説明

ポリオレフィン系グラフト共重合体

金属化合物の変性粒子にオレフィン系モノマーをグラフト共重合させたポリオレフィン系共重合体を提供することである。配位重合触媒の存在下、特に後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、金属化合物の変性粒子に、オレフィン系モノマーをグラフト共重合させることにより、ポリオレフィン系グラフト共重合体を得ることができる。さらには、ポリオレフィン樹脂に、該ポリオレフィン系グラフト共重合体を配合することにより、ポリオレフィン樹脂の特性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、配位重合触媒の存在下、特に後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、金属化合物の変性粒子に、オレフィン系モノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、新規なポリオレフィン系グラフト共重合体、その組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
金属化合物の粒子は各種ポリマーの剛性、耐熱性、寸法安定性、耐衝撃性、難燃性、脱水性、脱湿性、放射線防護性、紫外線防護性、熱線輻射性、光散乱・反射性、電磁波吸収性、圧電性、熱伝導性、導電性、磁性、断熱・軽量性、摺動性、制振性、その他の機能性等を改良するのに用いられている。しかしながら、そのような金属化合物の粒子とポリマーは相溶性が悪い場合があり、そのような場合には、改良したいポリマー成分をそのような金属化合物の粒子にグラフトさせる方法が有効である。特に水中に分散させやすい金属化合物の粒子の場合には、乳化重合を利用してグラフトさせる方法が最適である。例えば、コロイダルシリカにビニル系モノマーをグラフト共重合させることにより、コアシェル体が合成できることが開示されている(特開平9−194208)。また、コロイダルシリカとシリコーンのコアシェル体にビニル系モノマーをグラフト共重合させた後、熱可塑性樹脂に添加することにより、熱可塑性樹脂の耐磨耗性、耐候性、耐衝撃性等が改良できることが開示されている(特開平4−270710)。さらには、炭酸カルシウム/リン酸カルシウム/(メタ)アクリル酸エステル重合体系3層コアシェル体などの無機粒子/無機物/有機重合体系3層コアシェル体が合成され、熱可塑性樹脂の強度、弾性率、衝撃強度、耐ブロッキング性、耐スクラッチ性が改良されている(特開2001−98164)。
しかしながら、グラフトしたビニル系ポリマーとポリオレフィン樹脂との相溶性は一般的に異なるため、これらをポリオレフィン樹脂に配合した場合には、相溶性の低さに由来して、例えば引張伸びが低下する等の問題があった。
一方、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物(以下、粘土化合物という)とポリオレフィンとの複合体を溶融混練法あるいは重合法により製造する研究が活発になされている。
一般的には粘土化合物としては有機化したもの(変性物)を用い、その後、ポリオレフィンとの溶融混練あるいはオレフィン重合により複合体を得ている。しかしながら、有機化粘土とポリオレフィンとの相溶性は必ずしも十分ではないため、有機化粘土の有機部分とポリオレフィンとのグラフトにより相溶性を改良する試みがなされている(特開2000−136308)。
粘土化合物のグラフト化は溶融混練法により得られるものであるが、重合法によるグラフト化についての例はこれまでなかった。
また、一般的な配位重合触媒(前周期遷移金属錯体)は水中で失活する特性を有するために、金属化合物の粒子の水中分散体にオレフィン系モノマーをグラフト共重合させることは一般的に困難であった。
【発明の開示】
本発明の課題は、金属化合物の変性粒子にオレフィン系モノマーをグラフト共重合させたポリオレフィン系共重合体を提供することであり、特に水中に分散した状態で金属化合物の変性粒子にオレフィン系モノマーをグラフト共重合させたポリオレフィン系共重合体を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、配位重合触媒の存在下、金属化合物の変性粒子に、オレフィン系モノマーをグラフト共重合させることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、配位重合触媒が、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、α−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される活性種であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。
好ましい実施態様としては、オレフィン系モノマーが炭素数10以下のα−オレフィンであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、金属化合物が、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、モリブデン、鉄、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、シリコン、錫、鉛、及びアンチモンからなる群から選択される少なくともひとつの金属を含むことを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、金属化合物が、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、チタン酸塩、ジルコン酸塩、ボレート、硫化物、炭化物、及びホウ酸塩のいずれかであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、金属化合物が、水酸化マグネシウム、シリカであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、金属化合物が、粘土化合物であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、金属化合物の変性粒子が、金属化合物と官能基を有する化合物とを反応させた変性粒子であり、該官能基を有する化合物が、水中に分散した状態の金属化合物と反応可能な官能基と、配位重合可能な炭素−炭素二重結合とを1つの分子内に有する化合物であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
また本発明は、上記記載のポリオレフィン系グラフト共重合体と、ポリオレフィン樹脂とを含有することを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
また本発明は、上記記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法に関する。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ポリオレフィン樹脂に混練した際の分散性や相溶性が良好である。またその結果、組成物に高い引張伸びや、高い引張弾性率(硬質性)、高い極性(ぬれ性)、高い難燃性等を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、配位重合触媒の存在下、金属化合物の変性粒子にオレフィン系モノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
本発明に使用される配位重合触媒は、オレフィン重合活性をもつものであればいずれのものでも使用可能であるが、金属化合物共存下、特に水共存下でオレフィン重合活性をもつことが好ましく、従って、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が好ましい。
(後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒)
本発明に使用される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、水共存下でオレフィン重合活性をもつものであればいずれのものでも使用可能であり、後周期遷移金属としては、周期表8〜10族の、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が好ましく、この中でも10族のニッケル、パラジウム、白金が好ましく、特にニッケル、パラジウムが、さらにパラジウムが、水中でも比較的安定であることから好ましい。
本発明の後周期遷移金属錯体中の配位子としては、窒素、酸素、リン、硫黄を含有する配位子が挙げられるが、特に制限はなく、例えば、Chem.Rev.2000年,100巻,1169頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、Angew.Chem.Int.Ed.2002年,41巻,544頁、Chem.Rev.2003年,103巻,283頁等の総説中や、WO97/17380、WO97/48740、Chem.Commun.2000年,301頁、Macromol.Symp.2000年,150巻,53頁、Macromolecules,2001年,34巻,1165頁、Macromolecules,2001年,34巻,1513頁、Macromolecules,2001年,34巻,2022頁、Macromolecules,2003年,36巻,6711頁等に記載されている配位子を用いることができる。その中でも合成が簡便という点で、2つのイミン窒素を有する配位子が、特にα−ジイミン型の配位子が好ましい。
本発明の後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される構造の種が好適に使用される。この種にオレフィン系モノマーが配位、挿入していき、重合が進行していく。一般的には活性種と呼ばれている。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。
Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またRがヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。
また、Lで表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R)C(R)=NArで表される化合物は、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R、Rは炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q)が、触媒の金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合あるいは水素−炭素結合から、ハロゲン等を引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M)が発生し、助触媒のアニオン(L)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。Rを具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、特に、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。なお、M−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入はM−炭素結合(あるいは水素結合)に比べておこりにくいため、特に好ましいRはメチル基である。
さらに、RとしてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
助触媒としては、Qで表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き抜き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF4、B(C4、B(C(CF4、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが挙げられる。特に、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF6、AsF6、SbFが、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。活性の高さからは、BF4、B(C4、B(C(CFが、特にB(C4、B(C(CFが好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF、C、C、C17、Cがあるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
上述の活性化の理由から、後周期遷移金属錯体系触媒/助触媒のモル比は、1/0.1〜1/10、好ましくは1/0.5〜1/2、特に好ましくは1/0.75〜1/1.25である。
(オレフィン系モノマー)
本発明に用いられる、オレフィン系モノマーは、炭素数2〜20のオレフィンであれば特に制限はなく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。
この中でも炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。
また、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、ジシクロペンタジエン等のジエンを少量併用してもよい。
オレフィン系モノマーの使用量としては、制限はないが、オレフィン系モノマー/活性種(触媒または助触媒のうち少ない方の量になる)がモル比で10〜10、さらには100〜10、とくには1000〜10とするのが好ましい。当該モル比が小さすぎると、分子量の小さい重合体しか得られなくなり、大きすぎると、モノマーに対するポリマーの収率が低くなる傾向が生ずる。
(金属化合物の変性粒子)
本発明で用いられる金属化合物としては、特に制限はないが、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、モリブデン、鉄、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、シリコン、錫、鉛、及びアンチモンからなる群から選択される少なくともひとつの金属を含むことが好ましく、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、チタン酸塩、ジルコン酸塩、ボレート、硫化物、炭化物、及びホウ酸のいずれかであることが好ましい。具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、酸化ベリリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ガリウム、ケイ酸カルシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒素ケイ素、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ホウ酸亜鉛が挙げられ、水酸化マグネシウム、シリカが水に分散した状態で入手できるので特に好ましい。
また本発明で用いられる金属化合物として、粘土化合物を使用することもできる。ここでいう粘土化合物は、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物のことをいい、特に制限はない。粘土とは、微細なケイ酸塩鉱物の集合体であり、粘土鉱物とは、粘土の主成分をなす含水ケイ酸塩をいう。これらは天然物だけでなく、人工合成物であってもよい。イオン交換性層状化合物とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものをいう。
粘土や粘土鉱物の中には、イオン交換性層状化合物であるものもある。具体例としては、粘土鉱物としてのフィロケイ酸類(フィロケイ酸、フィロケイ酸塩)が挙げられる。フィロケイ酸塩としては、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト)、雲母族(イライト、セリサイト)、バーミキュライト族等があり、これらは混合層を形成していてもよい。フッ素四ケイ素雲母、ラポナイト、スメクトン等も挙げられる。
α−Zr(HPO、γ−Zr(HPO、α−Ti(HPO、γ−Ti(HPO、等の粘土鉱物ではないイオン交換性層状化合物も挙げられる。
イオン交換性層状化合物ではない粘土鉱物としては、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、セピオライト、パリゴルスカイト、アロフェン、イモゴライト等がある。粘土鉱物かつイオン交換性層状化合物が好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。
本発明で用いられる金属化合物の形状には特に制限はないが、球状であることが好ましい。粒子の大きさとしても特に制限はない。本発明の好ましい例であるシリカの場合には平均粒径が5〜1000nmであり、30〜150nmが好ましい。水酸化マグネシウムの場合には、平均粒径が50〜10000nmであり、300〜1500nmが好ましい。これらの粒子は水に分散した状態として調製してもよいし、調製した粒子を水に分散させてもよい。
シリカの場合には、コロイダルシリカが好ましく、これらコロイド状シリカはゾル−ゲル法で調製して使用することもできるが、日産化学製のスノーテックスの各グレード等、市販品を利用すればよい。
コロイダルシリカの主成分は二酸化ケイ素であるが、少量成分としてアルミナあるいはアルミン酸ナトリウム等を含んでいてもよく、さらに安定剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等の無機塩基やテトラメチルアンモニウムのような有機塩基が含まれていてもよい。
本発明でいう変性粒子とは、上記金属化合物の粒子に配位重合可能な活性点を導入した粒子のことをいう。具体的な一例としては、分子内に金属化合物と反応可能な官能基および配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下化合物(A)という)を、金属化合物の粒子と反応させることにより、配位重合可能な炭素−炭素二重結合を導入することができる。この配位重合可能な炭素−炭素二重結合は、金属化合物の変性粒子とオレフィン系モノマーとのグラフト共重合を可能にするための成分である。前記配位重合可能な炭素−炭素二重結合はアリル末端(α−オレフィン構造)、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端の炭素−炭素二重結合が好ましく、特に(メタ)アクリル末端およびアリル末端のものが、配位重合しやすく、すなわち、オレフィン系モノマーとグラフト共重合しやすいという点で好ましい。
本発明の好ましい例である水酸化マグネシウムの場合、化合物(A)としては、酸、特にカルボン酸であることが好ましい。具体例としては、アクリル酸、ビニル酢酸、4−ペンテン酸、2,2−ジメチル−4−ペンテン酸、ウンデシレン酸、5−ノルボルネン−2,3,−ジカルボン酸が挙げられるが、アクリル酸、ビニル酢酸、4−ペンテン酸、ウンデシレン酸が特に好ましい。
本発明の好ましい例であるシリカの場合、シリカのシラノールと反応するための基としては、珪素原子に結合した加水分解性アルコキシ基またはシラノール基、あるいは環状シロキサン構造を持つ基を用いることが好ましい。化合物(A)の具体例としては、たとえば3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、および1,3,5,7−テトラキス(アクリロキシプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリス(アクリロキシプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンなどのオルガノシロキサンがあげられ、このうち3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが反応性が良好であるという点で特に好ましい。これら化合物(A)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の好ましい例である粘土化合物の場合、粘土化合物と反応可能な官能基としては、オニウムイオンであることが好ましく、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンが挙げられ、アンモニウムイオンであることが好ましい。化合物(A)の具体例としては、特に制限はないが、下記の式の化合物を挙げることができる。

これら化合物(A)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(A)の反応は、水に分散した状態がゲル化しない条件下であればいかなるpHで行われてもよい。また、必要に応じて反応系は加熱されてもよいし、また補助溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどが添加されてもよい。
化合物(A)の反応時および後続の重合時には凝集防止のための分散安定化剤を存在させておくとよい。分散安定化剤の使用量は分散安定性を維持する量以上で、かつ(重合開始時点に)媒体中でミセル形成する濃度以下の範囲であることが望ましい。
本発明で好ましく用いられる分散安定化剤は、陰イオン界面活性剤および/もしくは高分子分散安定化剤である。
本発明に使用できる陰イオン界面活性剤としてはラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなど高級脂肪酸のアルカリ金属塩類(セッケン)、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩などの高級アルコール硫酸エステルナトリウム塩類、ラウリルアルコール、エチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩などの高級アルキルエーテル硫酸エステル塩類、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸類、硫酸化オレフィン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩類、アルキルアリールスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩類、オレイル(N−メチル)タウライドなどアルキル(N−メチル)タウライド類、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルナトリウムなどスルホコハク酸ジエステル型界面活性剤、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルモノナトリウム塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。また、本発明には分散安定化剤として高分子分散安定化剤を使用もしくは併用してもよい。
金属化合物と化合物(A)の組成比は、金属化合物100重量部に対して0.01〜50重量部が好ましく、さらに0.1〜10重量部、特に0.5〜5重量部が好ましい。
(金属化合物の変性粒子とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体)
本発明の金属化合物の変性粒子とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体は、水性媒体中、分散安定化剤の存在下で、水中に分散した状態の金属化合物の粒子と化合物(A)とを反応させた後に、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーをグラフト共重合させて得られる。
本発明の金属化合物の変性粒子は、そのままオレフィン系モノマーとの反応に用いても良いし、必要に応じて希釈、濃縮、熱処理、熟成処理などの操作を加えた後用いても良いし、乳化剤、凍結防止剤、安定剤、pH調整剤などの添加物を加えて成分を調整した後用いても良い。
金属化合物の粒子は、固形分含量が1〜50重量%のラテックスとして用いることが好ましく、さらに好ましくは固形分含量が2〜40重量%、特に5〜30重量%のラテックスとして用いることが好ましい。固形分含量が多すぎるとラテックス粒子の凝集が起って反応が不均一になりやすく、固形分含量が少なすぎると反応液全体の量が増えるので釜効率が悪くなる。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体の重合は、乳化あるいはそれに近い系で行う。例えば、金属化合物の変性粒子(以下変性粒子)のラテックスに配位重合触媒およびオレフィン系モノマーを均一に分散させて反応させることが出来る。用いるオレフィン系モノマーが反応温度において気体である場合は、低温で凝縮あるいは凝固させて液体もしくは固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱しても良いし、圧力をかけて液体または気体として仕込んでも良い。変性粒子、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加しても良い。また、水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで仕込んでも良い。
変性粒子とオレフィン系モノマーの使用割合は任意に設定しうるが、用いる変性粒子100重量部に対してオレフィン系モノマーを好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは5〜50重量部、特に10〜40重量部用いることが好ましい。オレフィン系モノマーが特に沸点100℃以下の揮発性液体もしくは気体である場合は、オレフィン系モノマーを大過剰に用い、上記の好ましい量が重合した時点で反応を停止して加熱あるいは圧力開放により未反応モノマーを除去することも可能である。
重合の際、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒の反応を促進するために有機溶媒を少量添加してもよい。その溶媒としては特に制限はないが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。また、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよい。水溶性が比較的低く、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましく、このような特に好ましい例としては塩化メチレン、クロロホルムおよびブチルクロリド、クロロベンゼンが挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。溶媒の合計使用量は、反応液全体の体積に対して好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。あるいは、使用する変性粒子の100重量部に対して好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。溶媒使用量が反応液全体の体積に対して30容量%以下、あるいは、変性粒子100重量部に対して150重量部以下の場合には、ラテックス粒子が安定で、且つ均一な反応が確保できるために好ましい。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造は、−30〜200℃、好ましくは0〜100℃で行われる。重合時間は特に制限はないが、通常10分〜100時間、反応圧力は特に制限はないが、常圧〜10MPaである。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保っても良いし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させても良い。用いるオレフィン系モノマーがエチレン、プロピレンなどの気体である場合は、重合反応によるモノマー消費に伴って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行っても良く、モノマーを供給したり加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行っても良い。
なお、該ポリオレフィン系グラフト共重合体は、グラフトしていないフリーのポリオレフィンを含有する場合があるが、フリーのポリオレフィンを実質的に含まないのが好ましく、各種の重合条件の調整により達成しうる。例えば前記変性粒子において配位重合可能な炭素−炭素二重結合の含量を増やしたり、オレフィン系モノマーの重合時に溶媒を添加することにより、フリーのポリオレフィンを低減しうる。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は通常ラテックスとして得られる。ラテックスの粒径は使用した変性粒子の粒径および反応させたオレフィン系モノマーの量に対応して得られる。反応条件によってはラテックス粒子の一部が凝集して析出したリフリーのポリオレフィンが副生成して析出する場合があるが、このような析出物の無い条件で反応を行うことが好ましい。
なお、前記のごとく得られるポリオレフィン系グラフト共重合体あるいはそれを含むラテックスは、たとえば該ラテックスを噴霧乾燥したり、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、ギ酸カルシウムなどの電解質により凝集させたり、このような析出のプロセスを経たのち洗浄・脱水(脱溶媒)・乾燥などの処理を経て、ポリオレフィン系グラフト共重合体からなる粉末、樹脂塊あるいはゴム塊として回収することができる。本発明のグラフト共重合体の乾燥物を押出機またはバンバリーミキサーなどを用いてペレット状に加工したり、析出から脱水(脱溶媒)を経て得られた含水(含溶媒)状態の樹脂を圧搾脱水機を経由させることによりペレット状に加工し回収することもできる。
(樹脂組成物)
本発明のグラフト共重合体をポリオレフィン樹脂に配合することにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ポリオレフィン成分を含むため低極性のポリオレフィン樹脂に対しても良好な分散性を示す。特に好ましい例としてのシリカの場合には、その成分を含むため様々な機能、特に剛性、耐擦傷性、耐熱性、寸法安定性、電気的特性、極性等を付与しうる。同じく特に好ましい例として水酸化マグネシウムの場合には、その成分を含むため様々な機能、特に剛性、耐擦傷性、耐熱性、寸法安定性、難燃性、極性等を付与しうる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などが例示できる。そのなかでもポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましく、特にポリプロピレンが、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体の分散性が良好であるという点で好ましい。
ポリオレフィン樹脂とポリオレフィン系グラフト共重合体との配合割合は、成形品の物性がバランスよくえられるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはポリオレフィン系グラフト共重合体の量がポリオレフィン樹脂100部に対して0.1部以上、好ましくは5部以上であり、またポリオレフィン樹脂の特性を維持するためには、ポリオレフィングラフト共重合体の量がポリオレフィン樹脂100部に対して500部以下、好ましくは100部以下、さらに好ましくは50部以下である。
また本発明のグラフト共重合体は、各種の熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂に配合することもでき、さらに上記ポリオレフィン樹脂に加えて、これら樹脂を配合することも可能である。
前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂以外に、一般に用いられている樹脂、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体などのビニルポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどのエンジニアリングプラスチックが好ましく例示される。前記熱硬化性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ホリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく例示される。これら熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂とポリオレフィン系グラフト共重合体との配合割合は、成形品の物性がバランスよくえられるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはポリオレフィン系グラフト共重合体の量が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂100部に対して0.1部以上、好ましくは5部以上であり、また熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の特性を維持するためには、ポリオレフィン系グラフト共重合体の量が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂100部に対して500部以下、好ましくは100部以下、さらに好ましくは50部以下である。
さらに、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体からなる組成物は、プラスチック、ゴム工業において知られている通常の添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤などの配合剤を含有することができる。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、たとえば、熱可塑性樹脂と本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体および所望により添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また各成分の混練順序は特に限定されず、使用する装置、作業性あるいは得られる熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて決定することができる。
また、その熱可塑性樹脂が乳化重合法で製造されるばあいには、該熱可塑性樹脂とポリオレフィン系グラフト共重合体とを、いずれもラテックス(エマルジョン)の状態でブレンドしたのち、共析出(共凝集)することで得ることも可能である。
かくして得られるポリオレフィン系グラフト共重合体組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる、たとえば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法があげられる。
【実施例】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
なお、以下の合成例、実施例および比較例において、各物性あるいは特性の測定は、それぞれ以下の方法にしたがって行った。
[平均粒子径]NICOMP製のSubmicron Particle Sizer Model 370を用いて動的光散乱法によりラテックスの粒子径を測定し、体積平均粒子径を求めた。
H NMRスペクトル]試料約10mgを重水素化クロロホルム(アルドリッチ製)約0.7mLに溶かし、300MHz NMR装置(Varian社製Gemini300)によりH NMRスペクトルを測定した。
[引張弾性率、引張伸び]ポリプロピレン樹脂または本発明の樹脂組成物の約0.7mm厚プレスシートを作成し、そこからJIS−K7113付属書1に記載の2(1/3)号形小型試験片を打ち抜いた。オートグラフ(Shimadzu製、AUTOGRAPH AG−2000A)を用いて、n=3で引張特性を測定した。初速1mm/minで引張弾性率を測定した後30%まで引っ張り、次に5mm/minの速度で40%まで引っ張り、最後に引張速度を16.66mm/minに上げて破断点の伸び率を測定した。
[ぬれ性]ポリプロピレン樹脂または本発明の樹脂組成物の約0.7mm厚プレスシートを用い、JIS−K6768に準じて表面張力を測定した。1試験片の6箇所で測定を行い、その平均値をぬれ性の指標として採用した。表面張力やぬれ性の高さは極性の高さを示す。
[難燃性]本発明の樹脂組成物の約3mm厚プレスシートから幅6.5mm、長さ80mmの試料を切り出し、これを用いてJIS−K7201に準じて酸素指数を測定した。
(合成例1)
(配位重合触媒の合成と触媒活性種の調整)
下記化学式(3)

の構造を持つ配位重合触媒(以下[N^N]PdMeClという)をJ.Am.Chem.Soc.1995年,117巻,6414頁等の文献に記載されている公知の方法によって合成した。[N^N]PdMeClとLiB(C(STREM社製)を脱水ジエチルエーテル(和光純薬製)中、室温で1週間攪拌し、LiClを沈殿させて[N^N]PdMe・B(C錯体(触媒活性種)を調製した。その後、脱水ジエチルエーテルを濃縮し、脱水塩化メチレン(和光純薬製)に交換した(濃度40mmol/L)。
[実施例1]
(シリカ変性粒子の合成およびシリカ変性粒子とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体の合成)
100mLのナスフラスコに、蒸留水(和光純薬製)12.5mLを入れ、それにドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム、和光純薬製)81mgを溶解させた。次にコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスZL、比重1.296、SiO含量40.6%、平均粒子径115nm)12.5mL(コロイダルシリカとして6.58g)を攪拌しながら滴下した。1Nの硫酸水溶液を少量加えて系のpHを約7に調製した。アスピレーターで減圧脱気し、窒素置換を行った。オイルバスの温度を75〜80℃に設定し、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製)0.15gを添加し、4時間攪拌、室温まで放置、冷却した。
さらに1−ヘキセン(和光純薬製)3mL(2.0g)を添加、超音波洗浄器(シャープ製、UT−204)で超音波を1分間かけた。続いて合成例1で得られた触媒活性種溶液0.5mL(20μmol)を添加、同様に超音波を1分間かけた。室温で10時間攪拌した。平均粒子径107nm(一部377nm)。
一部析出分が見られたが、このうちラテックス分に塩化カルシウム水溶液を加えて析出させ、桐山ロートを用いて濾過、水洗した。減圧乾燥後本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。なお、H NMR観測により、ポリオレフィン系グラフト共重合体およびそのヘキサン不溶分中に、ポリヘキセンが存在することを確認した。
[実施例2]
(ポリプロピレン樹脂組成物の特性)
ポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gと実施例1で得られたポリオレフィン系グラフト共重合体4gをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレス(条件:200℃、無圧、10min→200℃、50kgf/cm、10min→室温、50kgf/cm、5min)して約0.7mm厚のシートを作成し、引張特性、ぬれ性を測定した。結果を表1に示す。
(比較例1)
(ポリプロピレン樹脂単体の特性)
実施例2と同様にし、ポリプロピレン樹脂単体の引張特性、ぬれ性を測定した。実施例2の方が高い弾性率、高いぬれ性を示していることがわかる。結果を表1に示す。
(比較例2)
(ポリプロピレン樹脂とシリカの組成物の特性)
実施例1で使用したのと同じコロイダルシリカに塩化カルシウム水溶液を加えて析出させ、桐山ロートを用いて濾過、水洗した。減圧乾燥後シリカを得た。
ポリプロピレン樹脂20gと得られたシリカ4gをラボプラストミルを用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、引張特性、ぬれ性を測定した。結果を表1に示す。実施例2の方が高い伸びを示していることがわかる。
[実施例3]
(シリカ変性粒子の合成およびシリカ変性粒子とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体の合成)
500mLのセパラブルフラスコに、蒸留水(和光純薬製)310.7mLを入れ、それにジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂製、ラピゾールA−80)499mgを溶解させた。次にコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスZL)76mL、98.5g(コロイダルシリカとして40g)を攪拌しながら滴下した。2Nの硫酸水溶液を少量加えて系のpHを約7に調製した。アスピレーターで減圧脱気し、窒素置換を行った。オイルバスの温度を75〜80℃に設定し、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製)1gを添加し、4時間攪拌、室温まで放置、冷却した。
得られたシリカ変性粒子のうち50ml(コロイダルシリカとして約5.2g)に、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム、和光純薬製)1gを加え、アスピレーターで減圧脱気し、窒素置換を行った。脱水塩化メチレン(和光純薬製)1mL、合成例1で得られた触媒活性種溶液1.0mL(約40μmol)を添加、超音波洗浄器(シャープ製、UT−204)で超音波を5分間かけた。続いて、1−ヘキセン(和光純薬製)6mL(2.0g)を添加し、室温で7時間攪拌した。平均粒子径154nm。
一部析出分が見られたが、このうちラテックス分に塩化カルシウム水溶液を加えて析出させ、桐山ロートを用いて濾過、水洗した。減圧乾燥後本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。なお、H NMR観測により、ポリオレフィン系グラフト共重合体中に、ポリヘキセンが存在することを確認した。
[実施例4]
(ポリプロピレン樹脂組成物の特性)
ポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gと実施例3で得られたポリオレフィン系グラフト共重合体4gをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、引張特性、ぬれ性を測定した。結果を表1に示す。実施例2よりも高い伸びを示していることがわかる。
[実施例5]
(水酸化マグネシウム変性粒子の合成および水酸化マグネシウム変性粒子とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体の合成)
冷却管、三方コック、温度計、メカニカルスターラーを備えた500mLセパラブルフラスコに、蒸留水(和光純薬製)347.7mL、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂製、ラピゾールA−80)499mgおよび水酸化マグネシウム(協和化学工業製)39.9gを入れて撹拌し、懸濁させた。窒素気流下、アクリル酸(和光純薬製)1.00gを添加し、70℃で3時間加熱した後、室温まで放置、冷却した。
得られたアクリル酸変性水酸化マグネシウム粒子のうち50ml(水酸化マグネシウムとして約5.1g)に、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム、和光純薬製)1gを加え、アスピレーターで減圧脱気し、窒素置換を行った。合成例1で得られた触媒活性種溶液1.0mL(約40μmol)を添加、超音波洗浄器(シャープ製、UT−204)で超音波を5分間かけた。続いて、1−ヘキセン(和光純薬製)2mL(2.0g)を添加し、室温で7時間攪拌した。平均粒子径3900nm。
桐山ロートを用いて濾過、水洗した。減圧乾燥後本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。なお、IR観測により、ポリオレフィン系グラフト共重合体およびそのヘキサン不溶分中に、ポリヘキセンが存在することを確認した。
[実施例6]
(ポリプロピレン樹脂組成物の特性)
ポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gと実施例5で得られたポリオレフィン系グラフト共重合体4gをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、引張特性を測定した。結果を表1に示す。
(比較例3)
(ポリプロピレン樹脂と水酸化マグネシウムの組成物の特性)
ポリプロピレン樹脂20gと実施例5で使用した原料の水酸化マグネシウム4gをラボプラストミルを用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、引張特性を測定した。実施例6の方が高い伸びを示していることがわかる。結果を表1に示す。

[実施例7]
(ポリプロピレン樹脂組成物の難燃性)
ポリプロピレン樹脂22.5gと実施例5と同様にして得られたポリオレフィン系グラフト共重合体22.5gをラボプラストミル(東洋精機製、容量60cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、得られた樹脂組成物をプレスして約3mm厚のシートを作成し、難燃性を測定した。酸素指数は24であり、高い難燃性を示していることがわかった。
(合成例2)
(化合物(A):アリル基含有アンモニウム塩の合成)
(−)−N−ドデシル−N−メチルエフェドリニウムブロミド((−)−N−Dodecyl−N−methylephedrinium bromide)(CAS.No.31351−20−9、アルドリッチ社製)0.5gとウンデシレン酸(和光純薬製)0.215gの混合物に、窒素雰囲気下、トリフルオロ酢酸無水物(和光純薬製)0.165mlを添加し、30℃で4時間攪拌後、減圧濃縮した。
FT−IRによると、新たに1746.5cm−1にエステル結合のピークが認められ、(−)−N−ドデシル−N−メチルエフェドリニウムブロミドの水酸基とウンデシレン酸との反応の進行が確認でき、下記構造になっていることが確認できた。

[実施例8]
(粘土変性物の合成および粘土変性物とオレフィン系モノマーのグラフト共重合体の合成)
窒素雰囲気下、100mlのナスフラスコに、蒸留水(和光純薬製)72gと粘土(クニピアF、クニミネ工業製)1.08gとの分散液を入れ、合成例2で合成したアリル基含有アンモニウム塩78mgと水2gとの溶液を滴下し、粘土変性物を合成した。
合成例1で合成した触媒活性種の塩化メチレン溶液0.25ml(10μmol)を滴下し、分散させた。
窒素雰囲気下、300mlのオートクレーブに上記分散液を入れ、3MPaのエチレンを導入し、室温で21時間反応させた。
得られた析出物(1.47g)をTEM写真観察した結果、ポリマー中に多くの粘土が単層で分散していた。
【産業上の利用可能性】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ポリオレフィン樹脂に混練し、ポリオレフィン系コンポジットとして利用できる。本ポリオレフィン系コンポジットは、高い引張伸びや、高い引張弾性率(硬質性)、高い極性(ぬれ性)、高い難燃性等の特徴を有し、ポリオレフィン系エンジニアリングプラスチック、極性ポリオレフィンあるいは難燃性ポリオレフィンとして産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位重合触媒の存在下、金属化合物の変性粒子に、オレフィン系モノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項2】
配位重合触媒が、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒であることを特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項3】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする、請求項2に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項4】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、α−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする、請求項3記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項5】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される活性種であることを特徴とする、請求項4に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L−は任意のアニオンである。)。
【請求項6】
オレフィン系モノマーが炭素数10以下のα−オレフィンであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項7】
金属化合物が、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、モリブデン、鉄、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、シリコン、錫、鉛、及びアンチモンからなる群から選択される少なくともひとつの金属を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項8】
金属化合物が、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、チタン酸塩、ジルコン酸塩、ボレート、硫化物、炭化物、及びホウ酸塩のいずれかであることを特徴とする、請求項7に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項9】
金属化合物が、水酸化マグネシウム、シリカであることを特徴とする、請求項8に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項10】
金属化合物が、粘土化合物であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項11】
金属化合物の変性粒子が、金属化合物と官能基を有する化合物とを反応させた変性粒子であり、該官能基を有する化合物が、水中に分散した状態の金属化合物と反応可能な官能基と、配位重合可能な炭素−炭素二重結合とを1つの分子内に有する化合物であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体と、ポリオレフィン樹脂とを含有することを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/033159
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514412(P2005−514412)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014045
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】