切かつ所望どおりに遅らせる任意の低分子のビニル官能基材料、例えば鎖状および環状ポリシロキサンである。
【0027】
本発明の実施において有用なオルガノハイドロジェンポリシロキサン類は当業者によく知られている。必要なことは、水素原子がケイ素原子に直接結合しているポリシロキサン類を使用することと、それらが適当な粘度や他の物性を有することである。アルキル(特にメチル)、アリール、ハロゲンなどの分子中の置換基も同様に使用することができる。ただかかる置換基が白金触媒付加反応を阻害しないことが必要である。また、使用する分子が1分子当たり少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有していることが好ましい。約35〜45cpsの範囲内の粘度を有するポリメチルハイドロジェンシロキサンが好ましい。
【0028】
(水素原子に結合した)ケイ素原子の、ビニルポリシロキサン分子のビニル基との反応を触媒する有用な触媒としては白金系触媒が好ましい。この点で、塩化白金酸のような白金化合物を、好ましくは一種以上のビニル化合物、特にビニルポリシロキサン類との混合物または錯体として用いるのが好ましい。かかる化合物が好ましいことが分かったが、他の触媒もまた有用である。したがって、白金金属は、パラジウム、ロジウムなどの他の貴金属やその各錯体や塩と並んで同様に有用である。しかしながら、毒性学的許容性の観点からは、歯科用途には白金が非常に好ましい。
【0029】
本発明に係る組成物はまた、充填剤、好ましくは疎水性充填剤の混合物を含む。シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、無機塩、金属酸化物、およびガラスなどの多様な無機疎水性充填剤を使用することができる。しかしながらシリコーンの形態を使用するのが好ましい。本発明によれば、シリコーンの混合物を使用するのが好ましいことが見出されており、例えば、粉末化石英(4〜6mu)などの結晶性二酸化ケイ素;珪藻土(4〜7mu)などの非晶質二酸化ケイ素;およびCabot Corporation製のCab−o−Sil TS−530(160〜240m/g)などのシリネート化フュームドシリカなどに由来するものが挙げられる。上記各材料のサイズと表面積は、得られる組成物の粘度とチキソトロピー性とを制御するために調整される。上記の各疎水性充填剤のいくつかまたはすべては、当業者によく知られているように、一種以上のシラン化剤または「粗面化」剤(keying agents)を用いて表面処理する。かかるシラン化は、既知のハロゲン化シランまたはシラジドを用いて達成することができる。該充填剤は、好ましくは、組成物の約15〜約45重量%の量で存在して、ポリマーリッチであり、したがって改善された流動性を有する印象用組成物を形成する。該充填剤は、より好ましくは、組成物の約35〜40重量%である。好ましい充填剤混合物は、14〜24重量%の結晶性二酸化ケイ素、3〜6重量%の非晶質二酸化ケイ素と、4〜8重量%のシラン化フュームド二酸化シリケイ素とを含む。最も好ましい充填剤は、約4〜6muの粒径のクリストバライト約19%、約4〜7muの粒径の珪藻土約4%および約160〜240m/gのシラン化フュームドシリカ約6%である。
【0030】
ビニル重合の結果一般に発生する水素ガスの放出を抑制または軽減するために、化学システムを採用することができる。したがって、本組成物はかかる水素を探して取り込む微細に分割したプラチナ金属を含んでいてもよい。かかるPt金属は、実質的に不溶性で約0.1〜40m/gの間にある表面積を有する任意の塩の上に堆積させることもできる。好適な塩としては、適当な粒径の硫酸バリウム、炭酸バリウムおよび炭酸カルシウムが挙げられる。他の基材としては、珪藻土、活性アルミナ、活性炭などが挙げられる。無機塩は、それを取り込んで得られた材料に安定性を付与する点で特に好ましい。かかる塩の上に、プラチナ金属を、触媒成分の重量に対し約0.2〜2ppmの量で分散される。無機塩粒子上に分散させたプラチナ金属を使用することにより、歯科用シリコーンの硬化中の水素ガス放出が実質的に排除または軽減されることが分かった。
【0031】
本発明の重要な改善点は、3分において50度未満、より好ましくは30秒において約10度未満の水との表面接触角で示されるような濡れ性を付与するPEG−8メチコーン界面活性剤を前記組成物に含ませることである。界面活性剤の選択による予測し得ない結果は、大きな臨床的利点を提供するものであり、10度未満の濡れ接触角が約30秒未満で達成され、組成物の使用中も減少して、10度未満であり続け、完全に濡れるのにもっと時間を要する従来技術のポリビニルシロキサン、界面活性剤配合物とは対照的である。本発明の組成物のこの高い濡れ速度は、印象採得過程で特に有利であり、図を用いて説明する。
【0032】
図1においては、度で表した濡れ接触角を時間(分)の関数として表したものを、本発明のポリビニルシロキサン組成物と従来技術の組成物との間で比較している。曲線Aが本発明の組成物であり、基材成分と触媒成分とを混合して2分後には濡れ接触角が約50度であることを示している。図1は、良好な濡れ性が迅速に達成され、印象採得材料の有効使用時間である約3.5分の間に速い速度でさらに増大してゆくことを示している。曲線BとCはそれぞれ、従来技術に係るポリエーテルと慣用のポリビニルシロキサンとの印象材である。図2は、本発明の組成物(曲線A)、および上記の従来技術の組成物(曲線BおよびC)について、時間の関数としての印象材の粘度の変化を表したものを示している。これは混合後の重合過程の進行具合を示すもので、図1と一緒に、本発明の組成物の濡れ性増大が印象材の臨界作業時間中に起こることを示しており、他の既知のシステムに優る重要な利点である。
【0033】
本発明における界面活性剤は、陽イオン性、陰イオン性、両性、または非イオン性であることができる。選択の鍵となる基準は、疎水性親油性バランス(HLB)値(Gower著、「Handbook of Industrial Surfactants」1993参照)が8〜11の範囲内になければならないということである。よく知られているように、HLB値が高ければ高いほど,その物質は疎水性である。さらに、印象材の重合に有害となるかもしれない副反応を防止するために、界面活性剤のpHは6〜8の範囲内になければならない。好ましい界面活性剤は非イオン性で、HLB値が10.8のノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールを含むもので、Rhone−Poulenc of Cranbury(NJ)からIgepal CO−530として販売されている。比較すると、上記のBryanらの米国特許第4657959号に関しては、Igepal CO−630は、13.0のHLB値を有していてCO−530とは構造が異なり(CO−630の繰り返し単位数は9であり、CO−530のそれは6である)効果がないことが判明しており、上記のHLBの範囲の臨界性を示している。
【0034】
好ましい界面活性剤は、BASFから市販されているPEG−8メチコーンである。
【0035】
本発明の組成物は、印象材、特に触媒成分の取扱い性および流動性を有利に改変する可塑剤を含むことができる。好ましい乳化性可塑剤は、フタル酸オクチルベンジルである。他のフタル酸エステルも有用である。
【0036】
本発明の組成物については種々の顔料を加えることで好ましい色を得ることができる。かかる顔料は周知であり、二酸化チタン等種々のものが含まれる。
【0037】
本発明に従って調製される2成分組成物は、従来の印象材と同様に使用される。したがって、ほぼ同量の基材ペーストと触媒ペーストをよく混ぜ合わせ、口腔内の歯列やその他の場所に組成物が重合または硬化するのに十分な時間押し付ける。組成物が実質的に硬化したら、口や他の表面から取り外してキャストなどの製作に使用し、そこから続いてキャスト表面の再現物が調製される。
【0038】
当業者にとって当然なことに、歯科用シリコーン材料に関しては、その市場での有用性を最大にするためには、適切な保存温度において相当長期間保存することができることが重要である。したがって、上記材料は、かかる保存期間中に物性の低下や、作業時間や硬化時間の実質的な変化を起こさないことが必要である。この点に関しては、現在では高い周囲温度を採用した促進貯蔵試験により材料の貯蔵性を測定することが可能である。
【0039】
以下に本発明の実施形態のいくつかについて説明する。下記のもの以外にも数多くの組成物および配合物が本発明の精神の範囲内で作製することができよう。以下の実施例は本発明を限定するものではなく、説明のために示すものである。
【実施例1】
【0040】
本発明の2成分組成物を基材ペースト成分および触媒ペースト成分として配合する。各成分の材料を、45℃〜50℃の循環水を用いて加熱した混合槽を有する二重遊星形ミキサーにより65mmHg真空下で混合する。
基材ペースト成分
【0041】
基材ペーストを調製するに際して、混合ポットにオルガノハイドロジェンポリシロキサンのすべてを最初に装入し、その後追加的にQM分散体および充填剤成分を装入し、全体が均一になるまで混合を継続する。最終仕上げの基材ペーストを貯蔵容器内に取り出す。
触媒ペースト成分
【0042】
触媒ペースト成分を配合し、上で述べた条件下および装置内で混合する。白金触媒、1,3−ジビニルジメチルジシロキサン、QM樹脂分散体、充填剤および顔料を混合ポットに追加的に加え、均一な素材が得られるまで混合する。次いでこのように配合した触媒ペーストを貯蔵容器内に取り出す。
各成分の組成を下の表に示す。表中、量は各成分の重量パーセントである。
【0043】
【表1】

【実施例2】
【0044】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0045】
【表2】

【実施例3】
【0046】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0047】
【表3】

【実施例4】
【0048】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0049】
【表4】

【実施例5】
【0050】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0051】
【表5】

【実施例6】
【0052】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0053】
【表6】

【実施例7】
【0054】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0055】
【表7】

【実施例8】
【0056】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0057】
【表8】

【実施例9】
【0058】
実施例1で記載の通りに、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0059】
【表9】

【実施例10】
【0060】
実施例1で説明したようにして、下表に示す組成を有する本発明の2成分組成物を、最初に基材ペースト、次に触媒ペーストを作ることにより作製する。
【0061】
【表10】

【実施例11】
【0062】
上記実施例のそれぞれの代表的なサンプルの10gを等量部で混合し、混合物および得られた重合組成物の諸性質を試験した。下記の表はその測定結果を示している。そこに示した最初の5つの性質はADA規格19:非水性エラストマー印象材(1976;1982の19aにおいて改正)に従って試験したものである。
【0063】
下記の手順を用いて、各実施例の引張引裂強度、パーセント伸びおよび弾性率を得た。
等量部の基材成分および触媒成分を混合し、試料または試験片を、頂部アーム8mm深さ、中心I部分5mm幅を有する、厚さ1.5mm、20mm×11mmであるI−形空洞を有する試料型に入れる。充填した型を2個のステンレス鋼板に間にクランプし、この組立品を32℃の水浴に入れる。混合開始から6分で、組立品を浴から取り出す。型をはずし、試験片を型から取り出し、試験片からすべてのばりを取り除く。混合開始から10分で、試験片を伸長モードでInstron Model 1123の試験片試験グリップ内にクランプする。Instronを、引裂強度[psi]、伸び%、弾性率を計算するようにプログラムしたMicrocon IIマイクロプロセッサーに取り付ける。11分で、試験片がピーク破損に達するまで、10mm/分の割合で、Instronにより試験片に応力をかける(最大荷重を5kgにセットしてある)。これを5つの試験片について繰り返し、得られた統計的評価結果を表1に示す。
【0064】
濡れ接触角を、以下のように各実施例について測定した。基材ペースト1gおよび触媒ペースト1gを均一になるまで(約30秒)混合した。混合ペーストの0.5gを2枚のポリエチレンシート(Dentsilk)の間に置き、ガラス板を使用して約2〜3mm厚さに平らにプレスする。試験片を硬化するまで(約15分)静置した。ポリエチレンシートを、試験片の表面に触れないよう注意して除去し、試験片を接触角測定用の周知の装置であるジノメーターのテーブル上に置く。アイピースのレクチクルを試験片表面の水平面および垂直面に調節し、水滴を試験片表面上に落下させると同時にストップウォッチを作動させる。1.5分〜3.5分において、水/試験片界面での内部接触角を、ジノメータースケールを用いて度単位で測定し、各試験片について記録したものを以下の表1に示す。なお、以下の表中においてNAは測定不可能を意味している。
【0065】
【表11】

【0066】
実施例1〜3は、好ましい組成物である。実施例1は、チューブから計量分配し、手練りするのに好適である。実施例2は、カートリッジ計量分配および静的混合用に最も好ましい。実施例3は、チューブ計量分配用またはカートリッジ計量分配用のいずれにも適当な低粘度組成物を形成するのに好適な本発明の組成物を説明している。
【0067】
実施例4の組成物は、高い粘度を有し、激しいガス発生を示し、高い水素化物濃度を有し、脱気成分を有していなかった。実施例5は、低い粘度を有しており、良好なシリンジコンシステンシーを示したが、引裂強度は低く、高い変形パーセントおよび歪みパーセントを有していた。この組成物は、高い水素化物濃度、低い界面活性剤濃度、低い遅延剤濃度および低い触媒濃度を有していた。実施例6、8および9の各組成物は適切に重合しなかった。実施例6の組成物は、遅延剤および触媒濃度が低過ぎた。界面活性剤も、HLBが高過ぎ、酸性が強過ぎた。実施例7の組成物は湿潤能に欠けており、望ましい限界を超える表面接触角を示した。実施例8および9は共に遅延剤および触媒の濃度が低過ぎた。実施例10の組成物は望ましい変形パーセントを越えていた。
【0068】
PEG−8メチコーン界面活性剤を用いた実施例
他の点では従来どおり、本発明による印象材は多種類の粘度等に配合することができる。単相、重質、硬質、低粘度、極低粘度等を有する印象材を配合することは歯科業界では一般的である。好ましい印象材は、上で述べたように、事実上2成分の付加硬化性ポリビニルシロキサンである。該材料は、また、シラン化、フュームド、非晶質および/または結晶質シリカ、顔料、着香料、可塑剤および/または他の界面活性剤を含有することができる。本材料は、本明細書中で説明した予想し得ない改良された特性を利用して歯科用印象材として従来法で使用される。
【0069】
本発明を適用することができる有用な印象材の例としては、BASF MASIL SF 19界面活性剤などのPEG−8メチコーン界面活性剤を添加したAQUASIL系列の印象材(米国ペンシルベニア州ヨークのDENTSPLY International Inc.から市販されている)が挙げられる。
【0070】
以下は、本発明により調製される組成物の実施例である。
【0071】
【表12】

【0072】
【表13】

【0073】
【表14】

【0074】
【表15】

【0075】
【表16】

【0076】
【表17】

【0077】
【表18】

【0078】
【表19】

【0079】
【表20】

【0080】
【表21】

【0081】
【表22】

【0082】
【表23】

【0083】
【表24】

【0084】
【表25】

【0085】
【表26】

【0086】
以下の表は、MASIL SF−19を使用した本発明の極低粘度、低粘度、単相および硬質の各形態の物理的特性値を示す。表および図3から分かるように、濡れ性および引裂強度が、従来技術で得られたものより大きく改良されている。表中、XLVは極低粘度であり、LVは低粘度であり、RSは通常硬化であって、上記各用語は本技術分野において慣用されている。
【0087】
【表27】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】濡れ接触角(度)を時間(分)の関数として示すグラフである。
【図2】印象材の粘度を時間(分)の関数として示すグラフである。
【図3】パーセント伸びおよび引裂強度(psi)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルシロキサンと界面活性剤とを含む歯科用印象材であって、該界面活性剤が該組成物に対し、約3分後の該印象材の水との表面接触角が約50度未満であるように濡れ性を付与する歯科用印象材。
【請求項2】
前記界面活性剤が該組成物に対し、約30秒後の該印象材の水との表面接触角が約10度未満であるように濡れ性を付与する請求項1に記載の歯科用印象材。
【請求項3】
前記界面活性剤が該組成物に対し、約30秒における該印象材の水との表面接触角が約2度であるように濡れ性を付与する請求項1に記載の歯科用印象材。
【請求項4】
前記界面活性剤がPEG−8メチコーンである請求項1に記載の歯科用印象材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−521228(P2007−521228A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507821(P2005−507821)
【出願日】平成15年7月18日(2003.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/022581
【国際公開番号】WO2005/016289
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(590004464)デンツプライ インターナショナル インコーポレーテッド (85)
【Fターム(参考)】