説明

ポリカーボネートからなる金属・無機薄膜を有する成形品

【課題】金属・無機薄膜との接着性が良好で、傷の付きにくく、透明で、機械的強度、耐候性が良好で、ガラス転移温度が高い材料よりなる成形品を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネートからなる金属・無機薄膜を有する成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源であるイソソルビドを含むポリカーボネート重合体を成形してなる、環境保全に配慮した、機械的強度が良好で、ガラス転移温度、表面硬度が高く、耐候性および金属・無機薄膜の接着性が良好であり、光ディスク、磁気ディスクやミラーなどの反射膜または磁気記録膜を有する成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的強度や耐衝撃強度、寸法安定性、耐熱性、透明性等を有していることより、光ディスクや照明ランプリフレクター、車両用ミラーのような反射膜や磁気記録膜、ハードコート膜などの金属・無機薄膜を有する成形品に使用されている。
【0003】
しかし、光ディスクや磁気ディスク等のディスク基板に芳香族ポリカーボネート樹脂を使用したときに、基板と記録膜との密着性が不充分であったり、記録膜が腐食を起こすことがあることが特許文献1ならびに特許文献2に示されている。さらに、これらの特許文献において、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂には様々な不純物が含有されているが、特に低分子量成分(ポリカーボネートオリゴマーなど) や未反応ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)あるいは溶媒として用いた塩化メチレンが多く、またこれらの不純物はポリカーボネートをディスク基板に用いたときに、前述した如き種々の問題を引き起こすことが記述されている。特に揮発性の有機成分がこのような問題を引き起こすと考えられる。この対策として、不純物を含有する粉末状ポリカーボネートをアセトン等の有機溶媒で抽出処理することが提案されている。しかし、このような処理は、有機溶媒の除去に多大なコストがかかり、また僅かな残存はかえって接着不良を引き起こすなど、実用的ではない。
【0004】
また、光ディスクや、ミラー、ランプリフレクターなどの金属・無機薄膜を有する、芳香族ポリカーボネート樹脂から製造された成形品においては、芳香族ポリカーボネート樹脂の表面硬度が低いため、すぐ傷が付きやすく、光ディスクにおいては読み取り、記録エラーが発生しやすく、ミラーにおいては像が不鮮明になるという問題がある。極めて傷の発生が重大なトラブルとなるような車両用ランプレンズなどにおいてはハードコート膜が施されている。しかし、ハードコートはコストアップになるため、光ディスクやミラーなどはハードコートのコストを低減可能な、より表面硬度の高い材料が求められている。
【0005】
さらに、照明ランプリフレクターのような成形品においては、樹脂の難燃性として少なくとも自消性であり、また光による黄変(耐光性)が少ないことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は自消性については問題ないが、耐光性が悪いという欠点を有する。
【0006】
ところで、芳香族ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたプラスチックからの電気電子部品の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたプラスチックからの金属・無機薄膜を有する成形品の開発が求められている。
【0007】
従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、得られたポリカーボネートは、褐色であり満足できるものではない。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物との共重合ポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており(例えば、特許文献4参照)、更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
一方、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合したポリカーボネートとしては、多数提案されているが(例えば、特許文献6、7)これらのポリカーボネートの分子量は高々4000程度と低いものであり、このため、ガラス転移温度が低いものが多い。
【0009】
このようにイソソルビドを用いたポリカーボネート重合体の提案はなされているが、これらの文献にて開示されているのは、ガラス転移温度、さらには基本的な機械的特性のみで、上述のディスクやミラーの金属・無機薄膜の剥離に影響するような要因についての特性について開示されていない。
【特許文献1】特開平6−100683号公報
【特許文献2】特開平10−241149号公報
【特許文献3】GB1079686号公報
【特許文献4】特開昭56−55425号公報
【特許文献5】WO 2004/111106 公報
【特許文献6】特開平6−145336号公報
【特許文献7】特公昭63−12896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、より良い未来社会の構築においても環境ならびに石油資源保全という観点にも配慮し、金属・無機薄膜との接着性が良好で、傷の付きにくく、透明で、機械的強度、耐候性が良好で、ガラス転移温度が高い材料よりなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、植物由来モノマーとしてのイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとの溶融重合法(エステル交換法とも言われる)により製造したポリカーボネートが、透明で、機械的強度、耐候性が良好で、ガラス転移温度、表面硬度が高く、特に揮発性有機成分が少ないことを見出し、金属・無機薄膜を有する成形品用材料に好適であることを見出して、本発明を完成するに至った。さらに、脂環式ジヒドロキシ化合物を共重合したポリカーボネートは、ガラス転移温度と耐衝撃性のバランスが良好で、広範囲の前述の成形品に適用されることを見出したものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[6]に存する。
[1] 下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネートからなる金属・無機薄膜を有する成形品。
【0013】
【化2】

【0014】
[2] 前記ポリカーボネートのガラス転移温度が80℃以上であることを特徴とする[1]に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
[3] 前記ポリカーボネートが、更に脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
[4] 前記ポリカーボネートに含まれる、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率(モル%)が100:0〜30:70の範囲であることを特徴とする[3]に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
[5] 前記ポリカーボネートに含まれる、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率(モル%)が90:10〜40:60の範囲であることを特徴とする[3]に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
[6] 少なくとも一つのヒドロキシル基を持つ分子量が200以上の脂肪酸エステル系化合物、またはエポキシ基を持つシリコーンオイルを含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
【発明の効果】
【0015】
植物由来のモノマーを使用した本発明のポリカーボネートからなる金属・無機薄膜を有する成形品は、良好な環境・石油資源保全性を有し、揮発性有機成分が少なく、表面硬度が高く、ガラス転移温度と耐衝撃強度のバランスが良好なので、特に、光ならびに磁気ディスクや照明ランプリフレクターや車両用ミラーなどに好適に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0017】
本発明において、成形品表面の少なくとも一部に金属・無機薄膜を有していることが必要である。これらの金属・無機薄膜を成形品表面に付着させる方法は、既知の各種方法を採ることができ、例えば真空蒸着、スパタリングなどによるアルミニウム、クローム、ニッケル、銀、金などの金属薄膜や、シリケート化合物などのコーディング膜、特に真空紫外光照射により硬化されるシリコーンコーティング薄膜や、CVDによる各種金属・無機薄膜などが挙げられる。なお、蒸着などを行う前の成形品へのプライマー処理を施す方が薄膜の密着性を向上させることが出来好ましいが、本発明の有効性は、プライマー処理を施さない方が実感しやすい。また、薄膜の厚みは、製品用途で決まってくるが、5μm〜300μmである。
【0018】
本発明のポリカーボネートは、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とするものであるが、当該ジヒドロキシ化合物の一部を他種類のジヒドロキシ化合物、例えば脂肪族、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、またはポリアルキレングリコールなどの共重合構成単位に置き換えた共重合体であってもよい。
【0019】
【化3】

【0020】
本発明において、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0022】
なお、イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートに着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともある。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネートに着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられ、このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライドなどが挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられるが、このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒ともなるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなることもある。
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や、分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、必要に応じて、イソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。雰囲気はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気にした後、減圧下で蒸留を実施する。
このようなイソソルビドの蒸留を行うことにより、本発明では蟻酸含有量が20ppm未満、更に10ppm以下、特に5ppm以下であるような高純度のイソソルビドを用いることが好ましい。
【0023】
一方、本発明に用いるに適した共重合構成単位のジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族、環式脂肪族、芳香族系ジヒドロキシ化合物のいずれでも良い。直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチルー1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチルー1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコールなどを挙げることができる。
【0024】
また、本発明に使用できる環式脂肪族(脂環式)ジヒドロキシ化合物としては、例えば1,2-シクロヘキ サンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオールなどのヘキサンジオール類、1,2-シクロ ヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノールなどのノルボルナンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール類などが挙げられる。これらのうち、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0025】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。
【0026】
また、共重合構成単位のポリアルキレングリコールとしては炭素数2〜4のアルコシル基を1分子あたり2〜40個含有するものが好ましく、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0027】
これらの共重合構成単位であるヒドロキシ化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物あるいはポリアルキレングリコールを共重合成分として使用すると、ガラス転移温度の低下が激しく、電気電子関連部品としての用途に制約が生じ好ましくない。芳香族ジヒドロキシ化合物を共重合成分として使用すると、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と反応性が激しく異なり、透明性などが悪化する。
一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物単独のポリカーボネート樹脂は、一般的に高分子量のものを得るのが困難である。一方、環式脂肪族(脂環式と表記することがある)ジヒドロキシ化合物を共重合成分として使用する場合は、以下に示すように一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物との反応性のバランスが良好であり、且つ高分子量化も比較的容易であり、ガラス転移温度の低下も直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物よりも程度が小さく、表面硬度、機械的強度も十分高いという点で望ましい。
【0028】
上記のように本発明において好ましいポリカーボネートである、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とを共重合したポリカーボネートはいまだ報告されておらず、その詳細を以下に述べるが、他のジヒドロキシ化合物との共重合体についても基本的には類似であり、また上記特許文献などを参考に製造等も可能である。
【0029】
一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合については、任意の割合で選択できる。しかし、示差走査熱量測定(DSC)を行ったとき、単一のガラス転移温度を与えるが、本発明のポリカーボネート共重合体は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の種類や配合比を調整することで、そのガラス転移温度を、用途に応じて、45℃程度から155℃程度まで任意のガラス転移温度を持つ重合体として得ることができる。
【0030】
したがって、本発明の電気電子関連部品用途向けには、ガラス転移温度を80℃以上にすることにより、耐熱性(使用可能温度)で70℃以上が確保できることから、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率を適切に選択する必要がある。当該比率は100:0〜30:70(モル%)、特に90:10〜40:60(モル%)、さらには90:10〜45:55(モル%)であることが好ましい。上記範囲よりも一般式(1)で表わされるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多く脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少ないと着色しやすくなり、逆に一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少なく脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多いと分子量が上がりにくく、またガラス転移温度が低下する傾向がある。
【0031】
また、本発明のポリカーボネートの重合度は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶液を用い、ポリカーボネート共重合体濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「ポリカーボネート(共)重合体の還元粘度」と称す。)として、0.40dl/g以上、特に0.40dl/g以上で2.0dl/g以下であるような重合度であることが好ましい。このポリカーボネート共重合体還元粘度が極端に低いものでは電気電子関連部品等に成形した時の機械的強度が弱い。また、ポリカーボネートの還元粘度が大きくなると、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形品のひずみが大きくなり熱により変形し易い傾向がある。従って、本発明のポリカーボネートの還元粘度は0.40dl/g以上2.0dl/g以下、特に0.41l/g以上1.5dl/g以下の範囲内であることが好ましい。特にディスク基板やミラーなどにおいては光学ひずみの発生は読み取りエラーや像のゆがみなどに結びつくので、流動性が良好な材料が求められる。
【0032】
本発明のポリカーボネートは、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法のいずれの方法でも良いが、重合触媒の存在下に、ジヒドロキシ化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が、本発明の目的に対しては好ましい。
【0033】
この溶融重合法で用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
(一般式(2)において、A及びA’は、置換基を有していても良い炭素数1〜18の脂肪族基又は置換基を有していても良い芳香族基であり、A及びA’は同一であっても異なっていても良い。)
【0036】
上記一般式(2)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートに代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、特に好ましくはジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
炭酸ジエステルは、ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.10のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.94〜1.04のモル比率である。このモル比が0.90より小さくなると、製造されたポリカーボネート(共)重合体の末端OH基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、また、モル比が1.10より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望とする分子量のポリカーボネート共重合体の製造が困難となるばかりか、製造されたポリカーボネート共重合体中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、または成形品の臭気の原因となり好ましくない。
【0038】
また、溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0039】
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0040】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0041】
これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0042】
またアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0043】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0044】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0045】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0046】
これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0047】
上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物との合計1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1〜100μモルの範囲内で用い、好ましくは0.5〜50μモルの範囲内であり、さらに好ましくは1〜25μモルの範囲内である。重合触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート共重合体を製造するのに必要な重合活性が得られず、一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート(共)重合体の色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネート(共)重合体の製造が困難になる。
【0048】
このような本発明のポリカーボネートの製造に当たり、前記一般式(I)で表されるジヒドロキシ化合物などのジヒドロキシ化合物は、固体として供給しても良いし、加熱して溶融状態として供給しても良いし、水溶液として供給しても良い。これらの原料ジヒドロキシ化合物を溶融状態や、水溶液で供給すると、工業的に製造する際、計量や搬送がしやすいという利点がある。
【0049】
本発明において、一般式(I)で表されるジヒドロキシ化合物あるいは共重合成分を重合触媒の存在下で炭酸ジエステルと反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目の反応は140〜220℃、好ましくは150〜200℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノールを反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
【0050】
この重縮合反応における減圧において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要である。特に、温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合度が低下することがある。例えば、ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いる場合は、全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%以上の場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールがモノマーのまま留出しやすくなるので、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させ、最終的に200Pa以下の圧力で、200から250℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート(共)重合体が得られるため、好ましい。
【0051】
また、全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%より少なくなった場合、特に、モル比が30モル%以下となった場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%以上の場合と比べて、急激な粘度上昇が起こるので、例えば、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下までは、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以上の昇温速度、好ましくは1時間あたり50℃以上の昇温速度で上昇させながら反応させ、最終的に200Pa以下の減圧下、220から290℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート共重合体が得られるため、好ましい。
【0052】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0053】
本発明のポリカーボネートを溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物を重合時に添加することができる。
【0054】
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。リン化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
【0055】
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0056】
リン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、先に記載した、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0057】
また、このようにして製造された本発明のポリカーボネートには、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
【0058】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。 これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネートを得た後に、後に記載する配合方法で、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
【0060】
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネートを100重量部とした場合、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.2重量部が更に好ましい。
【0061】
また、本発明のポリカーボネート(共)重合体には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。
【0062】
かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0063】
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネートを100重量部とした場合、0.0001〜0.5重量部が好ましい。
【0064】
また、本発明のポリカーボネートには、射出成形時の金型からの離型性をより向上させるために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤を配合することも可能である。
【0065】
本発明における離型剤は、既知のプラスチックの離型剤が利用可能であるが、脂肪酸エステル系化合物およびシリコーン系化合物が金属・無機膜密着性に阻害を与えにくい点で特に好ましい。脂肪酸エステル系化合物の中でもさらにグリセリン脂肪酸エステル類やソルビタン脂肪酸エステル類に代表される脂肪酸エステル類、およびその部分鹸化物などの脂肪酸エステル系化合物などから選ばれる1種又は2種以上の化合物を添加することが可能である。特にヒドロキシル基を少なくとも一つ含有し、分子量が200以上の脂肪酸エステル系化合物が好ましい。また、シリコーン系化合物としては、樹脂との相溶性などの点から変性されているタイプが好ましく、変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端および/または片末端に有機基を導入したシリコーンオイルなどが挙げられる。有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などが挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、好ましくは、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが挙げられる。
【0066】
かかる離型剤の配合量は、ポリカーボネートを100重量部とした場合、0.01〜1重量部が好ましい。 更に好ましくは0.02〜0.5重量部である。
【0067】
さらに、本発明のポリカーボネートには、加水分解性ならびに薄膜密着性を改善するため、本願発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ化合物を配合することが出来る。
【0068】
エポキシ系安定剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル -3',4'-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル -3',4'-エポキシ-6'-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3-エポキシシクロヘキシルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4-(3,4-エポキシ-5- メチルシクロヘキシル)ブチル-3',4'-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル-3,4- エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6'-メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス- エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス-エポキシエチレングリコール、ビス- エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3,5-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3-メチル-5-t-ブチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、オクタデシル-2,2-ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2,2- ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル-2-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2-イソプロピル-3,4- エポキシ-5- メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル-3,4- エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2-エチルヘキシル-3',4'-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6-ジメチル-2,3-エポキシシクロヘキシル -3',4'-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3-t-ブチル-4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル-4,5- エポキシ- シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ-n- ブチル-3-t- ブチル-4,5-エポキシ-シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。
【0069】
このようなエポキシ系安定剤は、ポリカーボネート100重量部に対して、0.0001〜5重量部、好ましくは0.001〜1重量部、さらに好ましくは0.005〜0.5重量部の範囲で配合されることが望ましい
【0070】
本発明のポリカーボネートと上述のような各種の添加剤との配合は、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法などがあるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるポリマーブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
【0071】
こうして得られる本発明のポリカーボネート或いは、これに各種添加剤を添加してなるポリカーボネート組成物は、そのまま、または溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形品にすることができる。
【0072】
本発明のポリカーボネートの混和性を高めて安定した各物性を得るためには、溶融押出において単軸押出機、二軸押出機を使用するのが好ましい。単軸押出機、二軸押出機を用いる方法は、溶剤等を用いることがなく、環境への負荷が小さく、生産性の点からも好適に用いることができる。 本発明のポリカーボネート(共)重合体の場合は、押出機の溶融混練温度は通常200〜300℃、好ましくは220〜270℃である。溶融混練温度が200℃より低い温度であると、ポリカーボネート(共)重合体の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの劣化が起こりやすくなり、ポリカーボネートの色が黄変したり、分子量が低下するため強度が劣化したりする。
【0073】
押出機を使用する場合、押出時にポリカーボネートの焼け、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、求められる光学的な精度依存するが、100μm以下が好ましい。特に、異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。 さらに、ポリカーボネート(共)重合体の押出は、押出後の異物混入を防止するために、クリーンルーム中で実施することが望ましい。
【0074】
また、押出されたポリカーボネートを冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの大きさ(目開き)は種々あるが、10〜0.45μmのフィルターのものが好ましい。
【0075】
本発明のポリカーボネートは、上記の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、周知の種々の添加剤、例えば、耐衝撃性改良剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料を含有していてもよい。また、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィンなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂などと混練したポリマーアロイを用いることもできる。
【0076】
本発明のポリカーボネートを用いた成形には、通常ビスフェノールAタイプの芳香族ポリカーボネート樹脂の成形法と同様に行うことができる。射出成形の場合には金型温度は30℃〜120℃、樹脂温度は220〜330℃となるようにするのが良い。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。 以下において、ポリカーボネートの物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
【0078】
(1)還元粘度
ウベローデ型粘度計を用い、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶液を用い、濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した。この数値が高いほど分子量が大きい。
【0079】
(2)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(メトラー社製「DSC822」)に試料約10mgを用いて、10℃/minの昇温速度で加熱して測定し、JIS K 7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた折線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度Tgを求めた。
【0080】
(3)耐衝撃強度
カスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製ミニマックス射出成形機「CS−183MMX」を用いて、温度240〜300℃で、長さ31.5mm、幅6.2mm、厚さ3.2mmの試験片を射出成形し、深さ1.2mmのノッチをノッチングマシンで付け、試験片とした。
この試験片について、カスタム・サイエンティフィック社製ミニマックスアイゾット衝撃試験機「CS−183TI型」を用いて、23℃におけるノッチ付きのアイゾット衝撃強度を測定した。この数値が大きいほど、耐衝撃強度が大きく、割れにくいことを示す。
【0081】
(4)引っかき硬度(鉛筆法)試験
カスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製ミニマックス射出成形機「CS−183MMX」を用いて、温度240〜300℃で、長さ31.5mm、幅6.2mm、厚さ0.8mmの試験片を射出成形し、コーテック社製引っかき硬度(鉛筆法)試験器を用いて、JIS K5600-5-4に準拠して、鉛筆硬度を6B〜6Hの範囲で測定した。6Bは表面硬度が低く、6Hは表面硬度が高いことを示す。
【0082】
(5)耐候変色試験
カスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製ミニマックス射出成形機「CS−183MMX」を用いて、温度240〜300℃で、射出成形した長さ31.5mm、幅6.2mm、厚さ0.8mmの試験片を、三重県四日市市三菱化学(株)四日市事業所内で南面45度の傾斜面に設置して、2006年1月中旬〜10月中旬まで耐候変色試験を実施した。その試験前後の試験片に対して、日本電色工業社製分光式色差計SE−2000を用いて色差ΔEを測定した。ΔEが小さいほど、変色が小さいことを示している。
【0083】
(6)燃焼性試験
カスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製ミニマックス射出成形機「CS−183MMX」を用いて、温度240〜300℃で、長さ31.5mm、幅6.2mm、厚さ0.8mmの試験片を射出成形し、UL−94規格 水平燃焼性試験(HB)に準拠して測定した。ただし、試験片の片方の端に試験炎を30秒間あてて取り去る方法での燃焼状況の確認を行った。試験片全体に燃え広がらずに、鎮火すれば自消性材料と判断される。燃え広がれば易燃焼性と判断される。また同時に発煙の色調をチェックした。黒煙より白煙が好ましい。
【0084】
(7)揮発性有機成分量
下記ポリカーボネートのペレット1.5gを、ヘッドスペース装置(日本分析工業製、JHS−100A)の試料管にセットし、100℃×30min放置し、キャリヤーガスにHeを用い揮発物を吸着管に吸着させた。この吸着された揮発物を、ガスクロマトグラフ(横河製、HP5890A)に導入し、キャリヤーガスにHeを用い、40℃〜300℃まで、10℃/minで昇温し、FIDにて検出した。得られたガスクロマトグラムと予め作成しておいたヘプタンの検量線をベースに、ヘプタン換算の揮発物量を求めた。
【0085】
(8)薄膜の密着性
ペレットを射出成形前に120℃で6hr乾燥し、型締め力が75tonの射出成形機を用い、成形温度265℃、成形品形状が100mm×100mm×3mmの鏡面金型を用い、金型温度110℃で成形した。射出成形時の離型性は良好であり、無抵抗で成形品の取り出しが可能であった。成形品外観を観察し離型ムラ模様の観察を行い、次の判断基準で評価した。成形品はプライマー処理を施すことなしに、アルミ膜厚140nmになるようにアルミ蒸着を行った。得られたアルミ蒸着した試料を熱風乾燥機で70℃×1ヶ月の条件で加熱処理した試料につき、次の評価を行った。
【0086】
(8−1)テープ剥離性:
加熱処理した試料につき、アルミを蒸着した表面にナイフで傷を入れて、その上からセロテープ(登録商標)を貼り付け、そのセロテープ(登録商標)をはがした時の接着性を下記の基準により評価した。○以上が実用上問題なしと判断した。
◎:アルミ蒸着膜のはがれがほとんどみられない。
○:アルミ蒸着膜のはがれが極僅かにみられる。
△:アルミ蒸着膜のはがれが多少みられる。
×:アルミ蒸着膜のはがれが著しい。
【0087】
(8−2)外観:
加熱処理後の試料について目視にて次の基準に従って評価を行った。○以上が実用上問題なしと判断した。
◎; 反射像が鮮明に映り、曇りはみられない。
○: 反射像が鮮明に映り、曇りが僅かにみられる。
△; 反射像はぼやけ、ガスによる曇りがみられる。
×: ガスによる曇りがみられる。反射像が不良である。
【0088】
なお、下記の実施例1〜7で用いたイソソルビドの蟻酸含有量は5ppmであった。イソソルビドに含まれる蟻酸の定量方法は、次のような方法によって実施した。
<蟻酸の定量>
イソソルビドに含まれる蟻酸量をイオンクロマトグラフで測定した。イソソルビド0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容した。標準試料にはギ酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムの一致するピークを蟻酸として、ピーク面積から絶対検量線法で定量した。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いた。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いた。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/min、恒温槽温度35℃で測定した。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−H2SO4水溶液を用いた。
【0089】
[実施例1]
イソソルビド(ロケットフルーレ社製)27.7重量部(0.516モル)に対して、1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製、以下「1,4−CHDM」と略記する。)13.0重量部(0.221モル)、ジフェニルカーボネート(三菱化学社製、以下「DPC」と略記する。)59.2重量部(0.752モル)、および触媒として、炭酸セシウム(和光純薬社製)2.21×10−4重量部(1.84×10−6モル)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。 次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
【0090】
反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネートのペレットを得た。得られたポリカーボネートについて、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0091】
[実施例2]
実施例1において、イソソルビド19.7重量部(0.363モル)、1,4−CHDM21.6重量部(0.404モル)、DPC58.8重量部(0.741モル)、触媒として、炭酸セシウム2.19×10−4重量部(1.82×10−6モル)に変更した以外は、同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0092】
[実施例3]
実施例1において、イソソルビド35.9重量部(0.674モル)、1,4−CHDM4.4重量部(0.083モル)、DPC59.7重量部(0.764モル)、触媒として、炭酸セシウム2.22×10−4重量部(1.87×10−6モル)に変更した以外は、同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0093】
[実施例4]
実施例1において、イソソルビド40.1重量部(0.581モル)に対して、DPC59.9重量部(0.592モル、触媒として、炭酸セシウム2.23×10−4重量部(1.45×10−6モル)に変更した以外は、同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
[実施例5]
実施例1において、イソソルビド15.7重量部(0.288モル)に対して、1,4−CHDM25.8重量部(0.480モル)、DPC58.6重量部(0.734モル)、及び触媒として、炭酸セシウム2.18×10−4重量部(1.80×10−6モル)に変更した以外は、同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0095】
[実施例6]
実施例1で得られたポリカーボネートに下記離型剤をポリカーボネート100重量部に対して0.1重量部の割合で混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製 型式:TEX−30C)を用いて、シリンダー温度230℃でペレット化を行った。このペレットを用いて、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<離型剤>
・脂肪酸エステル(グリセリンモノステアレート):理研ビタミン社製 商品名リケマールS100A。
【0096】
[実施例7]
実施例1で得られたポリカーボネートに下記離型剤をポリカーボネート100重量部に対して0.1重量部の割合で混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製 型式:TEX−30C)を用いて、シリンダー温度230℃でペレット化を行った。このペレットを用いて、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<離型剤>
・エポキシ変性シリコーンオイル:信越シリコン社製、KF102、粘度=4000cST。(以下、変性シリコーンとも称する。)
【0097】
[比較例1]
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS3000)について、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0098】
[比較例2]
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS3000)100重量部に対して、下記の離型剤を0.1重量部の割合で混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製 型式:TEX−30C)を用いて、シリンダー温度230℃でペレット化を行った。このペレットを用いて、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<離型剤>
・脂肪酸エステル(グリセリンモノステアレート):理研ビタミン社製 商品名リケマールS100A。
【0099】
[比較例3]
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS3000)100重量部に対して、下記の離型剤を0.1重量部の割合で混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製 型式:TEX−30C)を用いて、シリンダー温度230℃でペレット化を行った。このペレットを用いて、上記記載の評価方法により、還元粘度、ガラス転移温度、アイゾット衝撃値、鉛筆硬度、対候変色、燃焼性、揮発性有機成分量、および薄膜密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<離型剤>
・エポキシ変性シリコーンオイル:信越シリコン社製、KF102、粘度=4000cST。(以下、変性シリコーンとも称する。)
【0100】
【表1】

【0101】
表1より次のことが判明する。
1)本発明のポリカーボネート重合体である実施例1〜5は、芳香族ポリカーボネート樹脂である比較例1と比べ、耐熱性、機械的特性、耐候性、難燃性(自消性)について実用上十分な数値であり、表面硬度が高く、同時に揮発性有機成分量が少なく、蒸着したアルミ金属膜の密着性が良好である。
2)また、離型剤を配合した実施例6および7は、離型剤を配合してない実施例1に比べ、耐熱性、機械的強度、表面硬度などはほとんど変化なかったが、蒸着したアルミ金属膜の密着性はさらに改善された。この傾向は、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合した比較例2および3でも同様に示されるが、アルミの金属膜の密着性はより良好であった。
3)イソソルビドと1,4−CHDMのモル比が90/11〜47/53の範囲の実施例1〜3は、耐熱性と機械的バランスが良好である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上の結果より、植物由来のモノマーを使用した本発明のポリカーボネート(共)重合体からなる金属・無機薄膜を有する成形品は、良好な環境・石油資源保全性を有し、揮発性有機成分が少なく、金属・無機薄膜との密着性が良好であり、表面硬度が高く、耐候性も良好で、ガラス転移温度と耐衝撃強度のバランスが良好なので、特に、光ならびに磁気ディスクや照明ランプリフレクターや車両用ミラーなどの金属・無機薄膜を有する成形品に好適に使用可能である。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネートからなる金属・無機薄膜を有する成形品。
【化1】

【請求項2】
前記ポリカーボネートのガラス転移温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
【請求項3】
前記ポリカーボネートが、更に脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
【請求項4】
前記ポリカーボネートに含まれる、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率(モル%)が100:0〜30:70の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
【請求項5】
前記ポリカーボネートに含まれる、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率(モル%)が90:10〜40:60の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の金属・無機薄膜を有する成形品。
【請求項6】
少なくとも一つのヒドロキシル基を持つ分子量が200以上の脂肪酸エステル系化合物、またはエポキシ基を持つシリコーンオイルを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属・無機薄膜を有する成形品。


【公開番号】特開2009−144019(P2009−144019A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321406(P2007−321406)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】