説明

ポリカーボネート樹脂およびその製造方法

【課題】生物起源物質から誘導される部分を多く含有し、耐熱性と熱安定性のいずれもが良好であり、かつ成形性の優れた工業材料として有用なポリカーボネート樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるカーボネート構成単位よりなるポリカーボネート樹脂において、該カーボネート構成単位のうち、75〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位で、25〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリカーボネート樹脂とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは生物起源物質である糖質から誘導され得る部分を含有し、耐熱性と熱安定性のいずれも良好で、かつ成形性に優れたポリカーボネート樹脂であり、各種成形材料やポリマーアロイ材料の素材として有用なポリカーボネート樹脂とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、芳香族もしくは脂肪族ジオキシ化合物を炭酸エステルにより連結させたポリマーであり、その中でも2,2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)より得られるポリカーボネート樹脂(以下「PCーA」と称することがある)は、透明性、耐熱性に優れ、また耐衝撃性等の機械特性に優れた性質を有することから多くの分野に用いられている。
【0003】
一般的にポリカーボネート樹脂は石油資源から得られる原料を用いて製造されるが、石油資源の枯渇が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の製造が求められている。
【0004】
生物起源物質を原料として使用されたバイオマス材料の代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、更に、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。しかしながら、ポリ乳酸は、工業材料として使用するに当たっては、その耐熱性が不足し、また生産性の高い射出成形によって成形品を得ようとすると、結晶性ポリマーとしてはその結晶性が低いため成形性が劣るという問題がある。こういった意味からもバイオマス材料の工業材料への展開を考えた場合、ポリカーボネート樹脂のような非晶性を有するバイオマス材料が求められている。
【0005】
生物起源物質を原料として使用されたポリカーボネート樹脂としては、ポリ乳酸樹脂の他に、糖質から製造可能なエーテルジオール残基から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂が検討されている。
【0006】
例えば、下記式(a)
【化1】

に示したエーテルジオールは、たとえば糖類およびでんぷんなどから容易に作られ、3種の立体異性体が知られているが、具体的には下記式(b)
【化2】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール(本明細書では以下「イソソルビド」と呼称する)、下記式(c)
【化3】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーマンニトール(本明細書では以下「イソマンニド」と呼称する)、下記式(d)
【化4】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローLーイジトール(本明細書では以下「イソイディッド」と呼称する)である。
【0007】
イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドはそれぞれDーグルコース、Dーマンノース、Lーイドースから得られる。たとえばイソソルビドの場合、Dーグルコースを水添した後、酸触媒を用いて脱水することにより得ることができる。
【0008】
これまで上記のエーテルジオールの中でも、特に、モノマーとしてイソソルビドを中心に用いてポリカーボネートに組み込むことが検討されてきた。この中で、特にイソソルビドのホモポリカーボネートについては特許文献1,2、非特許文献1,2に記載されている。
【0009】
このうち特許文献1では、溶融エステル交換法を用いて203℃の融点を持つホモポリカーボネート樹脂を報告している。しかしながらこのポリマーは不充分な機械的性質しか有していない。非特許文献1では、酢酸亜鉛を触媒として用いた溶融エステル交換法において、ガラス転移温度が166℃のホモポリカーボネート樹脂を得ているが、熱分解温度(5%重量減少温度)が283℃と熱安定性は充分でない。非特許文献2においては、イソソルビドのビスクロロフォーメートを用いた界面重合を用いてホモポリカーボネート樹脂を得ているが、ガラス転移温度が144℃と耐熱性が充分でない。一方、耐熱性が高い例として、特許文献2では昇温速度10℃/分での示差熱量測定によるガラス転移温度が170℃以上であるポリカーボネートを報告している。
【0010】
このように同じホモポリカーボネートでもガラス転移温度が様々な値が報告されているが、一般的に高分子量のポリマーではガラス転移温度は本質的に分子量に依存しないが、低分子量になるとガラス転移温度は顕著な低下を示す事が知られている(非特許文献3)。
【0011】
上記式(a)で表されるエーテルジオールの構造から分かるように、イソソルビドからなるホモポリカーボネートは、その剛直な構造のために高分子量のポリマーとすると溶融流動性が高くなりすぎて、成形材料として用いようとする場合に問題がある。しかしながらポリマーの分子量を下げると溶融粘度は低くなるが、上記に示したようにガラス転移温度が低下してしまい、耐熱性に問題が生じてしまう。
【0012】
【特許文献1】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/013463号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/008648号パンフレット
【非特許文献1】“Journal of Applied Polymer Science”,2002年, 第86巻, p.872〜880
【非特許文献2】“Macromolecules”,1996年,第29巻,p.8077〜8082
【非特許文献3】丸善株式会社 高分子大辞典,1994年9月発行 p240〜241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点を解決し、生物起源物質から誘導される部分を多く含有し、耐熱性と熱安定性のいずれもが良好であり、かつ成形性の優れた工業材料として有用なポリカーボネート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、下記式(1)
【化5】

で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂において、イソソルビド由来のカーボネート構成単位に、イソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位を少割合含有させることにより、同等の比粘度において耐熱性が顕著に向上することを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、
1.下記式(1)で表されるカーボネート構成単位よりなるポリカーボネート樹脂において、該カーボネート構成単位のうち、75〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位で、25〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位であることを特徴とするポリカーボネート樹脂、
【化6】

2.樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14〜0.55である前項1記載のポリカーボネート樹脂、
3.樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.20〜0.45である前項1記載のポリカーボネート樹脂、
4.250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600secー1の条件下で0.2×10〜4.0×10Pa・sの範囲にある前項1記載のポリカーボネート樹脂、
5.ガラス転移温度(Tg)が120〜175℃であり、かつ5%重量減少温度(Td)が320〜400℃である前項1記載のポリカーボネート樹脂、
6.ガラス転移温度(Tg)が145〜170℃であり、かつ5%重量減少温度(Td)が320〜400℃である前項1記載のポリカーボネート樹脂、
7.重合触媒として含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの化合物を使用し、イソソルビドを含む少なくとも二種類の光学異性体を含有する下記式(a)で表されるエーテルジオールと炭酸ジエステル形成化合物とを、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180〜280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させることを特徴とする前項1記載のポリカーボネート樹脂の製造方法、および
【化7】

8.前項1記載のポリカーボネート樹脂から形成された成形品、
が提供される。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂は、全カーボネート構成単位のうち75〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位であり、好ましくは80〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位であり、特に好ましくは90〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位である。イソソルビド由来のカーボネート構成単位が99%を超えると、分子量低下によるガラス転移温度の低下が大きく耐熱性が充分でないために好ましくない。またイソソルビドは、でんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。従ってイソソルビド由来のカーボネート構成単位が75モル%未満となることは、原料であるエーテルジオールの入手の困難さ、製造の困難さなどからコストの面で好ましくなく、また流動性が低下する点においても好ましくない。
【0017】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、全カーボネート構成単位のうち25〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位であり、好ましくは20〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位であり、特に好ましくは10〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位である。
【0018】
イソソルビド由来のカーボネート構成単位にイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位を含有させることにより得られたポリカーボネートは、イソソルビド由来のカーボネート構成単位のみからなるホモポリカーボネートに比べて、同等の比粘度を有するポリカーボネートにおいて、耐熱性が顕著に高くなるという効果がある。また、イソソルビド由来のカーボネート構成単位とイソマンニド由来のカーボネート構成単位とからなるポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0019】
本発明のポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度の下限が0.14以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、更に好ましくは0.22以上である。また比粘度の上限は0.55以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.37以下である。比粘度が0.14より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂より得られた成形品に充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.55より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまい好ましくない。また、本発明のポリカーボネート樹脂は、250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600sec-1の条件下で0.2×10〜4.0×10Pa・sの範囲にあることが好ましく、0.4×10〜3.0×10Pa・sの範囲にあることがより好ましく、0.4×10〜2.4×10Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。溶融粘度がこの範囲であると機械的強度に優れ、成形性も成形時のシルバーの発生等が無く良好である。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)が好ましくは120〜175℃であり、より好ましくは125〜170℃であり、さらに好ましくは145〜170℃であり、特に好ましくは145〜165℃である。Tgが120℃未満だと耐熱性(殊に吸湿による耐熱性)に劣り、175℃を超えると成形時の溶融流動性に劣る。TgはTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定される。
【0021】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、その5%重量減少温度が好ましくは320〜400℃であり、より好ましくは330〜400℃である。5%重量減少温度が上記範囲内であると、溶融成形時の樹脂の分解がほとんど無く好ましい。5%重量減少温度はTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定される。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂は、上記式(a)で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)
【化8】

【化9】

【化10】

で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。本発明においては、イソソルビドが必須成分である。
【0023】
これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法としては、前記式(a)で表されるエーテルジオールと炭酸ジエステルとを混合し、エステル交換反応によって生成するアルコールまたはフェノールを高温減圧下にて留出させる溶融重合法が好ましく用いられる。
【0025】
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましいが、重合反応を適切に進める為には重合温度は180℃〜280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180℃〜270℃の範囲である。
【0026】
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には系を1.3×10−3〜1.3×10−5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は通常0.5〜4時間程度である。
【0027】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。該重合触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、二価フェノールのナトリウム塩またはカリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。
【0028】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に用いる炭酸ジエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜18のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(p−ブチルフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0030】
炭酸ジエステルは全エーテルジオール化合物に対してモル比で1.02〜0.98となるように混合することが好ましく、より好ましくは1.01〜0.98であり、さらに好ましくは1.01〜0.99である。炭酸ジエステルのモル比が1.02より多くなると、炭酸ジエステル残基が末端封止として働いてしまい充分な重合度が得られなくなってしまい好ましくない。また炭酸ジエステルのモル比が0.98より少ない場合でも、充分な重合度が得られず好ましくない。また反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0031】
上記製造法により得られたポリカーボネート樹脂に触媒失活剤を添加する事もできる。触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましく、更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の上記塩類やパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸の上記塩類が好ましい。またスルホン酸のエステルとしてベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が好ましく用いられ、その中でもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が最も好ましく使用される。これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた前記重合触媒1モル当たり0.5〜50モルの割合で、好ましくは0.5〜10モルの割合で、更に好ましくは0.8〜5モルの割合で使用する事ができる。
【0032】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、その特性を損なわない範囲で末端基を導入することもできる。かかる末端基は、対応するヒドロキシ化合物を重合時に添加することにより導入することができる。ヒドロキシ化合物としては下記式(2)または(3)
【化11】

【化12】

で表されるヒドロキシ化合物が好ましく用いられる。
【0033】
上記式(2),(3)中、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、または下記式(4)
【化13】

であり、好ましくは炭素原子数4〜20のアルキル基、炭素原子数4〜20のパーフルオロアルキル基、または上記式(4)であり、特に炭素原子数8〜20のアルキル基、または上記式(4)が好ましい。Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合が好ましいが、より好ましくは単結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合であり、なかでも単結合、エステル結合が好ましい。aは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、特に1が好ましい。
【0034】
また、上記式(4)中、R,R,R,RおよびRは、夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、好ましくは夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、特に夫々独立してメチル基及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基が好ましい。bは0〜3の整数であり、1〜3の整数が好ましく、特に2〜3の整数が好ましい。cは4〜100の整数であり、4〜50の整数が好ましく、特に8〜50の整数が好ましい。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂は、植物などの再生可能資源から得られる原料を用いたカーボネート構成単位を主鎖構造に持つことから、これらのヒドロキシ化合物もまた植物などの再生可能資源から得られる原料であることが好ましい。植物から得られるヒドロキシ化合物としては、植物油から得られる炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール類(セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール)などが挙げられる。
【0036】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、用途に応じて各種の添加剤(機能付与剤)を添加してもよく、例えば熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、光安定剤、重金属不活性化剤、衝撃吸収剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などである。さらに、本発明のポリカーボネート樹脂には、用途に応じて各種の有機および無機のフィラー、繊維などを複合化して用いることもできる。フィラーとしては例えばカーボン、タルク、マイカ、ワラストナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイトなどを挙げることができる。繊維としては例えばケナフなどの天然繊維のほか、各種の合成繊維、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維などが挙げられる。
【0037】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、例えば脂肪族ポリエステルの他、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアクリル、ABS、ポリウレタンなどや、ポリ乳酸を始めとする各種の生物起源物質からなるポリマーなどと混合しアロイ化して用いることもできる。
【0038】
本発明のポリカーボネート樹脂は優れた耐熱性および熱安定性を有することから、光学用シート、光学用ディスク、情報ディスク、光学レンズ、プリズム等の光学用部品、各種機械部品、建築材料、自動車部品、各種の樹脂トレー、食器類をはじめとする様々な用途に幅広く用いることができる。
【0039】
さらに本発明のポリカーボネート樹脂は生分解性も有することからハウス用フィルム、マルチ用フィルムなどをはじめとする農業用資材むけフィルムおよびシート、食品包装、一般包装、コンポストバッグなどをはじめとする包装用フィルム及びシート、テープなどをはじめとする産業用製品、各種の包装用容器など、環境汚染の低減が望まれる各種用途の成形品として用いることも可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂は生物起源物質から誘導される部分を含有し、耐熱性と熱安定性のいずれも良好で、成形性にも優れることから、光学用シート、光学用ディスク、情報ディスク、光学レンズ、プリズム等の光学用部品、各種機械部品、建築材料、自動車部品、各種の樹脂トレー、食器類をはじめとする様々な用途に幅広く用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。但し、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。また、実施例中の部は重量部であり、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によった。
【0042】
(1)比粘度 ηsp
ペレットを塩化メチレンに溶解、濃度を約0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMR−0525・PC)を使用して測定した。なお比粘度ηspは下記式から求められる。
ηsp=t/t−1
t :試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
【0043】
(2)溶融粘度
(株)東洋精機製キャピラリーレオメータ(キャピログラフ 型式1D)を用い、キャピラリー長10.0mm、キャピラリー径1.0mm、測定温度250℃にて測定速度を任意に変更し測定した結果得られたShear Rate/Viscosityカーブより600sec-1での溶融粘度を読み取った。
【0044】
(3)ガラス転移温度
TA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定した。
【0045】
(4)5%重量減少温度
TA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定した。
【0046】
(5)成形性
日本製鋼所(株)製 JSWJ−75EIIIを用いて射出成形を行い、厚み2mmの成形板の形状を目視にて評価した(金型温度:80〜110℃、成形温度:230〜260℃)。なお判断基準は以下の通りである。
○;濁り、割れ、ヒケ、および分解によるシルバーが見られない。
X;濁り、割れ、ヒケ、または分解によるシルバーが見られる。
【0047】
実施例1
イソソルビド789重量部(5.4モル)とイソマンニド88重量部(0.6モル)とジフェニルカーボネート1285重量部(6モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを0.6重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを6.0×10−4重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
【0048】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0049】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に250℃、6.66×10−5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.28のポリマーが得られた。このポリマーの評価結果については表1に示した。
【0050】
実施例2
イソソルビド658重量部(4.5モル)とイソマンニド219重量部(1.5モル)とし、最終温度を260℃とした以外は実施例1と同様に重合させ、反応後のポリマーをペレット化した。このポリマーは比粘度が0.38であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0051】
実施例3
イソソルビド851重量部(5.8モル)とイソマンニド26重量部(0.2モル)とした以外は実施例1と同様に重合させ、反応後のポリマーをペレット化した。このポリマーは比粘度が0.32であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0052】
比較例1
イソソルビド877重量部(6モル)とジフェニルカーボネート1285重量部(6モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.5重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して2.5×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを2.4×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1.0×10−5モル)とした以外は実施例1と同様に重合させ、反応後のポリマーをペレット化した。このポリマーの比粘度は0.52であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0053】
比較例2
イソソルビド26重量部(0.2モル)、イソマンニド851重量部(5.8モル)とした以外は実施例1と同様に重合させた。途中220℃に昇温した時点で反応容器中の溶融物が結晶化し、固体となってしまい、それ以降の重合が困難となった。得られた固体は塩化メチレンに不溶で比粘度の測定はできなかった。その他の評価結果については表1に示した。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位よりなるポリカーボネート樹脂において、該カーボネート構成単位のうち、75〜99モル%がイソソルビド由来のカーボネート構成単位で、25〜1モル%がイソマンニドおよび/またはイソイディッド由来のカーボネート構成単位であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化1】

【請求項2】
樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14〜0.55である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.20〜0.45である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600secー1の条件下で0.2×10〜4.0×10Pa・sの範囲にある請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
ガラス転移温度(Tg)が120〜175℃であり、かつ5%重量減少温度(Td)が320〜400℃である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
ガラス転移温度(Tg)が145〜170℃であり、かつ5%重量減少温度(Td)が320〜400℃である請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
重合触媒として含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの化合物を使用し、イソソルビドを含む少なくとも二種類の光学異性体を含有する下記式(a)で表されるエーテルジオールと炭酸ジエステル形成化合物とを、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180〜280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化2】

【請求項8】
請求項1記載のポリカーボネート樹脂から形成された成形品。

【公開番号】特開2009−73892(P2009−73892A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242326(P2007−242326)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】