説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体

【課題】ポリカーボネート樹脂が有する透明性を低下させることなく、アッベ数や耐薬品性が向上したポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供すること。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂95〜10質量%と(B)ポリブチレンアジペート系樹脂5〜90質量%からなる樹脂成分100質量部、及び(C)カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物から選ばれる一種以上の化合物0.05〜10質量部を含むポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が有する透明性を低下させることなく、アッベ数や耐薬品性が向上し、光ディスク分野、光学部材分野、住建分野、OA(オフィスオートメーション)機器等の電気・電子分野、自動車分野などの用途に好適なポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(以下、PCと略記することがある。)樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れることから、自動車、電器電子分野で多く利用されている。自動車、電器電子分野では、製品の軽量化から薄肉化が進み、ポリカーボネートの流動性を向上させるため、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂やAS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂とのブレンドが主流となっている。ABS樹脂をブレンドすることにより流動性だけでなく、耐衝撃性、耐薬品性の向上が図られている。
また近年では、PC樹脂に植物由来成分を配合することによって、製品中の植物比率を向上させ、環境に配慮したプラスチック製品の開発も進んでいる。植物由来プラスチックは、脂肪族ポリエステル、及びそれらの共重合体が主流であり、植物由来プラスチックをポリカーボネート樹脂に添加することで耐薬品性が向上することが知られている。脂肪族ポリエステルの中でも、耐熱性、耐久性の面から、ポリ乳酸をブレンドした樹脂組成物の開発が進んでいる。
特許文献1には、PC樹脂にポリ乳酸をブレンドし、流動性、機械的物性を向上させる技術が開示されている。ポリ乳酸をブレンドすることで、流動性の大幅な向上が可能となるが、PC樹脂とポリ乳酸の屈折率の差が大きいため、成形品には真珠光沢が生じてしまい、透明性を有する成形体を得ることが困難であった。
また特許文献2には、PC樹脂とポリ乳酸を非せん断下でスピノーダル分解させることによって耐熱性、機械強度を向上させる技術が開示されている。しかし、ポリ乳酸中におけるPC樹脂の構造周期・粒子間距離が可視光の波長領域に含まれるため、透明性を安定的に発現できないというおそれがある。
また、特許文献3には、PC樹脂にポリ乳酸、オキサゾリン化合物等をブレンドした、真珠光沢のない樹脂組成物が開示されている。しかし、ポリ乳酸が配合されているために、透明性を発現できないという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特許第3279768号公報
【特許文献2】特開2004−250549号公報
【特許文献3】特開2007−56246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ポリカーボネート樹脂が有する透明性を低下させることなく、アッベ数や耐薬品性が向上したポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、樹脂成分として芳香族ポリカーボネート樹脂とポリブチレンアジペート系樹脂を用い、この樹脂成分と特定の化合物を特定の割合で含むポリカーボネート樹脂組成物により、上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート脂組成物及びその成形体を提供するものである。
1. (A)芳香族ポリカーボネート樹脂95〜10質量%と(B)ポリブチレンアジペート系樹脂5〜90質量%からなる樹脂成分100質量部、及び(C)カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物から選ばれる一種以上の化合物0.05〜10質量部を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2. (B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂が、ポリブチレンアジペートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3. ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体の厚さ2mmにおけるヘーズが、JIS K7105に準拠して測定した値で3.0%以下である上記1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4. ペレット状である上記1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5. 上記1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体。
6. 透明シート状物である上記5に記載の成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンアジペート系樹脂をブレンドし、かつカルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物から選ばれる一種以上の化合物を配合することにより、透明性を低下させることなく、アッベ数及び耐薬品性が向上し、また、実用可能な耐熱性を有するポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のPC樹脂組成物において、(A)成分の芳香族PC樹脂としては、特に制限はなく種々のものが挙げられる。通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族PC樹脂を用いることができる。すなわち、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法あるいは溶融法、すなわち、二価フェノールとホスゲンの反応、二価フェノールとジフェニルカーボネートなどとのエステル交換法により反応させて製造されたものを使用することができる。
【0008】
二価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。
【0009】
特に好ましい二価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAを主原料としたものである。また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、またはハロホルメートなどであり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどである。この他、二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0010】
なお、(A)成分の芳香族PC樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)などがある。また、分子量の調節のためには、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノールなどが用いられる。
【0011】
また、本発明に用いる芳香族PC樹脂としては、PC部とポリオルガノシロキサン部を有する共重合体、あるいはこの共重合体を含有するPC樹脂であってもよい。また、テレフタル酸などの2官能性カルボン酸、またはそのエステル形成誘導体などのエステル前駆体の存在下でポリカーボネートの重合を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、種々のPC樹脂の混合物を用いることもできる。本発明において用いられる(A)成分の芳香族PC樹脂は、機械的強度及び成形性の点から、その粘度平均分子量は、10,000〜100,000のものが好ましく、より好ましくは14,000〜40,000である。
なお、粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、[η]=1.23×10-5Mv0.83の式により算出した値である。
【0012】
本発明のPC樹脂組成物において、(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂は、低融点、かつ結晶性のポリエステル樹脂である。(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂としては、ポリブチレンアジペート樹脂、ポリブチレンアジペートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体のいずれも用いることができる。該共重合体におけるポリブチレンアジペートとポリブチレンテレフタレートとの共重合モル比は、25/75〜100/0であることが好ましく、35/65〜80/20がより好ましい。
本発明のPC樹脂組成物は、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂95〜10質量%と(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂5〜90質量%からなる樹脂成分を含む。(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂の含有量が5質量%以上であると、十分な耐薬品性が得られ、また、90質量%以下であると、耐熱性や透明性が保たれる。このような観点から、(A)成分90〜40質量%と(B)成分10〜60質量%からなる樹脂成分が好ましい。
【0013】
本発明のPC樹脂組成物は、(C)成分としてカルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物から選ばれる一種以上の化合物を含む。
カルボジイミド化合物は、分子中に一個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、ポリカルボジイミド化合物をも含む。カルボジイミド化合物の製造方法としては、例えば、触媒として、例えば、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)ホスホロチオエート、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−(メチルチオ)フェニル)ホスホロチオエート、O,O−ジエチル−O−2−イソプロピル−6−メチルピリミジン−4−イルホスホロチオエート等の有機リン系化合物、又は、例えばロジウム錯体、チタン錯体、タングステン錯体、パラジウム錯体等の有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネート化合物を約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒(例えば、ヘキサン、ベンゼン、ジオキサン、クロロホルム等)中で脱炭酸重縮合により製造する方法を挙げることができる。
【0014】
このカルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中でも、特に工業的に入手が容易であるジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
【0015】
エポキシ化合物としては、分子内に少なくとも1つ以上のエポキシ基を有する化合物を挙げることができる。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化あまに油、エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、p−ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、ネオヘキセンオキシド、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン−ブタジエン系共重合体、ビスフェノール−A型エポキシ化合物、ビスフェノール−S型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、3,4エポキシシクロヘキサメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテルなどの脂環式エポキシ化合物などを挙げることができる。
【0016】
オキサゾリン化合物としては、例えば、2,2'−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、又は2,2'−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などを挙げることができる。また、オキサゾリン基含有反応性ポリスチレンもオキサゾリン系化合物として使用することができる。
【0017】
(C)成分の化合物の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部あたり、0.05〜10質量部である。(C)成分の含有量が0.05質量部以上であると、(A)成分の芳香族PC樹脂と(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂との相溶性が向上する。このため、透明性、耐熱性及び耐薬品性が向上したPC樹脂組成物を得ることができる。一方、(C)成分の含有量が10質量部以下であると、(C)成分の分散性が良好となり、また、PC樹脂組成物のゲル化が抑制されるため、透明性が良好なPC樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
本発明のPC樹脂組成物には、上記の各成分の他に、成形品に要求される特性に応じて、一般の熱可塑性樹脂やその組成物に用いられている添加剤の適宜量を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、無機充填剤、難燃剤、シリコーン系化合物、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0019】
本発明のPC樹脂組成物は、上記の(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて用いられる他の成分を配合し、溶融混練することにより得ることができる。また、樹脂ペレットの形状とすることかできる。上記の配合、溶融混練は、通常用いられている方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜280℃の範囲で適宜選定される。
【0020】
本発明のPC樹脂組成物は、上記の溶融混練物、あるいは、得られた樹脂ペレットを原料として、公知の成形方法、例えば中空成形法、射出成形法、押出成形法、真空成形法、圧空成形法、熱曲げ成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法などの成形法を適用することにより、透明性の優れた成形体とすることができる。
この成形体は、該成形体の厚さ2mmにおけるヘーズが、JIS K7105に準拠して測定した値で3.0%以下であることが好ましい。このヘーズが3.0%以下であると、透明性に優れる成形体となる。
上記成形体は、透明フィルム又は透明シートとして好適に用いられ。ここで、上記透明フィルムとは、通常、厚さが5〜500μm程度の透明シート状物を指し、透明シートとは、通常、厚さが500〜1000μm程度の透明シート状物を指す。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例において、下記の方法により性能を評価した。
(1)ヘーズ
JIS K7105に記載の測定方法に準拠し、射出成形により得られた厚さ2mmの試験片を用いて温度23℃にて測定した。
(2)アッベ数
温度220〜320℃で熱プレス成形することにより、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片について、アタゴ社製のアッベ屈折率計を用いて20℃にてナトリウムD線(波長589.3nm)におけるアッベ数(νd)を測定した。
(3)全光線透過率
JIS K7105に記載の測定方法に準拠し、日本電色工業株式会社製のSZシグマ90を用いて測定した。
(4)耐熱性
荷重撓み温度をJIS K7191に記載の測定方法に従い、荷重1.8MPa、温度23℃で測定した。
(5)耐薬品性
耐薬品性評価法(1/4楕円による限界歪み)に準拠した。図1(斜視図)に示す治具(1/4楕円の面)に試料片(厚み3mm)を固定し、試料片にガソリン(ゼアス、出光興産株式会社製)を塗布し、48時間保持した。クラックが発生する最小長さ(X)を読み取り、下記式(1)より限界歪み(%)を求めた。下記式(1)において、tは試験片肉厚である。
【0022】
【数1】

【0023】
製造例1
特開2002−12755号公報の製造例4に準拠し、以下のようにしてPC−PDMS(ポリジメチルシロキサン)共重合体を製造した。
(1)PCオリゴマーの製造
400リットルの5質量%水酸化ナトリウム水溶液に、60kgのビスフェノールAを溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、室温に保持したこのビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を138L/時間の流量で、また、塩化メチレンを69L/時間の流量で、内径10mm、管長10mの管型反応器にオリフィス板を通して導入し、これにホスゲンを並流して10.7kg/時間の流量で吹き込み、3時間連続的に反応させた。ここで用いた管型反応器は二重管となっており、ジャケット部分には冷却水を通して反応液の排出温度を25℃に保った。また、排出液のpHは10〜11となるように調整した。
このようにして得られた反応液を静置することにより、水相を分離、除去し、塩化メチレン相(220L)を採取して、PCオリゴマー(濃度317g/L)を得た。ここで得られたPCオリゴマーの重合度は2〜4であり、クロロホーメイト基の濃度は0.7mol/Lであった。
【0024】
(2)反応性PDMS(ポリジメチルシロキサン)の製造
オクタメチルシクロテトラシロキサン1,483g、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン96g及び86質量%硫酸35gを混合し、室温で17時間攪拌した。その後、オイル相を分離し、炭酸水素ナトリウム25gを加え1時間攪拌した。濾過した後、150℃、4×102Pa(3torr)で真空蒸留し、低沸点物を除きオイルを得た。
2−アリルフェノール60gと塩化白金−アルコラート錯体としてのプラチナ0.0014gとの混合物に、上記で得られたオイル294gを90℃の温度で添加した。この混合物を90〜115℃の温度に保ちながら3時間攪拌した。生成物を塩化メチレンで抽出し、80質量%の水性メタノールで3回洗浄し、過剰の2−アリルフェノールを除いた。その生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で115℃に加熱して溶剤を留去した。得られた末端フェノールPDMSは、NMRの測定により、ジメチルシラノオキシ単位の繰り返し数30のものであった。
【0025】
(3)PC−PDMS共重合体の製造
上記(2)で得られた反応性PDMS182gを塩化メチレン2Lに溶解させ、上記(1)で得られたPCオリゴマー10Lを混合した。そこへ、水酸化ナトリウム26gを水1Lに溶解させたものと、トリエチルアミン5.7mlを加え、500rpmで室温にて1時間攪拌、反応させた。
反応終了後、上記反応系に、5.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液LにビスフェノールA600gを溶解させたもの、塩化メチレン8リットル及びp−t−ブチルフェノ−ル96gを加え、500rpmで室温にて2時間攪拌、反応させた。
反応終了後、塩化メチレン5Lを加え、さらに、水5Lでの水洗、0.03mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5Lでのアルカリ洗浄、0.2mol/Lの塩酸5Lで酸洗浄、及び水5リットルでの水洗2回を順次行い、最後に塩化メチレンを除去し、フレーク状のPC−PDMS共重合体を得た。得られたPC−PDMS共重合体を120℃で24時間真空乾燥した。粘度平均分子量は17,000であり、PDMS含有率は4.0質量%であった。
【0026】
なお、粘度平均分子量、PDPS含有率は下記の要領で行った。
(1)粘度平均分子量 (Mv)
ウベローデ型粘度計にて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求めた
後、次式にて算出した。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
(2)PDMS含有率
1H−NMRで1.7ppmに見られるビスフェノールAのイソプロピルのメチル基のピークと、0.2ppmに見られるジメチルシロキサンのメチル基のピークとの強度比を基に求めた。
【0027】
実施例1〜10及び比較例1〜16
第1表及び第2表に示す配合成分は、下記のとおりである。
A−1:粘度平均分子量19,000のビスフェノールAポリカーボネート(A1900、出光興産株式会社製)
A−2:製造例1で得られたPC−PDMS共重合体、粘度平均分子量は17,000、PDMS含有量4.0質量%
B−1:ポリブチレンアジペート/テレフタレート共重合体(エコフレックス、BASF社製、共重合モル比50/50)
B−2:ポリブチレンアジペート/テレフタレート共重合体(エンポールG8000、イレケミカル社製)
B−3:ポリ乳酸樹脂(レイシアH−100、三井化学株式会社製)
C−1:ジシクロヘキシルカルボジイミド(カルボジライトLA−1、日清紡績株式会社製)
C−2:オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン(エポクロスRPS−1005、株式会社日本触媒製)
C−3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピクロンAM−040−P、大日本インキ化学工業株式会社製)
【0028】
上記配合成分をそれぞれ乾燥させた後、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を、タンブラーを用いて均一にブレンドした後、径35mmのベント付き二軸押出成形機(東芝機械株式会社製、機種名:TEM35)に供給し、温度240℃で混練し、ペレット化した。
得られたペレットを80℃で5時間乾燥させた後、射出成形機を用いて、シリンダー温度240℃、金型40℃で射出成形し、所望の試験片を得た。この試験片を用いて各種測定を行った。結果を第1表及び第2表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
第1表及び第2表に示す評価結果から、以下のことがわかる。実施例1〜10では、ポリカーボネート樹脂が有する透明性を維持しつつ、アッベ数及び耐薬品性が向上している。また、耐熱性も実用範囲内であり、バランスに優れた成形品が得られた。
比較例1から、(B)成分を含まないと、耐薬品性が低いことがわかる。比較例2〜6から、(C)成分を含まないと、透明性が低下することがわかる。比較例7〜9から、(A)成分及び(B)成分の配合割合が本発明の範囲外であると、耐薬品性が向上せず、透明性も低下することがわかる。比較例10〜13から、(C)成分の配合割合が本発明の範囲外であると、樹脂のゲル化が起こり不透明になる他、耐薬品性の向上効果が少ないことがわかる。比較例14及び15から、ポリ乳酸が配合されると、成形体は真珠光沢もしくは白濁を有し、透明性が発現しないことがわかる。比較例16から、(A)成分を含まないと、不透明であり、耐熱性が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のPC樹脂組成物は、光ディスク分野、光学部材分野、住建分野、OA(オフィスオートメーション)機器等の電気・電子分野、自動車分野などの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ポリカーボネート樹脂組成物の耐薬品性を評価するための試験片取り付け治具の斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂95〜10質量%と(B)ポリブチレンアジペート系樹脂5〜90質量%からなる樹脂成分100質量部、及び(C)カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物から選ばれる一種以上の化合物0.05〜10質量部を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分のポリブチレンアジペート系樹脂が、ポリブチレンアジペートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体の厚さ2mmにおけるヘーズが、JIS K7105に準拠して測定した値で3.0%以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ペレット状である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体。
【請求項6】
透明シート状物である請求項5に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−19170(P2009−19170A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184684(P2007−184684)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】